ウマ男 新たな歴史を創る者   作:アフターヌーンティー

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 新年、明けましておめでとうございます。今年も今作品をよろしくお願いします。

 皆さん、この話は誰でも知っていることではありますが、読んで頂きたい所存でございます。


  問、皆さんならどうしますか?





  それでは、どうぞ


沈黙の秋の天皇賞

  〜東京レース場の控え室・燈馬side〜

 

 『東京レース場、第11レース。お待たせしました、本日のメインレース“秋の天皇賞”の開催です!!!』

 

 「遂に来たね、天皇賞」

 

 「あぁ、負けるわけにはいかない」

 

  11月1日。今日は秋の天皇賞だ。観客の声も控え室からでも分かるくらい響いてくる。それだけ、人がいるってことか。うるさいがな…。

 

 「今日に至っては一段と凄い歓声だねぇ…。ちょっと僕、緊張してきたよ」

 

  とトレーナーの手を見ると少しばかりか震えている。

 

 「全く…、手のかかるトレーナーだ。お前が走るわけじゃあるまいに」

 

 「けどさ、緊張しないの?これだけ観客に数多くの強敵、いくらなんでも身震い(・・・)しないの?」

 

 「身震い(・・・)、か…」

 

  とトレーナーの言葉に感銘を受ける。身震いなんて、あのクソババア以来してないな。あのクソババアは正しく“異常”だ。人間離れした身体能力、知能、判断能力、全てをとってもクソババアは遥か上にいる存在。俺はあのクソババアの力を見たときは身震いが止まらなかった。いや、正確には───────。

 

 「身震いはせずとも、武者震い(・・・・)はするな」

 

 「む、武者震い…?」

 

 「あぁ。強い奴らが沢山いて、今からその強い奴らの中からもっと強い奴らと戦うんだ。武者震いが止まんねぇよ」

 

  と震える手を見せる。

 

 「す、凄いね。燈馬君が震えているなんて、はっ初めて見たからさ」

 

  とトレーナーが手を見て唖然としていた。何、唖然としてんだ。俺だって武者震いくらいするわ、あの人達(・・・・)以来だけどな。

 

 「さて、そろそろ行くよ。もう他の奴らも準備してると思うしな」

 

  と俺は席を立って控え室を出ようとする。

 

 「今日の天皇賞は快晴、バ場状態良、芝2000mで左回り。今回の注意人物はヒシアマゾンさん、メジロライアンさん、エルコンドルパサーさん。そして「いや、言わなくていい」そっか。なら悔いのないように頑張ってね」

 

  と俺は控え室を出て、レース場の入場口に向かう。

 

  コツ、コツ、コツ、コツ…

 

  足音が廊下に響く。今は俺一人。着々と入場口へと向かっていく。

 

 「…」

 

  入場口の手前で止まる。いや違うな、後ろの奴(・・・・)が止まれって言ってるんだったな。

 

 「何の用だ、スズカ」

 

 「フフ、気づいてたんだね。燈馬君」コツコツ…

 

  と後ろからスズカが歩いて来て俺の隣で並ぶように止まる。

 

 「ずっと…、ずっと私は待ってたんだ、この時を…。ずっと私は燈馬君、貴方と走りたかった。戦いたかった!!」

 

 「俺もさスズカ。俺も、お前と走りたかったよ。選抜の時以来からな。お前と選抜で走ってからは一度もお前とは走らなかった。どれだけお前と走りたいって思ったか」

 

  これは俺の中にあったスズカに対しての本心、想いだ。

 

 「まさか、同級生で同じクラスで隣の席の奴を一番警戒する時が来るなんてな」

 

 「私も、隣の席の子を警戒しないなんてことはしなかったよ。今までのレースに出ていても、他の子には目もくれずにずっと貴方のことを警戒してた。レースやトレーニングでもずっと貴方のことだけを意識して走ってたんだから」

 

 「随分と大胆な告白だな。俺としては、他の奴らを警戒してほしかったんだが」

 

 「フフ。や〜だ♡」

 

  とスズカがチラリと俺を見て、ふわりと髪をなびかせる。この野郎…。

 

 「まあいい。けどな、今回の秋天で勝つのは────。」

 

 「ええ。今日の天皇賞で勝つのは──────。」

 

 

 

 

 

 

「勝つのは…、俺/私だ!!!

