世界に愛された元徳者と世界を憎みし原罪者 ー世界を憎みし少年とその少年より生まれし九つの罪の王と罪徒となった少女達・世界に愛された少女達と聖徒に選ばれし少女達ー   作:OOSPH

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0-1 Incipit Prolog
Incipit Prolog


光と闇、いわゆる昼から夜、或いは夜から朝に

なろうとしているように、あたりの光景が照らし出しているその場所

 

その場所にて、四人と一人の人物が対峙していた

 

一方は、それぞれが剣、槍、銃をもって外套を羽織り

どこか神々しさを思わせる雰囲気を醸し出している四人の少女達

 

一方は、右手に杖を逆手に持って剣のようにし

左手には正真正銘の剣を持ち、ローブのような衣服を纏う

フードに覆われている部分からは複数の目を持つような形の仮面が

その人物の顔の上半分と下半分の右半分を覆いって素顔を隠している少年

 

少女の後ろには四人の少女達が武器を構え

少年の周りには九つの影と、後ろには五人の少女が

 

そして、風が勢いよく吹くと同時に

対峙していた少年と少女はお互いの武器を手に持って

激しくぶつかり合って行き、互いの武器がぶつかったと同時に

 

辺りの景色が大きく変わっていく

雲が大きく避け、大地は大きく揺れていき

 

やがて本格的な戦いが始まらんとしていく

 

この戦いは過去のものではなく

寧ろこの先に起こり得る大いなる戦い

 

その予兆となる者である

 

この戦いはある意味、これから決まる

世界の運命を決める戦いでもあると言う事は確かである

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

月曜日

 

それはきっと誰もが憂鬱を感ず時るときであろう

その前の日曜日が休みであるがゆえに、だれもが

この日を迎えた時誰もが思うだろう、昨日はまさにパラダイスだったと

 

そんな誰もが憂鬱に感じるであろう

その日を迎えている学生達の反応は様々

 

久しぶりに友達と再会して、昨日はあんなところに行っただの

こういう事があっただのと仲の良い者達がお互いと喋っていくのを楽しく感じている

 

そんな中で一人の男子生徒が学校へと続く道を歩いていっている

やや頭を抱えながら、おぼつかない足取りながらもそれでも学校へと向かっていく

 

やがて、靴を履きかえて向かって行った、教室に入っていったその時

 

「っ!?」

 

突然、誰かに足を掛けられてその場に転んでしまう

 

すると

 

「おいおい、キモオタァ~?

 

 何勝手に人の足ひっかけてくれてんの~?

 

 いってえんだけど」

 

「大丈夫かよ、大介ぇ~?

 

 きっちり慰謝料請求しないと行けねえなぁ~」

 

そう言って、倒れた少年に顔を近づけて

何とも不快な笑いを浮かべ、その男子の顎を

思いっきり掴み上げて、無理矢理自分の方に向かせていく

 

その周りには彼の取り巻きであろう

三人の男子生徒がその様子をにやにやと見つめている

 

すると

 

「やめなさいよあんた達!

 

 朝っぱらからくだらない真似して!!」

 

そう言って一人の少女が四人の男子生徒に注意をしていく

 

「何だよ南野!

 

 悪いのはこのキモオタだぞ!?

 

 こいつが俺の足をひっかけて‥‥」

 

「私にはあんたが南雲が通ってくるタイミングを

 見計らってわざと足をかけてきたように見えたけど?

 

 とにかく、もうすぐ先生も来るから早く席につきなさい!

 

 あんた達がそんな風だと、クラスのみんなが迷惑するのよ!!」

 

突然現れた女子生徒に言われて

盛大に舌打ちをかましながら自分の席に戻っていく男子生徒達

 

「‥‥まったく、あんたもあんたよ南雲

 

 あんたがそうやって気を緩ませてるから

 ああいう奴らに絡まれちゃうのよ、もっとしっかりしなさい!」

 

「…すいません…」

 

そうびしっと絡まれた男子生徒の手を引き

助け起こしてやるも、彼に対してもはっきり言い放つ女子生徒

 

しかし、そんな彼から帰ってくるのは気持ちのこもっていない謝罪

だがそれは反省していないと言うより、どこか投げやりのように感じられる

 

すると

 

「南雲君、大丈夫!?」

 

一人の女子生徒が心配そうにその男子生徒に駆け寄っていく

 

「あ、うん大丈夫だよ…

 

 いつもの事だから…」

 

「いつもの事って‥‥南雲君は本当にそれでいいの!?

