ウマ男 新たな歴史を創る者   作:アフターヌーンティー

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 大変遅くなりました。すみません。



 それではどうぞ


やっちまった

  〜選手控え室・立花side〜

 

 「…」

 

  僕は燈馬君の控え室の前にいる。後ろにはオグリさんやタイシンさん、ライスさんがいてみんな暗い表情をしている。先程、燈馬君のレースが終わってみんなで控え室に来たのはいいけれどなんて声をかければいいかわからない。お疲れ様、惜しかったねって言えばいいのか、それともミスしたところを指摘すべきか。どちらにせよ、入ってみないとわからない。僕は控え室のドアノブを捻り、押し開ける。するとそこには壁に寄りかかり、座って天に向かって顔を上げている燈馬君がいた。

 

 「燈馬君…」

 

  そうなるのも無理はないか。なんせ燈馬君はウマ娘並のスピードを持っているがパワーはない。故にウマ娘が燈馬君にぶつかれば簡単に吹き飛んでいく、さっきのレースで起きたのがその証拠だ。だけど、怪我がなくて本当によかった。

 

 「…惜しかったね、あとちょっとだったんだけど仕方ないね。また、次頑張ろうよ」

 

  と重たい空気の中、僕は燈馬君に言ったけどまだ重たい空気のままだった。ダメか…、そう思った時だった。

 

 

 

 

ドドドドドドドドッ!!!!!

 

 

  ともの凄い音がこっちに近づいて来る。

 

 「な、なに!?」

 

 「地震か!?」

 

  とワタワタしていると、バァンッ!!と勢いよく扉が開き、

 

 「こんのォ、バカ燈馬ァァァァァァァァァアアアアアアア!!!!

 

  と鬼の血相をした巨漢の男が大声を上げて入ってきた。

 

 「ヒィィィィィイッ!!!!」

 

  とライスさんは驚き、燈馬君にしがみつく。

 

 「ミチルさん」

 

 「な~にあんた澄ました顔してんだい、このバカ燈馬!!あれだけ“間違えるなよ”って言っておいたのによくもやってくれたわね!!!」

 

  ズンズンと部屋の中に入っていき、燈馬君の目の前に立つ。

 

 「ちょ、ちょっと待って下さい!あなた一体誰なんですか!?しかも、ここは関係者以外立ち入り禁止です!どうやって入って来たんですか!?」

 

  と僕は巨漢の男と燈馬君の間に入って巨漢の男に言った。すると、巨漢の男が僕の顔に自分の顔を近づけジロジロと僕の顔を見る。

 

 「な、なんですか」

 

  と緊張が走る。すると、

 

 「あらやだ!!“私”の好みにどストライクね!!」

 

 「え、え?」

 

  と困惑する僕の手を握り、

 

 「あなた、どこに住んでるの?ここから近い?それとも遠いい?それとも県外?あと連絡先教えてくれない?あ!それともラ○ンのほうがいいかしら!?」キャッキャッ

 

  と僕にマシンガントーク並の質問をしてくる。

 

 「(え?え?どういうこと?タイプ?え?え!?)」

 

  と僕の脳内はパニックになってしまった。

 

 「そこら辺にしときなよ、ミチルさん。トレーナーが困ってる」

 

 「あら、そうね。ごめんなさい」パッ

 

  と謝りながら僕の手を離す。

 

 「紹介が遅れた。この人は南原 満(みなみばら みちる)さん。トレーニングジムのトレーナーをやってる。あと1年間俺の面倒をみてくれた人」

 

 「は~い!私は南原満っていいます!ピチピチの“女”です!気軽にみっちゃんとかミッチーとでも呼んでね〜!」

 

  と燈馬君が紹介してくれた巨漢の男、南原満さんは元気よく自己紹介してくれた。でも、今“女”って言ったよね。

 

 「あの、南原さん。今“女”って言いましたよね?どう見てもおとk「失礼ね!私はどっからどう見ても“女”でしょ!!」えぇ!?」

 

  キーッとなりながら訴える南原さん。身長が2m近くあり、上半身は服の上からでもわかるくらい鍛え抜かれ今でもはち切れんばかりの筋肉、足も太く、太ももに関しては太さが60センチ近くある。なにより、顔に普段女性がやっているような化粧がされ髪は後ろで一つに纏まっている。いや、これで女性と言い張るのは無理があるでしょ!