 

 

 

    俺達は戦いの場に向けて一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

  〜観客席・立花side〜

 

 『ラストは2人のウマ娘の登場です!!』

 

  と入場口から2人の人影が出てくる。

 

 『まずはこのウマ男、12番人気。クラシック三冠とトリプルティアラを同時に獲得した偉業を持つ者、8枠12番シノン!!』

 

  と燈馬君は入場口から堂々と登場してくる。見たところ緊張もしてなさそうだし、問題ないね。

 

 『続いてのウマ娘は驚異の逃げ足を持ち、レースでは常に大差で勝利。正に“異次元の逃亡者”、1枠1番サイレンススズカ!!』

 

 「スズカ!!!」

 

 「頼むぞぉ!サイレンススズカ!!」

 「相手はスズカか…。トレーナー、燈馬は勝てるのかな?」

 

 「急にどうしたのタイシンさん。燈馬君が心配?」

 

 「べ、別に、アイツを心配してるわけじゃないし!ただ気になっただけ!!」

 

 「うん…、そうだね。見た限りだけど今の燈馬君の実力とサイレンススズカさんの実力はほぼ同じくらいだと思う。勝利がどっちに転ぶかは僕でも分からないよ」

 

  勝負は加速をするタイミング、スパートの位置だ。サイレンススズカさんの逃げは脅威すぎる。離されては追いつくことは出来ないだろう。

 

 「さて、今回の枠順はと…」

 

  と僕は出走するウマ娘達の枠順を見る。

 

 

 1枠1番 サイレンススズカ

 2枠2番 メジロライアン

 3枠3番 テイエムオオアラシ

 4枠4番 ローゼンカバリー

 5枠5番 ナイスネイチャ

 5枠6番 エルコンドルパサー

 6枠7番 サイレントハンター

 6枠8番 サンライズフラッグ

 7枠9番 シルクジャスティス

 7枠10番 ヒシアマゾン

 8枠11番 ランニングゲイル

 8枠12番 シノン

 

 「(全員厄介な相手だね。特にエルコンドルパサーさんとヒシアマゾンさん。この2人はリギルのメンバーでヒシアマゾンさんは燈馬君と同じ“追込”だ。レース展開がどうなるか予想がつかないな)」

 

 

  ♪〜〜〜〜〜!!!

 

 『ウマ娘達が追い求める一条の盾。鍛えた脚を武器に征く栄光への道、天皇賞“秋”。ま勝つのはどのウマ娘か!』

 

  ファンファーレと同時にウマ娘達がゲートへと入って行く。ここまでくれば、もう後には引けない。

 

 「(全力を出すんだ、燈馬君!相手は今までのようにはいかない相手だ!)」

 

 「……」

 

 『体制完了、ゲートが今────!!』

 

 

  パァン、ガコン!!

 

 『開きました!!スタートです!まずはサイレンススズカが内からの好スタート、後続をゆっくりと引き離して行きます!』

 

 「やっぱり、先頭はスズカか」

 

 「やはり、早いですね。サイレンススズカさん」

 

 『サイレンススズカを追うようにエルコンドルパサーが2番手の位置、3番手にはヒシアマゾン。内をまわってテイエムオオアラシが4番手の位置にいます。中段にはメジロライアンが控えています』

 

 「ん、今日の燈馬は差しか。追込じゃないんだな」

 

 「恐らくサイレンススズカさんに離されたくなくて差しにしたんだと思う。燈馬君自身もそうやって言ってたし」

 

  正直言って、差しでも危ないと思ってる。サイレンススズカさんに離されれば離される程、差し返すのは難しい。

 

 『サイレンススズカ、後続をぐんぐんと離す!何というスピード!!サイレンススズカがまもなく第3コーナーへ、その差は何と10馬身!!』

 

  ワァアアアアア!!!

 

  サイレンススズカさんの逃げに来ている観客全員が盛り上がりを見せる。これはいくらなんでも…。

 

 『第3コーナーを通過!通過タイムは“57秒4”!!!』

 

  ま、マジ…?

 

 「ねぇ、57秒4って…」

 

 「あぁ。恐らくこのままいけば、“レコード”だ」

 

  い、いくら何でも速すぎない!?!?

