ウマ男 新たな歴史を創る者   作:アフターヌーンティー

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 やっと書けた…。今回は結構長いです。


  それでは、どうぞ〜


凱旋門賞と狙われたシービー

  〜シャルル・ド・ゴール国際空港 燈馬side〜

 

 「着いた。ここがフランスか」

 

  俺はフランスの首都パリから少し離れた空港に来ていた。理由は勿論、シービーの凱旋門賞を見るためだ。

 

 「確かトレーニング場はロンシャンレース場だったはず」

 

  と俺は携帯を開き、シービーから送られてきた地図を見る。合ってるな。

 

 「よし、まずはレース場に向かうか」

 

  と空港を出てタクシーを捕まえる。

 

 「Veuillez vous rendre sur le circuit de Longchamp(ロンシャンレース場までお願いします)」ガチャ

 

 「Entendu(かしこまりました)」バタン

 

  とタクシーに乗り、ロンシャンレース場へと向かった。

 

  〜ロンシャンレース場〜

 

 「Arrivée. C'est le circuit de Longchamp(到着しました。ここがロンシャンレース場です)」

 

 「Merci(ありがとうございます)」バタン

 

  と車から出て代金を払い、レース場の方へ身体を向ける。

 

 「ここがロンシャンレース場、凱旋門賞が行われるのか」

 

  ロンシャンレース場。世界で一番美しいと言われているフランスのレース場の一つ。こんなところで走れるのは正にウマ娘にとって嬉しいこと間違いなしだ。

 

 「干渉に浸ってる場合じゃないか。シービーのもとへ行こう」

 

  とレース場の中へと入っていく。

 

 

  〜⏰〜

 

 「お〜い!燈馬〜!」タタッ!

 

 「久しぶりだな、シービー。少し身体付きが変わったんじゃないか?」

 

 「そうかな?それよりターフに来てよ!凄く広いんだ!」

 

 「あぁ。行こう」

 

  と俺はシービーに手を引かれて、レース場内へと入っていった。

 

 

 

 

 「ここがロンシャンレース場のターフか。随分と広いんだな」

 

 「それに芝の管理もちゃんとされてるんだ!走ると気持ちいいんだよ!」

 

 「そうか」

 

  とロンシャンレース場のターフへと足を踏み入れる。ザッ!ザッ!という芝の音が歩く度に鳴り響く。ちゃんと管理されている証拠だ。

 

 「Monsieur C B」

 

 「あ、モーレンさん」

 

  とモーレンと呼ばれた金髪の男がこちらに近づいてくる。

 

 「紹介するね。このヒトは凱旋門賞の臨時トレーナーを務めてくれている“モーレン・アラビナ”さん」

 

 「Je suis Moren Arabina(モーレン・アラビナです)」スッ

 

  とモーレンさんは手を出してくる。

 

 「えぇっと、何て言えばいいんだっけ…」

 

 「Ravi de vous rencontrer, c'est Kazama Touma.Monsieur C B est endetté(はじめまして、風間燈馬です。シービーがお世話になってます)」パシッ

 

  とモーレンさんの手を取り、握手をする。

 

 「…ぷ、アハハハッ!これは失敬。つい、からかいたくなってね!あぁ、日本語で大丈夫だよ」ハハッ

 

 「…ありがとうございます。日本語、お上手ですね」

 

 「何年か日本に滞在していたのでね、それで日本語を身につけたんだよ」

 

  とモーレンさんは日本語で喋りだす。

 

 「(約180cm近くあるな。それにミチルさん程ではないが筋肉もある。それに…)」

 

 「私のデータ分析、ですか?」

 

 「っ!…すみません」

 

 「いえいえ、気にしていません。誰であれ初対面のヒトには必ずあることですから」ニコ

 

  とモーレンさんはにこやかに笑う。

 

 「それよりもミスターシービー、まだトレーニングが残っているのだろう?早く行って来なさい」

 

 「は〜い。また後でね、燈馬!」タタッ!

 

 「あぁ」

 

  と俺はシービーを見送ってモーレンさんと2人きりになる。

 

 「…シービーの状態は?」

 

 「えぇ、前よりも身体が大きくなって加速力が増していますよ。あれ程仕上がりのあるウマ娘は見たことがない」

 

  とモーレンさんも絶賛する程、シービーの状態は良いそうだ。

 

 「芝を踏んでわかったのですが、結構深いんですね」

 

 「えぇ、よく気づきましたね。実はこの芝は約9cmあたりの長さで伸びていて柔らかいんですよ」

 

  なるほど、だから踏んだと思った感覚と足が地面に着く感覚に若干のズレがあるのか。日本の芝は性質上硬く、着地の時に反発する力がある為、海外からは“日本の芝は硬い”とまで言われるくらいだ。逆に海外の芝、特にロンシャンレース場の芝は衝撃を吸収する性質がある為、反発がなく、いつもよりも強く踏み込まないと前には進めないだろう。

 

 「しかし、芝の性質を瞬時に把握するなんて、しかもその年齢でトレーナーになれるなんて」

 

 「たまたまですよ。それに俺、トレーナーじゃないです」

 

 「トレーナーじゃない!?」

 

  まあ、その反応が妥当だろうな。

 

 「じゃあ、君は一体…」

 

 「…まあ、この話は終わりにしましょう。今はシービーの状態を確認することが優先です」

 

 「あ、あぁ…」

 

  とモーレンさんとの会話を打ち切り、ターフを走るシービーの様子を見守っていた。

 

