ゴブリンの女王は死にたくない   作:フリーズドライ

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5000字前後を目安にしていこうと心機一転しましたので初投稿です。


第7話

 

 ん……だれかが……おれを、ゆすってる……。

 

 ふあぁ……おはよう、ございます…諸兄…。いや、時間的には…夜か、夕方くらいかな……?

 

 んんー……おっと、サーラペイトさんの顔がドアップで映されて、やっと目が覚めた。そしてようやく周りがちょっと騒がしいことに気が付いた。俺の私室の入口付近で、こっちを指さしてゴブゴブ言ってるゴブリンどもがいる。ちょっと怒ってるっぽい?

 そりゃそうか。ゴブリンからすれば、皆寝てる間に狩りの成果である女性が一人盗られたわけだからな。

 

 サーラペイトさんは気丈に振舞ってるが、ちょっと手が震えている。昨日の今日だからな、しょうがない。で、俺がサーラペイトさんに抱き着くと、ちょっと落ち着いたようで、頭を撫でてくれた。うぇへへへ、これだけであと10年は戦えるぜ。ごめん、言い過ぎた。10日くらいです。

 …サーラペイトさんサーラペイトさんっていちいちフルで呼ぶの面倒だな…サーラさんでいいか。

 

 と、入口のところにいるゴブリンが、「いる」だの「こっち」だの騒いでると、陰険野郎がのっそりとやってきた。松明を持った取り巻きが両脇を固めている。おお、この部屋が明るくなったのは初めてじゃないか? まずい、センシティブ映像が流れてしまう。二ヨ生でR-18はBAN対象じゃないか? よく知らんけど。

 

「クク、そいつを返セ」

「嫌」

 

 陰険野郎の命令は即お断りします。サーラさんは俺にとって命綱だし、彼女にとっても同じ。絶対に離してやらねぇ。

 俺の即答に陰険野郎は苦虫を噛み潰したような面になった。口で言っても分からないなら力に訴えようと思ったのか、陰険野郎がずんずんと近づいて来やがるので、俺はサーラさんの胴体に足まで使ってしがみつき、徹底抗戦の構えをとる。ついでに歯をむいてガチガチ鳴らしてやろう。未だ乳歯(だと思う)であってもマジで噛みつけば痛いじゃすまんぞ。

 なんじゃワレぇ、やんのかコラぁ!

 そんな俺を見て陰険野郎がたたらを踏んだ。お、なんだ、押し通せそうじゃないか。

 

「…クク。そいつは、ククの『女性』でハないゾ?」

 

 ……ん? どういう意味だ? なぜここで『女性』、「巣に囚われている女性」なんて意味の単語が出てくる? しかも俺のって……いや、後で考えるか。ここはひとまず。

 

「知ってる」

「なぜ、返さなイ?」

「欲しいから」

 

 まるで処置なしと言わんばかりに陰険野郎は頭を振る。そもそも俺は対話する気も譲歩する気もまるでないしな。

 Noと言える(元)日本人。

 歯をガチガチならして譲る気のない俺を見て、陰険野郎は長々とため息をついた後、ぽつりとこぼした。

 

「少しの間だけダ」

「まぁ、ありがとう」

 

 皮肉だと分かったのか、悔しそうな顔をする陰険野郎。こっちは溜飲を下げられて気分がいい。だがまぁ、あんまり突っつきすぎて暴発されるのも怖いので、今日はこの辺りで許しておいてやろう。

 陰険野郎が2匹の供回りを連れて出ていったところで、サーラさんの体からも力が抜けた。見上げてみると緊張で強張ったサーラさんのお顔が。強張ってても、青あざに切り傷があっても美女だとか、エルフはすげぇな。

 

 って、そうだ、サーラさんの傷の手当てをしないといけないんだった。

 俺の部屋の入口にはまだゴブリンどもが残っていて、なんとも怨めしそうにこっちを見ていた。だが、陰険野郎が今は放置との判断をしたのと、俺がいるので実力行使には出ないようだ。くくく、そんな君らには仕事をあげよう。昨日使い切った水の補充と、傷薬だ。

 

