世界に愛された元徳者と世界を憎みし原罪者 ー世界を憎みし少年とその少年より生まれし九つの罪の王と罪徒となった少女達・世界に愛された少女達と聖徒に選ばれし少女達ー   作:OOSPH

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Fatum puella Wille der Zerstörung

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

昔、昔のその昔

 

かつてある場所に異能の力を授かり

その力で最強の力をほしいままにしてきた女王がいた

 

少女は家族や周りの人たちに大切に育てられていた

最初のころは少女はそれを嬉しく思っていた、しかし

 

大人になっていくにつれてだんだんと疑問を抱くようになる

 

自分がどうして大切にされているのかと

 

そして、彼女は自分の身体に疑問を持つようになった、そう

 

十二歳のときから、体が成長しなくなった

さらにはどんなに傷を負っても死ぬことのない再生能力

 

全ての魔法に対してのとてつもなく高い適性など

 

彼女も家族たちもどうしてなのかと疑問を持つ

やがて、それは彼女の身に起こった先祖返りという力を持ち

その影響によってこの異能を持ったのではないかと推測した

 

やがて彼女はもともと持っていた才能を使って

当時の最強格とも称される力を存分に振るって国につくし

 

やがて、五年後に即位し女王となる

 

その後もさらに頭角を現していく彼女であったが

やがてそんな彼女を見て彼女の家族は豹変していく

 

ーあの子は悪魔だ、この世に存在してはいけないのだー

 

それを見て、一人の人物は危機感を覚え

急いでその少女のもとに走り出していった

 

「アレーティア!」

 

「っ?

 

 ディン叔父様?

 

 どうかなさったのですか?」

 

あわてて中に入り、目のまえにいる少女の腕をつかむ男性

 

「‥‥‥アレーティア

 

 すまないが急いでここから出る

 そしてしばらく身を隠してほしい‥‥‥」

 

「っ!?

 

 なぜです、どうしてそのような‥‥‥」

 

少女、アレーティアは叔父である

ディン叔父様ことディンリードの様子にただ事ではないと

感じていたが、彼はそんな彼女の様子など考えていなかった

 

いいや、考えている余裕などないと言った方が正しいのかもしれない

 

「‥‥‥悪いが説明をしている余裕はない

 

 とにかく一刻も早くここから離れて身を隠そう」

 

しかし

 

「どこに行こうというのだ?

 

 ディンリード?」

 

「っ!?

 

 兄上、義姉上!?」

 

そこには親族や兵士たちを引き連れたアレーティアの両親達が現れた

 

「ディンリードよ

 

 まさか、そこにいる悪魔を

 逃がそうと考えているのではあるまいな?」

 

「え!?

 

 お父様…‥いったい何を言って‥‥‥?」

 

「黙りなさいこの化け物め!

 

 貴様の様な汚らわしい存在が口を開くことを許すと思うな!」

 

両親からの非情な言葉にアレーティアは言葉を失ってしまう

 

「兄上、義姉上!

 

 自分の娘に何というひどいことを!?」

 

「黙れ!

 

 悪魔にかけてやる情などないわ!!」

 

「お前の様な化け物が私から生まれてきたのかと考えたら

 今すぐにでも、この腹を切り開いてすべてを洗い流したいものよ

 

 ディンリード、今すぐにそこをどきなさい

 その悪魔はすぐにでもこの世から消し去らなければならないのです」

 

そう言ってアレーティアの母は義弟のディンリードに

自分の娘をこれから殺すから我々に引き渡すのだと言ってくる

 

「そんな…‥」

 

すると、そこに

 

「待って下さい、叔母様

 

 アレーティアは再生能力を持っています

 殺そうとしたところでそう簡単には行かないでしょう

 

 ですから、二度と我々の目に届かぬように封印をしてしまうのはいかがでしょう?」

 

「っ!?

 

 貴方は!?」

 

そう言って前に出てきたのは一人の青年

アレーティアよりも少し年上のように思える男性だ

 

「お前は、どうして!?」

 

「従兄様、これは一体‥‥‥!?」

 

「言葉のままだよアレーティア、君は我々のもとに

 いいや、この世界に存在してはならない存在なんだよ

 

 だからこそ、私は叔父上と伯母上

 その他の親族とともに決めたのです

 

 アレーティアを女王の席から降ろし、処刑する

 いいや、二度と誰の目にもとまらぬように封印するべきだとね」

 

そう言って青年は笑みを浮かべていた

一見すると優しそうだが、アレーティアとディンリードには歪んで見えた

 

「さあ、父上、アレーティアをこちらに引き渡してください

 

 そうすれば叔父の奇行は不問にいたしましょう、私は貴方の事は嫌いだが

 それでも私の父親には変わりません、ですから私も貴方の事は殺したくはありません

 

 さあ、アレーティアを渡しなさい」

 

「断る、何が悪魔だ、何が化け物だ!

 

 どんな力を思っていたとしても

 それでもアレーティアは私の愛する姪だ!!

 

 殺させも、封印もさせなどはさせるものか!!!」

 

「叔父様‥‥‥」

 

アレーティアを護るように後ろにやって立ちふさがるディンリード

 

「残念です父上、貴方は本当に愚かな御人ですね」

 

「衛兵、ディンリードとアレーティアを捕らえよ!」

 

「今すぐに悪魔と悪魔に魅入られた愚者を排斥なさい!」

 

アレーティアの父と母の命令で、兵士が次々と突っ込んでいく

 

「アレーティア、ここは私に任せて、早くここから逃げなさい!」

 

「そんな、おじさまも一緒に‥‥‥」

 

「ダメだ、ここでお前を失うわけにはいかん!

 

 お前だけでも無事ならば、私は‥‥‥っ!?」

 

ディンリードがそこまで言うと、彼の胸元を何かが突き出していく

 

その正体とは

 

「まったく、愚かな父親だ

 

 自分の息子よりも怪物として生まれた姪の方を選ぶとはな」

 

「叔父様‥‥‥」

 

そう言ってその場に倒れこむディンリードを

呆然と放心状態で見つめているアレーティア

 

「叔父様あああああああああー!!!!!」

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「いやあああああーー!!!!!」

 

そう言ってアレーティアは目を覚ます

 

そこには、ひたすら真っ暗で何も見えない

果てしない果てしない暗闇が広がっていた

 

「はあ…‥はあ…‥はあ…‥‥‥はあ‥‥‥」

 

そう言って息を切らすアレーティア

 

彼女はあの後、両親と甥に捕らえられ

無理矢理女王の座を降ろされ、ひどい拷問の末に

この場所に封印されてしまった、その後はもう

 

どのくらいの時が絶ったのかもわからない

一秒は進んでいるのが分かる、でもそれだけだ

どのくらいたったのかはわからない、一分じゃないのはわかる

 

