それでは、どうぞ
〜控え室・燈馬side〜
「─────燈馬君、本当によく間に合ったね。出走2分前だったんでしょ?」
「あの時は本当に焦った。なにせ人混みを掻き分けるのにも一苦労だったしな」
10月25日、今日はクラシック最後のレースであるトリプルティアラの一つ“秋華賞”だ。この前は菊花賞に優勝し、無事に“クラシック三冠”の称号を手に入れた。ブーイングの嵐の中だったがな。そして残るはトリプルティアラを獲るだけとなっていた。
「そういえば、勝負服はどうだった。直りそうか?」
とトレーナーに聞くとトレーナーは俯いて暗い表情をする。
「…ごめん、勝負服なんだけど直りそうにないんだ。だから、燈馬君には新しい勝負服を着てもらうことになると思うんだ。まだ、デザインは決まってないんだけどね…」
そうか、もうあの勝負服とはおさらばか。あの勝負服とは長い付き合いだったし、愛着もあったんだがな。ん?待てよ。
「となると、俺は勝負服が出来るまでずっと体操着になるっていうことか?」
「…そうなるね」
「マジか」
この前は制服で何とか押し切ったが、秋華賞はそうはいかないか。
「でも、記念撮影の時は制服でも良いって理事長からの許可も降りてるんだし、大丈夫だよ。きっと…」
だんだん、暗い表情になっていくトレーナー。あの件はトレーナーのせいじゃないってあれだけ言ったんだがな。
「顔を上げろ、トレーナー。今からレースに出るという奴に見せる顔じゃない。もっとシャキっとしろ」
「…うん、そうだね。今更どうこう言ったって変わらないもんね。僕が暗くなってちゃあダメだもんね」
とトレーナーの表情が明るくなる。そうだ、あんたはそれでいいんだ。
「…それじゃあ燈馬君、レースの確認だけしておこうか。今日のレースはG1秋華賞。晴れ、良バ場、芝2000mの右回り。要注意人物はファレノプシス、エアデジャヴー、エリモエクセル、この3名だ。メジロドーベルさんはちょっと調子が悪いみたいだけど一応、頭の中に入れておいて。そして、難所は昨日と同じ第3〜4にかけてのアップダウンのある坂。今日は菊花賞と違って1000mも短い、仕掛けどころを間違えないようにね」
「わかった」
ピンポンパンポーン
『秋華賞に出られるウマ娘の皆さん、まもなくレースが開始致しますのでゲート前に集合してください』
「呼び出しだ。行ってくるよ」
「うん、絶対に勝ってね。燈馬君」
「あぁ」ガチャ
バタン…。
と俺は控え室を出て広い通路を歩く。すると───。
コツコツ、コツコツ、コツコツ…。
と足音を立てながら清掃用具を持った一人の清掃員が近づいて来る。俺は立ち止まるも、清掃員は俺の方へと近づいて来る。
「無事保護。今、こっちに向かってる」
と俺の隣でそう言って、そのまま去って言った。
「(どうやら無事に見つかったみたいだな。これでアイツを縛るものは失くなったか)」
「さて、行くか」
と俺は再び歩き出し、ゲートへと向かった。
〜観客席・立花side〜
『トゥインクルシリーズファンの皆様、お待たせしました!!クラシック最後のレース、秋華賞の開催です!』
ワァアアアアアア!!!
