ゴブリンの女王は死にたくない   作:フリーズドライ

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初の悲しいことが起きたので初投稿です。


第9話

 今日も暗い洞窟の奥からこんにちは。パーソナリティは、つい最近ようやく名前がつきましたゴブリン幼女こと、ニエラハーサです。今日も諸兄とあれやこれやと頭を悩ませていきたいと思います。

 

 さて、現在の時間はゴブリン的には朝、人類的には夕方といった頃合い。眠りが浅いのか、それとも気配察知系の技術でも持っているのか、サーラさんはゴブリンが私室に近付いてくると目を覚まし、俺を揺さぶって起こしてくれるのだ。今もそうやって目を覚ましたところである。

 なお、近づいてきたゴブリンは俺の私室に来るのではなく、その手前で曲がって女性たちのいる部屋の方へと歩いて行った。多分、子育て部屋の交代員だろう。ちっ、もうちょっと遅かったら、厚切りステーキにかぶりつけたのに。夢の中で。ちくしょう、外に出れたら絶対に食ってやるからな。

 

 

 昨日も考えていたが、脱出方法についてだ。サーラさんに脱出の意思疎通をお願いするという以前に、どのようにして脱出するかが問題だ。

 

 巣から脱出できる、というか、巣の外に出られるかもしれないルートは2つある。

 

 1つは表口。ゴブリンどもがメインで使っている出入口である。

 俺の私室から大広間に出てすぐ、真正面というか、部屋をつっきって反対側にある通路に入り、その先の中部屋を越えて通路を進めばある……はずだが、俺は中部屋までしか行ったことがない。そこであえなく歩哨に捕まった。中部屋の先の通路からは狩った獲物だとか採取した果物だとかをゴブリンどもが運んでくるので、その先に出入口があることは確かなんだ。

 こちらのルートを選択した場合、まず、大広間の歩哨が障害となる。歩哨ということは、短剣なり短槍なりで武装しているゴブリンということ。ここの歩哨はだいたい3匹。その上、自分の巣にまで戻らずにここで寝ているゴブリンもたまにいる。さらに、大広間はだだっ広くて身を隠す遮蔽物もない。先に発見されて大声を上げられでもしたら、その時点で脱出ミッションは失敗だろう。むしろ人生修了のお知らせかもしれない。

 ゴブリン時間で真夜中あたりであれば歩哨でも寝ていることがあるので(さすがに全員寝ていることはないか?)、その時間帯なら奇襲をかけられる可能性はやや高まるかと思う。そこらに落ちている石とかで後ろから頭をガツンとやれば、何とかなるかな? だが、一撃で決められなければ……。

 しかも、大広間のゴブリンを退けてもその先の中部屋にまた歩哨がいる。こちらは見たときはいつも2匹だったが、大広間で騒ぎが起これば奇襲は無理だろう。上手くいけばもちろん良いのだが、そうでない場合はサーラさん1人にゴブリン2匹を任せるわけにもいかないので、最低でもあと1人戦える人が必要になる。それに、大広間、中部屋に続く通路、中部屋にはそれぞれ、ゴブリンどもが寝起きする大小たくさんの部屋が集まった居住区への通路が繋がっている。もし騒がれてゴブリンどもが起きでもしたら、包囲、挟撃される前に中部屋を素早く抜けなければならない。

 このルートはゴブリンの巣を縦断するようなものだからな、分かってはいたが相当にキツイ。現状だと手札が2、3枚足りない感じか……。

 

 もう一つのルートは裏口。

 俺の私室から大広間に出てすぐ右に曲がり、壁沿いに進むとやや小さめの通路がある。俺のようなミニマムゴブリンは当然として、普通のゴブリンでも余裕で通れる大きさだが、サーラさんだとちょっと頭を下げないといけないかもしれない。横幅はゴブリンが体を傾けないとすれ違えない程度。その先にはちょっと狭い中部屋があり、俺が進めたのはここまでである。

 ところで、この中部屋には歩哨はいない。なら楽勝で逃げられそうだろう? ところがこの道、中部屋から外に続くと思われる通路の入口に鉄格子……じゃないな、木製なので木格子?が嵌められていて、通れないのだ。時代劇などで出てくる地下牢なんかを思い浮かべて欲しい。太い角材が格子状にがっしりと組まれていて、俺が押しても引いてもびくともしなかった。木格子には扉がついていて、金属製の錠前がついている。鍵はおそらく、陰険野郎が持ってるんだろう。