一時間でもないのはわかる、では一年、多分それも違う

十年、百年、もうどのくらいの時が絶ったのかもはや考えるのも放棄した

 

元々ぼろぼろだった服は長い時の流れの末に、ボロボロになり、やがてなくなった

 

でも自身の身体は朽ちていく事はない

再生の力のおかげでずっと十二歳の時のままだ

 

だが、それがさらに自身の心を荒ませていく

 

何度も何度も自問自答した、何度も己に問いた

どうして自分はこんな目に合う、どうして自分がこんなところに

延々と閉じ込められないとならない、どうして、どうしてと誰かが

答えてくれるわけでも無いとわかっていても、彼女は何度も心の中でつぶやいた

 

「(もう嫌だ…‥もうこんなところに…‥

  閉じ込められているのは…‥‥‥もう‥‥‥)」

 

何度も何度も願い続けている、だれでもいい私を

この永遠の様な闇の中から連れ出してほしい、と

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

 

異世界からこのトータスに召喚されて

およそ数日が立ったぐらいのころ、ある場所にて

 

一人の少年のもとに数人の人物が訪れていく

 

「‥体の調子は大丈夫?

 

 ハジメ君、貴方に力を与えてから

 随分と立つけれども、だいぶ慣れてきたかな?」

 

そう言うのは、ハジメに

原罪者の力を与えた王国の司書の少女

 

彼女が彼に安否のほどを訪ねていくと

 

「…うん、最初は行き成りの事で

 ちょっと戸惑っちゃったけれど…

 

 今は何とかね、それにしてもすごいね…

 

 色んなものが見えて、色んなものが聞こえて

 色んなものを感じ取れて、まるで神様になった気分だよ」

 

そう言って自身の調子を伝えていく少年

 

南雲 ハジメ

 

 

彼はハイリヒ王国に理不尽な罪を背負わされて

無実の罪で処刑されたが、彼女と契約をして原罪者としての力を与えられる

 

最初のうちこそは大きすぎる力に振り回されてしまったものの

今ではすっかり慣れたようで自分の思い通りに制御しきれていた

 

「やっぱり君はすごいね…

 

 いきなりそんな強い力を手に入れても

 普通は力にのまれて、我を失うのがオチなのに…」

 

「…そんなことないよ、ただ見っともなくても

 それでも僕は、僕のために生きることをきめたんだ…

 

 そしてそのためだったら僕はどんなことでもする…

 

 それを邪魔するなら、僕はぜったいに容赦なんてしない…」

 

そう言って、鋭い目つきで少女を見詰めるハジメ

 

「‥本当にすごいよね…原罪者の力に適応しただけでなく

 まさかあんなにも強い子達を生み出してしまうなんてね

 

 それで、これからどうするつもり?」

 

少女は少年にこれからどうするのかを訪ねていくと

 

「…そろそろ外の世界に立つ…

 

 いい加減こんなところにいても

 気がめいってしまうからね、それで…

 

 みんなはもう、集まってる?」

 

「うん…向こうでみんな待ってるよ…」

 

少女がそう言うと、そっか、と歩いていき

少女が言った彼の言うみんなが集まっている場所に向かって行った

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

彼と少女がそこに入ると

そこには九人の人物たちが集まっていた

 

「‥‥来たわね

 

 みんなはもう集まってるわ…

 

 こうして、顔を合わせるのは

 しばらくぶりになるわね、原罪者様…」

 

そう言って話しかけてくるのは一人の少女

 

「……

 

 ごめん、普通に話してもらっていい?

 

 流石に君に畏まられると、僕もどう

 話したらいいのか、ちょっと迷っちゃうからさ…」

 

「‥‥まったく、そんな調子で

 これからさきやっていけるの?

 

 寧ろ、ここから私たちの道は

 始まっていくんだからね、まったく…」

 

そう言って呆れた様子を見せていくのは

 

東雲 渚沙

 

 

ハジメが処刑された際に、ハジメを助けようとしたせいで

ハジメとともに処刑されてしまった少女、だが今の彼女もまた

 

ハジメと同様に強い力をえているのであった

 

「わかっているよ、僕はもう決めたんだ…

 

 もう絶対に後戻りなんてしないって…」

 

そう言って、彼女の横を通っていき

彼女の他にいる八人の人物たちの方に目を向ける

 

「…みんな、良く来てくれたね…

 

 ぼくの呼びかけを聞いてくれて嬉しいよ…

 

 僕と同じ道を歩んでくれること、本当に感謝する…」

 

ハジメがそう言うと、八人のその者達は

それぞれが思い思いにハジメの方に目を向けていく

 

ハジメが原罪者として力に覚醒する際に

ハジメの中から零れ落ちた罪の力、原罪の力そのものは

ハジメの体に宿り、その際に艫に宿った九つの力は彼が殺された際に

それぞれの部分に補う様に宿っていったが、その際にあふれ出てしまった

力の一部にハジメは自身のその罪のイメージを吹き込んでいき、九人の王を誕生させた

 

なお、その際に渚沙にその内の一つの力を宿し、彼女にも強大な力を与えた

 

彼女達の二つ名と名前は以下の通り

 

色情の皇帝

 

マヌエラ

 

 

暴食の皇帝

 

マリア

 

 

強欲の皇帝

 

サディ

 

 

憂気の大王

 

ノルベルト

 

 

怠落の皇帝

 

カレン

 

 

嫉望の大王

 

チヒロ

 

 

虚栄の大王

 

リュカ

 

 

傲慢の皇帝

 

‥‥

 

 

憤情の皇帝

 

東雲 渚沙改め、ナギサ

 

 

彼女達はハジメが抱えていた九つのそれぞれの感情を

原罪者の力で具現化することで巨大な力を持った罪徒に覚醒し

 

ハジメから王として認められ、そのまま自分達の通称にした

 

九王、と

 

「…行こうか、このトータスを…あの世界を滅ぼしに……」

 

ハジメはそう言ってその場から先導する様に歩き始める

少女はもちろん、渚沙も他の八人の人物達も彼の後をついていくのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

こうして、改めて外に出るハジメ

その後ろからは彼に従う者達が集っていた

 

「…まさかこうして再びここに戻って来れるとは

 本当に思ってもみなかったよ、あの時僕は死んで…

 

 気が付いたら、こうしてまたここに現れることに

 なったんだしね、せっかくこうしてここに来れることに鳴れるなんてね…」

 

「‥‥そうね…

 

 異世界召喚なんてそれこそ

 現実味のない体験をしていたとはいえ

 

 まさか死んで蘇って、こうしてここに

 もどって来ることになるなんて思わなかったわ…」

 

そう言って眼下にうつるトータスの景色を見詰めていく二人

 

「…こうしてみて見るとこの景色は本当にきれいだ…

 

 でも、この場所において人間たちの醜くおぞましい悪意が

 激しく大きく渦巻いている、そう考えると本当に見方が変わるね…」

 

「‥‥そうね…

 

 こんな見せかけの美しい世界なんて

 いっそのことぐちゃぐちゃにつぶれてしまえばいい…

 

 いいえ、私達がそうさせることになるのでしょうね…

 

 私たちの力で、この世界を、あの世界を滅ぼしてあげる…」

 

二人がそう言って物思いの干渉に浸っていると

 

「二人共、仲睦まじいのはいいことだけれど

 

 これからどうするのかもしっかり決めてるの?」

 

そう言って司書の少女が呼びかけていく

 

「…ねえ、先生…

 

 僕のこの原罪者の力って

 確か、色んな人を罪徒にすることが出来るんだよね?」

 

「うん?