 

  〜夕方〜

 

 「それでは、明日はいよいよ凱旋門賞だ。体調管理の方をよろしく頼むよ」

 

 「わかった、ありがとうね」

 

 「ありがとうございます」

 

 「それでは、失礼します」スタスタ

 

  とモーレンさんはレース場の方へと戻って行き、シービーと2人きりになった。

 

 「そういえばシービー、理事長からの要望って聞いてるよな」

 

 「聞いたよ、宿泊するホテルだよね」

 

  ここに来る前、理事長がミスをしてホテルの予約が出来ていなかったらしくシービーに頼んだところ、「予約は任せといて!」とシービーが言っていたのでホテルは任せてフランスに来たのだ。

 

 「じゃあ、宿泊するホテルを案内してくれ」

 

 「オッケー!任せといて!!」

 

  とシービーが俺の宿泊するホテルへと案内してくれる。

 

 

  〜⏰〜

 

 「ここだよ!」

 

 「…凄ぇ所だな」

 

  とシービーが案内してくれたところはレース場から徒歩5分のところにある超高級ホテルだった。

 

 「それじゃあ早速、燈馬の部屋にレッツゴー!」

 

 「お、おい。待てって」

 

  とシービーに手を引かれてホテルへと入って行った。

 

 

 

 

 「ここが燈馬の部屋だよ!」

 

  とシービーが案内してくれたのは如何にもお金持ちが住みそうな部屋でほぼスイートルームに近かった。

 

 「良いところでしょ?」

 

 「良いところだが…、もっと普通なところはなかったのか?」

 

 「う〜ん、ほぼ満室だったしね。ここ位しかなかったんだよ」

 

  やっぱり凱旋門賞を見に来るヒト達がホテルの予約をいち早くしていたからだろうな。

 

 「そうか。ならここで我慢するしかないか」

 

 「そうだね〜…」

 

  と荷物を置き、部屋に何があるか確認しようとするのだが───。

 

 「…///」

 

  シービーは何故か部屋から出て行かなかった。

 

 「どうしたシービー、明日も早いんだ。自分の部屋へ戻って明日に向けて身体を休めろよ」

 

  というもシービーは何故か動かない。それに何故か尻尾が大きく揺れている。

 

 「シービー」

 

 「な、なにかな?」

 

 「お前、なんか隠してることないか?」

 

 「え!?な、ないよ!」

 

  とシービーが急に慌てふためく。

 

 「…おい」

 

 「え、えっと…燈馬?なんでそんなに怒ってるの…?」

 

 「俺は怒ってない。何か隠してることはないかと聞いているんだ」ジリジリ

 

 「な、ないよ!多分…」ジリジリ

 

  と俺はシービーにジリジリと詰め寄る。シービーは慌てふためきながら後退り始める。

 

 「ほ、ホントに何もないよ!身体だって何ともないし、体調だって完璧で…キャ!」ドサ

 

  とシービーが後退った先はベッドでシービーは尻もちをつく。

 

 「…言え」

 

 「え、えぇっと…」

 

  とシービーが目線を逸らす。

 

  グイッ!

 

 「ひゃあ!と、燈馬…///」

 

  と俺はシービーの腕を引っ張り顔を近づけさせ無理矢理俺の方に目線を向けさせる。

 

 「言え」

 

 「…///」モジモジ

 

  とシービーが意を決したのか、シービーの口が開いた。

 

 「じ、実はね…」

 

 「…」

 

 「ここ、私の部屋なの…///」

 

  とシービーが顔を赤くして恥ずかしそうに喋る。

 

 「なんだ、そういう事か。驚かせるな」パッ

 

 「え?」

 

  と俺はシービーの腕を離す。

 

 「何処か怪我でもしたのかと焦ったぞ。折角、いいコンディションでいるんだ。こんな時に怪我なんてされたら全てが台無しになるところだったぞ」

 

  本当にシービーの身体に何もなくて良かった。これで怪我でも見つかったらこれまでのがんばりますが全て台無しになるからな。これで安心し────。

 

 「待て。シービー」

 

 「な、なに?」

 

 「お前、今なんて言った」

 

 「えっと、なに?って」

 

 「違う、その前だ」

 

 「えぇっと…。言わなきゃダメ?///」モジモジ

 

  とモジモジするシービー。

 

 「当たり前だ」

 

 「ここ、私の部屋///」

 

  ・・・・・・マジ?

 

 「シービー、俺の部屋は?」

 

 「…ごめん、予約取れなかった」アハハ…

 

 

 

  ・・・・・・・・

 

 

  よし。

 

 「と、燈馬?」

 

  俺は自分のカバンから携帯を取り出し、番号を打って耳に携帯を持っていく。

 

 『はい、こちら〇〇ホテルです』

 

 「すいません、そのホテルに空いている部屋ってありますか?」

 

 『はい、一部屋だけ空いております』

 

 「わかりました、ではすぐにチェックインしますのでそちらの方へ「ダメぇえええええ!!!」おい!」

 

  とシービーが俺の電話をひったくる。

 

 「すいません!ちょっと間違えたみたいなので失礼します!」ピッ!

