世界に愛された元徳者と世界を憎みし原罪者 ー世界を憎みし少年とその少年より生まれし九つの罪の王と罪徒となった少女達・世界に愛された少女達と聖徒に選ばれし少女達ー   作:OOSPH

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felix lepus Wach auf zu den Wellen des Wahnsinns

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

私はなぜか力があった

 

でもその力は本来ならば目覚めることのない力

 

私は力を持たずに生まれてくる亜人族の中で例を見ない

 

力をもって生まれた存在

 

更には本来ならば魔物にしか目覚めない固有魔法矢

魔力操作をもって生まれた私、本来だったらその場で

殺されるはずだった、でも母様はそんな私のことを励ましてくれた

 

ー人にない力を持って生まれた貴方には必ず

 何か成し遂げなければならない役目がある

 

 だから、自分に力があることを誇りなさい

 

 その力を自分が正しいと思ったことに使いなさい

 そうすればいつかあなたのことを認めてくれる人に出会えるわー

 

私は幼いながらもその言葉を私はしっかりと受け止めました

 

やがて私が十歳になり、母様がなくなったものの

父様や一族の皆さんが私のことを真剣に愛してくれ

 

私は母様を失った悲しみから逃れることもでき

同時に、私はお母様の力は自分が正しいと思った事のために

使うという、母様のその言葉をしっかり心に刻み、私はしっかりと

これからを生きていくようにと決意しました、それから今より少し前に至る

 

私はある日、樹海の魔物に襲われている他の亜人族の女の子を見つけました

 

その女の子を助けるために私は私の持っている能力を使いました

 

さすがに魔物から逃げるのが精一杯でしたが

それでもその女の子を援けることが出来ました

 

私は母様の言いつけ通り、私はこの力を自分が正しいと

思ったことに使った、祖の力を誰かのために使えばいつかは

私のこの力も受け入れられるのだと、私は信じていました

 

でも‥私はそのすぐ後に‥‥自分の行ったことに対して‥‥‥

 

後悔することになるなんて‥思ってもみませんでした‥‥

 

‥‥‥‥‥

 

「ふんふふーん‥‥」

 

鼻歌交じりで何かの準備をしている男性は

 

カム・ハウリア

 

 

兎人族の部族の一つであるハウリア族

その族長にして、シアの父親でもある

 

「族長、嬉しそうですね」

 

「フフ、分かるか?

 

 何といってももうすぐシアの生まれた日だ

 

 妻を亡くしてしまった私にとって

 たった一人の大切な娘だからな、お祝いをしてやりたいんだ‥‥」

 

「そっか、良かったら私たちにもお手伝いをさせてもらえませんか?

 

 あの子には前に助けてもらったからね

 恩返しって言うほどでもないかもだけど

 私もシアちゃんのことをお祝いしてあげたいし」

 

「あ、よろしかったら僕たちも一緒に‥‥

 

 シアちゃんにはうちの子達にいっつも遊んでいって貰ってますから‥‥」

 

「「「「僕達もシアお姉ちゃん、お祝いする!」」」」

 

そう言ってハウリア族の者達全員が

シアの生まれた日をお祝いしようと挙手する

 

「‥みんな、ありがとうな

 

 ようし、そろそろシアが戻って来るはずだ

 それまでにみんなで祝いの準備を終わらせよう」

 

『『『『『はい!』』』』』

 

ハウリア族の温かさを見て改めてカムは

本当にうちの娘は幸せ者だなと感慨深く感じていた

 

そんな幸せ者の娘である、カムの娘

 

シア・ハウリア

 

 

彼女は父親に頼まれて薬草や山菜取りに出かけている

まあそれは口実で、父親から娘へのサプライズのための準備のためであるが

 

シアはそんな事とはつゆ知らずにしっかりと父親からの頼まれごとをこなしていた

 

「‥ようし‥‥

 

 これだけ集まれば十分ですかね‥‥

 

 今日も十分すぎるくらいに集まりましたから

 これで、今年の冬も十分に越せますね、そうだ!

