えー、いつも俺の独り言配信を聞いていてくださっているかもしれない諸兄、いかがお過ごしでしょうか。はい、ここのところ配信が全然なかったじゃないかとのお叱りについては、重々承知しております。
現在は、サーラさんを繁殖部屋から連れ出してもう1カ月は経とうかという頃なのだが、なんというか…その…忘れてたんです…。
サーラさんが常に一緒にいてくれるようになって俺の精神状態が急激に安定したので、現実逃避をする必要がなかったというか、サーラさんとコミュニケーションをするようになって一人で思考に没頭する暇がなかったというか……。
正直、すまんかった。
別に精神状態が悪化したわけじゃないんだが、寝る前にふと思い立ってしまったので、ちょっと俺の独白にお付き合いいただきたい。
とりあえずここ1カ月ほどにあったことを回想してみよう。
サーラさんの全身の傷だったが、切り傷にはあの青臭いミント葉っぱがてきめんに効いた。多少は化膿してしまうところもあったが、熱が出るとかそこまで悪化することもなかったし、破傷風菌(この世界にもいるかは知らないが)に感染するとかいった大変なこともなかった。ただ、内出血には効かなかったので青あざはそのまま自然治癒に任せるしかなかったが、サーラさんがあまり辛そうにしていなかったので、もしかしたら鎮痛の効果があったのかもしれない。
今ではサーラさんの体はすっかり綺麗に治っている。
……それと同時にちょっと目のやり場にも困っている。
自分の体も女だが、自分の体に欲情なんかしないし、そもそも俺は□リコンじゃない。でもサーラさんは超美人さんなのだ。それに体つきも均整がとれていて綺麗なんだ。そんな美人さんの(ちょっと俺の趣味とは違うけど)ひn……ぺty……なだらかな胸の頂きが隠されることなく堂々と公開されていると、こっちが逆に恥ずかしくなるというか……なので最近ちょっと挙動不審気味な俺である。
次に、サーラさんにエルフ語を習い始めた。サーラさんにゴブリン語を教えることで意思疎通をしてもいいんだが、ゴブリン語は単語が少ないのでサーラさんと会話するには正直向かない。なら俺がエルフ語を覚えるしかないよな。
しかし、これがまた難航している。そりゃ教科書も辞書もないんだ、難航して当然だ。
未知の言語を翻訳する上で重要なのは、自分と相手の認識を合致させることだと思う。相手がリンゴのつもりで言った単語を俺がミカンだと理解しては目も当てられない。そして認識を共通にする上で最も簡単な方法は、実物を用意することだろう。リンゴを目の前にして、ミカンのことを説明しているなどと考える奴はいないはずだ。
なのだが……諸兄もご存じのように、俺の部屋には物がほとんどない。本当に生きていくうえで必要最低限の物しか置かれていない。なので、体のパーツ、床や壁や素材まで入れても、すぐに名詞は尽きてしまった。
その次に習いだしたのは動詞。こちらは体の動作で示すことができるため、かなりの量になった。ところがこちらも問題があって、サーラさんのパントマイムクイズに正解しているかどうかが分からないのだ。サーラさんもなるべく分かりやすいように頑張ってくれているのは分かるのだが……少し前にサーラさんとのジェスチャーが通じなかった件をみるに、どれだけ合っているか……。
歩く、走る、止まる。立つ、座るなんかのこれしかないというものならいいんだ。例えば、サーラさんが横たわったのを見て、これが「寝る」なのか「横たわる」なのか、諸兄は確信を持って判断できるだろうか? なお、サーラさんが目をつぶっていたので「寝る」だと思われるが、本当に正しいかは分からない。その後の体を起こしたのも、「起きる」であって「体を起こす」ではないと思う。
そういえば前世で読んだ「外国人が知っている日本語」という日本語学校を題材にした漫画で、アメリカではテストで正しい答えにはチェックを、間違った答えには丸をつける、日本とは逆だという話があった。それに、日本の「おいで」のジェスチャーは英米では「あっちいけ」だというのは有名な話だと思う。
同じ地球上の国でもこうなのだ、異世界だと尚更であろう。
なお、サーラさんの表情を見ながら試したところ、首振りは縦がYes、横がNo、傾げるとQuestionというのは同じだったのだが、手で〇、×を表しても通じなかった。では〇×はどんなジェスチャーだったかというと、〇は人差し指を立てる、×は親指を立てる、だった。サムズアップが逆の意味だったとは…失敗をする前に知れてよかったと思う。それに、正解を表すときにサーラさんが人差し指を立てて機嫌よくフリフリ振ってるのはとても可愛いので、これはこれでとも思う。
