ウマ男 新たな歴史を創る者   作:アフターヌーンティー

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タマモクロスが来ない…。なんでだ!なんでなんだぁああああああ!!!





   それでは、どうぞ!!!


正解であって不正解

  〜トウショウ家にて〜

 

 「─────さて、次は建設中のレース場の確認と設備修理、後は…」

 

  コンコン

 

 「はい、どうぞ」

 

 「失礼します、当主様」

 

 「どうなされたのですか?」

 

 「実は当主様にお客様がいらしていまして、いかが致しましょうか」

 

 「私にですか。わかりました、すぐに伺います」

 

 「かしこまりました。お客様は応接室でお待ちしていますので」

 

 「はい、ありがとうございます」

 

 

 

 

  〜応接室前・トウショウボーイside〜

 

 「(一体誰なのでしょうか)」

 

  私、トウショウボーイは部屋で仕事をしていた時に執事からお客様が来ていると伝言を受けて応接室に来ています。

 

 「まずは入ってみないとわかりませんね。お客様を待たせる訳には行きません」

 

  と私は応接室の扉を叩き、ドアノブを回す。

 

 「申し訳ございません。少し仕事が立て込んでしまって…」

 

  と応接室に入る。ソファに一人の男性、なのだけれども。

 

 「(若い…。大人、というより“青年”に近いような…)」

 

  とその男性を見ていると男性はソファから立ち上がり、私のほうを見る。

 

 「ッ!あなたは…!」

 

  その男性は、私の知っている男性であった。

 

 「どうも、こんにちは」

 

 「こ、こんにちは。お待たせさせてしまい申し訳ございませんでした。お座りになってください」

 

  と私は男性の対面するように座り、青年も深く腰掛けた。

 

 「それで、どういったご要件でしょうか──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燈馬さん」

 

 

 

 

 

 「単刀直入に言います。シービーの退学を取り消して下さい」

 

 

 

 

  〜燈馬side〜

 

 「随分と直球なことを言うのですね。誰から聞いたのですか?」

 

  と笑顔を崩さないトウショウボーイさん。

 

 「理事長です」

 

 「理事長…、秋川理事長ですか」

 

 「はい」

 

 「秋川理事長が来ておりましたが、あなたが来るなんて思ってもいませんでした」

 

 「まあ、俺は今回のシービーに関しては関わるつもりはなかったんですけどね」

 

 「どういうことですか?」

 

 「先日の話なんですが…」

 

  と俺は先日あった理事長の話をした。

 

 

 

  〜数日前・理事長室〜

 

 「実は、トウショウボーイのところに行って彼女を説得してほしい」

 

 「…なんで俺が?」

 

 「シンボリルドルフや私が行ってはトウショウボーイの決断は変わらないと思う。ので、君がトウショウボーイを説得してきてほしい」

 

  理事長、それ理由になってる?

 

 「決断は変わらないって言われても俺が行っても変わらないでしょ」

 

 「いや、変わる。君が行けば彼女の決断を変えてくれると断言出来る」

 

 「根拠は?」

 

 「ない」

 

  ないのに行かせるのかよ…。

 

 「…理事長が行ってください。俺は今回の件には関わらないと決めているので」

 

 「余談ではあるが、私はトウショウボーイのところに行って説得をしに行った。…だが、彼女は首を縦に振ることはなかった」

 

 「実際に私も理事長ともに行きました。その時の話し合いも見ています」

 

  と理事長の話にたづなさんが付け加えるように話をする。どうやらシービーのところに行ったのは本当のようだ。

 

 「じゃあ、午前中いなかったのはシービーのところに行っていた、ということですか?」

 

 「肯定。その通りだ」

 

  理事長が行って無理なら諦めるしかないだろ。俺が行っても変わることはない。

 

 「そんな無謀なこと誰がするんですか。俺は失礼しますよ。シービーの退学は諦めるしかないですね」

 

  と俺はソファから立ち上がり、理事長室を出ようとする。

 

 「君は…!」

 

 「ん?」

 

 「君は彼女の恩をアダで返すのか?君は何とも思わないのか、彼女は君を育ててくれた一人なんだぞ!ミスターシービーの他にも君のことを気にかけてくれる人だっていた!そんな人達を見捨てるつもりか!彼女を、彼女達を無下にすると言うのかッ!!」