 

 せっかくですから、他の皆さんにもおすそ分けしましょう!!

 

 何せこんなにあるんですからね、きっとみんな喜びますよ~」

 

シア・ハウリア

 

 

ハウリア族の族長、カムの娘で

亜人族でありながら魔力を持ち、さらに

魔物しか持たないとされている魔力操作に固有魔法をもって生まれた

 

本来ならば忌み子として粛清されるはずであった彼女だが

心優しい両親や一族のみんなの温かさを受けて、優しい少女にそだった

 

だが、彼女は不意に何かを察知した

 

「っ!?

 

 みんな!?」

 

そう言って急いでハウリアの集落に戻っていくシア

そこには、めちゃくちゃにされた集落と縛り上げられている一族の者達がいた

 

「父様、みんな!?」

 

それを見て思わず声をあげていくシア

 

「シア!?」

 

それに気が付いたカムは驚いた様子でシアの方を見る

 

すると

 

「貴様か、亜人族でありながら魔力を持った生まれた娘は!」

 

そう言うのは虎のような尻尾と耳を持った者達

 

「な、何なんですか‥‥!?

 

 どうしてこんな‥‥」

 

「黙れ、兎人族風情が!

 

 お前たちは犯してはならぬ罪を犯したのだ

 こやつは亜人族でありながら魔力を持って生まれた忌み子!!

 

 さらには、本来ならば魔物が持つ

 魔力操作と固有魔法を持っているというではないか!!!

 

 このような存在がなぜ、ここに存在している!!!!」

 

ハウリア族の者たちがそう聞いてくると

その者達によって一喝されて無理矢理、黙らせられる

 

「ど、どういう事なんですか‥‥?

 

 そもそも何で、私の力のことを‥‥?

 

 私、お父様やみんな以外には

 誰にも話していないはずなのに‥‥」

 

シアは後ずさりしながら、不意にそんな疑問を浮かべていく

 

シアは父親から、自分の力のことは自分の一族の物以外には

話さないようにと言いつけられて、しっかりとその言いつけを守っていた

 

だから、そんな簡単に自分の能力のことが表に出ることは無いと踏んでいたのに

 

「フン、これから死ぬ貴様がそれを知る必要はない!」

 

「‥死ぬ‥‥どういうことですか!?」

 

虎人族の放った言葉にカムは不意に聞いていく

 

「当然だ、忌み子は即刻処刑

 

 それを隠し続けてきた貴様らもまた処刑

 

 当然の事だろうが!」

 

「待って下さい!

 

 いくら何でも、この子は確かに

 魔力を持って生まれましたが、だからと言って

 その力を悪用しているわけでも無いのです、それなのに

 

 有無を言わさずに処刑だなんて、そんなのはいくら何でも!!」

 

カムは必死に弁明を図るのだが

 

「黙れ、ひ弱な兎人族風情が口出しをするな!」

 

「がはっ!」

 

顔面を思いっきり殴られて、その場に倒れこんでしまうカム

 

「父様!」

 

慌てて、殴り倒されたカムのもとに駈け寄っていくシア

しかし、そこから有無を言わさずにシアとカムはもちろん

ハウリア族全員が次々と捕らえられていき、そのまま無理矢理立たされていく

 

「こっちにこい、これより貴様らを裁判にかける!

