「おー。結構立派な建物」
「”天国に一番近い基地へようこそ”か。画もセンスがある」
8人で隊舎に描かれた聖女マグノリアの落書きを見上げた。個人的には反対側にある錆びれたバスケットゴールが気になるが今は皆に従う。後でボールを探そう。
「聖女マグノリアね。どんな人だったんだろ」
「わたしオウサマの私生児って話聞いたことある」
「猫被った腹黒だったんじゃない?」
「聖女様にとって革命もただ私怨を晴らすための手段でご本人は俗物。話としてはこっちが面白いな」
以上落書きを見たマイナ、ミナ、レッカ、カイエの感想である。
世間ではカリスマの発揮なんて
「聖女様が潔白だったのは間違いないぞ。ただ当時は移民なんて受け入れていないからご本人はその気がなくとも周りは”
「ぶー。クジョーつまんなーい」
女子達のスキャンダラスな話をぶった切ったクジョーに非難が集中した。場の男女比は1:1なのだがマシューは寡黙。俺とキノは毟った草で笛を吹き肉食獣達と視線を合わせない。そうして遠くを眺めていると空に浮かぶ点を見つけた。方角を考えると忌々しいレギオンの羽虫でもなさそうだ。
「新しいカメラードのご登場だ」
「どこどこ?」
「手前から鉄塔5本目と6本目の間。小さな雲のちょい下」
「うーん。あの豆粒?ハルトすごい目してるね」
「いつも
「お、それは頼もしいな。いよっ鷹の目」
「へへっ。もっと褒めてもいいぞ」
山場が近づくと稀に
「ほんとその目を長距離砲戦に生かせていたらね。近接バカ」
「ジャガーノートの狙撃は望遠レンズあるから器用な奴がやりゃいんだよ」
キノ達から向けられていた尊敬の視線が残念な色を帯びている。レッカは俺になにか恨みでもあるのか。
「んじゃま死神様のご尊顔。拝しに行きましょうか」
荒れた滑走路に足を向けて地を蹴った。
◆
ジャガーノートの整備員もエイティシックスだ。生身でレギオンと戦った第1、第2期徴募兵の傷病者や要塞壁の労役に回された機械知識を持つ者で構成される。出撃していく子供達をただ見送ることしかできず自身の無力を思い知らされた彼等の口は基本重く堅い。
それでもつい肩入れする時はある。その整備員は今ハルバード戦隊最後の任務だった敵前進基地の破壊を成して帰ってきた黒髪の少女と赤毛の少年を見つめる。
「タニヤ、キーツお前等これで何年目だ?」
「4年です」
「おっさんついにボケたか?メディカルユニットは脳まで見てくれないぞ」
「…」
まああれ骨折にも黒タグ出すヤブだけどとぼやく少年の中に半ば本気の心配を視て取り鉄拳を下す整備員。少女は床を転がる少年を見て学習しないなと嘆息する。
「あーもう馬鹿らしくなっちまった。散れ散れ」
「なんだよ気になるじゃん」
しつこい少年に整備員はもし
「ハルト…。ジャガーのボルトでも抜かれてないか見ておけ」
「じょ、冗談だよなおっさん。いずいっつじょーく?」
◆
残念ながら合流した18人と談笑する時間は不随した高圧的な共和国軍人に妨げられた。異動の度に行われる写真撮影の時間だ。配られたボードに書きなれた計9桁の収容所番号と収容者番号を書きなぐり兵舎の影で呼ばれるのを待つ。
「収容番号E165-42744。来い!」
「どうしたらあの写真くれると思う?」
「ダイヤ君だっけ?目がマジになってるよ」
「ダイヤ…」
「冗談だってば!なんでそんな離れてるのクレナ」
青みがかった銀髪の少女アンジュ・エマが擦れた壁の身長線の前に立つと兵士がカメラを構えた。一見
「収容番号E316-00383」
「彼女お宅のとこの戦隊長だっけ?」
「真面目で実直、冗談もこなす理想の上司。小さいけど」
聞こえたはずもないのにギロリと睨まれた。声を小さく強いと続ける。
「E380-30703」
今度は先程まではしゃいでいた
彼女は苛立ちを発散するかのように石を蹴った。
「E085-36585」
「行ってらっしゃーい」
「ばっちし決めてやるよ」
「ニヤニヤするな豚!」
ボードを両手で抱え満面の笑みで壁を背にしたが兵士に怒鳴られる。酷い暴挙である。美少女達に睨みつけられるよりいいだろうに人間サマの趣向は分からない。
「E022-23093」
クレナに続いて地面に転がっていた小石を強く蹴りつけた。壁の聖女を狙ったはずが地を這う様に飛んだそれは草地へ消えて行く。行方を追っていると素晴らしき発見があったので日陰に戻る足も軽い。
「喜べ皆の衆。あっちにタンポポ生えてた!」
「やるじゃん准尉殿」
「俺副隊長だったから降格してるんだよな、あっ。びっくりしたぁ」
背後で写真を撮り終わった黒髪赤目の少年が投げたボルトが白ブタを掠め壁の聖女に突き刺さった。おまけにお願いと称して戦隊の集合写真を撮らせる気らしい。加えてツナギ姿の整備員達はともかく何故か旧式の
軍人達も家畜達の自由奔放さに唖然として罵声を吐く口も働いていないようだ。
「もうシンエイ君に任せよう」
「異議なし」
「ぴっ」
「ね、ね。シンすごいでしょ!」
「はいはいクレナ落ち着いて」
これはいけない。こいつら個性が強すぎてこのままでは戦場のムードメーカー廃業である。せめてもの抵抗として音頭役はダイヤ君から譲ってもらった。
「皆さーん。笑って笑ってー。人生最後の写真だよ!」
クジョーが無理矢理マシューとクロト、カリヤを引き寄せた。それに驚くミナにハリズ、笑うシュリに肩を竦めるカイエ。カメラ目線なんて気にしてない組。
「さん」
対してしっかり組。オーチ、イオ、トウザン、キノ、トーマの男5人とピースサインをするレッカ、明るく笑うマイナ、クールにレンズを見つめるミクリの女子3人。
「にー」
中央じっと佇む我らが隊長シンエイとしっかり斜めからキメる副長ライデン。隣のクレナは隊長にくっ付こうと前寄り。ダイヤを何やら揶揄うリッカ。それをぼんやり眺めるチセと横目で見るアンジュ。
「いちっ」
端に佇む整備員達に頑として座り込み動かなかった支援機。そして自分。掲げた手をカウントする指1本のポーズのまま時は切り取られた。
◆
駆けていくハルト、キノ、クジョーを見送り歩いて後を追う女子達。マイナが後ろを歩くレッカに振り返りステップを踏む。
「ハルトと別小隊になるのが気にくわないの?」
「別にそんなことない」
前の任地半ばから小隊再編で元狙撃班のレッカは前衛班に混じっていたが本来戦隊の中で小隊ごとに役割を分けるのが望ましい。各地から歴戦の号持ちが集まったスピアヘッドでは尚更そうだろう。
他の面子にもよるがハルト、キノ、マイナ、ミナが第1、第3小隊の前衛。カイエ、クジョーが火力拘束の第2、第4小隊。射撃戦に適正のあるレッカが無理に前衛小隊に入る必要はまだない。
「実際付いてくので精一杯だったしそれなら後ろから撃った方が皆もいいでしょ」
「健気だな」
「ねー」
「…マシュー。余計なことあいつ等に言ったら、わかるよね?」
「(こくんっ)」
寡黙な男マシューは頷くしかなかった。