ウマ娘は勝利を望む   作:なち11

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モブの名前はなんとなくで付けてます。なんかヤバいのあったら教えて。


想い届けて

 

メイクデビューが行われた日の夕方、ハヤカゼセイランは病室で窓の外をぼんやりと眺めていた。

ここ数日、イノセントピースもトレーナーも病室を訪れることがなく暇をもて余していたのだ。

トレーナーから数日忙しくなるから来れないとは聞いていたがなにをしているのだろうと考える。

ハヤカゼセイランは最近一人でいると気分が沈みがちになっていた。ついついネガティブなことばかりが頭に浮かぶのだ。

この日も足のことで不安になり、頭に引退の文字が浮かんだところで病室の扉が勢いよく開かれた。

 

「「ハヤカゼウェーーイ!」」

 

「きゃあ!? な、なに?」

 

驚きすぎてビクーッとなった尻尾を抑えながら扉を見るとそこにはメジロパーマーとダイタクヘリオスの姿があった。

 

「お見舞いに来たんだけど・・・ビックリさせちゃった?」

 

「いきなり大声出されたらびっくりするわよ・・・」

 

「いいじゃんいいじゃん、バイブスアゲてこー!」

 

「怪我人のお見舞いのテンションじゃないわね」とハヤカゼセイランは乾いた笑いを浮かべるのだった。

 

まさしくお騒がせな二人、メジロパーマーとダイタクヘリオスはお見舞いの品と称していろんなお菓子をサイドテーブルの上に並べていく。

ちなみに定番の果物はひとつもない。かろうじで『リンゴ味』と書かれたものがあるぐらいだ。

そんな様子をちょっと引き気味に見ていたハヤカゼセイランは二人の持ってきた荷物の中に見覚えがあるビデオカメラがあるのに気づいた。

 

「ねえ、そのビデオカメラって・・・」

 

「あ、それとっておき。 今回のメイン的な? 見たらマジ上がるから☆」

 

「ていうか隠すことじゃないんだからもう見せちゃおうよ。 ヘリオス、準備頼める?」

 

「おけまる水産!」

 

返事するなりダイタクヘリオスは病室に備え付けてあるテレビにビデオカメラを繋ぎ始めた。

止める間もなくパリピ二人はどんどん話を進めていく。ハヤカゼセイランは諦めて流れに身を任せることにした。

諦めの境地に達しつつあるハヤカゼセイランの肩をメジロパーマーがぽんぽんと叩いた。

 

「心配しなくても変なの見せたりはしないって」

 

「いやでもあのカメラ、私のトレーナーのじゃ」

 

「あはははっ、気にしない気にしない」

 

「えぇー・・・」

 

それからすぐに準備は整った。

ハヤカゼセイランはベッドで身体を起こしたままで、メジロパーマーとダイタクヘリオスは借りてきた椅子に並んで座りると録画を再生した。

 

映し出されたのはレース場だった。雰囲気からしてレースの開始前だろう。

ハヤカゼセイランはなんのレースなのかとメジロパーマーを見るが彼女は見てればわかるとばかりにテレビを指差した。

 

『天候に恵まれました東京レース場。 メイクデビューには少々遅い時期ですがウマ娘たちには気合いが漲っています』

 

ゲートに入るウマ娘たちの紹介がテレビから流れている。

この時点ではハヤカゼセイランはなぜこんなものを見せられているのかわからなかった。しかし──

 

『五番人気イノセントピース。 サポート科から編入したというウマ娘です』

『どのような走りをするのか楽しみですね』

 

思ってもいなかった名前が聞こえ、驚きのあまりハヤカゼセイランは目を見開いた。

 

「・・・ピース?」

 

「今日来たのはさ、ピースに頼まれてなんだよね。 今日メイクデビューだからレースを撮ってハヤカゼに見せてほしいってね」

 

『すべてのウマ娘がゲートイン────スタートしました』

 

レースが始まった。

 

『各ウマ娘キレイなスタートを切りました。 真っ先にハナを切ったのはイノセントピース。 その後ろに続くのはフリーセンス、すぐ後ろセントジェリー』

 

「逃げ・・・? あのコ、逃げで・・・?」

 

「うん、言ってたよ? アタシはパイセンの走りで夢を引き継ぐんだって。 ・・・めちゃイイ後輩だね」

 

『先頭は変わらずイノセントピース。 フリセンスは二馬身差を保って追走していきます』

『隙あらば先頭を奪おうという気概が見えますね』

 

「ウェーイ! ピースぶっちぎっちゃえー!」

 

ダイタクヘリオスは録画したものだというのにテレビの中のイノセントピースに声援を送っている。

 

