ウマ娘は勝利を望む   作:なち11

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イノセントピース登場

ある日、トレーナーである男はいつものように自身の担当ウマ娘のために考えた練習メニューを携えて練習場に向かっていた。

そんなトレーナーの前に一人のウマ娘が立ちふさがった。

 

「あー! ねぇちょっと! そこ行くトレーナーさん!」

 

そのウマ娘は見たところまだ幼さが残る中等部のウマ娘だった。トレセン学園の制服姿であるがウマ娘の例に漏れずその頭には──彼女の場合、左耳に──飾りが揺れている。

 

「なにか用かな?」

 

「うん、だいぶあるし! トレーナーさんってアレでしょ? パイセン・・・じゃなかった、ハヤカゼセイランさんのトレーナーさんっしょ?」

 

ハヤカゼセイラン。それはたしかに彼が担当しているウマ娘の名前だった。

クラシック三冠を目指すウマ娘でトレセン学園に入学する前に行った子供向けのレースでは負け知らずだったと多少なりとも話題になっていた娘だ。

 

「そうだけど・・・」

 

「やったし! ようやく見つけたんだけど!」

 

自分を見つけたことを喜ぶ少女を目の前にしてトレーナーは首をかしげた。話についていけていないのだ。

 

「ごめんごめん、完全に置いてきぼりだったし。 アタシ、イノセントピースって言うんだけどちょっとばかしハヤカゼさんに用があってね。 できればご一緒したいなーって」

 

ずい、と距離を詰め上目遣いでねだる彼女──イノセントピースと名乗ったウマ娘にたじろぎ思わず頷いてしまった。

 

「わーい、やったし!」

 

大げさに喜ぶイノセントピース。そんな彼女を見てまあ悪いことにはならないだろうと共に練習場に向かうのだった。

その間もイノセントピースは人懐っこくトレーナーに話しかけてくる。

 

「ねえねえトレーナーさん、トレーナーさんは今まで何人くらい担当したの?」

 

「いや、俺は新人で・・・ハヤカゼが初めて担当したウマ娘だ」

 

「マジ!? やったじゃんトレーナーさん最初からパイセン担当できるなんて! パイセンめっちゃすごいし。 すごすぎでトレーナーさんがなんもしなくても名トレーナーと呼ばれちゃうかもしれないし」

 

「はは、なら釣り合うよう俺も頑張らないとな」

 

練習場に着くまでイノセントピースのお喋りは止まることがなかった。

 

 

 

 

ーーー練習場

 

練習場の約束した場所ですでにハヤカゼセイランは待っていた。

 

 

「あっ、トレーナー。 待ってたわ・・・あら? ピースじゃない」

 

「いえーい! おひさしパイセン!」

 

顔を合わせるなりイノセントピースはハヤカゼセイランに駆け寄り抱きついた。ハヤカゼセイランも苦笑しながら抱き締め返す。ずいぶんと親しげな様子だ。

 

「二人はずいぶん仲がいいんだな?」

 

トレーナーの問いにハヤカゼセイランは頷いた。

 

「ピースとは幼馴染みたいなもので・・・前に少し話さなかったかしら。 トレセン学園に入学する前によく一緒に走ってた娘がいるって」

 

そういえばその話は何度か聞かされたことがあった。名前は聞いたことがなかったがその幼馴染がイノセントピースなのだろう。

 

「それでピース、どうしたの? トレーナーと一緒に来たんだからただ私に会いにきたわけじゃないんでしょ?」

 

「あっ、うっかりだし。 パイセンに会うのもそうだけどチームに入れてもらおうと思ってたんだった。 ・・・というわけでトレーナーさん、アタシをチームに入れてくれない? 今ならめちゃめちゃお得だし?」

 

その言葉を聞いてトレーナーは難しい顔をした。

トレーナーはまだ新人である。新人だからチームを持てないという決まりはないが今の自分の力量を考えると担当以外のウマ娘の面倒を見るのは厳しい。安請け合いすればお互いに嫌な結果が待ち受けているだろう。

そう判断したトレーナーは断ろうとしたがその様子を見ていたイノセントピースは慌てて訂正をした。

 

「あ、ちがくて。レースに出たいんじゃなくてサポートとしてなんだけど。 ほら、アタシサポート科だし!」

 

「結局サポート科に入ったの? 私、あなたと走れるのを楽しみにしてたのに・・・」

 

「あ、いや、一応普通科にも受かってはいるし。 でもでも、最初はパイセンの夢を応援したいなって」

 

トレーナーはもちろんハヤカゼセイランの夢、いや目標を知っている。

クラシック三冠。それはクラシック級で皐月賞、日本ダービー、菊花賞すべてを制したウマ娘に贈られる称号だ。

数多くいるウマ娘たちの中でもそれを成し得た者は数えるほどしかいない偉業だ。

それを成すとハヤカゼセイランはまっすぐな瞳で言いきった。

 

「そんなわけでもう一度言わせてもらうし。 トレーナーさん、アタシをサポートとしてチームに入れてくれない? マジ後悔はさせないし」

 

その申し出にトレーナーはイノセントピースの顔を見つめ、頷いた。

ハヤカゼセイランに劣らぬまっすぐな瞳。それを見た途端に腹は決まってしまっていた。

 

「え、ほんと!? 嘘じゃないし? じゃ、じゃあこれ! 申請書類! アタシが書くとこは書いてあるから気が変わらないうちにサインしちゃって!」

 

トレーナーがその場でサインをするとイノセントピースはすぐさま「ぃヤッター! 書類出してくるし!」と言ってグラウンドから走っていってしまった。

あとにはトレーナーとハヤカゼセイランが残された。

 

「もう、トレーナー。 自分の担当の意見ぐらい聞くべきじゃないかしら?」

 

少し拗ねたような顔を見せたハヤカゼセイランにトレーナーは自分が勝手に決めてしまったことに気づいて頭を下げた。

 

「ごめん、ハヤカゼの意見を聞かずに勝手に」

 

そんなトレーナーを見てハヤカゼセイランがくすりと笑った。

 

「なんてね、いいわよ。 実をいうと私も反対する気はなかったから。

・・・本当はピースとは競いたかったんだけどね。 今はしかたないかな」

 

最後に呟いた言葉は小さくトレーナーにはよく聞き取れなかった。

そんな二人の元に『承認!』と判を押された書類を勝訴のポーズで掲げるイノセントピースが駆けてくるのだった。

 

こうしてトレーナーとハヤカゼセイラン、そしてイノセントピースのトゥインクルシリーズが始まったのだった。

 




ウマ娘への愛が溢れたのでカッとなってやった。
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