12-死神の隣で踊る   作:samusara

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レッカ

 両親は2人共白系種(アルバ)。対して私は栗皮茶の髪を赤系種(ルベラ)である父方の母、紺碧の目を天青種(セレスタ)である母方の父から受け継いだ先祖帰りだった。頭のおかしい優生思想こそまだ流行ってなかったものの根強い差別はあった共和国で両親は私を愛情を持って育ててくれた。祖父母の教育の賜物とは両親の言だ。

 両親が白系種(アルバ)有色種(コロラータ)という面倒な存在に手を出す不届き者はまだ少なく歪ながらも家族3人でなんとか過ごせていた。戦争が始まるあの時までは。

 

 

 砲弾で穴だらけになった建物や凹んだり傷が目立つ地面は過去にここで戦闘が行われたことを示す。普通のエイティシックスならここを生身で闊歩したりはしない。

 

「ねえあれ…いいの?普通についてきてるけど」

「いいんじゃない?ファイドだし」

 

 金属の足をドコドコ動かして最後尾を歩くスカベンジャーを見やるレッカ。壁の中の連中がわざわざいち輸送機体の行動記録を確認するとも思えないがそのカメラの前で哨戒任務放棄の証拠を残してもいいのかと。その疑問に同じ小隊のクレナがどうでも良さそうに応える。 

 

「荷物持ってくれるなら助かるもん。ね?」

「ぴっ」

「ええ…」

 

 クレナの言葉に反応してどこか愛嬌のある電子音を鳴らすファイド。まるで会話しているようである。 

 

「それにシンが許してるからいいの!」

「ふーん」

 

 先頭を行くシンをキラキラと見つめるクレナ。分かり易すぎる彼女を女子会が盛り上がりそうだと眺めた。カイエとマイナが知れば残念な目をしたことだろう。

 

「なにやってんだ…かっ!ふん、ぬぐぐぅう。あれいいの?シン」

「問題、ないっ」

 

 ふと後ろを見るとスカベンジャーに戦利品を載せる第6小隊が見えた。急に何処かへ行ったりしたらとかそういった心配は隊長殿にはないらしい。今も古びた食料品店に目を付けショーウィンドウに張られたバリケードを破壊すべく動かす手を止めることはない。

 

「うっわ。宝の山じゃん」

「すごいなこれは」

 

 俺とシンが取り払った木の板を側に放る中キノとトーマが店の奥を覗いて目を見開く。今時珍しい荒らされていない店舗だ。冷蔵庫の中で腐った何かは仕方が無いとして奥の棚に大量の缶詰が見える。今日の夕飯は人生でも指折りの豪華な食事になるかもしれない。

 

「ぴっ」

 

 振り返ると背中に野菜やベリーといった食糧を満載して2つのアームに手製の吊りかごを持ったファイドが立っていた。つくづく変なスカベンジャーである。シンもシンで平然と積み込み始めるものだからどうでもよく思えてくる。

 

「はーぱんから?」

「それはマジで駄目」

 

 膨張して見るからに危険と分かる程丸くなった缶詰をクレナから取り上げ端がカビたパスタをかわりに持たせて外に向かう。気分は爆発物処理班だ。

 通常の缶詰と違い減菌されずに中で9年以上発酵したそれは既に液体と化していることだろう。決して合成食糧にそれが劣る訳ではない。ただ物には食べ頃があるのだ。助走を十分につけて遠方の荒地にそれを遠投した。

 

「ミッションコンプリート。今日はご馳走だな」

「ぐっじょぶ」

 

 オーチとイオの平に肩を叩かれる。しかしこいつらは真っ先に屋外へ退避していた裏切者。組み付いてヘッドロックをかますことで良しとした。

 

「バカ騒ぎしてないで手伝って」

「俺は今2個小隊壊滅の危機を救ったんだぞ」

「ふーん。じゃあこれ勲章ね」

 

 野草の冠を被りベリーやジャガイモ満載のバケツを両手に凱旋する。しかし基地では8人と1機を迎えるどころではない上へ下への大騒ぎが起こる。

 

「鶏!」

「マイナおち、お落ち着け」

「カイエもね」

 

 86区には放棄された牧場から逃げ出した豚や鶏、牛が野生化して生きている。基地から少し離れた草原に現れたのはそんな群れの1つだった。

 しかも野生化した犬や猫の手を逃れた希少な鶏。未来の卵生活を思い浮かべ涎を垂らすマイナを押し留めるカイエも動揺しミナに指摘されている。豚や牛といった大食らいと違って鶏は飼いやすい。そして何より雑草にあの不味い合成食糧を混ぜて出せば金の卵を産んでくれる。その価値は知覚同調(パラレイド)で状況を知ったシンですら絶対捕獲を命ずほどだ。

