レースの表現上手く出来るかわかりませんが、頑張ります。
〜中山レース場・立花side〜
『トゥインクルシリーズファンの皆様、お待たせしました。“ダービー卿CT”がまもなく開始します!』
実況の声がレース場内に響き渡る。僕達、チームクレアは中山レース場に来ている。理由は勿論、彼の応援だ。なんたって彼にとって久しぶりのレースなのだから。
「にしても良かったわね、あいつ。デビュー戦、出なくてなくて」
「ホントだよ、ホント。理事長には頭が上がらないよ」
とタイシンさんと僕の何気ない会話をする。本来、レースに出場する為には“デビュー戦”に出なければいけない。デビュー戦とは文字通り、デビューする為のレースだ。そのデビュー戦に出て初めて“トゥインクルシリーズ”に出場出来るのだ。でも、デビュー戦はもう過ぎている為、デビューはもう出来ないのだが先日、理事長から
『デビュー戦?明日、あの子はレースに出るのだろう?だったら、そのレースをデビュー戦にしたらいい!そして勝て!!あの子の頑張りを世に知らしめるのだ!!』
と言っていた。
『伝言!あの子に伝えておいてくれ!登録名は“前のまま”だと!!』
と付け加えていた。その事を彼に話すと「わかった」と言っていたので問題ないだろう。
「だがトレーナー、いきなりG3レースっていくら何でも無理があるんじゃないか?
とオグリさんが特盛の焼きそばを食べながら言う。
「うん、オグリさんの言う通りだ。だけど、皐月賞に出ると言っている以上なるべくG1に近い緊張感とかも経験してほしいしね」
と僕は返す。いくらレースと言えどレースのグレードによって緊張感が変わってくる。ちょっとした気の緩みがレースの勝敗を左右するから。それにしても…
「それにしてもオグリさん、それ何個目?」
「ングッ、26個目だ」
「…。後、何個食べる気?」
「最低でも20、いや30はいきたい」モグモグ
「ほどほどに頼むよ…」トホホ…
これでまた一つ、僕の財布からお金が飛んでいった…。
『ダービー卿CTを始めるにあたり“パドック”を行います。1枠1番…」
ワァァァァァァア!!!!と観客全員の歓声とともにレース前のパドックが始まる。パドックとはいわゆる自己アピールのようなものだ。これをファンの人達に見てもらい、且つ他のウマ娘達に自分が勝つ!という意思表示にもなる為、レース前には欠かせないものだ。
『そして!12枠12番、“シノン”!!…ってあれ?』
と実況の人が困惑し始め、観客の人達もどよめきだす。まあ、普通はそうなるでしょうね。だって…
だって、パドックに“男”がいるのはおかしいから。
男は前へ普通に歩いていき、両肩に掛かったジャージを右手で投げ捨てる。そして、ジャージを拾いそのまま帰って行った。
『えぇ、只今入ってきた情報によりますと、シノンはウマ娘としてではなく、“ウマ男”として登録されていると情報が入っています』
これは、URAも了承済みとのことです。と付け加えると更にどよめき始める。
「それじゃあ僕は彼のところに行ってくるよ」
「わかった、最前列は確保しとく」
とタイシンさんは告げ、ライスさんとオグリさんはその後ろついて行く。それを見送った僕は駆け足で彼のところに向かった。
〜レース場入口前〜
「おーい、燈馬くーん!」タタタッ…
「ん、トレーナー」クルッ
と僕はパドックを行っていた男、燈馬君を呼ぶと彼はクルッとこちらに振り返った。
「レース前のパドック、よかったよ」
「ああ、わざわざすまないな」
と燈馬君は返す。良かった、いつも通りみたいだね。とホッとしてる自分がいる。
「なんだ?それだけか?」
「それだけじゃないよ!レースの最終確認さ!!」
と僕は燈馬君は強く言う。
「レースの確認って、入る前にも確認したじゃないか」
「ダメダメ!こういう時こそ、レースの確認って一番大事なんだよ!?これを疎かにしてしまうと“大事な時”に力を発揮出来なかったりするんだから!!」
と燈馬に強く説明する。これは僕が普段、レースに出る子にやっていることだ。他のトレーナー達からは集中しているウマ娘の邪魔をするなって言うけれどもそういう時に限って緊張のあまり力が上手く発揮出来なかったりといろいろな事がレースに出る時がある。僕だって本当はこの子達の邪魔をしたくはない、けど全力で悔いなくやって欲しいから、その為にも緊張を解してあげたいしレース前だけでも力になってあげたいって思ってやっている。
「…」
と燈馬君はしょうがないという顔をしてこちらを向く。