 

 「何をする、シービー」

 

 「燈馬こそ何やってんのさ!」

 

 「俺は空いている部屋があるか聞いて、そこで泊めてもらおうとしただけだ」

 

 「ダメ!絶対にダメ!!」

 

  何なんだこいつは。頭が痛くなってきたぞ。

 

 「じゃあなんでダメなのか理由を聞かせてもらおうか」

 

 「そ、それは…」

 

  とシービーが顔を俯かせる。全く。

 

 「理由がないなら、さっさと携帯を寄越せ」

 

  とシービーに理由を吐かせようとするも一向に理由を言わない。

 

 「じゃあ、携帯を「…りたいの」なんだって?」

 

 「燈馬と一緒の部屋に泊まりたいの!!///」

 

 「…付き合ってられるか」

 

  と俺はカバンを持って部屋を出ようとする。

 

 「待ってよ!一緒に泊まろうよ!」

 

 「なんで一つの部屋で男と女が一緒に泊まらないといけないんだ。そもそもお前は明日にレースを控えてるのを忘れたのか?こんなこと(・・・・・)に時間を割いている暇があるなら他の出場者のデータやイメトレとかに使え!」

 

 「こんなことなんかじゃないもん…」

 

 「は?」

 

 「こんなことなんかじゃないもん!!」

 

  とシービーが声を荒げる。

 

 「私だって、自分でもバカなことをやってるって思ってる。お母様に頼んで燈馬と2人で泊めれるように色々な部屋を探してもらった。だって、だって私には燈馬が必要なんだもん!」

 

 「…」

 

 「レース前の他のウマ娘のデータを見るよりイメトレをするよりも私は燈馬がそばに居て欲しい。そうすると、心が落ち着くの。だからお願い、今日だけでもいいの。今日だけ、私のわがままを聞いて…」

 

  これはシービーの本心なんだろう。言葉から想いが伝わってくる。

 

 「…今回だけだからな」ハァ

 

 「…!ありがとう、燈馬!!」ダキッ

 

 「その代わり、凱旋門では絶対に1着を獲ってもらうからな」

 

 「うん!絶対に獲る!」

 

  とシービーとの約束を交わし、俺はシービーの部屋で泊まることにした。

 

 

 

 

 「♪〜〜」フフン♪

 

  時間は夜になり、夕食を済ませた後、シービーが風呂に入って疲れを取っている。ここまで鼻歌が聞こえるなんてな、余程風呂が気持ちいいんだろうな。

 

 「いよいよ明日が凱旋門か」

 

  泣いても笑っても明日が本番、一発勝負だ。シービーには最高のコンディションで挑んでもらいたい。

 

 「明日の出るウマ娘を見てみるか」ペラ

 

  と明日出るウマ娘達の資料を読む。

 

 「要注意なのはサガミックスか。ほぼシービーと互角、いやサガミックスの方が…ん?」

 

  と資料を読んでいると机の上の花瓶の近くでキラリと光る黒い物体が目に入る。

 

 「…なんだあれは?」ガタッ

 

  と黒い物体に近づいて手に取る。

 

 「“カメラ”?」

 

  それも凄く小さなものだった。

 

 「…まさか」

 

  と俺は部屋の中を隅々まで調べる。

 

 

 

 

 「マジかよ…」

 

  と部屋から出てきたのは数十個に及ぶ小型カメラだった。

 

 「天井にランプの裏、椅子の裏にクローゼットの中まで…。一体誰が…」

 

  それに小型カメラだけではなく盗聴器らしきものまで出てくる始末だ。

 

 「ここまでなると悪質もいいところだ。犯罪になりかねないぞ」

 

  盗聴や盗撮といったものは軽犯罪につながる。こんな悪趣味を一体誰が。

 

 「壊す…という手もあるがこのタイプは遠隔操作で動いているものだな。そのままリアルタイムで誰かのパソコンにでも流れてるんだろう。…どうすればいいのやら」

 

  チッ。凱旋門の前に嫌なものを見ちまった。

 

 「お待たせ〜!!!お風呂空いたよー!!」ポカポカ

 

 「いや、それほど待ってわ…っ!?」

 

  と風呂から上がったシービーを見て思わずめまいがしそうになる。

 

 「どうしたの?もしかして、私の身体を見て興奮しちゃった?///……いいよ、燈馬なら…私///」カァアア

 

 「お前なぁあ…!」プルプル…

 

  と俺は脱ぎ捨てられた服を掴み────。

 

 「まずは服を着ろぉおおお!!」ブン!

 

 「へぶっ!」ベシッ!

 

  とシービーの顔めがけて服を投げた。

 

 

  〜⏰〜

 

 「どうだった?ここのお風呂」

 

 「広いな、広すぎて逆に落ち着かん」ポスン

 

  と俺は風呂から上がり、ベッドに腰を降ろす。シービーはというとベッドの上で足首を伸ばしたり、ぐるぐると回したりしていた。

 

 「いよいよ明日だね」

 

 「大丈夫だ。お前なら勝てると信じてる」

 

  俺はシービーを応援することしかできない。けど、俺はシービーが勝つと信じている。

 

 「明日も早い。早く寝るか」

 

 「そうだね」モゾモゾ

 

  とシービーがベッドの中に身体をモゾモゾと入れる。俺のベッドに。

 

 「(今日くらい我慢してやるか…)じゃあ消すぞ」パチッ

 

  と俺はシービーに背中を向けるように寝転がり、部屋の明かりを消す。

 

 「「…」」

 

 

 モゾモゾ…

 

 「ねぇ、こうしていい?」ギュッ

 

  とシービーが身体を近づけてきて後ろから優しく抱きしめる。

 

 「…好きにしろ」

 

 「うん」スリスリ

 

