この話は夏合宿ではなく、夏合宿前の話です。間違えて書いてしまいました。消すのも勿体ないので上げることにしました。
それでは、どうぞ
〜トレセン学園・燈馬side〜
季節は夏へと変わり、太陽の光が一層輝きを増す。蝉の鳴き声が共鳴しあい夏を感じさせる…。まあ、何にせよ。
「暑い…」
東京都は現在32℃と猛暑日だ。この暑い中俺はトレセン学園の門を潜る。
「おはよう御座います。燈馬さん」
「おはよう御座います、たづなさん」
と挨拶を交わす。門の前には緑の服を着たたづなさんこと駿川たづなさんが立っていた。あの人年がら年中スーツを着ているが暑くないのだろうか。それに汗一つもかいていないぞ。
「おはよう、燈馬君」タタタッ
と後ろからスズカが走ってきた。
「おはようスズカ。どうした」
「さっき燈馬君の姿が見えたから追いかけて来ちゃった」
「そうか、一緒に教室行くか?」
「うん」
と俺はスズカと一緒に教室に向かった。
〜教室〜
「うーっす」ガラガラ
と教室の扉を開けると教室にいたクラスメイトが俺の方をみてはヒソヒソと話し始めた。
「なんだコイツら。ヒソヒソと」
「燈馬君知らないの?この前のニュース」ハイ
とスズカが携帯を開いて俺の方へと見せる。そこにはズラリと並んだニュースの記事が沢山あった。そしてその内容は。
などなど大半の記事が俺のことについてだった。“反逆者”。それが世間の奴らから見た俺の姿なのだろう。どうやらオークスの一件がトゥインクルシリーズファンに対する反逆行為に見えたらしい。本質は違うがまあいいだろう。
「面倒くさい連中達だな」
「なんとも思わないの?」
「あぁ。記事で何を書かれようとも俺は俺のやりたいようにするだけだからな」
「燈馬君らしいね」
とスズカが携帯をしまう。
「そういえば、そろそろあの時期か」
「うん、“夏合宿”だね」
毎年恒例、夏に入るとトレセン学園は“夏合宿”を始める。合宿場所は各チームによって違う。山を合宿場所としたり海にしたりと多種多様だ。
「燈馬君は今年はどこなの?」
「今年は海だな。海でスタミナ強化や足腰トレーニングを重視してやるんだと」
「そうなんだ。場所ってわかる?」
「ここ」ハイ
と俺はスズカに合宿場所を教える。一瞬スズカが驚いた表情をする。
「ここって…」
「ん?なにかあるのか?」
「え!ううん!なんでもないの…」モジモジ
とスズカがモジモジし始める。
「あのね、燈馬君良かったら何だけど…実は「はーいみんな席について〜」!」
「実は、なんだ?」
「ううん、なんでもない。ほらホームルーム始まるよ」
と前を向くよう促す。一体何を言おうとしたのだろうか。
〜食堂〜
「はい、ハンバーグ定食ね!」
「ありがとうございます」ガタッ
「燈馬君、それいつも食べてるね。飽きないの」
「正直言って飽きてきた。だが、他のにすると量が多くて食べられないんだ」
とスズカと共に食堂で昼食を取る。
「そういえば、教室で何を言おうとしたんだ?」
「えっ!それは、その…」モジモジ
「その?」
「な…な…」
「な?」
「な…なつ…」
「夏、なんだ?」
とスズカが顔を上げて…。
「夏合宿、二人だけでトレーニングして欲しいの!!!」
「トレーニング?別に構わんが」
「えっ……。あの!違うの燈馬君!夏合宿じゃなくて夏ま「スズカさーーん!!」…スペちゃん」
とスズカの言葉を遮るようにスペシャルウィークが走ってきた。
「風間先輩!こんにちは!!」
「こんにちは。それとスペシャルウィーク、余り食堂で走るなよ」
「わわっ!すみません」
「それで私に何か用なの?」
「はい!トレーナーさんが次の“宝塚記念”のことで話があるって言ってました!」
