勇者RTA   作:悲しいなぁ@silvie

10 / 27
お待たせしました
難産でした


VSヴォイオニス・エガルデ

男の振り下ろす凶刃が青年の首を寸断せんと迫りくるその一瞬に青年は羽のように軽く跳び上がるとそのまま男の顔に目掛けて膝を叩き込んだ

 

「がぶふっ!?」

 

顔面に膝蹴りがマトモに入ったことにより男は木の葉のように吹き飛び自身のデスクを巻き込んで破壊しながら壁へと激突した

 

「おんや~理事長殿、どうなされました~?

まるで黒幕がシャイニングウィザードを喰らったみてぇな顔してますけどー(笑)」

 

青年はそう言いながら覗きこむように男を見下す

その顔は先までとは別人のような、意地の悪い笑みを浮かべていた。

 

「ばっ、馬鹿な…君の能力に身体能力を向上させるものはなかった!

この威力は一体…!? 」

 

「キッヒヒ、いーい反応をするねぇ!!

頑張って仕込んだ甲斐があるよ全くぅ!!」

 

青年の顔は最早元の面影もなく、左右に裂けるように歪んだその笑みは底の見えないクレバスを思わせた

「なんだ…その顔は…私を見下す気か?

君如きがあ゛ぁ!!」

 

止めどなく流れる鼻血に構うことなく男は叫ぶ

 

「本当に、面白いねぇアンタって!!

そんなにこの顔がお気に召したんならよぉ…

もーっと良いモンを、魅せてやろうかぁー!!?」

 

青年の叫びと共に青年の姿が歪みながら崩れていく

全体を靄が覆ったかのように、青年の姿が不鮮明になるにつれそのシルエットが明らかに先までと変わっていく

 

「これが!俺の本体のハンサム顔だぁ!!」

 

霧が晴れるように青年の姿が鮮明になる

そこには鴉の濡れ羽を思わせる美しい黒髪を膝まで伸ばした青年が立っている

 

「き…さまは!谷崎っ…俊稀!」

 

俊稀はその言葉を聞き更に笑みを深めながら右手の指をスッと立てる

そして、指を左右に振りながらチッチッチッと舌を鳴らしたかと思うと勢い良く振り下ろし叫ぶ

 

「イエェェェェッス!!アイアムッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女の言葉を聞き、ずっと俯いていた青年は弾かれたように顔を上げると少女の手を振り払った

 

「リーゼ、君の言いたいことは良くわかった。

だがっ!その上で俺は君を止める!!」

 

そう言うと青年の周りがガラスのように砕け散った

 

「…!!…キルト……君…?どうしてここに…」

 

「無論、決まっている!!

リーゼ!君が苦しんでいたからだ!!

道を違えた君を叱ってやりに来た!友としてな。」

 

そこには、輝くような金の髪をした碧眼の青年が…キルト・イェシャラディンが威風堂々と立ち塞がっている

 

「……道を違えた、か…

確かにそうだね、私がやろうとしてる事は絶対に正しくないよ?

でも、それってダメなのかな?

そうでもしないと!私の願いは叶わないんだよ!!

邪魔するなら、キルト君でも…容赦しないよ!」

 

少女は胸の前でぎこちなく両手を構える

しかし、その瞳には確かな意志が籠っていた

 

「ならば、かかって来い…

この最優の四天王、キルト・イェシャラディンの全力を持ってその考えごと捩じ伏せてやろう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成る程…キャム・カンパネル女史の能力を使ったという訳ですね…

姿を偽装する仕掛けを用意していたとは…

しかし、一体何処で?私は君の思考とも呼べるものを監視していたというのに…」

 

「ん~?ヴォイオニスちゃんったらまーだあんなもん信じてたの~?」

 

青年は心底馬鹿にしたような笑みと声で続ける

 

「知らない人の言うことをなぁーんでも信じちゃ駄目よぉ?ヴォエちゃぁーん!

悪ーい大人に飴ちゃんでハイエースされちゃうぜ?