「はじまっちゃったよ〜…」
「いよいよだな、燈馬」
秋華賞の開催が宣言される。いよいよだ、このレースで燈馬君が勝てば前人未到のクラシック三冠とトリプルティアラのダブル獲得となる。
「アイツ、勝てるかな」
「勝つさ、必ずね。燈馬君は不可能を可能にするんだから」
燈馬君はこれまで幾度とない条件下で戦ってきたんだ。今日のレースだって必ず勝ってくれる、そう信じてる。
「よう、立花」
「沖野さん」
と後ろから沖野さんとチームスピカのメンバーがやってくる。
「どうしたんですか、今日は東京へ戻る予定だったんじゃないんですか?」
「まあ、一応そのつもりだったんだが、スズカがどうしてもアイツのレースを見たいって言い出してな。1日遅らせたんだ」
「サイレンススズカさんが、ですか?」
「あぁ。何しろアイツの能力は未だわかっちゃあいねぇ。情報分析や能力分析をしたところでアイツには無意味だ。それにアイツは俺達の、いや学園の奴ら全員からマークされているからな」
「そんなにですか?」
「当たり前だろ。あのオハナさんでさえアイツ一人に苦戦する程だぞ?」
あのオハナさんでさえ、燈馬君の前では無力なのか。そうなると、燈馬君の力って一体────。
♪〜〜〜~!!!!
「そんなことは後だ。レースが始まるぜ」
とレース前のファンファーレが鳴り響くのと同時に僕を含め、チーム全員がレースの方へと目を向ける。
「あの〜、トレーナーさん」
「どうしたんだい?クリークさん」
「燈馬さん、メジロドーベルさんと何か合ったんでしょうか」
「メジロドーベルさんと?」
「はい、あそこ」スッ
とクリークさんの指差す方を見る。するとゲート前で燈馬君とメジロドーベルさんが何やら言い争っているように見える。
「アイツ、こんな時に問題なんて起こしてどうすんのよ!」
「いや、でも燈馬君に至っては冷静にいるみたいだけど」
「アイツは常に冷静にいるじゃない」
「いや、そういう冷静の意味じゃなくて」
ゲートでは燈馬君は何も言葉を言わず、只々メジロドーベルさんが燈馬君に向けて少し興奮気味に何か喋ってる。う〜ん、ここだと聞こえづらいな。
「あ、燈馬がゲートへと入って行くぞ!」
少しして燈馬君は何事も無かったかのようにゲートへと入って行き、メジロドーベルさんも遅れてゲートへと入って行った。
「一体何だったんでしょうか」
「さあ…」
燈馬君、何を言ってたんだろう。
『賑やかな秋を彩る秋華たち。秋華賞の舞台で美しく花を咲かせるのは誰だ。─────各ウマ娘、ゲートに入りました。まもなく秋華賞の火蓋が切られようとしています!秋華賞で美しく輝くのはどのウマ娘か!』
緊張する!凄く凄く緊張する!やっぱりレース前の静けさだけはなれないね。
『秋華賞が今────!!』
パァン、ガコン!!
『スタートしました!揃いました、綺麗な横一列のスタートです!』
ゲートが開き、秋華賞が始まる。
「まずはエガオヲミセテが先頭に出たか。大外からエリモピュア、次にエアデジャヴー。更に後ろは完全な混戦状態。抜け出すのは容易じゃねぇな」
「えぇ。完全に固まってますね。これってもしかして…」
「あぁ。完全な“風間対策”だろうな」
燈馬君の基本スタイルは差しや追込と言った後ろから追い上げる戦法を得意とする。対して今回のバ群はほぼ横一列に並び、後ろから抜かせないようにされている。これでは燈馬君は簡単に前に出ることは出来ない。
「それにアイツはレース中の間だけ姿が見えないし、何処に居るかも分からない。尚更警戒心が強くなる一方だ」
ミスディレクション。シービーさんから教えてもらった姿が見えなくなる技法の一つ。燈馬君がレースで使っている技だ。最初は信じ難かった話だけど、シービーさんから見破る方法を教えてもらうと本当に燈馬君の姿が見えるようになったのだ。因みにチーム全員も燈馬君の姿を捉えることが出来るようになった。
『先頭は未だエガオヲミセテがトップを走る形となっています!後ろにはエリモピュア、エアデジャヴー。そして大外にはリワードニンファ、内から上がってくるのはナオミシャインだ。そして、その後ろにエリモエクセル、メジロドーベルが控えています!』