 

 それは、そうだけれど…それがどうかしたの?」

 

ハジメは不敵な笑みを浮かべて少女、先生に尋ねる

 

「ねえ、せっかくのこの力だし…

 

 他にも仲間を増やしてみるのはどう?」

 

「おや?

 

 それはどうして?」

 

ハジメの提案にどうしてと質疑をする先生

 

「…僕がこの原罪者の力を得た時に僕はこのトータスの

 すべてを見て、すべてを聞いて、すべてを感じたんだ…

 

 そうしたらこの世界には、僕の様に何もしていないのに

 理不尽な理由で虐げられて苦しめられて、それこそ無残に

 その人生を狂わされている人たちが大勢いるんだ、僕はね…

 

 そんな子達を放ってなんてどうしても置けなくってね…

 

 それに、いざってときのために戦力が多いのは良いに越したことは無いしね…」

 

「‥‥まあ、そうね…まったく‥‥…

 

 そんな風になっても根っこは相変わらずね…」

 

「フフフ、まあ君がそうしたいならそれでいいよ…

 

 それに先生にしても、私たちの仲間を増やしていく事には大賛成だからね

 

 みんなもそれでいいよね?」

 

そう言って先生は後ろ、渚沙は横に並んでいる八人の者達に声をかけていく

 

「私は主様がそうしたいならそれでよいと思うー‥」

 

「私も構いませんよ…」

 

「私も主様がそう望まれるのなら…」

 

「僕もそれでいいよ、どうせ主様の決定には従うしかないだろうし‥‥」

 

「うちもそれでいいよ、めんどくさいし…」

 

「私も構いませんよ、主様」

 

「俺も構わないぜ、な、姉貴?」

 

「…」

 

八人の人物達は黙って彼の意見に従って行く

 

「それじゃあ、さっそくどこにいくー?」

 

マヌエラがハジメに最初にどこに行くのかを尋ねた

 

「…オルクス大迷宮だ…」

 

ハジメは十人の同胞に静かに答えたのだった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

王国においてのちに大災害と呼ばれる事件が

王国の王都において引き起こされている間に一同は

 

オルクス大迷宮に入り込んでいった

 

中に入ってしばらくすると

ハジメは驚いた様子でその場に立ち止まる

 

「…どうしましたか、主様?」

 

「…さっき囮のために生み出した罪徒が倒された…」

 

「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」

 

ハジメの言葉を聞いて、驚いた様子を見せていく先生と九王たち

 

「‥‥そんな、いくら与えた力が弱かたとはいえ

 あの子の力は王国を滅ぼせるくらいにはおきかたのに‥‥

 

 いたい誰が、そんな奇跡のような事を起こしたのー?」

 

「…わからない…

 

 ただ一つ言えることは

 僕が一番この手で屠りたい奴によって

 

 僕の生み出した罪徒が倒されたと言う事だ…」

 

「…なるほど…

 

 それは実に興味をそそられますね…

 

 もしもこの迷宮を抜けたら

 その彼女のもとに向かいますか?」

 

マリアがそう言ってハジメに提案する

 

「…いや、確かに倒されたのには驚いたけれど

 僕たちの当初の目的は果たされているんだ、後は

 

 この迷宮の中で封印されている、お姫様に合うだけ…

 

 そのものをどうするのかはどっちにしろその後だ…」

 

「了解です」

 

そう言って当初の目的の方を

勧めていく事を決めるハジメ

 

他の面々もそれに賛同していく

 

「…さあて、この迷宮の中に封じ込められているもの

 蛇が出るか鬼が出るか、それとも僕たちにとって大きな力になるか…

 

 行こうじゃないか、運命の場所に…」

 

そう言って進んでいくハジメ、その先にあったのは巨大な扉であった

 

「…さあて、何が出るのかな」

 

そう言ってハジメは扉にそっと手を伸ばすと

そこからいきおいよく何かが振るわれて行き

 

扉を無惨にも切り刻んでいってしまうのだった

 

すると、それが引き金になったのか二体の巨大な魔物が現れるが

ハジメがその二体を人睨みすると、たったそれだけで二体の魔物は倒れてしまう

 

「…フン、迷宮の魔物も案外大したことないんだな…

 

 ここに来るまでにいろんな魔物たちと対峙していったが

 どれもこれもたったの一睨みで撃沈、想像以上に拍子抜けだね…」

 

「…そりゃ、今のハジメ君は神にも等しい存在だしね…

 

 ぎゃくに今の君と戦える人なんてこのトータスにはいないと思うけれどね」

 

先生がそう言って話しをしていく

 

「…神に等しいねえ…

 

 悪くはないけれど、嬉しいものでもないね」

 

そう言って開かれた奥の方にへと進んでいく十一の影

やがてその奥にある一つの出会いが彼の復讐劇の開幕に近づいていく

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

迷宮に封じられたアレーティアは何やら向こうで

何かが音を立てて崩れ落ちていく音が聞こえると同時に顔をあげる

 

辺りは暗く、何が起こっているのかが分からない

暫く静かになっていたが、奥の方からゆっくりと音を立てて

なにやら静かな足音が響いてくる、すると奥の方からポッポっっと

光が灯っていき、そこから数人の人影が自分のもとに歩いてきた

 

「…見つけたよ、君が囚われの御姫様だね…」

 

「‥‥‥誰‥‥‥?」

 

そう言って少年がアレーティアの前に立っていく

 

「…さあ、僕は何者なのか…

 

 少なくとももう僕は君達とは

 別の次元の存在になった事には

 変わらないけれどね、まあそれはいい…

 

 それで、君は何者だい?

