今回の話は視点切り替えが多いです。ご注意下さい。
それではどうぞ。
〜トレセン学園、食堂・燈馬side〜
「桜花賞おめでとう、燈馬君」
「おう」
授業も終わり俺はスズカと一緒に昼食を取っていた。スズカはニンジンハンバーグ、俺はハンバーグ定食だ。相変わらず量が凄い、食べれないことはないがな。
「次は日本ダービーね。スペちゃんとトレーナーさん、張り切ってたわ」
「そうか、ウチのトレーナーも張り切ってたよ。なんせ、クラシック二冠目がかかってるからな」
日本ダービー。それはウマ娘なら誰もが欲しい記録の一つ。一生に一度しか出ることしか叶わずその夢を掴めるのはただ一人、そしてその栄誉ある栄光を手にした者こそ“ダービーウマ娘”と称され、ウマ娘の頂点へと君臨するのだ。
「まあ、ダービーは“最も運のあるウマ娘が勝つ”と言われているからな」
この言葉は昔から言われていた言葉だ。ダービーは最も幸運な者が勝つと。他にも皐月賞では“最も速いウマ娘が勝つ”と言われたり、菊花賞では“最も強いウマ娘が勝つ”と言われている。この3つが揃っていなければクラシック三冠は不可能とまで言われるほどだ。
「運も大事だが、やっぱり一番は自分の力が試されると思うぞ」
「…」
「“運も実力のうち”と言われているが、それがいつまで続くだろうか。運だけで乗り越えれる場面もあるだろうが果たしてそうだろうか。必ず自分の実力、“自分の力量”が試される場面が必ず来る。それでもし、運が尽きてしまったら?だからずっと運頼みでは駄目なんだ」
「確かにそうね」
「だからこそ運頼みではなく、“運を自らの手で引き寄せるんだ”。自分の力でね」
運というのは稀だ。極々稀にしか舞い込んでこない。だからこそ、その運を自分の手で引き寄せなければならない。けど、運が来ない時だってある。その時は自分の実力が試される。運の強いウマ娘か、それとも力量のあるウマ娘か…。どちらに転ぶかはそのレースを走ってみないと分からない。「シラオキ様〜!」なんか聞こえたが気のせいだろう。
「まあ、そんなことは置いといて。今日はどうした?相談があると言っていたが」
「うん、実はね」カチャ
とスズカが持っていた箸を置く。
「今日、スペちゃんがタイキと模擬レースをすることになったの」
「タイキと?」
コクリとスズカは頷く。そういや、ゴルシがなんか宣伝ぽいのをしてたな。因みにタイキとは“タイキシャトル”のことだ。アメリカ生まれのウマ娘で力強い走りをする。そして、マイルでは負けなしの最強のウマ娘だ。
「1600mの左回り、後半は“坂”があるの。トレーナーは何がなんでも走れって言ってて…」
「なるほどね」
面白いことするじゃん、あの変態トレーナー。
「燈馬君、何かわかったの?」
「あぁ、大体だがな。そしてスズカはそのレースを止めようとしてると」
「…どうしてそれを」
「スペシャルウィークのことだろ?」
スペシャルウィークが皐月賞を負けた後、何があったかは知らん。けど、スズカはその“何か”を見てしまったんだろう。だからスズカはそのレースに反対してるってわけだ。
「何があってスズカが止めようとしてるかは知らん。まあでも、あの変態…基、スピカのトレーナーを信じてみれば?」
「…」ウツムキ
「信じてやるのもチームとしての仕事だと思うぞ」
「うん、わかった」
「それじゃあ、さっさと飯食って戻ろうぜ」
と俺とスズカは残りの飯を食って教室に戻った。
〜放課後、部室にて〜
「オグリさん、まだ来ないね」
とトレーナーがいう。俺たちはトレーニングを始める予定が始まる時間が過ぎてもオグリが来ない。一体何処に行ったのだろうか。
「探してくる」ガタッ
「気をつけてね」
「あぁ」
と俺は立ち上がり、オグリを探す為部室を出る。学園の何処かで飯でも食ってんだろうな。