「メジロドーベルが中段の位置か。珍しいな、彼女はまだもう少し後ろにいるのに」
「…」
「どうしたんだ、トレーナー」
「いや、何でもない」
何でだろう、凄く胸がざわめく。こんなこと、レースでは。
『半バ身開いて内からケイツーパフィ、中段の位置からエアデジャヴーをマークするかのようにファレノプシスがいます。1バ身離れてマルカコマチ、ビワグッドラック。中段のバ群は未だに混戦状態となっています。さあ、誰が抜け出すのか!?』
『注目の瞬間ですね』
バ群は第3コーナーへと移る。ここにはアップダウンの坂がある。ここで、スパートをかけると遠心力により上体を起こされるのでゆったりと行きたいところだけれども。
「動く…!」
『第4コーナーカーブで最初に動いたのはファレノプシス、ファレノプシスだ!外から上がってくるのはファレノプシス!先頭はエガオヲミセテを見せてを捉えることは出来るのか!?』
第4コーナーを過ぎてウマ娘が一斉に上がってくる。けど、僕の胸のざわめきはまだ収まらない。
「違う、ファレノプシスさんじゃない!本当に上がって来たのは────!」
『内から!内から凄いスピードで上がってくるのは、“メジロドーベル”だ!!!』
これだ、僕の胸のざわめきを起こさせた張本人。それに!
「おい、何だあのスピード!!」
「一気に先頭に踊り出たぞ!」
「征けぇええ!ドーベルゥウウ!!!」
メジロドーベルさんのスピードは完全にノッている。恐らく、下り坂を利用して自分のスピードに更に加速を付けたんだ。下り坂は何かと足のブレーキのかかりやすく、どうしても減速してしまう。けど、ブレーキをかけずに走る下り坂はとても早い。
「何なのよ、あのスピード」
「恐らく重心を前に倒して加速させたんだ。それに歩幅も広い。下り坂で加速なんて、失敗すれば足が縺れて怪我だってあり得るのに…!」
一体誰が──────。
「それは…、私が教えました…!」
「え…」クルッ
振り向くと息を切らしながら立っている女性がいた。
「あなたは…!」
〜メジロドーベルside〜
イケる!イケる!勝てる!!勝てる!!!今の私のスピードについて来ている奴はいない。後ろとは2バ身以上離れてる、そうそうついて来れる奴は────!
『外から!外からシノンだ!シノンがメジロドーベルに迫ってくるぞ!!』
「(来た!!)」
やっぱり来た、シノン。いえ、風間!あなたは絶対に来ると思っていたわ!
「(けど、負けない!この加速法を教えてくれたのは私の…私の
だから絶対に────!!!
「征っっっっけぇええええ!!!ドォオオオオオベルゥウウウウウウ!!!!」
「っ!」
私は私の声のする方を見る。そこには、ずっと会いたかった私の私達のトレーナーの姿だった。
「負けるなぁああああ!!!ドーベルゥウウウウウウ!!」
絶対に!絶対にッッッッ!!!!!
「負けるもんかぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
『メジロドーベル、ここで更に加速!!!シノンを引き離していくぞ!!!』
負けないッ!!絶対に負けない!!!絶対に負けたくない!!!!
『残り300m!メジロドーベル逃げ切れるか!?』
『頑張って!!メジロドーベル!』
もう少し!もう少しで私の────!!!!
え…────────。
『シノンだ!シノンがメジロドーベルを抜き去り、先頭に踊り出た!!』
嘘だ…、なんで。
『今度はシノンがメジロドーベルを突き放していく!』
そんな…。これじゃあ─────。
「諦めるなぁあああああ!!ドーベル!走れぇええええ!」
「っ!」ハッ
「まだ諦めていい時じゃない!走りなさい!!ドーベル!!」
そうだ。トレーナーはいつも言っていた。“諦めちゃダメだって”。こんなところで諦めたくない!
「はぁあああああああ!!!」
『メジロドーベル、差し替えせるか!?』
追いつきたい!追いつきたい!あの背中に追いつきたい!!ちょっとでも!ほんの少しでもッッッッ!!