 

 『もう何馬身離しているか、肉眼でもわかりません!!会場の盛り上がりは最高潮です!!』

 

  い、異次元すぎるよ。サイレンススズカさん。

 

 「────、──護班を準備───。」

 

 「───かりまし──。」

 

 『おおっと!!サイレンススズカが更に加速した!!』

 

 「お、お兄様が負けちゃう…!」

 

 「(ここまで来ると、もう打つ手はない。サイレンススズカさんが加速すればもう挽回の余地は…)」

 

  そう思いサイレンススズカさんが大欅を回ったその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイレンススズカさんのスピードが落ちた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  〜少し遡って…。レース前・燈馬side〜

 

 『ウマ娘達が追い求める一条の盾。鍛えた脚を武器に征く栄光への道、天皇賞“秋”。勝つのはどのウマ娘か!』

 

 「燈馬!アンタともタイマンで決着つけてやるからな!!」

 

 「わかったわかった。さっさとゲートに入れよ、アマさん」

 

 「その(ツラ)、レース終わったら泣きっ面にしてやるから覚悟しな!!」

 

 「はいはい、楽しみにしてるよ」

 

  とアマさんを軽くあしらい、アマさんは自分のゲートへと入って行く。

 

 「燈馬!」

 

 「なんだ、ライアン」

 

 「私、実は燈馬と走るの初めてなんだ。だからお互い、いいレースにしようね!」

 

 「あぁ。いいレースにしよう」

 

  とライアンは笑顔でゲートへと歩いて行った。

 

 「私以外の女の子と話す余裕があるなんて余程、私に勝つ自信があるのかしら、燈馬君」

 

 「お前…、何ゲートから出てきてんだよ。スズカ」

 

  とスズカがゲートから出てきて、こっちに向かってくる。後ろを見ろ、係員が慌ててるじゃねぇか。

 

 「さっさとゲートに戻れ。係員が困ってる「決めた」あ?」

 

 「今日のレース、私は燈馬君に100馬身以上離してゴールする。覚悟してて、それじゃあ」

 

  とスズカはそう言い残してゲートへと戻って行く。

 

 「アイツ、なんであんなにも不機嫌なんだ?」

 

  女心とはわからんものだ。と思いながら俺もゲートに入る。

 

 『体制完了、ゲートが今────!!』

 

 「(アイツには負けるわけには…、いかない!!)」

 

 

  パァン、ガコン!!

 

 『開きました!!スタートです!まずはサイレンススズカが内からの好スタート、後続をゆっくりと引き離して行きます!』

 

  やっぱ、最初はスズカか。何回か並走はしていたが、やっぱりレースで一緒に走るとなると並走とは比べ物にならないくらい速いな。

  俺はスタートしてすぐに中段の位置に付く。今日は追込ではなく差しだ。追込でもいいんだが、相手がスズカとなると話は別だ。アイツの速さは別格だ。アイツの速さは一番俺がよく知っている。

 

 「(中等部の頃よりも格段にスピードが上がってやがる…!これはスズカの宣言通り100馬身も離されるかもな)」

 

 『サイレンススズカを追うようにエルコンドルパサーが2番手の位置、3番手にはヒシアマゾン。内をまわってテイエムオオアラシが4番手の位置にいます。中段にはメジロライアンが控えています』

 

  とエルコンドルパサーがスズカに追いつこうと必死に食らいついて行く。その後ろにはアマさんがピッタリとくっついている感じだ。

 

 「(食らいつこうとするだけ無駄だ。逆にスタミナをもっていかれるだけ。今はまだ待つことだ)」

 

 『サイレンススズカ、後続をぐんぐんと離す!何というスピード!!サイレンススズカがまもなく第3コーナーへ、その差は何と10馬身!!』

 

  ワァアアアアア!!!

 

 

  あの野郎、マジで100馬身も離すつもりでいやが───。

 

 『第3コーナーを通過!通過タイムは“57秒4”!!!』

 

 「…ッ、マジかよ。アイツ、ガチじゃねぇか」

 

  これは流石に…。いや、考えるのはよそう。もう、作戦も関係ねぇッッ!!!

