それでは、どうぞ
〜トレセン学園、燈馬side〜
「次は宝塚記念だね燈馬君」
「そうだな。ここまで順調に来れて良かったよ」
春の天皇賞。ヴィクトリアマイル。安田記念。かしわ記念。帝王賞。どれも1着かつレコードで勝てた。後は1週間後に迫る“宝塚記念”だけだった。それを終えれば夏合宿が始まる。
「宝塚記念にはスピカのスペシャルウィークさん、リギルのグラスワンダーさんが出場する。特にグラスワンダーさんは用心すべき相手だ。ジュニア期にG1レースを勝ってるし、黄金世代と呼ばれる世代の一人だ。覚えておいて」
「了解」
「それでトレーニングなんだけど「その前に」……」
「これ、どうにかして」
「……」ギュウウウ
とこんな感じでずっとしがみついて離れないシービー。
「シービー、トレーニングがしたいんだが「ヤダ」……」
あの日以来、シービーが離れようとしなかった。俺が撃たれるところを見てしまって怖くなったんだとか…。
「シービーさんが怖くなるのも無理はないと思うよ。僕もびっくりしちゃったし、万が一ってことも考えちゃったしね…」
「何もなくて良かったって思えばいいんじゃねぇか…」
「そう簡単に気持ちの切り替えなんて出来ないよ…」
とこんな感じでなんやかんやで宝塚記念に向けてトレーニングを始めた。
〜翌日、宝塚記念〜
『トゥインクルシリーズファンの皆様、お待たせしました!待ち待った宝塚記念の開幕です!』
「今日の作戦はどうするの?」
「“逃げ”で行く。特に変わりはない」
ゲートに入るまでの少しの時間、俺はトレーナーとレースの作戦について話をしていた。
「最近思ったんだけど、逃げや先行が多くなったね。いつもなら差しとか追込なのに…」
「まぁ…気分転換ってやつさ」
俺は最近のレースで差しや追込で走らなくなった。変えた理由は特になく単純に走れるかなと思って走ったら思ってた以上に走れた、そういった感じだ。
「(夏合宿でミスディレクションの精度も上げたいし、今はこのまま逃げとかで走った方が良さそうだな)そろそろ行ってくる」
「うん。わかった」
俺はトレーナーとの話を切り上げ、ゲートに向かう。
「シノンさん、6枠7番にお願いします」
「はいよ」ガコン!
とゲートに入ると後ろの扉が閉められる。
「燈馬さん!お隣だったんですね!」
「ん?フクキタルじゃねぇか」
と隣にはフクキタルことマチカネフクキタルがいた。そっか、こいつも宝塚記念出てたんだ。
「フッフッフ〜。燈馬さんには申し訳無いんですが今日のレースは私が貰います。今日は金の鯱鉾が良いとシラオキ様からお告げを聞いたので!」バン!
とどこから取り出したのかピカピカに輝く金の鯱鉾がデカデカと存在感を出していた。
「…お前、そんなの持って走んのか?バ鹿なのか?」
「違いますよ!!引き摺って走るんですよ!!」
「やっぱバ鹿じゃねぇか。せめて背負え」
いや、背負えっておかしいな。置いてけだな。
「これを持てば今回のレースは私の…。え?没収??ま、待って下さい!!それがないとシラオキ様からのお告げが〜〜!!!」
何かを察したスタッフがフクキタルの持っていた金の鯱鉾を取り上げた。しかもあの鯱鉾持った時、スタッフ複数人が「重ッ!!」って言ってたな…。あれってマジの鯱鉾か…?こいつ相当ヤベーぞ。
ピリピリ……。
「……?」
騒いでいるフクキタルの奥でピリつく空気を感じる。あれは…。
「(グラスワンダー、か?しかもあのオーラ……)」
ブライアンの時に感じ取った感覚と同じ。”アレ“の予兆、前触れか?
「(まぁ、勝てなければ意味ねぇけどな)」スッ
俺はスタートの構えを取る。
『いよいよ宝塚記念────!』
パァン、ガコン!