宝塚記念か…。宝塚記念は夏のG1レースで最も盛り上がるレースの一つだが出走が困難なレースでもある。宝塚記念はそれなりの実績を上げていないとレースには出走出来ないのだ。
俺も一応ではあるが出走登録出来たのだが、訳あって出走を止めた。
「今からじゃないとダメなの…?」
「はい!今から来てほしいって言ってました!」
「そう…」シュン
とスズカは悲しそうな表情をしてそのまま出ていった。スズカが宝塚記念か、どんなレースをするか楽しみだ「燈馬ーーーーーー!!!」…はぁ。
俺の名前を叫びながら後ろから抱きついて来たのは、マルゼンスキーだ。
「急に何だ」
「もう!3ヶ月も私と会わないなんてどういうことよ!」
「3ヶ月もってオークスの時に会っただろう」
「久し振りの再開がチョベリバの時なんて私は嫌よ!!」ギューッ
とマルゼンスキーは抱きしめる力を強める。痛い痛い。
「それに、スズカと楽しそうに喋ってたじゃない」ハイライトオフ
「別に話しててもいいだろう」
「…まぁいいけど」スンスン
とマルゼンスキーがうなじ辺りを嗅ぎ始める。
「やめろ、くすぐったい」
「いーや。今、燈馬の匂いを堪能してるからダーメ」スンスン
と今度は首周りを嗅ぎ始める。顔を離そうにも完全に身体をホールドされている為、身動きが取れない。更に俺とマルゼンスキーのいる場所も余り人目に付かない場所でウマ娘達が少ないので救助も呼べない状況だった。
「(マルゼンスキーの奴、完全にスイッチが入ってやがる)」
とマルゼンスキーをどうするかを考えていると急に寒気がした。
「何をやっているんだ。お前達」
「ル、ルドルフ…」
振り向くとルドルフが仁王立ちをして立っていた。耳を後ろに倒し前掻きをしながらドス黒いオーラを放っていた。
「んもぅ、やめてよルドルフ。いいところだったのに〜」
「何が良いところだ!こんな真っ昼間にベタベタと!それに君もだ燈馬!何で抵抗しないんだ!!」
「抵抗したさ。だが、マルゼンスキーが力一杯抱きしめてきたんだ」
「燈馬がすぐに逃げようするからよ。だからこうやって抱きしめてあげてる。私なりの愛情表現よ〜♪」
「全く、他のウマ娘も居るんだぞ!場所を弁えろ!」
とルドルフが俺からマルゼンスキーを引き剥がす。
「あぁ〜ん。燈馬〜〜」ジタバタ
「ありがとう。ルドルフ」
「君も早く教室に戻るんだぞ」ズルズル
とマルゼンスキーを引きずりながら食堂を出て行った。
「俺も戻るか」ガタッ
と席を立ち、教室へと向かう。教室に着くとスズカが俺を見るなり不機嫌そうな顔をしていた。なんでた?
〜トレーニングルームにて〜
午後の授業も終わり、俺達はトレーニングルームにて体幹トレーニングをしていた。
「はーい、そこまで。取り敢えず休憩にしようか」
とトレーナーの声のもと、トレーニングを切り上げる。
「くぅ〜〜!効くね〜!体幹トレーニング!」フゥ〜
「まあね。体幹は余り使われない筋肉の一つだけど鍛えれば鍛えるぶんだけ強くなるからね」
とシービーが寝転び、それにつられて他の奴らも寝転び始める。
「燈馬さんは、平気そう、、ですね〜。凄いです〜!」ハァハァ
とクリーク息を整えながら言った。
「まぁよく鍛えていたしな」
「そうなんですね〜」
とドリンクを持ち、スポドリを飲もうとするが…。
「あれ、ない」
切らしてしまった。参ったな、これからトレーニングが続くので飲み物がないのは非常に困る。かと言って他の奴らから貰うのも気が引けるな。
「(仕方ない、買いに行くか)トレーナー」
「ん?どうしたの、燈馬君」
「実は飲み物を切らしてしまってな、買いに行ってくる」
「いってらっしゃい」
「スポドリと後はオレンジジュース」ピッ
ガコンッ
「さて、帰るかな「オレンジジュースか。運動の後にビタミンCやクエン酸などが補え、多くのアスリート達が飲んでいるから君もその一人なのかな」…」
