木暮の過去を、漫遊寺の監督から聞いてから、数日。
オレたちは、漫遊寺のグラウンドで特訓をさせてもらっている。
本当にあの発言を気にしてるのか、自分たちの修練もこなしつつ、オレたちの特訓を手伝ってまでくれている。
そこまでしてもらうと、なんか申し訳ないな。
「手合わせも立派な鍛錬ですが、共に修練をするというのも、精神の成長に繋がります。こちらとしても、ありがたいことなのですよ」
「そう言ってくれるなら、甘えさせてもらうけどさ」
「何より、少林寺殿に心得を伝授するのは、我々もやりがいがあります。本分のサッカーを疎かにせず、あそこまで興味を持つとは…」
「あー…。アイツ、ずっと目をキラキラさせてたからな。付き合ってくれて、ありがたいよ」
オレの横にいる市川が、そう言った。
念願叶ったりと言うべきなのか、少林が物凄くイキイキしてて、同年の宍戸や栗松辺りが若干引いてたのは今でも覚えてる。
今でも覚えてるって言っても、昨日からの話なんだけど。
「………ただ、その…。本当に、ウチの木暮が、あなた方にご迷惑ばかり…」
「いや、気にしてない…は、嘘になるけど。その度にオレがとっちめてるから、あまり気にしないでくれよ」
「本当に、申し訳なく……!!」
「気にするなってば」
市川の言った通り、木暮の作った落とし穴とか、食事にタバスコ混ぜられたりとか、随分とイタズラに引っ掛けられたな。
まあ、黙って引っ掛かってばかりなつもりもないけど。
『ぎゃあああああああ!!こ、この豚汁、辛いっすうううう!!』
『うっしっし!タバスコ入り豚汁、美味いだろー!!』
『コラー!木暮くん!!』
『やべっ!逃げろ…』
『はい。こっち来いよー』
『うげぇ!?な、なんでまた、こんなすぐに捕まえられるんだよ!!』
『音無。今度はコイツにタマネギ切らせようぜ』
『それいいですね、半田先輩!』
『か、勘弁してくれよー!!』
アイツ本当に懲りないっていうか、なんというか。
「………それより、本当にどうするんだ?エイリア学園の襲撃は、いつ来てもおかしくないと思うんだけど」
「………昨日も言いましたが、まずはお引き取りいただくよう、伝えます。そこは譲れません」
「………まずは、か」
「ええ。貴方に言われてから、私たち以外にも、お引き取りいただくようにした学校もいたのかもしれないと思いまして。なのに、被害の報告は多かった。となると、問答無用だったのでしょう」
「まあ…。実際、学校を守る為に、棄権したチームもいたよ。それでも、土俵にすら立たないのは、弱者の証とか言って、壊そうとしたけどな」
「………やはり、ですか」
現に、傘美野中がそうだった。
アイツらは、学校を護るために、敗者の汚名を受け入れようとした。
それも叶わず、校舎を破壊されそうだったとこに、オレたちが割って入ったワケなんだが…。
まあ、ここまでは言わなくていいだろ。
市川たちも、言えば分かる連中だという認識から、変わってるようだし。
「我々とて、この場所を護りたいという気持ちはあります。壊されるのを黙って見ているつもりはありません」
「そう、か。頑張れ…としか、言えないけど」
「ええ。貴方たちも、また旅へ出られるのでしょう?それまで、少しでも力を付けていただけると、我々も嬉しいですから」
そう言った途端、使っているゴールとは反対側。
要するに、オレたちの誰も向いていない方から、大きな光が溢れた。
「なっ…!」
「この光は、いったい…!!」
突然のことに、隣の市川を含めた、漫遊寺のメンバーは、警戒を強めている。
その中で、オレは…。
いや、オレたちは、この光の正体を、薄々感じていた。
「チッ…!アイツら、来やがったか…!」
「この紫の光…!それに、あの影は……!!」
「間違いない…。エイリア学園…!!」
間違えるはずが無かった。
そこにいたのは、白恋中に現れた、エイリア学園ファーストランクチーム、イプシロンのキャプテン…。
「私は、エイリア学園ファーストランク、イプシロンのキャプテン、デザーム。この地、漫遊寺中を破壊しに来た」
デザーム。
本格的に、オレたちの前に、姿を現すことになった。
「………貴方が、噂のエイリア学園ですか」
「予告した通りだ。護りたければ、お前たちが戦う意思を見せ、我らに勝利することだ」
「お引き取り、いただけませんか」
「………ほう?」
「我らに、戦う意思は無いと伝えても、あなた方は、無抵抗の人のいる地を、破壊し尽くすと?」
「無論だ。突然現れたなら、その言い分は通るだろう。だが、我らは既に予告している身である。その予告を受けて尚、のうのうとしていたのであれば、それは無抵抗ではなく、ただの堕落であろう。そんな者たちの地を、蹂躙することに躊躇いなど無い」
「………そう、ですか。ならば、お相手致しましょう」
「初めからそう言え。さあ、お前たち、来い」