 

 「待ってろよスズカ、今すぐお前を捉えてやらぁああッッッ!!」

 

  右足に力を入れ、加速しようとしたその時だった。

 

 

  ザワザワ、ザワザワ

 

  と観客達がザワザワし始める。

 

 「(どうしたんだ、急に。一体なにが────。)」

 

 『サ、サイレンススズカ!サイレンスに故障発生!』

 

  ──────え…。スズカが…、故障…?

 

  実況の言葉に頭が真っ白になる。恐る恐る先頭を見るとスズカのスピードが徐々に落ちていく。足だ、アイツが痛めたのは左足だ!!

 

 「スズカ…、スズカ!!」ダッ

 

  俺は一目散にスズカの元へと走り出す。スズカとの距離は大分離れているが、トばせば問題ない─────。

 

 「(いや待て。もしここでスズカを助けたとして、後続の奴らはどうなる。それこそ一大事だ!)」

 

  今の時点で約80km近くは出ている。この状況で助け出したとして後続の奴らはどうする。人は目の前で事故などがあれば気が動転して思考が一時的に停止する、それはウマ娘も同じことだ。最悪なことにスズカは外ではなく内側にいる。もしスズカが倒れるようなことがあればスズカを含め、9名近くのウマ娘達に大惨事が及ぶ。軽い怪我では済まされない!

 

 「(何か、何かないのか!全員の意識をスズカから別のところへ誘導するなにか!)」

 

  そうしている内にスズカがゆっくりと中段へと近づいてくる。

 

 「(ッ!アイツら…、クソ!!)」

 

  前を見るとエルコンドルパサー、アマさん、ライアンが後ろをずっと見ていた。それに、ライアンに至っては加速している。完全に意識がレース(・・・)からスズカにいってしまっている。…待て、これなら!

 

 「(だが、そうなると…!アイツを、スズカを…!)」

 

  やるしか……やるしか、ない!!!

 

 「(スズカ、後で俺のことを軽蔑してくれてもいい。罵倒してくれていい、嫌ってくれていい…!だから、だから今だけは──────!)」

 

 「許してくれ…!!!」

 

  と大きく息を吸って─────。

 

 「ヒシアマァアアアア!!ライアァアアアアンッッッ!!!!」

 

 「「!!!」」ビクッ

 

 「今はレースだッ!!!前を見ろォオオオッッ!!!」

 

  俺は外から大きく回って中段を抜き、アマさんとライアンに呼びかける。それに気づいたライアン達はスズカから目を離し、前を向く。

 

 「お前達もだッ!!!怪我したくなかったらスズカを躱せッッ!!!」

 

 「「「!!!」」」ハッ!

 

  と後続達は自分達に手負いのスズカが近づいてくるのに気づき、慌てて外へ逃げる。俺は後続が避けたのを確認し、ゴール近くの先頭へと近づく。

 

 「ヒシアマッ!!ちゃんと腕を振れ!!」

 

 「わ、わかってるさ!!」

 

  と俺はアマさんに檄を飛ばす。コイツ、スズカの事故を目の当たりにして足が空回りし始めてる。

 

 「(コイツまで怪我をされたら面倒だ!!)」

 

  と俺は加速して先にゴールし、ゴール近くでアマさんを待つ。

 

 「あ!しまっ!!」

 

  と案の定、アマさんはゴール手前で自分の足を自分の足で引っ掛け、転倒しそうになる。

 

 「アマさんッ!!」バッ

 

  と倒れかかったアマさんを身体を使って支える。

 

 「(危なかった…)大丈夫か?」

 

 「あ、あぁ。なんとか、な…」ハァハァ

 

  とアマさんを降ろす。

 

 「と、燈馬…、スズカが!」

 

 「わかってる。ライアン、お前はここにいろ!」

 

  と俺はコースを逆走し、スズカの元へと向かう。

 

 「ッ!スペシャルウィーク…!」

 

  俺が向かう途中にスペシャルウィークが早くスズカの元に着いていた。

 

 「スペシャルウィーク!スズカの左足を地面につけるな!!」

 

  とスペシャルウィークに左足をつけないように指示する。スペシャルウィークもスズカの左足を上げたまま、ゆっくりと身体を降ろす。

 

 「おい、スピカのトレーナー!救護班と救急車を呼べ!!」

 

 「お、おう…わかった!!」

 

  と向かおうとした時─────。

 

 『こちら、救護班です。救急車が通りますので、離れて下さい。繰り返します、救急車が通り────。』

 

