それでは、どうぞ
〜阪神レース場、選手通路・立花side〜
『皆様、お待たせしました!!“大阪杯”の開催です!!』
ワァアアアア!!!
「すっごい歓声だね…」
「そりゃアンタ、この大阪杯は特別なものだからでしょ?」
月日が経ち、遂に大阪杯の日がやって来た。観客動員数は去年の有馬記念を超える。理由はもちろん──────。
「(5連覇というか、4連覇するウマ娘は早々いないしね)」
だからこそ、観に来ている人達はその瞬間を間近で観ようとレース場に赴いているのだ。
「ブライアン、身体の調子はどうだ?」
「独断変わりない。何時でも走れる」
「マルゼンスキー、君はどうなんだ?」
「モチのロンでバッチグーよ!!」
エアグルーヴさんやシンボリルドルフ会長がチームメイトにエールを送っている。他にも…。
「頑張ってね、ライアン!フラッシュ!」
「はい、トレーナーさん!アタシ頑張ります!」
「全て計画通りに動いていますので問題ありません。何時でもいけます」
オハナさんのチーム率いるリギルの他にメジロドーベルさん、メジロライアンさん達のいるチーム“アマテラス”がいた。今日のレースは大物揃いだ。
「な〜に、難しい顔してんだ?立花」
とスピカのトレーナー、沖野さんとスピカの面々がやって来る。
「沖野さん、どうしてここに?」
「どうしてって、今日は怪物ナリタブライアンとマルゼンスキーが出るんだぜ?見ない訳にいかねぇだろ?」
「た、確かに…」
沖野さんは絶対に見逃す筈ないもんな〜…。
「それより、アイツはまだなのか?」
「え、えぇ…」
沖野さんはキョロキョロと周りを見渡す。アイツとは燈馬君のことだ。
「彼は、まだ来ていません。連絡もないですし…」
「ま、理事長から止められてるんだったらしょうがねぇわな」
とポケットから飴を取り出し、口に入れる。
「今日はナリタブライアンとマルゼンスキーの一騎打ちってところだろ。シャドーロールの怪物の5連覇か、それともスーパーカーの意地を魅せるか…。お前的にはどう見る?」
「そう、ですね…。僕は─────。」
と答えようとしたその時だった。
「あら〜〜!?もしかして、立花ちゃ〜〜ん!!?」
「え、ミチルさん!?」
声のする方を見るとミチルさんが走ってこっちに向かってきてるのが見えた。
「み、ミチルさんどうしてここに!?ていうか、ここは関係者以外立ち入り禁止な筈なんですが…」
「大丈夫よ!そんなこと気にしない気にしない!!」
とミチルさんは言うがやはりここはちゃんと…。
「それに、アタシはあの子を送り届けたらすぐに出ていくから」
「え…」
もしかして、それって…!
「そろそろじゃないかしら?」
とミチルさんは来た方向を見る。僕もミチルさんの方を見たが暗くてよく見えない。
コツン、コツン…
「足、音…?」
とその場にいた人達が耳を澄ませる。
コツン、コツン…
「近づいて、くる…」
全員が足音の鳴る方に目を向ける。
「あれ、蛍光灯が…」
とクリークさんが蛍光灯を指す。蛍光灯を見ると何故か急にチカチカし始め、ただならぬ雰囲気を醸し出していた。すると、ミチルさんが口を開く。
「あら、随分と遅かったじゃない────────。」
自分達の近くにあった蛍光灯が一度暗くなり、少ししてから明かりがついた。そこには───────。
「とう、ま…く…」
「…」コツン、コツン…
そこには、2ヶ月もの間姿を見せなかった燈馬君の姿があった。
〜ルドルフside〜
「(な、なんなんだ!この威圧感は…!!)」ブルブル…
私は燈馬の姿を見た瞬間、全身に異様なまでの震えを感じていた。私だけではない、エアグルーヴもナリタタイシンもメジロライアンも─────。この場にいる全員が燈馬の姿を目にした瞬間恐怖の表情を見せていた。
ピシ、ピシピシピシピシ…。パリンッ!パラパラ…
「(け、蛍光灯が…、割れた!?)」
燈馬がただ歩いているだけなのに、何故か蛍光灯が割れた。それ程凄まじい威圧ということなのか────!