 

 私でよかったら力になるから‥‥だから…!」

 

「いいって言ってんだろ!」

 

「っ!」

 

そう言ってその女子生徒に対して突き放す様に言い放つ男子生徒に

その女子生徒は驚愕するように、眼を見開く、それはどこか悲し気であった

 

「南雲君…」

 

そう言って、自分の席に向かって行くハジメだが

自分の席の表面を見て、一瞬だけ動きを止めてしまう

 

無理もないだろうなぜならその机にはひどい傷や

バカや死ねなどの誹謗中傷、実は花瓶の花などが置かれていたが

流石にそれは誰かが元に戻していったのだろう、ここにはもうおかれていない

 

「…ちくしょう…」

 

その男子生徒の口惜しさを込めた呟きは誰の耳にも届かなかった

 

「‥‥相当参ってるのね、南雲‥」

 

「‥‥南雲君…」

 

しかし、彼の様子を見て何を思ったのかを察したのか

二人の女子生徒は何処か心配した様子で机にうつ伏した彼を見ている

 

「…‥まったく香織も、南野さんも優しいな

 

 あんな奴の事も気にかけてやるだなんてな」

 

そう言って一人の男子生徒が

香織に笑みを浮かべながら話しかけていく

 

その笑みは傍から見ると

優し気で誰もが見惚れるものだが

話しかけられた女子生徒二人はそれを見て

どこかうんざりした様子を見せ、ため息を付く

 

「あんな奴って‥‥どうして南雲君のことを悪く言うの!?」

 

「どうしてって当然の事じゃないか

 

 アイツはそれだけのことをしたんだ

 

 全部あいつのまいた種、自業自得じゃないか」

 

「ふざけないで!

 

 あの時も言ったけれど、南雲は私を襲ってなんてない

 寧ろ、南雲は私のことを護ろうとしてくれたんだって!!

 

 なんでそう何度も人の話が理解できないのよ!!!」

 

そう言って、男子生徒に抗議していくが

 

「…‥わかっているさ、南野さん

 

 君は本当に優しいからな

 一応はクラスメートである

 南雲のことも気にかけてあげているんだろう?

 

 でも南野さん、こういうのはしっかりとさせておくべきだ

 

 あんまりあいつに気にかけてやっているとまたいつ

 南雲が調子に乗って君のことを襲ってくるかもしれない

 

 だから南野さん、君は彼とは

 関わらない方がいい、それが君のためだ」

 

男子生徒は、何の悪びれもなくそう言いきって見せた

それを聞いて、二人の女子生徒はもうこれ以上は何を言っても意味がない

 

そう言いきるように黙り込んでしまった

 

すると

 

「そこまでにしておきなさい光輝…」

 

「雫…‥俺はただ南野さんのためを思って…」

 

「香織と姫の気持ちも察してあげなさいよ」

 

そう言って彼の後ろから

黒くて長い髪をポニーテールにまとめた一人の女子生徒が

なおも食って掛かっていく男子生徒を諫めつつ下がらせていく

 

「むう、それもそうだな…

 

 それにしても南雲の奴

 香織や南野さんに苦労を掛けさせるとは…

 

 やっぱり許せないな」

 

その女子生徒の言う事を了承しながらも

それでも男子生徒への中傷を続けていくこの男子生徒

 

「‥‥ごめんなさい、香織、南野さん…

 

 私が至らないばっかりに…」

 

「ううん、雫ちゃんは悪くないよ」

 

「そうよ、悪いのはそれこそ

 天之河のように、噂だけを信じて

 南雲のことを悪者扱いする奴等なんだから…」

 

そう言ったところでチャイムが鳴り

その場に居た生徒達全員が席についていくのだった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

とある高校、この高校には

注目されている生徒が数人いる

 

男子女子、同級生や

他の学年からも注目されている四人の女子生徒

 

四大女神、と呼ばれる女子生徒たちがいる

 

西宮 風香

 

 

運動部に所属しており

一年の頃よりレギュラーに選ばれる程の腕前

さらには、他のメンバーを率先して、引っ張るな

リーダーシップも兼ね備えており、周りからも頼りにされている

 

南野 姫奈

 

 

学年でもトップクラスの成績で、さらには

悩んでいる生徒がいたら率先して相談に乗るなど

 

クラス委員を務めているだけあり、教師陣からの信頼も厚い

 

白崎 香織

 

 

常に笑顔をたやさず、面倒みもよく責任感も強い

誰に頼られても嫌な顔を見せずに真摯に受け止める

 

