ウマ男 新たな歴史を創る者   作:アフターヌーンティー

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 これからも頑張って描いていきますので応援よろしくお願いします。


静寂のあとでも、彼は次を見据える

      時はレース始まる前に遡ります

 

  〜中山レース場観客席・シンボリルドルフside〜

 

 「エアグルーヴ、今からの燈馬の走りどう見る?」

 

 「恐らく差しでしょう。前のレースでも差しで勝利したと聞いていたので、今回のレースでも同じかと」

 

  私はチームリギルのメンバーで皐月賞を見に来ていた。中等部に転入してきたスペシャルウィークの視察、並びに同級生であるキングヘイロー、セイウンスカイの情報収集といった理由で見に来ていた…のが“チームリギル”としてだが私個人としては燈馬のレース運びやスピード、スタミナといったのを確認するために来たようなものだ。

 

 「ブライアン、君の言っていた加速とは本当か?」

 

 「あぁ間違いない、この目でしっかりと見た。あれは凄いぞ」

 

  と隣にいたブライアンに話かける。ブライアンの話曰く、スタートに出遅れ、半周以上差を開かれた燈馬が瞬く間に差を縮めたという話を聞いた。私はその時、生徒会の仕事があったため行けなかったのだが(ブライアンはサボり)レースのハイライトを見ても余り実感が湧かなかった。なので間近で見ようとレース場に赴いたのだ。

 

 「(さあ、どんな走りを見せてくれるんだ。燈馬!)」

 

  とスタートの時を待った。

 

 『各ウマ娘、ゲートに入りました』

 

  ガコンとゲートの開く音がして、レースが始まる。

 

 『各ウマ娘、まずまずのスタートです』

 

 「セイウンスカイは4番手、キングヘイローは2番手、スペシャルウィークは後方か」

 

  とエアグルーヴが顎に手を当てて簡潔に教えてくれた。

 

 「燈馬は後ろ、追込の位置か」

 

  スタートしてから100m時点で大まかではあるが大体把握は出来た。

 

 「しかし、後方の追込の位置とするとスパートのタイミングが重要になってくるな」

 

 「確かにブライアンの言う通りだ。しかも中段の位置は少し集団になっている。あれを躱すのは容易ではないな」

 

  さあ、燈馬。君はこの状況をどう打破する。

 

 『向こう場面に行ってもまだ変わりはありません!先頭は未だコクエンナンバワンです!』

 

 『キングヘイローがいい位置にいますね』

 

  確かにキングヘイローはいい位置につけている。あの位置で最大の難所である坂を突破出来れば1着は獲れなくもない。その後ろにはセイウンスカイもいるし、スペシャルウィークは少しずつ先頭と差を詰め始めている。だが、“レースは最後まで何があるか分からない”、気を緩めないことだな。

 

 「(さて、燈馬のほうはどうだろうか)」

 

  と燈馬の姿を探す………。

 

 「?」

 

 「どうしました?会長」

 

 「エアグルーヴ、さっきまで燈馬は後方にいたよな」

 

 「ええ、いました」

 

 「今、燈馬は“何処にいる”」

 

 「え、それは後方に……あれ?」

 

  とエアグルーヴも私と同じように燈馬を探し出す。異変に気づいたのか、ブライアンも探し出す。

 

 「エアグルーヴ、燈馬は確かに後方にいたんだよな」

 

 「ええ、確かに。でも今は…」

 

 「燈馬の姿がない…てことだ」

 

  とブライアンがエアグルーヴの言葉に割って入る。スタートしてから100mまでは燈馬の姿があった、これは確かだ。しかし、今は燈馬の姿も欠片もない。一体、何処に行ったんだ。

 

 『さあ、オオケヤキを超え最後の直線の前にこのレース最大の難所、心臓破りの坂が待ち受けています!先頭は以前とコクエンナンバワン、その後ろハルシオン、キングヘイローは3番手といい位置にいます』

 

  先頭集団が坂を登り始めるが、燈馬の姿はまだ見えない。

 

 「まさかあいつ、皐月賞を捨てたんじゃないだろうな」

 

  まさか、そんなこと…!