  と俺達は明日に向けて就寝した。

 

 

 

 

  〜凱旋門賞・当日〜

 

 「ミスターシービー、体調はどうだ?」

 

 「大丈夫!今からでも走り出したいくらいさ!」

 

 「それくらいの元気があれば問題はないな」

 

  いよいよ凱旋門賞の当日を迎えた。レース場にいる観客は5万人を有意に超えていてレース場だけには収まらず、場外にまで観客がが押し寄せる程だ。流石は凱旋門賞、国際的なレースは盛り上がりも凄いな。

 

 「ミスターシービー、時間がある内に手荷物検査をしてきなさい」

 

 「わかった」タタッ

 

  とシービーはレースの関係者のところに行って手荷物検査をしてもらった。

 

 「そういえばミスターカザマ、君はレースを何処で見るんだ?」

 

 「空いているところでも…と言いたいところですがレース場は満席ですので場外から観戦しようかと」

 

 「だったら、関係者だけが立ち入れるところで見ていかないか?私が話をして許可書をもらってこよう」

 

 「いや、そこまでは…「近くで見てやれば、きっとミスターシービーも喜んでくれるぞ」…では、お言葉に甘えて」

 

 「あぁ。少し待っててくれ」ピッ

 

  とモーレンさんが携帯を取り出し、関係者のヒトに電話をしに行った。

 

 「お待たせ〜!…あれ?モーレンさんは?」

 

 「モーレンさんはちょっと電話で今、席を外してる」

 

  とシービーが手荷物検査を終えて戻ってくる。すると───。

 

 「あれ?シービーじゃん!こんなところで会えるなんてやっぱり僕らは運命の赤い糸で結ばれてるんだね!!」

 

  と30代半ばの男性が近づいてくる。

 

 「…何?今、忙しいの。私の前からさっさと消えて」

 

 「怒ってるシービーも可愛いよ!!」

 

 「…」チッ

 

  とシービーの顔が嬉しそうな顔から一変、嫌そうな顔へと変わる。

 

 「シービーの知り合いか?」

 

 「勘違いしないで燈馬。こんな奴とは知り合いでも何でもない。ただのストーカーよ」

 

 「ストーカーだなんてひどいな〜。僕は君の“夫”になるヒトなのに〜」

 

 「夫?あんたみたいなのが私の夫になるくらいなら、舌を噛んで死んだほうがましよ」ピキピキ

 

  とシービーの顔に青筋が立つ。まずいな。

 

 「ちょっといいか?」スッ

 

 「あぁ?誰だテメェ」

 

 「燈馬…」

 

  とシービーと男の間に割って入る。

 

 「悪いがシービーはこれから大事なレースなんだ。これ以上シービーを刺激させるようなことをするなら、URAに報告してレース場から退去してもらうぞ」

 

 「ガキは引っ込んでろ。俺はシービーに用があるんだ」

 

 「言っている意味がわからないか?これ以上シービーを刺激するなって言ってるんだ」

 

 「だから引っ込んでろって言ってんだろうが!!!」

 

  こいつ、聞く耳を持たないな。

 

 「それにあんた、お母様から私に接触禁止状が出されてるの忘れてる?この前は見逃してあげたけど、次やったらただでは済まないってこと覚えてるよね」

 

 「そんなの僕と君の阻む障害でしかない!僕と君の力を合わせればどんな障害だって乗り越えていける!」

 

 「だから私はあんたに興味ないし、関わらないでって言ってるでしょ!」

 

  ヒートアップしてきたな、このままだとレースに支障をきたすぞ。

 

 「ミスターシービー、どうしたんだ。もう時間が狭っているぞ」

 

 「わかってる。行こう、燈馬」

 

 「あ、あぁ」

 

  とシービーに手を掴まれ、レース場へと向かう。

 

 「待ってくれ、シービー!僕の気持ちを受け取って欲しいんだ!」

 

  と男がシービーの肩に触れようとするとシービーはその手を振り払う。

 

 「触らないで!!私に男性で触れていいのは燈馬だけなんだから!!!」

 

  シービー?お前、この場で何言ってんだ。

 

 「シービー、待っ「これ以上ひつこく付き纏うのなら、URA関係者として見過ごす訳にはいきませんね」くっ…!」

 

  とモーレンさんが男の前に立ち塞がる。

 

 「ミスターカザマ、彼女と一緒に控え室へ。今の状態で彼女を走らせる訳にはいかない」

 

 「わかりました」

 

  とシービーと一緒に控え室へ向かった。

 

 

  〜シービー控え室〜

 

  モーレンさんの計らいのもと、無事控え室に来ることが出来た。控え室に着いたのはいいが、シービーの顔は暗いままだった。

 

 「ごめんね。変なもの、見せちゃって…」

 

 「色々聞きたいことがあるが今はレースだ。…切り替えれそうか?」

 

 「う〜ん、どうかな…。ちょっと自信ないや」

 

 「出来ることがあれば手を貸すが?」

 

 「じゃあさ」ゴソゴソ

 

  とシービーが自分のカバンを漁り、櫛を取り出す。

 

 「髪、()いてくれない?」

 

  と櫛を渡される。

 

 「わかった。じゃあ鏡の前に座ってくれ」

 

  とシービーを鏡の前に座わらせて───。

 

 「じゃあ、まずは髪から…」シュッ、シュッ

 

  とシービーの髪を櫛で梳かす。

 

 「とう、ま。ん…。ちょっと、ちから…強い」

 

 「わ、悪い…」シュッ、シュッ

 

 「燈馬って、もしかして不器用?」フフッ

 

 「悪かったな、不器用で」シュッ、シュッ

 

  とシービーの髪をレースの始まる5分前までゆっくりと梳かしていった。

 

 

 

 「いよいよだね」

 

 「なんだ、緊張してるのか?」

 

 「うん、結構」

 

  とシービーの顔色を窺うと若干ではあるが自信がなさそうに見える。

 

 「大丈夫だ。お前ならやれる。それに“レースが始まったらそこは私達の世界”なんだろ?自信を持って走ってこい」

 

 「わかった。────行ってくる!!!」ダンッ!

