〜〇〇視点〜
「起きなさい、そろそろ着くわよ」
目が覚めた。もう少し眠っていたかったが無理矢理身体を起こす。起こす時に背中がポキポキと鳴った。
「ミチルさん、眠気覚ましに窓開けていい?」
「いいわよ。あと、忘れ物がないか確認しときな」
わかった、と言いながら窓を開ける。風が車内にビュウッと入ってくる、寝起きの俺にはちょうど良くとても気持ちいい。今は4月、桜が舞っていてとても綺麗だ。歩く人集りやクロスバイクで走る人、ランニングをしている人がたくさんいた。
「(着く前に確認しとくか)」
ええっと、アンダーシャツに靴下、寝間着、携帯、歯ブラシ、歯磨き粉、制服にあと…
「レース用シューズ」
シューズケースの中を見る。中身はどこにでも売ってるようなスポーツ用の靴だ。だが、これは少し違う。裏返すとつま先辺りにU字の形をした金属が打ち込まれていた。これは“蹄鉄”と呼ばれ、走る時には必要な物だそうだ。なんでも、これを付ける付けないでその人の運動性が変わるとかなんとか…。でも、これは“芝”や“ダート”にしか使えない。なぜなら…
「着いたわよ。ほら、行ってきなさい」
どうやら、目的地に着いたようだ。シューズをシューズケースに戻し、カバンを持って車を降りる。「眩しいな」と声を漏らしながら背伸びをする。ずっと車の中にいたんだ、急に日差しが目に入ってくるんだから当然か。
「ありがとう、ミチルさん。ここまで送ってくれて」
「いいのよ気にしないで。にしてもあんたがこんなにも
そうか、と返すとミチルさんはため息をついた。
「あなたの表情筋、ちゃんと機能してるのかい?笑った顔の一つでも見せてみなさいよ」
ん?と顔を傾げる。何を言っているんだ?俺はちゃんと笑ったりできるぞ。と思っているとミチルさんが「ダメだね〜、これは」と言いながら首を振る。
「まあいいわ。それよりも」
ズイッと顔を近づける。
「勝ちなさいよ、ちゃんと」
「言われなくとも、当たり前だ。そのために俺はこの“1年間”を頑張ったんだから」
そうね、と言いながら車の方に戻っていく。
「デビュー戦、楽しみにしてるわ。わかったら連絡頂戴ね」ブロロォ…
「わかった」
と言って車を走らせていった。これから仕事先にでも向かうのだろうか、はたまた身体を休めにでも行くのだろうか。どっちでもいいがあの人には世話になった、いろいろと。
回れ右をする。すると、白と薄茶色をメインとした建物が目に飛び込んできた。日本ウマ娘トレーニングセンター学園、通称“トレセン学園”。日本が有するトレセン学園の中でもトップに位置するのがこの“中央”である。入試の倍率も高く、入ることが困難とも言われてる学校だ。時には地方から、時には田舎から上京したり、時には留学生がいたりと十人十色で“夢を掴む”ために色々な人が来る。まあ、俺も“いろいろなこと”があってこのトレセン学園に入ったんだが…
「正直言って帰りたい」
はんば強引に入れられたこの学校、そのまま逃亡しても良かったんだがな。けど、“約束”しちまったしやるしかない。
「そんじゃあ、行くか」
一度目を閉じ、ゆっくり開く。覚悟は決まった、そして一歩踏み出したその時だった。
声がした。振り向くと誰もいなかった。気の所為だろうか、でもさっき耳元で声がした。男と女の声。誰かは知らない、けど自然と背中を押された気がした。
「疲れてんのかな、俺」
気の所為だな、と思いながら校舎を目指して歩き進めた。
〜トレセン学園校舎内〜
コツコツと音を立てながら廊下を歩く、中ははとても静かだった。今は授業中の為、教室から出てくる生徒は滅多にいないだろう。まあ、そんなことは置いといて。今、俺が向かっているのは【理事長室】だ。まあ、“復学”するんだし一応挨拶しておこうかと思って向かっている。理事長にもいろいろと世話になったし、そのお礼も兼ねてだけどな。そんなこんなで無事、理事長室についた。相変わらずだがこの学校広いんだなぁ、これが。教室が山のようにあったり、トレーニングジムがあったり、プールやレース場まで完備されてる、迷ってもおかしくないレベルだけどな。
「(まあいいや、とりあえず挨拶だけ済ましとくか)」
と縦に伸びたドアノブに手をかける。ん?ノックはしたかって?そんなもん、
「失礼しまーす」
「む!この部屋に入る時はノックをし、名前を述べてから入るよう、に…と……」
「うっす、お久しぶりです。理事長」
