12-死神の隣で踊る   作:samusara

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ルスキニア

 星暦2139年ギアーデ帝国に宣戦布告されたサンマグノリア共和国。敵は高度なAIが操るバリエーション豊かな次世代の多脚装甲兵器。共和国の主力は無人どころか有人多脚装甲兵器の開発すら遅れ旧式の装甲戦闘車両。物量技術共に差がありすぎた。

 半年も経たずに共和国正規軍は壊滅。総動員を迫られた共和国大統領はその書類にサインをする。大統領令第6609号に基づいた戦時特別治安維持法。後の世に伝わる悪法が議会での審議があれば止められていたかというとそうでもない。連邦最高裁の判事も共和国上院下院議員も民主主義に従い有色種(コロラータ)を快く思わない白系種(アルバ)が大半を占めていたのだから。捕虜を取らない無人機に完全包囲され追い詰められた状況でスケープゴートを差し出された白系種(アルバ)が止まったかはそもそも怪しいのだ。

 共和国は300年前の建国時に初めて発された大統領令身分制度廃止の解放宣言に始まり身分制の復活に終わったと言える。

 

 

 隙間から堂々と外の緑が顔を覗かせるオンボロバラック倉庫。嘗て物流の拠点だっただろう倉庫街の一角が俺達の憩いの場。

 

「あ”っ」

「へたくそー」

 

 狙いすまして放ったはずのダーツは的から大きく外れる。予定調和とばかりにニヤニヤ揶揄ってくるレッカ。ハンデと少し後ろで構えるマイナ。もう1年の付き合いになるカイエも無援護。どころか笑いを嚙み殺しているのが見える。

 仕方ないだろう。銃にしろダーツにしろ何か苦手意識があるのだ。滑空砲をレギオンにぶっ放すのは問題ないのだけど。

 

「こーんな射撃の腕で大丈夫ですかーふくちょー?」

「うるさいやい!当たらないなら照準一杯近づけばいいんだよ!でも援護はマジありがとうございます」

「くるしゅーない。あー、シートが硬いから肩がこったわー」 

「…おほん、おもみしましょうか」

 

 伸びをするレッカの強調された部分。まあまあな物をお持ちだからではと思っても口にはしない。目を逸らすのも何かもったいないしキョドらず堂々と肩を揉む仕草をしつつ脳裏に収める。マイナもカイエもこいつの前にはなーと思った瞬間。

 

「ど、こ、を、見て言っている」

 

 身を屈め音もなく標的に接近したNINJYAによる肘打ちに悶える俺の耳のすぐ側を金属の矢が通過した。これでも副隊長なんだけど扱いが酷い。

 

「そういえばどうだった?あれ」

 

 マイナが何もなかったかのように差し迫ったイベントを話題にした。ここ数年おなじみとなった半年ごとの異動。俺達が結託するのを防ぐためだけのろくでもない再編だが部隊壊滅によるそれよりはましだ。あれは静かな隊舎がくるものがある。

 

「ここまで来て仲間外れなんてないよね?」

「ああ、今日のハンドラー(指揮管制官)殿は機嫌が良くて嬉しそうに教えてくれた。4人一緒だ」

 

 レッカが不安の色を隠してカイエに確認する。行き先は悪名高い例の場所と分かっているが24の枠から漏れる可能性もなくはない。最後の最後でもしハブられてひよっ子達を巻き添えにピクニックとか目も当てられない。

 

「ふぃー。あとは他の連中がろくでなしでないことを祈るぜ」

「ま、ハルトが盾になってくれるでしょ。なんか死神とかいるらしいしがんばって」

「お宅らもう守ってもらうなんてたまじゃ…スミマセンでした!」

 

 マイナが明るい笑顔で鈍色に光る鉄の矢を構えたので速攻で謝った。実のところさほど合流する顔も知らぬ仲間のことは心配していない。実力はこの4年半を生きたことで証明済み。今更少数派の種族を理由に排斥するような奴もいないだろう。いたとして力を見せればそういう奴は黙る。

 

「異名持ちばかりの部隊でクズをできるとは思えない。後ろから撃たれて終わり」

「それよりさ。作戦中互いを呼ぶの大変じゃない?みんな号持ちって」

「まー確かに知覚同調(パラレイド)じゃなかったら命取りかもね。無線じゃ最初顔と号が一致しないし」

「じゃなくてさ。カイエ(キルシュブリーテ)以上の呼びずらい奴とかいたらって話」

「私の異名にそんなこと思ってたのかレッカ!?」 

「大丈夫。普段は隊長呼びだったからこれからの話」

 

 救いを求め周囲を見回すカイエ(戦隊隊長)の視線から少し離れて寛いでいた小隊員達が一斉に目を逸らす。それを見たカイエは桜をちょっと格好良く言いたかっただけなんだと頭を抱えた。同時刻遥か遠くの戦地でデンドロアスピスの名を持つ少年が謎の頭痛を感じたとかなんとか。

 作戦行動中使うものなのだから言いやすさ憶えやすさも大事だよな。まあ白ブタの舌を噛ませることも心惹かれるけど。ここまで86区東部戦線第19戦区第1防衛戦隊ルスキニア副隊長ハルト(ファルケ)がお送りしました。