「いた。食堂にいないと思ったらこんなところにいたか」
オグリを探すこと5分、ようやく見つけることができた。場所は第一レース場、観客席で特盛の焼きそばを食べていた。
「全く、しょうがない奴だ」
とオグリを呼びに行こうとした時、
「燈馬君!」
と後ろで呼ぶ声がした。
〜第一レース場・スズカside〜
「燈馬君!」
と私は思わず一緒に昼食を食べていた燈馬君に話しかける。
「どうしたスズカ」
「どうしたって燈馬君、今日の模擬レース見に行かないって言ってたから」
「あぁ、オグリが時間になっても来ないから呼びに来ただけさ」
と燈馬君は観客席へ降りていく。
「待って!」ガシッ
と私は燈馬君の腕を掴み、それを阻止する。
「折角、来たんだしさ。見ていかない?」
「いや、俺はトレーニングが「お願い」…」
と燈馬君の目をジッと見る。すると燈馬君は
「…ちょっと待ってろ」ハァ…
と携帯を取り出し操作し始め、耳に当てた。
「もしもし俺だ。オグリは見つけた。ただ、ちょっと状況が変わってな、見ないと言っていた模擬レースだが見ることにする。だから先に始めていてくれ。………お前達も見る?それは好きにしてもらっていいが…………わかった、そうするなら遠くからやったほうがいい。………………じゃあ模擬レースが終わり次第、トレーニングを始めるということで。………わかった、じゃあな」ピッ
と燈馬君は携帯をしまい、
「トレーナーからの許可が下りた。ここから見るか?模擬レース」
「うん!」
と観客席の柵まで行き、模擬レースが始まるのを待った。
「それでなんだが」
「?」
と燈馬君が私を見る。
「いつまでこの状態なんだ?」
「え?」
と燈馬君の目線が下に行く。私も下を見ると燈馬君の右腕を私が抱きしめてる形になっていた。
「………このままでもいい?」
「何を言ってる、このままだと誤かi「お願い」………レースが終わったら離してくれ」
と燈馬君が折れてくれた。嬉しいな、こんなにも近くで燈馬君と一緒にいれるのは。
「それでは、今からタイキシャトルとスペシャルウィークの模擬レースを始める」
とスタート位置にいるウマ娘が開始の宣言をする。あそこにいるのは…エアグルーヴかな、『スタート』と書かれた看板を首から下げている。ちょっと可愛い。
「それでは両者、位置について…よーい、ドン!!」バサッ
とエアグルーヴが持っていた旗を下ろす。それと同時にタイキとスペちゃんがスタート。約半分程タイキがリードしている。スペちゃんも負けじと食らいついている。
そして、コーナーを曲がるとレースに動きが出た。
「“スリップストリーム”か」
と燈馬君が呟く。スリップストリームとは前を走るウマ娘のすぐ後ろについて風の抵抗を抑えること。走っているとどうしても風の抵抗を受けてしまい、体力が削られることがある。それを抑える為にもスリップストリームを使えば最小限にすることが出来る。
「だがスリップストリームだけではタイキに勝つことは出来ない」
確かにスリップストリームだけではタイキに勝つことは出来ない。レールも終盤に差し掛かってきており、今でもタイキの後ろにスペちゃんがいる。
「そろそろだな」
と燈馬君の言葉と同時にタイキのペースが上がる。スペちゃんも食らいつこうとしているけど、風の抵抗を諸に受けてしまい失速する。けど、スペちゃんの動きに変化が訪れる。
「あれって」
「“ピッチ走法”だな。ストライドを小さくして坂を上がる、今回の模擬レースの重要ポイントだ」
「トレーナーさんはこれを教えるために」
「タイキと組ませたんだろうな。タイキはよくピッチ走法を使うからな」
開いていた差がジリジリと詰まる。ゴールまで100m。
「行けーーー!スペーーー!!!」
「「スペせんぱーーーい!!!」」
スペちゃん、頑張って…!