あらやだ、ごめんなさぁーい!ヴォエちゃんが悪い大人だっけ?」

 

「………つまり、あれは全て私に対するブラフだった訳だ…」

 

「あ~らヴォエちゃんったら、よくわかりまちたね~!

えらいえらいしてあげよぉかぁ?」

 

「しかし、情報は正確だった…いや、私の知らぬものは鵜呑みにすべきではないね」

 

ヴォイオニスはそう言うと首を鳴らしながら立ち上がる

 

「だが問題ない、こうも策を労しても私に一撃を入れるのが精一杯

しかしてその一撃も、この通りだ」

 

ヴォイオニスが鼻血を拭うと先程まで止めどなく流れていたそれが嘘のように止まる

 

「これもO細胞の力さ

O細胞は脳内で結晶化することで能力者を造り出すが、日常的に極少量ずつ経口摂取することにより約7年で肉体を完全に造り替える

今の私は…

 

「人体を薄紙のように引き裂き、厚さ数百ミリの合金をも蹴破れる肉体強度に睡眠も日に十数分、食事だって週に一度摂れば事足りる…だろ?」

 

「…その通りだ、君も知っているだろうとは思っていたが…わからないな、そこまで知っているならば最初の不意打ちの後に畳み掛けるべきだろう?

君と悠長にお喋りをしている間に君が苦労して入れたダメージは無くなった…これも、血が凝固したのではなく損傷した血管が修復したんだ」

 

そう言うとヴォイオニスは取り落とした刃物を踏み砕く

 

「私の肉体は、正に進化しているのだよ

生命の理由とは、なんだと思う?

進化と発展だよ!

現状維持を進歩と見誤った愚衆とは違う!

私は、私だけが…この世界で私だけが生命体として活動しているのだよ」

 

俊稀はそれを聞きながら鼻で笑う

 

「あー、はいはいわかるわかるそーゆー自分が特別だーって言うアレね…

ダメじゃなぁいヴォエちゃん!そういうのは中学で卒業しとかないと…ッ!」

 

俊稀が言い終わる直前にヴォイオニスは瞬時に距離を詰め俊稀の頭を目掛けて蹴りを放つ

それを寸でのところでかわしながら俊稀は蹴り足側に回り込み相手の勢いも併せて先程の膝蹴りよりも強かにヴォイオニスの顔を殴り抜いた

 

「ングゥッ!大した反射神経だね…」

 

折れた鼻がミキミキと音を立てながら元の形へと戻っていく

 

「褒めてくれてあんがとさんっと。

あと、さっきの追い討ちがどうのって奴…あれはさちゃーんと理由があんのよ理由がさ!」

 

ヴォイオニスは治った鼻を抑え中に溜まった血を吹き出す

 

「ほう、是非とも訊きたいところだ

どんな事情があるのかな?」

 

「ちゃぁーんと治ってからじゃねぇと、そのご自慢の面が殴れねぇだろ?」

 

そう言うと俊稀はヴォイオニスの脇腹へ目掛け蹴りを放つ、そこへヴォイオニスはその脚を叩き潰さんと拳を振り下ろす

しかし、俊稀の脚はその拳を避けるように軌道を変えるとヴォイオニスの頬を捉えた

 

「がぐっ!?」

 

「あぁ、あとご自慢の面を足蹴にもしたかったんだ。

夢が叶ったよ、サンキュな!」

 

半回転した頭部が骨の軋む音と共に正常なカタチへと戻って行く

完全に回復するとヴォイオニスは一度距離を取らんと軽く後ろへ飛び下がったが、それをよんでいたかのように俊稀はヴォイオニスの脚を掬い上げるように掴みそのまま踏み抜いた

 

「ギッ、グギィィッ!離せっ!!」

 

太い生木を折ったような音と共にヴォイオニスの右膝が稼働域を逸脱した曲がり方を見せる

痛みに耐えながらこれ以上の追撃を回避する為に腕を振り抜き俊稀を引き剥がす

ヴォイオニスは砕けた右膝を両手で掴み無理矢理に成形すると、そのまま叩き付けるように右足を振り下ろす

 

「見ろ!貴様のような劣等種の攻撃など、新人類たる私には何ら通用しない!