 

 どうしてこんなところに

 閉じ込められているのかな?」

 

そう言って訪ねていくハジメ

 

「…‥わたしは、先祖返りの吸血鬼で‥‥‥

 

 生まれながらに強い力を持ってる

 だから国のために頑張ったの、でもある日

 

 私の力に脅威を感じた

 両親と甥が私を王座から引きずり下ろすって‥‥‥

 

 叔父様は私を助けようとしたけれど

 でも、そのせいで甥に殺されて、それで‥‥‥」

 

ややしわがれた声で精一杯に説明をしていくアレーティア

 

ハジメはそれを黙って聞いていた

 

「そうか、肉親に裏切られて

 自分の大切な人も殺されたのか…

 

 そいつはつらかったろうな…

 

 しかし、それでどうして

 君の両親と甥は此処に君を封印したんだ?

 

 それだったら単純に君のことを殺せばいいだろうに…」

 

「私は…‥しねないの…‥心臓を貫かれても…‥‥‥首を斬り落とされても‥‥‥

 

 それから…‥わたしは魔力を直接操れる…‥‥‥陣もいらない‥‥‥

 

 だから私は封印された…‥‥‥この迷宮に封じられた‥‥‥

 

 お願い、私をここから出して‥‥‥」

 

アレーティアは頼み込むようにハジメに言う、だがハジメは冷たく言う

 

「…断る」

 

「え‥‥‥!?」

 

ハジメはアレーティアに冷たい目を向けて言い放つ

 

「…どうして僕が君ごときのためにそこまでしないといけない?

 

 そもそも、誰かに助けを求めるだけの惨めな弱者何て助けだしたところで

 何の役にも立たない、僕がここに来たのはそんな役立たずを拾うためじゃない

 

 絶対に死なない?

 

 魔力を直接操れる?

 

 それがどうした!?

 

 本当に自由になりたいなら誰かに頼らずにお前自身の力でつかみ取れ!

 

 それすらもできないからこそ、こんな何もないところに

 閉じ込められている、自分の運命すらも、ものに出来ない奴が

 

 自分の望む未来を手に入れることなどできるはずもない、本当に自由になりたいなら

 今の自分の運命を変えたいと本気で願うなら、お前自身の力で手にして見せるがいい!!

 

 それができないなら一生此処で苦しんでいろ、ありもしない希望を抱き続けていろ!!!

 

 そうやって誰かに縋る事しかできないがゆえに両親からも甥からも裏切られている…

 

 そんな自分を恥じるなら、本気で抗いたいなら

 その決意が偽物でないことをお前自身の力で証明して見せろ!」

 

ハジメにそう言われてハッとするアレーティア

 

そうだった、自分は大切にされるだけで

自分で何かをしようという事をしなかった

 

自分の強すぎる力故に自分は必死に抗う事を知らなかった

 

そのせいで自分は、両親に裏切られ、甥に大切な人を殺され

 

揚句には、このようにこの場所に封印されている

 

その際に思い浮かんだのは

自分が封印されていく際に、下卑た笑みを浮かべる両親と甥

 

自分がここにずっと封印されて、あいつらはどう思ったのだろうか

あいつらはどれだけ私のことを嘲笑っていただろうか、私を守るために

命をかけた叔父のことをどんな風に思っていたのか、そんなことを考えていると

 

自分の中から怒りと憎しみがこみあげていく

 

「うううううーおおおおおあああああああああー!!!!!」

 

アレーティアの体から、とてつもないほどの力があふれ出ていき

それによって彼女を封じていた封印が段々と崩れていき

 

やがてその中から、金髪で赤目の美少女が立っていた

体自体はきれいなのは彼女の言っていた再生能力のおかげだろう

 

ただ、流石に服自体はボロボロだったようで

今の彼女はなにも身に着けていない状態になっていた

 

「…そうだ、それでいい…

 

 最後まで抗うのをやめなければ

 おのずと自分の手で運命は掴めるものさ…」

 

すると、アレーティアはひたひたと彼の前に立つ

 

「ありがとう、私貴方の言葉のおかげで気づけた‥‥‥

 

 私の運命は私自身で掴まないといけないんだって‥‥‥

 

 わたし、両親や甥に裏切られたショックでどこか諦めてた‥‥‥

 

 でも、諦めずに手を伸ばせば運命はつかみ取れるんだって‥‥‥

 

 貴方がそれを気付かせてくれた‥‥‥本当に…‥本当にありがとう」

 

「僕は何もしていないし、礼なんて言われる筋合いもないよ

 

 それは君の力によって成し遂げられたものなんだから、君の強さを誇るといい」

 

ハジメはそう言って先ほどの冷たい表情とは全く違う優し気な笑顔を浮かべていく

 

「あ、あの‥‥‥貴方の名前は‥‥‥?」

 

「はあ…さっきも言っただろ…

 

 僕は何者でもない存在だって

 僕には名乗る名前何てものはないよ

 

 ううん、正確にはあったというべきかな?」

 

ハジメはそう言ってややそっけない様子で返していく

 

「私は、アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタール‥‥‥

 

 アレーティアでいい、私もあの両親につけたこの名前は

 嫌だけれど、それでも私はしっかり名乗った、だから名前を教えて」

 

「…君って意外に図々しいね…

 

 本当にいい性格してるよ」

 

なおも名前を聞いていくアレーティアに呆れた様子を見せていくハジメ

 

「…南雲 ハジメだ…

 

 南雲が苗字でハジメが名前…

 

 でも、本当にこの名前には意味がない…

 

 もうすでに、死んだ名前だからね…」

 

「‥‥‥どういう事?」

 

アレーティアは不意に訪ねると、ハジメは自分の事を話していく

 

異世界から急に人類側の助っ人として呼び出されたこと

ステータスが表示されなかったせいで、無能呼ばわりされたこと

 

迷宮においてクラスメートの軽率な行動が自分達をピンチに追いやった事

 

でも、それもどうにか乗り越えられたこと

 

だが、その際に教会によって裏切り者扱いされ処刑されたこと

 

ある人物に出会って自分の持っていた力を覚醒させて蘇った事

 

そこから今に当たること、その全てを話していった

 

「…まあこれがここまでの敬意って訳なんだけれど…

 

 どうかしたの?」

 

すると、アレーティアは怒りの表情を浮べていた

 

「‥‥‥ひどい、ハジメに助けられたにも関わらず

 その恩をあだで返したどころか、未知の力をもっているって

 それだけの理由で処刑にするなんて、そんなの絶対に許せない!」

 

そう言ってハジメをうらぎった教会や王国

彼とともに召喚されたクラスメートたちに対して怒りの表情を向けて行く

 

「…ねえ、ハジメ…

 

 私をハジメと一緒に連れて行って!

