勇者RTA   作:悲しいなぁ@silvie

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キルト・イェシャラディンはあなたを救いたい

星空が好きだった

君が好きだったから

甘いものをよく作った

君が笑ってくれるから

あの場所が好きだった

君の側に居れたから

君が好きだ

この想いだけはだったにしたくない

 

 

 


 

 

 

 

(しかし、困ったな。)

俺はそう思いながらリーゼと対峙する。

大見得を切ったところで誠に情けない限りだが、俺の能力はこの戦いにおいて何の意味もないお飾りに過ぎなかった。

彼女に能力を向けるなど、もっての他なのだ。

スウォルドさんから能力により実質的に不死身となっている為、手加減の必要は無いと言われたが仲間に向ける為の力では無い!

俺の力は…俺が求めた強さは、こいつらを守る力だ!

こいつらを傷付けては本末転倒もいいところだ。

 

「どうしたんですか!

私を止めるんじゃなかったんですかキルト君!避けてばかりじゃ私は止まりませんよ!」

 

リーゼはそう言うと俺の背丈程の氷柱と巨大な火の玉を飛ばしてくる。

俺はそれを一瞥し、霧散させながらリーゼの視界から外れるように走り続ける。

あいつが炎や氷(この程度)の攻撃しかしてこない今しか俺に勝ち目はない。

俺の破壊(クラッシュ)では炎や氷は散らせてもあいつの本気には太刀打ち出来ない…

スウォルドさんからの又聞きだが、リーゼは時を停めることも可能らしい。

その能力を使われてしまえば…しかし、それは俺の勝ち筋でもある!

今現在、リーゼはそれを使っていないと言うことはあいつ自身が俺に力を向けることを躊躇っている…筈だ。

……あいつを苦しめ、悩ませて…それを勝ち筋と言うとはな、ここ最近は最優の名が泣きっぱなしだ。

これも全ては俺の弱さ…逃げ続けてきた俺の責任だ!

あいつらを取り巻く環境、俺達に関する問題、その全てから目を逸らし、怠惰な安寧に身を任せた俺の弱さが招いた結果だ!

本当は、リーゼを止めるなんて言う資格は俺には無い。

糾弾されるべきは全てを放り投げた俺であるべきなんだ!!

あいつはそんな俺すらも助けようと諦めず俊稀とルーナを連れて立ち向かい続けた!

それが、どれ程困難だったか…どれ程苦しく、どれ程投げ出したくなったろうか、俺は何も知らない…

全てを知った顔でスウォルドさんから聞いた事を、さも経験してきたように語りあいつを止めるとのたまう…

どの口が言うのだ!

…しかしな、それでも俺はお前を止める…俺が止めなくてはならない!

お前に助けられた俺が…皆から引き継いだ俺が!お前を止めるんだ!!

 

「止めてみせるさ!

この俺の命にかえてもな!」

 

はったりじゃない、リーゼが居なければ遅かれ早かれ散った命…お前を助ける為ならば、安い物だ。

 

「っ!…なら、これでもまだ、同じ事が言えますかっ!?」

 

俺の視界から切れた瞬間を狙ったようにリーゼは俺の目の前に瞬時に移動すると、俺の右手を掴んだ。

その瞬間、俺の腕はまるで別の生き物のように脈動し、右腕の肘から下に熱を感じたかと思うとその熱は徐々に二の腕へと上がっていく。

俺は覚悟を決め、自分の右腕を肩口から切り落とした。

 

「んんぅ、ぐぅぅ…ふぅ…くぅ……あ゛ァッ!」

 

そして、肩口に手を当て更に乱雑に破壊することで断面を潰し出血を止める。

 

「っ!……わかるでしょう?

キルト君では私には勝てません…

その腕だって私なら治せます、だから…」

 

「もう、俺に諦めろとでも言う気か?

甘くみるなよ…腕の一本や二本で諦める程度の覚悟なら、最初から此処に立ってはいない!!」

 

切り落とした右腕は前腕から足のように指を生やし手の甲に眼球が備わり一つの生命のように蠢いている。

これが、[前進]の能力…生命の暴走か。

スウォルドさんが触れられるなとあれだけ念を押したのはコレが原因という訳だ。

のたうつように近付いて来る俺の元右腕を塵に変えながら、考える。

確かに、今の俺では勝ち目がないのは事実ではある。

リーゼに攻撃を決断させてしまった段階で勝ちの目は潰れてしまう…ならば、何故俊稀は俺にこの場を任せた?