 

  と理事長が身体を震わせながら大声を出す。

 

 「無下にはしませんよ。シービーには感謝してますし、他の人達にも感謝はしています」

 

 「では、何故だ!何故、手を貸してあげない!」

 

 「元よりシービーがバカやったからじゃないですか。俺には関係のないことですよ」

 

  と俺は理事長室のドアノブに手をかける。

 

 「まあ、行くだけなら行きますよ。それくらいならしてやれますので。それでは」

 

  と理事長室を出たのであった。

 

 

 

 

  〜回想終了〜

 

 

 

  〜トウショウボーイside〜

 

 

 

 「──────ということです」

 

 「なるほど。つまり、貴方は“形として”私の娘の退学を止めに来たと言うことですね」

 

 「そういうことです」

 

  自分の地位を守る為、ということですか。確かに燈馬さんはトレセン学園のウマ娘からの信頼が厚い、特に高等部は。そんな人が協力しないだなんて学園に広まれば自分の築き上げた地位が崩れ落ちる。だから形として私の元に来た、ということですね。

 

 「事情はわかりました。貴方も大変なんですね」

 

 「そうですね」

 

 「では、秋川理事長にお伝え下さい。シービーの退学は取り消さないと」

 

 「わかりました、伝えます」

 

 「お話しは以上でしょうか。では、お帰り下さい。時間も夕方ですので車でトレセンまでお送り致しますのでご準備を」

 

  と私はソファから立つ。

 

 「…」

 

  けど、燈馬さんは立つことはなかった。ずっと座ったまま。

 

 「どうしたのですか?帰らないのですか?」

 

  と私は燈馬さんに問いかけるも燈馬さんは座ったまま動かない。

 

 「燈馬さん何かおっしゃって「トウショウボーイさん」はい」

 

  と燈馬さんは座ったまま私と目を合わせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ミスターシービーの退学を取り消して下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…何故ですか?形だけのものではなかったのですか?」

 

 「確かに“さっきまで”のは形だけのものです。今からは俺個人(・・・)としてのお願いです」

 

 「取り消してほしい理由を聞いても?」

 

 「単純です、シービーはあいつらにとって大事な仲間ですから」

 

  と燈馬さんは目を合わせたままシービーの取り消しを訴える。

 

 「…言ったはずです。シービーの退学は取り消しません。これは“私が決めた”ことです」

 

 「では仮に、シービーが退学をしたとしてシービーをどうするのですか?」

 

 「娘には私の仕事を継がせるつもりでいます。知っての通り、我々トウショウ家はレース場の建設を主体とした家系です。ですので、いずれあの娘にも私の仕事を手伝わせるつもりでいます」

 

  と燈馬さんの問いに返答する。シービーには私の仕事を継いでもらわなければいけませんので。

 

 「それをするならば退学する必要はないのではないですか?そういったものなら在学させながらでも出来るはずですよね」

 

 「…ッ」

 

  確かに燈馬さんの言うとおりでもあります。仕事の手伝いはトレセンを在学しながらでも出来ます。

 

 「何故、退学させるんですか?」

 

 「…」

 

  そんなの、そんなの決まってるじゃないですか!

 

 「そんなの…、娘を守る為に決まってるじゃないですかッッッ!!!

 

 「…」

 

 「自分の子供が、自分の娘が危ない目に合っているんです!私が…、私があの娘を守ってあげないといけないんです!!」

 

 「守る…ですか」

 

 「えぇそうです!私が守ってあげないと「退学させることが守ることになるんですか?」え?」

 

 「退学が守ることなら全国にいる学生達はみんな退学してますよ」

 

 「そ、それは…」

 

 「それに、あなたは一つだけ間違いを犯している」

 

 「ま、間違い…?」

 

 「はい、それは───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あいつからレースを奪うことです」

 

 

 

 「レースを………、奪う……?」

 

 「はい。あなたはご存知のはずですよね?トゥインクルシリーズは在学中の間は中等部で1回、高等部で1回しか挑戦出来ないことを」

 

