ゴブリンの女王は死にたくない   作:フリーズドライ

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初めて5000字どころか7000字を超えたので初投稿です。


第6話

 こちらス〇ーク。ゴブリンの巣穴への潜入に成功した。これより救出ミッションを開始する。隠蔽魔術が使える概念礼装『ダンボール』はどこだ? あ? ねぇよんなもん。

 

 …うん、のっけからすまんね。ちょっとSAN値がピンチなんだ。人の悲鳴って精神ゴリッゴリ削ってくるんだ。ミルストーンなんだわ。アホなことやってないと辛くて辛くて。え、内容? そんなの描写したらR-18タグつけなきゃならなくなるからね、仕方ないね。下手したら18Gかもしれんし。

 

 

 話に入ろう。

 寝たふりをしている間に本日2度目の食事が差し入れられたので、それをうまうました後、軽く数時間は経ったと思う。隣の部屋の喧騒はようやく絶え、集まっていたゴブリンどもも三々五々と散っていったようだ。

 食事の時間から考えるに、現在はゴブリンどもの就寝時間、つまり世間一般でいうところの朝はとうに過ぎていると思う。普段なら俺も寝てる時間なんだが、救出作戦のことが頭の中をぐるぐるしていて、緊張で吐きそうだった……寝落ちなんて危険性はかけらもなかった。

 

 さて、いつも騒がしいゴブリンどもの巣といえど、この時間は流石に静かになる。出入口と大広間には不寝番の歩哨がいるが、そいつらは基本的に移動しないので、危険度はそれほど高くない。鉢合わせの危険性が高いワンダリングゴブリンのいない今こそ作戦行動にぴったりなのだ。

 

 というわけでスニーキングを開始する。

 

 私室を出てすぐの緩やかなカーブに身を隠しながら通路の先を覗いてみるが、何もいない。だが、小さくいびきが聞こえてくる。音の近さ的に考えて、おそらくT字路を曲がった先で寝ているゴブリンがいるんだろう。忍び足でT字路の角までくると、やはり、Y字路の真ん中で寝ているゴブリンが1匹いた。見える範囲には他にはいない。なんとも邪魔なところで寝ているもんだ。

 …というか、臭い…まだT字路なのにもう臭いが漂ってきている。いつにも増して、繁殖部屋の中は大変なことになっていそうだ。

 

 寝てるゴブリンを先にどうにかするか、それとも先にクリアリングをするか……仮にあのゴブリンを安全に退かせたとしても、その後に別のゴブリンに乱入されては意味がないな。よし、まずはクリアリングだ。

 

 T字路を直進、大広間に続く曲がり角から先をそっと覗いてみる。うむ、不寝番は3匹。それにごろごろとその辺に転がって寝ているのが5匹もいる。こいつらは多分大フィーバーに参加していたやつらだな。自分の寝床までもたなかったんだろう。

 不寝番以外に起きているゴブリンはなし。不寝番は全員が部屋の真ん中にある焚火を囲み、こちらに背を向けて座り込んでいる。とりあえず、すぐさま俺の行動がばれるようなことはなさそうだ。

 念の為、入口までそろりそろりと足を進め、大広間全体を見回してみたけど、寝ているゴブリンの数が増えただけで、これといって問題はなさそうだった。

 

 ということでY字路で寝てるゴブリンのところまで戻ってきた。Y字の付け根部分、右通路を半分ほど塞ぐような形で、腹を上に向けてなんとも気持ちよさそうに寝ていらっしゃる。

 こいつをそのまま放置して、仮に女性を助けられたとしても、女性がこいつを蹴飛ばしたりしたら非常にやっかいなことになる。横を通り抜けることはできるが、往々にしてこういう場合はアクシデントが起こるんだよなぁ……。

 

 ……退かすか……。

 

 べしべしとゴブリンの腹を軽く蹴ってみると、いびきが止まってうっすらと目が開いた。

 

「邪魔。部屋で寝なさい」

「ぎぃ……ぎぃぃ……わかっタ…」

 

 大あくびをして、のろのろと起き上がるゴブリンの背中を押してやる。よたよたとゴブリンは歩いて行って、T字路の角を左に曲がって視界から消えた。

 ……よし、特に問題ないn

 