「それじゃあ、確認ね。ダービー卿CT。芝1600mで平地、右外回りでバ場状態は良。要注意なのは1番人気のケイワンバイキング、2番人気のブラックホークの2人、この2人は間違いなく上位に上がってくると僕は踏んでいる。何せ今は調子がいいみたいみたいだしね。今日の燈馬君の作戦は“差し”だったよね。だから、最終コーナー手前には既に先頭にいてほしいと僕は思っている。それとスパートのタイミングだけはきっちりとね」
と僕はマークする相手と作戦、レースの情報などを簡潔に言うと燈馬君は僕に言ってきた。
「なあ、トレーナー。何で1600mのレースなんだ?これよりも長いレースがあったはずだが?」
と聞いてくる。
「なんでって、それは燈馬君が“あんなこと”を言ったからじゃないか…」ハァ…
とため息をつきながら言った。
そう、それは昨日のことだった────
〜回想〜
「「「「えぇぇぇぇぇえ!!!!????“クラシック三冠レースとトリプルティアラレース”の両方に出場するゥゥゥゥゥウ!!!!????」」」」
「ああ」
「ああ、じゃないわよ!!!あんたふざけてんの!!?」
「燈馬さん、いくらなんでもそれは無理だよ…」
「燈馬、頭でも打ったか?」
「タイシンさんやライスさんの言う通りだよ、いくらなんでも無理に決まってるよ燈馬君」
と燈馬君の今後の方針について部室で話し合っていたときに燈馬君が言った言葉にチーム全員が驚く。驚くなと言われるほうが難しい、だって燈馬君が言った事は現実的に不可能なのだから。
レースに出る中でクラシック部門というのがあり、皐月賞、日本ダービー、菊花賞の“クラシック三冠”と桜花賞、オークス、秋華賞の“トリプルティアラ”の2つがある。そして、ウマ娘達はこの2つのどちらかを選ぶことが決められており、例えばクラシック三冠レースを選べばトリプルティアラレースには出場出来ず、逆にトリプルティアラレースを選べばクラシック三冠レースは出場出来ないというルールになっている。まさにウマ娘達からすれば苦渋の選択なんだけど、まさか燈馬君がそのルールを壊しにくるとは…。
「安心しろ、出場する許可は貰ってる」
安心しろってどう安心すればいいんだよ…。
「まさかあんた、理事長やURAのお偉いさん達を脅したんじゃないでしょうね」キッ!
とタイシンさんが燈馬君を睨む。タイシンさんがそうなるのもわかる。もし、そんな人達を脅したとかすれば今後の僕達のレースに支障をきたすしオグリさんやタイシンさんのレース出場禁止とかになってもおかしくはない。
「大丈夫だ、“双方納得の上、許可は貰っている”」ゴソゴソッ
と燈馬君は自分のカバンを漁り始め、一枚のクリアファイルを僕たちの目の前に出してきた。その内容とは、
───────ウマ男、風間燈馬(シノン)はクラシック三冠レース、並びにトリプルティアラレースの両方に出場する許可を与える。
「「「「・・・・・・・・・」」」」
部室の空気が固まる。マジで許可貰ってきてるよ燈馬君。しかも理事長だけじゃなくてURAの責任者の人からもサイン貰って来てるし。
「なんなら、話の内容聞くか?」スッ
とカバンからボイスレコーダーまで出す。
「「「「いや、いい(です)」」」」
即座に断る。身体が絶対に聞いたらいけないやつだと警告音を出している。
「で、でも他のウマ娘達にはどう説明するんですか?」
と固まった空気の中でライスさんが燈馬君に聞く。
「そっそうだよ!そこら辺はどうするの!?」
と僕もライスさんの後に続いて聞いてみる。もしこの事がウマ娘にも話が行けば、トゥインクルシリーズは大パニックに成りかねない。
「URAによれば、男のウマ娘にもウマ娘同様で距離適性があるかどうかを知るために許可をしたと言うみたいだ」
「でも、それだとOP戦とかで良くない?何でトリプルティアラも出る必要があるの?」
「G1での結果が知りたいそうだ。G1でどう結果が出るかいち早く知るにはトリプルティアラしかないっていう向こうの判断だろう」
少し曖昧だがな、と言う。確かに裏のありそうな言い方をしている。けど、許可を貰っている燈馬君自身もわからないと言っているってことは上層部が何かを隠してることになる。それを聞くには上層部に直接聞くしかないだろうし。けど、こんなことを上層部が簡単に教えてくれるわけもないしね。
「まあでも、これで燈馬の方針は決まったんじゃない?」
「そうだね、タイシンさんの言う通りだ。燈馬君は明日にでもレースに出てもらうからね」
「わかった」
〜回想終了〜
「それでこのレースなのか。なるほど」
「うん、だから皐月賞も勿論だけど“桜花賞”も見据えてやらないといけないからね。だからその為にもこのレースで勝たないと桜花賞も厳しいよ」
燈馬君が昨日あんなことを言ったんだ、それも本気な目で。だから、僕もその気持ちに応えたいと本気で思ってる。
