ネメアの獅子   作:西風 そら

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4・焚火

「えっえっえっ……!!」

 シリギは飛び退きたかったが、脚を押さえられている。

「巻き終わるまで動いちゃダメよ」

 

 二十何年も昔の事だ。痕跡なんかある筈もない。

 

「どうして此処に来たのかなんて、鈴を作った大長様にすら分からないと思う。此処の場所を選んだのはあんただもの。でも、あの魔物に会う為ではないと思うけれど。嫌よね地霊、アタシ大ッキライ。はい、出来た。オタネ婆さん特製の膏薬が効いているから、明日には腫れも引いているわよ」

 

「僕が選んだ?……チレイ?……明日には……何だって?」

 女の子の話題の転換が早過ぎて、シリギは付いて行けない。

 

 茫然と反芻している間に、彼女はテキパキと焚き火を組み直し、自分の馬を呼んで荷物から布を引っ張り出した。

 初めて近くで見る、草で編まれた不思議な馬だ。

 

「草の馬っていうんだっけ?」

「そ、里の中では結構高く飛べる方なのよ。この間なんてね」

 

「え、えっと! さっきの灰色の奴っ、あれは何っ?」

 彼女に話の主導権を握らせていたら、聞きたい事を聞く前に朝になってしまう。

 

「あ――、あれが地霊」

 口に出すのも呪われそうで嫌! という風に、女の子は眉間にシワを寄せた。

「人間の怨みとか嫉みとか、そういう残留した悪い心を芯にして育つの。それでまた誰かを傷付けて糧にするの」

 

「……誰の、心を、芯にしたの?」

「多分オゴデイ王」

 

(やっぱり……)

 予想は付いていたが、シリギは暗澹(あんたん)たる気分になった。

 トルイのすぐ上の兄、テムジンの後の王位継承者。

 やっぱりトルイの事、滅茶苦茶嫌っていたんだなあ……

 

「オゴデイは立派な王だったと聞くわ、あんたもそう思っているでしょ?」

 シリギの心を見透かすように、女の子は覗き込んで来た。

 

「ヒトの心は単純じゃない。誰だって不満とか嫉妬は持つわよ。地霊ってのはそういう負の心が大好物なの。心の底に沈めたそんな檻をいちいち掬い上げて、別の誰かを傷付けて自分の餌を増やすの。本能でしか動いていない癖に、凄くズルくて残酷。あんなのでも『摂理』の中で生きているって大長様は言うのよ。アタシは大ッキライだけれど」

 

 喋りながら女の子は、朽ち木を利用して布で覆いを張ってくれた。

「はい、これで夜露が防げる」

 

 女の子は同い年位に見えるのに、随分と大人びた事を喋る。

 妖精は人間の何倍も生きるっていうし、本当はずっと年上なんだろうか。

 

「あの、僕、他にも聞きたい事がある、アルンデスけど……あっ、もしかして質問に『何回まで』とか、アリマスカ?」

 

 寝布を敷いていた女の子は、顔を上げて吹き出した。

「なぁにそれ? 人間の間にはそういうのがあるの? アタシはあんたの知りたい事には出来る限り答えるつもりだわ」

 

 やった! 言質を取ったぞ、よおし聞くぞ。

「じゃ、じゃあ、トルイのお母さんは何処に居るの? トルイの話をもっと聞きたいんだ。特に死因とか」

 

 女の子の顔がサァッと曇った。

 テキパキ動いていた手が止まる。

 

「・・?? あ、あの、もしかして、もう亡くなっているとか?」

 

「え、いえ、お元気よ、とても元気。でも……トルイの死因は知らないと思う。その場に居なかったっていうし……それに……」

 あれだけ口の回転の早かった女の子が、急にモゴモゴしだした。

「アタ、アタシは…………あまり、会って欲しく、ないの」

 

「・・!?」

 今度はシリギが止まった。

 

「あの……ね」

 女の子は、言葉を選びながら、一生懸命ゆっくり話し出した。

 

「アタシが生まれる前だから、大人のヒト達に聞いた話よ。あの方はトルイを亡くした後、死んだように沈んでいて。大切な息子……人間の寿命は長くないとはいえ、まだまだ生きると思っていた息子がいきなり死んじゃった、居なくなった。本当に悲しかったと思うの。