今は存分に楽しむがいい!こちらは貴様が何をしようとも回復するが、私の拳足が一度でも貴様に触れればそれで終わりだ!!

この極限状態でその集中力がいつまで続くか見物だな!」

 

そう叫ぶと再び俊稀へと殴りかかる

 

「フフ…へただなぁヴォイオニス君…へたっぴさ……!

プレッシャーの掛け方がへた……

ヴォイオニス君が本当にしたいのはこちらの動揺を誘い通常よりも早く疲弊させミスを誘発させること…

それなのに君は脚を無理矢理治してノーダメと言い張る…これが実にダメ…!

如何に素早く治ろうと、ダメージはダメージ…君の中に蓄積されている…だから、君が本当にすべきだったのはもう再生出来ない振りをしての不意打ち…!!

違うかい?」

 

ヴォイオニスの目にも止まらぬ…否()()()()()()連撃を俊稀は喋りながら悠々と避け続ける

そして、それに焦れたヴォイオニスの大振りを最小限の動きで避け側面に回り込むとそのまま髪を掴み頭を強引に引き寄せる

完全に拳を振り抜いた状態のヴォイオニスは踏ん張りも利かずそのまま体勢を崩し、しなだれかかるように俊稀へと倒れる

そこへ、再び俊稀の飛び膝蹴りが下顎に直撃した

聞くに堪えない音と共にヴォイオニスの毛髪と頭皮の一部が引きちぎれ、飛び膝蹴りの衝撃で顎は砕け脱臼をおこす

 

「ーーーー!!!?」

 

顎が機能しない為に声にならぬ叫びをあげながらヴォイオニスはのたうちまわる

 

「だよなぁ…そりゃあそうだ。

そもそもが研究畑のもやしっこ…いくら鍛えようが化け物になろうが、殴られる痛みに慣れてる筈がねぇ…」

 

言いながら俊稀はヴォイオニスの股間を踏み潰し、そのまま崩れるように腰へ膝打ちを入れる

 

「ーーーーーガウウゥォオオ゛オ゛オ゛オ゛!!」

 

顎を修復し、顎関節を筋肉の収縮により強引に嵌めながらヴォイオニスは叫ぶが下腹部の激痛と骨盤の損傷により攻撃へと移れない

その間に俊稀は立ち上がり再び距離をとる

 

「いいな、その髪型!

そっちのが似合ってんぜ!理事長殿?」

 

ヴォイオニスも、骨盤と睾丸を修復し立ち上がる

その頭は頭皮こそ修復されていたが頭皮と共にちぎれた毛髪は無く脱毛症のように見えた

ヴォイオニスは自身を嘲笑う俊稀を血走った目で睨み付ける

 

「どうしたどうした?ご自慢の演説はもう終わりかい?

そ・れ・と・もぉ・?御大層な新人類サマはもうお疲れでしょうか?

なら、お還りはこちらだぜッ!」

 

俊稀はそう言いながら懐から球形の何かを投擲する

その球形の物体はヴォイオニスの左足へ直撃すると輝きながらヴォイオニスの左足と共に破裂した

 

「!?………確かに、私と戦う事を想定していたのだから武装も当然か

むしろ、先程の擬態はこちらに非武装を錯覚させる役割もあった訳だ」

 

言いながらヴォイオニスは後ろへ倒れこんだ

左足は再生こそしているがそのペースは先までと比べ明らかに鈍化していた

 

「完敗だよ、私の負けだ」

 

「…いやに諦めが良いねぇ?