  もちろん、知らない訳はない。トゥインクルシリーズは学年でそれぞれ1回しか挑戦出来ない。中等部で失敗すれば高等部になるまでの間、G1レースは愚か、地方レースや選抜レースに出ることすら許されない。よって、レースデビューは非常に重要かつ慎重なところだ。もし、デビューの時期を間違えればそのウマ娘は一生勝てないことだってある。もちろん、中等部でデビューを果たせば高等部に上がってもそのままレースに出続けることが出来る。だけど、それと同時に2度目のトゥインクルシリーズ出走は相当な精神力が必要になってくる。この世の中はネットが当たり前。調べようと思えばいくらでも調べることが出来る。そのウマ娘がトゥインクルシリーズの2度目なのかどうかも───────。

 

 「まぁ、今はこのルールは廃止になっていますけどね。URAが1回だけでトゥインクルシリーズにデビュー出来るようにルールは改変されましたが」

 

  燈馬さんがおっしゃったルールというのは少し前までの話。先程も燈馬さんがおっしゃられたように今はトゥインクルシリーズを1回でデビュー出来るようになっている。

 

 「そして、今シービーは高等部です。この意味がわかりますよね?」

 

 「ッ…!」ギュッ

 

 「退学をすればシービーはトゥインクルシリーズ出場は愚か、レースに出走することも出来ないということですよ」

 

 「ッ!」

 

 「ウマ娘にとってレースとは一生に一度のようなもの。生きている内に何回レースに出られるかわからない。もし、ここで退学をすればシービーは一生レースに出ることは出来ないんですよ」

 

 「…てます。わかってますよ、そんなことッ!ですが!…ですが、あの娘を守る為には何かを切り捨てなければならないんですッ!!」

 

 「ですが、その切り捨てられたものはもう二度と戻ってこないんですよ」

 

 「守る為には代償が「その代償が自分にとってかけがえのないものだったら、あなたはどうするのですか」そ、それは…」

 

  と燈馬さんは冷静な口調で話し始める。

 

 「“代償”…。人は大きくてかけがえのないものを失えば、立ち直ることは出来ないでしょう。貴方の言い分もわかります。貴方にとってかけがえのないものは貴方の娘さんであり、ルドルフ達のクラスメイトでもあり、俺達のチームメイトでもある“ミスターシービー”そのものです」

 

 「…」

 

 「ですがそれと同時にシービー本人にもかけがえのないものがあると思いませんか?」

 

 「シービーにとって、かけがえのないもの…」

 

 「あいつにとって…、彼女にとってかけがえのないもの…。それは“レース”です」

 

 「“レース”…」

 

 「彼女はレースをこよなく愛しています。誰よりも。俺も当時はよくシービーにレース場を連れ回されていました。中央や地方関係なく」

 

 「あの娘がそんなこと…」

 

 「だから、彼女にとってレースとは自分の生きがい。正に“かけがえのないもの”だと思っています」

 

  あの娘にとってかけがえのないものがある。あの娘だけじゃない、他のウマ娘や他の人にだってかけがえのないものは存在する。

 

 「もし、シービーが走ることが出来ないと知った時、彼女はどんな気持ちになるでしょうか。彼女の気持ちまで考えましたか?」

 

  あの娘の…気持ち──────。

 

 「それら全てを踏まえて今一度、シービーの退学について考え直してくれませんか。……お願いします」

 

  と燈馬さんはソファから立ち上がって深く頭を下げた。

 

  シービーを危険な目に合わせたくない。けれどもシービーの大好きなレースを、頑張っているレースを取り上げたくない。私はまだ“あの娘が走っている姿を見ていたい”から─────。

 

 「──────燈馬さん」

 

 「なんでしょう」

 

 「一つだけよろしいでしょうか」

 

 

 

 

 

   〜⏰〜

 

 

 

 

 

  コンコン

 

 「どちら様ですか?」

 

 「シービーです、お母様」

 

 「…入りなさい」

 

  ガチャと音をたてながら部屋に入って来たのは娘のシービー。その表情は余りにも暗い。

 

 「座りなさい」

 

 「…はい」スッ

 

  とシービーが反対側のソファに座る。

 

 「この前も言いましたがトレセン学園の退学についての話です」

 

 「はい…」

 

  スゥ~、と大きく息を吸って───────。

 

 「退学は──────取りやめることにします」

 

 「──────え…」

 

 「これからもトレセン学園生としてレースと勉学を精進して下さい。以上です」

 

  と私は立ち上がろうとすると。

 

 「ま、待ってお母様!!」

 

