ゴブリンの女王は死にたくない   作:フリーズドライ

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じりじりと前進しだしたので初投稿です。


第5話

 やぁ、諸兄。今はちょっと余裕がないので簡単なあいさつで済まさせてもらおう。

 

 あの後、陰険野郎の部屋から出たところ、俺は部屋の前に常駐するゴブリンに捕まって、今は小脇に抱えられて運ばれているところである。運ばれる先は多分俺の私室だろう。そこ以外に俺を置いとける場所がないしな。

 で、案の定、私室に帰ってきて俺は下ろされたんだが、そのゴブリンはそのまま私室の出入り口で番人ならぬ番ゴブを始めたのだ。俺を外に出すと不都合なんだろう。

 

 巣が徐々に騒がしくなってきているが、とは言っても敵襲のような切羽詰まった雰囲気ではなく、お祭りというか、妙に浮ついた明るい感じの雰囲気である。こういった騒がしさは今までに何度か見たことがある。ゴブリンどもがでかい獲物を狩ってきたときのそれだ。

 だがそれだけなら陰険野郎のあの嫌らしい笑みとそぐわないし、こうして俺を私室に監禁する必要もない。奴は明らかに喜んでいた。つまり、今回の獲物は普段よりも価値が高いということだ。そして俺を監禁するのは、俺に獲物と接触して欲しくないからだ。獲物が危険だから? 巣に運ばれる獲物は基本的に死んでいるし、死んでも危険な物は巣には入れない。そうではない、つまり、今回の獲物は生きている。

 

 生きていて、価値ある獲物。

 

 新たな犠牲者が出たんだ。

 

 できれば状況を詳しく知りたかったけれど、俺の私室に陣取った番人はどうやっても俺を出さないようである。残念ながら俺には腕時計型麻酔銃もなければ、透明になれるマントもないので、番人をスルーして見に行くことはできない。

 さらに、俺の私室は奥まったところで通路が緩やかにカーブしているので視線も通らない。たまに聞こえてくるゴブリンどもの声も今だ興奮していることが分かる程度で、明確に何を捕らえたかといった単語はまだ聞こえてこない。

 

 結局、俺にできることは何もない。状況が動くまでじっと待っているしかないのだ。

 

 そうして寝藁にうずもれることいくばくか。とうとう決定的な一言が聞こえてきた。『女性』を捕らえたと。

 

 

 俺の私室は繁殖部屋に近い。私室を出てちょっと行ってT字路を左、その先がY字路になってるので右に行く。それだけで着く。それに周囲は固い土壁でよく音が反響する。なので、繁殖部屋でのバカ騒ぎはほんとよく聞こえるんだ。

 そして今、繁殖部屋でのバカ騒ぎは最高潮に達しつつある。そんなゴブリンどもの騒ぎ声に紛れて、聞き覚えのない女性の声が聞こえた。分かったのは1人だけで、その後に既に捕まっていた女性たちの声も聞こえ始めたため、何人捕まったのか正確なところは分からなかった。

 

 ところで、これは千載一遇のチャンスである。新しく捕まえられた女性は、大人ゴブリンの子ゴブリンに対する過保護っぷりを知らない。つまり俺が近付ける、助けられる可能性があるんだ。しかも俺だけでは巣からの脱出は絶望的だが、もし女性の助けを取り付けられれば可能性が生まれるかもしれない。

 女性にとっても助けられれば嬉しいと思うし、WinWinの関係ではなかろうか? さらに言えば俺の精神を削ってくる悲鳴が減るということでもある。一石三鳥くらいじゃないか。くくく、素晴らしいな。助けないという選択肢はないだろう。

 …などと、ちょっと悪ぶって言ってみたが…助けられるなら助けたいよな。

 

 しかし、ゴブリンどもが狂騒の極みにある現状、俺にはどうやっても止められない。

 

 ……いや、そもそも、部屋から出ることすらできなかったか。

 