その声を引き金に、デザームの周りに何人もの姿が現れた。
デザーム以外の、10人のイプシロンのメンバー。
コイツらは、ジェミニストームよりも、格段に強い。
「デザーム様。既に準備は完了しています」
「漫遊寺イレブンがまだだ。あちらの準備が整うまで待て」
「はっ…?予告していたと言ったのは、デザーム様では?」
「いつ現れるか、までは言っていない。不完全な状態で戦っても、面白くないだろう」
「………かしこまりました」
なんでアイツ、変に律儀なんだ。
前回に、この一連の事件が終わって、素のアイツにもちょっとだけ会ったことあるけど、その時もそんな感じだったな。
そんなこと考える余裕は無いんだけど、ふと思い出してしまった。
「我らの学舎、壊させはしませぬ」
「ならば抗ってみろ。死力を尽くせ」
漫遊寺と、イプシロンの試合が始まる。
漫遊寺側のメンバーは、オレたちと試合をした時と変わらない。
つまり、そこに木暮はいない。
そうなると、今アイツは、どこにいるかというと…。
「あ、あれが、宇宙人…」
すっかり怯えて、後者の影に隠れてしまっている。
無理のないことだとは思うし、責めるつもりは全くない。
この場所から去ろうとしないだけ、頑張ってると言えるだろうし。
「お前は、出ないのか?」
「ひっ…!?な、なんだ、お前かよ…」
「驚かせて悪かったな」
「………出ないのかって。そもそも、出させてもらえるワケないだろ。いつも、あんな雑用ばかり押し付けて…」
「…だったら、見返してやろうって気持ちには、ならないのか?」
「見返してやるって…」
オレたちが、こうして話している間にも、試合は進んでいる。
「ドラゴンキャノン!!」
「………ふん」
「なっ…!」
「この程度か?」
ドラゴンキャノンだけじゃなく、漫遊寺のシュートは、どれも簡単に止められてしまっている。
そして、漫遊寺が通用していないのは、シュートだけじゃなく…。
「攻めさせはしない…!」
「アハッ!そんなので、マキュアを止めるつもり?」
「い、いつの間に…!?」
「おっそい!地球のサッカーって、こんな程度なの?」
「マキュア!」
「決めちゃいな!ゼル!」
「へっ!ガニメデプロトン!!」
オレたちが見たことのない、とんでもないシュートを打ってくる。
………あれがシュートなのかとか、ツッコミを入れられる余裕もないけど。
それはキーパーの垣田ごと、ゴールへと突き刺さってしまう。
そして、その後も、漫遊寺のみんなは、ボロボロにされてしまった。
「お前から見た市川たちは、サッカー部のお前に、満足に練習もさせないで、雑巾掛けとか、雑用ばかり押し付ける嫌なヤツらだろ。そんなヤツらが、今はボロボロになってる。それを見て、お前はどう思う?」
「………そんなの、ざまぁ見ろに決まってるだろ。オレに嫌がらせばっかりして、そのバチが当たって…」
「………本当か?」
「本当に、決まって…」
「………だったら、なんでお前の手に、サッカー用のシューズがあるんだ?」
「……………」
オレがこんなことを言っても、木暮の視線は、フィールドから逸れることはない。
これは、答えは決まってるようなものだな。
「………この程度か」
「ぐっ…」
気づけば、市川以外のメンバーは全員倒れ伏せ、とても試合を続けられる状況じゃない。
………既視感しかないな。
「待て!この試合、オレたちが預かる!」
「雷門イレブン?のこのこと現れて、なんのつもりだ」
「オレたちの前で、学校を壊させたりなんかさせるか!」
「………なら、この試合は無かったことにしてやろう。雷門イレブン、試合の準備をしておけ」
「デザーム様…?」
「ゼル。お前もコンディションを整えておけ。いいな」
「………はっ」
まあ、円堂はそうするよな。
独断専行というワケじゃないのは、瞳子監督に話をしているのは見えてたから、分かってたけど。
さて、オレも行くか。
「あれ…?そういえば、半田くんってどこに…」
「いるぜ。試合の準備だろ?着替えるよ」
「いたか。なら、そのように、して……」
オレだけみんなと離れた場所にいたから、すぐに合流する。
すると鬼道は、オレの手元を見て、微妙な顔をするけど、その理由が分からないほど、オレは鈍感じゃない。
「………あえて聞くが、何故木暮を持ってるんだ?」
「コイツにも試合に出てもらうからな。いいだろ?」
「オレは構わんが…」
「オレの意思はどうなるんだよー!!」
「拒否しなかっただろ。音無、コイツの分のユニフォーム、準備出来てるか?」
「はい!バッチリです!」
「えっ…。音無さんには、話通してたの…?」
イプシロン、か。
ジェミニストームと違って、アイツらの実力を、詳しくは知らない。
試合は見たけど、実際に戦うのは、これが初めてだ。
まずは、ここを乗り換えないとな…。
ここの半田さん、木暮の首根っこ掴むの、めちゃくちゃ手慣れてます。