東方岩物語   作:ヤーナム市民

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だらだらと亀投稿していきます。


現代 博霊霊夢

 

 

 「幻想郷」そこは忘れ去られた存在たちの最後の楽園。

 そこでは様々な妖怪・人間・吸血鬼等が存在し、争いなく共存している。

 その中の一つに「妖怪の山」と呼ばれる場所がある。天狗たちの総本山となっているが、その頂上、そこには大きな大岩が荘厳な雰囲気で居座っており、人々からの信仰を集めている。何故ならその大岩、大昔からある上、麓の村からでもちょこんと頭の先が見えるくらいでかい。信仰の対象にするには、ちょうどいいのだ。

 

 そんな大岩に、近づく人影が一つ。空を飛ぶ、巫女装束の少女。

 彼女はこの幻想郷の神秘を秘匿する大結界の守護者にして、大岩を信仰を分け合う博霊神社の巫女にして、人間達の切り札にして、怠け癖のある変わり者、博霊霊夢である。

 霊夢は大岩の頂上にふわりと着地する。

 

「相変わらず、いい眺めだけはいいわね」

 

 天気は良好。この辺りに妖怪の山以上の山が少なのもあり、霊夢が立つ大岩の上は、見晴らしのよい、絶好のスポットであるといえた。もっとも、普通の人間は飛べないので、この光景を気軽に見にくることなど出来ないのだが。

 霊夢は大岩に腰を降ろし、大岩をコンコンと叩き。

 

「いるんでしょ?出てきなさいよ。信仰泥棒」

 

 霊夢以外、誰も居ない筈の場所で誰かに語りかけた。

 しばらくは風の音が過ぎるだけだったが、ふと、霊夢の背後に影が差した。

 

「やれやれ。やってもいない罪を着せないでくれるかな。霊夢」

「事実でしょう」

「全然違うよ」

 

 突然現れた白髪白装束の女性は、この大岩の主にして、幻想郷で最も古い存在の一人にして、人々の信仰を集める者。人々は「岩神様」とか呼んでいる。

 岩神は座っている霊夢に並ぶように歩を進める。

 

「それで、なんの用かな霊夢。あとその座りかたは止めなさい。女の子なんだから」

「うるさい。商売敵の言うことは聞かないわ。てゆうか、またウチの参拝客減った気がするんだけど、アンタのせい?」

「知らんて…。努力不足だよ。普通に」

 

 このやりとり何回目だろうと考える岩神。たしかに人々の信仰を分け合う霊夢と岩神は商売敵と言えなくもないが、岩神にそんなつもりは無いので、霊夢の文句は限りなくいちゃもんに近かった。もはや馴れたものだが。

 しなし、初めて顔を合わせた際、身に覚えのない一方的な私怨で、あわや本気の戦いになりかけた二人だが、今はそれなりに気安い間柄となっている。

 

「妖怪のあんたと違って、こっちは生活がかかってんのよ。あと、用事は何時もと一緒よ。…っていうか、どうせ要らないなら、あんたから博霊神社をオススメしといて欲しいんだけど」

「んー。でも、あんまり村人に姿を見られたくないんだよな」

「じゃあ、営業終了の張り紙でも貼っときなさいよ」

「いや、それはちょっと…」

 

 せっかくの景観が台無しじゃないか。

 

「……霊夢が真面目に巫女家業をやっていれば、そのうち、博霊神社にも沢山の参拝客がくるよ。きっと」

 

 岩神がそう言うと、霊夢はキッと目を鋭くする。

 

「私は働きたくないの。商売敵に負けないよう身を粉にするなんていやよ。楽して稼ぎたいのよ」

「なんて怠惰な」

「怠惰でもなんでも、あんたが社なんてやってなきゃ私の独壇場だったのよ」

「それは残念だったね。諦めて働けという、神の思し召しかな」

「余計なお世話ね。まったく神なんて、ロクなもんじゃないんだから」

 

