故郷は共和国で出た全てのゴミを引き受ける再生工場の一角。同じ境遇の少年少女が自然と集まりできたグループでゴミ山の中から使える物を拾いギリギリのところで暴力やドラッグ、変態の魔の手をかわす。そんな先のない生活の終わりはあっけなく来た。故郷を覆うように建てられた鉄条網付きのフェンスの中に閉じ込められたのだ。
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「哨戒しないでいいってどういうこと?流石に無様に死にたくはないのだけど」
「そいつは後からシンが話す。前提としてセオの話を聞いてくれ」
白ブタが去った後シン隊長以下元クレイモア組からされた通達は以前から細々と流れていた噂の大元だった。
1つ。レギオンの中央処理装置には構造図に6年の寿命が設定されている。
「その話には明確な反論があるぜ」
「ほう。言ってみろハルト」
「サンマグノリア共和国が未だ生きてて他所が先に押っ死ぬと思う?」
「「ないない」」
開戦時有人多脚装甲兵器の分野において共和国は周辺国に後塵を拝していた。当然他国は共和国よりましな初動をとりあの
「でも共和国が歯牙にもかけられてないってことない?帝国の軍人は1人も戦場に姿見せなかったらしいし脅威度で見て優先順位は一番下みたいな。ついでに滅ぼしておくかみたいな」
「あっだめだわ。今レッカのツッコミで世界崩壊した」
「世界も忙しないわね」
2つ。シンは広大な範囲のレギオンの声と位置を判別できる。その範囲は
「思えば
「
「え!?すご。一生付いてきます」
「シンの機動は変態だからやめとけ。有言実行になる」
「よく考えたら
「シン、王子サマだったの!?」
「王子様とはいってないわよ」
3つ。ここ数年その声に戦死したエイティシックスの断末魔が混じり始めた。戦闘中件の敵の近くでシンと
「助けて、助けてタすケテタスケテたスケテ」
「お父さん!おとうさんおとうさんおとうサンオトウさんオトウサンお父サン」
「痛い痛いいたいいたいイタいイタイイタイいタイ」
「どうしてどうしてドウシテどうシテどうしてドウシテドウして」
これは現地でいきなり聞かされたら戦闘に支障がでるだろう。いくら仲間の死に際を何度も見てきたとはいえキツいものはキツい。クレイモア組を除く面々は各々顔を顰めたり身を寄せ合って狂気に抗う。シンが
「同じ声の機体は複数確認した。中央処理装置の代替に実物をコピーして使用していると思われる。当然意思疎通は取れない」
「死に際の思考を繰り返す亡霊。俺達は黒羊と呼ぶ。問題がコピーのいない奴でな。黒羊を指揮しやがる。今まで厄介な集団はいなかったか?」
「確かにいたぞ!」
クジョーがポンと手を合わせるのを筆頭に各々思い当たる節があるのだろう頷いたり苦々しい表情をしている。かくいう自分も小賢しいレギオンのせいで失った仲間は多い。ある程度数が減ったら素直に退くレギオンが最後まで抵抗したり不意打ち染みたことをしてきたりいい記憶はない。
「この第1戦区の奥にも指揮官がいる。そのうち会敵することもあるだろう。以上だ」
「はい、質もーん」
「ではマイナ君」
「声って
「…あの蝶達から声はしない。上位個体の完全な指揮下にあると思う。そいつは大抵後方で地上部隊と重なっているから判別が難しい」
親玉?となっている一同にマイナが得意気に説明しだす。やめろなんかむずがゆい。それにシンのトンデモ異能の後に目がいい程度の話でドヤるな。恥ずかしい。
「良かったねハルト。御役御免にならなくて」
「余計なお世話だ!」
だが索敵を1人に頼り切る状況は避けられた。本人は慣れたとか済まし顔をしているが絶対重圧はある。屋上から遠くを眺めるのは好きなのでどっちにしろ同じことだ。それにライデンがシンの陰からこっちにグッドサインを送っているので代理の哨戒をシンに断られていたのかもしれない。
「こうもスムーズに話が進んだのは初めてだ。他所じゃあやれ役病神だのなんだの怯えられるし、な?シン」
「そうだな」
「そりゃ私達全員死にぞこないですし。むしろ顔見せるの遅くない?死神サン」