 

 「話が逸れてしまったわね。それで燈馬、あんたちゃんと出る前に確認した?」

 

 「確認した。けど、気づかなかった」

 

 「見分ける方法教えてあげたわよね?ちゃんと“靴裏”を見なさいって」

 

  と燈馬君と南原さんが会話をしだす。靴裏?

 

 「すみません、靴裏ってなんですか?」

 

  と僕は南原さんに質問した。

 

 「あぁ、この子ね…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  レース用シューズを履かずにレースに出たのよ」

 

 「え?それってどういう…」

 

  と僕が質問しようとした時、南原さんは燈馬君がレースの時に履いていた靴の片方を持って僕に差し出してきた。それを僕は受け取るように両手を出す。すると南原さんが真剣な顔で

 

 「“しっかり持つのよ”」

 

  といい、手を離した。

 

 「ッ!?」

 

  ズシンッと手の上にもの凄い重力が掛かりあわや靴が手から落ちそうになった。しかもこれ、凄く重い!まるで鉛を持っているかの様な感覚だ!

 

 「っこれ!凄、く!重い、ですね!何kgあるんですか!?」

 

 「“50kg”よ」

 

  ご、50kg!?人って片足で持てる重さって精々3㎏とかだよ!?その10倍っていや、それ以上か…!

 

 「燈馬の足は少し特殊でね、10kg位の重りなんて簡単に上がるのよ」

 

  と説明してくれる。少しって言ったけど大分特殊だと思いますよ…。ん?待てよ?

 

 「それじゃあ、なんであの時転んだんですか?それくらいの力があるならウマ娘と当たってもなんら問題ないと思うんですが」

 

 「私もそれについてはお手上げなのよ。ただ、わかったことはこの力は“走るための力”だけであって“衝撃に耐える力”はないのよ。」

 

 「衝撃、ですか?」

 

 「そう。知ってるでしょ?燈馬にはウマ娘と対等に走る力はあるけれど、ウマ娘が持ってる“衝撃に耐える身体”は持ち合わせていないってこと」

 

 「確かに…」

 

  確かに言われてみればそうだった。燈馬君はウマ娘並の足の速さはあるけどウマ娘並の強い身体は持ってない、燈馬君の力は人並み程度だ。

 

 「だから、あの時ウマ娘のパワーに負けたの」

 

  そうだ。燈馬君は全力で走るウマ娘とぶつかれば当然、パワーのない燈馬君が吹き飛ばされるのは目に見えている。それに今回のレースで他のウマ娘達が情報共有してるはずだ。もし燈馬君に負けそうになった時はよろめきに応じてぶつかれば勝てるという情報が出回ってもおかしくない。

 

 「(今からウマ娘に負けないパワーをつける、なんてことは何年かかろうと絶対に無理だ…)」

 

  と僕が落ち込んでいると

 

 「大丈夫よ」

 

  と南原さんが声をかけてくれた。

 

 「これくらいのことで燈馬はめげないわ。こんなことで悄気げてたらクラシック三冠とトリプルティアラの同時獲得は不可能よ」

 

  と言ってくれた。

 

 「それに、燈馬は既に打開策を考えてる…、いいえ、既に出来てるわ。だってそういうふうに育てたんだもの。“負けた時はすぐに敗因を知り、勝利に繋げる策を作れ”ってね」

 

  と言って部屋の扉に歩いていき、

 

 「次のレース楽しみにしてるわ、どんなレースを見せてくれるのかを」ガチャ

 

  じゃあね、と言って部屋から出ていき静寂な空気が流れる。

 

 「帰るか」

 

  と言って燈馬君は立ち上がり帰る支度をする。

 

 「ねぇあんた、勝つ策なんてあるの?」

 