 

 『おおっとセイウンスカイだ!今日は控えていたセイウンスカイが一気に上がってきた!!!』

 

  セイウンスカイも上がってきて先頭に立つ。残り200m、勝ちはほぼセイウンスカイで決まり…かと思われたその時だった。

 

 「なんだあれは」

 

  と観客の一人が何かに気づく。それに吊られて他の観客もざわめき出す。

 

 『ん?…え?いや…え?うそ、うそでしょ!?』

 

 「まさか…!」

 

 「ウソだろ…!」

 

  とブライアンとエアグルーヴも遅れて気付く。私はセイウンスカイをじっと見つめる。すると視界に入ったのは赤いマントだった。

 

 「まさか、燈馬…!」

 

 『シノンだ!シノンが先頭に躍り出た!しかしこれは一体どういうことだ!?』

 

  信じられないことが起きた。セイウンスカイの後ろには誰もいなかった、なのに燈馬がセイウンスカイの後ろから出て来た。こんなことがあり得るのか、未だ私はこの状況に整理が追いつかなかった。

  そして燈馬はセイウンスカイを抜き去り、クラシック三冠の一つ皐月賞を獲ったのだった。

 

 

  〜ライブ控え室・燈馬side〜

 

 「それではウイニングライブの準備が出来次第、お呼び致しますのでそれまでここでお待ちください」バタン

 

  と係員の方が用意してくれた部屋で俺は待機していた。

 

 「ハァ…」

 

  正直言って乗り気じゃない。このままバックレてもいいのだがレース終了後に理事長から「ウイニングライブは出るんだぞ!絶対にだからな!」と電話越しで言われたので仕方なく時間が来るまで待っている。

  ウイニングライブ、それは上位3位までのウマ娘が立てるステージでウマ娘と観客の皆で1位になったウマ娘の勝利を分かち合う的な意味を持ったものでウマ娘が歌やダンスをするみたいなもの、あんましよく覚えてない。

 

 「(ていうか俺、次桜花賞が控えてんだけど。早く終わんねぇかな〜)」

 

  と待っていると

 

 「お待たせしました。どうぞこちらに」

 

  と係員に手招きされ、ステージ横の部分に案内される。そこにいたのはセイウンスカイとキングヘイローだった。2人共ライブ用の衣装に着替えてる。

 

 「およ?風間先輩、なんで勝負服を着てるんですか?」

 

 「俺はライブ用の衣装なんて持ってないし、要らない」

 

 「要らないって貴方、ウイニングライブをなんだと思っていますの?」

 

 「歌って踊るだけのステージ」

 

 「なんで(わたくし)はこんな人に負けてしまったのですの」ハァ…

 

  おーい、聞こえてんぞー。

 

 「まあまあキングちゃん、そんなこともあるよ。気長に行かないと」

 

 「あなたはもう少し危機感というのを持ちなさい!」

 

 「あー聞こえなーい」

 

 「キーッ!」

 

  やる気満々のこいつらにライブ任せて帰ろうかなと思っているとキングヘイローが俺を指さしてこう言った。

 

 「次の日本優駿(日本ダービー)で貴方に必ず勝ちます!覚悟していなさい!」ビシッ

 

 「あ、それ私も言おうとしてことだ。風間先輩、次は絶対に負けませんから」

 

 「楽しみにしてる」

 

  と会話をしているしながらステージのマイクの前に立つ。するとステージの幕が上がり、観客達がペンライトを持って盛り上がっている。

 

 「そういえば」

 

 「「?」」

 

 「ウイニングライブの歌の歌詞って何?」

 

 「「え」」

 

  ウイニングライブはなんとか口パクで乗り切った燈馬であった。

 

 

  〜風間家・同じく燈馬side〜

 

  ウイニングライブが終わってそのまま現地解散になった俺はそのまま家に帰った。トレーナー曰く「ウイニングライブの練習もしないとね」と言っていたが絶対にしたくない。あんなのはもうこりごりだ。

 

 「ただいま〜」ガチャ、バタン

 

  と無事に家に着くと

 

 「おや、おかえり。ライブも碌に出来ていなかったのに随分と早かったんだね」

 

 「うっせぇババア。トレーナーが現地解散って言ってレースの練習をさせてくれなかった」

 

  と部屋から出てきたのはババアこと風間 史子(かざま ふみこ)、俺のお婆さんだ。俺が産まれた時から15年間育ててくれた人だ。

 

 「なんだい、クソガキ。あたしは事実を言ってまでさね。それはそうとさっさと風呂に入ってきな、汗臭くて仕方ないのさ」シッシッ

 