「そっちのお前、水を汲んできて。そっちのお前、傷につける、何か。ある?」

 

 前にも言ったけど、ほんとゴブリン語って2匹以上いる場合に呼びかけるのが面倒だ。指さししないと通じないんだもんな。あと単語が少ないせいで知らない単語(ここでは傷薬)の言い換えができなくて、これまた面倒。

 で、ゴブリンどもはブーブー言いながらも指示には従ってくれるようで、1匹は早々に踵を返し、もう1匹は空の水瓶を持って部屋を出て行った。薬の方はちゃんと通じてんのかな。

 

 さて、ゴブリンどもが帰ってくるには多少かかるだろうし、その間にさっきのを考えてみるか。

 

 陰険野郎はサーラさんを指して、俺の『女性』ではないと言った。『女性』の意味はさっき言ったとおりであり、それでは意味が通らない。普通のゴブリンなら言い間違いとか勘違いも考えられるが、陰険野郎は頭がいい。おそらく間違いはないと思う。

 となると、俺の知らない別の意味で使ったということになる。

 

 意味を推測する前に、ここでちょっとゴブリン語、というかゴブリンどもの認識の特徴を解説したいと思う。

 以前、ゴブリンには個人の名前という概念がないと言った。名前とは、集団の中の一個人を特定するための情報である。名前がないということは、個人を特定する必要がない、必要性を感じていないということになる。

 なぜか。

 俺が約3ヶ月、ゴブリンの巣で生活し、見聞きし、時にはそこらにいるゴブリンを捕まえて質問したことから考察するに、どうもゴブリンどもは、自分以外の物を特徴や役割で一括りにしたグループとして把握し、そこに含まれる「個」をさほど気にしていないという、なんとも大雑把な世界の把握の仕方をしているようなのだった。よくわからない? 俺もよくわからない。多分、究極の自己中なんだと思う。確固たる自分があればそれでよくて、その他はどうでもいい、みたいな? だから、誰?どれ?と聞かれて、指をさして「コイツ」で終わらせてしまう。

 しかも、ゴブリン社会はこれで回ってしまうのだ。この巣はトップである陰険野郎ことゴブリンメイジが平ゴブリンに命令して運営している。命令は、狩りや採取、歩哨や番人、子育てなどがある。これらの命令を受けたゴブリンは、手隙のゴブリンを率いて自分に与えられた命令を遂行する。

 ところが実はこれ、ころころ変わるのだ。というのも、ゴブリンの頭では長時間命令を覚えていられないのか、それとも大フィーバーなどのより強い刺激で上書きされてしまうのか、はたまた1日で自分の仕事は終わりだと思っているのか……翌日、陰険野郎はまた命令を出さないといけないのだ。

 ところで、その役職遂行に必要になる特別な能力や技能といったものは、ない。誰でもできるから、誰でもいい。なので、「昨日歩哨に立ってた奴がいない?」となった際に、「えーと、アイツの名前なんだっけ?」とはならず、「じゃあお前でいいや」となるため、昨日の歩哨役である何某君を特定する必要がないのだ。

 よって、ゴブリンどもは、個人的にも社会的にも個人を特定する必要がないのである。

 必要は発明の母というが、ゴブリンどもには母がいないんだな。

 

 ……種族的な意味でも母がいないってのは皮肉が効いているな、とか一瞬考えたが……そうするとゴブリンのメスである俺って、もしかして、単に子を産むだけとかそんなレベルじゃなくて、めちゃくちゃ重要な存在なんじゃないか……?

 は、ははは、そんなわけないよな……?

 

 ……よし、考えないことにしよう!

 

 

 なんでこんなことを考えてたんだっけ? 何かしら物事を考えると、すぐ脱線するのが俺の悪い癖だ……。

 

 そうそう、『女性』の意味だ。ゴブリン語はこの巣にいるゴブリンどもの共通認識とコミュニケーションを基礎として成立したものなので、単語の意味を考える上で、ゴブリンの世界の認識方法を考える必要があった。

 で、ゴブリンどもは「特徴」や「役割」で一括りのグループにして物事を把握する。『女性』=この巣に囚われた女性たちという意味は、特徴で一括りとした場合だ。では、役割のグループだと? 女性たちの役割は、ゴブリンの子を孕み、産み、母乳を与えること。子を孕む…妊婦か、妊娠か。産む…出産自体か、産みの親か? 母乳を与えるのは、何だろうな…乳母とか、授乳行為や母乳自体とか、そういった意味か? これらの意味が正しいとして……妊婦だと意味が通らないのは明らかだろう。俺は既に乳離れをして普通の食事をしているので、乳母とか母乳、授乳といった意味も通らない。出産自体も当然。となれば…産みの親…?