「ギィ!! いてぇ、踏むナ!!」

「ギャギャ、すまン」

「気をつけロ!」

 

 ……やっべ……さっきの奴が、大広間で寝てた奴を踏んだ……。

 特に意味もないのに壁にぴったりと張り付き、じっと耳を澄ませる。鼓動がうるさい。先ほどのゴブリンの怒声以降、これといった声は聞こえてこない。じりじりと壁沿いに進み、T字路の角でさらに耳を澄ますと、笑い声が小さく聞こえたが、それ以上の声は聞こえなかった。

 ……意を決して大広間に続く曲がり角まで進み、ちらっと中を見てみる。不寝番の3匹は前のまま焚火の近くにいる。一人姿勢が変わってる奴がいるが、それだけか。談笑しているようで、小さくぎぃぎぃごぶごぶと聞こえてくる。

 そこらでごろ寝していた奴のうち、一番近いところで寝ていた奴が寝返りをうっていて、それからちょっと離れてさっきのゴブリンが寝転がっている。助かった、2匹とも睡魔には勝てなかったようだ。

 

 危なかった。本当に危なかった。

 …ま、まぁ? よくよく考えたら? ゴブリン的には、たまたま目を覚ました奴が、寝てた奴を踏んづけたってだけで? 他のゴブリンどもが起きだすような事態にはならないし? 例え踏んづけられた奴が起きても、向かうのは寝床の方だし? へーきへーき!

 

 ……もっと慎重にいこう……。

 

 ばっくんばっくん鳴ってる心臓を何とか落ち着けつつ、再度繁殖部屋に向かう。ちょっと足早に通路を進み、繁殖部屋の入口からそっと中を覗いてみる。途端に俺を襲う臭気。うう、不衛生の極みみたいな臭いがして、息苦しさすら感じる……口で息するのも嫌だな……。

 えー、元々繁殖部屋にいた女性は確か3人。2人は普通の人間、1人は獣人だったかな。その彼女たちは左手の壁際にある寝藁に倒れこんでいた。ぱっと見ただけでもとても詳しい描写はできない状態である。

 って、そういえば女性が気絶とか眠ってる可能性もあるんだった。女性が目を覚ましたら目の前に子ゴブリンがこんにちは、なんて事態は絶対に避けたいんだが……驚くに決まってんじゃんねぇ?

 

 ひとまず、新たに捕まった女性たちの状態を確認しようと部屋をぐるり見渡すと、なんとも運の悪いことに、また1匹、寝ているゴブリンが。ちゃんと部屋で寝ろよお前らよぉ。

 そして、先ほどの女性たちとは逆側の壁に1人、三角座りをしながら、しかし顔だけ上げて金色に輝く目を油断なくこちらに向けている女性がいた。薄暗いが、彼女の種族を示す長い笹型の耳はしっかりと見えた。

 

 エルフだ。

 

 今子育て部屋にいるエルフと合わせて2人目のエルフとの邂逅である。1人目のエルフは……その、精神が死んでしまったというか……ゴブリンに何をされても、俺が近付いても、何の反応も示さなくなってしまったので……実質的にはこれがエルフとの初コンタクトと言える。

 というか、起きてらしたんですね…もしやさっきので起きた? それとも元々起きてたのか? しかもエルフさん、こっちが見えてる? 猫の目みたいに目が光ってるから夜目か何か持ってるのかな。 

 ま、まぁとにかく、そのエルフさん以外には新しい女性はいなかった。

 

 というわけで次の段階である、頑張って意思疎通をしなければならないんだが……何だか、俺を見て困惑していらっしゃる? ふふふ、何を隠そう、俺はレアと思われるゴブリンのメスだからな。驚かれるのも無理はない。

 で、いつまでも見つめ合ってるわけにもいかないので、意を決して一歩前に出る。叫ばれると困るんで、人差し指を唇にあててシー……ってこれ、異世界でも通じるのか? 現実世界のジェスチャーだよな……じゃ、両手で口を押えてみよう。喋らないでねー、叫ばないでねー。そこで寝てるゴブリンが起きちゃうからねー。こいつが起きたら、エルフさんに攻撃されるリスクを冒してでも抱き着き作戦を行わなければならなくなってしまう。