「おいおいアマさんの奴、ゴールの仕事忘れてねーか?」
とゴールを見るとヒシアマさんがゴール付近で寝そべっていた。
そして二人はヒシアマさんの後ろを通っていき、ゴールした。タイキもそうだけどスペちゃんもよく頑張ったと思う。お疲れ様、スペちゃん。
「スリップストリームは兎も角、ピッチ走法を真似るとはな」
確かにスペちゃんはピッチ走法なんて走り方は知らないはず、ということはタイキの走りを見て真似たのだろうか。これからが楽しくなりそうね、スペちゃん。
「さて、レースも終わったし俺はオグリのところへ行くよ。またな」
「あ…」
と燈馬君は私を自分の右腕から離し、降りて行った。少し寂しい。
「また、抱きついたら怒るかな」
そう言って私は燈馬君の背中をみつめていた。
〜同所・ルドルフside〜
「まさか、スペシャルウィークがタイキを追い詰めるなんてね」
「あぁ、油断大敵なウマ娘だ」
私はフジキセキ達と一緒にレースを見ていた。タイキシャトルがあそこまで追い詰められるとは思っていなかったがスペシャルウィークの機転の速さを知るいい機会だった。
「今回のダービーはエルコンドルパサーとスペシャルウィークが注目の的だろうね」
「確かにそうね」
「どんなレースを見せてくれるか楽しみだ」
とスピカの面々とタイキ達を見ているとゴールドシップが、
「タイキシャトルってよ、ホントに負けたことがねーよかよ」
と言い出した。
「何を言ってるんだあいつは。タイキはここ最近、模擬レースでも負けたなんてことは聞いてないぞ」
とゴールドシップの質問にブライアンが答える。すると、
「ウ〜〜ン…あ、でも!一回だけ負けたことがありマ〜ス!」
とタイキが答える。バカな、タイキに勝てるウマ娘はそういない筈!
「それって誰なんですか!?」
とスピカのメンバーの一人、ウォッカが質問する。
「トーマデース!トーマにこの前の模擬レースで…
タイキの言葉でこの場の時間が一瞬止まる。
「タイキが…」
「負けた…?」
「しかも…」
大差で………!!
「どういうことだ!説明しろ!タイキ!!!」
とエアグルーヴがタイキに詰め寄る。
「エアグルーヴ、calm down!落ち着いてくだサーイ」
「さっきの言葉を聞いて落ち着いていられるか!!」
とエアグルーヴが落ち着く様子がない。
「エアグルーヴ、落ち着いてくれ」
「ですが、会長!」
「君の言いたいことはわかる。だが、今は落ち着いてタイキの話を聞くべきだ」
「!申し訳ございません、会長。すまなかった、タイキ」
「いえ、ワタシはゼンゼン」
「…それでタイキ、君の言ったことは本当なのかい?」
「ハイ、本当デース」
「詳しく聞いても?」
と私はエアグルーヴを落ち着かせ、一呼吸置いてからタイキの話を聞いた。
「えぇっと、確か2,3週間前でシタ。トーマが大事なレースがあるから模擬レースの相手をして欲しいと頼まれて、一緒に走ったデース」
「その時のレース設定は?」
「芝1600m、平地の右回りでシタ」
芝1600m、右回り。そして、2,3週間前…となると。。。
「“桜花賞”だね」
とフジキセキが言う。最近の大きなレースというと桜花賞ぐらいだ。
「ン〜〜〜〜〜、oh!アレは!!」
とタイキが何かを見つけた。
「トーマデース!!!ト〜〜マ〜〜!!!」ブンブン
「「「「「!!!」」」」」
この場にいた全員がタイキの手の振る先を見る。そこにいたのは焼きそばを食べているオグリキャップを燈馬が引きずっていた。すると、こちらに気づいたのか燈馬が私達のほうを見る。
「トーマ!!また一緒に走ってくだサーイ!次は負けないデース!!」
とタイキが言うと燈馬は軽く手を上げ、去って行った。
「レース中に姿が消えたり、タイキに大差で勝ったりと…。どういうことなんだ」
───燈馬、君は何を隠しているんだ。
〜第三レース場・燈馬side〜
「それにしてもスペシャルウィークさん凄いね、タイキシャトルさんをあそこまで追い詰めるなんて。しかも、あの状況下でスリップストリームとピッチ走法をやってのけるなんて」
「けど、ダービーは甘くないよ。その2つが出来ても勝てるかどうかはその日にならないと分からないんじゃないの」
タイキとスペシャルウィークの模擬レースの後、俺たちはトレーニングの為に別のレース場に来ていた。俺もスペシャルウィーク同様ダービーを控えてる為、調整をしておかないといけない。