お兄さん、諦めが良い悪者とどこからでも切れますって書いてる奴だけは絶対に信じない事にしてんのよ。」

 

「なに、このまま続けても私では君に掠りもしないだろう…

この新人類を語った私の肉体が君の策と技術には通用しなかった…ただそれだけの話さ」

 

片足が再生するのを待たず、ヴォイオニスは胡座をかくように座り込み話続ける

 

「私はね、自身以外をすべからく見下しあまねく全てを自身の駒だと思い生きてきた…

幼少の頃から私は天才だったよ

凡人が生涯をかけて証明したと言い張った理論は私が4つの時に暇つぶしで紙に書き殴ったものを喜び勇んで奪い盗ったものだった

世間では証明されれば数十年は技術レベルが上がると言われ、数百年間に渡り愚衆を悩ませてきた問題も当時6つだった私でも数時間あれば証明できた

…最初は持て囃されたものだよ…最初はね

君なら解るだろう?明らかに突出した人間が周囲の凡人からどのように見えるか…

彼らには、私は人ではないナニカに見えたのだろうね

ある日、私が父と呼び慕っていた男に殴られて私は血反吐を吐いて死にかけた…私が8つの頃さ

もちろん、幼かった私は母に助けを求めたよ

……まぁ、母が包丁を持って現れた時におおよそ私の辿る運命を理解したがね

そこから、二人の凡人は色々言っていたよ…

お前なんか産むべきじゃなかっただの、本当の息子を殺して悪魔が産まれただの…

私は絶望したよ、両親に裏切られたからじゃない

私ならば想定できた筈の状況だったと言うのにただ私を産んだだけの愚民を信じ、私を排斥しようとする可能性を全く考慮していなかった私の弱さに絶望したのだよ

私は自分はもっと強い人間だと思っていた

いざとなれば全てを切り捨てられる合理的な人間だとね

だが、現実は違ったよ…凡人共に殺されかけた私はただ泣きじゃくりながら許しを乞うた、そんな事に意味などないのにね?

そんな私の命を救ったのはエガルデ家だったよ

私の目の前で二人を撃ち殺し、私を引き取ると言ったのさ

エガルデ家は血ではなく能力のみで繋がる家系だ…私を拾った男も元を辿れば孤児だったしね

ここまで聞けば馬鹿でも解るだろう?

全て仕組まれていたのさ…尤も、あの二人は自分達が死ぬなんて露程も思っていなかったろうがね…精々が厄介払いが出来て金も手に入ると喜んでいたぐらいだろう

そんな事は私とて、もちろん解っていたさ…ただ、私は期待してしまったんだよ

能力のみを至上とするこの家ならば…凡人共では理解出来なかった私を受け入れてくれるかとね

フフフ、現実は非情だったよ…私からすれば只の数字遊びをしているようにしか見えない事を偉そうに講釈垂れる愚か者に、本の内容通りの事しかほざけない凡人…

エガルデ家の人間が私に充てた教師共は全員が笑える程に無能だったよ

それでも、私は至極真面目に付き合ってやった…

見てしまったんだ…さして高くもない点数を誇らしげに親に見せて褒めて貰っている子供を

私は健気だったよ…目を瞑っていても満点を取れるような問題に目を皿のようにして見直して、ミスがないか何度も検算した

後日返却された当然満点の答案を持って私は褒めて貰いに走ったよ

どうやら、そのテストには決して解けない問題が入れられていたようでね…私からすればどれがソレだったのか、未だに検討もつかないが

私の答案を見てエガルデ家の男は顔を青くしていたよ…

そこからさ、私はエガルデ家でも恐れられ始めた」

 

ヴォイオニスは修復し終わった足を伸ばし、調子を確認するとゆっくりと立ち上がった

そして一息着くと壁際のまだ壊れていない椅子を引き摺って俊稀の前に座る

 

「悪いね、長話に付き合わせてしまって」

 

「構わねぇよ…教師ってのは偉さに比例して話が長くなるモンだしな。」

 

クスリと笑うとヴォイオニスは再び話始める

「理解のある聞き手で助かるよ

さて、ここまでの事で傷付いてしまった私だがここで漸くある命題にたどり着くのさ

愚衆共が私を理解出来ず排斥するのならば、皆が私と同じになればいい…とね

しかし、如何に天才である私と言えどこの問題は一筋縄ではいかなかった

だって、私には凡人の思考がわからないからね

皆を私と同じ天才にするには、まずどれ程互いに格差があるか理解しなければならないと言うのに私はそれがわからなかった…まぁ、今も同じだけどね

当然、計画は行き詰まった

この[学園]も最初は私が教鞭を執り私と同じ天才を造るべくして建てたものだった…まぁ、失敗に終わったがね

凡人共は私がいくら解り易く教えてやっても十分の一も理解出来なかったよ…その癖そいつらは自分は天才だのとほざいて卒業したがね

そんな時だ、私が能力者の短命について研究して欲しいと言われたのは

依頼を持って来たのは能力者に人権をとかそういう事を主張する団体だったよ…余程自分達が良い人間だと思いたいんだろうね?