  と勢いよく立ち上がるシービー。

 

 「なんですか?」

 

 「な、なんで退学じゃないの?だってお母様は退学にするって。何を言われても退学するって…」

 

 「えぇ、言いました」

 

 「なのになんで…!」

 

  と聞いてくるシービー。どうやら理解が出来ていないようです。まあ、急に取りやめるなんて言われれば無理もないでしょうけど。

 

 「気が変わったのですよ」

 

 「気が、変わった…?」

 

 「えぇ」

 

  と大きく頷き、私は自分の想いをシービーに話します。

 

 「私はまだ、貴方が走っている姿を見ていたいのです。頑張る貴方を」

 

 「頑張る、私…?」

 

 「えぇ。懸命に走るシービー、先頭を狙うシービー、負けてなお次のレースで勝つ為に頑張るシービー。“努力するシービー”をずっと見ていたいのです。だから、貴方からレースを取るのはいけないと思いました」

 

  これは私の本心、彼に気づかされたことです。私も娘と同じレースを走っていたのです。そして娘も私と同じ道を歩んでいます。娘には満足するまでレースを頑張って欲しい、悔いが残らないように頑張って欲しいのです。

 

 「でも、私…。私はお母様に、みんなに迷惑かけた!だからお母様の言うとおりにトレセンを辞める覚悟だって「貴方はそれでいいのですか?」え?」

 

 「貴方には彼女達との“約束”があるのでしょう?“一緒に走る”という約束を」

 

 「!」

 

 「その約束は必ず果たさなければならない(・・・・・・・・・・・・・)のです。必ずね」

 

  約束というのは、守る為にあるものなのですから。

 

 「でも、私は…」

 

 「シービー」

 

  とシービーの顔を上げさせる。

 

 「貴方の選択は“正解であって不正解”です」

 

 「正解であって不正解…?」

 

 「はい。貴方は仲間を、そして私を守る為に行動してくれた。その点では正解です。ですが、貴方は勝手に行動をして危険な目に合い、それゆえ貴方の大事な仲間達に迷惑をかけている。だから不正解です」

 

 「じゃあ、どうすれば良かったの?」

 

 「そんなの、私だってわかりませんよ」

 

 「え!?」

 

 「人生の選択において正解や不正解なんてありません。正解があるのは勉学だけ。“自分が正しいと思える選択を取る”、誰だってすることです。私だってそういう時期がありましたから」

 

 「お母様にもあったの!?」

 

 「えぇ。危険を顧みずに行動した時だってありましたから。あの時は、私のお母様と同時に私のお友達にも叱られましたからね」フフ

 

  と笑う私を見て、あっけらかんとするシービー。

 

 「お母様にもそんな時期があったんだね…」

 

 「もちろん、私だけではありません。シンボリルドルフさんのお母様も、エアグルーヴのお母様も経験しています。誰にだってあるものなのですから」

 

  誰にでも人生最大の選択肢は必ず来るものです。それが例え“生死を分ける選択”であっても。

 

 「ですから、貴方の取った選択は正解であって不正解なのです。今回は運良く助けられましたが次はないと思いなさい。友達の為に行動することはいい事ですがまずは自分自身を守ることに専念しなさい」

 

 「…ッ…ヒック…」ポロポロ

 

 「そういえば、まだ言っていなかったことがありましたね」

 

  と私は立ち上がり─────。

 

 「お帰りなさい、シービー」

 

 「…ッ…お母様ぁああああああッッッ!!!!」ダキ

 

  とシービーは私のところに走って来て勢いよく抱きつく。

 

 「ごめんなさい…!ごめんなさい!!」ポロポロ

 

 「えぇ。私はシービーが無事に帰ってきてくれるだけで嬉しいんですから」ポロポロ…

 

  と泣き叫ぶ娘を優しく撫でながらシービーが泣き止むのを待った。

 

 

  〜⏰〜

 

  〜お風呂場にて〜

 

 「そういえばシービー」

 

  と隣にいるシービーに気になっていることを聞きます。

 

 「何、お母様?」

 

 「貴方、好きな男性はいるのですか?」

 

 「ふぇ!い、いや…その…え、え〜っと…」ピコピコ

 

  と激しく動揺するシービー。耳が激しく動いています。

 

 「その様子だと、いるようですね」フフ

 