 

  とシービーはターフへと歩いて行った。

 

 

 

  〜観客席〜

 

 「ミスターカザマ、こっちだ!」

 

 「モーレンさん」タタッ

 

  とモーレンさんに案内してくれたところは関係者以外立ち入り禁止のような場所でレースを間近で見れる場所だった。しかもゴールの目の前。

 

 「ここって本当に良かったんですか?後ろに記者やテレビ局のヒト達が凄い並んでますけど」

 

 「構わないさ。折角、日本から来てくれたんだ。最高の場所でレースを見て欲しいっていう私の計らいさ」

 

 「ありがとうございます」

 

 『ロンシャンレース場のお越しの皆様、お待たせしました!第77回、凱旋門賞の開催だ!!!!』

 

 

 

   ワァアアアア!!!!

 

 『まずはこのウマ娘から登場だ!7枠14番─────!』

 

  と男のヒトの実況が出走するウマ娘の紹介をしていく。

 

 『最後にこのウマ娘の登場だ!日本で三冠を成し遂げ、数々の栄光を我が物にした。“天衣無縫”のウマ娘、ミスターシービー!!!!』

 

 シービー!!シービー!!シービー!!…

 

 「(凄ぇ人気だ。やはり、シービーは愛されてるんだな)」

 

  と最後にシービーが登場してくる。シービーにはもう緊張の欠片もない。これなら、日本初の凱旋門賞を成し遂げてくれるかもしれない。

 

 『さあ、いよいよスタートの時。各ウマ娘がゲートへと入って行きます』

 

  とウマ娘達がゲートへと入っていく。シービーは1枠1番の内側だ。あ、一人枠入りを嫌ってる。

 

 『さあ、今年の凱旋門賞は一体誰が勝つのか!14人のウマ娘が今───!』

 

 

 パァン!ガコン!

 

 『スタート!各ウマ娘、横一線綺麗なスタートだ!』

 

 「よし、スタートは悪くないな」

 

 「えぇ。後はいい位置につけるかどうか」

 

 『まず、飛び出して来たのはドリームウェル!大外から上がっていくぞ!』

 

  とドリームウェルと呼ばれたウマ娘が大外から一気に先頭へと上がってくる。

 

 「あんな外から上がってくるんですね」

 

 「彼女はフランスとアイルランドのダービーを制覇しているからね。いち早くいい位置につきたいんだろう」

 

  なるほど。となると今回の凱旋門は誰がいち早くいい位置につけるかが勝敗の鍵となるだろう。

 

 『先頭をいくのはハッピーバレンタイン!続いてレゲーラ、バ群の外目に枠入りを嫌っていたリンピッドが続く。その内、タイガーヒル、更にその内にはフラグラントミックスが続いているぞ!』

 

 「最初から大接戦ですね」

 

 「あぁ。それくらい彼女達はこの凱旋門賞に賭けてるんだろう」

 

  白熱した争い、誰にも負けたくないという想いがひしひしと伝わってくる。

 

 『注目のサガミックスは中段の位置、そして日本から来たミスターシービーは後ろ13番手の位置だ!』

 

 「ミスターシービーのレースは何度かビデオで見ていたが、あの位置で本当に大丈夫なのか?」

 

 「大丈夫ですよ。なんせあいつは“レースでタブーを犯した”って言われるくらいなんですから。勿論、“良い意味で”ですがね」

 

  菊花賞の時だった。京都レース場で行われた菊花賞では第3コーナーから第4コーナーでは急なアップダウンがあり、勢いに任せて走ると直線が持たないと言われる程のものだった。だから京都レース場では力を溜めて直線で加速する、というのがレースでは常識だった。けど、シービーは違った。最後方から100%の力を使って第3コーナーの下りから一気に先頭へと駆け上がり三冠を制した。だから見ていたヒト達からシービーはタブーを犯したと言われたり、“常識を覆した”と言われるようになった。

 

 「(ロンシャンレース場も京都レース場と同じアップダウンがあるが、唯一違うとすれば芝の長さと坂の大きさ。仕掛けどころが一番重要になってくるぞ、シービー)」

 

 『上り坂を登り、下り坂へと入っていく!先頭は以前とハッピーバレンタイン!リンピッド、レゲーラが後方のウマ娘を引き連れている形となっているぞ!』

 

 『それにサガミックスはいい位置につけている。囲まれない為に外にいるし、ミスターシービーもいい具合に足が溜まってきたんじゃないですか』

 

  シービー、まだ仕掛けどころじゃないぞ。まだ様子を見ておくんだ。

 

 『先頭のハッピーバレンタインが“フォルスストレート”に入った!!』

 

  フォルスストレート。偽の直線と呼ばれていて、第4コーナーの一部にある。このフォルスストレートに何人ものウマ娘が引っ掛かり、最後の直線でスピードが落ちてしまうなんてことが数多くあった。

