それでは、どうぞ
〜トレセン学園・立花side〜
「…」
「…ねぇトレーナー」
「な、何!?タイシンさん!」ビクッ
「何ソワソワしてんの?気持ち悪いんだけど」
「え…」
「…ら、ライスもそう思うな…。トレーナーさん、ずっとソワソワしてる」
「どうしたんだ?お腹減ったのか?」
「良ければお話しお聞きしますよ?」
「いやいや!大丈夫大丈夫!ほら見て!この通り、大丈夫だから!!」グイッグイッ
と僕は担当達の前でラジオ体操をする。
「で、ですが…」
「僕は大丈夫だからさ!ほらほら、トレーニングの続きやるよ!」
と担当達をターフへと戻らせる。僕は気を引き締める為に手で自分の頬を叩き彼女達の方へと意識を集中させた─────。
─────と言えれば恰好はつくだろうけど、本当のことを言えば今の僕は気が気じゃない。正直な話、トレーニングのことよりも“あのこと”で頭が一杯だった。
「(だめだ…。どうしてもあのレースが頭から離れない。今はトレーニングの最中なのに…!)」
先日行われた大阪杯。燈馬君が逃げの作戦を取り、マルゼンスキーさんやナリタブライアンさん達を抑えて圧勝。会場ではナリタブライアンさんの連覇を阻止され燈馬君への誹謗中傷は鳴り止まなかった。けど、僕の頭に浮かんだレースはその前の大阪杯だ。
「(誰も、一歩も動けず燈馬君だけがゴールした。それも1分を切り、50秒台に乗るという前例にはない記録。そして、その時に出走していたウマ娘達が口を揃えて言っていた“踏み込んだ瞬間に地面が消えた”という現象。あれは一体なんなのか、あれは燈馬君がやったのか…。それとも…)」
謎が謎を生んで解決の糸口が掴めない。これ以上悩んでも時間の無駄か…。今はトレーニングに集中しないと──────。
「随分と怖い顔をしているな。そんな顔してると周りの奴らが怯えてしまうぞ」
「えっ…」
この声、もしかして…。
「よっ。久しぶりだな、トレーナー」
「と、燈馬君…!」
そこにはトレセン学園の制服に身を包んだ燈馬君の姿があった。
〜部室〜
「それで?わざわざトレーニングを中止してまで俺に何かあるのか?」
「…もちろん。ここにいる全員、燈馬君に色々と聞きたいことが山のようにあるからね」
僕は燈馬君達を連れて部室へとやってきて燈馬君と対面するように座る。最初は僕一人で行こうとしていたんだけど、タイシンさん達が燈馬君の存在に気づき彼女達も燈馬君に聞きたいことがあるらしく一度トレーニングを一度中止して燈馬君のことに時間を当てることにした。
「まずは、お帰り燈馬君」
「ただいま」
「理事長には挨拶したの?」
「さっき行ってきた。特に何も言われなかったが、これからも頑張れよと一言言われたよ」
「そっか、わかった…。それじゃあ今から燈馬君に色々と聞きたいことを聞くよ?」
「あぁ」
「これは尋問じゃないから答えたくないことは答えなくていいよ」
「わかった。そうさせてもらう」
「じゃあまずは僕から…。燈馬君、君は“違法薬物に手を出していないよね?”」
「はぁ?トレーナー、それは聞く必要ないでしょ!URAが調べてデマだって言ってたじゃん」
「いや、
SNS上にて出ていた燈馬君の薬物使用の疑い。警察やURAが総力を上げて捜索した結果、この情報はデマであることがわかった。この情報をSNSに挙げた人物は厳しく罰せられ、レース場の立ち入り禁止等が言い渡された。けど、僕はこれがデマだとしても燈馬君には必ず聞こうと思っていた。もし燈馬君が隠れてそういったことをしてたとなると大事になりかねないからだ。
「やってないよ。そもそも薬物なんかに興味はない」
「隠れてやってたりは?」
「してない」
「その言葉に嘘偽りは?」
「ない」
「…そっか、良かった。これが本当となると僕も僕でやるべきことをやらないといけないからね」
「そうだな。トレーナーが一番大変だな」
「うん。一番大変になるよ、色々とね」
と僕は背もたれに寄りかかる。取り敢えず僕の中にあった疑念は晴れた。後はタイシンさん達が色々と聞いてくれるだろう。
「僕が聞きたいことは以上だよ。後はタイシンさん達に任せる。…まずは誰から行く?」
と僕は席から立って彼女達を見る。彼女達はお互いに顔を見合わせ、どうぞどうぞとお互いに譲りあっていた。譲りあっていた結果、トップバッターはクリークさんになった。