そこで、私はO細胞に可能性を見つけたんだ…

能力者を殺すだけだと思われていたO細胞は生物を飛躍的に進歩させる可能性を秘めていたんだ

私は研究に没頭したよ…それが今から18年前、私が15の時だ」

 

「そんで辿り着いたのが皆引っくるめて能力者にしようって訳か」

 

「…そうだね、これで人類は一つ上のステージへと上がるんだ

もちろん、私にはまだ遠いが確実に近づいている」

 

「それで?

排斥された側のお前が同じ排斥された能力者を殺すのかよ。」

 

「そうさ、私は私のエゴで彼彼女らを殺す」

 

「ならなんで、わさわざ能力者を殺して他に移す?

能力者を更に押し上げた方が早いだろうが。」

 

「………この私の頭脳を持ってしても、能力者の延命は不可能だったからさ…君なら解るだろう

君が言っていたリーゼ・チェレステ女史の能力を使った方法も本当は不完全だと言うことが」

 

「ああ、あくまでもリーゼちゃんの能力で停めてるだけだ…リーゼちゃんが不老不死でない以上何時かは能力が解けて全員が死ぬ」

 

「それに、能力者の総人口もかなりのものさ

彼女の生涯をかけても全員は救えないだろうね

だから使ってやろうと言うのだよ、どうせ無為に散る命ならば私が意味を持たせてやろうじゃないか!」

 

ヴォイオニスは椅子から立ち上がり興奮したように言い放つ

 

「排斥された命が無為に散る様など見ていられない

フフフ、私は両親に殺される子供を助けるのさ…

無意味な死を偉大なる人類の発展の礎とする

これも、私のエゴさ…この悪意の掃き溜めで自分達が疎まれ、恐れられて排斥された事も知らず死んでいく彼彼女らに私は言うのさ!

君達の命を私の悲願の為に譲り受けるとね!

愚衆共への怒りすら覚えられぬあの子達でも!私を恨めばいい…私に怒ればいい!

自身の生を無為に終える前に…自らの運命を呪う前に、私が終わらせる!そんな私を呪うがいい!!」

 

ヴォイオニスは言い終えると、憑き物の落ちたような顔で俊稀へと向かい合う

 

「さて、第2ラウンドと行こうかな…

もう、油断も慢心も捨てよう

私も命をかけて君へと立ち向かうとしよう」

 

ヴォイオニスはそう言うと自身の首筋に注射器を打ち込んだ

「ふむ、これでスタートラインには立てたと言ったところだね

では俊稀君、君はこの能力者となった私に対してどう闘うかね!?」

 

ヴォイオニスは言い終えるより早く自身の右腕を蛸の足のように変形させ俊稀へと巻き付かせる

俊稀は拘束が完了するその刹那に自身の肩を外すことにより逃れる

そして直ぐさま距離をとると懐から何かの燃えかすのようなものと赤黒い塊を取り出した

 

「能力…[愚者の玉座]か。

あんたが命懸けで来るんなら、こっちもそうでなきゃフェアじゃねぇな。」

 

そう言うと俊稀は両方を一息に飲み込んだ

すると俊稀の体から色素が抜けるように髪が、肌が、瞳が色を失い白く濁っていく

それと同時に四肢の末端から罅が入り全身に広がる

 

「…それが君の言っていた[結晶皇帝]か

皮肉なものだね、能力者を産み出すO細胞の化身が能力を無効化するとは…」

 

俊稀が腕を振るうと全身が砕け、下から水晶のような体表が現れる

 

「そんなもんさ、こっちの世界でも人類の発展を祝す賞を作ったのは多くの人間の命を奪う発明をした男だった。」

 

「言っておくが、私が諦めると思ったら大間違いだよ?