「…」コツン、コツン…
と燈馬は私達に目もくれず、そのまま通り過ぎて行き、レース場へと向かって行った。燈馬がいなくなったことで身体の震えは止まり、蛍光灯も点滅することはなくなった。
「それじゃあ、アタシは観客席に戻るわね。See you again!」
とミチルさんと呼ばれていた人はそのまま来た道を戻っていき、残ったのは私達だけとなった。
「…な、なんだったんだ。今のは…」
「…わかりません」
困惑だけが漂う空気。さっきのは一体何だったのか、誰も知る人はいない。
「会長…」
「…あぁ、エアグルーヴ。わかってるさ」
心配そうな顔をしているエアグルーヴ。私はあの燈馬を見て直感した。
〜再び立花side〜
一先ず解散した僕達は雨が降っていたので傘を差して前の方で観戦していた。タイシンさん達はカッパで雨を凌いでいた。
『今日は天候に恵まれませんでしたが、ウマ娘達の闘志は消えてはいません!!まずは出走するウマ娘の紹介です!1枠1番、脅威の逃げは未だ健全か!?スーパーカー、マルゼンスキー!!』
「みんな〜〜!!使い捨てカメラ回してる〜〜?」
『続いて2枠2番、エイシンフラッシュ!!』
「勝利を…、この手に!!」
『6枠8番にはメジロ家の令嬢、メジロライアンです!!』
「レッツ、マッスルーー!!!」
僕はパドックに登場するウマ娘達を見続けていた。各々が個性溢れるパドックを魅せる。
『そして、このレースの主役と言っても過言ではないでしょう!!6枠7番、シャドーロールの怪物ナリタブライアン!!!』
ワァアアアア!!!
相変わらず凄い歓声だ。5連覇目となると観客達の盛り上がりは計り知れない。
「次、だね…」
「うん…」
僕は息を飲み込んで彼の登場を待った。
『続いては4枠4番、シノン!』
「…」
幕が上がり、燈馬君の姿が見える。燈馬君は何故かジャージ姿で出てくる。
「…」グッ
燈馬君は定位置に着くとジャージの襟を掴み─────。
思いっきり脱ぎ捨てた───────。
「……ッ!!」
「ねぇアレって…!」
「あぁ、燈馬の新しい勝負服だ!!」
燈馬君の勝負服を見た瞬間、息をするのを忘れていたと思う。それぐらい彼の勝負服は凄かった。肩にかかっている大きな白のマント。中には黒のインナーを着ており、何より凄いのが、腰・腕から手にかけた金の装飾品。髪は掻き上げられおり、そして彼の両耳には本物の鉱石のようなものがついた耳飾りを着けていた。
「凄い…!」
「綺麗…」
タイシンさんとライスさんが燈馬君の勝負服に釘付けだった
。燈馬君は脱ぎ捨てた服を拾い、そのままパドックを去って行った。
「あの勝負服、一体誰に仕立ててもらったんだろう…」
「さぁ…」
『さぁ、まもなくレース時がやって来ました!大阪杯を制するのはどのウマ娘なのでしょうか!?』
「…」ギュッ
僕は右手に持っているストップウォッチを握り締める。約2ヶ月ぶりとなる燈馬君のレース、もしかすると走りに何らかの変化があるに違いない。そのためにも───────。
『各ウマ娘、ゲートに入りました。大阪杯を制するのはナリタブライアンか、それとも他のウマ娘がそれを阻止するのか!?』
緊張の一瞬、全員がゲートを見つめていた。そして──────。
パァン、ガコンッ!!
『スタートし───────。』
そして────────。
ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!
「え…」ガク!
地震!?こんな時に!!?