 

『記念すべき小隊初の全力出撃だ。隊長殿?ご命令を』

『一匹も逃すな』

『ラジャー』

 

 受け入れ態勢を整えるため宿舎に残った第2小隊を除いて全員が参加したスピアヘッド戦隊の包囲網を抜けることができた獲物は終ぞ出なかった。

 

 

 両親は私が生まれてから毎日が綱渡りだったことだろう。戦時特別治安法によるマンハントが始まってからは正に命懸けだ。高番号区から外周区へ引っ越して間もなくだったこと。避難民が大量に入ってきてご近所が混乱していたこと。エイティシックスの管理があまりにも杜撰だったことが味方して5年もの間私を隠し育てた。

 

 

 お隣の背の高い格納庫に少し視界を遮られるが方角的に問題はない。

 

「けどこれじゃ寝転べねーな」

 

 屋上に通ずる給水室の屋根に登り辺りを一望しようとして床の汚れに閉口する。端の方に転がる無意味なアンテナを一瞥してあれは日除けの支柱だなとレイアウトを決めていく。

 

「あれ?ハルトいない」

「おかしいな。確かに上ってくの見たんだけど」

 

 足元から風に乗って声が聞こえた。悪戯心が疼き足音を消して淵まで移動し背丈の違う2つの金髪を確認する。長身がダイヤ小さいのがセオのはずだ。

 

「お二方何かご用?」

「うわぁ!」

「…シンみたいな真似するね」

 

 見事なリアクションをとってくれたダイヤと背を震わせ拗ねた口調のセオが見上げてきた。

 

「こーゆーところ良いよね。秘密基地っていうか」

「わかる」 

「ガキの頃なら構わず寝転んでたけどな」

「んで大人に怒られるんだよね」

「そこ気にするだけ大人になったってことだ」

 

 折角なので下らないことを言い合う2人を大掃除兼改装に巻き込んだ。下から持ってきたモップでひたすら黒いコンクリを擦る。真っ黒になったバケツの水を取り替えること数回。ようやく一面に元のコンクリ色が戻ってきた。

 

「仕上げに溶剤取ってこようか」

「んーまあ大丈夫でしょ。9年物といってもそこまでしつこくない汚れだった」

「人間サマが大した活動してなかったからね」

 

 仕上げに大量に余っている食堂の椅子や机をえっちらおっちら運び込んで日除けの幌を張り完成だ。その出来栄えを3人並んで満足気に眺める。

 

「なに楽しそうなことしてるのさ」

「キノも混ざる?」

「もちろん」 

 

 人手が増えたことで野心は際限なく膨らむ。 

 

「やっぱ寝っ転がりたいよね。ベッドに」

「でも流石に雨ざらしはダメでしょ」

 

 ダイヤが提案しセオがダメ出し。ここで長年のアウトドア経験が生きてくる。あーだこーだ言い合う3人を前に胸を張って静かになるのを待った。

 

「ふふん」

「良い案でもあるのハルト?」

「ハンモック」

「うわそれ最高」

 

 やる気を出した俺達が資材をかき集めて作成したスペースはその後女子共に発見され乗っ取られるのだが未来の秘密基地生活に思いをはせる俺達に知る由もない。

 

「過ごしやすいのよねーあそこ」

「いつもハルトがいるもんね?」

「…涼しいからよ」

 

 星歴2148年4月3日。この日もスピアヘッド戦隊はレギオンと戦うことなく1日を過ごす。誰もが嵐の前の静けさだと理解してそれを口にだすことはなかった。

 

 

 両親が必死に隠し通した私の存在はあっけなく露呈した。共和国の全国民が詰めかけた85区、特に下番号区は超過密状態。職や住まいを失った者であふれる中店舗を兼ねた住居を持ち美容師で生計を立てていた両親は恵まれていた。しかし5年前の意地の悪い客がたまたま来店するという不幸から半ば妬み言いがかりの通報を受けるというコンボで全てが終わった。

 床に押さえつけられ私の名を叫ぶ両親が私の記憶に残る最後の姿だ。恐らく2人は豚の権利を訴える変人程度の扱いをうけて壁の中で生きている。白系種(アルバ)には人権があるのだから理不尽な事にはならないだろう。

 私の出自は仲間達の誰にも教えていない。言えるわけがない。こんなこと知られれば私は戦えなくなる。

 




 前話シンの異能で原作と差異でたけどしーらない
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