  とタイシンさんが燈馬君に投げかける。

 

 「策は…ない」

 

 「でもさっきの人はあるって言ってたじゃない。あんたホントに勝つ気あるの?」

 

  と目を細めて燈馬君を見る。すると燈馬君が作業を止めてこちらに振り向く。

 

 「俺は凡人だ。そんな凄いこと考えれるわけないだろ?それに…」

 

  と燈馬君が一呼吸おいて話し始めた。

 

 「それに俺はやるべきことをするだけだ。“勝つ為に”な」

 

  と真剣な顔で話した。勝つために努力を厭わない、それが燈馬君の真骨頂だ。面倒くさいって口では言っていても勝つためなら地に這いつくばってでも、泥くさくてでも努力するのが燈馬君なんだから。

 

 「トレーナー、レース場の予約は「既に出来てるよ」わかった」

 

 「それじゃあ、帰ってトレーニングするか!勝つ為に!」

 

 「「「「はい!」」」」

 

  行こうか!と僕の合図でみんな控え室を出て、トレセン学園を目指して歩き出す。

 

 「気になってたんだけど、靴裏って何かあるの?」

 

  と燈馬君に聞く。そういえば、靴裏に何かあるって聞いたけど何があるのかな?と思っていると燈馬君がレース用のシューズを持って靴裏を見せてくれた。そこには…

 

 「“(ともしび)”?」

 

 「そう、ミチルさんが彫ってくれた。なんでも“周りを明るく照らすもの”って意味で、そんな人になれって言ってた」

 

  燈ってそんな意味があったのか、知らなかったな。

 

 「あと、ミチルさん男だから」

 

 「うん、知ってた」

 

  だって、あんな女の人いたら怖いもん。そう思いながらレース場を出た。

 

 

2日後 月曜日

 

 

 〜トレセン学園・造園花壇 燈馬side〜

 

  この造園花壇は理事長が造った一角だ。何でも学園の中に野菜栽培や花の育てるのが趣味のウマ娘が過去にいたらしくそれを見かねた理事長が「増築!ウマ娘達の趣味や授業の為の造園を造る!」と理事長を筆頭にウマ娘やトレーナー、職員達が学園の空いている土地の一角を今ある造園にしたそうだ。野菜栽培は勿論のこと、花壇を作って花を栽培したりと昔から緑溢れる造園になっていたのだ。今でも授業の一環や趣味のウマ娘が野菜や花が育てられている。そして、その少し離れたところに1本の木が植えられている下に俺は今寝転んでいる。今の時間は10時、学園は授業真っ只中だ。つまり俺は授業をサボってここで寝ているわけだ。ここは学園の建物の影になっていて見通しも悪く、余り人目の付かないしサボっていてもこの場所を知っている人以外にバレることはない。

 

 「(といってもここに生徒が来ることは余りないからな)」

 

  と思っていると携帯がブブッと振動する。確認してみるとスズカからメッセージがきていた。

 

 『何処にいるの?今授業なんだけど早く教室に来てね』

 

  スズカのやつ、心配性なのだろうかと疑うぐらいメッセージを送ってくる。この数分前にも『迷ってるの?迎えに行こうか?』とか『具合悪いの?大丈夫?』のメッセージが来ていた。お前は俺の母さんか、とツッコミたいくらいだ。

 

 「『大丈夫だ、昼には戻る』と」ポチポチ

 

  とスズカに返信して携帯をポケットにしまい、目を瞑る。今日の気温はそれほど高くなく低くなくポカポカしていて眠気に誘われそうだ。このまま眠っていこうか…そう思ったのだが、

 

 「おい、そこは私の場所だ。どけ」

 

  と横から声をかけられた。

 

 「悪いがここは俺が先に見つけたところだ。他を当たってくれ、“ブライアン”」

 

  と声のする方を向くと、フンッと鼻を鳴らし仁王立ちで腕を組んでいるウマ娘、ナリタブライアンがいた。黒色の耳と尻尾、腰まである黒髪は後ろで一つに纏められており、鼻には白色の絆創膏が貼られている。