 

 「(それにこのフォルスストレートの厄介な所は下り坂という点だ。スピードも上がりやすく、その勢いのままいくとスタミナも削られる)」

 

 『さぁ、全てのウマ娘がカーブを曲がりフォルスストレートを抜けて最後の直線にきた!先頭はハッピーバレンタイン!サガミックスは追撃の姿勢に入っている!』

 

  レースは最後の直線に差し掛かった。ウマ娘は最後の力を振り絞り、530mもある直線を走る。

 

 『ハッピーバレンタインが先頭!ハッピーバレンタインが先頭!レゲーラは2番手の位置!フラグラントミックス、リンピッドは苦しいか、伸びない!伸びない!サガミックスは追い上げの体制に入った!』

 

  征け…!征け!シービー!

 

 

 「征けぇええ!シービィイイイイ!!」

 

 『ミスターシービー!ミスターシービー!ミスターシービーだ!ミスターシービーが上がってくる!ミスターシービーが後方から一気に先頭へと上がってくる!サガミックスが遅れてスパート!内からタイガーヒルも伸びる!粘る、粘るレゲーラ!ミスターシービーか!レゲーラか!サガミックスか!タイガーヒルか!4人ほぼ一直線!誰だ!誰が抜け出す!』

 

 「残り200mだ!力を出し切るんだ!」

 

  とモーレンさんも応援してくれる。

 

 『ミスターシービーだ!ミスターシービーが抜け出して先頭に立つ!ミスターシービー!ミスターシービー!残り50m!サガミックス、レゲーラが食い下がる!』

 

  そして───────。

 

 『ミスターシービーが今、ゴールイン!!日本ウマ娘初となる凱旋門賞をもぎ取った!!!』

 

 

 ワァアアアアアア!!!!

 

 「やった!やったぞ!!ミスターカザマ!!」

 

 「えぇ。本当によく頑張ってくれました」

 

 「日本ウマ娘初なんだろう!もっと喜びたまえ!!!」

 

 「喜んでますよ」

 

  モーレンさんが隣でめちゃくちゃ喜んでいる。日本ウマ娘初となる凱旋門賞制覇は凱旋門賞が始まって以来、78年ぶりとなる快挙だ。これ程、嬉しいことはないだろう。

 

 「───ん?すまない、電話だ」ピッ

 

  とはしゃいでいたモーレンさんが席を外す。

 

 「燈馬ぁああああ!!!!」ダキッ!

 

  とシービーが勢いよく走ってきて、思いっきり身体を抱きしめる。

 

 「走った後なんだ。余り身体を動かすな」

 

 「だって…!だって嬉しいんだもん!!」

 

 「嬉しいな。日本の奴らもきっと喜んでくれるよ」

 

 「うん…!うん!!」ウルウル コクコク

 

  とシービーの目には涙が浮かんでいた。余りの嬉しさに泣きそうになっていた。

 

 「…あのね、燈馬。実は私、燈馬に伝えたいことがあるの」

 

 「なんだ?」

 

 「実はね、私、燈馬のことが───「ミスターカザマ!大変だ!!」?」

 

  とモーレンさんが慌ててやってくる。

 

 「どうしたんですか?」

 

 「大変なことになった…!すぐに放送室のところに来てくれ!!ミスターシービー、君もだ!!」

 

  とモーレンさんと一緒に放送室に向かう。

 

 

 

 

 

 

     これが、地獄の始まりとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  〜放送室〜

 

 「会長、連れてまいりました」

 

  とモーレンさんと一緒に放送室に入ると会長と呼ばれた50代くらいの女性が立ち上がる。

 

 「どうも。会長の“フィオネール”です。レース直後、疲れているところに来ていただいてありがとうございます」

 

  とフィオネールさんが軽く会釈する。

 

 「はい。それで、大変なことって…」

 

 「はい」コツコツ

 

  とフィオネールさんがシービーの前に立ち止まる。

 

 「ミスターシービー、あなたの──────、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  あなたの身体から禁止薬物である“イプラトロピウム”が検出された為、凱旋門賞の優勝を剥奪、及び失格とします」

 

 

 

 

 

 

 

 「え…」

 

 「シービーが…」

 

  シービーが、失格…?

 

 「待って…、待って下さい!私、薬なんて使ってません!」

 

 「ですが、あなたの体内から検出された以上、言い逃れは出来ません。それと、URAの独断(・・)であなたの持ち物を再調査したところ───。」ゴソゴソ

 

  とフィオネールさんのポケットから小さい白い箱ような物が出てくる。

 

 「それは?」

 

 「この中に、イプラトロピウムの成分を含んだ薬物であると判明しました。よって、ミスターシービーを失格にするという判決が下りました」

 

 「そんな…、そんな…」ドサッ

 

 「シービー!!」

 

  とシービーが隣で崩れ落ちる音が聞こえ、俺は慌ててシービーを支える。

 

 「では、私はこれで「待ってくれ!」…まだなにか?」

 

  と俺はフィオネールさんを呼び止める。

 

 「今、あなたは独断(・・)でって言ったよな。なぜ“代理人”を立てなかった」

 

 「代理人?」

 

 「URAは、“レースに出走するウマ娘の持ち物を急遽調査しないといけない時は本人もしくは本人が認めた代理人を立てる”というのがルールになっているはずだ。なのに、それを無視して調査するということは───。」

 

 「私達が入れた可能性が高い、と」

 

 「そうです」

 

  URAは持ち物の調査などのルールがきめ細かく書かれている。これは双方がお互いに納得する為のものであるからだ。勿論、荷物検査の依頼をされたら応じなければならないのだが、その時に本人もしくは本人が認めた代理人がいる状態で調査しなければならない。本人がいない時に荷物検査なんてされれば、薬物が入れられる可能性が高くなるし、盗難の恐れがあるからだ。だからこういったルールはウマ娘は勿論、URAも守る必要がある。

 

 「必要ありません」

 

 「なんだと?」

 

 「必要ない、と言っているです」

 

  必要ないだって…!