 

 本来だったらこの娘も貴様らもこの場で全員処刑に処すところだが

 我々の独断で其れをきめるわけにも行かん、よってこれより長老衆のもとに連行し

 

 厳正な裁判の元、貴様らに厳しき沙汰を下してやる!」

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

その後、シアを初めとしたハウリア族の者たちは

全員が尋問にかけられ、それぞれが亜人の国の長である

長老衆の六人の者たちに判決の時を言い渡されるときとなる

 

カムも他のハウリア族たちの者達も必死に弁明するが

魔力を持つ亜人は忌み子である、その常識を覆すには至らなかった

 

おまけにハウリア族を含む兎人族は亜人族の中でもひ弱もひ弱

 

ただでさえ人々から蔑まれている亜人族の中でも

同じ亜人族からも蔑まれている、そんなもの達の言葉など

弱者の妄言と切り捨てている者たちが大半である、最初っから

ハウリア族にとって不利な状況でしかなかった、シアはその中でそう感じていた

 

どうして自分には力があるのに、どうして自分はこんなにも弱いのだろう‥‥

 

シアには他の亜人族にはない、魔力がある

そして母の言いつけ通り、その力を誰かのために使ってきた

 

自分の中では正しいと思えることに使ってきたはずだ

そうすればいつか自分のことを認めてくれる人に出会えるんだと

 

しかし、現実はどうだ

 

今、父親たちハウリア族は自分のことをかくまったせいで

こうして他の亜人たちからひどく責め立てられてしまっている

 

自分の力を誰かのために使えば、いつか自分の事を認めてくれる人が

現れるんじゃないの、みとめられるどころか私も周りの人もこんなにも責められている

 

どうして、兎人族だからってこんな仕打ちを受けないといけないの

どうして弱いからって、こんなにもひどく虐げられないといけないの

 

そんな私の問いに答えてくれる者は、ここにはいない

 

それを言ったところで、この場に居るもの全員が喜宇だと聞き流すだろう

 

弱者のに手を差し伸べてくれる強者何て‥そうそうこの中には‥‥

 

シアはやがて、希望の光を失わんとしていた

 

「…‥‥では、これより

 シア・ハウリアお呼びハウリア族の処遇について言い渡す…‥

 

 シア・ハウリア及びハウリア族全員を、国外追放とする」

 

長老衆の長である森人族

 

アルフレリック・ハイビスト

 

 

彼の声が静かに響いた

ハウリア族たちの処遇がここで決定づけられてしまった瞬間であった

 

唯一の救いは、本来だったら処刑になるはずだった

シアの命もまた、奪われることがなかったという点であろうか

 

しかし、シアの心はこれで晴れることは無かった

 

のこったのはどうして自分達がこんな目に合うのかという疑問と

自分達が弱いからという理由で蔑み、好き勝手に弄んだ他の種族への憎しみで会った

 

‥‥‥‥‥

 

「‥‥‥」

 

シアの心は、何処から晴れない様子であり

そのまま通報されるその時まである場所に隔離されることになった

 

他のハウリア族からも引き離される形で閉じ込められ

そこでも同じようにどうしてと言った疑問を持ち続けていた

 

すると、自分のもとに歩いてくる一つの足音が聞こえてくる

 

そうして、シアの目に移るその人物には見覚えがあった

その人物はかつて、自分が魔物に襲われそうになっていたところを援けた

 

虎人族の女の子であった

 

「貴方は‥あの時の‥‥!?」

 

それを見て、驚いた様子を見せるシア

どうしてわざわざここまで、もしかして

自分のことを心配してきてくれたのかなどと考えていたが

 

その目の前の彼女の言葉を聞いて、まったくもって違う事を思い知らされた

 

「フン、いい気味ね

 

 あんたみたいな奴なんてその姿がお似合いよ」

 

その少女はシアを嘲るように言い放つ

 

「い、一体何を言って‥‥」

 

「そのまんまの意味よ、アー本当に気分が晴れるわ

 

 人間どもにいいように扱われ続けて神経をすり減らし続けていくから

 はっきり言ってストレスがたまってたのよね、オマケに私たちの方でも

 いつ帝国や魔人族の奴らに襲われるかたまったもんじゃないからほんっとに

 ピリピリしててさ、だからさ~、ちょっとした気分転換が必要になって来るのよ

 

 こうやってあんた達兎人族が虐げられている時だけ本当に何もかも忘れられる

 

 帝国の事も魔人族の事も、それで毎日のように虐待じみた両親からの鍛錬の事もね…」

 

そう言ってすがすがしそうに言い放っていく少女

そこにはシアや他のハウリア族への思いやりなど微塵もない

 

そこにあるのは自分よりも弱い奴を虐げていく事への愉悦と喜びであった

 

「そんな‥そんなのいくら何でも!」

 

「ひどいとでも言うつもり?