「つーかこれから散策し放題じゃん。皆で街行こうぜ街」
「物資拾えたらぱーっと着任式でも開きたいよな!」
結局数日後に色々理由付けした宴会を開くことが決まった。
◆
大勢来た新入りはどいつもこいつも悲壮感に溢れていた。戦争に行った大人達に残された子供が辛気臭くて仕方ないのでここでの生き方を教えてやる。すると何を勘違いしたのか文字の読み書きから勉学に至るまで教えてきた。いつかの為にと逆に縋る様に教えてくる彼等を振り払うのも気が引ける。そんな生活は講師役がいなくなるまで続いた。
◆
星歴2148年4月2日。激戦区の中の激戦区に配されたスピアヘッド戦隊は初日からレギオンの襲撃を受ける、なんてことはなく平穏な1日を過ごしていた。
「24人分なんて大変だろ。ありがとな」
「別に手慰みだし。余裕のある最初だけだから」
「セオ照れてるー?」
「ダイヤは可愛いワンちゃんにマークを変えたいようだね」
「ごめんってばー」
筆と金属片のパレットを手に真新しいジャガーノートの前に座る金髪の少年を暇した数人で眺める。スケッチが趣味の彼セオト・リッカがパーソナルマークを描いてくれると言うので要望を伝えにきたわけだ。
「塗料街の店から取ってこれたし今なら色も付けられるよ」
「んー。いいや一筆でシンプルにいってくれ」
「難しいこと言うね」
口では文句を言いながら手の動きは滑らかだ。白地の装甲版に黒で目と鼻、くちばしが現れものの数分でパーソナルマークは完成した。
「うおーかっけー。今まで使ってたのこれに比べたらダサすぎ」
「大げさだって。次、レッカはバーントテイル?」
「鬼火を持った女。あのスノウウィッチみたいな感じでお願い」
「りょーかい。構図考えるから待って」
スケッチブックを取り出して線を描き消しするセオを待っていると1人の整備員が近づいて来た。周囲の機械音を物ともしない胴間声が格納庫に響く。戦隊整備班長レフ・アルドレヒトはサングラス越しに1つのホワイトボードを睨んでいる。
「ラクガキしたのはどいつだ!?探しだして消させとけ!」
「ハルトでしょ?」
「違う違う。ここに来た時クジョーとすれ違ったよ。おっさん使うなら勝手に消せば?」
「…クジョーとやらに言っておけ」
色鮮やかに『退役まで残り179日‼スピアヘッド戦隊にクソ栄光あれ‼』と書いてあるボード。確か昨日の夜は数字が180だったから更新してある。裏面に整備スケジュールを書き込んで勝手に消さないあたりアルドレヒトも甘い。
「ふん、まあいい。機体設定の確認に後で第1小隊から順に全員面を貸せ」
揃いも揃って面倒な要望出しやがってと毒づきながら立ち去る男の消炭色の髪には白髪が混じっている。こっちがぐーすか寝ている間夜を徹して作業したのだろう。頭が上がらない。
「ありがとよ!おっさんに…おにーさん達!!」
遠くで唸る発電機に負けないよう声を張り上げるとアルドレヒトは振り返ることなく機体に取りつく大人達は顔を上げて手を上げてくれた。
「できた!」
「どれどれ…」
紙面には彼女の目と同色の燃え盛る青い鬼火を手のランタンと足元に宿す幽女。要望通り可愛いというより綺麗寄りの大人の女。レッカによく合うパーソナルマークだった。
「いいなー。私は三日月の上で笑う兎ね」
「狂った感じで?」
「そうそう」
落ち着きなく出来上がりを待つマイナをレッカと宥める。手慰みに通りがかったファイドを光沢が出るまで磨く。隅に落ちていたボールを見つけ盛り上がる。こんなのでいいのかと思うほど平穏な最前線の1日は過ぎていった。
◆
収容者が残り僅かになったこの収容所は近く閉鎖される。そのことを知った俺は病死した子供から収容者番号を拝借した。どうせ元の持ち主も思い入れはない番号だろうと借りることに遠慮はなかったがその後間もなく届いた親の死亡通知書と接収令状には同情する。
不思議と別の死者から番号を又借りする気にもならず俺は素直に故郷を後にした。
さてここまでハルト・キーツという
俺は皆と違う。
:本人は目が良いだけと思っているが件のレギオンは基本戦線後方の上空20kmを飛行しており大気の影響を無視して直線距離にして500km先を視ていることもある