と後ろから俺の買ったオレンジジュースの説明をしてくる制服姿のウマ娘がいた。
「“ハヤヒデ”」
「久し振りだな燈馬。1年と3ヶ月ぶりだ」
ビワハヤヒデ。葦毛色をした髪に赤い眼鏡をかけたウマ娘。持ち前の知力とデータを武器に“勝利の方程式”を組み上げ、他のウマ娘を寄せ付けない程の実力を持つ、完璧な頭脳派のウマ娘だ。
「お前もか?」
「あぁ。私も飲み物を買いにな」
と自販機でバナナオレ買う。
「少し時間あるか?」
と近くのベンチを指す。
「問題ない」
と俺は近くのベンチに腰を降ろす。ハヤヒデは俺の左側に腰を降ろす。
「……」
「……」
沈黙の時間が流れる。ハヤヒデの顔を伺うと気難しい顔をしていた。すると、
「……」ピトッ
ハヤヒデが無言で寄りかかってくる。そして腰辺りにハヤヒデの尻尾がトントンと当たる感触がする。全く、コイツは。
「なんだ、
というハヤヒデの耳が垂れ下がる。
「…しょうがないじゃないか。だって私は!「俺に酷いことを言ったから、か」…そうだ」
「私は君を侮辱することを言った。名誉を傷つけることをだ。助けてもらった側なのに…私は!」グッ
とハヤヒデが右手を強く握る。
「あのな、ハヤヒデ。別に俺は何とも思っていなかったし、傷ついたなんて思ってもいない」
「けど!」
「お前は頭が硬いんだよ。だから頭でっかちって言われるんだろうが」
「わ、私の頭はデカくない!通常サイズだ!髪型でそう見えるだけであって、デカくなんてない!!」ズイッ!
「はいはい、わかったわかった。そんなに近寄らんでいい」
「全く、君まで私の頭が大きいと言うのか…」ウルッ
「一言も言ってない。俺はお前に頭を柔らかく持てと言っているんだ」
ハヤヒデは少し意地っ張りなところがある。自分が正しいと思えばそれを貫き通すところが出てくる為、少し厄介なところがある。
「ハヤヒデ。誰だって間違いはつきものだ。天才的な人間でも、凡人でも、お前も、俺も。みんな同じだ。誰だってある」
「…」
「けど、その間違いを如何にして次に活かすかが重要だ。ずっと引きずっているようじゃ前には進めないぞ」
「…わかった」ギュッ
とハヤヒデが腕に抱きついて来る。ちょっとは気持ちが軽くなってくれたのならそれでいい。
「たまにはうちに顔出しに来い。みんな歓迎してくれると思うぞ」
「そう、かな…」
「この前なんかチケットが大勝した自分のレース結果を楽しそうに話してたぞ」
「何をやっているんだ、アイツは」ハハッ
とハヤヒデが笑みを零す。
「燈馬、ありがとう。おかげでスッキリしたよ」ニコッ
「だったらいい。だがその前に…」
「?」
「お前、制服どうするんだ?」
「制服?…な!?」
とハヤヒデが離れる。ハヤヒデの制服はバナナオレでビショビショになっていた。さっき右手に持っていたバナナオレを握り潰した時に中身も出てきたんだろう。
「え、えぇっとど、どうしたらいいんだ!?と、燈馬は濡れてないか!?」アセアセ
「濡れてない。お前、着替えあるのか」
「あ…」
この顔、持って来てないなコイツ。
「しょうが無い。これ着とけ」バサッ
と俺は着ていたジャージの上着をハヤヒデに投げ渡す。
「ど、どうするんだ」
「どうするって借りに行くしかないだろう。本来ならたづなさんに言って貸し出して貰うのが一番なんだかな。あの人、午後から出張でいないもんな」
制服やジャージの貸出はたづなさんに言えば何とかなるんだが今日に限っていない。勝手に借りてもいいんだが、たづなさんは怒ると面倒だからそれだけは避けたい。だとすれば、
「理事長だな。理事長のところに行って借りに行くか」
とハヤヒデと共に理事長のところへ向かう。
「いないな」
「そうだな」
まさかの理事長、帰宅。マジかよ。
「しょうが無い。今日は俺の予備のジャージを貸してやる、それ着て帰れ」