『スタートしま…、おおっと!これはどういうことだ!!?』
体制を立て直して、ゲートを見る。そこには信じられないことが起きていた。
『“誰もスタートしていない”!全員が膝をついているぞ!』
ナリタブライアンさんやマルゼンスキーさん、いや出走する全員がスタートをせず膝をついていた。
「ど、どういうこと…?」
「何、今の揺れ…」
ライスさん達も感じていたようで、ここに来ている人達全員が動揺していた。ゲートにいるウマ娘達も何が起きたのか状況が掴めていなかった。
「あら、実況の子の目は節穴なのかしら。ちゃんとスタートしてるじゃない」
「え、ミチルさん!?」
振り返ると傘を差したミチルさんに白衣を着た男性と着物を着た女性、そしてスーツを着た60代近くの女性がいた。
「スタートしたって、誰も…」
「ほら、よく見なさい」
とレース場へと意識を向けさせられる。いや、誰も…。
ズンッッ!!!ズザァアアアアアア!!!!
「ッ!?」
ゴール板に現れた人物に目を疑った。ウマ娘達が膝をついている中、一人だけ立っていた人物がいたのだ。そう、その人物こそ────。
「燈馬…、君?」
雨の中、一人佇む燈馬君の姿があった。
「満、タイムは?」
「ちょっと待って下さいね〜、理事長」ウ〜ン
とミチルさんは手に持っていたストップウォッチを確認する。
「─────。」
僕はタイムを聞いた瞬間、頭が真っ白になった。
〜ルドルフside〜
「これは、一体…!」
私は目の前に広がる光景に理解が追い付いていなかった。突如として起きた揺れ、そして燈馬一人だけが立っている光景に。
「いや〜、やっぱ燈馬速いっすね校長」
「えぇ、いつ見ても彼は凄いです。ただゲートが邪魔をしていましたね。まぁ、
「は?」
私達は隣で会話をしていた学生とその先生に耳を疑った。ゲートを、飛び越えた…?
「ん?…おや満君から電話のようですね。もしもし…」ピッ
と眼鏡をかけた男性が携帯を取り出して誰かと電話を始めた。
「お!タイムが出たと。…ふむふむ、タイムは─────。」
〜立花side〜
「ご、54秒…26ぅう!?」
「あら、亮ちゃんも数えてたの?」
「ん?うん、まあね。感覚は鈍らせたくないな〜って」
「さっすが宇宙飛行士選抜試験の合格者は侮れないわね〜!」
「そういうみっちゃんだって自衛隊のトップクラスの人間にいたじゃないか。今でも帰ってきてくれって連絡来てるんでしょ?」
「もう!前職のことはナッシングよ!」
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
と僕は慌てて2人の会話を遮る。会話の方向性が別の方に向いてる気がした。
「54秒26って、そんなの…嘘ですよね!」
「いえ、事実よ」ポイ
とミチルさんがストップウォッチを投げ渡して来たので慌ててキャッチする。
「…ホントだ」
渡されたストップウォッチにはちゃんと54秒26と表記されていた。
「嘘、じゃないんだ…」
「だから言ったでしょ?事実だって」
とミチルさんはストップウォッチを取り上げ、ポケットにしまう。
「あ、それと彼女が燈馬の勝負服を作った人ね」
と着物を着た女性が一歩前に出る。
「お初にお目にかかります。ご紹介にお預かりいたしました私は北原麗華、旧姓
「こ、これはご丁寧にどうも…」ペコ
と深く一礼する北原さんに僕も一礼した。
「おい、今…野田って言ったか?」
「え、沖野さん…?」
と顔を上げると沖野さんが驚いた表情をしていた。
「は、はい…。野田って言ってましたが、それが…?」
「お前知らねぇのかよ!!!」
と沖野さんが近づいてくる。
「野田って言ったら、俺達の業界では有名な人物だぞ!ウマ娘の勝負服を仕立てる上でこの人に作ってもらおうと予約が殺到するほどの人物!この人の作る勝負服は布から全て一から作るから正に超一級品!億単位の取引でされるほどの代物だぞ!!」
「お、億…」サァア…