 

 「ほぅ随分と強気だな、燈馬。先日のレースでは散々な結果だったのにも関わらず、授業に出すにサボりか。クラスの奴らに会うのが怖くなったか?」フッ

 

 「んなことねーよ。そういうお前こそいいのかこんな所にいて。『生徒副会長としての仕事を全うしろ!』って同じ副会長のエアグルーヴに追いかけ回されるんじゃないのか?」

 

 「その時は見回りをしていたって言えば済む話だ」

 

  本当に済む話かね…。さっきも言った通りブライアンもエアグルーヴ同様生徒会の副会長を勤めている。ブライアンはルドルフの次に5人目となるクラシック三冠を達成したウマ娘で世間からは“シャドーロールの怪物”って言われている。その後も有馬記念なども勝ちルドルフから生徒会に入らないかと誘われいやいやながらでも生徒会に入ったとか。今のコイツを見て生徒副会長と言えるだろうか、ホント。

 

 「まあ、今日の私は機嫌が良い。見逃してやらなくも無いな」ゴロン

 

  と上から目線の言葉をニヤニヤしながら言って俺の隣に寝そべった。

 

 「それで?なんのようだ?単なる見回りではないだろ」

 

  コイツが俺のところに来ることはまずない。来るとしたら何かしらの理由があるはずだ。そう思っているとブライアンの顔つきが変わった。

 

 「“何故負けた”」

 

  と俺に問いかける。

 

 「お前は私達に言った、強くなって帰ってくると。だから私はお前の出ていたレースを楽しみにしていた。なのに…」

 

  ギリッと歯軋りの音が聞こえる。俺はこいつらと強くなって帰ってくると約束したのにも関わらずこの前のレースで負けたのだから。怒っていてもおかしくはない。

 

 「失望したか?」

 

 「フンッ、私はそんなことで失望したりなどしない。それに言っただろう“今日は機嫌が良い”と。だからこの前のレースの敗北は見逃してやる」

 

  とブライアンが言った。

 

 「へぇ、案外優しいところがあるんだな」

 

 「勘違いするな、お前を負かすのはこの私だ。会長でもエアグルーヴでもましてやマルゼンスキーでもスズカでも姉さんでもない…、お前は私が倒す。だからこれ以上の負け、私以外の奴らに負けることは許さん」

 

 「そうか、それじゃあ俺も負けない為にトレーニングをする。勿論、お前に負けない為にもな」スッ

 

  と言って立ち上がり、ブライアンを見る。ブライアンは寝転んだまま俺を見て笑っている。

 

 「勝つのは私だ」

 

 「いや勝つのは俺だ」

 

  とお互いが睨みあいの状態が続く。

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 「どうやら昼飯の時間のようだ。俺はこれで失礼するよ」スタスタ…

 

  とブライアンから視線を外し食堂へと歩き始める。

 

 「燈馬!」

 

  とブライアンに呼び止められ振り返るとブライアンは立っていて

 

 「獲れよ、三冠とティアラ」

 

  と言ってきた。

 

 「あぁ」

 

  とブライアンに手を上げて食堂へと再び歩き始めた。

 

 

 

 〜同所・ナリタブライアンside〜

 

  私は燈馬を見送ったあと再び横になった。無表情で何を考えているかわからない。だが勝つための試行錯誤、執念はあの時から変わってない、むしろ数倍上がっている。あの頃の私は勝つことに飢え、渇きに渇ききっていて潤いや癒えることはなかった…燈馬が現れるまでは。クラシック前の単なる模擬レースで私はあいつから敗北という二文字を知り、初めて敵わないと思った…、だが同時にこいつに勝ちたいという信念が芽生えた。そして他の奴らからは味わえなかった闘争心に火がつき、燈馬に勝つというライバル心が強くなった。だが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  だがそれ以降、燈馬と走ることはなかった。