『スタート!!』
「ッ!」ダッ
と俺はゲートが開いたのと同時に先頭に出るよう前につく。
『多くの夢を乗せ、ウマ娘達が大歓声のスタンド前を駆け抜けて行きます。先頭にはシノンが大きく差を開くように前に出ます。後の集団はやや固まった状態です』
「(さて、誰が上がってくるか…)」
俺は走りながら最後の直線で誰が来るかを考えていた。
「(来るとしたらスペシャルウィークかグラスワンダーか。スペシャルウィークは春天の時の走りを見るに来るとは思うが、恐らく精神面で何かしらあったんだろうな。ゲート前にチラリと見えたが顔に出てたな)」
スペシャルウィークは今のレースに集中出来ていない。ドーベルから聞いた話だが、スペシャルウィークは何かとスズカといるらしく、口を開けばスズカスズカと言っているらしい。恐らくこのレースで勝つことはないだろう。となれば…。
「(やっぱりグラスワンダーが上がってくるか。そういやあいつもスペシャルウィークと同級生だったか?あいつもあいつで執着するんだな)」
グラスワンダーがスペシャルウィークの後ろについているのはわかっていた、というよりかは“そうするんじゃないか”と思っていた。
『レースもいよいよ残り800mに突入!ここで各ウマ娘達のペースが上がる!第3コーナーで11人のウマ娘達が固まってきました!』
「やぁあああああああっ!!!」
『スペシャルウィークだ!スペシャルウィークが外からスパート!!先頭に追いつけるか!?』
どうやらスペシャルウィークがスパートを仕掛けたそうだ。
「(やっと来るのか。もう色々遅ぇけど)」
何せお前の後ろには──────。
『グラスワンダーだ!グラスワンダーが外から上がってきた!』
それを見越した走りをするやつがいるんだから。
『グラスワンダーがスピードを上げた!スペシャルウィークを一気に交わした!だが先頭は未だシノン!!』
「いけーーー!!グラスワンダー!!」
「差せーー!!差し切れーー!!」
「はぁああああああっ!!!」
『グラスワンダーが更に加速ッ!!先頭と残り1バ身!!』
「(来れるモンなら来てみろ、グラスワンダー)」
俺はグラスワンダーとの差、1バ身をキープして走る。敢えて離さない、そのまま保つ。
「くっ!?」
『グラスワンダー縮まらない!あと1バ身!あと1バ身の差が埋まらない!!』
グラスワンダーは何とかして差を埋めようとするが埋まらない。グラスワンダーが加速すれば俺も加速する。完全なイタチごっこだ。
『シノンが1着でゴールイン!!グラスワンダー惜しくも2着!あと1バ身だけでした!』
『非常に惜しいレースでしたね。グラスワンダーさんも何とか食らいついたのですが』
「ハァハァ…」
肩で呼吸するグラスワンダーと困惑の表情をするスペシャルウィークを横目に俺はターフを去った。
〜⏰〜
「(これが終わればあとは夏合宿。それからエリザベス女王杯でそれから…)「待って下さい!」ん?」
帰る途中、後ろから声をかけられる。
「お前は確か…」
「キングヘイローです。クラシックではお世話になりました」
「あぁ。で、そのキングヘイローが俺に何か用でも?」
「単刀直入に言います。あの走りはなんですか、まるでグラスさんを煽るような走り」
「煽るような走りじゃなかったと思うんだが?」
「とぼけないで下さい!」
とキングヘイローの声が響き渡る。
「貴方の走りには熱が感じられない!情が感じられない!貴方は何の為に走っているのか、私には分からないのです!」
「情、ねぇ…」
そんなのがあったら───────。
「
「それってどういう「キングさん」グラスさん…」
キングヘイローの後ろからグラスワンダーがやって来る。
「燈馬先輩、今日のレースありがとうございました。私の今回の敗因はスペちゃんに執着し過ぎてしまったことです。燈馬先輩もそれを見抜いていらっしゃいましたよね?」