  と呼ぶ前に救急車が到着していた。

 

 「(救護班がこんなに早いわけがない。誰かが呼んでいたのか?)」

 

  そんなことは後回しだ。誰かが呼んでくれていたなら好都合だ。

 

 「酸素マスク用意して!」 「サポーターを持ってこい!」

 

 「足だ!固定出来る物と包帯を用意しろ!」

 

  と救護班が色々と準備し始める。

 

 「スズカさん、大丈夫ですよ…。トレーナーさんが全力て走れるようになりますから…、だから…。ヒック、ヒック…」ポロポロ

 

 「スペシャルウィーク、救護班の邪魔になっている。…どいてやれ」

 

  とスズカに覆いかぶさっていたスペシャルウィークを立たせる。救護班がスズカの治療を始め、救急車へと運び込まれる。

 

 「スピカのトレーナー、ついて行ってやれ。ここら辺で近い病院は知っているからトレーナーに言って他の奴らを連れて行くよう伝えておくよ」

 

 「わかった、すまねぇな…」

 

 「早く行け」

 

  とスピカのトレーナーとスペシャルウィークは救急車に乗り、レース場を出て行った。

 

 「(今日は帰るか。スズカは、…俺より他の奴らが適任だな)」

 

  と俺は控え室の方へと戻った。トレーナーから見舞いはどうするか聞かれたが、正直気が乗らなかった。

 

 

 

 

 

  〜病室・シービーside〜

 

  秋の天皇賞が終わった次の日、スズカのお見舞いに行こうとクレアの皆でスズカのいる北原総合病院へと訪れた。

 

 「失礼します、サイレンススズカさんの容体はどうですか?」

 

 「ん?おおっ!立花じゃないか!」

 

 「こんにちは、沖野さん。スピカの皆さん」

 

 「「「「「こんにちは」」」」」

 

  とトレーナーがスズカの部屋に入り、私達も続いて部屋の中に入る。部屋にはスピカの面々やルドルフ達リギル、他にもスズカの同級生達が集まっていた。

 

 「これ、お見舞い品です。よかったらどうぞ」

 

 「悪いな、その棚に置いといてくれ」

 

  わかりました。とトレーナーはお見舞い品の果物を棚に置いて、スズカの元へ近づく。

 

 「あの、サイレンススズカさんの容体は…?」

 

 「…あぁ。見れば分かるが骨折だ。幸いにも後遺症は残らねぇってよ」

 

 「そうですか…、でも後遺症が残らなかっただけでもよかったと思いますよ。後遺症があれば、後々の生活に支障が出ますから」

 

 「そうだな…」

 

  とスピカのトレーナーがスズカの容体を説明してくれた。

 

 「スズカ、早く元気になってね。皆待ってるから」

 

 「ありがとうございます、シービー先輩」

 

  とスズカの頭を優しく撫でる。

 

 「あの、シービー先輩」

 

 「ん?どうしたの」

 

 「その…燈馬君はいないんですか?燈馬君の姿がないんですが…」

 

 「えっと、その…」

 

  何て言ったらいいかなぁ、う〜ん…。

 

 「今日、燈馬君は家の用事で来れないみたいなんだ。お見舞いのことは僕の方から燈馬君に言っておくよ」

 

  とトレーナーが私に目線を向ける。

 

 「トレーナーの言うとおりなんだ。ごめんね、スズカ」

 

 「いえ…、大丈夫です…」シュン

 

  と少し悲しげな表情をするスズカ。

 

 「シービー」チョイチョイ

 

  とルドルフに呼ばれて病室を出る。ルドルフは病室を出ると壁に背中を預け、腕を組む。

 

 「シービー、実際はどうなんだ?燈馬は本当に用事か?」

 

 「…ううん。用事ってのは嘘。燈馬にもお見舞いに行こうって誘ったんだけど、頑なに行こうとはしなかったんだ」

 

  やっぱり、ルドルフは気づくもんね。

 

 「やはりか…。何でか分かるか?」

 

 「さ〜っぱり。理由聞いても教えてくれないんだもん」

 

 「そうだろうな。燈馬はああいう性格だから教えてはくれないだろうな」

 

  とルドルフは少し溜め息をつく。でも…。

 

 「でも、燈馬のことを考えるとおおよそ察しは付くと思わない?」

 