 「言われなくてもそうするつもりだ、クソババア」

 

  と俺は鞄を自室に行き、風呂場へ向かった。

 

 「ったくあのババアは。グチグチと…これだから結婚も碌に出来ねぇんだよ」バサッ

 

 「なんか言ったかい!クソガキ!」

 

 「何も言ってねぇわ!クソババア!」

 

  ったくあの地獄耳ババアは…!「チャリ…」…。

  と俺の視界に入ってきたのは銀色の2つの指輪が付いたネックレスだ。

 

 「…」

 

  俺は洗面台の鏡に写った自分の首から架かった指輪が付いたネックレスを見る。

 

 「(この指輪、誰のなんだ?)」

 

  クソババア曰く、この2つの指輪は何が何でも大事にしなさいと言われ続けた。最初は不思議に思わなかったがだんだんと過ごしていくうちに誰のものなのか知りたくなってババアに聞いたが「あんたにとって大事な人さ」の一点張り。失くしたりすれば鉄拳が飛んできて見つかるまで探したなんてこともあった。

 

 「やめたやめた。このことはもう散策しないって決めたんだ。さあ、風呂に入るか。今日の夕飯は何にすっかな」ガララッ

 

  と俺は風呂に入って飯の献立を考えた。

 

 

 

 

 

 

 「おーい、飯出来たぞ」

 

  とリビングでテレビを見ているババアに言う。

 

 「はいよ」ピッ

 

  とテレビを切り、俺の向かいに座る。

 

 「今日は随分と凝ってるんだね〜」

 

 「うるせぇ、さっさと食べろ」

 

  と俺の作った料理は焼きキャベツとシーザーサラダ、豚バラとキャベツの甘辛炒めとキャベツ入り味噌汁だ。今日は冷蔵庫にキャベツがたくさん残っていたので腐らせない為にもパパッと調理した。

 

 「そうそう、あたし明日は教育委員会の会議に行かないと行けないから早めに起こしておくれ」

 

 「自分で起きろよ」

 

 「年寄りを舐めんじゃないわよ。年寄りは早起きは苦痛でしかないさね」

 

 「普通、年寄りって朝早く起きるものんじゃねぇのかよ」

 

  さっきババアが言ったがこのババアは東京にある小中高大一貫教育の武天學園の理事長なのだ。その上、教育委員会の副会長も勤めており何かと凄いババアだ。英道や淳、透子、菜々子はこの学校に通っている。ちなみに俺も通ってた、中等部まで。

 

 「はぁ…、わかったよ。朝は米とパン、どっちがいい?」

 

 「そうね、パンでお願い」

 

  へいへい、とキャベツを口に入れる。シャキシャキしていて且つ甘辛の味が絶妙に美味い。我ながら完璧な出来だ。

 

 「それはそうと、皐月賞おめでとうさん」

 

 「ん、まあな。次も勝つよ」

 

 「そうかい、それは楽しみだ」ガチャ

 

  とババアが食器を持って洗い場のところ持っていく。

 

 「ごちそうさん、あたしは風呂に入って寝るよ。あんたも早く寝な」ガチャ、バタン

 

 「ああ、そうするよ。おやすみ」

 

  と俺も丁度食べ終わり、食器を持って洗い場へ向かい食器を洗う。昔はババアが家事全般をしていたのだが、ババアは帰ってくるのが遅く気付けば俺がするようになっていた。家事をするのはそんなに苦でもないしババアに買い物や風呂の用意を予め言っておくと用意してくれるので楽ではある。

 

 「よし、こんなものか」

 

  と洗い物を終え、リビングのソファに座りテレビをつける。今は20時を回っておりどのチャンネルもバラエティ番組が放送されている。

 

 「バラエティとかあんまし見ねぇから何が面白いのかわからん」ピッピッ

 

  とチャンネルを回していると一つのチャンネルだけニュース番組をしていた。

 

 『今日行われた皐月賞、セイウンスカイさんとキングヘイローさん惜しかったですね』

 

 『そうですね。あとちょっとっていうところだったんですが、惜しかったですね』

 

 『私はてっきりスペシャルウィークが勝つと思っていたのですがね〜』

 

 『私もです。あの誰でしたっけ、あの〜ほら、1位になったえぇっと『シノンさんですか』そうそう!』

 

  と今日の皐月賞についてリポーターの人達が話をしていた。そして男が続けてこう言った。

 