 

 ハジメは私を救ってくれた私だけの愛しいしと

 私にとっては太陽のような人、私を救ってくれた貴方に

 恩返しをしたい‥‥‥私はどんなことがあってもハジメを裏切らない‥‥‥

 

 だから、私にハジメのことを手伝わせてほしい…‥なんでもするから」

 

そう言って必至に協力を申し出ていくアレーティア

 

「…どんなことがあっても僕を裏切らない…?

 

 もしもその言葉が本当だというのならば、僕がこれから

 君のことをこれから、別の存在に生まれ変わらせるといっても…

 

 それでも君は僕のことを裏切らず、僕に変わらずについていくといえるかい?」

 

ハジメは意味深に聞いていく

 

すると、アレーティアはどこか艶めかしい表情を浮かべて言う

 

「‥‥‥私は私自身が、あいつらの血肉から生まれたっていう事実が耐えられない‥‥‥

 

 だからそれで私の子の体を脱ぎしてることができるのなら、むしろそれでハジメが

 私のことを受け入れてくれるというのなら、私はハジメに何をされてもかまわない‥‥‥

 

 だからお願いハジメ…‥私のことを精一杯愛して…‥‥‥そうしたら私も

 ハジメのことをいっぱい愛してあげる…‥どんなことだってしてあげるしさせてあげる‥‥‥

 

 だから…‥私をハジメのものにして‥‥‥」

 

アレーティアはそう言ってハジメを受け入れる態勢に入っていく

 

すると

 

「があ!?」

 

アレーティアの首元を何やかが勢いよく掴みがかっていった

するとそれは、彼女をゆっくりとハジメの方に引き寄せられていく

 

「…自分を受け入れろ?

 

 そうすれば自分は言う事を聞いてやる?

 

 君は本当に傲慢だね…

 

 でも気に入ったよ、君に僕の力を分けてあげるよ」

 

「ん‥‥‥!」

 

すると、アレーティアの首元を掴みかかっている巨大な何かの

首元にくいこんでいる部分から何かが彼女の中に流れ込んでいる感覚をアレーティアは感じていた

 

「ああ、感じる‥‥‥

 

 ハジメの力が私の中に溶け込んで

 一つになっていく感覚が、私の全てがハジメに支配されて行く‥‥‥

 

 これが私の運命‥‥‥私の望み…‥もう私には

 何もいらない…‥‥‥私の全てはハジメのために‥‥‥」

 

「…運命とまで言いきるか、本当に面白いね君は…

 

 僕にすべてを預け、自分自身すら失った君は…いったい何を望むのかな?」

 

ハジメはもう一度、アレーティアに尋ねていく

 

「‥‥‥私とハジメの前に立ちふさがるもの…‥私に破滅の運命に陥れた

 この世界に破滅の運命を与える…‥‥‥それが私の何よりの望みだよハジメ‥‥‥」

 

アレーティアの言葉を聞いたハジメの表情は実に満足気であった

 

こうして、この世界にまた一人、新たなる罪科が生み出されたのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

ハジメはアレーティアを連れて、他の面々のもとに戻って来る

 

「‥‥随分と遅かったわね…

 

 それで、貴方が欲しかったものは手に入れられたの?」

 

ナギサが訪ねていくと、ハジメは笑みを浮かべて一同のもとにやってきた

 

「…うん、僕にとっては大満足だよ

 

 折角だし、みんなにも紹介しておくよ

 運命と破壊の罪徒、アレーティア・ガルd…」

 

「‥‥‥まって、ハジメ‥‥‥

 

 どうせだったら新しい名前を付けて‥‥‥

 

 あの時にも言ったけれど、私はあいつらが付けた

 その名前何てもう名乗りたくない、それだったら‥‥‥

 

 私の名前は、ハジメにつけて貰ったものがいい‥‥‥

 

 私の全てはハジメの物、だったら名前もハジメに決めてもらいたい‥‥‥」

 

「…僕に名付け親になってほしいという訳か‥‥‥

 

 本当に君は図々しいというか、ちゃっかりしているというか‥‥‥」

 

ハジメはそう言うが、表情は何処か満足気である

 

「…決めた、君の新しい名前…

 

 運命と天命、破滅と崩壊の罪徒

 

 リュナ・プレーヌ…

 

 

 今日から、そう名乗るといい…」

 

「‥‥リュナ・プレーヌ…

 

 満月を意味するフランス語からとったのね…

 

 月というのは確かに、彼女にあっているかもね」

 

ナギサはアレーティア改めてリュナの名前の由来に感心する

 

「それでは改めて歓迎しよう、リュナ…

 

 この世界にさらに新たな罪徒がここに誕生した…

 

 君がこうして僕とともに来てくれること、本当に感謝するよ…」

 

「感謝の言葉なんていらない、私はハジメにすべてを捧げると決めた‥‥

 

 寧ろ感謝をするのは私の方、私を受け入れてくれて本当にありがとう‥‥」

 

そう言って丁寧にお辞儀をしていくリュナ

 

「…それじゃあ…みんなのことを紹介していこう……」

 

そう言って彼とともにあるナギサ達九人の王たちを紹介していく

 

「それじゃあ、最後は貴方ですよ先生…」

 

「え~…

 

 ちょっと恥ずかしいけれど

 でもまあいいや、まあ別に問題ないだろうし…

 

 私の名前は…」

 

先生は自分の名前をリュナに紹介していくと

リュナは不思議とその名前に驚いた様子を見せる

 

「…まあ、あんまり気にしないでね…

 

 それに、私のことは気軽に先生って

 よんでくれればいいから、それじゃあ…

 

 これからよろしくね、リュナちゃん…」

 

「ん…これからよろしく…‥‥」

 

リュナはそう言ってスカートの裾をたくし上げ

頭を下げて上品に挨拶をする、育ちがいいのが見て取れる

 

「運命と天命、破滅と崩壊か‥

 

 よほどマスターはリュナに思い入れがあると見える‥」

 

そう言って前に出てきたのは、装束に身を包んだ

仮面をかぶって素顔を隠している、一人の人物であった

 

「‥‥リュカ…

 

 今回はその姿なのね…

 

 ひょっとしてこの子のことは

 貴方が引き受けてくれるのかしら?」

 

「儂でよろしいというのならもちろん引き受けましょう‥

 

 それではリュナ殿にはさっそく、貴方の持つ力がどのようなものかを

 知ったうえで、儂らの戦力に数えられるようにしなくてはなりません‥

 

 そうでなければ、前に生み出した

 あの少女のような悲しい者が生まれてしまいますからね‥」

 

リュカはそう言って、ハジメの方に提案をしていく

 

「…確かにね、真麻アイツはそもそも

 倒されるのを前提に生み出したからね…

 

 別にあのまま倒されたところでどうと言うことは無い…

 

 でも、リュナは違うさ、彼女はきっと僕やみんなの片腕になれる…

 