  燈馬がレースに出なくなった。理由はわからなかった。あいつは、燈馬は強い。会長(シンボリルドルフ)を、もしかしたら元生徒会長(シンザン)を上回る程の実力者だ。それ程の実力者が何故レースに出なかったのか…、不思議な思いはしていたがそれ以前に怒りがこみ上げてきてそんな思いはかき消された。私は燈馬を呼び問い質した。「何故レースに出ない」、「何故走らない」、「私と走れ」など。けど、燈馬は首を縦に振らなかった。せめて理由だけでもと思い燈馬に聞いたが何も答えてはくれなかった。

  そして、少し月日が経って私はクラシック三冠を達成し世間から“シャドーロールの怪物”と呼ばれるようになった。トレーナーを含めチームのみんなや姉さんなどたくさんの人から祝福の声をもらった、なのになぜか嬉しくなかった。理由はすぐにわかった、燈馬に勝てていなかったからだ。燈馬に勝ってこそ初めて勝利したことになる、だから私は燈馬に勝つまでレースを辞める訳にはいかなかった。

  燈馬が学園を離れた。唐突だった。理由は自分にはまだトゥインクルシリーズに出る器じゃないと言っていて、強くなって帰ってくるといって去った。当時の私は何がなんだかさっぱりだった。燈馬は去り際に“2つ”の約束をした。1つは私と、もう一つは私を含めた他のウマ娘達と。それだけを残していった。だから信じている、燈馬なら必ず守ってくれると…。

  だが…あいつは破った!私との約束を!あのレースを見ていた私は怒りでどうにかなりそうだったが、上手く抑え込んだ自分を褒めてほしいものだ。だが安心しろ燈馬。私は懐の深い奴だからな、怒りは有れど失望はしない。それにあの“加速力”、あの時よりも格段に上がっているし、それを見れただけでも良しとしよう。だから今回の負けはなかった事にしておいてやる。だから、

 

 「だから今度こそ負けるんじゃないぞ。私と走るまでは」

 

  そう呟いて私は目を閉じ意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜トレーニングレース場・燈馬side〜

 

タタタッ…

 

  俺は今チームのみんなとレース場でトレーニングをしている。今日は午前中授業の為、早くからトレーニングをしている。

 

 「よし、アップはこのくらいにして今から本格的にトレーニングをしていこう!」

 

  とジョギングをしていた俺たちにトレーナーが声をかけ、みんなが集まる。

 

 「うん、身体の方は温まったみたいだね。今から君たちに行ってもらうのは“ビルドアップ走”だ」

 

 「…ビルドアップ走ってなんですか?」

 

  とトレーナーの言葉にライスが質問する。

 

 「ビルドアップ走っていうのは心肺機能を改善させたり、自分の走力がどのくらいあるのか把握したりするものなんだ」

 

  と説明する。

 

 「やり方は簡単。まずはジョギングのペースからスタートして5分毎に少しずつペースを上げていくんだ。そして呼吸がきつくなったらそこでストップ、あとは軽く流してくれたらいいよ」

 

  ちなみにタイマーはこれね、とバスケでよく使われるようなブザー付タイマーを軽く叩く。

 

 「それじゃあスタートラインに行って、準備をしてね。合図はこっちでするから」

 

  と聞いた後、俺たちはスタートラインに行って合図を待つ。

 

 「久しぶりに燈馬と走れるなんて…。飛ばし過ぎには注意だな」

 

  とオグリが待っている時に話しかけてきた。

 

 「久しぶりっていっても1年じゃねぇか」

 

 「いや、1年でも私にとっては久しぶりで仕方ないんだ」

 

 「そうそう、オグリの言う通り。あんたとなんてあん時以降走ってないんだから」

 

 「…そうだよ!ライスも燈馬さんとまた一緒に走れるなんて嬉しいよ!」

 

  そうか、と3人からの喜びの声をもらった。いい奴らだなこいつらは、ルドルフ達もそうだけど…。なんでなんだ?

 

 「それじゃあ、いくよー!!…よーい、ドン!!!」ビーッ!