 『あのシノンとかいう男の子…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの子さえいなければ勝てたんですがね〜』

 

 「………」

 

 『失礼ですよ。本人が見ていたらどうするんですか』ハハッ

 

 『いや〜、見てないでしょ。今頃、何処かでトレーニングでもやってるんじゃないですか?』ハハッ

 

  その本人が見てんだよ。

 

 『それに今回のウイニングライブ、正直言ってセイウンスカイとキングヘイローだけで良かったでしょ』

 

 『それは私も同感です。男の子が女の子と同じ振り付けや歌を歌うっていうのもなんかね〜って思いました』

 

 『そういえば、聞きました?シノンという人、どうやら次の“桜花賞”に出場するみたいですよ』

 

 『えぇ!?嘘でしょ!URAはそれを認めてるんですか?』

 

 『どうやら認めてるみたいですよ、それが』

 

 『もしかして脅したんじゃ…』

 

 『あんな見た目じゃそう言われてもおかしくは…』プツンッ

 

  と急にテレビの画面が黒に変わる。横を見てみると丁度風呂上がりなのかババアが立っていた。

 

 「………」

 

 「………」

 

  静寂した空気が部屋に漂う。そして、ババアが口を開いた。

 

 「あんた、さっきの見てどう思った?」

 

  と聞いてきた。

 

 「……世間では余りいいイメージが持たれてないなーって」

 

 「後悔してるかい?」

 

 「いいや、全く。むしろこうなる事は予想がついてたし、それに俺がやりたいって言ったんだ。例え嫌われようとも俺は俺の道を突き進むだけだ」

 

  俺がレースに出れば絶対にこうなるとは既に予想がついてた。言ってみれば女性競技の中に男性が出場しているようなもの、世間はそれを許さないだろう。

 

 「そうかい、あんたがそれでいいならそうしなさい。あたしやあのクソガキ共、満に藤二郎、亮太はあんたの味方だからね。それだけは忘れちゃあならんよ」

 

 「わかってる」

 

 「それと辛くなったらいつでも學園に戻ってきな。あたし達はあんたがいつでも帰ってこれるよう準備はしてあるから」

 

 「あぁ」

 

  とババアは自室へと戻っていった。

 

 「俺も寝るか」

 

  気付けばもう夜の22時を回っていた。俺は歯磨きをし、明日の準備をして俺は眠りについた。

 

 

  〜日曜日朝5時・燈馬side〜

 

 ♪〜〜ピッ

 

 「……」フワァ…

 

  鳴り響く目覚ましを止めて布団から出る。さて、朝ごはんの準備をするか。

  まずは、洗濯物を洗濯機に詰め込み洗濯を始める。続いて朝ごはんの準備。今日はババアがパンでいいと言っていたのでトースターにパンを入れて焼けるのを待つ。あと、昨日残った味噌汁を温め直し、冷蔵庫から卵を4つとベーコン、残ったおかずを取り出す。米は昨日事前に炊いていたためそれをお茶碗によそう。あとは卵は目玉焼きとだし巻きを作り、目玉焼きは朝食、だし巻きは弁当用に分けておく。

 

  チンッ

 

 「おっ焼けたな」

 

  パンを取り出し、焼いたベーコン、目玉焼きをパンに乗せる。あとは味噌汁を入れてババアの朝食が出来、それと並行に俺の朝食も出来る。

 

 「あとはババアを起こすだけだ」

 

  と2階に上がりババアの部屋に入る。

 

 「おいババア、さっさと起きろ。今日は教育委員会の会議なんだろ?早くしろ」ユサユサ

 

  とババアを起こす。

 

 「……はいよ、今、起きるから」フワァ…

 

  ババアも起きたので俺は下に行き、弁当の詰める。

 

 「おはようさん…、今日は一段と早い目覚ましだねぇ〜…」

 

 「おはようさん、ほらさっさと食べろ。今日は早いんだろ?」

 

  いただきます、と言って朝ご飯を食べ始める。俺は弁当を作り終え、ババアの弁当をババアの前に置く。

 

 「そういや、あんたは今日は休みかい?」

 

 「いいや、朝から練習。今日は夕方までみっちりやるみたいだから遅くなる。あと、自主練してから帰るから風呂の用意と買い物頼むわ」

 

  了解、と言ってご飯を食べ進める。

 

 「ごちそうさん。それじゃあ、あたしは会議に行ってくるよ」

 