 ここで1つ懸念事項がある。何かというと、俺はこの先が本当に出入口になっているのかを知らないんだ。ゴブリンどもはこの道を使わないからだ。木格子があるので歩哨すら置いてない。しかし、この通路は明確に風が吹いているし、その風に乗って草の匂いもする。それに、格子には扉がついているということは、この先に行く用事があるってことだ。なので、この先には出入口がある、と思う。きっと、たぶん、おそらく、めいびー……。 

 こっちを逃走ルートにする場合、この格子を突破できるかが問題だ。まず、木格子自体を破壊するのは無理だろう。あれは、ゴブリンではなく人間を想定したような作りだった。となれば、扉の方を破壊できるかなんだが……この格子を見たのはだいぶ前で、それ以降1回も見に行ってないから、細部を覚えてないんだよな……大人の人に体当たりとか蹴るとかしてもらえれば、錠周りとかワンチャン壊れたりしないかな? いつ作られたか分からないが、経年劣化とかあるだろうし。

 ……こんなことなら毎日(ピー)でも引っ掛けて腐らせるなりしとけばよかった。

 

 ところで、こんなものをゴブリンは作れない。錠なんて複雑かつ細かいものなんてなおさらだ。子育て部屋には首枷(板を縦に真っ二つに割って、3つ並べるように穴を開け、両手首と首を挟み込んで拘束するアレである)が2つあるんだが、あっちは鎖でしっかりと壁に繋がれており、こちらもゴブリンの発想力や加工技術では到底作れそうにない。今もサーラさんがつけている首輪もそうだな。それにこの洞窟、どの部屋も妙に地面が平らなんだ。

 どう見てもこの洞窟、人間なり他種族の手が入っている。以前は山賊のアジトとかだったりしたんだろうか……。

 

 ともかく、結局のところ、表口ルートを通るならゴブリンとの戦闘は不可避だが、表口は確実に外に出られる。裏口ルートは木格子をどうにかできるか不明で、外に出られるかも確実ではない。だが、ゴブリンとの戦闘はない…かもしれない。少なくとも挟み撃ちにならないことは確かだ。通路も狭いからゴブリンが中部屋になだれ込んでくるということもないだろう。

 安全性を取るなら裏口ルートなんだろうが、不確定事項が多い……ひとまずは一緒に脱出できる仲間集めからだな。場合によっては表口ルートの方が確実性が高くなるかもしれない。まずはサーラさんを介して女性たちとコンタクトを取ることが急務である。俺が味方だと分かってもらえないと、一緒に脱出なんて夢のまた夢だからな。そのためには、サーラさんに何と伝えればいいか……。

 

 と、考え事をしていた俺の肩をサーラさんが揺すった。

 

「ゴブリン、来る」

 

 アイアイマム。時間的に朝ご飯だと思うんだが……うん、私室の入口にやってきたゴブリンは両手に木製の皿を持っていた。いつもの代わり映えしない内容だが、脱出のためには体力をつけなければならない。有難くいただこう。

 

『クク、飯だ。そっちのもナ』

『ありがと。そこ置いといて』

『……チッ』

 

 …こいつ、俺がのこのこと受け取りに行ったら、俺を捕まえる気だったな…? どうも、陰険野郎が出した、サーラさんを少しの間俺に貸したるわ宣言の効力が切れかかってきているようだ。まぁ、ゴブリン頭では長くもった方だろう。しかしあの野郎、重ねて宣言を出してないようだな……。

 あ、二重鉤かっこはゴブリン語、鉤かっこはエルフ語だ。全部俺の脳内和訳の結果だけれど、視覚的に分かりやすい方がいいかなって。これ、さらに人語とか獣人語なんて出てきたらどうしようか……。

 

 ともあれ朝ご飯である。サーラさんはどうも肉が嫌いらしくて俺に渡そうとしてくるんだが、俺よりもむしろサーラさんに体力をつけてもらわねばならないので、突っ返した上で俺のを半分あげている。もしやこの世界のエルフは肉を食べないんだろうか? 宗教なのか慣習なのか分からないが、今この時は目をつぶっていただきたい。少なくともサーラさんがお腹を壊していないので、身体的に受け付けないわけではないようだ。