 

 「ふざけるな!必要ないなんてことはない!URAはルールとしてきちんと表記している!」

 

 「───では、お言葉ですが」

 

  とフィオネールさんは今度、俺の前に立つ。

 

 「あなた方の国、日本で“イプラトロピウムは禁止薬物である”というルールはきちんと表記されていますか?」

 

 「それは…」

 

 「イプラトロピウムは市販の風邪薬でも入っていて、私達ヒトでも使用可能です。ですが、私達URAはイプラトロピウムはドーピング効果の可能性が高いと判断、よって“イプラトロピウムはドーピング効果の可能性が高い為、使用を禁ずる”というルールがあります。これこそ、罪に問われるのでは?」

 

 「…」ギリッ

 

  俺は奥歯を噛み締めた。ルールにあると言うのなら守らなかった俺達が悪い。

 

 「それと持ち物検査でのルールですが、私達の国にそのルールはありません」

 

 「なんだと?」

 

 「日本と私達海外のURAは国よってルールが異なります。ですのでこちらの国に来ている以上、こちらのルールを守ってもらいます。誠に残念ですが、これが現実です。受け止めてください」

 

 「そんな…」

 

 「燈馬…私、薬なんてやってない…!信じて!」ユサユサ

 

  とシービーは俺の腕を強く揺さぶる。

 

 「当たり前だ。お前は薬なんてやってない。ちゃんと自分の力で勝ったってことは俺が知っている。…モーレンさん車を回しといてくれませんか。余りシービーの姿を外で見られたくないので」

 

 「わかった。すぐ手配しよう」ピッ

 

  と携帯を使って車を用意してくれる。

 

 「シービー立てるか?」

 

 「…」フルフル

 

  と首を横に振る。

 

 「だったら俺が控え室までおぶってやる。帰る用意をしよう」

 

 「…」コク

 

  とシービーをおぶって放送室を出ようとする。

 

 「そこの少年」

 

 「なんですか?」

 

 「彼女を車に乗せたらもう一度、ここに来てほしい。もう一つ、話があります」

 

 「…わかりました」

 

  とシービーを連れて放送室を出た。車に乗せた後、シービーをモーレンさんに任せて俺はフィオネールさんのいるところへ戻って行った。

 

 

  〜ホテル・モーレンside〜

 

 「着いたよ。ここが君の部屋だね」

 

 「…」コク

 

  とミスターシービーの泊まる部屋に来る。

 

 「すまないね。本来なら君のボーイフレンドが君をおぶるはずなんだが、今回は許してくれ」

 

 「…じゃないです

 

 「え?」

 

 「ボーイフレンド、じゃないです…」

 

 「でも、君はあの子といつも一緒にいるじゃないか。なのに「今日、告白する予定だったんです」っ!」

 

 「今日、凱旋門賞で優勝したら燈馬に告白する予定だったんです。私、燈馬のことが好きで優勝したら伝えようと思ってました。…なのに、薬物使用の疑いで優勝が失くなって、告白出来なかった…」ヒック、ヒック…

 

  そうか、今日…ミスターカザマに告白するはずだったのか。私は彼女をベッドの上に降ろし、ミスターカザマのものであろう上着を彼女にかける。

 

 「…ただいま」ガチャ

 

 「おかえり、ミスターカザマ。会長との話は何だったんだい?」

 

  とミスターカザマが帰ってくる。

 

 「実は…」

 

  とミスターカザマは何故か歯切りの悪い感じだった。

 

 「何かあったのかい?」

 

 「実は…。“進路妨害”が発覚したそうです」

 

 「進路、妨害!?」

 

 「はい、最後の直線でシービーがスパートをかけた際、後ろにいたウマ娘2人への進路妨害が発覚したそうです」

 

 「進路妨害って、あのスパートが進路妨害な訳がない!」

 

 「これに対しては勿論俺も否定しました。そしてフィオネールさんも」

 

 「じゃあなんで…」

 

 「わかりません」

 

  とミスターカザマは悔しそうな顔をする。

 

 「私、もうダメなのかな…」

 

 「シービー」

 

 「私、薬物の疑いもかけられてそれに進路妨害でしょ?どんな顔して帰ったらいいのかな…」

 

 「…」

 

  彼女の気持ちもわかる。明日になればテレビで報道されるし、記者達もたくさん集まってくる。今の精神的に弱ってる彼女にすれば、さらなる負荷がかかる。

 

 「私…、もう…どうしたらいいか、わかんない…」ヒック、ヒック…

 

 「────すみません、モーレンさん。部屋から出てもらっていいですか?」

 

  とミスターカザマが私に言ってくる。

 

 「…わかった。くれぐれも彼女の精神面を傷つけないように」

 

 「わかりました」

 

  とミスターカザマに全てを託し、私は部屋を出た。

 