「いいのか」
「別に濡れたまま帰す訳にも行かねぇからな」
とハヤヒデに俺の服を渡す。
「予備の制服はあるんだろう?だったら今着てるやつはたづなさんに言ってクリーニングに出してもらえ」
「わかった。何から何まで済まないな」
「いい。さっさと着替えてこい」
とハヤヒデは更衣室の中に入って行った。
「終わったぞ」バタン
とジャージ姿のハヤヒデが出てきた。
「サイズは、問題なさそうだな」
「あぁ、ありがとう」
とハヤヒデが自分の鞄を持つ。
「今日は帰るよ。君の服は洗濯して返すよ」
「またな」
「うん、また明日」
とハヤヒデの背中を見送る。
「さて、俺も戻るか。大分時間が経ったがな」
俺は駆け足でチームのところに戻った。
「お〜そ〜〜い〜〜〜〜!!!」
「すまん」
「もう!ホントに反省してる?遅刻だよ!ち・こ・く!」
「悪かった」
とシービーが説教する。まあ、30分も遅れたら怒るわな。
「全く、何処ほっつき歩いてたの」
「久し振りにハヤヒデと会ってな。ついつい話し込んでしまった」
「ふーん」
とシービーが近づいてくる。
「何だよ」
するとシービーが後ろに回り込んで腕を回してきた。
「ハヤヒデにマルゼンスキーか…。こんなにも2人のウマ娘の匂いがするなんて、なんだか妬いちゃうな〜」ギューッ
「やめろ、暑苦しい」ググッ
「やーだよ〜♪」
と抱きしめる力を強める。クソッ!なんつー力してんだコイツら!
「シービーさーん!どこー?」
とトレーナーが走ってくる。
「ん?どうしたの、トレーナー」パッ
とシービーが俺から離れる。助かった…。
「ん?燈馬君も戻って来てたんだ。なんだ、それなら早く言ってよ」
「ごめんごめん。燈馬にちょーっとお説教してたんだ〜」
「そっか。それじゃあ2人共、今日はみっちりと行くからね!」
「は〜い。それじゃあ行こっか、燈馬」ニコッ
「…あぁ」ガシガシ
と頭をかいてトレーニングルームに向かった。
「それじゃあ、今日もお疲れ様。ゆっくり休んでね」
「「「「「はーい」」」」」
「またな」
とトレーニングも終わり、俺以外のチーム全員は寮に向かっていく。
「さてと、今日は何にするかな」
と夕飯を考える。今日はババアがいない為、夕飯は一人だ。
♪ピロリン〜
「ん?」カチッ
と携帯が鳴ったので見てみると1件のメッセージが着ていた。
「フジからか。なんだ?」
とメッセージの内容を見る。
『悪いんだけど、私の部屋に来てくれないかな。また診てもらいたいんだ。いつものところを開けているからそこから来てほしい』
とのこと。
「(この後は何もないし行くか)」
と栗東寮を目指して歩き出す。
〜栗東寮前〜
「相変わらずデカいな」
栗東寮。ウマ娘達が暮らす寮の一つでもう一つは隣の美浦寮だ。高等部から中等部までが2人一部屋の相部屋で大浴場、簡易的な食堂、娯楽室などがある。更に寮には門限があり、破れば罰則があるとかなんとか…。
「まあ、門限なんて俺はずっと破るだろうな」ガチャ
と大きな入口の隣にある扉のドアノブを回し、靴を脱いで中に入る。本来、男は愚かトレーナーが寮の中に入るのは禁止されている。過去にそのことが原因でウマ娘が危険な目に合ったとか。勿論、女性トレーナーも禁止になっている。まあ、どうでもいいんだけさ。
「さてと」コンコン
と一室の扉をノックする。
「はーい。やあ、いらっしゃい」ガチャ
中から出てきたのはフジだ。
「入って入って」
「お邪魔します」バタン
と中に入る。部屋は広く、大きなソファやテーブル、ベッドも合った。
「相変わらず広いな」
「ここにくるといつもそれだね」フフッ
フジキセキは栗東寮の寮長を勤めていて、寮長は一人部屋だそうだ。
「それじゃあ、始めよう」
「うん。お願い」
とフジはソファに座り、左足の靴下を脱ぐ。
