ウマ娘は勝利を望む   作:なち11

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書き溜め分はこれで最後。はやく続き書かんと


夢を継ぐ

 

真っ白な病室。

ベッド脇の椅子にはトレーナーが沈痛な面持ちで座り、ベッドではハヤカゼが上体を起こしてそんなトレーナーを見つめていた。

 

「すまない・・・俺がもっとちゃんとしてれば・・・」

 

「なに言ってるのトレーナー。 これは私のミス。 トレーナーが気に病むことじゃないわ」

 

違う。

 

「あの時走ると決めたのは私。 自分の選択でこうなったのだからこの結末も納得は、できるわ」

 

いいや、違う。本当はもっと走りたかったはずだ。なによりも・・・。

 

「でもそれよりも、もし私のせいで、私がこうなってしまったせいであの娘が走ることすらやめてしまったらどうしよう・・・。 それがなによりも、こわいの」

 

・・・君は、ピースと走りたかったはずなんだ。

 

「トレーナー、私は・・・大丈夫だから、どうかピースを支えてあげて」

 

だけどそう言ったハヤカゼは間違いなく本気で。

だからこそトレーナーはなにも答えられなかった。

 

 

 

弥生賞から数日が経った。

ハヤカゼは右足と左腕の骨を折っていた。

まず右足が折れ転倒、胴体を庇った際に左腕も骨折したというのが医師の見解だ。

更に同時に屈腱炎も発症してしまったため復帰は絶望的、少なくとも年単位の療養が必要と診断された。

トレーナーは黙ってその話を聞いていた。ただ血が滲むほど強く手を握りしめながら。

 

 

あれ日からというものトレーナーはハヤカゼの入院手続きから入院生活に必要な物の準備、それに加えて記者会見にも対応するという多忙な時間を過ごしていた。もし学園側からの手厚いサポートがなければ過労で倒れていたかもしれない。

 

その間イノセントピースには自室療養を言い付けている。

それは親しかったハヤカゼセイランが大怪我したというショックから立ち直る時間を与えたかったというのもあるし時に強引な取材をするメディアから彼女を守るためでもあった。

聞いた話ではおとなしくしているもののぼーっとしていることが多いようだ。落ち着いたら彼女としっかり話すべきだとトレーナーは考えた。

 

窓の外を見れば空には暗雲が広がりしとしとと雨が降っている。

これはトレーナーの、そしてイノセントピースの心を表しているようだった。

 

「あんた! ハヤカゼセイランとイノセントピースのトレーナーかい!?」

 

そんな感傷は突然の大声で破られた。大声の主はヒシアマゾン。イノセントピースの部屋がある美浦寮の寮長のウマ娘だ。

 

「どうしたんだ?」

 

「それが昼にピースのやつにお弁当を届けに行ったんだけど部屋にいなかったんだ! 心当たりはないかい!?」

 

「ピースが!?」

 

さっ、と血の気がひいた。

一体どこへ・・・思考がパニックに陥りかけとにかく走り出そうとして、ヒシアマゾンに腕を掴まれ止められた。

成人男性といえどウマ娘の力に敵うはずもなく尻もちをつく。

 

「とりあえず落ち着きな、慌てたってなんもなりゃしない。 落ち着いてどこに行ったか考えるんだよ」

 

「あ、ああ。 すまない・・・」

 

トレーナーの様子を見てヒシアマゾンはニッと笑った。

 

「落ち着いたね。 寮の方はヒシアマ姐さんにまかせな! トレーナーさんは他に心当たりのある所を見てきな!」

 

「頼んだ!」

 

今度こそトレーナーは駆け出した。幸い彼女の行くところにはいくつか心当たりがある。

今一番イノセントピースが行きたいのはハヤカゼセイランの所だろう。

だがあのイノセントピースが迷惑をかけるとわかっていてハヤカゼセイランの元に向かうのは考えられない。

 

(それなら・・・トレーナー室だ)

 

トレーナーは急いでトレーナー室へと向かうのだった。

 

 

 

トレーナーの予想通りイノセントピースはトレーナー室にいた。

部屋の真ん中で座りもせず、壁に貼られた『目指せ三冠』と書かれた紙を見つめていた。

その様子がどうにも儚く見えて話しかけるのを躊躇い、しかしあえていつものように話しかけた。

 