と声をかける。すると、理事長と呼ばれた人は俺を見ると目を見開き口をパクパクさせ、その隣にいた女性は驚きの余り口を手で押さえている。
「よ、よくぞ戻ってきてくれた!!!!」
と目の前にあった資料がバサァっと飛び散り俺の所に一目散来て手を取り、ブンブンと言わんばかり上下に振る。痛い、痛いです理事長。
「というか、理事長?とりあえず…」
「ん?どうした!」
「部屋…
「あ」
そこには、綺麗に積まれた書類見事に散乱していた。ほら、たづなさんも笑いながらこっちを見てるからさ。目は笑ってないケド。
「秋川理事長?この散らばった書類どうしますか?」ピキッ
「スグ、カタヅケマス」
うわぁ、すげぇ。あんなにも青筋たってる人初めて見た。
「あなたももちろん、片付けるの手伝ってくれますよね?」
えっいや、俺客人…
「手伝ってくれますよね?」
えっでm…
「手伝ってくれますよね?」
ハイ…
ちなみに書類整理は1時間かかった、いやマジでたづなさん怖ぇわ。
ーーーーーーーーーーー
「ゴホン。改めて、よくぞ戻ってきてくれた」
「ありがとうございます」
俺は、礼を言って頭を下げた。理事長は【歓喜】と書かれた扇子をバサッと広げた。
「してどうだった?あの1年間は」
と理事長が俺に質問してきた。
「自分の足りない所を補えたと思います。ですが、まだ未熟なところも多々あります。そこは、この学園を通して補っていこうかと考えています」
「納得!君を信じて送り出したかいがあった!」
信じるか…、そんな言葉久しぶりに聞いたような聞かなかったような。
「ずっとあなたの帰りを待ってくれる“ウマ娘達”がいるんですから」
とたづなさんが付け足してきた。“あいつら”のことか、確かに“あいつら”ならそうだろうな。永遠に待ってたりするんだろうな。
「“約束”は守りますよ。それが俺ですから」
というとたづなさんは笑みをこぼし、理事長はうむ!と頷いて立ち上がった。
「歓迎!君をもう一度トレセン学園の生徒として認める!この学園でいろいろなことを知り、様々なことを学んで、よりよい学園生活を送ってくれ!!」
「はい、この学園の名に恥じぬよう頑張らせて頂きます」
と俺は立って頭を下げた。理事長は大きく頷いき、たづなさんはパチパチと拍手してくれた。これでトレセン学園生として一歩踏み出したってことになるのか。頑張るか、この人達の期待を裏切りたくないし。
「して〇〇、制服はあるのか?」
「えぇ、ありますが…サイズ的にちょっと」
「だろうと思って用意しておいた。たづな」
はい、と言ってたづなさんは理事長室の隅にあるダンボールを漁り始めた。そして、何袋か手に持ってこちらに渡してきた。中身を見ると制服だった。あちらでお着替え下さい、と理事長室の中にある倉庫部屋に案内され俺はその中で制服に着替えた。
ガチャ、とドアを開ける。2人は「おぉ!」頷いていた。トレセン学園の制服は藤色と白色をを基本とした色だか俺の制服は白ではなく黒だった。黒色のズボンに藤色の学ランを着ていたパーカーの上から着ている、靴は革靴で茶色だ。あと、前ボタンと袖ボタンが丸型の金色で中には校章が型付されていて、左の胸元にはトレセン学園の校章が金色の刺繍で描かれていた。結構お金かかったんだろうな。
「サイズの方はどうでしょうか?」
「大丈夫です、ぴったりです」
「好適!よく似合っておる!」
新しい制服も手に入ったし、あとは時間。今は…11時35分、あと5分で授業か…今のうちに帰るか。
「それじゃあ俺、行きます」
「ん?どこにだ?」
「どこって、決まってるじゃないですか。帰るんですよ、挨拶も済んだし。やることやったんで」
「憤然!このトレセン学園に入ったからには遅れても構わん!授業は受けろ!」
いやいや、無理でしょ。もう昼前ですよ?昼から授業受けるよりかは、月曜日に回したほうがいいでしょ。
「今から授業受けたって頭に入らないですよ」
「否定!今からでも受けろ!」
と理事長は頑なに俺を授業に出させようとする。何故だ?…まさか、
「まさかあんた、“あいつら”に言ったんじゃないだろうな!?俺が来てるってこと!」
「ギクッッッッッ!!!」
大きなため息が出る。なぜ“あいつら”にバラす、おかげて帰れなくなったじゃないか。
「わかりました。授業、出ますよ」ハァ…
と言うと理事長の顔がパァ!っと明るくなった。あんた、弱みでも握られてんのか?
