それでは、どうぞ
〜自室・燈馬side〜
2日目のトレーニングも終わり、俺は自室に戻ってくつろいでいた。あの後、スピカと別れた俺達はレース場でトレーニングしていたが、俺は昼からのトレーニングは簡単なものしかやらせてくれなかった。何せ、ルドルフ達が「いいからお前は休め!」と一人ずつ交代しながら監視されていた。大丈夫だったんだがな。
「(けど、この後が
ピピピッ!ピピピッ!ピピピッ!…
「…行くか」
と俺はジャージに着替えて部屋を出た。
「あら、随分と早いのね」
とミチルさんが腕を組んで待っていた。
「まあな。それで?あいつは」
「もう、そろそろよ」
と待っていると───。
「♪〜」
と鼻歌を歌いながら、近づいてくる男が一人。
「♪〜…。フッ!」ビュッ
「ッ!」
と男は一気に間合いを詰めてきて、飛び蹴りをする。俺は右に避け、蹴りを躱す。
「ッ!」ブンッ
俺は飛んでくる男の顔めがけて右ストレートをするが──。
「ハッ!」パシンッ
と左手で俺の右手を払い、男は距離を置く。
「「……」」
と無言の時間が流れる。
「「ッ!」」ゴッ!!
俺と男は同時にスタートし、お互いの右手がぶつかり合う。
「「…」」スッ
とお互いに右手を降ろし───。
パシンッ!
握手を交わす。
「久しいな、燈馬」
「久し振り、“委員長”」
と委員長こと、
「今は委員長ではないがな」フッ
「そうだったな、悪い悪い。生徒会長さん」
「全く。お前に勧められてなってみたものの、生徒会長とは色々と面倒事が多いようだ」クイッ
と溜め息をつきながら眼鏡を上げる。栄一郎は武天の頃から知り合いで、小中と委員長をやっていた。だから俺は委員長って呼んでいる。
「元気そうだな」
「まあな」フッ
と栄一は笑いながら答える。
「感動の再開はそこまででいいかしら」トコトコ
「別に感動の再開って程でもないですよ」
「まぁ、委員長とも連絡は取ってるしな」
「そう。──それじゃあ、始めましょうか。私達のトレーニングを」
「「あぁ」」
とミチルさんの号令のもと、トレーニングが始まる。
「今日はウォーミングアップとしてこの山を駆け回ってもらうわ」
と目の前の山を指す。それ程高くはないが範囲が広そうだ。
「それとこれを背負ってもらうわ」ドスッ
「これは?」
「砂よ。60kgあるわ。それを背負って山を登り降りしてもらうわ」
「それと燈馬、貴方には今日からこれを付けてトレーニングしなさい」ハイ
「これは?」
「低酸素マスクよ。それを付けると吸う酸素がカットされるの。それ付けてトレーニングしなさい」
「わかった」
とマスクを付け、試しに呼吸をすると確かに吸う時に空気が余り入ってこないので息がしづらい。
「今その状態で50%カットされているわ。口元にあるバルブを調節すれば最大80%カット出来るわ」
とマスクのバルブを最大まで回す。すると空気がマスク内に入ってくる量が更に少なくなる。標高の高い山にいるみたいだ。
「なるほど、これとそのリュックを背負って走れば良いんだな」
「えぇ。この山は大体300mあるから頂上からここまで10往復してね」
「了解」
「それじゃあ、行ってきなさい」パンッ
とミチルさんが手を叩く。それと一緒に俺と栄一郎は山の中へと走っていく。
〜1時間半後〜
「「ハァハァハァ…」」
「栄一、遅れてるわよ」
「ハァハァ…。わかって、ます、、よ…そんな、、こと…ハァ…」
「燈馬、もっとペースを上げなさい」
「クッ…ハァ…。今、、何往復だ…」
「栄一が3往復、燈馬が5往復ね。燈馬、6往復目からは20分で返ってきなさい。遅れたら2往復追加よ」
「ッ!」ダッ
「栄一、貴方は3往復分離れたら2往復追加。いいわね」
「クッソ…!」ダッ
「ハァハァ…この山、斜面…キツ、くないか?」ハァハァ
「あぁ、それに…少し、湿っている…。足元も悪いから…余計に…体力が、持ってい…かれるな」
「それにお前、低酸素マスクだろ…。キツくないのか」ハァハァ
「キツいに、決まってる。試しに…80%でやってみたが、最初の折り返しの時にはほぼ酸欠状態だった…。今は50%に戻してる」ハァ
流石に酸欠状態で走るのは無理があると判断して今は元に戻してはいるが50%もかなりキツい。
「先に、行くぞ。…今の状態で、追加なんてされたら…敵わん」ハァハァ
「ま、て…。と、う…ま」ハァハァ
と頂上を目指して走り続けた。
「終了よ。お疲れ様」
「「ハァハァハァ…」」