「燈馬さん、まずは私からでいいでしょうか」
「いいぞ」
とクリークさんは椅子に座る。
「トレセン学園への立ち入り禁止期間の間、何処にいらしてたんですか?」
「元々通ってた学校に行っていた。そっちでの出入りは禁止されていないからな」
「元々と言うことはトレセン学園に来る前の学校ですよね。確か小中高大一貫校の武天學園…ですよね?でも燈馬さんはそこからトレセン学園へ転校という形のはずです。転校前の学校に登校するなんて…」
「おかしいんじゃないか、てか?」
と燈馬君の言葉に頷くクリークさん。確かに転校前の学校に登校するなんてことはおかしな話だ。
「俺はトレセン学園と武天學園の両方に席を置いていてな、だからトレセン学園へ登校しようが武天學園へ登校しようがなんら変わりない」
「ふ、2つの学校に自分の席を置いているんですか!?」
「そういうこと」
2つの学校に席を置くなんて聞いたことないんだけど…。
「言ってしまえばトレセン学園生兼武天學園生ってことになっている。これは俺がここに来る時にそういう契約をトレセンと武天の理事長が結んでいる。気になるなら理事長やたづなさんにでも聞いてみるといい」
「は、はぁ…」
こういう話を聞かされたりすると燈馬君って有名人だっけ?て考えさせられるのもしばしばあるんだよね〜…。はぁ…。
「武天學園ってことはあの子もいるんですよね?」
「いるぞ。元気にやってる。たまには顔を出すようにでも言っといてやろうか?」
「いえいえ、お気遣いなく。元気なら母も喜ぶと思います」
とクリークさんは笑顔で返し、席を立つ。今度はライスさんが座った。
「つ、次はライスでもいい…かな…?」
「構わない」
「ら、ライスが聞きたいことはお兄様はどうやってあんなにも速く走れるようになったのか知りたいの!」
「そうだな…。トレーニングをして速くなった、としか言いようがないな」
「ぐ、具体的に!お、教えてほしいの!速く走るトレーニングとか、スタミナのつけ方とか!」
「…」
ライスさんの質問に燈馬君が額に手を当て考え込む。この様子からして、燈馬君は何らかのトレーニングをしていると見た。
「…あるにはある」
「「「!!」」」
「な、なら!「だが」え…」
「止めておけ、今のお前達では無理だ」
「は?どういうこと?」ガタ
「タイシンさん!落ち着いて!」
燈馬君の言葉にタイシンさんが噛み付く。けど燈馬君は至って冷静だった。
「何?私達なら無理とでも言いたいの?耐えられないからお前達は止めておけとでも言いたいの?」
「タイシン、この話はお前達に限っての話じゃない」
「どういうこと?」
「ましてやルドルフやシービー…。いや、ここにいるトレセン学園生全員に対して言える言葉だ。お前達では無理だ」
「だからそんなこと「耐える耐えないの次元じゃないんだよ」…は?」
「耐える耐えないの話じゃないんだよタイシン。ハッキリ言う、
「
「なら今ここでお前達4人が
「…そんなの、やってみないと「やるやらない以前の話なんだよ」…ッ」
「負荷がデカ過ぎるし、過酷過ぎるんんだよ。お前達のやってきてきたトレーニングの何十倍もな。実際、俺も何回も死にかけている。それぐらい俺達のトレーニングは生と死との隣り合わせなんだよ」
経験者は語る、と聞くが“死”が隣り合わせとなると僕も止めざるを得ない。楽観視してる人は一瞬で死に至る可能性が高いと燈馬君は言いたいのだろう。危険度MAXなトレーニング、というべきだね。
「だかなライス、今のトレーニングでも十分速くなれる。焦る必要はない、自分のペースでやることが最優先事項だ。焦れば焦るほど自分の首を絞めていくぞ」
「や、やっぱりお兄様は優しいね!ライス、少し焦ってたかも」
「大丈夫だ。誰にでもあることだ、気にするな」
「う、うん!」
とライスさんは立ち上がって席を開ける。次はオグリさんが座った。
「燈馬、この前のレースでのあの強さは君の本当の実力なのか?」
「この前、というと大阪杯のことか?逃げで圧勝した」
「違う。私が言っているのはそっちじゃなく、その前の大阪杯についてだ」
「…」
「あれが君の…
「…そうだ、と言ったら?」