 

 一応通じているのか、叫ばれたりはしなかった。そろそろと近づく俺を三角座りのままこちらを凝視して動かないエルフさん。ゆっくりと近づくことで敵意がないことを示すとともに、もし立ち上がったりしたら即ダッシュできる姿勢でそろそろと移動する。

 幸い、エルフさんの目に敵意が宿ることはなかった。いきなり攻撃してくるようなことはないだろう。

 

 エルフさんが飛びつけば届くであろう距離。

 俺でも飛びつけば届く距離。

 エルフさんの手なら届く距離。

 そして、俺の手が届く距離にまで来た。

 

 間近で見ると、エルフさんの状態はそれは酷いものだった。殴られたりしたんだろう、唇の端が切れて血が滲んでいたり、頬や額に青あざができている。衣服も全部剥ぎ取られていて、全身がゴブリンどもの体液で汚れていた。そして、その首にはご つ い 首 輪がはめられていた。首輪には鎖が繋がっており、その先は壁の高いところに突き刺さっている金属の棒に繋がっていた。

 

 こんなの繁殖部屋では初めて見るぞぉ……あんなとこに棒刺さってたんだぁ……逃走防止かぁ、新入りだし、そりゃそうだよねぇ……。

 …俺の想定、ガバガバじゃねぇか…。

 

 い、いやいや、結局のところ、首輪の存在を想定していたとしても、今日エルフさんに会いに来る必要はあったんだ。できるだけ早いうちに俺が味方だと思ってもらわないと、他の女性みたいに近づけなくなってしまうからな。うん、大差ない、大差ない。

 

 と、とりあえず、ちょっと鎖を引っ張ってみたが、切れたり外れたりはしなさそうである……って、ん? 鎖の先が括りつけられてる棒…あれ、返しもないし、本当にただの棒じゃねーか。斜めに突き刺さってるから下から引っ張った程度じゃ抜けないが、手が届けば先端から鎖抜けるぞこれ。

 うーん、これぞゴブリンクォリティ。

 多分だが、括りつけて引っ張てみても解けない、ヨシ!ってなったんだろうな…。

 

 とりあえず、エルフさんの手を引いて、鎖の先端を指さしてみる。それに気づいたエルフさんが背伸びして手を伸ばしてみるがもちろん届かない。目測だが2ゴブリンくらいあるなぁ。ジャンプすれば届くかもしらんが、棒に片手でぶら下がってもう片方の手で抜く? ちょっと無理そうだし、下手にうるさくするとゴブリンが起きかねない。

 やはり、俺が肩車してもらってやるしかないな。

 

 ちょいちょいとエルフさんの手を引いて、かがんで欲しいのでまず俺がかがむ。む、困惑しているようで、よく分かってないようだ。むーん、じゃあ、万歳してみる。混乱顔のまま、エルフさんは俺を真似て万歳した。よし。じゃあかがむ。お、分かってくれたか、かがんでくれたぞ。じゃ、よじよじとよじ登ろう、としたら驚かれて立ち上がられた。エルフさんの背中から転がり落ちる俺。いてぇ。

 

 ――寝ていたゴブリンのいびきが止まった、と思った瞬間、エルフさんが俺を抱え込み、ゴブリンに背を向けて横たわった。寝たふりをしつつ俺をゴブリンから隠そうとしているんだと察し、俺もできる限り影に隠れるよう縮こまる。

 

 ……止まったいびきがまた再開した。どうやら起きなかったようだ。

 ふー…ほんと心臓に悪いぜ…。

 

 なるべく物音を立てないように体を起こし、エルフさんと向き合う。2人して安堵のため息を吐き、2人して微笑み合った。

 さて、エルフさんに肩車をしてもらえるようジェスチャーを頑張らねば。

 

 鎖を指さす! かがむ! 手で、俺の上にのせるようなジェスチャーをする! 立つ! どうだ!?

 

 ジェスチャーを終えて振り向けば、いい笑顔のエルフさん。何か微笑ましいものを見たような雰囲気出てるけど、気のせいだよな? ちゃんと理解したよな? よし、じゃあかがんで、動かないでくれよ。よじよじと背中を登って、首にまたがる、と。エルフさんが俺の太ももを押えて立ち上がってくれた。って、うぉぉ、高ぇ! 当社比2倍くらいか? しかもエルフさんがふらふらするから超怖ぇ!