 

  とブザーの音と同時にスタートを切る。距離は2500m、バ場状態は良、天気は晴れ。最初はジョギングのペースで良いと言っていたのでジョギングのペースで走る。

 

 

  〜5分経過〜

 

 

ビーッ!

 

 

 「(ブザーがなったな、少し上げるか)」

 

  とブザーの音と同時に少しペースを上げる。それに続いてオグリ達もペースを上げる。

 

 

  〜10分経過〜

 

 「まだ行けそうだな」タタタッ…

 

 

  〜15分経過〜

 

 「まだまだ私はいけるぞ」タタタッ…

 

 

  〜30分経過〜

 

 「まだ、まだ…!」タタタッ…

 

 

  〜40分経過〜

 

 「ライスだって…!」タタタッ…

 

 

   ・

   ・

   ・

 

 

 

 

 

 

 

  〜1時間経過〜

 

 「「「ハァハァハァ…」」」タ、タ、タ…

 

 「凄いな…顔色一つも変わってない」

 

 「(まだ、いけるな)」タタタッ…

 

  と俺はオグリ達を置いてずっと走っている。強くなって帰ってくるって自分で言ったんだから。これぐらいならまだまだいける、と俺はペースを上げながら走り続けた。

 

 

  〜1時間30分経過〜

 

 「…ここらで終わっとくか」フゥ

 

  とペースを落とし、チームのところへ戻っていく。

 

 「やぁ、やっと終わったんだね。他のみんなは次のトレーニングに行ってるから」

 

  と指を指している方を見るとオグリ達がミニハードルを使って左右に往復ジャンプをしていた。

 

 「そうか、それじゃあ行ってくる」

 

 「ちょちょ!ストップストップ!燈馬君はさっきトレーニングを終えたばかりじゃないか!休憩休憩!」

 

  とトレーニングに向かおうとしたところ、トレーナーに止められる。

 

 「大丈夫だ、体力ならまだある」

 

 「体力の問題じゃないの!休憩せずにトレーニングをし続けたら身体が壊れちゃうよ!ほら!!」

 

  とスポーツドリンクとタオルを俺に押し付けてくる。

 

 「とにかく5分間休憩!身体を休めることもトレーニングの一環だからね!」

 

  と言ってオグリ達の方へ歩いて行った。

 

 「仕方ない、休憩するか」

 

  と近くの椅子に座り、スポーツドリンクを飲む。スポーツドリンク特有の甘みと冷たさが喉を潤し、身体を内側から冷ていく。

 

 「にしても、走るっていうのはいいな」ボソッ

 

  と空に向かって呟く。本当に走るというのはいいものだ。

 

 「さて、トレーニングに戻るか」

 

  とスポーツドリンクを置き、椅子から立って皆のところに向かう。

 

 「おーい、俺を除け者にすんじゃねぇぞー」

 

  と言ってトレーニングに混ざり、下校時刻の30分前までトレーニングをした。

 

 

 

 

  〜部室・同視点〜

 

 

 「それじゃあ、僕はトレーナー室に行くから。ちゃんと寮に戻るんだよ」ガチャ、バタン

 

  とトレーナーが部室を出ていき、残ったのは俺とライスの2人。オグリは夕食を食べに食堂へ、タイシンは先程来ていたウイニングチケットに連れ去られて行った。そして俺たち2人はと言うと、

 

 「ここをこうして…こうするんだ」カキカキ…

 

 「そうだったんだ…!ありがとう!燈馬さん!」

 

  気にするな、と返す。俺はライスが今日出された数学の宿題で解らないところがあるらしくその問題を教えていた。

 

 「本当に教えるの上手だね、燈馬さん」

 

 「そんなことはない。現にライスが公式や基礎問題をキチンと理解していたから、教えやすかっただけだ」

 

 「ううん、燈馬さんがわかりやすく教えてくれたからだよ。だからライスは問題がちゃんと解けたんだと思う。それにライス、“駄目な子”だから」

 

  と言ってくる。ライスは自分のことを過小評価しすぎるクセがあり、何かある度に“駄目な子”とか“不運な子”と言っている。

 

