河川敷での練習が終わり、円堂や染岡と一緒に帰り道を歩いている。
帰り道を歩いてたはずなんだよ。でもオレ達はいま商店街に向かってるんだよ。
「なぁ、久しぶりに雷々軒に行こうぜ。腹減ってよ」
そんなことを染岡が言い出すもんだから、行くしかないんだよな。
1年の頃から通ってて、週一ぐらいで練習終わりにって感じでさ。今度豪炎寺達も誘って行くか。風丸とかは知ってると思うけどさ。
少しばかり歩いていると、目的地の雷々軒へと着いた。馴染みのカウンター席に座って、各々注文する。
「ラーメンください!」
「オレは…ラーメンと餃子セットかな。餃子分けてやるよ」
「じゃあオレはラーメン半チャーハンセット。小皿も2つください」
この1人が普通のラーメンで、それ以外の2人が餃子と半チャーハンセットを頼んで、餃子と半チャーハンを分けるって流れも変わらない。
この流れは大体ローテーションでやってるな。単品、餃子、半チャーハンって。
この前円堂が半チャーハンセットだったから、今回は単品注文。
前回単品注文だった染岡が餃子セット。
そんでオレは前回餃子セットで、繰り上がって半チャーハンセットだ。次来る時はオレが少し得する番だな。
「しかし、ファイアトルネードよりも高さがいる必殺技か…いいアイデアでもないもんかね」
「1人でやるならあれぐらいだと思うけどな。いや…たしかこの前KFCの練習観てた時、まこのすいせいシュート以外に、なんか必殺シュート撃ってた気がするんだよな…メテオアタックだっけ」
「あっ、あのすげぇ高く跳んでボールを両足で踏ん付けてたシュートか。たしかにアレが使えたらいいとは思うけど、威力が足りない気がするんだよな」
「小学生とかじゃなくて、純粋に技の威力の話か。オレのローリングキックが言えた話じゃないけどさ。となるとやっぱ、合体技か」
「ドラゴントルネードじゃ、ファイアトルネードよりも高さが必要って課題がクリアできねぇしな。誰がやるって話もあるけどよ」
「豪炎寺は確定として、もう1人か…」
河川敷でもやってた会議の続きを、ここでもやる。
練習が終わって、それの感想とかを言い合うのも変わらない。
言い合ってる時に、少しカウンターの奥を覗いてみると、雷々軒の大将の響木さんがちょくちょく反応してるのが見える。
まぁ、初めてここに来た時、オレが円堂の名前を呼んだ時に、響木さんが反応したんだよな。「そうかそうか!大介さんの孫か!」って。
まぁ、円堂の爺さんの大介さんって、稲妻町じゃ有名だったみたいで、とくに商店街に昔からある店だと、ほぼ全員が名前を知ってる。
というのも、そのほとんどが雷門のOBってのもあるんだろうけどさ。
響木さんの反応も、名前を知ってるどころか、大介さんのことをよく知ってるからだろうし。
「………理事長室に、秘伝書がある」
「そうかー…理事長室に秘伝書が……ってええええ!!?」
前回、オレはいなかったから知らなかったけど、本当に響木さんが教えてくれたんだな。
というか、通い始めて1年以上経つけど、響木さんからこうして話し掛けるのは最初の円堂の件以来2度目だな。元から親しい人以外にはあまり話しかけない人ってのもあるんだろうけど。
「ノートじゃなくて、秘伝書?凄技特訓ノートなら、オレの家にあるけど…」
「ノートは秘伝書の一部に過ぎん。ラーメン、待たせたな」
「あっ、はい…いただきます……」
それ以降、響木さんは言葉を発することはなかった。
いや、流石にお会計の時は発してたけど、秘伝書のことについては何も言うことはなかった。
食べ終わって、店を出た時に響木さんの背中を見ると、少しだけ雰囲気が変わったような気がしたな。
「と、言うわけで雷門。理事長室に秘伝書があるみたいだから探してくれないか?」
「……なにがと言うわけなのか分からないのだけど」
翌日、部室に行ったら既に雷門がいたから、秘伝書を探してもらえるよう頼んだ。
「そもそも、今日は半田くんだけなのかしら?いつもなら円堂くんや染岡くんも一緒に来てたはずでしょう?」
「染岡はともかく、円堂は理事長室に潜入しようとか言いかねないしさ。そんなことしなくても、お前がマネージャーになってるなら、直接頼んだ方が早いだろ?」
「………スジが通り過ぎてて笑えてくるわね。たしかに円堂くんならそうしそうってのも納得だし」
「あとはまぁ、お前って真面目だから、早めに来て準備してるってのは分かってたしな」
「……分かったわ。本当に秘伝書があるなら早い方がいいだろうし、探してきましょう」
「おぅ、頼んだぜ」
これでイナズマ落としの秘伝書はよしっと。
「あれ?夏未さんが出てって、半田先輩だけですか?キャプテンたちと一緒じゃないんですね」
「たしかに半田くん、教室から出るの早いなぁって思ってたけど、夏未さんと何か話してたの?」
「えっ……何話してたの?半田くん」
雷門と入れ替わりで、残りのマネージャー3人がやって来た。
っていうか、大谷近くね?あと目が若干怖いんだけど。
「いや、理事長室に必殺技の秘伝書があるらしくてさ、雷門に頼んだんだよ。円堂が先導すると、理事長室に潜入しようとするだろ?そんなことしなくても、直接雷門に頼めばいいと思って、先回りしたんだよ」