…俺を捨て石に?…いや、もし時間稼ぎのみを考えるのであればキャムの方が適任だろう。

俺を説き伏せてキャムを連れてきた方がまだ能力の相性的にリーゼの足止めに向いている。

ならば、ここを俺に任せる意味は?

無論、誰に止められようが来てはいたがそれを読めぬ男では無い筈…

 

「キルト君…もうやめましょうよ!?

私がその気になれば、キルト君の首さえあれば治せるんですよ…

この意味が、わかります…か?

腕よりも、ずーっと痛いんですよ!?」

 

リーゼが叫んでいる。

そんなに泣きながら言うな…どちらが痛いのかわからんだろう…

…ごめんな、そんな辛い想いをさせて。

考えろ、あいつを助ける為に…皆でもう一度笑う為に!!

ある筈なんだ、俊稀が俺に任せた以上は俺にしか出来ない事が…俺だけにある勝ち筋が!

俺の能力は破壊と分解…しかし、俺がリーゼを攻撃する事は絶対にない(仮に攻撃しても無意味だが)。

ならば、それ以外の要素?

例えば、同じ四天王同士でリーゼの同様を誘う…いや、それこそキャムを利用する筈…

なんだ、俺にしか出来ない事…クソッ!考えろ!

 

「…なんで…なんで!何も言わないんですかっ!?

痛いでしょう!?苦しいでしょう!?私が…私が怖いでしょう!!

…だから、だから早く」

 

「馬鹿な事を言うなっ!!」

 

「っ!」

 

「お前を…仲間を恐れる阿呆が何処にいるかっ!!

例え、能力が強くなろうとその程度で…!」

 

能力が強くなる…?

リーゼは元々、炎と氷の能力だと自分の能力を誤解していた。

だが、実際の能力は[前進]と[停滞]…

能力者の能力は、能力者の認識に左右される…

ならば…俺の能力は本当に[破壊]と[分解]なのか?

確か!スウォルドさんは能力者の能力は3つのタイプがあると言っていた筈!

1つ、互いに正反対の能力…ルーナの[強化]と[弱体化]やリーゼの能力も正にコレ

2つ、片方がもう片方の補助の能力…キャムの[創造]と[解析]やスウォルドさんがコレ

3つ、互いが同系統の能力…俺の[破壊]と[分解]がコレ、の筈だったが…本当にそうか?

例えば、リーゼが[停滞]の結果凍結していたものを氷の能力と考えたように、俺の[破壊]や[分解]も何か別の能力の副次的な作用とは考えられないか…?

 

「…なんだか、目が変わりましたねキルト君。」

 

「そう…か?自分ではあまりわからんが。」

 

「はい、いつもの自信たっぷりなキルト君の目です…

なにか、策があるんでしょうね。」

 

「ああ、俺の能力がリーゼのように変化する可能性に賭ける事にした。」

 

「……えーっと、それは…私に言っていいんですかね?

言わない方が良い気がするんですけど?」

 

小首を傾げて訊いてくるリーゼ。

しかし、俺は胸を張って言い切る。

 

「構わん!その程度で揺らぐのならば、そこまでだったというだけだ!!」

 

リーゼは俺の言葉を聞いて目を閉じて大きく息を吐いた後にスッと目を見開く。

 

「そう…ですか、なら…これが最後です。

キルト君…ここは、私の為にひいてくれませんか?」

 

「…リーゼ()()()()()()()退()()()()!」

 

「…なら、泣いても知りませんよ!」

 

そうリーゼが言うと共にリーゼから耐え難い程の冷気が叩きつけられる。

これは…例の[停滞]か。

俺が、あるかも不明な本当の能力に覚醒出来なければ負け…

しかしな、あいつが…谷崎俊稀が俺に託したんだ!

あいつの事を無条件に信じている訳じゃない。

リーゼ、お前の事もあいつが絡んでるんだろう…

自分の描いた絵図にリーゼを…俺達を使ったあいつを人間として信じろというのは無理筋だろう。

しかし、あいつが何を考えて何を道具としようとも…あいつが俺達を助ける為に動いている事に違いはない!

どこの世界に突然命の懸かった戦いに巻き込まれた上で全員を救おうと立ち向かう人間が居る?

他の誰が、何度死のうとも諦めずに立ち向かえる?

谷崎俊稀という男は、確かに俺達を道具にした!

しかし、それを俺達の誰が非難できる?

最初にあいつをこちらの事情に巻き込んだのは?