私は前にいるあの人に向かって手を伸ばす──────。
『ゴール!!!シノンが1着でゴールしました!メジロドーベル、惜しくも2着!差は2バ身程でした!』
『惜しかったです。ですが、いい走りを見せてくれました』
「ハァハァ…」ハァハァ
負けた。負けちゃった。けど悔いはない。負けたけど、とても楽しかった。
「メジロドーベル」
「ハァ、ハァ…。か、風間…とう、ま」
風間燈馬が、
「(やっぱり、この人には敵わないや)」ハァハァ
「…」スッ
と彼は私の前に手を出してくる。
「いいレースだった。次もお互い頑張ろう」
「…。うん」パシッ
と彼の手を両手で優しく包み込むように握手を交わす。彼の優しい手。温もりを直に感じとれる。
「温かい…」ボソ
「何か言ったか?」
「ふぇ!?う、ううん!全然!な、何も…いって、ない…よ」
もしかして心の声出ちゃってたのかな。嫌われちゃったらどうしよ…。
「メジロドーベル大丈夫か?俺はそろそろ行くぞ」
「う、うん。あ…」フラッ
と立ち上がった瞬間、身体がふらつく。足に力が入らない。
ポス…
「おい、大丈夫か?」
「ぇ…」
と顔を上げると彼の顔が目の前にあった。どうしよう、ドキドキしてきちゃった。
「は、はひ!だ、大丈夫でしゅ…///」
か、噛んじゃった〜〜〜!!!
「取り敢えず、ターフ出口まで運ぶからな」ヨイショ
と彼は私をおんぶして出口まで連れて行ってくれた。
〜立花side〜
「ドーベル!!」タタッ
「トレーナー…。わっ!」
「ドーベル…。良かった、良かった…!」ギュッ
燈馬君はメジロドーベルさんを出口まで運ぶと女性トレーナーさんがこっちまで走ってきてメジロドーベルさんを抱きしめる。
「ねぇ、燈馬君」ポンポン
と僕は燈馬君の肩を叩く。
「どうした」
「この人、誰か知ってる?」
「あぁ。メジロドーベルのトレーナーだよ」
「ええええええええ!?」
「元々、メジロドーベルの専属トレーナーだったんだけどその後からライアン、メジロパーマー、エイシンフラッシュ。そして────。」
「私のトレーナーでもあるんです」
「クリークさん…!」
「クリークはあのトレーナーと契約を結んでいた。そうだろ?」
「はい。あのトレーナーさんのメニューのおかげで菊花賞を獲ることが出来たんです〜」
「え、じゃあなんで契約を切られたの!?そんなにも凄いウマ娘の契約を切っちゃうなんて凄く勿体無いじゃないか!」
「それは…」
とクリークさんを始め、女性トレーナーさんとメジロドーベルさんの顔が暗くなる。
「全部アイツなんです…!」
「「ライアン(さん)…」」
と後ろにいたメジロライアンさんは握り拳を作る。
「アイツのせいでチーム全体がバラバラになったんですッ!アイツが居なければ、クリークさんやトレーナーさんだって…!」ウルウル
とメジロライアンさんは目にいっぱいの涙を浮かべる。近くにいるエイシンフラッシュさん、メジロパーマーさんも悔しい表情をしていた。
「ごめんなさい。全ては私のせいなの。私があの子を連れて来なければ…!」
女性トレーナーさんも悔しい表情をする。その時─────。
「へぇ〜。その連れて来なければっていう子って俺のことか?」
「「「「「っ!」」」」」
と物陰からぬるりと出てきたのは以前、メジロドーベルさんを迎えに来たトレーナーだった。
「
「やあクズ女。久しぶりだね〜、元気にしてたぁ?」