とおわりのこえがきこえる。やばい…あたまが、まわってない…。
「燈馬は16、栄一は14ね。久し振りにしては上出来ね」
「ダメだ…頭が、ま、わら、ん」ハァハァ
「…お、なじ、、く…」ハァハァ
と栄一が俺の言葉に同意する。なんせ酸素が脳にいっていないので頭がクラクラする。
「明日から本格的にするから明日の朝の4時には海岸に来なさい。いいわね」
「「お、おう…」」フラフラ
とミチルさんはホテルへと帰っていく。
「少し、時間あるか?」フラ
「?」
と俺と栄一は海岸へと移動する。
「はい、これ。お前が調べて欲しいって言ってたやつ」パサ
「あぁ。ありがとう。相変わらず仕事が早いな」ペラッ
「お前からの頼まれごとには慣れてるからな」
栄一は情報収集能力がもの凄く高い。そこら辺のハッカーなんて諸共しないだろう。それぐらい、栄一の能力は凄まじいのだ。
「調べてわかったんだが、そいつかなりのクズだな」
「だろうな。お前の資料を見ているとかなりのクズだな」ペラッ
と資料を読み進めていく。
「だが、俺はこれよりも上のクズを知っている」
「…」
と栄一の言葉に俺の資料を読む手が止まる。
「安心しろ。あいつは今、理事長と校長の監視下にある。下手に動けば自分の首を締めるだけだ」
「…そうだな」
「俺もあいつの動きには監視をするつもりだ。あいつが動くと碌なことが無い」
「流石、委員長さまさまだ」
「生徒会長だ」クイッ
と栄一は眼鏡をあげる。
「それはそうと、報酬のアレは?」
「ん」スッ
と俺は上着のポケットから封筒を取り出し、栄一に渡す。
「ちゃんと撮ってきてやったぞ────
「ファル子ぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「いつ見ても、キュートで可愛いなファル子!!なぁ次のライブはいつなんだ!?」
「確か、来週の土曜「よっしゃー!!!ちゃんと最前列で見るからな!待ってろよ、ファル子!!!」…」
と栄一は勢いよく立ち上がり、ホテルへと帰って行った。
「全く、あいつのドルヲタは健全だな」ハァ…
溜め息をつく。栄一はこれでもかと言わんばかりの生粋のアイドルヲタクだ。お小遣いは全てアイドルに注ぎ込むほどでヲタ芸と言われるものを踊れるそうだ。それが何故、スマートファルコンだと言うと栄一が当時推していたアイドルの熱愛疑惑が週刊誌により発覚、炎上した。それを聞いた栄一は嘘だと信じるも熱愛が事実と言うことが判明し、部屋に引き籠もってしまった。そのアイドルは歌やダンスがとてもうまかったのだが、よく不祥事を起こすことでも有名だった。熱愛報道でグループは解散しそのアイドルは行方を眩ませたとか。
そんな栄一を立ち直らせたのが“スマートファルコン”だ。自称ウマドルと言いながらいつも路上ライブなんかをやっているそうだ。それを見た栄一はドルヲタの魂とやらが再熱、今やスマートファルコンのライブは欠かさず行っているんだとか。
「さて、俺もそろそろホテルに戻ろう」
と資料を片手にホテルへと戻って行く。
「まあ、この時間だったら誰もいないだろ」ガチャ
「…」
「…」
バタン…
ダレカイタ。しかも朝と同じように。
「きっと疲れているんだ、そうに違いない。さっさと寝よう」ガチャ
「…」
「…」
「お邪魔しまし『ガンッ!』!!」
「何処に行っていたんだ?たわけ」ググッ
「エアグルーヴこそ何しに来た」ググッ
「私は貴様がちゃんと部屋で休んでいるか見に来ていたんだ」ググッ
「わざわざご苦労さま。けど、部屋に入ってまで待つ必要なかったんじゃないのか?」ググッ
「お前の部屋が余りにも散らかっていたからな。見るに堪えないと思って整理しておいた」ググッ
「それはどうも」
グゥ〜〜…
「…何処に行っていたのかは後で聞くとして、まずお前の腹の虫を収めないとな。食事を持ってきている、食べるか?」
「…頂く」
と部屋に入ると机の上に豚かつと味噌汁、白ご飯に酢の物があった。ミチルさんのトレーニングが始まるまでの間、何も食べていなかったから正直有り難い。
「さっさと食べろ。たわけ」
「いただきます」
と豚かつを一切れ口に運ぶ。サクッとした食感に肉汁のある豚かつが口の中に広がる。
「美味いな、今日の夕飯はこれだったのか?」モグモグ
「いや、今日の夕飯はカレーライスだ」
───え?
「え、じゃあ誰がこれを?」
「私だが」
と俺の向かいに座るエアグルーヴが真顔で言う。マジ?