 皆、腫れ物に触るような思いで心配していたんだけれど……ある日、突然思い定めたように飛び立って、その頃魔物の巣窟になっていた太古の神殿に飛び込んだ」

 

「そ、それって、自暴自棄の……」

 

「巣食っていた魔物達をボッコンボッコンにやっつけて、そのままそこに隠っちゃったの。ほとんどの蒼の妖精が飛んで行けない、空気の薄い、高い高い山の神殿」

 

「…………」

 

「分かんないけど……きっと独りになりたかったんだと思う。もう慰められるのすら嫌で、膝を抱えて頭を空っぽにして、誰にも触られたくなかったんじゃないかと。ほら、そういう時ってあるじゃない」

 

 シリギは背中に冷や汗をかいていた。

 妖精って長く生きるから、色々達観していて、そういう事も、人間よりもへっちゃらだと思っていた。

 逆だ。長く生きるからこそ、人間の何倍も耐えなきゃいけないし、溜め込んじゃうんだ。

 

「当時の蒼の長様が・・あ、今の大長様ね。『海の底の貝が砂の一粒一粒を積むように、長い時間を掛けて彼女は悲しみを埋もれさせようとしている。我々はそっと見守るしかない』って仰ったの。皆も彼女が大切だから、その言葉に従った。

 だからごめんね。あの方にトルイの話を振りたくないの。悲しみは砂に埋もれさせただけで、消える事はないもの」

 

「ごめ……僕……」

 

「ぷはあっ!!」

 シリギが謝ろうとしたタイミングで、女の子は上を向いて、詰まっていた物を吹き出すように息を吐いた。

「ああもう緊張した。ちゃんと伝わった? 『お前は余分な事ばかり喋って、肝心な事が何一つ伝わらん』って、いつも怒られるの」

 

「え、伝わってると思うよ、うん。でもそうか、妖精の間でも、君ってやっぱりそうなんだ」

「なによ、そうなんだってなによ」

「ううん、何でもない。ごめん、ごめんごめん」

 

 女の子はぷんぷんしながらも、シリギの横に来てドッカリと座った。

「今はね、神殿まで飛べる蒼の妖精は随分増えたのよ。長様の一人で、んっと、ツバクロって……ヒトが、高い所を流れる高速気流に乗る方法を皆に教えてくれて。それからまあ、色々、色々あって、今はもうあの方は独りぼっちではないの、めでたしめでたし」

 

「そうなんだ」

 シリギはホッとした。

 

 妖精って、波長が違う世界の存在で、人間の常識なんか通じないと思っていた。

 でも……

 誰か死んだら悲しいし、寂しいのは辛い。

 他人の心を思いやって、気持ちを伝える時は緊張して、不満や妬みは負の心。

 なんだ、僕達と同じだ、あんまり違わないじゃないか。

 

 何より、今は寂しくなさそうでよかった。

 僕の、曾お祖母様にあたるヒト。

 

 

   ***

 

 

 女の子は取り敢えずホッとして、改めてシリギに向き直った。

「代わりに、アタシが精一杯あんたのお手伝いをするわ」

 

「本当?」

 妖精に手伝うと言って貰えて、シリギは明るい顔になった。

 

「さし当たって、この地の過去の情報が、あんたに必要・・って事なのかしら?」

「うーん、そうなのかな」

 

 妖精の長に『どうしたら良いのか分からない』と鈴を持たされて追い出されたぐらいだから、『僕これからどう生きたらいいの?』なんてあいまいな質問の答えなんか出てくる訳ないよな。

 あくまで、この地で自分で探さなきゃならないって事か。

 

「ね、君はどんな事が出来るの? 魔法とか使えるんだよね?」

 

 好奇心に満ちた顔のシリギに申し訳なさそうに、女の子は上目遣いになった。

「修行中の半人前なの。あまり期待しないで……」

 そして立ち上がって、少し離れた所で両手を地面に付けてしゃがみ込んだ。

「『地の記憶を読む』って方法があるわ。過去にそこで起こった出来事を、それを見ていた地面に教えて貰うって術」

 