 お前巫女だろ。という言葉を呆れ混じりに呑み込み、岩神はため息を吐いた。

 岩神の中の巫女のイメージは霊夢と知り合ってから崩壊する一方である。おしとやかで真面目で、信心深い巫女など夢物語。現実の巫女は、こんなにも欲望に正直なのだ。

 ほんの少しでも巫女らしくしてほしいと思い注意した胡座座りも、まったく直す気配がない。

 

「まったく…」

 

 岩神は再度ため息を吐き、岩の中にスウッと溶けるように消える。霊夢をそれを確認してから立ち上がり、追いかけるように頂上から飛びおりた。通常なら死んでしまう高さの岩だが、飛べる霊夢には関係ない。綺麗に着地をしてみせる。

 

「いっぱいあるじゃない。けど、ウチよりもお供えが多いなんて、生意気ね…」

 

 大岩の側にある寂れた社に、お供えされた野菜や穀物、投げ銭を見て不満そうにいう。これは、信心深くここに通っている人間が置いていったものだ。

 

「最近は交流もないのに、ありがたいよ。ほんとうに」

 

 霊夢に遅れて、岩神も大岩から姿を現す。

 

「仕事もしないのに糧と金だけ貰うなんて、穀潰しもいいとこじゃない」

「穀潰しはやめてくれ」

 

 あと、交流がないだけで、仕事をしてない訳じゃないんだぞ。と心の中で文句を言う。

 そんな岩神を他所に、霊夢はさっさとお供えの前でしゃがみこんで、ウキウキした顔で吟味している。

 日が経ち、痛んでいるものも僅かにあるが、殆どは大丈夫そうだ。

 

「大根にトマト、白菜もあるじゃない。贅沢ねぇ」

「信仰の差かな」

「喧嘩売ってんの?」

 

 霊夢が懐から幣(ぬさ)を取り出して岩神に向けようとする。相変わらず冗談の通じない巫女だ。岩神は両手を上げてまいったのポーズを取る。

 

「…ったく。そんか口きけるのも今のうちよ。今に見てなさい。直ぐにあんたの事なんか忘れるくらいの信仰を集めて、ウチのオンボロ神社もピカピカの新築に建て直ししてみせるんだから」

「働きたくないのに?」

「でかい異変を解決して一発当てるわ」

「……」

 

 賽銭でリフォームという壮大な夢を語りながらも、あまりの駄目人間っぷりに、思わず呆れてしまう。異変なんて、そうそう起こるものでもないし、そもそも賭博じゃないんだから報酬が約束されるとも限らない。

 

「ところで、あんたの分はいいの?」

「ああ、それはいいよ。私にはそもそも人間の食事は必要ないし」

「あら、そうなの」

「…まぁ、せっかくの貰いものだから、ある程度はちゃんと頂いているけどね」

「ふぅん。意外と律儀なのね」

 

 ただ、それでも一人では食べきれないため、こうして霊夢に譲ったりしている。駄目にしてしまうよりは、ずっと良いだろうと思って。

 

「そういうことなら、少し残して、あとは貰っちゃうわよ?」

「どうぞ」

 

 霊夢は野菜を2つ程脇に寄せて、残りを布でまとめる。

 

「賽銭は、何時もどうりに寄付していてくれよ」

「わかってるわよ。私もそこまで落ちぶれてないわ」

 

 霊夢は自他共に認める金の亡者だが、流石に人々が気持ちを込めて置いていった賽銭に手を出すような真似はしない。駄目人間だが、外道ではないのだ。

 因みに寄付とは、貯まっていく賽銭の使い道に困った岩神が、村の寺子屋に寄付するよう霊夢に依頼したことから始まったものである。霊夢が定期的にこの場所に通うのも、そういった理由がある。お供えを貰っていくのも、その駄賃のようなものだ。

 

「よいしょっと。それじゃ、私はこれで行くから」

 

 準備を終えた霊夢が野菜をひっさげて立ち上がる。

 

「ああ。慧音によろしく」

「はいはい」

 

 岩神の言葉に軽く返して、フワリと浮きあがる。

 

「ああ、霊夢。ちょっといいかい」

 