さらにその美貌もあってマドンナとしても人気が高い

 

八重樫 雫

 

 

凛々しい顔つきに、そこから見える柔らかさ

更に実家が剣道場を営んでいることもあってその腕前もぴか一

美少女剣士として注目されて学内外とわずファンクラブがあるほど

 

四人の少女達は誰からも好かれ、愛されて

常に四人の周りでは笑顔の絶えない明るい雰囲気が現れていく

 

ただ一人を除いては

 

四大女神とは対照的にクラスメートにも

学校中のほとんどの教職員たちからも見放されている男子生徒がいた

 

その男子生徒が

 

南雲 ハジメ

 

 

彼はかつて、過去のとある出来事から

いや、それが決定的になって学校中のほとんどのもの達から

まるで仇を見るかの如く、敵愾心を抱かれてしまっており

 

実質、彼の居場所は学校の中にはほとんどないと言っても過言ではない

 

さらに、そのとある出来事のせいで両親からも見放されてしまい

学校に通っても、家に帰っても、もはや彼が当たり前に過ごせる場所はなかった

 

やがて、昼食休憩に入り生徒たちは学食や購買に行ったり

仲の良いもの同士、机を繋げ合ったりして談笑していたりする

 

しかし、そんな誰であっても楽しく感じる時間も

ハジメにとってはただの苦痛でしかなかった、あの日から

両親は自分に構うことはせず、お弁当も購買を買うためのお小遣いもくれない

 

しかもそんな彼に追い打ちをかけるように朝に彼の足を引っかけた男子生徒

 

檜山 大介

 

 

その取り巻きの男子生徒である

 

斎藤 良樹

 

 

近藤 礼一

 

 

中野 信治

 

 

彼ら四人に無理やり財布を奪われては、勝手におごらされしまい

今は彼の財布の中にはもう数えきれるほどの小銭が寂しく残っているだけである

 

そのせいで今の彼では、購買のパンはもちろんのこと

十秒で済ませられる栄養ゼリーも買えないために、空腹に悩まされている

 

だから、ここ最近の習慣は誰からも見つからないように教室から出て

誰も寄り付かないであろうある場所に向かって行きそこで昼を過ごしていた

 

「ふう…やっと一息つける…」

 

そう言って彼が入ってきたのは図書室

 

今時の学生はここにあるような本などめったに読むことは無い

そもそもここに図書室があること自体知っている生徒もいないのが殆ど

 

故にここが彼にとっても過ごしやすい場所であった

 

ここで少しだけゆっくりしていこうと思い

椅子に座って机の上にうつ伏していった、そこに

 

「ちょっとそこの君?

 

 ここは、休憩場じゃないよ?」

 

「っ!?」

 

そう言って慌てて体を起こして

声のした方を向くと、そこにいたのは

 

一人の女子生徒であった

 

「東雲…さん…」

 

「‥‥フフフフ…

 

 やっぱり来ていたんだね

 ここに居ればまた君に会えると思ってね…」

 

そう言ってハジメの向かい側に座ると

彼の方を見て笑みを浮かべる女子生徒

 

「それにしても今日もつかれているみたいだね…」

 

「…やっぱり、分かっちゃうかな…」

 

「さすがにそう毎日、君のあの様子を見ているとね…

 

 今日も君とお喋りをしたいと思っていたが

 その様子ではとてもそんな余裕はなさそうだ…

 

 ゆっくり休んでいるといい、私もしばらくは傍にいてあげるから」

 

そう言ってハジメに休ませてあげるように促す渚沙

ハジメはそれを聞いて、嬉しそうな笑みを浮かべていく

 

「ありがとう…」

 

「気にしないで、私と君の仲じゃないか…」

 

そう言って遠慮なく休ませてもらうハジメと

そんな彼に笑みを浮かべて、次に読む本を探しに行く女子生徒

 

「‥‥ごめんね南雲君…

 

 このぐらいしか、君に出来ることが無くて…」

 

そう言って、机の上にうつ伏して睡眠に入っているハジメ

そんな彼に向かって小声でそう申し訳なさそうに呟いていく女子生徒

 

東雲 渚沙

 

四大女神に並んで

男子生徒の人気が高い七人の女子生徒

 

七大天使、それに数えられる美少女の一人である

 

四大女神と区別されているのは、入学当初から

周りの人気の高かった四大女神とは違い、彼女らは

後になってから人気が出始めてきたからである

 