 「大方だがな」

 

  とルドルフも察しがついているそうだ。

 

 「それにしても風間先輩って何であの時、スズカ先輩じゃなくてレースを優先したんすか?」

 

 「そうですよ!スズカ先輩と風間先輩って同級生なんですよね!普通だったら(・・・・・・)スズカ先輩を助けますよ!」

 

  と病室の中から天皇賞の話が聞こえる。声からしてウオッカとダイワスカーレットだ。

 

 「普通だったら(・・・・・・)、ね。燈馬もそうならそうしてるわよ」

 

 「…」コクリ

 

  誰よりもウマ娘を優先に考えて、誰よりもウマ娘を陰からずっと支えてきた。そして、みんなを引っ張ってくれる存在。そんな人が考えなしにスズカではなく、レースを優先させたのには必ず理由がある。

 

 「(その理由は聞かなくても状況を見れば分かりきったことなんだけどね)」

 

 「燈馬君のことを悪く言わないでッ!!」

 

 「スズカ?」

 

  と中からスズカの大声が聞こえたので病室に入るとスズカがシーツを握り締めていた。

 

 「先生から聞いた。燈馬君は私が怪我をした時、みんなが怪我をしないように指示したって。私もその映像を見たわ。燈馬君がみんなを怪我しないように大声を出してレースに意識を戻させてた。…本当は助けたかったんだと思う。誰よりも真っ先に向かおうとしてた…。けど、私利私欲で動いたらみんなを巻き込むかもしれないって、だから燈馬君は私じゃなくて周りの娘達を優先したんだと思う。燈馬君は間違ってない、正しい選択をしたって私は思うの…!」

 

 「スズカの言うとおりだ」

 

  と後ろからルドルフが割って入る。

 

 「「シンボリルドルフ会長…」」

 

 「カイチョー…」

 

 「君達の想う気持ちも分かる。誰だってそうさ、チームメイトやライバルが怪我をすれば真っ先に助けに行こうとするのは当たり前さ。けどね、よく周りを見て欲しい。それがレース直後ならまだしも、レース中だったら?それこそ、止まれない状況だったら?君達はどうする」

 

 「「「それは…」」」

 

 「口ではなんとでも言える。けど、身体が動かなければそれは口先だけでしかないんだ」

 

 「ルドルフの言うとおりよ。あの時、もしスズカを助けたとして、後続のウマ娘達はどうなると思う?」

 

  私の言葉で全員の顔が暗くなる。言われなくても分かるはず、“大事故になる”ってことは誰にでも分かること。

 

 「君達のスズカを助けたい、という気持ちは素直に認めよう。私も君達と同じ想いだった。けどね、一人だけ君達よりもその気持ちが倍以上ある人がいる」

 

 「カイチョー、それって誰なの?」

 

  とトウカイテイオーがルドルフにその人物を聞いてくる。

 

 「あの場にいて、スズカの一番近くにいて、スズカとのレースを誰よりも心待ちにして、けどライバルが目の前で怪我をして、助けたくてもその想いを押し殺してレースを優先させて大事故を防ぎ、今この場にいない人物。そう───────。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その人物とは、燈馬自身だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  〜河川敷・燈馬side〜

 

  コツ、コツ、コツ、コツ…。

 

 「なんだよ、会議はどうした?クソババア」

 

 「湿気た面してるクソガキの顔を拝みに来てやったのさ。ありがたく思いな」

 

 「全く嬉しくねぇんだけど」

 

  と河川敷で座っていると後ろからババアが歩いて来て、俺の隣に座る。

 

 「…アンタ、今楽しいかい?」

 

 「は?急に何言ってんだよ」

 

 「さっさと答えな、楽しいのかい?楽しくないのかい?どっちなんだ」

 

 「……楽しくねぇな」

 

 「だろうね、そりゃあアンタの顔を見れば一目瞭然さね。顔に書いてあるよ」

 

  ババアの奴、なにが言いたいんだ。

 

 「サイレンススズカを助けず、周りの奴らを優先して助けたのは間違いなのか。そんなところかい?」

 

  チッ。このババア、人が触れて欲しくねぇものに簡単に触れようとしてやがる。

 

 「ババアには関係ねぇだろ」

 

