大事な部分を省く系タキオンのトレーナー 作:匿名
––––此処は東京都府中市に存在する『日本ウマ娘トレーニングセンター学園』。国民的スポーツ・エンターテイメントとして位置付けられているトゥインクル・シリーズでの活躍を目指すウマ娘が集まる全寮制の中高一貫校。
華やかさの影に隠れているのは地方のエリートと呼ばれる者達ですら赤子の様な無力さに打ちのめされ、花道から足を遠ざけてしまうある種の戦場。
そんな世界だからこそ、ウマ娘達は勿論の事、彼女達のパートナーであるトレーナー達もまた己の経験と才能を磨きながら生き残りを掛けて切磋琢磨しているのであり、だからこそ昼下がりの光景としては珍しく無いものであった。
「はぁ〜、やっと収まった」
カフェテリアのテーブルに突っ伏しながらそう零すのは『アグネスタキオン』のトレーナー。
朝に飲んだ薬によって1677万色に発光しており、『アッハッハ!! まるでParty Parrotのようだね、トレーナー君!!』と言うタキオンの言葉と共に『ゲーミングトレーナー』なる渾名を付与されてしまっていた。
「大変だなぁお前さんも」
そう言って同情する様に語りかけるのは『ゴールドシップ』のトレーナー。彼も彼で彼女のノリに振り回されたり、目が覚めたら見知らぬ場所に拉致されていたり、レースで勝った際にドロップキックをかまされたりと散々なのだが、同じ
そんなこんなでお互いの苦労話に花を咲かせながら食事を摂りっていた2人だが、そこはトレーナー同士。最新のトレーニング方法や育成理論などに熱い議論を交わしていたのだが、そんな中でふと思い付いたかの様にゴルシのトレーナーが口を開く。
「俺が言うのもアレなんだけどさ、お前さんはなんで担当の子と契約したんだ?」
何気ない会話のタネ、他のウマ娘達も利用しているカフェテリアの背景として消える様なそんな言葉は、彼の返答によって爆弾となる。
「なんでって……そりゃタキオン(の走り)に惚れたからだよ」
「ブフッ!?」
その爆弾発言と共に啜っていたコーヒーを吹き出してしまうゴルシのトレーナーと、水を打ったように静まり返るカフェテリア。当然ウマ娘達の聴力ならばその発言を聞き漏らす訳が無く、ましてや相手はうら若き乙女達。その手の話は数あれど、身近な自分達が知っている人物の浮いた話となれば…………。
昼下がりのカフェテリアなのにも関わらず静寂が支配する空間、ゴルシのトレーナーは不味い質問をしてしまった事を察したが、残念ながらタキオンの
そのため、ウマ娘達が聞き耳を立てているところへ更なる燃料を投下してしまう。
「まぁアレだよ、(彼女の走りに)一目惚れってやつだね」
「そ、そうか? ま、まぁ、ほら、誰にでもそう言うのはあるよな」
なんとかフォローの言葉を絞り出そうとゴルシのトレーナーは当たり障りのない言葉を探すが、それ故にレスポンスが遅くなる。
「多分全トレーナーが同じ様な思いをしてると思うから恥ずかしいんだけどさ」
「いや、全員って訳じゃ無いと思うぞ? うん」
「はぁ? お前(トレーナーとして)担当の娘を愛してないのかよ!!」
バンッと机を叩きながら立ち上がるタキオンのトレーナー。先程の議論の熱が若干残っていた為か、傷口を広げない様に言葉を選んでくれているゴルシトレーナーの努力を潰す発言をさらに投下する。
「俺はタキオン(の走り)を愛している!! だから(研究や実験に集中してもらう為に)洗濯や料理だって望んでやっている!! 彼女の(夢の)為なら人生を賭けたって構わない!! いや、俺は人生を賭けている!!」
「分かった!! 分かったから落ち着け!!」
「俺は十分落ち着いてる!! 事実を口にしてるだけだ!!」
先に断っておくが、彼はアグネスタキオンに対して恋愛感情は持ち合わせていない。しかし、少々言葉を省く癖を持ち合わせている上、タキオン自身が気に入った『狂った目』をしている為、その様に捉えられる発言をしているだけに過ぎない。
ゴルシのトレーナーはチラッと周りを見るがスマホで情報共有を行なっているウマ娘達を見て手遅れだと察し、自身に飛び火しない様に彼の主張を黙って聞くしかない事に涙する。
––––そんな時だった。カフェテリアの入り口から声が聞こえて来たのは。
「おやおや、何やら騒がしいと思ったらトレーナー君じゃないか」
ザワッとカフェテリア内に響めきが木霊する、何故なら其処に居たのは噂の中心人物、アグネスタキオン。
彼女は周りの視線を物ともせずに自身のトレーナーの元へと近付いて行き、その手を握る。
「いやぁ探したよトレーナー君!! 新しい実験を思い付いてねぇ。なーにそんなにハードな事はしないさ、精々4時間ほど時間的な拘束が発生するだけだ」
「4時間かぁ、なら今日は仕事を早く終わらせるよ。ああでもそうなると夕飯とかは?」
「キミの部屋で実験すれば問題無いだろう? 夕飯も実験が終わった後に食べさせてくれればそれで大丈夫だ」
そう言って彼女は言いたい事を言い終えたのか、踵を返してカフェテリアの外へ出て行こうとし、『あぁ、そうそう』と一言呟くと、くるりと振り返りながらカフェテリア内のウマ娘達に向かって–––––。
「私と彼の関係は、彼の口から語られた言葉の通りだよ」
と、爆弾を投げて去って行った。
当然、その肯定とも取れる発言が学園の話題となったのだが、それはまた別の話。