 「…///」コクリ

 

  と小さく頷くシービー。お風呂に入っているからか、顔が少し赤い。

 

 「相手は燈馬さん、ですか?」

 

 「ッ!!」ビクッ

 

 「ふふふっ。当たりみたいですね」クスクス

 

 「も、もぉ〜〜〜!!///」ポカポカ

 

  とシービーが私の肩をポカポカと叩いてくる。相変わらず、この娘の反応は面白い。

 

 「気持ちはわからなくもありません。あれ程の男性なら好意を抱いてもおかしくはありませんから」

 

 「…だって、燈馬はカッコいいんだもん。それでいて強くて、一緒にいると楽しくて、不器用だけど優しいところもあって…。時々、ワガママも聞いてくれる。けど、燈馬が他の娘達と喋ってるところを見ると胸が苦しくなって胸がキュッと締め付けられるようなそんな感覚になるの」

 

 「それで自分が燈馬さんに恋をしていると思ったのですね?」

 

 「うん…///」

 

  と頷く。

 

 「でもね、私だけじゃないと思うの」

 

 「知っていますとも。この前、集まって食事をしていた時に一目見て気づきました。シンボリルドルフさんを始め、エアグルーヴさんやサイレンススズカさんにマルゼンスキーさんなど、貴方を含めあの場にいたウマ娘全員が“燈馬さんに好意を寄せている”。燈馬さんも罪な男の子ですね」

 

  あの子は本当に罪な男。あの方と似て(・・・・・・)──────。

 

 「燈馬さんは見るからに堅物でしょうね。振り向かせるのは至難の業だと思いますよ」

 

 「うん、だからちゃんと振り向いてもらえるか心配で…」

 

  と落ち込むシービー。シービーなりに色々とやってきたのでしょう、凱旋門の時だってお願いしてきたほどですからね。

 

 「大丈夫よ、必ず振り向いてくれるわ。私の自慢の娘なのですもの。自信を持ちなさい」

 

  と私は落ち込むシービーを抱き寄せる。

 

 「貴方の頑張りは必ず報われます。だから諦めず、腐らずに頑張りなさい」

 

 「…うん。私、頑張る!!頑張って燈馬に振り向いてもらう!!」

 

 「えぇ、その意気です」

 

  と頑張るシービーにエールを贈る。ウマ娘と言えど中身はれっきとした女の子。恋をするのは当たり前です。私もそうであったように。

 

 「お母様、折角2人でお風呂に入れたんだから背中流してあげるね!」

 

 「それでは、お言葉に甘えて流してもらいましょう」

 

  と私とシービーはお互いに背中を流し合い、ともに就寝した。

 

  失敗は誰にだってある。けれど、その失敗からどう次に活かすかはその人次第。失敗から学び、活かすもよし。失敗のままほったらかしにすることも出来るが自分自身の“成長”には繋がらない。失敗して後悔するからこそ、次は後悔しないように失敗しないように試行錯誤して学ぶことが一番だと思っています。今回のシービーもこの失敗から多くのことを学んでいってほしい、そう願っています。後は──────。

 

 「あの人を幸せしてあげて下さいね」

 

 

 

 

 

  〜翌日・トレセン学園〜

 

  トレセン学園では朝から大きなニュースが出回っていた。

 

ミスターシービーの在学が決定された

 

 

  内容はこうだ。トレセン学園のトップである秋川理事長がミスターシービーの母親、トウショウボーイに退学の撤廃を交渉し、トウショウボーイが折れて退学を撤廃したと─────。それを聞いたトレセン学園生は秋川理事長を称賛した。トレセン学園生だけでなく、URAも秋川理事長を称賛したのであった。

 

 

  ただこの事に“ある部分”だけ納得のいかない人物がいた。

 

 

 

  〜理事長室・たづなside〜

 

 

  ここ理事長室では、朝から張り詰めた空気が流れていました。

 

 「トウショウボーイよ、これはどういうことだ!」

 

 『先程もおっしゃったように貴方との対談で私も考え直し、シービーにはこの先もトレセン学園でもっと頑張ってほしいと思ったまでです』

 

 「私が聞いているのはそこでは無い!何故“私が説得した”ということになっているのだ!君は私との対談で頑なに意見を変えようとしなかったではないか!」

 