 

 言っとくけど私だけじゃないわ

 あんた達以外の亜人族の奴もみんなそうよ!

 

 それに、あの長老衆の爺たちだってそうよ!!」

 

少女は嘲笑う様に言葉を続けていく

 

「そもそも、おかしいと思わなかったの?

 

 あんなにもあんたのことを処刑だのなんだの言ってた

 亜人の奴らが何であんた達の査定の時に何もさわがなかったのか?

 

 とくにあんたの処刑を望んでいた熊人族や虎人族がどうして騒ぎ立てなかったのか?

 

 それはね…

 

 あんた達を帝国や魔人族へ捧げて、自分達の種族の身の安全を守らせるためよ!

 

「っ!?」

 

少女の告白にシアは驚いた様子を見せる

 

すなわち、あの時自分達をあの場で処刑にさせなかったのは

慈悲からくるものではない、ただ殺すよりも最も残忍な選択を彼らは取ったのだ

 

それを聞いてシアは、涙が止まらなかった

これから自分や自分達の待っている地獄のことを思い浮かべて

 

「何を泣いているのよ

 

 寧ろこれは誇らしいことなのよ?

 

 自分達の国のために、その命を捧げられるんだから…

 

 ああ、どうせこれで最後になるから言っておくわね、長老たちに

 あんたの力のことを話したのも、あんたたち一族の居場所を伝えたのも…

 

 わ・た・し・よ」

 

「っ!?」

 

更に残酷な告白にシアは更に絶望に叩き込まれて行く

どうして、仮にも危ないところを助けた自分のことを、なぜ

 

「何でって顔してるわね?

 

 その答えは至極単純…

 

 むかついたからよ」

 

「‥むかついた‥‥?」

 

「…だってさ、あんたみたいな弱小種族に

 命の危機を助けたれたなんて、そんなの一生の恥よ

 

 そんなの私の生涯で一番の汚点よ…

 

 そんなのさらされるくらいだったら、あんたにはどっちにしても

 死んでもらうっていう形で、あんたには墓場まで持っていって貰うわ

 

 それじゃあ、永遠に…さ・よ・う・な・ら…

 

 あーっはっはっはっ!!!」

 

絶望に打ちひしがれるシアを嘲わらう虎人族の少女

 

シアの中で、何かがひび割れていくような感覚に見舞われていた

 

シアの心の支えであった母の言葉

 

人と違う力を持っていても、それを

正しいことに使えばいつか認めてくれる

 

それが、ただの理想でしかなかったことを思い知らされて行った瞬間であった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

やがて、長老会の決定通り

シアは勿論、ハウリア族全員の

 

フェアベルゲンからの永久追放が執行され

 

彼等は樹海の外に連れ出されて行く

虎人族た熊人族の者たちからは不満そうな視線だったが

 

樹海の外から連れ出された後

あとは好きにしろといわんばかりにその場に放り出された

 

「‥すまない、シア‥‥

 

 私たちの力が及ばないばかりに

 このようなことになってしまって‥‥」

 

「‥お父様や皆さんは悪くないですよ‥‥

 

 悪いのは私です、私がこんな力をもっていたから‥‥

 

 私みたいな子が生まれてなんて来なければ

 少なくともみんなは、追い出されることなんてなかったのに‥‥」

 

シアの声にはどこか覇気がない

 

自分のせいで一族全員が糾弾され

更にはその発端が、自分の軽率な行動が原因なのだと

 