血の気が引いた。まさかそんな人に作ってもらったってことは…。
「あ、あの…、お金は…」
「お金の方はご心配ならないで下さい。旦那の方が出してくれたので」
「返金とか大丈夫ですよ。
「は、はぁ…」
と笑顔で答える北原さん夫婦。億単位が投資って…。
「…もういいかい?帰るよ。次が待ってんだ」
とスーツを着た女性が背を向けて出口へと歩いて行く。
「「「はい、理事長」」」
とミチルさん達はスーツの女性の後について行く。
「あの理事長って呼ばれてた人、一体何者なんだ?」
「…」
僕はチラリとターフを見た。そこには既に燈馬君の姿はなく、茫然としていたウマ娘とその職員しか残っていなかった。
〜ルドルフside〜
「54秒26だって…!」
「どういうことだ!!」
チームメンバーは騒然とし始める。だが、眼鏡をかけた男性は淡々と話をしていた。
「ええ、わかりました。…そういえば満君、今日は
と電話を切り、4人の生徒の方を見る。
「今日はもう終わりのようです。理事長達の帰るようなので私達も帰りましょうか。私が君達の家に送り届けますよ」
「「「「はーい」」」」
と男性は生徒を引き連れてレース場を去ろうとする。
「ま、待ってください!!」
「?どうされましたか」
私は帰ろうとする男性を引き止める。
「さっきの話は本当なんですか!タイムが54秒と言うのは…」
「あぁ。もしかして聞こえていらしたんですね。すみません、今後は控えるようにします。タイムの話でしたね…。ええ、事実ですよ」
「ッ!!」
「その様子ですと信じられないようですね。無理もありませんよウマ娘は2000mを2分、最大で1分30秒。ナリタブライアンさんは去年の大阪杯では1分29秒がレコードタイムとなっています。なのでウマ娘は最高でも1分30秒が限界です」
ウマ娘は最大時速60km。それ以上の速度を出したウマ娘は歴史上存在しない。
「まあ、それを簡単に上回るのが彼です。彼の実力は底知れないですから」
と男性は生徒達を連れてレース場を去って行った。
「異常過ぎる…。ましてや1分を切るなんて…」
信じ難いことが起こっているのは事実。だけど今はその現実を受け止めるしかない。
「今はマルゼンスキー達のところへ向かおう」
私達はすぐさまマルゼンスキー達のいる部屋へと向かった。
〜リギル・控え室〜
「──────だから、それがわからないのよ!!」
「わ、わかったわかったマルゼンスキー。一度落ち着いてくれ!」
控え室に向かうとマルゼンスキーは暗い表情で座っており、ブライアンは腕を組んで座っていた。マルゼンスキーは私達が来るなりレースでの出来事、自分に起きたことを説明してくれたのだが、一息入れる暇もなく説明するので余りよく内容がわからなかった。
「マルゼンスキー、頼むゆっくりでいいんだ。説明してくれないか?君の身に何があったのかを」
「ごめんなさい、取り乱してたわ…。…ゲートに入るまでは何もなかったわ。ただ、走り出そうとした瞬間地面が消えたような感じがしたの。そして気づいたら膝をついていたわ…」
「なるほど…」
「他に何か感じませんでしたか?例えば地面が揺れたとか」
「揺れ…?」
とマルゼンスキーはエアグルーヴの質問に眉をひそめた。
「
「「え?」」
「地面が揺れてたなんて私は知らないわよ。私が感じたのは地面が消えたことぐらいしか…」
先程のマルゼンスキーの言葉が私を混乱させる。
「(ではあの揺れはなんだったんだ?自然現象、なんてことはないはず…)」
謎が謎を呼んだような気がした。これ以上は踏み入るべきなのか、それとも立ち止まるべきなのか…。今の私達には分からない。
ただ、私達が知り得ることは燈馬が前人未到、前代未聞の記録を叩き出したことだけだった。
読んで頂きありがとうございます。
余談ではありますが、燈馬の新しい勝負服はF○Oのオジ[ピー]アスの服装です。気になる方は是非調べて下さい。
それでは、また〜