「勇者…アルティーエ?」
青年は聞き覚えのない言葉に眉を顰める。
「R.T.Aだよ
情報は細部まで正確でなければね?キルト君」
男はそう言いながらゆっくりと見せ付けるように青年に近づく
「Real,Time,Attackを省略した言葉で主にゲームのクリアや特定のキャラクター、イベントの攻略を如何に迅速に行えるかを競う行為さ
その為にチャートと呼ばれる最適化された思考、行動ルーチンを形成し時には常人には理解出来ないような行為も厭わない」
互いが互いの顔に手が届く距離まで近付くと男は漸く立ち止まり、青年の頬を愛しそうに撫で付け耳元で囁く
「実に、素晴らしいとは思わないかい?
彼は、時間遡行能力を用いてそれを現実にしようとしているのさ」
青年は歯を噛み締めながら男の手を乱雑に弾いた
「愚問!
一体それが何だと言うのだ!
彼が現実とゲームを混同した気狂いだとでも貶す気か!?
ふざけるな!!
彼が何を考えて成したかは俺には確かに解らん、しかし、彼の成した事は…成さんとする事は解る!!
時間遡行能力?なら、彼は何度でも諦めず俺達を救う為に己が身を賭しているのだろう!!!」
先までのものより更に数段大きなその声は最早絶叫と呼んで差し支えなかった。
青年の言葉に男は呆気にとられたかのように目を見開いたかと思うとうつむきながら肩を震わせ始めた。
「クッ、フフフ…アッハッハッハッ!
キルト君、君はまさか彼がそんな聖人君子だとでも思っていたのかい!」
男は一頻り嘲笑うと目元を指で拭いながら続ける
「フゥ、久しぶりに笑わせて貰ったよ…悪いね?
私が情報収集端末から手にしたのは彼のRTAの様子を記録したものだったよ
正直に言って彼の発言や知識…そのどれもが驚愕に値したよ
私しか知らないコト、私も知らないコト…
しかし、これ程の情報を調べるにはマトモじゃ駄目だ
彼は立派な狂人だよ、君の想定の数倍は壊れている
君は彼が一体何度この世界を滅ぼしたか知っているかい?
例えそれがどれ程有用だろうと常人なら、理性や良識が邪魔をして選択できない択を彼は躊躇なく選びとる…
彼の行動の結末が善性に寄っているというだけで、彼自身は間違いなく私と同じ側だよ…自身の目的の為ならばその他全てを犠牲に出来る人間だ!」
青年は動かない、動こうとしない、動けない
それを見て男は嗤う
「君が信じたのは善人の皮を被り善行を尊べと嘯く狂人だった
ただ、それだけの話さ
では…さようなら」
そう言うと男は腰に提げていた刃物を抜き、青年目掛けて振り下ろした
少女は大きな焚き火用の組み木の前で青年へと振り向き話し出す。
「……やっと二人きりになれましたね。
実はとーっても難しい問題がありまして、俊稀君にも一緒に考えて欲しいなーって…」
青年は、ゆっくりと頷いた
「ありがとうございます♥️
とある所にそれはそれは相思相愛なとーってもステキな恋人たちが居ました。
彼は彼女の為になんでもしてくれました、彼女が絶対に無理だと思うことでも彼は笑ってこう言うんです。
「安心しなって!お兄さんの辞書には不可能って文字が蛍光ペンで二重線引かれてっけどさ、女の子を泣かせるって文字は載ってねぇのよ!」なーんて…
彼はホントにスーパーマンでした。
そんな彼に彼女もなんだってシテあげました♥️
だけど、彼女はある時気付いてしまいました。
彼の願いを全て叶えると、彼は彼女の元から居なくなってしまう…と」
身振り手振りを交えながら話す彼女はどこか懐かしむように続ける
「彼女は考えました…彼の願う事はなんだってしてあげたい、ですがその為に彼と別れるなんて、とてもじゃないですけど耐えられませんでした。
だから、彼女は何も選ばないことにしたんです。
そうすれば、俊稀君とずっと会える…
私が皆を助ければ俊稀君は元の世界に帰ってしまうんでしょう?
だから…私は何も出来ない振りをして、皆を助けなかった!
助けられたのに…あんなに助けたかった皆を、私は見殺しにしたんですよ、何度も…何度でも。
可笑しいですよね、皆を助ける為に俊稀君を呼んだのに今では私は俊稀君と居るために皆を見捨ててる…」
少女は涙を流しながら続ける
「あれ…変ですね…こんな私に、涙を流す資格なんてないのに…
駄目なんです…どんなに嫌おうとしても、忘れようとしても…
一緒にスイーツ巡りしてる時のルーナちゃんの笑顔が好き…生徒会室で一緒にお昼寝してるのがバレて怒られた時のキャムちゃんのふて腐れた顔が好き…そんな私達を怒るけど最後には仕方ないなって笑うキルト君が好き…
皆のことが、大好きなんです…
そんな皆を…私はもう、傷付けられない。
都合の良い事を言ってるのは解ってます、あんなに見殺しにしておいて今さらってことも……
でも、私は…私はもう皆が苦しむ姿を見たくない!…」
流れる涙も気にせず彼女は叫ぶように、けれど弱々しく
そう言う
しかし、彼女は涙を拭うと努めて明るい笑顔を浮かべて青年に向き合う
「だから…今回で終わりにしようって思ったんです!
私のワガママはもうおしまい!二人で皆を助けてハッピーエンド!
俊稀君が帰ってしまう時は、私は泣いちゃうと思いますけど…それでも最後は笑ってありがとうって送りたいなって!!」
赤くなった目で彼女は笑顔を崩さない
青年はそんな彼女見かねたのか彼女の側に近付く
「ホントに…最後にしようって思ってたんですよ?
でも、理事長が私に連絡してきたんです…」
青年が近付くと彼女は青年の腕を掴みとり青年の顔に自身の顔を合わせるように詰め寄る
その顔は、艶やかさと確かな狂気が宿っていた
「俊稀君はハッピーエンドじゃないとダメなんですよね?だったら、理事長の計画が成功したら…?
だから、私はあの男と取引しました。
私達に手を出さない代わりに私が出来ることは全て協力する…そうすれば、皆とも俊稀君とも一緒に居れる…
その為なら、私は何だってやれますよ…?
だから、後は俊稀君だけなんです。
俊稀君が死んでしまうとまた最初から…なら私が死なせない。
ずーっと一緒ですから…ね♥️
俊稀君♥️」