「あんた、よくも私の担当のウマ娘達をッッ!!!」
「こっわ。そんなに怒ると顔にシワが出来ちゃうよ?って言っても、もうババアなんだっけ」ケラケラ
「黙りなさい!それに私はまだ25よ!!」
「実質おばさんじゃ〜ん」ケラケラ
「〜〜〜〜〜ッ!!!」
利紀と呼ばれたトレーナーはずっとケラケラと笑いながら女性トレーナーさんを煽る。
「ねぇねぇ燈馬君、兄弟なのかな?にしては全然似てないよね」
「あぁ」
顔とかもそうだけど、雰囲気が全く似てない。
「そうそう、ついでに教えといてやるよ。こいつは俺達家族の中で唯一の落ちこぼれなんだよ勉強も運動も碌に出来ないクズさ」
「巫山戯ないで!この人は落ちこぼれでもクズでもない!私達のトレーナーさんは私達のことを一番に考えてくれる。あんたみたいな奴の方がよっぽどクズだ!!」
「俺がクズ?おいおい、俺様のようなエリートが考えたトレーニングメニューで沢山勝たせてやったじゃねぇか」
「誰がするものですか、あんなトレーニング。あなたみたいな人のトレーニングをするよりもトレーナーさんが考えた地獄のランメニューをする方がよっぽどマシです」
とエイシンフラッシュさんが元トレーナーに反論する。この感じだと相当嫌われているな、この人。
「つ〜かさ、なんでこの女がここにいる訳?お前って海外のクソド田舎の所に飛ばされたんじゃなかったっけ?」
「えぇ、あんたのせいでね。あんた達が勝手なことをしてくれたおかげでこっちは危ない目に合いかけたんだからっ!」
「なんだよ、つまんねぇの。それならもっと遠くに飛ばしときゃあ良かった」チッ
「こいつッ!!」
とメジロライアンさんが痺れを切らして今にも飛び掛かりそうな勢いになる。けど、燈馬君はメジロライアンさんの肩を持って身体を静止させる。
「待て、ライアン」
「ッ!離して燈馬!この男は!この男は外道なの!人の心なんて持ってない畜生な奴なのッ!!」
当の本人はというと飛び掛かりそうなメジロライアンさんに対して早くこいと言わんばかりに煽っている。外道〜。
「ライアン。安心しろ、そいつの素行は全部知っている」
「どういう、…うわっ!」
とメジロライアンさんを後ろにやって燈馬君は男の前に立つ。
「浦部利紀。ここら辺じゃ有名財閥の浦部財閥の御曹司、そうだろ?」
「よく知ってるなぁ。もしかして、俺のファンかぁ?」ケラケラ
「そして、裏ではあんたを筆頭に闇カジノや賭博といった違法行為もやっている。そうだろ?」
「…なんだと?」
笑顔から一変、浦部利紀と言われた男の顔が怒りの表情になる。
「財閥のお偉いさんなら知ってるよな?“ウマ娘に対する賭博行為は犯罪になる”って。それを知っててやってるということは、お前は犯罪者になりたいというわけ「おいガキ、どこまで知っている」さあな。何処までだろうな」
浦部は燈馬君の胸ぐらを掴み、血走った様子で燈馬君を睨んでいた。
「テメェ、何処の人間だ。あぁ?」
「お前のような外道に言うわけねぇだろ?それより、さっさとこの手を離せよ」グッ
と燈馬君は浦部の手を掴み、力を入れる。
「うっ!ぐあ!…っ!」
と胸ぐらから手を剥がす。浦部は掴んでいた燈馬君の手を無理矢理引き剥がし痛々しくしている。
「痛いか?そりゃあ痛いだろうな。握力が90kgあるやつに力入れて握られれば痛いだろうな」
「きゅ、90だと!?」
ウソでしょ燈馬君。君そんなにも握力あるの!?