あと〇×の表記が通じなかったのは、エルフの学校には小テストも学期末考査も入試試験もないという天国である可能性が微レ存? 知らんけど。そもそも学校ってあるのかな…? エルフって森の奥の村で少数で生活してるってイメージだけど、ここだとどうなんだろう。
そうそう。エルフ語を習うのに関連して、1つ諸兄に報告しなければならないことがあるんだ。
なんと、サーラさんが俺に名前をつけてくれました! その時、自我確立より約3カ月とちょっと。ようやく「クク」ではない呼び名がつくことになったんだ。
それでは発表します。
ダラララララ…俺の名前は…『ニエラハーサ』になりました! いえー、どんどんぱふぱふー。
というわけでサーラさんからは「ニエラ」と呼ばれるようになった。「ハーサ」の方だとサーラさんと音が似てて分かりにくいし、丁度いい。
さらに分かったことがあり、エルフ式の名付けでは、2人がそれぞれ名前を考えて、合体させるらしい。その2人が具体的に誰なのかは分からなかったが、多分、父母だろう。エルフなら長老と両親という可能性もあるか。俺にはどちらともいないので、両方ともサーラさんに付けてもらった。
俺の名前は意味があるみたいで、サーラさんがペラペラと何か喋っていたんだが、全部エルフ語なので当然分からない。首を傾げてみたんだが、ジェスチャーで説明できるようなものではなかったらしく、困った顔で頭をなでられた。なお、サーラさんの名前も説明できないようだった。
しかし何だね、自分の名前ってのはいいね。産まれて最初に貰える両親からの贈り物であり、自分を表す言葉であり、一生使い続けるものだ。
何だか、ようやく自分というものが確固たるものになったような気がするよ。
さて、他にもいろいろと話すネタがあるんだ。
ちょっと口に出すのは憚られるけど…。
サーラさんを綺麗にするのに十数枚あった柔らか葉っぱを使い切ってしまったので、それを採って来てもらった。何に使うのかって? 前に俺の部屋にある物を羅列した時の並び順でなんとなく察せるだろう? 言わせんな恥ずかしい。
……今までは俺一人だったんだが、サーラさんが一緒に暮らし始めただろう? 一人の時は全く気にしてなかったんだが……。
ところで唐突な話なんだが、俺の部屋って間仕切りも衝立もない、ただの四角い部屋なんだ。そして、俺はサーラさんの連れ戻しを妨害するためにサーラさんから離れられない。サーラさんが捕まっても当然ダメだが、俺がゴブリンに捕まってもダメだからだ。
……つまり、その、音とか、臭いとか……。
なお、俺にはそういった性癖はないということを、ここに強く宣言するものである。これだけは知っておいて欲しかった。
うん、明るい話もしないとな!
諸兄はエルフと聞いて何を思い浮かべるだろうか? 枝の1本は骨の1本などと言ってくる森の守護者? 長寿故に外界に興味を持たない世捨人? 神もが羨む絶世の美男美女? それとも黄金の鉄の塊を纏うアルパカ? オークを逆に食らい尽くさんとするエ□フを思い浮かべた諸兄は帰ってよろしい。
俺がエルフと聞いて思い浮かべるのは、腹g…違う違う。魔法なり魔術なりに長けた種族ということだ。これがこの世界でも当てはまるのかは分からないが、喜ばしいことに、サーラさんも何かしらのマジックユーザーであるようなのだ。
ただ悲しいことに、現在は使えないようである。ある時サーラさんが胡坐をかいて、精神集中を行っていたのだが、上手くいかなかったようで、美しいお顔を苦悩に歪めていた。その時は魔力不足なのかと思っていたのだが、今思えば、数日経っていたのに何もできないほどに魔力が回復していないというのもおかしいように思う。こことさして変わらない馬小屋でも1日寝ればMP全回復するもんな。
つまりは、魔法の行使に何かしらの条件があるんだと思う。そしてそれは精神集中でどうにかできるもの、杖とかの物質的な問題ではないようである。つまり、その条件がパスできればサーラさんが戦力になってくれる可能性があるんだ。これは十分に明るいニュースだと思う。
あと、これはサーラさんの魔法とは直接的には関係のない話なんだが、サーラさんの瞳の色は金色ではなかった。魔法的な何かで光っていただけで、本来の色は深いエメラルドグリーンだった。
というのも、サーラさんが精神集中を終えて目を開いた時、瞳の色がそれだったのだ。その後また金色に光っていたので、多分だが、暗闇を見通す魔法か魔眼チックなものを使っていたんだろう。いつも使っているので随分と燃費がいいようだ……これのせいで魔法が使えないとかじゃないよね……?