 下のエルフさんの腕力的にも、さっさとはずしてしまおう。と、棒を見上げればまだちょっと距離がある。これは普通に肩車では届かんね……仕方ない、立つか。太ももを押えてくれている手をぽふぽふ叩いて放してもらって、エルフさんの頭に手をついて、慎重に足を持ち上げて肩に。お、足を掴んでくれた。これで最悪、地面に叩きつけられはしない…よな? エルフさんの筋力を信じてるよ!

 ……絶対に落ちないようにしよう……。

 もう片方も肩に乗せて、壁に手をつきながらそろそろと立ち上がる。前世でやった組体操を思い出すぜ…俺デブだったから上に乗ったことないけど。

 よしよし、これなら十分届く。括りつけられていた鎖をずらしていって、棒の先端から抜いた。

 さて、立った状態からどうやって降りようかと考えていると、鎖を外せたのを察したのか、エルフさんが俺の腰を掴んで下に降ろしてくれた。

 

 これにてエルフさん救出ミッション完r、あ、いや、まだまだ、家に帰るまでがミッションだ。俺が先行するから、ついてきな!

 のんきにいびきをかくゴブリンを尻目に繁殖部屋を出て、T字路のところでいったんエルフさんに手で押しとどめるジェスチャーで待機を指示する。大広間の方の様子をもう一度見に行ってみるためだ。

 角から覗くと、見張りは変わらず3匹。1匹寝転がっているが、寝てるかまでは分からない。仮に寝てたとしてもあとの2匹に気付かれれば終わりだ。それにここをスルーできても、出入口付近にも結局不寝番がいるし、やはり今逃げるのは無理か。エルフさん、めっちゃふらふらしてるしなぁ。

 

 というわけで私室に戻ろうとして振り向くと目の前にエルフさんが。ちょwwwおまwwwT字路で待っててよ! というか驚きで心臓が止まりそうになったわ! よく叫ばなかったよ俺! つーかさっきのは通じなかったか! くっそう、異世界すげぇ不便だな!

 

 とにかく回れ右、私室に戻る。近いからほんの十数秒で私室に帰ってきて、ほっと一息。何にもないただの土の穴倉がこんなに恋しいと思ったことは今までないね。今後もないだろうね。

 

 

 さて、今までは全裸幼女が1人いただけなので、そっちの方向に興味のある大きなお兄さん的な意味ではR-18な我が家だったのが、今はうら若き……若い、よな? エルフの年齢とかどうなってるのか分からないが、とにかく外見年齢は正常な方々の守備範囲ど真ん中な女性の全裸まで追加されたため、全方向においてR-18な映像となった我が家です(※ご覧になるには夜目を獲得するか暗視スコープをご利用ください)。

 

 できればそう間を置かずに脱出と行きたかったのだが、エルフさんの状態が思いのほかよろしくなかった。エルフさんの体をよく見たところ、打撲や内出血が全身いたるところにあり、中には歯型まであって……ほんとゴブリンどもは……血が出ているところも少なくなく、ちゃんと手当てをしないと化膿しそうだった。が、現代社会と違って、ここには消毒液も薬もなけりゃ、絆創膏もガーゼも包帯も、なんもない。

 いや、ここにあるものを言った方が早い。ちっちゃい水瓶、木製の皿とコップ、寝藁、トイレ用の瓶、柔らかい葉っぱ十数枚、以上。

 

 これ、人が住む環境じゃねーよ! 俺ここに3ヶ月は住んでるんだけどぉ!?