 はは、はははははは! これはとんだお笑い種だ。何が助けたいだ、何もできやしないくせに。そもそも剣もまともに振れない奴が何を言っているんだ。チートも何もないくせに。ゴブリン風情が、何を勘違いしている。

 

 

 いかん、思考がネガティブな方向に傾いている。落ち着け、深呼吸をするんだ。

 

 ……残念だが、今俺にできることはない。だが考えることはできる。この先、何が最良かを、どうすれば助けられるかを、考えるんだ。

 

 ぱっと考えつくだけでもいくつか問題がある。

 

 第一に、捕まった女性が複数人いた場合、俺が助けられるのはおそらく1人だけ。

 ゴブリンは俺に対して手荒なことは一切しないが、それでも小脇に抱えて運ぶくらいはする。つまり、女性の前に立ちふさがって懸命に手を広げてとうせんぼしたとしても、あっさりと退かされるわけである。ではどうすればいいか。女性に抱き着いて離さない、ぐらいはしなければならないだろう。となれば、助けられるのは1人だけ…。

 ただ、こういった方法を行ったとしても、力ずくで引きはがされる可能性もある。ゴブリンどもの俺に対する甘やかし度が、やつらの性欲に勝つかどうかが問題だ。

 

 第二に、女性が俺を攻撃する可能性がある。

 上でも言ったように、俺が女性を助けようと思ったら抱き着くくらいはしなければならないはず。しかし俺の見た目はゴブリンだから、女性から敵と認識される可能性が非常に高い。ただ…楽観視するのは危険だが…もしかしたらこの幼女ぼでぃ&ふぇいすが敵対心を薄れさせてくれるかもしれない。うろ覚えだが心理学で、赤ちゃんを可愛く感じる要素みたいな話があった。子ゴブリンを見たところ、多分この世界でも通用すると思われる。子供な俺にも適用があるだろう。

 ただ、俺は女性たちと意思疎通ができない。敵意がないことをアピールするにはどうすれば……両手上げながら近寄ってみるか? いや、飛び掛かると思われるか。それともひっくり返ってお腹でも見せてみるか? この世界でも通用するんかね……相手の表情とかをよく見ながら、少しずつ近づくしかないかな…。

 幸いというか、ゴブリンどもは狂騒に陥れば後は騒げるだけ騒ぎ、終われば全員疲労困憊。おそらくすぐに寝入ることだろう。奴らが寝入った後ならば女性とのコミュニケーションにある程度の時間をかけられるというわけだ。

 

 第三に、陰険野郎が出張ってこないことを祈る。

 奴は魔法を使う。もし、俺を簡単に無力化する魔法があれば…そうだな、例えば、睡眠系とか麻痺系の魔法があったとすると、詰みだな。どうしようもない。なのでこの可能性は考慮しない。そうでないことを祈る以外に方法がない。

 

 第四に、番人をどかさないとならない。

 うん、部屋の外に出られないと全ては絵空事だよね……とはいえ、俺の部屋には今まで番人なんてついていなかったから、こいつも期間限定だとは思うんだ。まさか、交代制で一生部屋から出さない、なんてことはないよな…? そういった可能性も、今考えてもどうしようもないことか。

 それに、ゴブリンって悪知恵は働くが、ぶっちゃけ頭は悪いからなぁ。力づくはムリムリムリのかたつむりだが、言い包めてしまえばどうとでもできるだろう。

 

 うーん、さしあたっての問題点はこれくらいか…? 助けた後の問題点もあるだろうが、助けられた後で考えても遅くはないだろう。助けられなきゃ、俺のお先真っ暗であることは変わらないんだから。

 

 というわけでまずはこの番人をどうにかしなければならない。

 言い包めをするためにもまずは番人の観察からだ。何かしらの言い包める材料があれば、それだけ成功率が上がるからね。

 では寝藁の上から番人をじろじろと。むむ、これは! なんてもったいぶるまでもなく、明らかにそわそわしている。それに、まぁ、その、なんだ…ゴブリンのゴブリンがゴブリンしている。え、意味分からんって? 分からなくていいよこんなの。