「触るぞ」
と俺はフジの前に座り、左足を触る。
「どうだ?」
「大丈夫」
つま先を伸ばしたり、押したり回したり。ふくらはぎを揉んでみたりと左足を重点的にマッサージする。
30分後────。
「これと言って痛みはなしか…」
「良かったよ」
とフジの左足を離す。フジは“
「まあ、痛みが無いって言うことはいいことだ。だが、慢心はするな。屈腱炎は再発しやすいからな。何かあれば病院に行けよ」ジャー
「うん、ありがとう燈馬」
と俺は手洗い場で手を洗う。
「ねぇ燈馬。夕飯食べていかないかい?」
「ん?いいのか?」
「いいよ、私もまだだったんだ。作ってきて上げるよ」
とフジは部屋から出て行った。
「て言っても何すりゃいいんだ」
部屋に一人残された俺はフジの部屋を見渡す。
「ん?」
とベッドの近くにある本棚に目を付け、近くまで行く。
「参考書、レースについて、トレーニング教本、あとは…演劇の台本?」
と俺は演劇の台本を手に取り、流し読みをする。他にも色々な演劇やミュージカルなど様々な本があった。そんな中、一つのページに目を付ける。
「これは、出演者か」
と作品に出ていた出演者が載っている写真を見る。
「このウマ娘…」
と写真の一人に目がいく。そのウマ娘は写真の前列の真ん中に立っていた。よく見ると誰かに似ていた。
「これ、もしかして…」
と他の台本を漁り、写真のページを見る。そして、どの台本にも全てそのウマ娘が写っていた。
「名前は…“ミルレーサー”」
「そう、そのウマ娘こそ私が目指しているヒトであり、私の母さ」
「!」バッ
と右手を向くとフジの顔が近くあった。するとフジが俺の肩に手を置いていて話を始める。
「フフッごめんごめん、あまりにも集中して見ているものだから声をかけづらくてね。…凄いでしょ、私の母。その台本、全て主演なんだよ」
「そうだな」
似ていると思ったらフジの母親だったか。それにしても凄い似ている、まるでフジが大人になったかような姿だった。
「私も母のようになりたくてね、演劇を始めたんだけれども上手くいかなかった。そんな時、母は言ってくれたんだ。“道は一つじゃない。もっと視野を広く持ちなさい”ってね」
「いい母親だな」
「うん、自慢の母だからね」
とフジが微笑む。この表情を見る限りよっぽど母親のことを尊敬しているのだろう。確か、エアグルーヴも一緒だったな。
「さぁ、夕飯持ってきたから冷めない内に食べようか」
「そうだな」
と俺は本を棚に戻し、机の前に座る。
「今日のご飯は肉じゃがに和風にんじんチーズ焼き、ピーマンとにんじんの金平だよ」
「随分と凝ってるんだな」
「まあ、お客さんがいるしね。それじゃあ…」
「「いただきます」」
さて、まずはどれからいこうか。
「肉じゃがにするか」
とジャガイモを箸で掴み、口に運ぶ。
「うん、美味いな」
「そう言ってくれると嬉しいな」フフッ
濃くなく薄くなく。かと言って甘過ぎず、程よい旨さが口の中に広がる。
「燈馬って料理するの?」
「あぁ。基本は俺が作ってる」
「へぇ〜。それは食べてみたいね」
簡単なものしか作れんがな。
他にも、金平やチーズ焼きもとても美味しくご飯が進む。そんな時。
「ねぇ燈馬」
「ん?」
とフジの方を見ると、
「はい、あ~ん」
と箸で掴んだにんじんを俺の前に持ってくる。この光景、どっかで見たぞ。
「やらんぞ。そんなの」
「えぇ〜、いいじゃないか。連れないこと言わないでよ。ほ〜ら」クイクイ
早く食べてよと箸を近づけてくる。
「…しょうがねぇな」
と箸を置いて、少し前のめりになる。
「あ~ん」
「…」パクッ
「どう?」
「……美味い」
「良かった。でさ燈馬」
「?」ゴクッ
「実はさっきあげたにんじん─────
「!?おまっ!?」ゴフッ!ゴフッ!