 

 仕方がない。少ないけど水を大放出してまずは彼女を洗わなければならない。だって、ねぇ…? で、柔らかい葉っぱを駆使してエルフさんにこびりついた汚れを拭き取っていく。コップで水かけはかなり大変だったが、水瓶の底を突く勢いでかけまくって、何とかエルフさんをおおむね綺麗にすることができた。

 

 

 彼女は身を震わせて泣いていた。(心は)男の俺には彼女の心情を完全に理解することなどできはしないが、少しばかりの慰めにはなるだろうと、薄っぺらい胸に彼女の頭を抱き、頭を撫でた。

 

 

 えー、ゴブリンどもの生活習慣的に考えて怪我は日常茶飯事のはずであり、曲がりなりにも野生生活をしている以上、原始的かもしれないが、何かしらの傷の治療法を持っていてしかるべきと考えているのだが……残念ながら俺は今まで無病息災で過ごしていたので、そういった治療法にはお目にかかったことがない。傷の治療法なんて気にしたこともなかったので、巣の中で傷薬的なものがあるかを探したこともなかった。

 治療法があるのか、持ってこれるのかを聞こうにも、今はゴブリン的には深夜なので、誰もここにはやってこない。寝るくらいしかできることはないし、体力回復という意味でも有効なので、少し眠ろう。

 

 エルフさんの手を取って寝藁の上まで誘導し、ぽんぽんと叩くと意図を理解してくれたらしく、彼女はそこにそろりと座った。うん、体痛いんだね…。

 彼女の取り戻しを防ぐために俺も一緒に寝るんだが、寝藁を全部エルフさんに進呈する意図で寝藁の近くの地面に座り込んだら、抱き上げられて寝藁の上に引き寄せられてしまった。

 

「エルトケ テンティ?」

 

 全裸美女を目の前にしてドキドキしているとエルフさんから話しかけられた。が、エルフ語(暫定)なんだよな。すまねぇ、エルフ語はさっぱりなんだ! 俺が困っているとエルフさんはさらに、

 

「エルン テンティ」

 

 今度はさっきよりもゆっくりと、同じ単語を繰り返す。それも自身の胸に手を当てて。名前か? そうすると種族名か、彼女の名前かだけど……今度は俺を指さして、

 

「テンティ?」

 

 と、最初の単語を繰り返した。さらに自分の耳を引っ張って見せた。ああ、自分はエルフだと言っているんだろう……ということは、俺はエルフかと聞かれている?

 

 そういえば、エルフの肌の色はゴブリンよりもずっと薄いが、緑色をしている。目の前のエルフさんもそうだ。耳も、同じように尖っている。そう考えれば、確かに俺はエルフさんと似ている。それにこの巣で髪が生えてるのは俺だけだしな。ゴブリンにはオスしかいない中、俺がメスであることも影響しているだろう。

 エルフさんは俺をエルフの子供だと思っているんだろうな。だが、残念ながら俺はエルフではなくゴブリンだ。

 まぁ確証が得られたわけじゃないが、状況証拠からは9割9分9厘ゴブリンだと思われる。それにゴブリンとエルフは肌の色も耳の形も似ている。違うのは身長と顔面偏差値くらいだが、子供時代だとそこまで変わらんのだろう。

 

 なので首を振って否定すると、なぜか困惑顔でこっちを見られた。なんだ、確信持って聞いてきてたのか? 何を確信していたのか知らないが、ゴブリンの巣で自由に生きていけるのは、ゴブリンだけだぞ?

 

 さ、早く寝ないと明日が辛い。もう一度寝藁をポンポン叩いたんだが、エルフさんはまだ喋るみたいで、また彼女の胸に手を当てて、一言。

 

「サーラペイト」

 

 そしてまた俺に手を向けて、でも今度は何も言わない。

 ああ、それが君の名前か。でも困ったことに、俺には名前がない。ククという呼び名はあるが、あれは俺自身を指したものじゃない。だから、俺はまた首を振った。今度はより困惑した顔をされた。まぁ、気持ちは分かるけど。

 

 彼女がもう一度繰り返す。うんうん、分かってる。意味が通じてないわけじゃないんだ。だから俺もそれには頷きを返し、しかし俺に手を向けられても黙って首を振った。

 意味が分かったらしい彼女は、今度は何とも沈痛な表情へと変わった。

 

 今はそんなことどうでもいいから、ちょっとでも寝るんだ。俺が寝藁に寝転がって目を閉じると、彼女もしぶしぶそれにならった。

 

 サーラペイトさんの体温が、前世の記憶にある、子供の頃布団の中で感じた親の体温とだぶる。

 

 ……あぁ、久しぶりに、本当に久しぶりに、よく眠れる気がする……。




これでも普通の量に足りない……だと……
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