 早い話が、こいつは隣のアレな声にあてられて興奮してるんだ。ゴブリンって己の欲望に忠実なのに、こいつ、番人任せられるだけはあるんだな。まだ力不足なところがあるが、今後の成長に期待というところ。まぁ、つっついて転ばせるんですがね(邪笑)。

 

 では早速寝藁から起きまして、番人に近寄ろう。

 

「番人さん番人さん。貴方はいかないの?」

「ギ? オレ、クク、出すなって、言われタ」

 

 やっぱり、陰険野郎が指示出してたか。あいつに1回、女性に無体を働くなとか言ったし、俺が阻止しようとしたことも知ってるだろうしな。俺が乱入したら二重の意味で危ないし、隔離するのは当然か。

 

「それはいつまで?」

「……ギー? ワカラン。『陰険野郎』に聞ケ」

「そうなの? じゃあククが聞いてこようか?」

「…………いや、ダメだ、出さナイ」

 

 うむ、この程度の引っかけにはかからないか。いやいや、これに引っかかられても困るんだ、何せ今外に出られても意味がないからな。これはあくまでもジャブ、俺を外に出さないことを強調するための布石だ。

 

「番人さんは、行きたくない?」

「ギ、ギギ……行きタイ…」

 

 素直な奴じゃ。そわそわちらちらそっち見てたから分かってたんだけどね。

 

「じゃ、ククは寝るから。番人さん行っていいよ」

「ギ? ギギ?」

 

 混乱してますねー。これはもう一押しですねー。

 

 あ、そうそう。ゴブリンってガ行の発音が、それも「ギ」が言いやすいらしくて、いろんなところでギーギーギャッギャ言ってるんだ。で、今の会話文に出てきた「ギ」なんだが、口癖みたいに出てくるもんで特に意味はない。「えー」とか「んー」とか「むむむ」とか、好きな相槌を適当に諸兄の方で脳内変換しておいておくれ。

 

「ククは今から寝るから、部屋の外に出ない。ククが部屋の外に出ないから、番人はここにいなくていい。でしょ?」

「クゥルル! クク、頭いいナ!」

 

 俺に言い包められてしまったゴブリンは喜びに喉を鳴らしていそいそと走って行った。うーん、純朴な少年を騙してるみたいで、なぜか心苦しい。

 やってることがことだけに、感傷なんて一瞬で忘れてやるがな!

 

 これで番人を任されたゴブリンも混ざりに行って、その後は寝るだろうから、完全に番人を排除できた。どうか陰険野郎が気付いて、新たに番人を配置しませんように。

 今できることはここまで。ゴブリンどもの喧騒がやむまで、俺は部屋の中で寝たふりでもしながら待っていよう。

 

 女性を助けられたらどうするかな……そのまま一緒に巣から脱出できればいいんだが、この巣には結構な数のゴブリンがいるしなぁ。ちゃんと数えたことはないけど、50はいると思うんだよね。

 巣のゴブリン全部じゃないとはいえ、10か、20か…それだけのゴブリンどもの暴虐を受けた後に、見張りのゴブリンを押しのけて、逃げられるか……騒げば他のゴブリンが起きるかも、というか陰険野郎が起きてくるかな。うーん、ちょっと、逃げ切れるビジョンが見えない…走るとなれば俺が足手まといになるしなぁ。

 

 ここはひとまず、俺の部屋に匿えれば良しとするかなぁ。

 

 ……いつ終わるかと、この声に意識を割いていないといけないのは、辛いなぁ……。

 




ゴブリンが主人公の話にころっと騙されたのは、ゴブリンにとって主人公は仲間・庇護対象で、(頭も良くはないですが)疑うとか騙されるかもなんて意識がこれっぽっちもないからです。
こう書くとひでぇ話だな。

あと、次話が切りよく終われず2話分くらいになりそうで、投稿が遅れます。

21/7/2
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