 『確かにあの場では、意見を変えるつもりはありませんでした。ですが、よくよく考えてみれば私にもそういう時期があったと思い出したんです。だから、娘には失敗を糧として次に活かすことを約束とし、退学を取り消したのです』

 

 「…ッ」

 

  とまだ納得出来ていない表情をする理事長。ミスターシービーさんが退学を取り止めになった、までは良かったのですがその先の話、シービーさんから言われた言葉。

 

 “理事長。私の母を説得してくださり、ありがとうございます。理事長の説得がなければ私は母の言葉通りに退学を決断していました。このご恩は忘れません”

 

  この言葉を聞いた理事長はすぐにトウショウボーイさんに電話、そして今に至ります。

 

 『─────では理事長、私は仕事がありますのでここで失礼します。これからも娘のミスターシービーをよろしくお願いします。それでは』

 

 「ま、待てトウショウボーイ!まだ話しは『ガチャ!ツーツー…』…ッ」ガチャ

 

  と理事長は持っていた受話器を降ろす。

 

 「あの、理事長…」

 

 「誰だ、一体誰なんだ。誰が私に…」ブツブツ

 

  とブツブツと呟き始める理事長。

 

 「たづな。トウショウボーイはあの時、確かに退学を取り消すような様子ではなかった、そうだったな?」

 

 「はい。実際に私もその場にいましたし…」

 

 「だからあの場で変えるようなことはなかった。頑なに首を振る一方だった。それが急に考えを改めた、なんて出来すぎた話があると思うか?」

 

  理事長の言うとおり、こんな出来すぎた話があるはずがない。

 

 「それに、私との対談を知っているのは私と君のはず。他に知る教員や生徒は…」

 

  他に知る生徒…。生徒…、生徒?

 

 

 

  “まあ、行くだけなら行きますよ”

 

 

 

 「…いえ理事長!私達の対談を知っている人物が一人だけいます!」

 

 「ッ!誰だ!その人物とは!」

 

 「彼です!あの人しかいません!!」

 

 「まさか…!たづな!至急、彼をここに連れてくるんだ!!」

 

 「わかりました!」

 

  と私は校内放送でその人物を理事長室に呼んだ。

 

 

 

  〜⏰〜

 

 「何の御用ですか、理事長」

 

 「君を呼んだのは他でもない、ミスターシービーの退学の件についてだ」

 

 「あぁ、聞きましたよ。シービーが在学することになったんでしたっけ。あいつも命拾いしましたね」

 

 「あぁ、私もミスターシービーが在学になったのは心から嬉しいものだ。だが、私が言いたいのはそこではない。“何故、私が説得をした”ということになっているんだ、燈馬」

 

 「さあ、知りませんね。トウショウボーイさんが考え直したんじゃないんですか」

 

  とすっとぼけた表情をする燈馬さん。

 

 「君が説得をしてくれたのか?」

 

 「前も言いましたが、俺はシービーの件に関わらないと言いましたよね。貴方もそれを聞いていたはずです」

 

 「あぁ。私も君が関わらないということは聞いていた。間違いない。…だが、本当は君が説得をしに行ってくれたんじゃないのか?」

 

 「俺がですか?関わらないと言った俺が?」

 

 「そうだ。君は言ったはず、“行くだけなら行ってやってもいい”と。その時に説得をしてくれたんじゃないのか?」

 

 「…」

 

 「だから君はさっき言った“関わらない”ということで対談に行った私達が説得させたということにしたんだ。そうだろ?」

 

 「…」

 

  理事長の言葉に黙ってしまう燈馬さん。

 

 「君は誰よりも先にミスターシービーが退学することを予測していたんじゃないのか?ミスターシービーが危険な目に合い、トウショウボーイが退学を使って守ろうとしたことを。それを察知していたんじゃないのか?」

 

 「…別に俺は「誰よりもウマ娘のことを気にかけてくれる貴方が今回の件に関わらないなんてことはあり得ないんですよ」…」

 

  燈馬さんの話を遮るように私は話をする。

 

 「燈馬よ、もう少し素直になれ。そんなことでは彼女達が離れていくぞ」

 

  と理事長が燈馬さんに訴えかける。私も理事長と同じ意見です。燈馬さんは素直ではない。表では動かず、ずっと裏で動いている。

 