「迅速!すぐ行ってきてくれ!」
はいはい、と俺は手をヒラヒラさせて理事長室を出た。あんな理事長で大丈夫なんだろうか、と思いながら俺は自分のクラスへと向かった。
〜〇〇の退出後、理事長視点〜
「やっと、行ったか」
はい、とたづなは私のぼやきに返事をしてくれた。
「それにしても、随分と大きくなったものだな」
私は自分の椅子に座り、体重を背もたれにかける。本当に彼は大きな成長を遂げていた。それは肉眼でもはっきりとするくらい凄まじいものだった。
「これから彼はどんなものを“創る”のでしょうね」
「そうだな。もしかすると、“私達では想像できないもの”を創るのかもしれんな」
「そうですね、お茶入れますね?」
「いや、いい。それよりもたづな、〇〇のところへ行ってくれないか?〇〇のことだ、自己紹介もせずに授業に入るやもしれんでな」
「はい、わかりました理事長。行って参ります」
とたづなは部屋のドアを開け、そのまま出て行った。たづなを見送ったあと私は私以外いないこの部屋でポツリと呟いた。
「道のりは険しいかもしれん。だが、諦めるでないぞ。もし、諦めそうになったら“彼女達”と共に乗り越えていけ」
〜???視点〜
私は今、とてもソワソワしています。なんたって“彼”が帰ってきたとエアグルーヴに伝えられてから授業どころではないからです。最初は嘘かと思ったのですが証拠として見せてきた写真が間違いなく“彼”だったので納得しました。
…いつなったら来るのだろうと思っているとガラガラッと後ろの扉の開く音がしました。クラスにいる全員が音のなった方へ向きます。音がなって少しした時、一人の男の子が教室に入ってきました。クラス中の人達がザワザワし始める、知らない人が入ってくればそうなるに違いない。でも、私は知っている。“彼”のことを。“彼”は私の後ろを通り過ぎ、一番後ろの窓側に位置する席、私の左隣の席に座った。私は心の底から安堵した、それと同時に嬉しくもあった。だって、また貴方と“競う”ことが出来るのだから。
〜〇〇視点〜
「(教室には入ったのはいいが、やっぱこうなるよな)」
俺が教室に入ってからクラスの連中がザワザワしたりチラチラこちらを見たりし始め、教師も状況が飲み込めないのかオロオロとしていた。そして、俺の右隣の席の“栗毛のウマ娘”はニッコリとしてこちらをジッと見つめている。頼むからそんなに見つめないでくれ。
「はあ、やっぱり。理事長の言うとおりでしたか」ハァ…
とため息をつきながら教室に入ってきたたづなさん。教師の人なんか「助けてください」と涙目でたづなさんを見ていた。
「ほら、自己紹介してください」
と手を叩いて指示してきた。転入生でもあるまいし、べつにいいだろうと思っていると
「自己紹介、したほうがいいんじゃないですか?貴方のこと知らない人が多いでしょうし」
と隣の席の奴に言われた。めんどくs「面倒くさいなんて思っていませんよね?」…。
「わかった、やればいいんだろ?やれば」
と勢いよく立ち上がり、教卓へと向かう。隣の奴は笑顔のまま俺に手を振っていた。クソ、後で覚えとけよ。
黒板の前に来た俺はチョークを持ち、カンカンカンッと音をたてながら名前を書き、回れ右をして自己紹介をした。
「えー、俺の名前は
彼、風間燈馬は後に【歴史の創造者】と言われるのはまだ先のお話。
読んで頂きありがとうございます。
理事長の口調めっちゃ難しい…。
それでは、また