「ピース・・・ヒシアマゾンが心配してたぞ。 ご飯も食べずにどうしたんだ?」

 

イノセントピースはその言葉には応えずトレーナーになにかを差し出した。

 

「・・・これ」

 

渡されたのはスマホ。そこにはあるネット記事が表示されている。

それは先日の弥生賞についての記事だったが他の記事とは違い勝者ではなくハヤカゼセイランとそのトレーナーについて書かれていた。その内容は批判的なものである。

 

曰くハヤカゼセイランはもともと中距離を走りきる能力はなかった。

曰くトレーナーは彼女に三冠を取らせようと無茶なトレーニングをしていた等。

 

あまりにも無根拠でいい加減としか言えない上に敗者にムチ打つような内容にコメント欄は炎上していたが少なからず同意するコメントも見られる。

 

「めっちゃ悔しい・・・何も知らないくせに何偉そうに書いてんだって感じだしこんな記事が少しでも受け入れられてんのもふざけんなだし・・・」

 

イノセントピースは泣いていた。それを見てトレーナーは怒りを覚える。

無責任な記事を書いた記者にではない。

こんな記事を書かせる原因となった、ハヤカゼセイランの怪我を防げなかった自分自身にだ。

情けなさのあまりトレーナーの目尻に涙が滲んだが堪えた。

 

「ねえ、トレーナーさん。 パイセンが勝ってたらこんなこと書かれなかったのかな? 」

 

「・・・かもしれない、だけど現実はそうじゃない。 あんなことになってしまった以上俺の指導が間違っていたと言われても・・・しかたない」

 

暗い声で応えたトレーナーにイノセントピースは重ねて聞いた。

 

「トレーナーさんは悔しい?」

 

「悔しい」

 

そう答えたのは反射だった。それはどれだけ取り繕っても誤魔化しても隠しきれない本心であった。

だからなのだろうか。トレーナーがそう答えた瞬間、イノセントピースの纏う空気が変わった。

 

「ピース?」

 

思わずトレーナーは顔をあげた。

イノセントピースは涙を拭い去った。トレーナーをその瞳に映した。

その瞳は先程までの弱々しいものではなく鋭いものへと変わっていた。

 

「なら」

 

そして雲の隙間から太陽の光が差し込んだ。

 

「──アタシが走るし」

 

雲間を裂いた光に照らされるイノセントピース。

それは幻だろうか。トレーナーはイノセントピースの目に赤々と燃える炎が灯るのを見た。

 

「トゥインクルシリーズに出て、アタシが三冠を取るし。 絶対に言わせない、バ鹿にさせない。 アタシが証明する。 パイセンの走りもトレーナーさんの指導も全部最高なんだってアタシが見せつけてやる」

 

イノセントピースがトレーナーに手を差し出した。

 

「だから、トレーナーさん」

 

それ以上の言葉はいらなかった。トレーナーは彼女が何を言いたいのかわかった。

 

「いいのか俺で?」

 

「うん、トレーナーさんがいいし」

 

その言葉でトレーナーの心にも火が灯った。またもう一度。今度こそ、と。

 

「そうか・・・なら一緒に戦おう、ピース」

 

トレーナーはイノセントピースの手を取った。

 

のちにトレーナーは語る。

この時、イノセントピースが紡ぐ伝説が始まったのだと。

 

 

 

 

それはそれとして。

 

「いえーい! それじゃトレーナーさんこれから頑張るし! アタシバリバリトレーニングとかやるし!」

 

さっきまでの雰囲気はどこへやらピースはパッと笑顔になった。

 

「って、おい。 さっきまでの空気は、気合いはどこにいった?」

 

「え? ちゃんと本気だし。 でも今からずっと頑張りっぱなしってのはなんか違うっしょ。 パイセンだってアタシがいつまでもくよくよしてたら怒るだろうからアタシはアタシらしく強くなるし!」

 

たしかにそうだ。そうなのだが・・・。トレーナーは釈然としないものを感じつつも

お腹がすいたと言い始めたピースと一緒に食堂まで歩いていくのだった。

 

 




プロローグ終わり!
アプリでいうと4話ぐらいの話。今後はいろんなキャラと関わらせていきたい。オリウマ娘も出すけど
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