 「あぁ、自分の食器は自分で洗えよ」

 

  わかってるさね、と言いながら食器を洗い、玄関へ向かった。

 

 「くれぐれも遅刻すんじゃないわよクソ燈馬」

 

 「わかってるよ、クソババア。さっさと行け」

 

  と言ってババアは家を出ていった。

 

 「さて、俺も行くか」

 

  と食器を洗い、洗濯物を干して家を出る。勿論、戸締まりもきっちりと。そして、俺はトレセン学園を目指して歩き始めた。

 

 

  〜トレセン学園トレーニングルーム・立花side〜

 

 「あと5回!姿勢を意識して!」

 

 「っ!はぁぁあああ!!!」ガシャン、ガシャン

 

  休日、僕達はトレーニングルームにてウエイトトレーニングを行っていた。今、タイシンさんがスクワットをしていてオグリさんがタイシンさんの補助をしている。

 

 「OK!スクワット終了!お疲れ様」

 

 「結構…くるね…このトレーニング」ハァ…ハァ…

 

 「正しい姿勢を意識しながらやると軽いウエイトでも十分な負荷が掛かるからね」

 

  タイシンさんが今、上げていたのは150kgのバーベル。ヒトだと結構な重さだけどウマ娘にすればこのくらいは至って普通だ。だけど普通だったとしても正しい筋肉の使い方をしないと変なところに筋肉が付いちゃったり身体の故障にも繋がる可能性が高くなる、基礎は大事だからね。

 

 「因みにあいつは何やってんの?」

 

 「ん?あれは体幹トレーニングだよ。体幹を強くしていればレース中に身体がブレないようになるんだ」

 

 「何分くらいやってんの」

 

 「ん〜、かれこれ20分かな」

 

  しかも燈馬君、休憩なしでやってるし。1年でめちゃくちゃ成長してるし、ホント何をやってきてそうなったんだろうか。

 

 「それじゃあ、今日はこの辺にしてタイシンさんは燈馬君とライスさんはオグリさんとでストレッチをして昼食にしよう。午後からはレース場で走るから13時には来ていてね」

 

 「「「「はーい」」」」

 

  さて、午後からのトレーニングメニューを作成しないとね。

 

  〜同所・燈馬side〜

 

 「ちょっと余り強く押さないでよ」

 

 「息を吸って大きくゆっくり吐けばじわじわと身体が伸びるんだよ」

 

  俺達はトレーナーが去った後、トレーニングルームでストレッチをしていた。何故、俺がタイシンと組んでいるかというと身体が柔らかい奴と硬い奴とで組んてるからだ。硬い奴はどうすれば柔らかくなるかを知るために柔らかい奴は硬い奴に柔らかくする為のアドバイスをする、といった理由だ。タイシンはそれ程硬いとは言い難いが寧ろライスの方が硬いと言っていいだろう。長座体前屈5cmは流石に盛ってると思ったが実際に測ってみると結果は同じだった。

  このチームの中で一番柔らかいのはオグリだ。オグリは開脚が180度を超えるくらい柔らかいし長座や足首の柔らかさも他のウマ娘よりも遥かに凄い。聞いた話では地方にいた頃、オグリの母が身体が柔らかくなるようにとマッサージをしてくれたり、柔軟を手伝って貰ったりしてくれていたらしい。

 

 「オグリとまでは言わん。だが最低限でも故障しない為の身体作りだと思ってやってみろ。ほら押すぞ」

 

 「フゥゥゥゥゥゥ…。フゥゥゥゥゥゥ…。」ググッググッ

 

  とストレッチを続けること20分、するとトレーニングルームの扉が勢いよく開く。

 

 「おーし!次はアタシらの番だ!待ちに待ちくたびれたぜ〜!」バンッ

 

 「他のチームの奴がいるんだ、もう少し静かにしろ。ゴルシ」

 

 「ん?おお〜!お前は燈馬じゃねーか!久しぶりだな!」

 

  このこの〜!とやってくるのはゴールドシップ。芦毛の髪で俺と同じくらいの身長があるウマ娘だ。こいつは学園では問題児扱いされており、あの理事長でさえ頭を抱えるくらいのウマ娘だ。黙れば美人なのだが行動はまさに奇人と言っていいだろう。俺もこいつとは関わりたくはなかったんだが向こうからくるもんだから変な関わりを持たされてしまった。