「凄いや! そんな事出来るんだ!」

 目を輝かせるシリギに、女の子はますます下を向いて首を横に振る。

「ううん、アタシ、出来た事ないの。カワセミ様は訓練すれば出来るって言ってくれるけれど」

 

「カワセミ……様は、出来るんだ?」

「うん、あのヒトなんか太古の地層まで読んじゃうのよ。そこにトルイが倒れていたって突き止めたのもカワセミ様だし」

「えっ……」

 

 女の子はシリギの隣に戻って、乱暴気味に、焚き火に木切れをぼんぼん放り込んだ。

「五年前、調べに来たの」

「何……で?」

 

 シリギの素朴な疑問に、女の子は巻き髪を弄くりながら、遠い目で答えた。

「カワセミ様ね、トルイが大好きだったの。今の三人の長・・カワセミ様、ノスリ様、ツバクロ様は、トルイが子供の頃、一緒に修行した事があるんだって。その時友達になったって。カワセミ様は親友と言える迄に」

 

「え・え・ええええ――――!!」

 何だよそれ! 聞いてないよ!

 お祖父様が妖精の長になるようなヒト達と一緒に修行したとか友達だったとか。

 しかもあの超怖そうなヒトと親友!?

 

「お、お祖母様はそんな事一言も……」

「人間どころか他の人外にすら一切口外しないって約束で受け入れたのよ。トルイが中途半端に魔法を使えるようになっちゃって、困ったテムジン王が当時の長様に相談したんだって」

 

「…………」

 いや聞いてはいたが、本当に普通に妖精とツーカーだったんだな、大ハーン。

 

「妖精の仲間の証として授けた名前は、『キビタキ』って言ったのよ」

 

 キビタキ……

 シリギは聞き覚えがあった。

 西の森でカワセミと対峙した時、彼は眉間に影を落として、その名を口にして酷く怒っていた。

 あの時自分は何て言ったんだっけ……

 

「カワセミ様はここで地面に手を付けて、ずっと探ってた」

 女の子の言葉で思考が遮られた。

 

「でもね、分からなかったの。トルイの最期の事。どんなに時間をかけても」

 チロチロ燃える焚き火の一点を見つめ、彼女は寂しそうに言った。

 

 シリギはまた暗澹(あんたん)たる思いに襲われる。

 太古の地層と会話出来ちゃう凄いヒトが、とっくに調べに入っていて、そして分からなかった。

 そんなの自分にどうにか出来る訳ないじゃないか。

 

 女の子が顔を上げる。

「だから……あんたなら、突き止められるかもって思ったの」

「えっえええっ、何でっ?」

 自分は妖精が見えるだけのただの人間だ、本当に何で何でそう思えちゃうんだ。

 

「血よ。あんたはトルイの血を分けた子孫なの。トルイの子孫の中で、多分一番彼に近い血を持っているんだわ」

「血? 血って、そんなに大事なの?」

「大事だわ。妖精は血で呼び合ったりするもの。人間だって大事にするでしょ?」

「それは……」

 ただの身内贔屓だ。

 血が伝えるモノについてはあまり考えていない。

 

 まだ狼狽えているシリギの手を取って、女の子は強い目で言った。

「アタシが教える。だから一緒に、やってみよう!」

 こんな目に逆らえっこない。

 

 

   ***

 

 

「集中するの。大地に謙虚な気持ちになって、自分も土も同じって気持ちになるの」

 

 翌日、日の出と共に、シリギは地べたに這いつくばらされていた。

 言われるままに、両手をひんやりした土に付ける。

 

「ダメだよ。僕そういうの、修行も何にもしていないんだよ」

「うん、すぐには出来ない。だからちょっとづつ練習してみよ」

 

 彼女は異常に熱心だった、

 ゆうべ、夢みたいな中で盃を持ったヒトを見た話をすると、『ほら、やっぱり!』と、鬼の首でも捕ったように言われて、その日の午前も午後も、飲まず食わずで地べたと睨めッコさせられた。

 