 「ライス、お前は駄目じゃない。ましてや不運でもない。お前にはちゃんとした特徴もあり個性もある。レースでもそうだ、お前には飛び抜けたスタミナがある。今日のトレーニングでもそうだったじゃないか?」

 

  そう、今日のビルドアップ走でも50分位でタイシンやオグリのペースが落ちていたのにも関わらずライスはずっと俺の後ろについていた。これだけでも十分な武器になる。

 

 「例え、小さな武器でも磨きに磨き上げればやがて大きな武器となり自分の支えになってくれる。大事なのは自分を信じれるかどうかだ。自分を信じれない奴はそこで終わりなんだ。だからライス、自分を信じろ。今じゃなくてもいい、自分の力で“勇気”という一歩を踏み出してみろ。俺は、俺たちはライスが勇気を出せるようサポートしてやるだけだ」

 

  と言う。自分から踏み出す一歩と人に促された一歩は違う。それは勇気と覚悟だ。促されたままではずっとその人の意見や言葉しか聞かなくなり、勇気と覚悟が持てなくなってしまうのだ。俺はライスにそれだけはなって欲しくはなかった。自分から踏み出す一歩、要は自分からレースに出たいという言葉をライス自身が言えるかどうかが大事だ。人に促される事なく自分から言えるかどうか…。だから…、

 

 「だから、俺は信じてる。ライスが自らレースに出場するのを」

 

 「うん…!ライス、頑張るね!!」

 

  と満面の笑みで返事をしてくれた。これなら大丈夫だろう…、と思っているとライスが何やらモジモジし始める。

 

 「どうした?」

 

 「うぇ!いや、その…えぇと…」モシモジ

 

 「?」

 

  何だろうかと思っていると、ライスの顔がズイッと近づいてきて、

 

 「あ、あのね!燈馬さんのこと、おっおっ“お兄様”って言ってもいいかな!」カァッ!

 

  と顔を赤くして言ってきた。

 

 「お兄様?」

 

 「うん!」コクコク

 

  と勢い良く頷く。

 

 「まず、お兄様ってなんだ?」

 

 「あ、あの…お兄様って言うのはねライスの持ってる絵本に出てくるんだけど、そのお兄様に似てるの!」

 

  なるほど、ライスの話曰くその絵本とやらに出てくるお兄様っていうのが俺に似ていると。ふぅん…。

 

 「やっぱり…ダメ、だよね」シュン…

 

  と耳が垂れ落ち込んでいる。

 

 「俺はなんと呼ばれようと構わないからな。ライスの好きなように呼べばいい」

 

  というとライスは顔を上げてパァッ!と顔が明るくなった。

 

  キーンコーンカーンコーン

 

 「あ、下校のチャイムだ」

 

 「先に帰っていいぞ。戸締まりは俺がする」

 

  と言ってライスを先に帰るよう促す。

 

 「うん、それじゃあねお兄様!」ガチャ

 

 「あぁ、またな」バタン

 

  とライスも帰り部室に残るのは俺一人となった。

 

 「さて、俺も帰るか「ピリリリリッ!」ん?」

 

  と立ち上がった時に電話がなる。着信は、ハァ…こいつか…。出なかったら出なかったで面倒なので通話のボタンを押し、耳に当てる。

 

 「もしもし?」

 

 『よーう、レース惨敗者!元気にしてっか〜?』

 

 「冷やかしの電話なら切るぞ」

 

 『おいおい切るんじゃねぇよ。落ち込んでんのかと思って俺なりの応援の電話だぜ?感謝しろよ〜?』

 

 「感謝のクソもねぇよ」

 

 『はいはい、ホントは嬉しいくせに〜』

 

 「それで?本当は何のようだ?英道(ひでみち)」ハァ…

 

  とため息を出しながら用件を聞く。電話の相手は大森 英道(おおもり ひでみち)、小さい頃から同じで幼馴染みというよりは腐れ縁と言うべきだろうか。昔からこんな感じで何かと絡んでくる変なやつだ。

 