『イノセントピース脚色は衰えない。 フリーセンス、後ろについていっているが苦しいか?』

 

そのうち撮っていたメジロパーマーたちもテンションが上がっているのかテレビから聞こえるのは彼女たちの声援がほとんどになり映像はブレブレだ。

それでもイノセントピースが先頭を走り続けているのはわかった。

あのイノセントピースが、勝利どころかレースにすら興味を持たなかった彼女が勝つために必死で走っていた。他ならぬハヤカゼセイランのために。

ハヤカゼセイランの目から涙がこぼれた。

 

『メープルドロップ上がってきた! アスカホライズンも負けじとスパートをかける! だが先頭は譲らないイノセントピース! 後続との差は四馬身!』

 

そしてレースの最終局面、他のウマ娘が垂れたりスパートをかける中でイノセントピースは変わらず先頭を走っていた。

気づけばメジロパーマーとダイタクヘリオスは「画面ぶれすぎでしょ」「やばたにえん」と楽しげに、それでいて画面からに目を逸らさずにテレビを見ている。

ハヤカゼセイランは無言で涙を流しながらテレビを見続けた。

 

『イノセントピースだ! イノセントピースが今一着でゴールイン! 後続に影を踏ませることもせずに駆け抜けた! 二着はメープルドロップ、三着はアスカホライズン!』

 

イノセントピースは最初から最後まで先頭を走り抜いた。

それはハヤカゼセイランの走りだった。

 

「ウェイ! 爆逃げウェーイ!」

 

「うん、生で見たときはほんとヤバかったけど改めて見てもほんとイイ逃げしてるよ!」

 

「それな! あんなん見せられたら最&高まじテンアゲっしょ!」

 

レースのことを思い出してか病室だというのに騒いでいる二人。

そんな二人が気にならないほどハヤカゼセイランの胸の中はいっぱいだった。涙をぬぐってメジロパーマーとダイタクヘリオスに礼を言った。

 

「ありがとう、パーマー、ヘリオス。 とっても元気出たわ」

 

「ウェーイ! 今のハヤちんめっちゃキラってんじゃん☆ そっちの顔の方がぜったいイイって!」

 

「うん、明るくなった。 まさか泣くとは思わなかったけどね」

 

そのあとしばらく三人はウイニングライブを見ながらイノセントピースの走りについて盛り上がり、またメジロパーマーとダイタクヘリオスが騒いだことで怒った看護師に病室から叩き出されたことでお開きになった。

メジロパーマーとダイタクヘリオスが去った病室は驚くほど静かだったがそれでも不思議と寂しさはなかった。

 

「ふふっ、リハビリ頑張らなくちゃね」

 

イノセントピースがハヤカゼセイランのために走っている。それだけで心が弾んだ。

絶対に足を治してイノセントピースと一緒に走るのだ。そう思えばもうリハビリも苦ではない。

ハヤカゼセイランは陰りのない顔で窓の外を見る。その目は明るい未来を見つめていた。

 

 

 

 

 

一方その頃イノセントピースはウイニングライブを終えてトレーナー室へと戻ってきていた。

 

「ピース、ライブとてもよかったぞ」

 

「トレーナーさん、ありがとだし! さすがに疲れちゃったけど」

 

にこにこ笑うイノセントピースは疲れこそあるようだが痛み等はなさそうでトレーナーは胸を撫で下ろした。

まだハヤカゼセイランのレース中の事故のことは記憶に新しい。だからどうしても不安があったのだ。

 

「念のため後で足のマッサージをしておこう。 それから来年を見据えて今後の計画を立てなくちゃならない。 狙うのは・・・」

 

「もちろん弥生賞だし」

 

弥生賞。

二人にとってある意味特別なレースである種のリベンジマッチである。

 

「そうだな、弥生賞はGⅡだから出走すること自体は難しくはない。 それでもいくつかレースに出ることになるが・・・」

 

「不安がらなくても大丈夫だし! アタシの心配してくれるのは嬉しいけどトレーナーさんは自信持ってほしいし。 アタシはトレーナーさんのこと信じる。 だからトレーナーさんもアタシのこと信じてほしいし」

 

「・・・ありがとう、ピース」

 

彼女とならまたやれる。夢を追える。トレーナーは思うのだった。

そこでふと思い出した。そういえばレース前のアレは結局なんだったのだろう。

それをイノセントピースに聞くと

 

「とっておきのサプライズだし!」

 

と笑った。

この後トレーナー私物のビデオカメラがないと気づいてめちゃくちゃイノセントピースを叱った。




イノセントピースが怒られたのはトレーナーの私物の無断借用+面識の薄い相手に渡したから。
ビデオカメラはちゃんとハヤカゼセイラン経由で返却された。

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