 

 「あの〜ゴールドシップさん、そのヒトは?」

 

 「ん?あぁスカーレットとウォッカ、テイオーは知らねーんだったよな。こいつは燈馬、アタシの下僕だ」

 

 「誰が下僕だ、この奇行種変人ウマ娘。「んだと、ゴラァ!」…ハァ、俺は風間燈馬。スズカと同じクラスだ」

 

 「初めまして、私ダイワスカーレットっていいます」ペコッ

 

 「俺はウォッカっていいます」ペコッ

 

 「よろしく」

 

  と2人のウマ娘が頭を下げる。ティアラを付けたツインテールのウマ娘、ダイワスカーレットと短髪の俺っ子、ウォッカ。2人共見る限り中等部だろう、知らないで当然か。

 

 「へぇ〜君がカイチョーの言ってたトーマなんだ」

 

 「お前は?」

 

 「僕の名前はトウカイテイオーだよ!夢はカイチョーみたいな強くてかっこいい無敗の三冠ウマ娘!」ビシッ

 

  とポニーテールを揺らしながら俺に指を指して自己紹介をしたウマ娘、トウカイテイオーだ。こいつも中等部だろう、というかルドルフのこと知ってたんだな。

 

 「おい、入口で止まってるんじゃねーぞってお前は…」

 

 「お久しぶりです、スピカのトレーナーさん」

 

  と棒付きキャンディを咥えた男の人がウマ娘をかき分けてトレーニングルームに入ってきた。この人はゴルシ達がいるチームスピカのトレーナーで確か沖野っていう名前だった筈。

 

 「スピカもトレーニングですか?」

 

 「おう、まあな。なんせスペが“日本ダービー”を控えてるからな」

 

 「はい!頑張ります!」

 

 「おう、そういやお前も日本ダービーだったよな。いやその前に“桜花賞”か」

 

 「そうですね」

 

  この人は相変わらずテンションが高い。嫌ではないが沖野さんのセクハr基、癖である許可なしにウマ娘のトモを触るのはどうにかして欲しい。こら、オグリのトモを触ろうとするな。あ、今スピカのメンバーに蹴られた。

 

 「燈馬君」トコトコ

 

  とスズカが近づいて来た。

 

 「ん?スズカじゃないか。どうしてお前がこんな所にいるんだ。リギルは今、レース場のはずだぞ」

 

 「そのことなんだけど私、リギルからスピカに移籍したの。トレーナーさんに声をかけられてね」

 

 「そうか。そっちの方がお前に合ってるかもな。だが、大丈夫なのか?あの変態トレーナー「誰が変態だ!」お前のことだ。…色々とセクハラされるんじゃないのか?」

 

 「大丈夫よ、トレーナーさんはいい人だから」フフッ

 

 「お前がいいならそれでいい」

 

  スズカの移籍を俺がどうこう言おうがスズカが決めたことだ。俺は何も言わない。

 

 「それじゃあな、俺達はもう行くぞ」

 

 「うん、またね」

 

  と後ろでゴルシに絡まれてるタイシン達を引き連れてトレーニングルームを後にした。

 

 

  〜同所・スズカside〜

 

  私達はトレーナーさんの指示でトレーニングルームに来ていた。理由はスペちゃんが日本ダービーを控えているのでトモの筋力アップの為なんだけどそれと並行に増えちゃった体重を落とすためでもある。ダービーまで残り2ヶ月、どこまで持っていけるかが勝負だと思う。

 

 「痛てて…ったくあいつら本気で蹴る必要あんのかよ」ボロッ…

 

 「アハハハ…」

 

  と愚痴を溢すトレーナーにスペちゃんが苦笑いしている。

 

 「…スペ、お前は日本ダービーが控えてある。キングヘイローにセイウンスカイ、エルコンドルパサーそして、シノン…燈馬だ」

 

  と真剣な顔でスペちゃんに話す。それを見てスペちゃんも顔つきが変わった。

 

 「特にエルコンドルパサー以外の3人は間違いなく皐月賞とは比べものにならないくらい成長していると断言できる。さっき、あいつの身体を見ただろ?それが証拠だ」

 

 「はい!」

 

  確かに燈馬君は桜花賞が控えていて、それに向けての調整トレーニングだと思う。一体どんなレース展開をするのかとても楽しみです。

 

 「おーいトレーナー!早くやろうぜ〜!」

 

 「はいはい、わかったよ。スペ、スズカ行くぞ」

 

 「「はい!」」

 

  燈馬君、私頑張るから!