 しぶしぶ食べるサーラさんカワユス。

 ……芋虫はどうにも慣れないが、今回はなんと綺麗に焼かれていた。ゴブリンの料理レベルが俺のおかげで無駄に上昇している。これもしかしたらゴブリンが生き延びるのにも貢献しているかもしれないな。ほら、生肉食ったら寄生虫とか食中毒とか。こんな環境だと下痢は死ぬ可能性高そうだし。

 

 

 さて、食事も済んだところで。

 

「サーラ」

「ん。何? ニエラ」

 

 俺を抱き上げて膝の上に乗せてくれるサーラさん。俺も人肌を感じられて嬉しいのだが、サーラさん的にも精神安定になるのか、最近は事あるごとに俺を抱きしめてくるのだ。

 

「私、話す、女性、だめ。サーラ、話す、良い。私、サーラ、2人、話す、女性」

 

 …うん、エルフ語を習いはしているんだが、今覚えているのは単語のみで、文法とかはさっぱり触れていない。よってこのような単語の羅列になってしまう。

 

「……話す、何?」

「逃げる。私…見る、道、ゴブリン、数」

「逃げる!? タウドッケ ポケタウン? ミートゥン、ヴェアト ヴォポースタ ムンノイレス……」

 

 おっと、いきなり分からない単語が続出したぞ。まぁ、いきなり逃げるなんて聞かされれば、そりゃそうなるよな。落ち着いて、と期待を込めて二の腕をぽふぽふ叩く。

 しかしまぁ、知っている単語が少なくて、喋りたいことがちゃんと表現できない。「知っている」と言いたいんだが、「知る」って単語は習ってない。「見る」ではなく「見た」と言いたいんだが、過去形を習ってないので、こうとしか言えないんだよ。可能形もイメージの伝え方が分からないんだよな。もどかしいぜ。

 なお、名詞の勉強が早々に終わってしまったのは、俺もサーラさんも絵心がなかったせいである。

 

「アー……オントゥークサ」

 

 サーラさんはハッとした後、すまなそうな顔で…これは、ごめんなさいってところだろうか?謝るサーラさんもカワユス。

 で、外に出るルートを説明するわけなんだが、これを口頭でするのは正直無理というもの。じゃけん、地面に地図を書きましょうねー。

 普段文字の練習に使っている石を使って地面をガリガリと。歩哨がだいたいいるところに丸を書いて「ゴブリン」と書いたりね。俺が実際に見れていないところは、適当にざりざりと塗りつぶすようにしておこう。

 あー、出口もゴールも習ってない表現だな……指で表口の所をとんとんしてサーラさんを見上げてみる。他に外に繋がっていそうな場所がないので、これはすぐに気づいてもらえた。

 

「ペアスティオ。逃げる、外、道」

 

 うん、おおむね「出口」で合ってそうだ。

 で、ここは?と指さされたのが、裏口があると思われるルートの、中部屋の例の木格子だ。これも口で説明はできないんで、図を書く。材料は木なので、木製の皿を持ってきてこんこんと叩く。錠前部分は金属、色的に多分鉄だろう。サーラさんの首輪に繋がる鎖をまた叩く。これを見てサーラさんはうんうんと頷いているので、ちゃんと通じたようだ。さらにその先、多分裏口があると思われるところを指し、「出口?」と首を傾げた。うん、そこはぐじゃっと塗りつぶして、道は書いてない。その先は俺も分からないので、俺も首を傾げた。木格子を指さして、その先には行ったことがない旨伝えると、サーラさんはなるほどと頷いていた。

 

 というあれこれのやり取りを結構頑張ってやりました。そしてサーラさんには、女性たちと俺との間を取り持っていただきます。

 

「ゴブリン、寝る。私、サーラ、行く、話す、女性」

「はい。ゴブリン、寝る。夜、クスカイェ。私、ニエラ、行く」

「…サーラ、話す、私、良い。女性、私、叩く、だめ」

「はい」

 

 うんうんと頷くサーラさん。ところで途中の単語は何なんですか? まぁ、サーラさんが頑張って教えようとしないので、スルーしてもいい単語なんだろうけど、放置されるとそれはそれで気になる。

 とにもかくにも、サーラさんとの意思疎通は多分大丈夫だろう。

 

 そして作戦決行はゴブリン時間で夜になるので、当分後の話。あとはいつものようにサーラさんと単語の復習、新しい単語の勉強、俺を抱き枕にするなどして時間を潰すのだった。

 

 

 ――あ、ちょっと待って! サーラさん、人間や獣人と会話できるんだよね!?