「もしそうなら、私の聞きたいことはそれほどの実力を
「隠す、というと?」
「そんな実力を持っていながら何故隠してたんだ、ということだ。それぐらいの実力を前々から発揮していれば負けることなんてないはずだが…」
とオグリさんが言うと燈馬君は背もたれにもたれ掛かる。
「オグリ、お前は俺がどういったレース環境だったか覚えてるか?」
「あ、あぁ、覚えている。…レースに出ては何週間をも休み、トレーニングも週に2,3回、出来ても5回だったはず…。それがどうしたんだ?」
「それが“答え”だ」
「“答え”…、さっきのがか?」
コクリと頷く燈馬君。さっきのオグリさんの言葉に答えなんてあったかな…。
「要は
「そうだったのか。ということはもう─────。」
「力を抑える必要がなくなった、ということだ」
確かに燈馬君はレースを走った後は長期的な休みが多かった気がする。それにトレーニングも余り参加出来てなかったはず…。
「なら走ろう、今から」
「今からは無理だ」
燈馬君の否定にオグリさんがムッという表情をする。余程、燈馬君と走りたかったんだろうね。
「じゃ、最後は私ね。ほら退いた退いた」
とオグリさんを押し退けてタイシンさんが座る。
「私が聞きたいことは一つだけ。
タイシンさんが燈馬君に聞きたいことは意外にも燈馬君の過去についてだった。
「何故、俺の過去が知りたいんだ?」
「決まってるでしょ、このチームの中でアンタだけ一番
「謎、ねぇ…」
「生い立ちも知らない、過去も知らない。だからアンタの過去を知れば少しはアンタのことが…、その…分かる、かも…って」
タイシンさんが目を反らしながら言う。タイシンさんはタイシンさんなりに燈馬君のことを知ろうとしていた。
「(これは、僕も知りたいな。少しでも燈馬君のことを知れれば─────。)」
「そうだな…、俺の答えは────────“ノー”だ」
「ッ!!どうしてッ!?」ガタ!
タイシンさんは燈馬君の答えに立ち上がる。
「話しは終わりか?なら「待ちなよッ!!」…」
「なんで、なんで話さないのよ!!そんなに私達が信用ならないの!?」
「信用、か…。お前達のことは信頼してるし信用している」
「なら!「話したくない過去だってあるだろ?」ッ!」
「タイシン、お前の気持ちはよく分かる。人のことを知ろうとするのはいい事だ。けど、誰だって知られたくないことがある。無理強いさせるのはよくないと思うぞ」
「それは、そうだけど…」
「俺のことを知ろうとするのに咎めるつもりはない。ただ…」
と燈馬君の視線が下がる。
「ただ?」
「……いや、忘れてくれ」
と燈馬君は視線を上げる。さっきの表情といい、燈馬君は過去に何かあったことが読み取れる。何があったのかは知らないけど、燈馬君にとっては辛いことなのだろう。
バンッ!!
「うわ!な、なに!?」
と大きな音がしたので視線を移すと部室の入口に一人のウマ娘がいた。
「き、君は…“ナリタブライアン”、さん…?」
「…」スタスタ
とナリタブライアンさんは部室の中に入ってきて燈馬君の隣に立つ。
「何だ、ブライアン。生徒会の仕事はどうした?」
「そんなものはどうでもいい。それよりも────。」
とナリタブライアンさんは机の上に燈馬君の目の前になるよう座る。
「燈馬、私とレースをしろ。今からだ」
「「「ええっ!!?」」」
「…ッ!」
「…拒否権は?」
「あると思うか?さっさと準備をしろ」
とナリタブライアンさんは燈馬君に準備させようと促す。すると、部室にもう一人のウマ娘がやって来る。
「ブ〜ラ〜イ〜ア〜ンッ!!!貴様という奴は今日という今日はッ!……って燈馬!?来ていたのか!」
「相変わらず女帝さんは忙しいことで」
エアグルーヴさんが喧騒な表情をしながら入って来るなり、燈馬君を見て驚きの表情に変わった。燈馬君の言った通り、忙しいそうだ。
「全く、五月蝿い奴が来たな。まぁいい、今はアンタのことよりもコイツとの先約があるんでな。おい、さっさと行くぞ」ガシ
とナリタブライアンさんは燈馬君の首根っこを掴んでターフへと連れて行こうとする。
「待て、本気でやるのか?俺は今から帰ろうと…」
「拒否権は…ない」
「「こっわ」」
ギロリとナリタブライアンさんに睨まれる。やば、心の声出てた?