無関係だと知りながら俺達の命運を懸けた決戦を任せたのは誰だ?

そもそも、あいつからすれば俺達能力者の問題も学園の暗部も知ったことではない筈だ…

あいつは、俺達の前に何よりも()()()()()()()()()()

そんなあいつが俺に託したんだ!

一体、何度死んだのかも俺にはわからん。

俺の本当の能力とやらを知り、それをこうやって計画に組み込むのも一体どんな体験をすれば可能なのか…

想像すら難しい。

そんな…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から託されたんだぞ?

ここで出来ずに!!

何が最優だ!!

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

世界の全てが凍え、動きを停める。

この世界で動けるのは、[前進]を持つ私だけ…

 

「やっぱりダメだったんですよ…

キルト君じゃ私に勝てないってあれだけ言ったのに。」

 

私はこちらを真っ直ぐに見詰めたままに凍り付いたキルト君に近付く。

正面に立ち、ズレないようにしっかりと狙いを定めてその首に手刀を振りかぶる。

 

「これで私の…私達の愛の勝利ですよ、キルト君。」

 

 

 

 

 

 

 

「違うな!俺達の友情の勝利だ!!」

 

キルト君の首に当たった手刀はその首を切り落とす事もなく彼に掴まれる。

 

「!?っな、なんで!

能力は解除してないのに、なんでキルト君が!?」

 

「簡単な事だ。

これが俺の本当の能力、何かを別の何かと継ぎ接ぐ…[継ぎ接ぎ(パッチワーク)]の能力!」

 

「パッ、[継ぎ接ぎ]…!?」

 

呆けた顔のリーゼに俺はしっかりと説明する。

 

「能力者のタイプ…互いに正反対な特性を持つお前の能力を継ぎ接いだ!

[停滞]は[前進]に、[前進]は[停滞]に打ち消される!

何かと何かを継ぎ接ぐ前に一度形を崩すこの能力を、俺は[分解]の能力だとずっと勘違いしていた。

しかし、一人の力ではなく!皆の力を併せる強さを知った俺だからこそ!この能力を真に理解出来た!!」

 

リーゼは動かない。

能力は封じても自由を奪っている訳ではないが、リーゼは俺の手を振りほどく事もせずにうつ向いている。

 

「だから!だからこれは…俺達の、俺とお前の友情の勝利だ!

仲間を見捨てない、必ず助ける何よりも強い意思を俺に教えてくれたお前と俺との勝利なんだ!!」

 

「もう…うるさいなぁ、耳が痺れちゃいますよ?」

 

そう言って顔をあげたリーゼは何処か迷いの晴れたような…懐かしい笑顔で泣いていた。

やっと、俺は…お前を助けられる。

 

「歯を喰いしばれよ?

俺の仕置きは少しばかり響くぞ!」

 

そう言って俺はリーゼの頭に思い切り頭突きをかました。

頭部の鈍い痛みと共にリーゼは崩れ落ちる。

地面に倒れないようしっかりと抱き上げると俺の横に青い髪の男…スウォルドさんが立っていた。

 

「悪いなキルト、妹が迷惑掛けちまった…」

 

そう言って頭を下げようとするスウォルドさんを俺は慌てて止める。

 

「やめて下さい!

迷惑など、俺が最初にこいつらに掛けて来たんです!

俺はそれをほんの少し返しただけで…」

 

スウォルドさんは顔をあげると俺の右肩に触れる。

すると、早送りのように俺の腕が再生していきものの数秒で完全に元通りに回復した。

 

「なら、ありがとよキルト。

本当なら俺がやるべきだったのを任せちまってよ。」

 

「…いえ、こちらこそ怪我の手当てまでして頂き感謝します!

それでスウォルドさん、この後はどうなさるのですか?」

 

俺はスウォルドさんに尋ねる。

と言うのも、俺が任せれたのはリーゼの事のみ…この後どう動くべきかがまるでわからないのだ。

 

「ああ、そうだったな…

大声で言うモンでもねぇ、キルトちょっとこっち来い。」

 

そういって手招きするスウォルドさんに近付くと

 

「悪いな、本当にすまねぇ。

だが、後の事は全部俺がやる。

あの野郎は、俺がカタ付ける!」

 

スウォルドさんに顎を叩かれ視界が暗転する…

最後に俺が見たのは拳を握り締めるスウォルドさんだった。

 

「俺は認めねぇ、こんなチャートはな。」

 

そう呟いた声を聞くものはそこには誰も居なかった。

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