 

  〜燈馬side〜

 

 「うぅ…うぅ…」ヒックヒック

 

 「…シービー。今の状況で言うのもなんだがレースはとても良かった。あの追込にスパートのタイミング、昔となんら変わってなかった。久しぶりにいいものが見れたと思ってるよ」

 

 「けど、私は…」ヒックヒック

 

 「薬物使用の疑い、それと進路妨害だろ?薬物と進路妨害に至っては俺の中ではおかしい点がたくさんあったと思う」

 

 「…どういうこと?」ヒック

 

 「まず、スパートをかけたタイミング。その時点でお前は外から上がっていて、後ろには誰もいなかった。これはビデオでもわかるくらいだ」ピッ

 

  と俺はシービーに今日のレースを見せる。シービーはこの時には既に囲まれないように外に動いていて邪魔することは疎か、進路妨害にすらなっていない。

 

 「じゃあどうして…」

 

 「…」フルフル

 

  考えられるとすると恐らく“八百長”だ。八百長はお金を使って判定を操作したり、賄賂を渡したりして故意に負けさせたりすること。そして八百長は、本来あってはならない。勝負の世界では絶対にやってはいけないことの一つだ。

 

 「(けど、八百長となると出場していたウマ娘達に動機がない。シービーを攻撃する理由って…)」

 

  八百長として狙うならサガミックスやタイガーヒルなどが妥当だろう。今回の凱旋門賞では唯一抜きん出た才能を持っていたのは彼女だ。なのになぜ…。

 

 「(それを考えるのは後だ。まずはシービーのことに優先しよう)…なあ、シービー」

 

 「…なに?」

 

 「明日、1日休みだろ?その…俺と遊びにでもしないか?」

 

 「え?」ポカーン

 

  とシービーが拍子抜けた顔をする。

 

 「あ〜、嫌だったらいいんだ。断ってくれても構わない。なにせ今のお前をどうしても元気にさせてやりたいって思ってな。気分転換にだ。だから「フフフッ…」ん?」

 

 「フフフ…。アッハハハハハハ!…燈馬って、本当に不器用なんだね…!フフフ」クスクス

 

 「…悪かったな、不器用で」ポリポリ

 

 「けど、そういう不器用なところも大好きなんだよね

 

 「何か言ったか?」

 

 「ううん、何でもない!笑ったらなんかお腹空いてきちゃった!ご飯でも食べに行かない?」

 

 「…そうだな」

 

  とシービーは笑顔を取り戻し、ベッドから降りる。

 

 「明日、楽しみにしてるのから。だから、エスコートよろしくね♡」

 

 「あんま期待すんなよ」

 

 「期待しちゃお〜っと!」フフッ

 

  とシービーと一緒に部屋を出る。すると、部屋の近くにモーレンさんがいた。

 

 「どうやら、吹っ切れたみたいだな」

 

 「うん。明日、燈馬とデートするんだ〜!だから名一杯、御粧ししないとね!」

 

 「楽しんでくるといい」フフッ

 

  とモーレンさんも笑顔だった。

 

 「今からディナーかな?実は私の行きつけのレストランがあってね。良かったそこでどうかな?今日は私の奢りだ」

 

 「いいの?ありがとう!」

 

 「ありがとうございます」

 

 「それでは車を回してこよう。君達は入口で待っていてくれ」

 

  とモーレンさんは車を取りに行った。

 

 

  そして、俺達は晩ご飯を食べ、俺はシービーと一緒に同じベッドで就寝した。

 

 

 

  〜深夜〜

 

  プルプルプル…ガチャ

 

 『もしもし?』

 

 「悪い、寝てたか?」

 

 『いいや、今宿題をやっていたところだ。なんかあったのか?』

 

 「凱旋門賞、ミスターシービー、薬物。これだけ言えば後は分かるな?」

 

 『大体察しはつく。いいのか?こんな真夜中にそいつの隣にいてやらなくて』

 

 「今、シービーの隣にいる。今はぐっすり寝てるよ」

 

 『そう。なら他に何かあるのか?』

 

 「お前のパソコンにロンシャンレース場の監視カメラの映像とある写真数枚を送った。そこで調べて欲しい奴がいる」

 

 『…これはまた随分と派手なものだね〜。それでその“奴”ってのはこの写真の男か?こいつを調べればいいんだな?』

 

 「あぁ。それとこの前、お前に調べてもらったヒトがいただろ、そいつの過去を出来るだけ調べて欲しい。あと、そいつの親とか血縁関係者とか」

 

 『わかったよ、調べておく。今回のお代は高いぞ』

 

 「わかった。用意しておくよ」

 

 『また、なんかあったら連絡しておいてくれ。じゃあな』ピッ

 

  と電話が切れる。

 

 「燈馬…」スゥスゥ

 

  と寝言をいうシービーの頭を撫でる。

 

 「必ず守ってやるからな。シービー」

 

  と俺は携帯をおいてベッドの中へと潜る。明日はシービーとフランスと遊びに行く日だ。初めてだが頑張るか。そう決心しながら俺は目を閉じ、就寝した。




 読んで頂きありがとうございます。いや、長い!約15000文字も行けばそりゃ長いですわ!

 作中に出てきたイプラトロピウムはディープインパクトのネタを引っ張ってきました。もっと詳しく知りたい方はGoogleで検索検索ゥ!

 それと、感想や誤字脱字の報告、評価をつけてくださり、ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。



  それでは、また〜。
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