「待ってくれ、ブライアン」
とオグリさんがナリタブライアンさんの前に立ち塞がる。
「何だ、オグリキャップ」
「そのレース、私も参加させてもらう」
とオグリさんがナリタブライアンさんの目を見てそう言った。確かオグリさんも走りたいと言ってたしね。
「後にしろ。今は私とコイツとだ」バチバチ
「いや、最初に言ったのは私だ。最初に私が走る」バチバチ
バチバチと火花を散らす2人。
「ね、ねぇ提案なんだけど…、3人で走るのはどう…かな?」
「「……」」バチバチ
あれ?もしかして聞こえてない?
「俺、走りたくないから2人が走ったら────。」
「「わかった、3人で走る。仕方なくな」」
「(ワーオ、息ピッタシ〜)」
とオグリさん達はターフへと向かっていった。
「…ハッ!待てブライアン!!生徒会の仕事をサボるなー!!!」
〜トレーニングレース場〜
ザワザワ、ザワザワ…
「凄い人集り、ですね…」
「トレセン学園の情報網はとんでもないね…」
燈馬君が連れて行かれて数分が経った頃、トレーニングレース場ではジャージ姿のナリタブライアンさんとオグリさん、そして燈馬君がいた。すると後ろから2人のウマ娘がやって来る。
「何やらレースをすると聞いてやってきたが…、吃驚仰天、まさかブライアンとオグリキャップが燈馬とレースするとは」
「しかも設定レースが“日本ダービー”と同じ2400m。それにゲートを使った正に本格的なレース。模擬レースと聞いていましたがまさかここまでやる必要はあるのでしょうか」
「シンボリルドルフさん…」
「やあ、クレアのトレーナー君。ナリタブライアンが迷惑をかけた、すまない」
「いえ、とんでもないですよ。しかし…」
「あぁ。聞風喪胆、確かに私もその噂を耳にした時は驚いたさ。そこまでする必要はあるのかと…。けど、ブライアンを見たまえ」
「ッ!な、なんですかアレは!!」
とエアグルーヴさんが声を荒げる。僕もナリタブライアンさんの様子を見てみるとナリタブライアンさんの身体にオーラのようなものを纏っていた。
「あれは、一体…」
「一知半解、私にも分からない。ただ分かることは今のブライアンは私達の知る者と少し違う気がする」
「…」
少し心配になりながらもレースを見届けることにした。
「それじゃあ、ナリタブライアンとオグリキャップ、そして燈馬による模擬レースを行うよ。各自ゲートに入って」
とゲート近くにいたフジキセキさんが3人にゲートインの合図を出し、続々と入っていく。
「いいな〜、私も走りたかったな〜」ブゥブゥ
「マルゼンスキー、君はこの前模擬レースをしたばかりではないか」
「だって燈馬と走る機会なんてそう滅多にやって来ないのよ!?それに私もブライアンちゃんと同じで大差で負けてるのに…。リベンジしたかったわよ!」
「アハハハ…」
ターフの方を見るとそろそろスタートするであろう、緊張感が漂っている。
「それでは…、位置について、よーい…」
パァン、ガコン!
「スタート!!」
「「ッ!!」」ダッ
「…」ダッ
ゲートが開き、模擬レースが始まった。まず先頭に出たのは燈馬君で次にナリタブライアンさんと後ろにオグリさんという順だ。燈馬君はぐんぐんと前へ出ていきナリタブライアンさんとの差を広げていく。ナリタブライアンさんは差が開いていようとも落ち着いてスパートを切るタイミングを見計らっていた。オグリさんもナリタブライアンさんと同様だった。
「燈馬は“逃げ”か。大阪杯の時もそうだったが、何故“逃げ”の策なんかを…」
「ふむ…、こればかりは燈馬に聞いてみないとわからないな」
とエアグルーヴさん達の会話を横目にレースを見る。今は向こう正面へと変わり、未だ先頭の燈馬君にその背中を追うナリタブライアンさんとオグリさん。差は10バ身と言ったところだろうか──────、まだ動かない。
「(勝負は第3コーナーを曲がった時…!)」
ナリタブライアンさんとオグリさんが第3コーナーを曲がった。そしてそれと同時に──────!