「もうすぐ時間だ。行ってくる」
「うん、悔いのないようにね」
燈馬君の背中を見送って僕もタイシンさん達のところに向かおうとした時、
「(あれ?何でこんなにも“足が重いんだ”?)」
後にこの違和感が最悪の結果を知ることを僕はまだ知らない。
〜中山レース場内・燈馬side〜
「フゥー、フゥー…。よし」
俺は今、レース場内のゲート前に来ていてレース前のストレッチをしているのだが、他のウマ娘達からの視線が痛い。まあ、気になってしょうがないよな。なんたって、“ウマ娘と同じ速さで走る男”なんてこの世にいないと言っても過言でもないからだ。バイクや車ならウマ娘と同じ速さで走ることは出来る、だが自らの足となると話は変わってくるしそんな人がいればたちまちビッグニュースだ。でも俺はニュースにもなっていないし普通に生活出来ていた。それに何故、“ウマ娘と同じ足の速さ”なのかも俺自身わからない。なんせ気づいた時から速かった。
「それでは、ゲートの方にお入りください」
と係員の人が俺たちに声をかける。それに合わせて他のウマ娘達の各ゲートに入っていき、俺も自分のゲートに入る。
『各ウマ娘、ゲートに入りました。さあ、今年のダービー卿CTの勝者は誰か!?』
と実況の声がレース場内に響き渡り、開場の人達も盛り上がる。そして、俺はスタートの構えをするが、
「(今日は一段と“足が重いな”。なんでだ?)」
と疑問を持ちながらゲートが開くのを待つ。そして、
バンッ
『スタートしました!各ウマ娘、綺麗なスタートを…おおっとどうした!?』
「「「「えぇぇぇぇ!?」」」」
「やべ」
『シノンだ!シノンがスタートを切れず前に倒れてしまった!!』
俺はスタートを切れず前に倒れてしまい、完全な出遅れをしてしまった。
〜同所・立花side〜
「ちょっとあいつ!何やってんのよ!?」
とタイシンさんが声を荒げる。それもそうさ、だって燈馬君がスタートを切れずに倒れてしまったんだから。
「燈馬君!!」
と僕は燈馬君の名前を呼ぶ。すると燈馬君は一度自分の足を見て立ち上がり、スタートを切った。
『先頭は1番ケイワンバイキング、5馬身離れて4番、続いて8番、外から9番、内2番ブラックホーク、その後ろは一列になっています』
と実況の声を耳に傾け、僕は燈馬君の状況を確認する。燈馬君は既に先頭と半分くらい差が開いていて、逆転は不可能と見ている。1800mは中距離より距離が短い、だから一度突き放されたらそこで結果が決まってしまう。
『さあ、直線から第3コーナー入っていくがここでもまた、突き放していくケイワンバイキング。それを追うように4番と8番、9番も上がっていく!』
「(だめだ、先頭から“5馬身”も離れてる…。逆転はもう…)ってあれ?」
「うそ…!」
「「!!!」」
『これは…!
僕は自分の目を擦り、もう一度レースの状況を見る。燈馬君が先頭から5馬身離れた位置にいた。スタートを出遅れ、半分もの差が開いていたのにも関わらず第3コーナー手前で先頭と5馬身の差まで縮めている。普通ならスタートが出遅れた時点で諦める。しかし、燈馬君は自分のミスをなかったかのような走りを見せていた。
「(これなら、逆転出来るかもしれない!)頑張れ!燈馬君!」
僕は力一杯の声援を送った。
〜同時刻・燈馬side〜
「(なんとか上がってこれたな)」
俺は先頭から5馬身離れた外側にいる。スタートに出遅れた時は流石にやばいと思ったがなんとかなったな。
「(さてと、先頭のやつも少しずつペースが落ちてきたな。最終コーナーで仕掛けるか)」
と俺はコーナーで仕掛ける準備をする…はずだった。
「!!」
隣で走っていたウマ娘が遠心力でバランスを崩し、こっちに近づいてきた。60キロ近くのスピードでコーナーを走っている為、遠心力もそれ相応の力が働く。俺とそのウマ娘との距離はほんの数センチ、それに遠心力とウマ娘の力が合わせれば、
俺は軽く吹き飛ばされる。
「ッ!!!」
俺は瞬時に受け身を取る体制になる。最悪でも胸が無事ならそれでいい。
「「「「燈馬(君)(さん)!!」」」」
「ゴホッゴホッ」
と砂埃が舞う中、俺はゆっくりと立ち上がる。
『ブラックホーク、ゴールイン!!!最後の直線でケイワンバイキングを抜き去りゴールしました!!!』
ワァアアアアッ!!と観客の歓声が大きくなる。
「…」
俺はぼぅっと立つことしか出来なかった。
こうして、俺の初戦は幕を閉じた。
読んで頂き、ありがとうございます。
このダービー卿CTは実際のレースを見ながら書きました。レースの表現って結構難しいですね。
それでは、また。