 「…さっきも言ったように、俺は関係ありませんので。失礼します」ガチャ、バタン

 

  と燈馬さんは立ち上がり、理事長室を出て行った。

 

 「…全く、あの性格はどうにかならんのか」

 

 「どうでしょうか」

 

 「あの性格を見ると、やはりあの人(・・・)の子供なんだなと思ってしまうな」

 

  と理事長がそっと目を瞑る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いいぞ、お前達。出てこい」

 

 

   ガチャ。

 

 

 

 

 

 

  理事長室の部屋の中にある扉からぞろぞろと数人のウマ娘が出てくる。

 

 「これが話の真相だ、シービー(・・・・)

 

 「燈馬が、私の退学を…」

 

 「そうだ。本当は私ではない。彼が、燈馬が君の母親を説得してくれたんだ」

 

  と驚くミスターシービーさんに真実を告げる理事長。その他のウマ娘達も同様に驚いていた。

 

  数分前の出来事だった。

 

 

  〜燈馬が来る少し前〜

 

 「待て、たづな!」

 

 「どうしたのです、理事長」

 

  と校内放送で燈馬さんを呼ぼうとすると、理事長に止められる。

 

 「燈馬を呼ぶ前に今からいう者達を先に連れてきてほしい」

 

 「その人達とは?」

 

 「それは、────────だ。以上のウマ娘達を呼んで来てほしい」

 

 「わかりました。個人携帯のほうがよろしいですよね?」

 

 「燈馬は勘がいい。校内放送を使えば何かあると思うはずだ」

 

 「わかりました。すぐにお呼びします」

 

  と私は理事長が挙げたウマ娘達の個人携帯に電話し、理事長室に来るよう伝えた。

 

 

   ⏰

 

 「理事長、全員集まりました」

 

 「うむ。皆、忙しい時にすまない」

 

 「それで?私達を呼ぶからには何か理由があるんじゃないのか?」

 

 「その通りだ、ナリタブライアン」

 

  と腕を組んでいるナリタブライアンさんに理事長が答える。

 

 「理由は私が話すより、実際に聞いてもらったほうが早い」

 

 「実際に?誰にですか?」

 

 「それは追々だ。まず君達にはそこの部屋に入ってもらいたい。そして、私がいいと言うまで出てこないでほしいんだ」

 

 「理由は理事長とその誰かとの対談でわかる、というわけですか。わかりました」

 

 「話が早くて助かる、シンボリルドルフ。では皆、その部屋の中に入ってくれ。くれぐれも物音は立てるなよ、今から来る者は勘が鋭いからな」

 

  と理事長はシンボリルドルフさん達が入ったのを確認し、扉を閉めた。

 

 「ではたづな。頼む」

 

  と私は校内放送を使って燈馬さんを呼んだ。

 

 

  〜回想終了〜

 

 

 

 

 「ですが、何故燈馬は理事長が説得したということにしたのですか?」

 

  とエアグルーヴさんが理事長に質問する。

 

 「恐らく、目立ちたくないからだろうな。燈馬は基本、裏で動くことが多い」

 

 「じゃあ、シービーのことで関わらないって言うのは…」

 

 「ハッタリだ。それしかない」

 

  とマルゼンスキーさんの言葉にキッパリと言う理事長。

 

 「では何故、燈馬は私達にウソをついていたのですか?」

 

  と今度はシンボリルドルフさんが質問する。

 

 「これも推測だが、君達に負担をかけない為だ」

 

 「私達、ですか?」

 

 「そうだ。交渉と言うのはプレッシャーやストレスなんかが溜まりやすい。それに君達のような学生は尚更だ。そして、交渉の案件は一人の生徒の退学がかかっているという人の人生を左右するものだ。私やたづなでも、プレッシャーはかかるものだ」

 

 「理事長の言うとおりです。シンボリルドルフさんが行っているような文化祭や感謝祭における企業への交渉とは違い、先程も言っていたように人の人生がかかっているものは私を含め、理事長でも困難なものなのです。もちろん、勘違いをしないでほしいのはシンボリルドルフさん達が行っていることがプレッシャーにはならないと言うわけではありません。誰でもプレッシャーというのはかかるものですから」

 

 「ということは、そのプレッシャーの中、燈馬はシービーの母に交渉を挑んだということですか?」

 