「「ハァアアアアアアッッッ!!!」」
「仕掛けた…!?」
「少し早い気もしないが…、相手が相手だ。残るスタミナ全部使って挑むのだろう」
ナリタブライアンさんとオグリさんはスパートをかけ、単独で走る燈馬君に少しずつ迫っていく。
「凄い!あれだけあった差を縮めていくよ!」
「いったれェエ!オグリィイイ!!」
4バ身、3バ身と差を縮めていく。対して燈馬君は冷静でいた。でも、僕はその冷静さに不気味に思い始めた。
「(おかしい…。何であんなにも冷静でいられるんだ。差を埋められているのになぜ…?)」
そしてナリタブライアンさん達が燈馬君と1バ身差まで縮めた、までは良かった。だが──────。
「「〜〜ッ!!!」」
2人は懸命に走る、がその1バ身が埋まらない。どれだけ力を振り絞っても追いつかない。中々埋まらない1バ身という距離。燈馬君は未だ冷静に走っている。焦らず、淡々と走る────。
「…ッ」ダッ
残り300mのところで燈馬君がスパートをかけた。2人が縮めた差はみるみる内に広がっていき、5バ身離したところで燈馬君がゴール板を過ぎる。
「「ハァハァ…」」
「…」
2人は肩で息をする中、燈馬君だけは涼しい顔をしていた。
「これで、満足か?」
「ハァ…、ま、んぞくな…、わけ…ないだろ…!!」キッ!
ナリタブライアンさんが燈馬君を睨む。
「私は…、全力のお前と凌ぎを削りたいんだ!あの時のお前を見た瞬間、私は昂りを覚えた。ようやく、全力のお前と勝負が出来る…!そう思っていた…。結果は惨敗もいいところ、私は一歩も動くことが出来なかった。だからこそ、この模擬レースでもう一度勝負したかった。なのに!」
大阪杯での燈馬君は間違いなく“全力”の燈馬君だった。レース直後に息が上がっていたし断言出来る。けど、今の燈馬君は全力じゃない。あの時程の強さは感じられなかった。
「ブライアン。悪いがその想いはレースまで秘めろ」
「なんだと?」
燈馬君はナリタブライアンさんのところまで歩み寄る。
「こんなところで全力を使っても何も得ない。そうだろ?」
「だが私は!「ブライアン、お前なら分かるはずだ。渇きが満たされるのは模擬レースなんかじゃなく、本当のレースにこそあると」ッ!」
「そう焦るな。俺は逃げやしない。次は本当のレースで、な?」
「…チッ」
「オグリ、お前もそれでいいだろ?」
「…わかった。その時は全力で君と勝負する。だから燈馬も全力で来てくれ」
「その時は、な…」
と燈馬君は荷物を持ってターフを去って行った。見ていた人達も続々と帰っていく。
「…僕も帰ろうかな。まだやるべきことがあるし」
と僕もトレーナー室へと戻ることにした。
〜トレーナー室〜
「(これはここで…。ここはこうして…)」カタカタ
コンコン
「失礼します、立花さんはいらっしゃいますか?」ガラガラ
僕はオグリさん達のレース結果、記録タイムをまとめていた時、たづなさんがやってきた。
「どうされたんですか、たづなさん。資料に何か不備が?」
「いえ、そういうわけではなく。実は燈馬さんから預かっていた物がありまして…。戻ったら渡すよう言われまして」
「燈馬君から?何だろう…」
とたづなさんから封筒を受け取る。封をハサミで切り、中を確認した。
「なになに…、───────え、えぇ!?」
「ど、どうなされたんですか!?」
僕はたづなさんから受け取った封筒の中身に驚愕した。
「こ、これは─────!」
読んで頂きありがとうございます。
立花さんが見たものとは何でしょうね〜。気になる気になる!
それでは、また〜