 「ハッ。誰が15年もアンタの世話をしてると思ってんだい?親を舐めんじゃないわよ」

 

 「そうですか、はいはい。ババアの言うとおり、そんなことで悩んでるようなちっぽけな男ですよ」

 

  早く帰ってくれよ、クソババア。調子が狂うん────。

 

 

 

 

 「──────アンタは良くやったさね、燈馬」ポン

 

  と俺の頭にババアの手が乗っかる。

 

 「アンタは私情を捨てて他の奴らを優先した。そんなことなんてね、周りの奴らには出来っこないことだよ。アンタは、あの場で自分が最悪な選択をしようとしていたなんてことを考えてたんじゃないのかい?アタシから見れば良くやったと思ってるよ。結果を見れば、サイレンススズカが骨折したっていうのが事実だけどね。だがもし、あの時に今度はアンタがサイレンススズカの小娘を助けた際に後続のウマ娘はどうなるか、アンタなら言わなくても分かるわね?」

 

 「まぁな…」

 

 「結果を見れば最悪なことでもね、内容を見れば完璧なことなんだよ。まあ、アタシはあの小娘が怪我をするっていうのは第3コーナーの時に気づいていたけどね」

 

  やっぱ、あの救護班はババアが予め用意してたものか。なるほどね。

 

 「燈馬、もう終わったことを引きずるんじゃないよ。それこそ、ちっぽけな男っていうものさね」スッ

 

  とババアが立ち上がって服についた葉っぱを払う。

 

 「アタシは先に家に帰ってるさね。アンタも暗くならない内に帰ってくるんだよ」

 

  とババアが歩いて帰って行った。

 

 「…あの老いぼれクソババアがいっちょ前にカッコつけやがって。ったく…」

 

  と俺も立ち上がり、葉っぱを払う。

 

 「腹減ったし、帰るか」

 

  と俺は家へと歩いて帰るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  〜史子・回想〜

 

 『もう何馬身離しているか、肉眼でもわかりません!!会場の盛り上がりは最高潮です!!』

 

 

 「ねぇ亮」

 

 「何です?理事長」

 

 「あのサイレンススズカっていう娘、もしかしたら危ないかもしんないね。救護班にいつでも出れるよう準備させて置くんだ」

 

 「わかりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  〜回想終了〜

 

 「(今回、あの小娘の足を見る限り恐らく粉砕骨折ってところかね。原因は自分のスピードに身体が追いつかなかったってところかい)」

 

  とアタシは帰路につきながらサイレンススズカの小娘の足の状態を推測していた。粉砕骨折は完治するまで約2,3ヶ月はかかる。治ったとしても、リハビリがどれだけかかるかはわからない。まあ、あのクソガキなら何とかなるだろうね。

 

 「(いかんいかん。アイツに連絡するんだったさね)」

 

  と携帯を取り出し、ある人物に電話をかける。

 

 『もしもし』

 

 「アタシだよ、“メジロアサマ”」

 

 『この声は、もしや風間史子様でしょうか。お久しぶりでございます』

 

 「アンタんとこのメジロ…ドー、ベル…だったかいね、それ以来さね」

 

 『あの時は本当に感謝しております。ありがとうございました』

 

 「お礼はあのクソガキに言うんだよ。まあいいさね、それよりアンタに頼みたいことがあるんだ」

 

 『私に、でしょうか』

 

 「正確にはアンタんとこの娘だよ。…そうさね、メジロドーベルでいいさね」

 

 『ドーベルに何か?』

 

 「メジロドーベルをね、“有馬記念に出させて欲しいんだよ”」

 

 『…理由を聞いても?』

 

 「アンタんとこのメジロドーベルでね──────、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燈馬を負かして欲しいのさ」




読んで頂きありがとうございます。

※予め言っておきますが、ウオッカやスカーレットのセリフは誰であろうと言うセリフだと思っています。それがウオッカやスカーレットには限らず全員言うと思います。そこのところご了承下さい。

 ウオッカとスカーレットの気持ちは分からなくもありません。誰だってそういう心境になります。けど、それを押し殺して未然に事故を防ぐ主人公も凄いと思います。




  皆さんならどうしますか?自分は何も出来ないと思います、確実に。目の前の状況の整理で一杯一杯になります。自分も主人公のように動けるようになりたいですね。





  それでは、また〜
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