 修行経験も無く、そもそも妖精の資質があるかどうかすら怪しいシリギには、底の抜けた桶で水を汲み続けるような気分だ。

 色々知りたいと言ったのは自分だが、それって本当にここの地の記憶の事なんだろうか。

 あの女の子が暴走しているだけのような気がする。

 

 

「ふあ~~」

 夕方、女の子が食料調達に草の馬で飛び立ってから、ようやく地べたから解放されたシリギは、空を見上げて寝転んだ。

「この『地の記憶を読む』以外のやり方はないのかなぁ」

 夕焼け雲が何事もないように流れて行く。

 

 そもそも、『術を成功させた事のないユユ』が教える事自体、無理筋な気がする。

 凄いヒトっぽいカワセミさんでも出来なかった。何で僕に出来ると思えるんだか……

 

 弱気に加えて夕べの寝不足も手伝って、仰向けのままシリギはウトウトし始める。

 そうして地面に意識を落として行った。

 

 ――瞼の裏に原色が流れる。

 

 

 

 また目の前に葡萄酒の盃がある。

 それを持つ手の腕輪も爪も、見覚えのない大人の物だ。

 盃の中に波打つ、注がれたばかりの葡萄酒。

 液体に映るのは、妖しく光る銀の瞳。

 

 今日は、盃の向こうに男の人が見えた。

 自分と向い合わせで立っている、同じ盃を持った男性。

 昨日、地霊が化けていたカタチ、土気色の……オゴデイ王。

 

――イクサガミノ、ハタラキヲ、タタエテ――

 

――ノメバイイノカイ、アニウエ――

 

 

 違――う――!! 飲んじゃダメ――――!!

 

 

 

 ヒュウっと身体が引っ張られた。

 ビックリ目を大きく見開いた女の子が、夕空を背景に覗き込んでいる。

 

「大丈夫? あんた、目を開いたまま寝てたよ」

 

 シリギは上半身を起こした。まだ心臓がドクドクいっている。

 背中は嫌な汗でびっしょり。

「今、僕が違う大人のヒトになって……」

 

 巻き髪の女の子は口を挟まず、器に湯冷ましを汲んで差し出してくれた。

 

「む、向かいに、オゴデイ王が居て……葡萄酒の盃を持っていた。何でか、それに毒が入ってるって思ったんだ」

「そう……ね、もう一度そこへ行けない?」

「嫌だっ!」

 シリギは差し出された湯冷ましを振り払った。カラカラと器が転がる。

 

「自分を嫌って殺そうとしている奴が、今まさに目の前に居るんだよ。昨日の地霊みたいに。また首を絞められるかも、もっと苦しい事をされるかも。しかもこっちは自分の意思で動けないんだ。あんな、あんな恐ろしい所へ、もう一度行けって!?」

 

 女の子は眉を八の字にして、振り払われたままの姿勢でいた。

「……ごめんなさい」

 しょんぼりする彼女の目の周りには隈が出来ている。

 昨晩シリギが寝ている間も、ずっと見張っていたんだろう。

 

「ねえ」

 シリギは努めて落ち着いて、女の子に向き直った。

「どうしてそんなに熱心なの? 木から落っこちた君達の下敷きになった位の恩でそこまで熱心になれるなんて、僕、思っていないよ」

 

「…………」

「他に理由、あるんだろ」

 

「うん……」

 女の子は観念した風に、打ち明け始めた。

「初めは本当に、あんたの助けになるだけのつもりだったのよ」

 

 シリギは黙って彼女を見据える。

 

「でも目標が、どうやらこの地でトルイの身に起こった出来事を知る事らしいって分かって……カワセミ様を思い出したの。何時間も何時間もここで這いずり回って、『何で、気付いてやれなかったんだ!』って地面を叩いて」

 

「責任を感じてたって事? でも……」

 

「カワセミ様は予知の力があるの。と言っても完璧じゃなくて、凄くムラがあって。仲間の危険も視えたり視損ねたり。それでいつも沈み込んでしまう。

 トルイが死んでしまうような事態を予知出来なかった自分を、ずぅっと責めているの。そんなの、丁度不調な時期だったから仕方がないのに。……だから……」

 