 『いやさあ、透子達がお前の顔が見たいって言うからよジャンケンで負けたやつがお前に連絡ってことになった、そんな感じだな』

 

  ビデオ通話できる?と聞いて来たので俺は部室にあるスマホのスタンドを持ってきてスマホをはめ込みビデオ設定にする。すると、

 

 『お!おーい、燈馬ー!』フリフリ

 

 『燈馬君、久しぶりー!』フリフリ

 

 『相変わらずその無表情変わってないわね、燈馬』

 

  と男2人と女2人が画面に映る。

 

 「久しぶりだな。淳、透子、菜々子」

 

 『あぁ、久しぶりだな燈馬』

 

  と返してくれたのは淳こと江藤 淳(えとう じゅん)。赤みがかった髪と同じ色の目が特徴的で成績優秀で水泳部に入っている。何度か国際大会に出場しており、オリンピック強化選手に選ばれたことがあるくらいの実力者だ。

 

 『燈馬君、この前のレース惜しかったね』

 

  と言ってくれたのは透子こと皆守 透子(みなもり とうこ)。茶色の髪でショートヘアとコバルトブルーの瞳が特徴的で美系。演劇が好きで演劇部に所属している。周りからは演劇ヲタクと言われるほどの演劇好きで暇さえあれば演劇を観に行っている(オペラも好き)。

 

 『透子、あのレースの敗因は燈馬の自業自得でしょ。ちゃんと用意の出来ていなかった燈馬が悪いんじゃないの?』

 

  と言ってくるのは間宮 菜々子(まみや ななこ)。黒髪ロングで髪を後ろで一つに纏められており、黒色の目をしている。そしてこちらも中々の美系でモデルをやっているのではないかと疑うくらいだがそんな彼女は弓道部に所属している。全国では何回か優勝しており、指折りの実力者だ。

 

 『おいおい、俺抜きで話進めんじゃねぇよ』グイッ

 

  と透子と淳の間から出てきたのが英道。焦げ茶色の髪と緑色の目をした天真爛漫な性格で俺たちのムードメーカー的存在。バスケ部に所属していて全国に何度か出場している。

  ちなみに淳、透子、菜々子は英道と同様小さい頃から一緒で基本的にこの5人で過ごすことが多い。

 

 『そっちでの生活はどうよ、って言ってもついさっき帰ってきたばっかりだもんな』

 

 「まあな、おかげで色々とやる事が増えたよ」

 

 『ま、あんたならやっていけるでしょ』

 

 『そうそう!菜々ちゃんの言う通り!燈馬君なら大丈夫だよ!』

 

  と透子と菜々からエールを貰う。こいつら4人は仲間思いがとても強い、お互いの試合を観に行くくらい。ま、俺もなんだけど。

 

 『暇があったら學園に来いよ、俺たち待ってっから』

 

  と英道も言う。

 

 「ああ、行くよ」

 

  と返す。その後は何気ない雑談をして終わった。

 

 『それじゃあ俺たちはこの辺で失礼するわ。レースの日程がわかったら教えてくれ』

 

 「わかった。知らせる」

 

 『おう、じゃあな』

 

 『『『またね(な)ー』』』プツッ

 

 「あぁ、またな」ピッ

 

  と電話を切る。あいつらも見ないうち変わったものだ。それに元気そうでなによりだ。小さい頃から一緒なこともあってお互いが不調かどうかや悩みがあるか知るようにもなった。

 

 「ルドルフ達もそうだけどあいつらの為にも頑張らねぇとな」

 

  と言って部室の戸締まりをしたあと俺は帰路につく。今度こそ勝つために、という思いを持って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  その週に行われたG2レースでハナ差で勝利し、無事皐月賞への出場の切符を手に入れた。




 読んで頂きありがとうございます。
 アプリの方ではフジキセキが実装されましたね。実装されましたが中々当たりません(泣)。ここ最近のガチャ運が裏目に…。

 さて、お話の方では遂に皐月賞出場が決まった主人公。無事、皐月賞を獲ることができるのか───。

  次回もお楽しみに〜。

 

  それでは、また〜
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