 彼女にはその素質がある、僕はそう信じているとも…」

 

「ん、ここにいる人たちにも負けるつもりはない!」

 

リュナはそう言って自信満々に言っていく

 

「へえ、随分と生意気な口を利くじゃないか…

 

 餓鬼のくせに随分と調子に乗っているね…」

 

「っ!?」

 

リュナは突然、リュカのいる方に突然

別の人物が現れたことに驚いた様子を見せる

 

リュナは普段の態度も忘れて、驚いた様子を見せていく

 

「‥‥だ、誰‥?」

 

「フン、お前さんはさっきまで目の前にいた奴の顔も覚えてられないのかい

 

 そんな程度の認識で、其れこそマスターや私達の役になんて立つのかい?」

 

無気味な雰囲気を漂わせつつリュナに顔を寄せていくその人物

 

「…ああ、そう言えばリュナは初めて経験するんだったね…

 

 虚飾と虚栄の大王

 

 リュナ…

 

 

 彼は複数で一つの存在

 たとえるならば一本の幹から

 伸びていく数本の枝のようなものだ…

 

 お前がさっきまで話していた仮面の男も

 今目の前にいる不気味な雰囲気の男も同じリュナだ…」

 

「え、えーっと‥‥それって、つまり‥?」

 

いまだに混乱の抜けないリュナ

 

すると

 

「…っ!

 

 皆さん、気を付けてください!!

 

 何かがこちらに来ます

 とっても活きが良い感じがしますよ?」

 

マリアが鼻をぴくぴくと動かしつつ

一同にそう呼びかけていく、すると突然

 

上の方から何やら巨大な魔物が現れる

巨大な鋏を携えた四本の腕に二本の鋭く

巨大な針を持ち合わせた蠍のような魔物である

 

「あれ?

 

 こんなやつ、今までここに居たっけ?

 

 ひょっとして、リュナちゃんを助け出されるくらいなら

 いっそのこととこいつで一気に、的な感じなのかな?」

 

先生がそんな分析をしていくと

 

「‥どうやらよっぽど‥‥

 

 私にいなくなってほしいってことだね

 あいつらめ、そこまでして私のことを!

 

 舐めるなああー!!!」

 

そう言ってリュナは右手を突き出して、何かをつかむような仕草をすると

 

「グリップ‥アンド‥‥

 

 ブレイクダウン!

 

リュナがそう言い放つと、自分達に襲いかからんとした巨大な蠍の魔物は

それこそ元の形が分からなくなってしまうほどに粉々に砕け散っていった

 

「おお…なかなかやりますね…

 

 さっきのがあの子の能力ですか…」

 

「‥‥ありとあらゆる者を破壊する力…

 

 確かにこれは‥‥恐ろしくも頼もしい力ね…」

 

サディとナギサが先程のリュナの能力を見て率直な感想を述べていく

 

「‥どんなもの」

 

キランとドヤ顔をきめていくリュナだが

そこにすかさず誰かから強力な一撃を額にもらう

 

それは

 

「‥まったく、一度能力を使えた程度で調子に乗るなんてね‥

 

 そんな風だから中途半端な結果を残してしまうんだよ‥」

 

「うう‥‥」

 

因みに犯人はリュカ、何をやったのかというとデコピンである

ただ相当強力だったようで、リュナの額と彼の指からは煙が上がっている

 

リュカが言う通り、蠍の魔物はリュナの能力でバラバラになったものの

息はまだ残っている、やるなら一撃で殺して見せろという意味を込めているのだろう

 

だが、体はボロボロなので最早虫の息と言ったところであろう

 

「それで、この蠍さんはどうしますか?

 

 もういっそここでとどめでも刺しておきましょうか?」

 

マリアはそう言って自分の武器を持っている手とは

反対の右手を掲げて、ハジメに許可を求めていった

 

「…はあ…好きにするといいよ……

 

 っていうか、どうせダメって言っても

 食べるんだから、そんないちいち僕に確認を

 とらないでもらえないかな、絶対にそれって無駄でしょ?」

 

「えへへへ…

 

 それでは遠慮なく…」

 

そう言ってマリアが右手を掲げると

その右手の親指の部分とほかの四つの指の部分が

バックリと別れて、さながら巨大な口の様に分かれていく

 

すると

 

「まて、マリアさん‥‥」

 

マヌエラがそう言ってマリアを止める

 

「どうしたんですか、マヌエラさん?」

 

「‥‥だて、せかくこして生きて居るんだもん

 このまま殺しちゃうのなんて、何だか可哀そだよ‥‥

 

 この蠍さんの事は、私に任せて貰ってもよいー?」

 

そう言ってマリアに頼み込む、マヌエラ

 

「…そこまで言うのならわかりましたよ…

 

 うう、ここに来るまでお腹が空かせてきたのに…」

 

「いや、ここに来るまでさんざん兎だの熊だの食べてきましたよね!?」

 

マヌエラに止められて、しょんぼりとした様子と

腹を鳴らして、シュンと落ち込んだ様子を見せていく

 

それに対してサディは苦笑いを浮かべてそうつぶやいたのであった

 

一方、マヌエラの方は損な様子を気にすることなく

虫の息となっている蠍の魔物の頭部の方に歩みよっていく

 

「‥‥蠍さん、痛いよね‥‥苦しよね‥‥

 

 ほんとに可哀そだね、私が貴方を救ってあげるー」

 

そう言って蠍の魔物の頭部をそっと両手で

優しく包み込むようにして掲げあげていく、すると

 

彼女の手袋に包み込まれた左手から何やら黒い

何かがその触れている左腕を中心に広がっていき

 

それが段々と蠍の体を包み込んでいき、やがて

頭部もほかのバラバラになった体のパーツもだんだんと包み込まれて行き

 

「これでずっといっしょだねー‥‥」

 

マヌエラのそんな無邪気な笑顔とともに蠍の魔物の肉体は

ひとかけらも残すところなく、マヌエラの広げた黒い何かに飲み込まれた

 

やがてその黒い何かはマヌエラの左手の形に戻って、収まるのだった

 

「い、今のって一体‥」

 

リュナはそれを見て、何やら身震いのようなものを覚え、訪ねる

 

「ああ、アレがマヌエラの能力や‥

 

 マヌエラは自分が愛したいって思った奴を

 ああして、自分の肉体として取り込むことが出来んねん‥

 

 そんで取り込まれた奴はマヌエラが死ぬまで

 あの子ん中で、永劫ともいえる時をあの子んなかで過ごす‥

 

 ホンマ、ひどく残酷なもんやで、永遠にあの子と一つなって生きて居くんは‥」

 

すると、またも姿と口調が変わって、今度は

何処か子供のような印象を抱かせる明るい雰囲気の人物になっているリュカ

 