確かに能力の無効化は脅威だが、形が変わり続ける私を君は捉えきれるかな」

 

ヴォイオニスはそう言うと全身を膨れあがらせその肉体を熊のような大型の動物へと変化させる

 

「この能力…変化したカタチを持つ生物の特徴を使えるというのは興味深いね

カタチが変わっているだけで私の中身は変わっていないというのに筋力と嗅覚、聴覚が明らかに向上している

卵が先か鶏が先かの話と似たものだ…カタチに能力が宿るのか、その能力を持つ故にカタチが決まるのか…

[雛から孵る鶏(パラドクス)]とでも名付けようか」

 

ヴォイオニスは巨大化した腕を乱雑に振り俊稀を狙うも高くなった打点を利用され滑り込むように懐に入られる

俊稀はヴォイオニスの胸に両手を合わせるとそのまま捩じ込むように押し込んだ

 

「ゴポッ!?ガボグゥッ!グッ…クックッ、フフフ!」

肋骨と内臓が掻き回されズタズタになる感覚

命が脅かされる感覚を味わいながらヴォイオニスは笑った

 

「これは、無効化できないようだね

キャム・カンパネル女史の能力によって発生した物品が賢者の石を近付けても消滅しないように、能力によるものとは言え私の肉体が変質しただけのこの状態も無効化の範囲外という訳だ」

 

「良く回る頭だこと…確かに大正解!

あんたの変化は止められねぇよ。

だが、もう一個の方は無効だぜ?」

 

言いながら再び攻防が始まる

ヴォイオニスは腕を糸のように細く変化させると、それを網を振るように俊稀へと振るう

俊稀は回避せずに軽く跳ぶとそのまま網の中心へ目掛けてドロップキックを放ちヴォイオニスの腕を引きちぎりながら着地する

そこへヴォイオニスは鮫のような大きく、深く裂けた口で噛み付きにいく

俊稀は着地の衝撃を後ろに逃す事でバク宙の要領で跳びながらヴォイオニスの下顎を蹴り上げた

 

「良いねぇビックリ超人…お次はウサギさんにでもなってくれるか?」

 

「フゥ、これでもまだ届かないとはね…

正直おどろ」

ヴォイオニスが言いきる前に彼の足下の床を()()()()現れたそれはそのままヴォイオニスの身体を喰い千切るとボコボコと音を立て貌を変えていく

 

「ッ!!?コイツは…[腐乱結晶]か!?

なんで…確かに俺が止めを…」

 

「クックック…少々欲張り過ぎたね

アレを私の計画のサブプランにしようかと回収していたんだが…飼い犬に手を噛まれた気分だよ」

 

そう言って()()()()()()()()姿()()()()()ヴォイオニスは苦笑している

 

「ヴォイオニスちゃんったら今さっき喰われてなかった!?

あとどーしたのそのカッコは!オネショタに目覚めちゃった?それとも名探偵目指す?」

 

「身体の大部分を喰われてしまってね…

君との戦闘でかなりの体力も消耗してしまっていて再生も間に合わなくて仕方なくだよ

中身を作るのにリソースを割きすぎて外身がこんなになってしまった」

 

怪物から聴こえる音が徐々に静かになるにつれその輪郭が明確になっていく

俊稀と同じ水晶の体表に、爬虫類を思わせる太く短い尾と蝙蝠のような薄い翼

山羊のような角を頭に持ったソレは口も見当たらないというのに地の底より這い出すような声で叫ぶ

 

AAAAAARRRRRKKKKK

 

「ッ!…O細胞の化身と言うよりは悪魔と言った方が適切なように思えるね…」

 

身体中を叩く衝撃波の如き咆哮にヴォイオニスは呟く

 

「やっぱ頭いいねぇヴォイオニスちゃんってば!

あれがO細胞を人類に与えた正真正銘の悪魔…[代償の悪魔]だよ。」

 

二人は立ち上がる

肥溜めを抜け出さんと

英雄は立ち向かう

明日もまた笑い合う為

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。