渚沙自身もそれを自覚しているが

はっきり言ってそんな程度のことでしか自分達のことを図れない

そんな周りの人間に心底うんざりしているのもあってここにきている

 

「‥‥まったく…

 

 どうしてこうも、回りの奴は

 あんなにもつまらないことに熱中するのかな」

 

そう言いつつ、次に読む本を探していく渚沙

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

そのころ、ハジメのいなくなった教室では

四時間目であった社会科の担当である教師

 

畑山 愛子

 

彼女が暫く、数人の生徒と談笑したのちに、気になるように教室を見回している

 

「南雲君‥‥今日も教室にいないんですね…」

 

彼女はそう言って、ハジメの席の方を見まわしていく

彼女自身、最近彼の周りで起こっているいじめの件において

頭を悩ませると同時に、常に心を痛めていた、同時に彼に何も

してあげることもできない自分自身に情けなさと憤りを覚えていた

 

そんな彼女のもとに歩みよってくる一人の女子生徒が声をかけてくる

 

「愛ちゃん先生」

 

そう言って話しかけて来たのは

栗色の毛の、切れ目が特徴の美少女

 

園部 優花

 

彼女もまた七大天使の一人に数えられる美少女で

実家が洋食屋をやっており、その手伝いもしている

こともあって料理の腕がとても良く、人への接し方もうまい

 

「園部さん…」

 

「…やっぱり、南雲の事…心配なんですね……」

 

「‥‥はい…

 

 私もあいつにはいろいろとお世話になりましたから…」

 

そんな彼女もまた

ハジメへのいじめの事に悩んでいる生徒の一人である

 

「私の力が及ばなかったせいで…

 

 あの時、私がしっかりしていれば…」

 

「愛ちゃん先生…

 

 先生は悪くないですよ…

 

 悪いのは、あいつ等なんですから」

 

そう言って愛子は教壇の上で手をぎゅっと力強く握りしめていく

 

「分かっています‥‥それでも…」

 

そう言って、内側から漏れていく

哀しみを堪えるように張り詰めた様子を見せていく

 

「愛ちゃん先生…

 

 あいつの味方である教師はもう先生一人なんです

その先生がそんな風に俯いてたら、それこそ南雲の味方が

 いなくなってしまいます、ですからしっかりしてください…」

 

「‥‥そうですね…

 

 園部さんの言う通りですね…

 

 人生一度キリしかない高校生活が

 こんなにもつらいままで終わらせるなんて…

 

 そんなの私は嫌です、目の前で苦しんでいる

 生徒の力になってあげないと、それこそ先生である意味もありません…

 

 どんな時でも生徒の味方でい続けることが先制の務めなんですから」

 

そう言って愛子はぐっと決意を新たにする

優花もそれを見て、その意気ですと愛子の背中を押してやる

 

そんな傍らでも、同じく南雲のことで悩む者たちが

 

「南雲君‥‥今日も教室からいなくなっちゃってる…

 

 せっかく南雲君のためにお弁当作ってきたのにな…」

 

そう言って手元に持っているお弁当を抱えて

シュンっと落ち込んでいるのは、香織であった

 

ハジメはここ最近、学校で食事をとることが減ってきている

 

例の事件のせいで食事も満足に取れなくなってしまっているからだ

両親が彼へのお小遣いを断った上に檜山達によるカツアゲなどがあって

 

彼はここ最近、満足に食事がとれなくなってきている

 

香織は心配して彼のために

こうしてお弁当を作ってきてあげているのだが

香織が話しかけていく前にさっさと教室から出ていって

しまうので、この通りいっつも空振りになってしまうのだった

 

「香織…」

 

そんな香織を心配そうに見つめる一人の背の高い女子生徒

 

八重樫 雫

 

彼女と香織は幼馴染であり、同時に親友同士でもある

故にここ最近ハジメのことで悩んでいる香織のことももちろん

 

学校中から理不尽な扱いを受けているハジメのことを心配している

 

最初こそ、ハジメのことをよく思っていなかったが

香織に付き合わされる形で彼のことを知っていくうちに

彼の人となりを知り、今やそれなりに彼に対して好感を持っている

 

故に彼女もまた、ハジメの周りに

起きている理不尽なやっかみに心を痛めていた

 

香織の気持ちを理解しているからこそ

彼女にかける言葉が見つからず、言葉を濁してしまう

 

すると、そんな香織の心情を理解しようとも

せずに、彼女の元へと話しかけてくるものが現れた

 

