大事な部分を省く系タキオンのトレーナー   作:匿名

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大事な部分を省く系タキオンのトレーナー2

 ––––噂話とは伝言ゲームの様に人伝に伝われば伝わるほど、その内容が原型を留めなくなるのはご存知の事だろう。

 

 それは人から人に伝わる過程で憶測や推測が入ってしまう為であり、それが繰り返される事で真実は脚色の衣を纏う事となる。

 

 だからこそなのか、此処トレセン学園の中でその噂話に頭を悩まされているトレーナーが居た。

 

 勿論、前回うら若き乙女達に燃料(恋バナ)を投下したアグネスタキオンのトレーナーだ。

 

 

「アッハッハッ!! 私とトレーナー君が『結婚を前提として付き合っている』だって? 面白い噂話が流れた物じゃないか!! 更に飛躍した物に至っては『実は既に籍を入れていて、夫婦になっている』とまで言われているようだねぇ?」

 

「笑い事じゃないだろ……」

 

 

 このご時世、強い絆で結ばれたトレーナーとウマ娘が異性として惹かれ合うと言う話題は珍しい物では無いとは言えだ。少なくとも彼には恋愛感情は無いし、良くも悪くも目立つタキオンにこれ以上根も歯もない噂が付き纏って欲しくないとも考えていた。

 

 しかし、噂話の対策会議だと言うのに当の本人であるアグネスタキオンはそんな噂話などどこ吹く風、それどころか楽しんでいる様な節さえある。

 

 自分よりも年下なのにも関わらず、肝が据わって居るなぁ等と感心していた彼だが、いつの間に集計していたのかリストアップされた噂話の一覧に目を通したタキオンは見上げる様にトレーナーへと向き直り、笑い過ぎたと言わんばかりに指先で目元を拭いながら口を開く。

 

 

「なぁに、コレは所詮笑い事だよ? トレーナー君」

 

「笑い事って……この手の話題は良くも悪くも周りを騒がしかねないんだぞ?」

 

「やれやれ、キミの心配性にも困った物だ。仕方ない、何故この噂話が『笑い事』なのか、この私が解説してあげよう」

 

 

 ため息混じりにそう言った彼女は、手元の集計結果に目を移しながらつらつらと理由を口にして行く。

 

 

「まず、第一に事実として私とキミは恋仲では無い。担当トレーナーとウマ娘、研究者と助手兼モルモット。少なくともコレらは真実かつ事実だが、噂話として流れている物はその多くが恋愛に偏った物で脚色されている。『恋仲である』『想い合っている』『夫婦である』こう言った結論で締め括る物が大多数を占めて居るのはキミも分かるだろう?」

 

「まぁ……うん」

 

「では何故広まっている噂話がこの様な形態となって居るのか? それは『自身の願望が混ざってる』この一言に尽きるだろう。無意識の内に、或いは語る噂話を自身の身の上に置き換えた上で、それを他者へと伝達する。『私もいつかはあの人と』と言う様な願望が憶測となり、その手の願望を持たない者が伝達者の表情・言動を見る事でそこから推測が生まれ……と言った無限ループが発生したのだろう」

 

「な、なるほど? じゃあ明日から俺たちの生活を–––––」

 

「––––見直す、かい? 大方お弁当の頻度を減らしたり、掃除の頻度を減らしたり、そう言った事を考えているんだろう?」

 

「うっ……バレた?」

 

「残念ながら、それでは逆効果だよ」

 

 

 タキオンはやれやれと首を振りつつ、指を立てて虚空を混ぜるかの如くにくるくると回して講釈を続ける。

 

 

「先程も言ったろう? この噂話にはトレーナーとウマ娘との間の恋愛について肯定的な者によるバイアスが掛かっていると。つまりキミが対外的に見える部分を改善したとて、今度は人目を忍んで逢瀬を重ねて居るのだと、脳内補完されてしまうだけだ」

 

「えぇ……じゃあ、どうしたら?」

 

「簡単な事だよ。何もしなければ良いのさ。普段通りの生活をしているだけでいい。特に変わり映えの無い、私達には当たり前の生活をね? そうすれば私達の関係・距離感が他者に可視化され、事実無根と分かるはずだよ」

 

 

 そう言い終わった彼女は最後に『だから笑い事、なのさ』と締め括る。自身の愛バの言葉に納得がいった彼は、ついでにと言わんばかりにもう一つ気になっている事を彼女に問い掛けた。

 

 

「噂話の対策については分かった。んじゃもう一ついい?」

 

「なんだいトレーナー君?」

 

「––––––俺の膝の上に座りながらお弁当を食べさせて貰ってる姿を見られたら火に油なんじゃない?」

 

 

 そう、この対策会議はお昼休みに行われており、タキオンは彼の膝の上に横に座ってトレーナーの胸に自身の肩を預ける様に体重を乗せている。

 

 その両手には集計結果が表示されているスマホと研究用の参考資料が握られており、両方ともに目を通しながら先程までのやり取りを行っていた。

 

 その上食事は所謂あーん状態、二人にとっては日常的な行為なのだが、第三者から見れば親密な行動に見られるのは必至。

 

 だからこそ、噂話が転じてスキャンダルにならないかはらはらしているトレーナーなのだが、その問いにタキオンは大きく笑う。

 

 

「アッハッハッ!! おいおいトレーナー君? キミは私の(・・)トレーナーであり、私の(・・)助手兼モルモットじゃないか!! ならば私に尽くすのはキミの仕事だろう? キミが私に食事を食べさせてくれる事で私はその間の僅かな時間すらも研究に費やせるのさ!!」

 

「いや、それなら俺の膝に座らなくても良くないか?」

 

「備品のパイプ椅子だと座り心地が悪くてね、クッションを用意するくらいなら実験道具を揃えた方がずっと有意義だろう? それにだ、私が徹夜で睡眠時間が取れていない時にこうやって耳をキミの胸元に当て、その心音を聞く事でリラクゼーション効果とそれによる睡眠導入が可能という一石三鳥なのさ」

 

「そっか、それなら仕方ないな」

 

 

 結果、彼はその言葉に納得してしまい、よく考えたら甘やかし過ぎている事に気が付けなかった上、うまく丸め込まれてしまったのであった。

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