「さてと、模擬レースの話はここまでにして。燈馬君、今日は“コーナー”のトレーニングをしようか」
とトレーナーが話を切り、トレーニングへと意識を向けた。
「“スタミナを切らさず、かといって減速させない走り”、だったな。本当に可能なのか?無理難題だと思うが」
「実際にあるみたいだけど、結構難しいみたいだよ」ハイ
とトレーナーから一枚の資料を貰う。そこにはコーナーの曲がり方や減速しない走り方など沢山の資料があった。だが、実際にやってみないとわからない。
「取り敢えずやってみるか」
とターフの上に立ち、コーナーを曲がるトレーニングをした
。
「…走ってはみたものの、何かが足りないな」
何度か走ってみたが、結果はイマイチだ。どうしてもコーナー直前で減速してしまい、上手く曲がれなかった。
「(さて、どうしたものか。ダービーには何とかして間に合わせたいのだが……ん?)」
と試行錯誤している時、一人のウマ娘が見えた。そのウマ娘はレース場を見ては頬に手を当てて、トレーニング風景を眺めていた。
「おい、あんた。ここで何してる」
「あ、いえ…何も…」
と頬に手を当てたウマ娘が悲しそうな顔をする。
「(見たところトレーニング終わり、では無さそうだな)」
彼女の手にはドリンクとシューズがあった。だが、シューズをよく見るとまだ綺麗でトレーニング終わりとは言い難いものだった。
「ここでトレーニングをしようとしていたのか。申し訳ないが、帰ってくれ。今日はうちが使っているんでな」
と立ち去ろうとすると、
「待ってください!」グイッ
「うぉっ!」
と右腕を強く引っ張られ、危うく転びかけた。
「あの、実は私、明後日に大事なレースが控えてて…それでお願いなんですが一緒にトレーニングをさせてもらってもいいでしょうか!」
とお願いされた。
「そう言われても俺はダービーが控えてっから他を当たって「お願いします!」…はぁ」
と頭を下げられた。どうしたものか。
「……あんた、名前は?」
「“スーパークリーク”です〜」
と後ろ髪の大きな三編みを揺らしながらウマ娘、スーパークリークが答えた。
「ならスーパークリーク、アップをしてきてくれ。一緒にやろう」
「本当ですか!!」
「まあ、お互い大事なレースがあるからな。早めに頼むよ」
「はい!!」
とスーパークリークは元気よく返事をしてアップをしに行き、俺はスーパークリークが来るのを待った。
「お待たしました」
「それじゃあ行こうか、スーパークリーク」
「はい、あと私のことはクリークと呼んで下さい」
「そうか。じゃあクリーク行こうか。あと俺は「風間燈馬さん、ですよね」…そうだ。まあ、好きに呼んでもらって構わない」
と俺とクリークは併走しながら直線を走り、コーナーに差し掛かる。
「(っ!やっぱりブレーキがかかってしてしまう。どうしたらいいものか)」
と頭を悩ませているとスーッと横を通り過ぎるクリークの姿が見えた。
「(クリークの奴、綺麗にコーナーを曲がるんだな)」
と見ていると、
「燈馬さん、少しペースを上げていいでしょうか」
と聞いてくる。
「あぁ、構わないが」
と言うとクリークは地面を強く蹴り、ペースを上げる。
「おいおい、あんなペースでコーナーが曲がれるのかよ」
ややスパート気味のクリークは直線を抜け、コーナーに差し掛かる。
「無理だ。あのペースでコーナーは曲がれ…!!」
と俺はクリークのコーナリングを見て度肝を抜かれた。クリークはスパートぐらいのペースを維持したままコーナーを曲がり、直線を向かえていた。
「あいつ、すげぇな」
と心の声が漏れてしまった。
「クリーク!」
と俺は1周を走り終え、先に走り終えたクリークに近づいた。
「はい、何でしょう」
「単刀直入に言う、コーナリングを教えて欲しい」
「えっ」
とクリークが固まる。
「実は、コーナリングに悩んでいてな。どうしてもコーナー直前でブレーキがかかって上手く曲がれないんだ。だがら、上手くコーナーを曲がれるよう教えてくれないか」
「いいですよ〜」ニコッ
と笑顔で答えてくれた。
「まず、俺のコーナリングを見てくれ。そこで悪いところがあったら指摘してくれて構わない」
「わかりました〜」
と俺はクリークの指導の元、コーナリングの走り方を教えてもらった。
〜同所・立花side〜
「お、やっと来たか」
と最後のメンバーの一人、燈馬君が帰ってきた。
「すまない、遅れた」
「ううん、時間はまだあるし大丈夫だよ…でその子は?」