「香織、こっちで一緒に食べよう

 

 せっかく作った香織のお弁当なのに

 食べないなんてもったいないじゃないか」

 

天之河 光輝

 

容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能のまさに優等生だが

人の善意を無条件で信じてしまい、人の悪意というものに理解がない

 

ゆえにハジメが貶められた例の事件は

ハジメがやったのだと信じて疑っておらず

 

ハジメへのいじめをやめさせるどころかむしろ

ハジメの自業自得であると考えてもいるようであり

 

彼が貶められているのを見ても、いじめている方に

注意しないどころか、一方的にハジメの方を非難していく

 

それが原因でいじめっ子の中には何と

ハジメへの個人的な恨み、反抗的な感情のみならず

 

むしゃくしゃする、今日は気が立っているなどと言う

それこそ、理不尽な理由で暴力を振るう者もおり、さらに

ハジメの精神を追い詰めていった、そういう意味では光輝も同罪である

 

いじめは許されないがハジメに対しては

問題ない、だって光輝が許してくれるから

 

光輝のリーダーシップとカリスマ性が悪い方向に働いてしまった結果である

 

これがきっかけにより光輝と香織の間に溝ができてしまう

しかし、それが自身に原因があることは愚か、香織の気持ちも

理解しきれていない部分も手伝って、今でも香織と交流し続けている

 

「‥‥ううん、いいよ…

 

 私、雫ちゃんと食べるから

 光輝君は他の誰かと一緒に食べて来なよ…」

 

そういう訳なので香織も内心は光輝のことをうっとおしく思う様になり

こうやって光輝からの誘いを断っていこうとするのが殆どであるのだが

 

「だったら俺も一緒で問題ないだろ?

 

 だって俺たちは幼馴染なんだからな

 そうと決まったらさっそく行こうか」

 

光輝はこのように人の話しも聞こうともしなかった

今の香織ははっきり言って穏やかではない、このままだと爆発でもしそうだ

 

すると、そこに

 

「光輝君、あんまり強引だと香織がかわいそうだよ

 

 僕が代わりに一緒に食べてあげるから、今はそっとしてあげよ?」

 

お弁当を手に光輝を誘って行く一人の女子生徒

 

中村 恵里

 

昔は眼鏡をかけ、ナチュラルボブの黒髪で

良くも悪くも地味な印象の少女であったが

 

今は眼鏡はかけておらず髪はおしゃれに少し巻いており

最初の印象から一気に人気が上がって、七大天使に数えられるほどになった

 

因みに彼女はこの高校に上がる前から光輝に想いを寄せており

彼女がこうやっておしゃれをしているのも、光輝に振り向いてもらいたいため

 

なのだが

 

「そうか、やっぱりみんなで一緒に食べる方がいいもんな

 

 香織も一緒に行こう」

 

光輝は毎度のことながらこの調子である

 

恵里はこの反応に香織に申し訳なさそうに視線を向けていく

彼女が光輝を誘ったのは勿論光輝へのアプローチもあるのだが

香織の気持ちも察して彼女から光輝を引き離そうとしたのだ

 

もっとも、今回は失敗してしまったようだが

 

「(もう嫌だよ‥‥なんで南雲君がこんな目に合わないといけないの…

 

  南雲君は何にも悪くないのに‥‥こんなの…こんなのっておかしいよ…

 

  誰でもいい‥‥南雲君を、ハジメ君を…助けて‥‥…)」

 

香織はぐっと持っているお弁当箱を握りしめてそんなことを考えたその時

 

光輝の足もとから何やら幾何学模様が浮かびあがっていくと

それはやがて教室全体にまで広がっていく、さらに広がっているのは

そこだけでなく、その下の方にも円が広がるように大きくなっていき

その先にあったのは図書室であり、そこには二人の人物がいる、その二人は

 

「え…?」

 

「何…!?」

 

そこにいたハジメと渚沙もその光に包み込まれて行く

 

やがて魔法陣から、カッ、っと爆発でも

起こったかのように辺りが光に包まれて行き

 

やがてはれたそこには、蹴倒された椅子やめちゃくちゃになった机

その上にはまだ食べかけのお弁当や飲み物などが散乱していたのだった

 

これはのちに白昼の高校において

突如として起こった謎の神隠し事件として世間を騒がせて行く事になったが

 

それはここで割愛させてもらう

 

なぜならここから先に起こるのは

二つの世界の命運をかけた戦いが始まろうとしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運命はゆっくりと動き出していく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                  


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