 「あいつは例外だ。私達が出来ないようなことを平然とやってのけるような奴だからな」

 

  理事長の言うとおり、燈馬さんはどんな状況下でも平然としていて常に冷静に判断している。

 

 「そこでだ、君達にお願いある」

 

  と理事長がシンボリルドルフさん達の方を見る。

 

 「彼に、燈馬に寄り添ってあげてほしい。これは君達にしか頼めないことだ」

 

 「寄り添う、ですか?」

 

  とフジキセキさんが聞き返してくる。

 

 「うむ。少しだけでいい、ほんの少しだけ。軽く寄り添ってあげるだけでいい。あいつが嫌がっていても、それでもめげずに寄り添ってあげてほしい」

 

 「理由を聞いても?」

 

 「いずれわかる、としか言いようがないんだビワハヤヒデ。いずれあの子は…。いや、この話はよそう。兎に角、君達は燈馬に寄り添ってあげてほしいんだ」

 

  よろしく頼む、と理事長は頭を下げる。それだけあの子を、燈馬さんを心配しているということなんですね。

 

 「わかりました。理由はわかりせんが理事長のお願い、引き受けました」

 

 「ありがとうシンボリルドルフ、マルゼンスキー、ビワハヤヒデ、ナリタブライアン、エアグルーヴ、サイレンススズカ、フジキセキ、オグリキャップ、ミスターシービー。そして、燈馬のチームメンバー達よ」

 

 「では、私達はこれで失礼します」

 

  とシンボリルドルフさん達は理事長室を出て行った。

 

 「理事長、最後に何を言いかけたんですか?」

 

 「…」

 

  と理事長は少し暗い表情をする。

 

 「あの子は…、いずれ真実を知る時がくる。その時に寄り添ってやる者が居なければ、あの子はきっと“死”を選ぶだろう。それだけは何としてでも阻止しなければならない」

 

  と強い眼差しで外を見る理事長。その視線の先にはさっきまで私達と話していた燈馬さんの姿があった。

 

 「燈馬さんへの想い入れが強いんですね、理事長」

 

 「当然だ。トレセン学園に在席している以上、ここにいる生徒は私の生徒だ」

 

 「そうですか」

 

  と理事長と私はトレーニングに励む燈馬さんを見守り続けた。

 

 

 

  〜トレーニング場・燈馬side〜

 

 「お〜い!トレーナー!!」タタッ

 

 「ん?…あ!シービーさん!!退学は免れたとは聞いていたけど、噂は本当だったんだね!!」

 

 「うん。心配かけてごめんね、トレーナー」

 

  とトレーニングをしていた時にシービー達が走って来る。

 

 「ほら、燈馬君も何か言ってあげなきゃ!」

 

 「別に何も言うことなんてないだろ」

 

 「もう!こんな時くらいちゃんと祝ってあげなきゃ「大丈夫、トレーナー」え?」

 

  とシービーがトレーナーの横を通り過ぎ、俺の前に来る。

 

 「ありがとう燈馬、私を助けてくれて」

 

 「何のことか、わからんな」

 

 「燈馬って本当に優しいんだね。ますます好きになっちゃいそう…

 

 「何か言ったか?」

 

 「ううん、なんでもない」

 

  と首を振るシービー。まあいいか、気にすることでもないだろう。

 

 「兎に角、トレーニング場に来てんならジャージか何かに着替えてこい。…トレーニング、するんだろ?」

 

 「うん!すぐに着替えて来るよ!」

 

  とシービーは元気よく走り出し、トレーニング場を去った。

 

 「君って本当、素直じゃないんだね。それとも、照れ隠しかな?」ニヤニヤ

 

 「うるさい。それはそうと、トレーニングを続けるぞ。次は“秋の天皇賞”があるんだからな」

 

 「はいはい、わかりました」

 

  と俺はトレーニングを再開させる。次は秋の天皇賞、負けるわけにはいかない。それに…。

 

  それに、トウショウボーイさんとの約束したことも…。その為にも俺は────────、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強くならなければならないのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  そういえば、まだ言っていなかったことがあったな。

 

 

お帰り、シービー




 読んで頂きありがとうございます。

  皆さんはタマモクロスをお出迎え出来ましたでしょうか。因みに自分は出来せんでした!……何故だ!!



  次回もお楽しみに〜

  それでは、また〜
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