 

 

 

  〜レース場・燈馬side〜

 

 「さて、次は桜花賞だけど注意人物が一人いる」

 

 「誰なの、その一人って」

 

 「メジロ家の令嬢の一人、“メジロドーベル”さんだ」

 

 「メジロドーベル?誰だそれは」

 

 「メジロドーベル、脚質は差しが基本でマイルが得意なウマ娘だ」

 

 「!君は…!」

 

 「エアグルーヴか」

 

  と作戦会議をしていた所にエアグルーヴがやって来た。

 

 「私もいるぞ」

 

 「私もだ」

 

 「フジキセキさんにナリタブライアンさん、シンボリルドルフ会長!」ペコッ

 

 「やあ、クレアのトレーナー君。そんなに畏まらなくてもいいぞ」

 

  と後ろからルドルフ、ブライアン、フジもやって来た。

 

 「やけにメジロドーベルに詳しいな、エアグルーヴ」

 

 「ドーベルは私の後輩でな。時々トレーニングを見てやっているんだ」

 

  と俺の質問にエアグルーヴが答える。エアグルーヴの脚質は先行だが差しも得意なのでトレーニング相手にはもってこいだろう。どんな相手か楽しみだ。

 

 「それはそうと燈馬、君に聞きたいことがある」

 

  とルドルフが前に出てきた。

 

 「なんだ?」

 

 「この前の皐月賞、レース中盤からラスト直線まで君は何処にいた」

 

 「普通に走ってたぞ」

 

 「とぼけないで欲しいな、普通に走っていたならレース終盤まで誰もが気づくよ。それをラスト200mまで私達、いや観客全員が君に気付かないなんて…一体どんな“手品”を使ったんだい?」

 

 「………」

 

  とルドルフの質問にちゃんと答えた筈なのだがフジが更に付け加えて質問してくる。ブライアンに至っては無言の圧をかけてくる、怖ぇよ。

 

 「手品も何も普通に走っていたんだ。そういうお前達が俺の姿から目を離していたんじゃないのか」

 

 「「「「ない、お前のことはずっと見ていた」」」」

 

 「「「「「………」」」」」

 

  いや、そんなに自慢気に言われても…。

 

 「燈馬君、隠してることがあるなら言ってよ!この人達とっても怖いんだけど!」ボソボソ

 

 「いや、隠してることって言われても…」チラッ

 

  と後ろを見てみるとタイシン達が「隠してることがあるなら早く言え!」と目で訴えてくる。そんなこと言われても…。

 

 「とにかく、まずは桜花賞だ。桜花賞を獲れるよう粉骨砕身の如く頑張ってくれ」スタスタ

 

 「じゃあね、燈馬。君がどんな手品を使っているか必ず暴いてみせるよ」スタスタ

 

 「手品も何もねぇよ」

 

 「手品だろうとなんだろうと私と戦うまでの間、負けることは許さないからな」スタスタ

 

 「あぁ、わかったよ」

 

 「燈馬」

 

  とエアグルーヴに声をかけられる。

 

 「なんだ?」

 

 「ドーベルは手強いぞ」

 

  と真剣な顔で言ってくる。

 

 「俺は一つ一つのレースに全力で走るだけだ。相手が誰だろうとな」

 

 「そうか」フッ

 

  とルドルフ達の歩いていった方へと歩き始める。

 

 「どんなレースをするか楽しみにしている」スタスタ

 

  と歩き去って行った。

 

 「さあ桜花賞、獲りに行くぞトレーナー」

 

 「…そうだね、燈馬君」

 

  と横にいたトレーナーに声をかける。トレーナーも覚悟の決まった顔をしていた。

 

 「よし、桜花賞を獲りに行くぞ〜!」

 

 「「「お〜!!」」」

 

 「おう」

 

  と桜花賞前日までトレーニングを続け、遂に桜花賞当日がやって来た。




 読んで頂きありがとうございます。

 本来、メジロドーベルはスペシャルウィーク達より前にデビューしていますが主人公と対決するのを描いてみたいと思い、今作品ではスペシャルウィーク達と同じ時期にデビューということにしています。ご理解の方、よろしくお願いします。

 さて次回は桜花賞!頑張って描いていきます!

   それでは、また〜
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