「まぁな」
「今回は私自身が原因で敗けてしまいたが、次はこのような無様な姿はお見せしません。そして─────。」
とグラスワンダーが俺との距離を詰め、鋭い目つきで俺を睨む。
「受けた屈辱は……、倍にして返しますッッッ!!!」
「出来るモンならやってみな。不退転娘」
と言って俺は帰路に着いた。
〜キングヘイローside〜
「良かったの?再戦要求をしなくて」
と私は燈馬先輩の背中をずっと見つめるグラスさんに話しかける。
「はい。今の私がもう一度、燈馬先輩と走ったところで今日以上の屈辱を受けるだけです。ですから、まずは力をつけて今度は私が燈馬先輩に屈辱を与えるのです。私に屈辱を与えるということはどういう事かを識らしめる為に」ゴゴゴ
「ぐ、グラス…さん?もしかして…、怒ってらっしゃる?」
「いえいえ〜。ぜ〜んぜん、怒ってなどいませんよ?」ピキピキ
「ひっ!」
グラスさん、貴方すっごく青筋が立ってるわよ…。燈馬先輩、とんでもない方を怒らせてしまったようね…。
「そ、そんなことより!スペシャルウィークさん、大丈夫かしら…?レースに集中出来ていなかったような感じがしたけれど」
と私は燈馬先輩から話題を変えた。グラスさんをこれ以上怒らせない為に。
「えぇ。先程、スペちゃんに”私は全力でスペちゃんに挑みに行きました。スペちゃんは全力で来てくれましたか?“と問いかけました」
「答えは返ってきたの?」
「……」フルフル
と首を振るグラスさん。最近のスペシャルウィークさん、何かとスズカさんスズカさんって言ってたものね。やっぱり、スズカさんの故障が影響してるのかしら…。
「(私も他人の心配をしている場合じゃないわ。私ももっと強くならないと…!)」
と私は気合を入れ直した。
〜病院前・燈馬side〜
「(もうそろそろかな…)」
ウィ〜〜〜〜ン…。
「……」
「よぅ、スズカ」
「燈馬君…」
「ちょっと歩かねぇか?」
〜⏰〜
「脚はどうだ?」
「うん。問題ないって…。燈馬君がケアしてくれたおかげで早く復帰出来そう…」
「俺は何もしてねぇよ。でもそうか…、それなら本格的に復帰に向けてトレーニングか」
と俺は病院から出て来たスズカと並木通りを歩いていた。
「……」
「…スペシャルウィークのことか?」
「え、どうして…」
病院を出てからスズカの表情は暗いままだった。大方スペシャルウィークのことについてなんだろうということは予想がついていた。
「最近、付き纏ってくるじゃねぇかアイツ。無理矢理荷物持とうとしたり飯分け与えたり、スズカの負担を軽くしようとしてるがそれが逆効果になってしまっている。アイツは今の自分を見失っている」
「……っ」
スズカは恐らく気づいていた。だが、スズカの性格上あまり口出し出来ないのも俺は知っている。だから、どうすればいいのか分からない。
「(そんなもの、突っぱねろよって言ってもスズカには難し過ぎる話だし、何よりこれはチームスピカの問題だろうな)」
「燈馬君、私…分からないの。どうしたらいいか、分からないの…」
「そりゃ、俺はお前じゃないしお前のことは分からん。お前が一体何に悩んでいるのかなんて分かりゃあしないからな」
「……」ギュ
とスズカの拳が強く握られる。
「まぁでも、相談には乗ってやるよ。俺にしか話せないことだってあるだろうし、俺になら躊躇いなく話してくれていいんだぜ?スズカ」
「燈馬君…」
「さ、早く帰ろう。フジの奴がうるせぇからな。寮まで送るよ」
と俺は寮までスズカを送り届け、自分の家に帰った。
「ねぇねぇ燈馬!海だよ!海!」
「わーってる、わーってるっての。耳元で騒ぐな」
「みんなー!もうすぐ着くからねー!」
「「「「「はーい!」」」」」
夏合宿の時期がやって来た。
読んで頂きありがとうございます。
頑張って投稿していきますのでよろしくお願いします。
それでは、また〜