『あー、たしかに……』
「……オレが言うのもなんだけど、もう少し円堂を信用してもよくないか?」
「半田くん、それらしきノートがあったから持ってきたわよ」
「おっ、ありがとな雷門。おーいみんな、これが秘伝書みたいだから、みんなで見てみようぜ」
グラウンドで練習してる中、頼んでから数十分ぐらい経って、雷門がノートを片手にやって来た。
雷門はまずオレに手渡して、近くにいた風丸とマックス達と一緒に読んだ。
「これが雷々軒の親父さんが言ってた秘伝書なのか」
「あぁ。なにが書いてあるかは分かんないけど、オレ達が話してた流れを考えると、野生中に通じるものだと思うんだ」
「でもそれ、本当に秘伝書なの?」
「なんでそう思うのさ?」
「だって、読めないもの」
「……どういうこと?」
3人で囲んでノートを読んでみる。
「………………」
「………ねぇ、半田」
「………なんだ、マックス」
「殴っていい?」
「オレ悪くねぇだろ!?」
少し遅れてから染岡たちがやって来たから、問題のノートを手渡す。
「なに…これ……」
「暗号かなにかですかね…?」
「それとも、外国の文字でやんすか…?」
「いや、おっそろしく、汚い字なんだ」
風丸が深刻な顔で言い放つ。たしかに、オレ達には読めない字だけどさ…
「汚いんすか…」
「多分……」
「誰も読めないんじゃ…」
「それ使えないでしょ……」
『半田ァ!!』
「だからなんでオレなんだよ!?」
「は、流石に冗談で…」
『円堂ォ!!』
「すげー!ゴッドハンドの極意だって!」
『読めるのかよ!?』
まぁ、大介さんの文字だからな。小さい頃からノートを見てたんなら、読めるよな。
オレと染岡も、そのノート自体は1年の頃から少しだけ見せてもらったことがあるから、誰が書いた字かは分かるんだよな。
「あー、そういうことか。だからどっかで見たことある字だったんだな。読めねぇけど」
「たしかに、円堂の持ってるノートなら何度か見せてもらったことあるしな。読めはしないけど」
「じゃあ、高さのある必殺技もそれに載ってるのか?」
「あぁ!えっと…これだ!イナズマ落とし!」
「カッコいい名前じゃん。どんななの?」
「読むぞ!えっと…1人がビョーンッと跳ぶ!もう1人がその上でバーンッとなって!クルッとなってズバーンッ!これぞ、イナズマ落としの極意!………えっ?」
もう、みんなズッコケてる。いや、訂正する。豪炎寺と雷門以外みんなズッコケてる。
大介さんのノートもだったけど、擬音ばっかなんだよな。こういうのって感覚派って言うんだよな、多分。
「ま、まぁ…要するに、2人でやる合体シュートってことだよな」
「多分だが、1人を踏み台にして、その跳んだ1人が空中でオーバーヘッドシュートをするんじゃないか?バーンッとなってクルッとなってズバーンッ!も、踏み台にしてオーバーヘッドシュートと考えれば、頷ける」
「……豪炎寺も案外、そういうのノるタイプなんだな」
「………言わせるな」
「たしかにそう考えると、高さは十分そうだな!じゃあ、早速…」
「おぉ、サッカー部頑張ってるな。何を囲んで……ん?そいつは…」
豪炎寺の推理が的を射てそうだから、それを元に練習をしようと流れになっていた時、用務員の古株さんがやって来た。
「古株さん?どうしたんですか」
「そいつは…円堂大介のノートか!」
「えっ、古株さんも爺ちゃんのこと知ってるの?」
「爺ちゃん…?あぁ、そうか!円堂はあの大介の孫だったか!たしかに言われてみれば似てるなぁ、あの頃の大介に。しかし、あの大介の孫がサッカー部のキャプテンか。これは、イナズマイレブンの伝説がまた始まるかもしれないな」
「イナズマイレブン…?」
「なんだ、知らんのか?お前さんの爺ちゃんの円堂大介が率いた雷門イレブンは、その活躍っぷりからイナズマイレブンと呼ばれてたんだよ。この前の尾刈斗の試合に、その前の帝国から1点もぎ取ったのも、伝説の再来と言えるかもしれないだろ?まぁ、わしが勝手に思ってるだけだけどな」
「イナズマイレブン……か」
……そうだった。オレたち雷門イレブンは、フットボールフロンティアで優勝して、イナズマイレブンになれた…と周りからは思われた。実際オレも、その一員になれたと思った。
でも、前回オレは、大した活躍も出来ずに、おんぶに抱っこのような感じだったのは、否定できない。
「……なろうぜ、円堂。その伝説のイナズマイレブンってのに」
「ああ…そうだな、半田。いや、みんな!」
改めて、オレは誓う。今度のオレは、中途半端と周りに言われようと、オレのベストを尽くす。
イナズマイレブンになって、地上最強イレブンにもなって、世界一を掴み取る。
願わくば、ここにいるみんなと一緒にだ。世界一は、全員とは言えないだろうけど、地上最強イレブンは、脱落者を出したくない。
そのことも、ある程度考えないといけないな。
「………」
半田くんって、たしかにみんなで優勝するって願いは強いんだと思うし、実際にそうだってのは、私も思ってる。
でも、たまに見せるその顔は、希望と同じく、心配の表情を浮かべてる時もある。
「……今度、聞いてみようかな」
顔に出てないワケはないよねって話で。