 

 サーラさんは俺の生みの親ではない。まぁ、当然だよな? 昨日巣に連れ込まれたばかりなんだから。ではなぜ、陰険野郎はそんなことを言った? 奴は、俺が何を考えていると思っている? 俺がサーラさんを欲する理由……産みの親…母性? 俺がサーラさんに母親を見ている? それの意味するところは……俺の母親が、エルフ……?

 いや、単に母性を求めていると勘違いしているなら、乳母とか、単純にそのまま女性という意味の可能性もあるか。また、陰険野郎が俺の母親を知らない場合だってある。それにだ、そもそもの話、消去法というのは選択肢の中に答えが含まれていなければ使えない手法だ。俺の推論が間違っている可能性だっていくらでもある。

 だから、この考えが合っている保証なんてまったくないわけなんだが……。

 

 と、そんなことを考えていると、水瓶を抱えたゴブリンが帰ってきていた。サーラさんに揺さぶられてようやく気付いた。ああ、そこに置いといてくれたらいいよ。

 ギャッギャ言いながら帰っていくゴブリンと入れ替わりで、もう1匹のゴブリンも戻ってきた。その手にはぼろっちいカゴと山盛りになった葉っぱ。とりあえず受け取ると、独特の芳香が。青臭いというか、漢方チックな臭いの中にちょっとスーっとする感じがあって…例えが思いつかない。

 

「どう使うの?」

「ギ。こうすル」

 

 いうなり、ゴブリンは2、3枚葉っぱを取ると口に放り込み、咀嚼しだした。数秒もしないうちにべっと吐き出して……。

 

「張る」

「ありがとう。それは使わない」

「ギ? ギギー」

 

 って、また口に入れてもぐもぐしてたかと思うと、飲み込んだ。食べるんかい。

 

 では、治療を開始しよう。サーラさんは果敢にもさっそく葉っぱを口に放り込んでもぐもぐしては、顔をしかめている。不味いんだろうな……臭いだけでも凄そうな味が予想されるし。

 俺もやるか! ふちがギザギザで丸い形の緑色の濃い葉っぱを、1枚取って口に放り込んでみる……噛めば噛むほど…辛い! ミント系の辛さだこれ! 数秒ももたずにべっと吐き出した。口の中がスースーする。よくあのゴブリン、顔色一つ変えずに食えるな…。口開けて息を吐いてたらサーラさんにちょっと笑われた。

 で、それを…ちょっと照れながらサーラさんの膝の擦り傷のところに張り付ける。沁みたのか、普通に痛かったのか、サーラさんがびくっとしていた。申し訳ないがどうしようもない。

 

 2人がかりでサーラさんのあちこちに口噛み薬草を張り付けていき(俺は主に背中を担当)、目につく傷にはおおむね張り付け終わったころには、こんもり入っていた薬草も数えるくらいになっていた。

 

 これがどれだけ効いてくれるか……。

 

「スルヴォ」

 

 ん? 俺が目をサーラさんに向けると、サーラさんがゆっくりと俺の頭を撫でながら優しく微笑んでくれた。

 

「トモ ウン ローク コスヴァ。スルヴォ」

 

 何を言っているのかさっぱり分からないが……俺が不安そうな顔をしていたのを、逆に心配されたんだろうか。

 サーラさんの笑顔を見ていると、何の根拠もないが、大丈夫な気がしてきたのだった。

 

 あと、撫で撫でされるの気持ちいいれしゅ……。




こんな調子でノロノロと進んでいきます。


21/7/8
ドアップで写されて→映されて
誤字報告ありがとうございます。
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