「本当だ、たわけ」
「さらっと心の声を読むな」モグモグ
と箸を進める。しかしエアグルーヴの奴、また腕を上げたな。揚げ物まで作れるようになったのか。俺も作れないことはないがクッ○ドゥを使ってじゃないと無理だ。実質、作れないのと同じか。
「…ご馳走さん、美味かった」
「そうか。口に合って良かった」
「それじゃ、俺は風呂に「待て」…」
とエアグルーヴが立ち上がろうとする俺の肩を掴む。
「話してもらおうか、何をしていたのかを」ゴゴゴゴ…
「は、話します…」
とエアグルーヴにトレーニング後の話をする。ミチルさんのトレーニングだと言うことは伏せて。
「…全く、貴様はアホか!あれだけトレーニングをするなと私が忠告しておいて無視してトレーニングか!」
「いや、トレーニングが余り出来なくて「しただろうが!あのあとマラソンに坂道ダッシュ、筋トレだって!まだ足りないというのか!」し、したが…」
はぁ…とおでこに手を当てて溜め息をつく。まぁ昼飯食ってる最中に体力は戻ってたしな。
「…よし、決めた」
と腕を組んで俺の前に立つ。
「貴様がちゃんと寝るかどうか監視する」
「は?」
何を言ってんだ、こいつ。
「貴様がこの後トレーニングをしかねんかもしれん。だから私が貴様がちゃんと寝るまで監視する」
「そんなことしなくてもちゃんと寝るよ。エアグルーヴは自分の部屋に『ダンッ!』!」
「ダメだ。貴様は私の忠告を破った、だから監視する。異論は認めん」ハイライトオフ
と睨みながら言ってくる。エアグルーヴ、結構怒ってるわ。
「…寝たらさっさと帰れよ」
「わかった」
と服を持って風呂場に行く。
「それと、覗くなよ」
「す、するか!たわけ!!さっさと行け!!」
「はいはい」
と返事をして俺は風呂場に入った。
〜エアグルーヴside〜
「全く、何を巫山戯たことを言っているんだ。たわけ」
と私はあいつの食べた食器を持って食堂へと歩いて行く。
「あら!あなたはさっきの」
「料理長さん。すみません、わざわざ台所を使わせて頂いて」
「いいのよ、気にしないで!それよりも喜んでくれたの?その言ってた人!」
「はい、とても喜んでくれました」
「そうなの!良かったわね!」
食堂に着くと料理長さんが居らしていた。どうやら明日の朝食の仕込みをしているそうだ。
「夜遅くまでお疲れさまです」ペコッ
「ありがとう。まあこれが厨房の仕事なのだけれどね。食器は私が片しといてあげるわ」ヒョイ
と私が持っていた食器を料理長が取り上げる。
「いえ、そんな!私がお願いしたのに「いいのよ!今は手が空いているし、それに私は何かしないと落ち着かない主義なのよ。ね?」…そうですか、それではお願いします」
と食器洗いを任せて私は洗濯室へと向かった。
「ん、しっかり乾いているな」
と乾燥機から服を取り出す。今日はトレーニング中、服が汚れてしまったので洗濯をしていた。
「(これが私ので、これが…)」ピラッ
と一枚の服を取り出す。私と同じ学校指定のジャージだが、実を言うとこのジャージは私の物ではない。
「これが、燈馬のジャージ…」バサッ
とジャージを広げる。普段、燈馬のジャージはトレーニングなどで見たことはあるが、こう間近で見ると私達のと一緒の作りになってるんだな。
「はっ!いかん、すぐに戻らねば」
とジャージをカゴの中に入れ、燈馬の部屋へと向かった。
「燈馬、入るぞ」ガチャ
「ん」ブォ〜〜
部屋に入ると燈馬は風呂上がりで髪を乾かしていた。
「それって誰の?」
「私とお前のだ」
「洗濯もしたの?」
「あぁ、随分と汚れていたからな」
と右手に持っていたカゴを燈馬に渡す。
「わざわざどうも」
と燈馬は空いた手で受け取り、鞄の近くに置いた。
「…なぁ、本当に俺が寝るまで居るつもりか?明日も早いんだから部屋に戻って寝たほうがいいぞ」
「何をいう、私が寝るまで監視すると言ったんだ。言ったからには寝るまでちゃんと居る」
「見られると寝づらいんだけど」
「寝かしつけてやろうか?」
というと燈馬は溜め息をついてベッドに倒れ込む。
「今日は疲れたから寝るわ。お前も早く寝ろよ」
「言われるまでもない」
「お休み」パチッ
と燈馬が電気を消して就寝した。
「(…今からトレーニングはしないだろう。私も戻るか)」
私はカゴを持って静かに燈馬の部屋を出て、自室へと向かった。
「私も寝るか」
と風呂に入り、髪と尻尾の手入れ、明日の用意をしてからベッドに入り、明日に向けて就寝した。
読んで頂きありがとうございます。
続いては合宿3日目、頑張ります。
それでは、また〜