 

「サ、サーラ! サーラ、話す、女性。良い!?」

「?? 私、女性、話す。良い」

 

 う゛ぇー……これは、通じてるのか……? 確かサーラさんが繁殖部屋に連れ込まれた時に部屋にいたのは、人間と獣人の女性だったはず。エルフは子育て部屋にいて、サーラさんは顔を合わせてない。女性=他種族だって分かってる、よね……?

 これ、下手したら、サーラさんがゴブリンの側についた、なんて……思われないよな……?

 

 

 :

 :

 :

 

 

 さて、時間がだいぶ飛びまして、現在は草木も眠る丑三つ時(大嘘)。もちろんゴブリンも寝ているので、頑張ってスネークしていきましょう。

 私室の入口から耳を澄ませてみるが、特段変な声も聞こえない。今日は運よく、繁殖部屋に向かったゴブリンの数が少なかったので、女性たちもそこまで大きな負担にはなってないだろう。それに、ゴブリンが部屋の中で寝ている!なんて確率も低いということだ。

 

 サーラさんの手を引いて部屋を出て、T字路にまで来た。うん、俺のソナーには何も引っかからない。

 さて、女性たちと話をつけるわけだが、繁殖部屋と子育て部屋、どっちを先にするかというと、繁殖部屋だ。こっちにはゴブリンが常駐していないし、子ゴブを神経質に守ってるゴブリンのいる子育て部屋は後回しだ。

 というわけでY字路を右に進路を取る。この辺りまで来るとさすがに行為の残滓というか、臭いが鼻につく。非常に生臭い。何といえばいいのか……水がちょっと腐ったような臭い? いやいや、こんなもんの描写なんてどうでもいいんだ。

 繁殖部屋の入口まで来て、そっと中を覗く。案の定、中で寝ているゴブリンはいない。いない、んだが……何だか、妙な臭いがする。言葉では言い表し難い上に、ゴブリンどもの体液の臭いに紛れてしまっているが、何か嗅いだことのない臭いが、確かに、する。

 ……いや、今はとにかく女性とのコンタクトだ。女性たちは1ヶ月前に見たのと同じように…ではないな、人間2人は壁際にある寝藁に横たわっているが、獣人の女性はその反対側、前にサーラさんがいた辺りで横たわっていた。あそこはただの地面なんだが……まずは人間2人と話すべきかな?

 サーラさんに女性2人を指さすと、サーラさんはしっかり頷いて、そちらに歩いて行った。俺はというと、入口で待機である。まずはサーラさんのみとのコンタクトだ、俺がいては無駄に刺激することになるからな。

 女性2人は眠っていたようで、サーラさんが揺り起こしている。しばらくして、驚きの声や、激しい口調が一瞬漏れるも、サーラさんが押しとどめたようで、すぐに部屋は静かになった。ぼそぼそと、エルフ語とは調子の違う言葉が聞こえてくる。当たり前だが、意味はさっぱり分からないが、サーラさんが言葉を話せるようで本当に良かった。サーラさんが博識なのか、それとも共通語のようなものがあるのか。まぁ、それを知るのはもっと後でいいだろう。ともかく、サーラさんが女性たちと会話できて、良かった良かった!

 

 ――なんて、俺は気楽に構えていた。いや、脱出への一歩を踏み出せたことに高揚すらしていた。

 数分してサーラさんが戻ってきたとき、その表情は、今まで見たこともない程に厳しいもので。

 俺はもう1人の、獣人の女性の方を指さしたけど、サーラさんは静かに首を振った。そしてただ一言。

 

「キエルモ」

 

 そう、一言で終わらせた。

 

 俺は走り出し、それを止めるサーラさんの手を力尽くで振りほどいた。

 繁殖部屋はそれほど広いもんじゃない。幼女の俺でも数秒もかからない。

 そして、眠っていると思っていた獣人の女性を揺り動かして、俺は反射的に飛びのいてしまった。

 

 硬かった。そして冷たかった。俺は触れたその一瞬で、理解してしまった。彼女は既に物なのだと。

 

 

 既に死んでいるのだと。

 




最近リアルをおざなりにし過ぎて怒られました。
これからは週一でこれくらいの分量を出していけたらと思います。

21/7/19
可能型→可能形
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