すると

 

「ひどくなんてないよー

 

 これはむしろ愛だよ

 だて私が私の中でずとずと

 愛し続けてあげるんだからー」

 

マヌエラがプンプンと頬を膨らませ、リュカに抗議をしてくる

 

「愛ねえ‥

 

 とてもじゃないけれども

 僕にはそれが愛とは思えへんな

 

 そもそも僕らは別に誰かを愛すんのも

 愛されたいって思たこともないからの‥」

 

「むう‥‥

 

 それだったら、私が愛を知らない

 悲しいリュカさんに、愛を教えてあげるよ‥‥」

 

そう言って手袋に包まれた左手を向けていくマヌエラ

 

「やるっちゅうんやったら‥

 

 手加減はせえへんぞ‥」

 

そう言って身構えていくリュカ

 

色欲と肉欲の皇帝と虚飾と見栄の大王の一触即発が起こらんと

その辺りに周りが思わず逃げ出してしまいそうな威圧感がひしめき合って行く

 

「‥な、なにこれ‥‥

 

 ただにらみ合っているだけなのに

 こんなにも近づくのをためらうなんて‥‥

 

 これが‥王と呼ばれる者たちの力‥‥」

 

リュナは思わず、近づくのをためらってしまうが

このままではこの辺りが大いに崩壊をひきおこしてしまう

 

そんなひきおこされんと互いの武器を抜かんと構えた底に

 

いい加減にしろ!

 

『「っ!?」』

 

ハジメのその一喝によって

その一触即発の事態は防がれた

 

「…せっかく僕たちのもとに新たな同士が加わっためでたいこの時に

 なにをもめているんだよ、特にリュカ、これから君と彼女にリュナを

 任せることになるのに、みっともないことをするんじゃないよ…」

 

「‥ふえ?

 

 リュナを任せるってそれってつまり、僕が

 この御嬢ちゃんのお目付け役をやるってことかいな?」

 

リュカは不満な様子を隠すつもりは無いようであり

ハジメに恐る恐る聞いていくと、ハジメは答えていく

 

「そうだ、彼女の力は強力ではあるがさっき君が言ったように

 その力を完全に扱いきれているわけじゃない、その力の使い方を

 しっかり学んでおくべきだ、だからリュカ、リュナの教育はよろしく頼むよ」

 

「はあ!?

 

 そりゃねえだろマスター!

 

 何で俺が、こんな餓鬼に指導なんて!!」

 

すると、またも姿が変わり今度は

何処か動物的というか本能的な印象の男性に変わる

 

「あの子の力は君達姉弟のそれと同じものだ…

 

 だったら君ほど彼女の力に合う者はいないだろう」

 

「そ、それだったら姉貴にやらせれば‥」

 

リュナがそこまで言うと、彼の体をなにやら真っ黒い

何かが張っていき、彼の頬にその先だ勢いよく届いていく

 

リュナは其れを見て、恐る恐る振り向くと

 

‥‥

 

そこには彼の事を虫けらを見詰める様な目で睨みつける

傲慢と高慢の皇帝がぎろりと睨みつけ、有無を言わさぬ雰囲気を漂わせていた

 

「‥わ、分かった‥やる、やるから

 早くこれをほどいてくれよ、姉貴‥

 

 もう文句も不満も言わねえから、さ‥」

 

「‥‥」

 

それを聞いて、リュカをゆっくりと解放していく傲慢と高慢の皇帝

 

「…どっちにしろその力を使いこなすには

 その力の大元を知っている人から直接学んだほうがいい…

 

 ちょっとした運試しだと思ってうけてみるといいさ…

 

 その方がむしろ、リュナにとってもいい刺激になるだろうしね」

 

「ん‥わかった‥‥」

 

ハジメに進められて、リュナは特に不満を口にすることなく了承する

 

「フフフ、リュナさんの方が大人ですね」

 

「やかましい」

 

サディにそう言われて、すっかり罰を悪くしたリュカであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

オルクス大迷宮においてハジメたちは

アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタール

 

改め

 

運命と天命、破滅と崩壊の罪徒

 

リュナ・プレーヌ

 

 

彼女を新たに率いれ、新たな体制で望むことになる

 

「はああー!!!」

 

リュナが武器である槍を手にもって

本能的な雰囲気で動物のようにもおもえるリュカに挑む

 

「フン!」

 

すると、リュカは武器である大鎌を振るい

それで、リュナの一撃を止めて見せていく

 

「今度こそ‥勝つ!」

 

「‥フン、粋がっているところ悪いが今回も俺の勝ちだな!」

 

そう言って鎌から伸びている紐状の鎖が

リュナの横を通り過ぎる様に伸びていることに気が付く

 

だが、リュナはそれに素早く気が付いていたので

自分の方に向かって振るわれて行く鎖の先の刃をどうにか交わす

 

「‥フン、流石にそう何度もやられてはくれねえか‥」

 

「‥もちろん、私だってハジメに選ばれてこの力をもらったんだもの

 

 いつまでも貴方にやられっぱなしだと、ハジメに顔向けができない‥‥

 

 私は運命と天命を司る罪徒、故に運命は私の力でつかみ取って見せる!」

 

そう言って一撃を与えんと武器である槍をリュカに向けて振るって行き

彼に今度こそ一撃を加えんとして、とびかかっていったのであった、のだが

 

「っ!?]

 

リュナの体を突然、何やら長いものが巻き付けていき

それによって身動きが取れない状態に陥ってしまった

 

「‥まあ、詰めが甘いのは相変わらずだな‥

 

 これで十勝十敗か?」

 

「‥うぬぬ‥‥

 

 リュカはずるい、私にはリュカのような

 盾にもなる翼も武器のようにしなる尾も持っていない‥‥

 

 フェアにその二つを使わなければ私は絶対に勝てる‥‥!」

 

そう言って不満を口にするリュナだが、そのさい不意に横の方から声が上がる

 

「え?

 

 リュナちゃん、知らない~?

 

 リュナちゃんも罪徒にかくせした時に

 翼と尾をもってるはずだよ、ひょとしてリュカさん‥‥

 

 教えてないー?」

 

マヌエラにそう言われると

リュカは何やらごまかす様に眼をそらしていく

 

リュナは其れを見て、ジト目で彼を睨む

 

「‥マヌエラ、翼と尾の事教えてほしい‥‥

 

 それで、あいつの寝首を掻っ切ってやる‥‥」

 

「いよー!