 そんな霊夢を軽く呼び止めた。

 

「なによ」

「いや、些細なことなんだけどね。飛ぶのが得意だからといって、あまり油断をしてはいけないよ」

「…どういう意味?」

「そのままの意味だよ。帰り道、十分に気をつけて」

 

 霊夢は不審げな顔をしていたがやがて口を開くと。

 

「余計なお世話よ」

 

 と一言いって、豆粒ほどの高度に達すると、人里の方角に飛んでいった。

 霊夢との関係はまだ浅いが、サッパリとした性格の霊夢を、岩神も好んでいる。金だ金だと言っている割に、実際に賽銭を横取りしたり、怠け癖はあるが悪い事をしないのも好ましく思う要因の一つだ。口は悪いが、従来の人柄は良いということなんだろう。

 

 先ほどちらりと視えた不幸を避けられるかは霊夢にかかっているが、あの様子だとまったく気にかけずに終わってしまうだろう。

 これ以上は岩神にも関係のないことであったが。

 

 岩神は霊夢を最後まで見送った後に、大岩の中に姿を消した。

 

 

 

   ◇   ◇

 

 

 

「慧音はいるー?」

 

 岩神と別れた足で、霊夢はそのまま寺子屋にやってきていた。扉を叩くと奥からパタパタと足音がする。

 

「すまん。またせたな霊夢」

 

 扉を開いて出てきたのは、上白沢慧音。この寺子屋の先生兼責任者にして、ワーハクタクの半人半獣である。

 

「まってないわよ。はいこれ、岩神からよ」

「…ああ。いつも悪いな。岩神様にも、お礼をいっておいてくれ」

「本人は使い道に困っているだけのようだけどね」

「それでもさ」

 

 慧音は少し申し訳なさそうに巾着を受け取る。

 

「そういえば、あの話はしておいてくれたか?」

「あの話?」

 

 その霊夢の反応だけで忘れていたなと察した慧音はため息を吐く。

 

「岩神様の、社の件だよ」

「……ああ!」

「まったく…」

 

 社の件とは、岩神からの願いでも寄付とはいえ、一方的に貰うのを申し訳なく思った慧音が、岩神の社を建て直して新しくしようと考えている、という話だ。

 とはいえ、当の本人を差し置いて話を進める訳にもいかないので、霊夢に伝言を頼んでおいたのだが。

 

「ごめんって。次いく時に話しておくわよ。ただ、あいつは別に良いとかって言いそうだけど」

「私の気が済まないんだとも、言っておいてくれ」

「わかったわ。…私より先に社を建て直すなんて、私は納得しないけどね」

「神に僻むな」

「あいつは神じゃないわ。立派な妖怪よ」

 

 まぁ、変わった奴ではあるけれど。

 用事が終わり、踵を返して飛びあがる。

 

「じゃあね、慧音。またくるわ」

「ああ、またな霊夢」

 

 

 博霊神社に向かう道すがら、霊夢は岩神のことを考える。霊夢にとっての岩神は、日が浅い知り合いにして、商売敵。妖怪にしては、人間に執着せず、騒動よりも静かな日常を好んでいる。といったところだ。

 異変や祭を好む幻想郷の妖怪とは少し違った価値観や気質をもっているように思う。紫とは長い付き合いらしいが、向こうから積極的に話してくることもないし、霊夢もそこまで興味がないので、詳しくはわからない。

 

 結局、霊夢にとって岩神とは、ちょっと変わった、よくわからない妖怪なのだ。

 

「…これだけあれば、今日は野菜で鍋でも出来そうね」

 

 霊夢は答えの出ない思考を振りほどいて、今日の夕食の献立を考えながら、博霊神社までの空を滑空していった。

 若干、楽しそうな表情を浮かべながら。

 

 しかし、社間近で霊夢の少し先を飛んでいた鳥から糞を飛ばされ、ルンルン気分で油断していた霊夢に見事直撃したことで霊夢の気分は最下層まで落ち込んだのだった。

 

 

 

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