なお、瞳の色の変化も質問してみたが、ジェスチャーでは説明できない類のものだったようで、苦笑されてしまった。
こればっかじゃねーか!
……この1カ月で、諸兄の興味が湧きそうな話はこれくらいか……。
そして、長い前置きだったが、本題はまだこれからなんだ。といっても正直、あんまり気が進まないんだが……この話を突き詰めたとして、何か得られるものがあるのか。そもそも、この話に答えを求めていいのかどうか。俺自身、分からないんだ。
何の話か分からないって?
1カ月前に、俺の母親がエルフかもしれないと言ったのを憶えているだろうか。陰険野郎がそれを匂わせるようなことを言ったってだけで、確証なんて何にもない話なんだが……サーラさんが俺がエルフかと妙な自信を持って聞いてきたことも引っかかる。
ゴブリンのオスはたくさん見てきたが、メスは俺1人だけ。オスは母親に似ずにただただゴブリンだが、もしかしたらメスは母親に似るというような話があるのかもしれない。
だが俺は、この話を突き詰めてもいいものかと悩んでいる。
この巣にはサーラさん以外に1人だけエルフがいる。彼女は俺が物心ついた時には既にこの巣にいた。もちろん、俺が物心つく前に本当の母親が亡くなっている可能性もある。というか、ゴブリンどもの女性の扱いやこの巣の生活環境を考えたら、その可能性は結構高いと思う。だが、絶対にそうだとも言い切れない。まぁ、どうやって確認するんだという問題もあるのだが、ここでは横に置いておく。
仮に、彼女が俺の母親であったとする。だが、俺は前にこうも言った。そのエルフは精神が死んでしまったような状態で、何をされても何の反応も示さない、と。彼女が母親だったとしても、俺は彼女に何もできないし、彼女も俺に何もできない。
つまり、彼女が俺の母親だと確認することは、俺の心の持ちようにしか影響を与えないんだ。ではなぜ俺は母親だと確認したくないのか。
俺たちの現在の手札は、人間換算で5歳児レベルのお荷物と、現状では魔法の使えないただの女性、この2人だけ。ここに植物人間状態の女性を加えて、最低でも10匹前後のゴブリンをいなして脱出など可能だろうか? これは断言できる。加えなくても不可能だ。無理無理の無理だ。なので、彼女を見捨てることはほぼ確定している……。
逃げるために女性を見捨てなきゃならないってだけでも、現代日本人である俺にはキツイのに、ましてやそれが母親だなんて……このことは俺の心に一生モノの傷として残るだろう。なら、本当は俺の知らない間に亡くなっていたって可能性を残すのは、そんなに悪いことだろうか……?
産みの母は生涯ただ一人。それに目を背けて生きるのが真っ当でないことなんて分かっている。
でも、どうしようもないじゃないか……。
どう考えても人手が足りない。
サーラさんが突然魔法を使えるようになり、それが超強力かつ洞窟内でぶっぱなしても俺たちは安全で、ゴブリンどもを一方的に全滅させられるというなら話は別だが……あぁ、空間転移でもいいな。ルー〇はダメだぞ、頭をぶつけるだけだからな。いや、場所的に考えてリ〇ミトが必要か? ま、そんな都合のいい話はないだろう。
人手を増やそうにも、俺はサーラさん以外の女性には近づくこともできない。助けを請うどころか、意思疎通すらできない。
いや、それ以前にサーラさんと離れられないんだった。
――――ん? 待てよ……俺は女性たちに近づけないが、サーラさんなら近づける、よな。あ、でも意思疎通ができないか…? いや、俺よりかはジェスチャーも通じやすいだろうし、人族の共通語みたいなものがあるかもしれない。
それに、ゴブリンが常駐している子育て部屋にサーラさんを連れて行くのは難しいか…? 俺がぴったりくっついていれば何とかなったりしないかな。
女性たちの俺への敵意を解除できれば、一緒に脱出することもできるかもしれない。懸念事項は、女性たちの体力と、子育て部屋で使われている頸枷か……。
とにかく、ゴブリンどもの隙を見て、女性たちとサーラさんをコンタクトさせなければならない。せめてあと1人、人手が増えれば、脱出の可能性が生まれるかもしれない。
……あ、その前にサーラさんに、脱出のための意思疎通を女性たちとしてください、という意思疎通をしないといけないのか……。
前途多難だなぁ……。
主人公の思考がガバガバなのは、筆者がガバガバだからです。
21/7/13
沈痛の効果→鎮痛
なんでこんな誤字を見逃したんだ…。
誤字報告ありがとうございます。
-/-/14
俺に名前がつけて→名前を
書いて消してを繰り返していて、修正前をコピペしたようです。
誤字報告ありがとうございます。