「けどな、お前はそんな痛みで収まるがメジロドーベルやライアン達はもっと痛い想いをしている。ましてやウマ娘を…、頑張ってるコイツらを侮辱するようなことは俺は決して許さない」
燈馬君の目付きが変わる。まるで、目の前にいる男を殺すかのような目付きで。
「(燈馬君、相当怒ってる。けど、それぐらいのことをあの男はやった、燈馬君の逆鱗に触れたっていうことになるね)」
燈馬君は頑張ってる人に対してバカにしている人を嫌う。そんな人を見ると虫酸が走るって言っていた。タイシンさんの時と一緒だったような──────。
「ハッ!な〜にが許さないだ、女の前だからってカッコつけてんのか?だっせぇえ!」
「お前みたいな自称エリートを名乗ってもたかが知れてるようなボンボンで自分に都合が悪い時に自分で解決しようとせず、親に泣きつくような自称エリートさんよりはまだマシだと思うぞ」
「んだとテメェエエ!!」
と男の方も顔が赤くなりヒートアップしていく。それでも燈馬君は続ける。
「ほらどうした?自分の都合の悪い状況だぞ、親に連絡しなくていいのか?」
「うるせぇえええ!!」ブンッ!!
と男は右手を振りかぶり握り拳を作って燈馬君の顔めがけて思いっきり殴り行く。
「燈馬君、避けて!!」
だんだんと拳は燈馬君の顔に近づいてきて────。
バキッ!!!
「…」ツー
燈馬君はもろ顔面で拳を受けた。
「ハハハッ!どうした!口だけかガキ!!!」
と男は燈馬君が攻撃を受けたのを見て嘲笑う。対して燈馬君は唇から血が出ていた。
「燈馬君!」
「ハハハッ!おらおらどうした、かかってこいよ!それとも俺様のパンチで怖気づいたか?ハハハッ!」
と男は燈馬君の目の前でボクシングのジャブを始める。
「ほらガキかかってこ「そんなもんか?」あ?」
「そんなもんかって聞いてんだよ、自称エリート」
と燈馬君は血を拭き取る。
「そんなに効かなかったぞ、お前のパンチ」
「な、なんだと…!」ピキピキ
と燈馬君の言葉に男の顔には青筋がたつ。
「まあ自称エリートはそんなものか。まあいい、次は俺がお前の顔面に叩き込む番だな」ポキポキ
と燈馬君は指を鳴らす。
「うるせぇ!もう一回叩き込んでやらぁあ!!」
ともう一度殴りにかかるが────────。
「人の話を聞けよ。お前の番は終わったんだよ。だから、今度は俺がお前の顔面に叩き込む番だろうが」タンッ
と燈馬君はその場で回転しながらジャンプして、そのまま──────────、
「ぶぼべら!」ドサ…
と蹴りをもらった男は通路の壁へと叩きつけられ、その場に倒れ込む。
「じゃあな、次会ったら顔面一発じゃ済まさねぇからな」
と言って男をそのままにしてこっちに歩いてくる。みんなは倒れた男に目を奪われていたが僕は燈馬君を見ていた。
「後は頼んだ」ボソ
「僕がこの場を何とかしろと?それは余りにも無理があるんじゃないかな」
「だったら自分で言って動いてもらえ。ちょうどそこにいいのがいるんだ。いい土産にもなるだろ」
「…」
なるほど、僕が動かせとでも言いたいのかな。
「いいよ。本来なら君にも同行してもらう必要があるけれど、今日は見なかったことにしておくよ」
「あぁ」
と燈馬君はそのまま帰っていった。さて…。
ピッピッピッ…。 プルプル…、プルプル…、ガチャ。
『もしもし、立花じゃないか!どうしたんだ?』
「お久しぶりです。実は────────。」
〜燈馬side〜
俺はあの場を離れて控え室に戻っていた。あの場にはライアン達しかいなかった為、トレーナーが何とかしてくれるだろう。さてと、今から帰る準備でも…。
ピリリリリリ、ピリリリリリ、ピリリリリリ…。
「…」
ピリリリリリ、ピリリリリリ、ピリリリリリ、ピッ!
「もしもし」
『燈馬、大変だ!!』
「どうした?」
『トウショウ家が動いたぞ!!!』
読んで頂きありがとうございます。
秋華賞も終わって一段落かと思いきや、また何かあったみたいですね。一体何があったんでしょうか。
次回もお楽しみに〜
それでは、また〜