「アッハハハハハハ!!!冗談冗談!!私が食べかけなんて上げるわけないじゃないか!!」アハハ!!
「おまっ!…フジ、洒落にならんことを言うな」ハァハァ
「ごめんごめん、フフッ。ちょっと驚かせようしたらさ…フフッ」プルプル
「(こいつ…)」
フジは何かと驚かせることが好きだ。時々洒落にならんことを言ったりするが…。
「…いや〜、久し振りに笑ったよ。やっぱり燈馬は面白いね」
「驚かされた身にもなれ」
「じゃあ私を驚かせて見せてよ」
と両手を広げる。
「いいだろう」スッ
と立ち上がり、フジの隣に移動する。
「?」
と首を傾げるフジを
「ッ!」ヒョイ
とお姫様抱っこで持ち上げる。
「えっ!燈馬!?」
オドオドとしだすフジを無視し、そのままベッドへ行きフジをベッドの上に投げる。ベッドが衝撃を吸収するので身体への反発は少ない。
「キャッ!と、燈馬…!?」
と座るフジの肩を右手で掴んで身体を押し倒す。
「と、燈馬。待って…わ、私…心の準備が…」カァア!
フジの顔が赤くなり、顔を逸らそうとするが左手でそれを阻止。
「と…燈馬…」
ジッとフジの目を見続ける。そして、ゆっくりと顔を近づけていく。
ゆっくり、ゆっくりと近づけていき──────。
「なーんてな」
と言って顔を離す。
「ふぇ…?」
「俺がそんなことするわけないだろう」
とフジの身体を起き上がらせる。
「まんまと引っかかったな」
「……」
と立ち上がろうとすると。
「待って」ガシ
と両肩と掴まれる。
「ん?なんだ」
何故かフジが動かない。掴んだまま静止している。
「どうし…!?」
と今度はフジに押し倒された。
「フ、フジ。冗談ならもう「冗談じゃないよ」!」
「さっきまで我慢してたのに…。他の娘達の匂いがする中、我慢してたのに…」ブツブツ
「フ、フジ…いっ!」メリメリ
とフジの力が強くなる。
「フジ、俺が悪かった。やり過ぎてしまって済まなかった」
「…ート」
「?」
「夏休み、デートして。そしたら許してあげる」ハイライトオフ
「わ、わかった…」
というとフジの力が弱まり、ベッドから降りる。
「それじゃあ、ご飯食べよっか。冷めちゃってるけど」
とフジが座って食事を取る。
「あ、あぁ」
と俺も戻って食事を再開した。そして俺はあんな行動を安易にしないと心に誓った。
〜同所・フジキセキside〜
「それじゃあ、俺は帰る」
「送って行こうか?」
「いい。それに寮長のお前が門限を破るなんてことが知れたら大問題だぞ」
「それもそうだね。それじゃあ、また明日」
「また明日」バタン
と寮から出て行く燈馬を見送り、鍵を閉める。
「今日はちょっとやり過ぎちゃったかな〜」
と燈馬を押し倒したことを少し反省する。
「けど、燈馬がいけないんだよ。他の娘達の匂いを付けてくるなんてそんなの…」
そんなの、嫉妬しちゃうに決まってるじゃないか。
「ねぇ燈馬、知ってる?ウマ娘がどうして抱きついたり匂いを付けたりする理由。それはね、“君を独り占めしたいのさ”」
犬や猫などが飼い主などに匂いを付ける所謂“マーキング”という行為。これには理由が有り、誰にも取られたくない、これは自分のものという意思表示だ。そしてこのマーキングというのは私達ウマ娘にもある。ウマ娘は鼻がヒトとでは著しく長けており匂いだけで誰のものか判別出来るのだ。
「だからね燈馬。安易に他の娘達の匂いを付けてきたらダメだよ」
と言っても燈馬には聞こえないだろうけどね。
そう思いながら、部屋に戻った。
読んで頂きありがとうございます。
次が夏合宿編です。
それでは、また
曇らせ描写があったような…まっいいか!