 

 

 戦時特別治安維持法に従い今まで受け入れてきた移民とその子孫の中から髪、肌、目の色が有色の国民を集め市民権を剥奪、抵抗を武力で排し強制収容所(86区)へ収容。有色種(コロラータ)はギアーデ帝国の内通者。内通のせいで緒戦に負けたと共和国敗北の責任転嫁論まで流れはじめた時人口の8割を占める白系種(アルバ)市民は少数の反対意見を封殺して優生思想へ手を伸ばす。

 野蛮な有色種(コロラータ)は私達とは違う、人間ではないという言説だ。でっち上げの差別的な報告書を元に生物学者が雑に纏め政治家が推し進めたこれを受け入れた()()()()()。彼等は85区の外(人外領域)生息する(追いやった)人型の豚をエイティシックスと蔑称する。

 

 

 背後から迫る銃撃は左右の建物に吸われて一切がその猛禽に届かない。曲がりくねった狭い石畳を一歩誤れば吹き飛ぶ速さで駆けぬけた鷹が尖塔に飛ばしたアンカーを巻き取り文字通り宙を飛ぶ。

 

レッカ(バーントテイル)トール(ブラボー2)!飛んで火に入る、なんとかだ!」

『ばかよねー。セミよセミ』

トール(ブラボー2)了解。あと夏の虫です』 

 

 追っていた標的が消え逃げ場のない路地で建物の瓦礫を利用した即席の陣地に迎えられた斥候型(アーマイゼ)近接猟兵型(グラウヴォルフ)は次々とその機能を止めていった。

 

「うひょー!」

 

 死に際に近接猟兵型(グラウヴォルフ)が放ったロケットランチャーの群れを引き連れたまま角から現れた戦車型(レーヴェ)の振り上げられた前脚を潜る。次の瞬間同士討ちも気にしない対戦車ロケットランチャーがその装甲に着弾し炎の壁をつくった。

 観測役を失い貧弱なセンサー(自前の目)も焼かれた戦車型(レーヴェ)は異音を響かせながら振り向いて12、7ミリ機銃をばら撒こうとするも銃身が曲がった副武装は沈黙。自棄になったかのように120ミリ砲を振り回す。こんな雑な抵抗も当たれば強固な装甲を抜くために近づいた駄作機を屠るに十分なのが悲しい。

 

「ストライクバッターアウッ!」

 

 風を切って振られた鈍器を後退することで躱し晒された側面に滑腔砲を突き付け撃ち込む。強固な複合装甲を持つ戦車型(レーヴェ)もこれには沈黙した。 

  

『デッドボールじゃない?』 

「振ったからストライクでいーんだよ。ポイント165でカイエとマイナ(第1小隊)に合流すっぞ。おーばー?」

『了解。おーばー』

知覚同調(パラレイド)にそれ要らないです。…アウト』

「ん?今何て言った?な?もう一回。これ副長命令!今日は初ボケのお祝いだな」

『はーいそこの鳥頭。トール(ブラボー2)を虐めない』

 

 視界の端で歪なアルミの塊を一瞥。パトロール中運悪く敵と遭遇した第3戦隊員(救援対象)。つい数分前まで繋がったまま怯えていた彼の生死はコックピットが割けた機体とその彩りを見るに明らかだ。特に珍しくもないエイティシックスの最後。亡骸の回収は許されないしする余裕もない。

 ()()()の意識を接続する知覚同調(パラレイド)は離れていても面と向かって話すくらいの機微が分かる。新米は不安や恐慌が伝播することもあるし古参も何も感じないわけではない。

 だから皆が連れていかれないようにそんな空気を払う。お約束ではお調子者から逝くらしいし自分が逝かなければその分少しは皆の順番も遅れるかもしれない。

 

 

 自由、平等、博愛、正義、高潔を表す五色旗が抑圧、差別、偏狭、悪逆、下劣に反転した日。

 ()()()()()はエイティシックスの財産を接収して戦費に当て家族の市民権を条件に5年の戦役と労役を課した。こうして迫る敵無人兵器の足止めと共和国第1区を中心に()()()の行政区を囲む大要塞壁群(グラン・ミュール)()()対戦車地雷原、自立式迎撃砲陣地の建造は成る。

 開戦から2年。共和国工廠は()()()多脚装甲兵器をロールアウト。この時点で生身に銃器を抱えレギオンに立ち向かった第1、第2期徴募兵の大人達はその大半が戦死。程なくして強制収容所(86区)の青少年世代に1枚の紙きれが届けられた。大人達の残した最後の願い(兵役対価の市民権)について何も言及せず従軍志願書類が添えられたそれはありありと共和国のついた嘘を示す。既に反乱を起こすための人口も足りない彼等は国防を担う自分達こそ真の共和国市民だという誇りを最後の矜持として年少の家族を守るためアルミの棺桶に入った。

 では最後まで残された少年少女達は、守るべき赤子や幼子を劣悪な収容所の環境で失った最後の世代は何の為に戦えばいいのか?

 




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