 そう言う女の子の言葉には深い想いがこもっていた。

 それがシリギの気持ちを毛羽立てた。

 

「それで君は、そのヒトの為にこんなに熱心なんだ」

「うん、言わなくてごめんなさい」

「いいよ、別に。目的が一緒で良かったじゃない」

 

 そんなつもり無いのに、険のある言い方になってしまった。

 女の子は何も言い返さないで、薪、拾って来る……と呟いて、下の林の方へ行ってしまった。

 

 シリギはちょっと後悔したが、謝りたくなかった。

 あの子には自分の事だけを考えていて欲しかった。

 

 

 

 夕闇迫っても彼女は戻らす、迎えに行こうかと、もたもた考えていた時……

 

 ・・焚き火の向こうに、また嫌な気配が、し・・た・・

 背筋に嫌な汗が噴き出して、手足の先がジンワリ冷たくなる。

 何でこんな悪い予感って当たってしまうんだろう。

 

 恐る恐る見やる。

 灰色の塊がズン! 土気色の顔がドン!

 やっぱり居だぁ!!

 

 うずくまった姿勢から解(ほど)けるように立ち上がるオゴデイ王。

 まだ祓われていなかったんだ。

 

「ぼ、僕はトルイじゃないぞ」

 

――トルイ、やっと一人になった――

 

「頼むからちょっとは人の話を聞けぇ」

 

――昔からお前のその眼が大嫌いだった。今、この手で閉じてやる――

 

 ユラリユラリと歩く地霊は、右手に盃を掲げている。

 やっぱり……

 

 シリギはまた縛られたように動けない。

 灰色のオゴデイ王はもうすぐ目の前だ。

 

 

「ああっ、また出たのね!!」

 女の子の声。林の方から駆けて来る。

 助かった。

 

 しかし彼女は何故か途中で止まってしまった。

「……ダメだわ」

 ええっ?

「アタシでは祓えないんだわ。あんたの中のトルイの血に執着し過ぎているのよ。あんたがこいつに討ち勝たなきゃ祓えない」

 うそだろっ!

 

「術で助けるから剣を抜いて!」

「ぼ、僕、まだ長剣を帯びるの許されていない……」

「なんですってぇっ!」

 シリギの腰にあるのは子供騙しの短剣だ。

 

「王族の子の癖に長剣ぐらい持っていなさいよぉ!」

「無茶言わないでよ!」

 

 言ってる間に、突き出された盃が、鼻に振れんばかりの距離だ。それがゆっくり傾けられる。

 

――トルイ、お前が嫌いだ……――

 

 心臓まで凍りつかされそうな声。

 

「逃げてても終わらないわ、トルイはもっと凄いのと戦ったのよ!」

 

「だから僕トルイじゃないっ!」

 しつこい地霊と女の子の言葉に、逆撫でされ続けたシリギの神経がブチ切れた。

 

「みんなみんなトルイトルイって! 僕はシリギだ、他の誰でもないシリギ! シリギなんだってば!!」

 

「うん分かった! あんたはシリギ! 短剣でいいからしっかり持って!」

 女の子が両手を掲げて、手の中に緑の光を作りながらキッパリ叫んだ。

 

「そのまま高く上げて! ―― 破邪・・!」

 

 慌てて掲げた短剣に、女の子の投げた緑の光が命中する。

 

「撃ち降ろして!」

 

「二度と間違えるな、バカァ――!!」

 

 振り降ろされた剣は長い光を放ち、目の前の魔物を真っ二つに裂いた。

 ついでに地面も抉(えぐ)った。

 何だこの威力。

 

 一拍置いて、地霊はザアッと崩れて散った。

 

「やった!」

 女の子が走って来てシリギに抱き付いた。

「あんた凄い。いきなりであんな事出来るなんて。凄い凄い!」

 それからゆっくり彼の顔に手を伸ばして、指で目の下を拭った。

 

 自分でも気付かず涙をこぼしていたシリギは、狼狽えて身を引いた。

「ちがっ……これは大きい声出したから……」

 

「良かった」

「え?」

 

「治癒の術の通りも鈍かったから、あんまり『生きる元気』のないヒトかと思ってた。そんな事なくて良かった」

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

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