「あぁ、彼女は「クリークじゃないか!」」
とオグリさんがクリークと呼ばれたウマ娘に近づく。
「オグリさん!オグリさんはこのチームに所属していたんですね!」
「あぁ!燈馬に誘われてな。でも、何で燈馬といたんだ?」
「私が燈馬さんに頼んでちょっとだけトレーニングをさせてもらってたんです。そしたら燈馬さんがコーナリングについて教えて欲しいって言われて…」
「今に至るってわけだね」
「すまないなトレーナー。勝手な事をした」
「ううん、いいよ。それで?コーナーについては上手く行きそう?」
「あぁ。ク…スーパークリークの教えが良くてな。このままいけばダービーまでには間に合う」
とスーパークリークさんとのトレーニングが良かったのだろうか、自信のある表情をしていた。
「それはそうとスーパークリークさん。君、トレーナーは?」
「あの…その…」
と口をごもごもとし始めたスーパークリークさん。どうしたんだろう。
「実は先日、トレーナーさんに契約を切られてしまって…。それで今はいないんです」
「なんだって!?」
とスーパークリークさんの返答にオグリさんが驚く。隣にいた燈馬君も驚きの表情をしていた。
「ということは大事なレースというのは“選抜レース”のことか」
ウマ娘はレースに出るためにはトレーナーが必要になってくる。その上、トゥインクルシリーズはシーズン中に契約を切られると1週間の間にそのトレーナーと再契約、もしくは新しいトレーナーと契約をしないとその時点でそのウマ娘はトゥインクルシリーズは終了となる。このルールはウマ娘にとってとても辛く、過去にトレーナーなしで走っていたことが問題視され、このルールが作られたそうだ。
「猶予期間は?」
「明日まででして…」
と悲しそうな声でいう。
「そんな…じゃあクリークとは、もう…」
「すみません、オグリさん…」
とオグリさんに謝るスーパークリークさん。するとそこに、
「ウソよ!そんなこと、ある筈がない!」
「タイシンちゃん」
と声を荒らげてタイシンさんがやって来た。
「そのトレーナーって奴、誰!そいつのところに行って一発蹴りを叩き込んでやる!!」
と見るからに怒っているタイシンさん。そっか、この2人同室なんだっけ。
「タイシンちゃん、いいの。私のせいなんだから…」
「でも!クリークさん!」
とスーパークリークさんとタイシンさんの横を通り過ぎ、オグリさんが燈馬君に近づいた。
「燈馬、お願いだ!クリークを、クリークをこのチームに入れてくれないか!」
「アタシからもお願い。こんなの、絶対おかしい!」
「…」
と燈馬君にお願いするオグリさんとタイシンさん。けど、そのお願いとは裏腹に燈馬君は荷物の置かれた方へと歩いて行った。
「「燈馬!!」」
と燈馬君を呼び止めようとするも燈馬君は歩いて行った。
「「………」」
見るからに落ち込んだ2人。余程、スーパークリークさんがトゥインクルシリーズから抜けるのが嫌なのだろう。
そう思っていると燈馬君が戻ってきた。“一枚の紙を持って”。
「はい」パサ
「これって…」
「“入部届”だが?」
「「!!」」
と燈馬君が持ってきたのは入部届だった。もしかして燈馬君…。
「クリーク、お前のトレーナーと何があったかは知らん。だがトゥインクルシリーズを諦めたくない、まだ走りたいっていう気持ちがあるなら、このチームに入って続けてみないか?」
「燈馬さん…」
「まあ返事はクリーク、お前次第だ。その紙に名前を書いてもよし、捨ててもよし。自分のやりたいほうを選べ」
と入部届をスーパークリークさんに渡し、
「それと、お前とまだ走りたいって言う奴もいるからな。そいつ等の気持ちも考えてやれよ」
とオグリさんとタイシンさんを見る。オグリさんは嬉しそうな顔をして、タイシンさんは顔を赤くして恥ずかしそうにしていた。
「じゃあ、いい返事を待ってる」
と燈馬君はそう言って戻って行った。
「クリーク!」
「オグリさん」
とオグリさんが近づいてきて、
「また、一緒に走ろう!」
と右手を差し出した。
「オグリさん…はい。一緒に走りましょう」
とスーパークリークさんも右手を出して握手をした。
「君は行かなくていいの?」
「……何が?」
と僕はタイシンさんに近づいた。
「素直じゃないな〜。本当は「私も一緒に走りたい!」って言いたいんじゃないの〜」ニヤニヤ
とタイシンさんにいうと、
「っ!うっさい!!」バキッ!