 

 リュナちゃんが強くなてくれるのは

 私にとても、マスタにとっても嬉しいからねー」

 

そう言ってリュナはマヌエラに翼と尾の出し方の

練習の方に付き合ってもらう様にお願いし了承された

 

ついでに、覚悟する様にとリュカを睨みつけてもいた

 

そんな様子をある建物の中から見ているハジメ

そのハジメのもとに一人の人物が歩み寄ってきた

 

「‥‥ハジメ君、リュナの調子はどう?」

 

そう言って訪ねてきたのは

 

憤怒と激情の皇帝

 

ナギサ

 

 

旧名、東雲 渚沙

 

 

彼女であった

 

「…いい感じだよ、属性に関しては

 元々の適正がいいものだからね、後は…

 

 罪徒の力をある程度扱うことが出来る様になれば

 戦力としては申し分ないくらいにはなるだろうさ…」

 

「‥‥それで、出発はいつにするの?」

 

ナギサは不意にハジメに聞いていく

 

「…リュナの修行が終わり次第

 すぐにでも出発する、他の奴にも

 そう伝えておけ、ところで先生はどうした?」

 

「‥‥なんでも調べ物がしたいからって

 この屋敷の中を調べて回っているわ…

 

 リュナの修行が終わるまでには終わらせるとも

 言っていたけれども、あの調子だとまだまだ終わらなそうよ…

 

 本当に大丈夫かしら…」

 

ナギサはややあきれた様子でため息を付いていくが

 

「…いいじゃないかそれでも

 その分、リュナの修行に割く時間を

 確保できると考えれば、むしろちょうどいいだろう…

 

 僕の方も、あれから地上の様子を見ていたけれど

 クズ共がまたしてもこの迷宮に入り込んできたことを除いて

 

 とくに変わった変化はないよ、あいつらの方も分裂したみたいだしな…」

 

そう言って怒りをにじませるように目を細めて上の方を見上げていくハジメ

 

「…それにしても、この迷宮の最深部には

 こんなにも大層な屋敷があるとはね、リュナから

 このオルクス大迷宮を生み出したのは嘗てこの世界を

 破滅に導こうとしたもの達、反逆者の手によって生み出されたと聞いてたけど…」

 

「‥‥それに、この屋敷にあったその反逆者の一人…

 

 オスカー・オルクスの言っていたことも驚きね…

 

 何でもこの世界は、この世界の人類が侵攻している

 エヒトが自分の京楽のために戦争をひきおこしたという話…

 

 もしそうだとしたら、私達がここに召喚されてきた理由って…」

 

ナギサがそこまで言うとハジメは

ゆっくりと座っていた椅子から起き上がっていく

 

「…もし事実であろうとも関係はない…

 

 僕たちはこのトータスを叩き潰し

 それと同時にあの世界もまた叩き潰す…

 

 僕達には、それを成し遂げられる力があるのだから!」

 

そう言って部屋を出ていハジメはそこからある場所に向かって行く

 

「‥‥しかし、気掛かりなのは

 罪徒を倒したっていう南野さんのあの力ね…

 

 どうしてあのラルヴァ空間の中で力を

 発揮することが出来たのかしら、もしかしたら…

 

 私たちにとってもこれは、脅威になり得るんじゃないかしら…」

 

ナギサがそう言って自分達がおとりとして

生み出した罪徒を倒した姫奈の力をどうするのかを聞いていくが

 

「…小石が転がっていたところで

 皮をせき止めることなんて無理だよ…

 

 確かに目を見張るものではあるが、現状でその力を

 持っているのは南野 姫奈ただ一人なんだし、それとも?

 

 君は僕があいつらに負けるとでも思っているの?

 

ハジメが最後の言葉をつぶやいたときに、空気が揺れたのを感じ

ナギサは慌ててそ、そんなことは無いわよと慌てて返していった

 

「…まあ、こっちもこっちで

 仕込みの方はしっかりとしておくさ…

 

 僕は必ず、この力ですべてをつかみ取ってやるさ…

 

 すべてを手に入れるために…すべてを滅ぼす…そのために…」

 

「‥‥すべてを手に入れるために…すべてを滅ぼす‥‥…

 

 どんなことがあろうとも、私たちの進む道は一緒…

 

 私達はもう、後戻りという選択肢はないのだから…」

 

そう言ってある部屋の扉を開いていくとその奥の方に目をやっていく

 

「…ホント…

 

 この力を手にしてから笑う事ばっかりだよ…

 

 ねえ、みんな…」

 

ハジメはほくそ笑みながらそうつぶやくのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

ライセン大峡谷

 

そこでは、何やら一隻の馬車が走っていた

 

その馬車にはある国の兵士ともいえる

数人の男性が乗っており、何やら機嫌がよさそうにしていた

 

「しっかし、今回は運が良かったな!

 

 大量の兎人族を捕まえることが出来るなんてなあ

 

 まあ、随分と抵抗されて残ったのはほんの数体になっちまったが…」

 

「それにしても、まさか兎人族がこんなにも大量に

 見つけられるなんて、ひょっとしてあんまりにも弱くて

 

 他の亜人たちから、見捨てられたってわけじゃねえよな?」

 

「まあ、ありうるかもな

 

 兎人族は魔力の使えない亜人族の中でも

 同じ亜人族たちからも蔑まされる脆弱なやつらだからな

 

 まあ、その分慰み者としては十分すぎるくらいにはいいけどな

 

 それにしても…」

 

帝国の兵士は大量にとらえている、兎人族の中でも

一人だけ髪色の違う、兎人族の少女の方に目を向けていく

 

「白銀の兎人族族なんてのは本当に珍しい…

 

 本国に持ち帰ればきっとこれはいい手見上げになるだろうよ」

 

「ねえ、隊長!

 

 本国に戻る前に何人かで楽しんでもいいですかね」

 

兵士の一人が、下衆な笑みを浮かべて聞いてくる

 

「ダメだ、さっきも言ったがあれは国への献上品だ

 傷一つでもつけちまったらそれこそ俺もお前等も殺されちまう…

 

 まあ、どうせ本国までには時間はかかるし少しぐらいだったら構わねえぞ」

 

隊長のその言葉に帝国兵たちは喜びの声をあげていく

 

それを力のない表情を浮べた少女はそっと瞳を閉じていく

思い浮かぶのは人にはない自分のことを優しく背中を押してくれた母

 

母が亡くなった後に自分のことを懸命に育ててくれた父や

自分のことを温かく受け入れてくれた一族のみんなと過ごした日々

 

彼女の回りには常に幸せに包まれていた

 

あの時が来るまでは

 

その時に思い浮かんだのは、自分達を追い出した奴らの事

 

自分を陥れた者たちの事であった

 

「‥許せない‥‥あいつらも‥‥‥

 

 此処にいる奴らも‥絶対に‥‥

 

 許さない‥‥」

 

白銀の髪の兎人族の少女は

内に秘める憎悪を滾らせていった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 


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