プロテクト「いいよ」
◆
「ハルト伸びたな」
切欠はそんなカイエの一言だった。彼女を筆頭にレッカ、マイナの視線は俺の頭に向いている。身長のことかと少しだけ期待して視界を横切る
「また?前冬なのに切られて寒かったんだけど」
「異動もあるし印象よくしないと」
「余裕ないって思われると足元見られるのよ」
口を尖らせ不満を主張するが分が悪い。戦隊員の女性陣が手をワキワキさせているのが見える。放棄された街の理髪店から道具を頂いてからというもの自分達のそれは収容所、下手したら共和国にいた時より整っている。衛生とか考えると良い事なのだけど熱が入りすぎというか。
「いいじゃない。ただでさえ服がこんなダサいのだから」
少しのオシャレくらいと亡き共和国軍の野戦服を摘んでレッカが言う。要塞壁の中の白ブタは揃って勤務服を着るので無骨なそれは苦しい状況の中唯一こちらにくれてやるほど余っているのだ。合わせて服装をとやかく言う人間もいないので自分達は前を開けたりシャツ1枚で過ごしたり好き勝手している。だが所詮戦闘が前提の無骨なそれ。弄れるのは髪型くらいという主張もまあ分かる。でついでに遊ばれるのがわからない。
「お客さんリクエストは?」
「ちょーかっけー奴」
「チョンマゲとかどうだ?私の故郷で流行ってる髪型らしい」
「それはやめとく」
知らないけど
「結局短くするくらいしかないのよね」
「髪留めなら街で拾ったのあるしちょっと付けてみる?」
「それこそお前達が使えよ」
エイティシックスの男女比はその過酷な環境のせいで男に大きく傾く。戦隊によっては男所帯なんてことも珍しくない。その分彼女達は強い。女3人寄れば姦しいとはよく言ったものでこの戦隊で4年を生き残った彼女達に逆らえる者はいない。
副長の俺?他の男衆に盾にされてるだけだな。刃物を突き付けられて背後できゃあきゃあされてる今の状況が証拠だ。
「動かない」
「ハイ」
前からハサミを入れるレッカの青い瞳と目が合い身動ぎしようとして額を突かれ元に戻される。こうなると座っている椅子の背もたれとサンドされて動けない。
「ま、いいんじゃない?」
まな板の上の鯉から脱せたのは20分後。髪を軽く払われ肩を叩かれたのが合図だった。首に巻いたタオルを取るとのっていた赤毛がパサリと落ちた。
「すっきりしたじゃないかハルト。カラスからツバメの巣くらいにはなった」
「格好良いというか悪ガキ?」
好き勝手言ってくれる。だが反論しようものなら3倍になって返ってくるので静かにする。するとタゲがコロコロ変わるのも女性。
「カイエは相変わらず髪綺麗よね」
「私達の環境でこれは凄いって。本当どうなってんの」
ここからレッカとマイナに美の秘訣を迫られたカイエが追い詰められるのもいつものこと。
◆
戦争の終わりも見えた。白く正しい共和国には常に道が示される。
◆
空から降りてくる不格好な4発輸送機を眺める。前線にその高い短距離離着陸性能で物資を届ける働き者。ある意味
「トールは惜しかったな。号も決めていたのに」
「4年物が4人の戦区で1年生。私には無理無理」
「ハルトなら大丈夫でしょ。鷹みたいに逃げ足早いし」
「だろ?俺はその逃げ足でファルケの名を…んなわけあるか!」
戦場を1年生きたエイティシックスには判別がつくようにパーソナルネームが与えられる。激戦区に送るための目安だ。
輸送機のハッチが開き中から武装した軍人が現れる。
「ノロノロするなブタぁっ!今日は忙しいんだ。お前達死に損ないのせいでなあ!」
「輸送機が対空型に落とされたの思い出すなあ。あれはいつだったか」
「あれね。補給後じゃなかったら私達まで危なかったわ」
「その後ハンドラーが交代したから確か4ヵ月前だな」
東部戦線のあちこちから第1戦区送りのエイティシックスを集める任務は
「痛っ。踏んでる踏んでる」
「なになに?」
「ハルトことファルケ。よろしくぅ」
「ルイ・キノでーす。
「挨拶はいいから何方か足、足」
恐らくレッカが機体の床に寝転がっていた誰かを踏んでからはエンジン音も吹き飛ばす大騒ぎになる。隅でこちらの様子を見ていたのかわらわらと次の仲間達が湧いてきた。一応拳で格付けとか脳筋な連中ではなさそうだからその膝をどけてやってはどうだろう。こっちが危ない奴等認定されかけてる。
「へー4人一緒だったの?」
「そ。レッカとマイナとは前回。カイエは前々回から」
「そこで踏まれてたニコ君とシロカちゃんが数年来。僕はマシューと一緒でスケイルにいた」
黒髪黒膚で長身の男と落栗色の髪と褐色の瞳の女子がクジョー・ニコとミナ・シロカ。気の合いそうな黒髪金目の少年がルイ・キノ、奥で一言名前を言って黙り込んだ男がマシュー・ナナキ。戦隊は24名なのでまだまだ乘ってくるかと思いきや他の便もあってこのまま終点行きらしい。
「おー。如何にも戦線中から集めますって感じ」
「扱いが行きつくとこまで来ちゃった感じだよね」
「なー」
だだっ広い貨物室の一角で女子3人に合流したシロカが早速話に花を咲かせている。相棒に放って置かれたクジョーが仲間に入れて欲しそうに此方を見てきた。
「マシュー君とニコ君もこっちおいでよ!」
「おうっ」
「…」
男は男で集まればバカ話に興じるのがお約束だ。戦隊の斬り込み役を担ってきた身としては譲れない一線がある。
「んでっ。ニコ君はシロカちゃんと仲いいの?」
「クジョーでいい。あいつは妹みたいなもんだ。そういうのはねえよ」
「なーんだ」
「僕もキノでいいよ。そーゆーハルト君はどうなのさ」
「じゃあ俺もハルトな。ないない。あいつ等口より先に手足が出るしお淑やかとは程遠いから。クジョーも分かったろ?」
戦争がなければ今の仲間達と会う事もなかったわけでそこら辺複雑な思いがある。割り切るには周りの不幸が多すぎた。明るい口調で内心を覆うのに気を取られてキノがする待てのハンドサインを見落とす。
「手足が挨拶だからこれでいいのよ…ねっ!」
「…」
「いたたたっ。マイナさん?懐から見えてる黒いそれはマジ洒落にならないから」
共和国軍の基地から拝借したそれ。実のとこ皆も持っている物だが所持が露見すれば全員にペナルティが発生する。自分がそれの最後の犠牲者になるのが嫌な白ブタは直接調べたりはしないが映像なり音声なり記録があれば後から補給を切るくらいならする。
「私達を品評するとは偉くなったものだなハルト?」
「どうせそっちだってシロカさんにクジョーとどうなの?とか聞いてたくせに」
「そ、そんなわけないだろう?」
カイエの動揺を表すかのように機体が揺れた。その後も戦区ご当地ネタやら何やらで盛り上がる新しい仲間達。まだ3分の1しか集まっていないがこれならやっていけそうだと胸をおろした。
「やっぱお前頼む相手間違えてるよ」
◆
「俺に言伝てもしょうがないだろ?一応教えるけどスピアヘッドは」
「精鋭が行きつく場所です。あと辛気臭い雰囲気した奴に自分のことを伝えられても姉は心配します」
「お前、冷静キャラなのにシスコンだったか」
指揮官機「乗り込め―」
プロテクト「ダメです」