「グハッ…」
蹴りを食らった。痛いよ、タイシンさん。
「何やってんの、トレーナー」
とお尻を擦る僕の後ろから呆れた声がした。
「あれ、戻って来たんだ」
「ヤダな〜、このチームには私も所属してるんだよ。忘れちゃ困るよ」アハハ
と腰に手を当てて、笑うウマ娘がいた。
「げっ、シービー」
「やあ、燈馬。女の子に対して「げっ」っていうのはいけ好かないな〜」
とシービーことミスターシービーさんがやって来た。いや、正確には帰ってきたって言ったほうがいいかな。
「シービーさん!お帰りなさい!」
「ただいま、ライス。調子はどう?」
「まだレースには出れてないですけど、でもレースに出れるようお兄様と一緒にトレーニング頑張ってます!」
「ふぅん、そっか〜。……ん?お兄様?」
「はい!お兄様は燈馬さんのことでお兄様がいいよって言ってくれて…」モジモジ
「へぇ〜、お兄様ねぇ〜」ニヤニヤ
僕も初めて知った。燈馬君、お兄様って呼ばれてるんだ。
「なんだよ」
「いやいや、燈馬にそんな趣味があったとは思わなくてね〜」ニヤニヤ
「ちげーよ。ライスがそう呼びたいって言うからそう呼んでるだけだ。下心とかそういうのはねーよ」
「ふ〜ん、それなら…」
とシービーさんが燈馬君に近づき、
「私もライスみたいに呼んでみようかな、
と燈馬君の耳元で囁いた。
「やめろ。そういうの柄じゃないだろ」
「アハハ!そうだね、ごめんごめん」
とシービーさんは燈馬君から離れる。
「あっそれとハイ、トレーナー。今出てるウマ娘達のデータ言われた通り取っといたよ」
「ありがとう、シービーさん。これで作戦をたてやすくなるよ」
僕がシービーさんに頼んでいたのは、今トゥインクルシリーズに出てるウマ娘達の情報収集だ。シービーさんの観察眼は素晴らしく、どのタイミングで仕掛けてくるか走りを見てわかるそうだ。当の本人は嫌がってたけど
「それじゃあ約束通り…!」キラキラ
「ウン、気ニシナイデ楽シンデネー(棒読み)」
「やったーーー!!」ピョンピョン
僕がシービーさんに出した条件、それは
「…さて、今日のトレーニングは終わり。門限も近いから早く帰るんだよ」
「「はーい!!」」(チーム全員)
と僕は道具を持って部室に戻る。時間があるけれど、無限じゃない。残り1ヶ月ちょっとで日本ダービーが始まる。その為にも燈馬君には最高のコンディションで挑んで欲しい。
「次のトレーニングメニュー、考えないとな」
と僕は足早とレース場を去った。
そして…
『トゥインクルシリーズファンの皆さん、お待たせしました!!!日本ダービーの開催です!!!』
クラシック2つ目、日本ダービーが始まろうとしていた。
読んで頂きありがとうございます。
新しい仲間はスーパークリークでしたね。まさかのミスターシービーも主人公のチームに入っていたとは…。
はてさて、いよいよ日本ダービー。エルコンドルパサー、スペシャルウィーク、そして主人公の燈馬が激突する───。
次回もお楽しみに〜。
それでは、また〜