追放される先日に、思い知らされてしまったのだから

 

そんなシアの方を優しく叩くのは父であるカムであった

 

「‥大丈夫だ、もうここには

 お前やお前の力のことを悪く言うものはいない‥‥

 

 此処から新たに、一歩を踏み出していけばいいんだ

 

 忌み子であるとか、そんなものは関係ない

 私たちだけの道を共に作っていこう、シア‥‥」

 

カムの精一杯の励ましを聞いて、頼もしいのと

本当に申し訳ない気持ちが織り交じって涙が流れてくる

 

こうして、追放を受けて新たな一歩を

歩みだしていく事をきめるハウリア族

 

しかし、そんな彼らに待ち受けるものは

 

絶望、ただその言葉のみであった

 

フェアベルゲンを追い出されてしばらくしたのち

どうにかして身を隠しながら移動を始めていた一族

 

しかし、一族が恐れている事態が引き起こされてしまう

 

亜人狩りを行っていた帝国兵に見つかってしまい

その襲撃によって一族の大半が捕らえれて行ってしまう

 

どうにかして、魔力が分解されて行くライセン大峡谷に向かおうとするが

その道中で、シアの父、カムの体力が限界を迎えてしまいとうとう足をくじいてしまう

 

「っ!?

 

 父様!」

 

慌てて倒れた父のもとに駈け寄っていくシア

 

「シア‥お前だけでも逃げろ‥‥」

 

「そんな、嫌です!

 

 母様がなくなったうえに父様まで

 いなくなってしまったら、私は‥私は‥‥」

 

カムに行くように勧められながらも

シアは唯一の肉親であるカムに寄り添って行く

 

「頼むシア‥お前だけでも生き残ってくれ‥‥

 

 母さんや‥私の分まで、強く生きてほしい‥‥

 

 だから‥逃げてくれ‥‥早く‥‥‥」

 

「諦めないでくださいよ、諦めずに前に進もうって言ったのは父様ですよ‥‥

 

 私がどうにか、支えますから急いで‥っ!?」

 

シアの未来視が発動し、カムの身に起こることが見える

 

「お父様、お父様早く!」

 

「シア‥すまない‥‥

 

 先立つ私を‥どうか許してくれ‥‥」

 

そう言ってシアをつき飛ばすカム

 

その後、シアの目の前に移ったのは

無情にもカムに降り注ぐ、魔法の嵐であった

 

「父様‥‥」

 

そこに映ったのは動かなくなったカムと

下卑た表情で自分を見詰める、帝国兵の者たちであった

 

父様ああ!!!!

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

いやああ!!!!

 

シアの叫びが馬車の中で響いていく

その目の前に移ったのはシンと静まり返った馬車の中

 

外を見てみると、そこにはぱちぱちと燃えている焚き火と

相当羽目を外したのか、眠りについている帝国兵たちと力なく

ぐったりとその近くで衣服をはだけて倒れている同じ一族の女性達

 

「があ‥ぐう‥‥!」

 

檻に閉じ込められているせいで逃げ出すことはできず

その場に頭を抑えながら倒れこんでいくシアは恐怖のあまりにに息を切らす

 

その中で不意にシアはどうして自分がこんな目にあったのかをおもい返していた

 

他の亜人たちは私が生まれてきたのが悪いのだといった

自分だって望んで力をもって生まれてきたわけではないというのに

 

帝国兵は自分達のことをただの慰み者の奴隷だとしか思っていない

 

此処にいる仲間の半分は自分と同じように捕まった

もう半分は、自分や父親を置いて一目散に峡谷内に逃げ込んだ

 

誰もが自分を陥れ、自分を卑下し、見捨てた

 

シアは憎んだ、自分を陥れた他の亜人族を

自分やここにつかまっている仲間たちを虐げる帝国の者達を

自分体を置いて、さっさと逃げだしていったかつての仲間たちを

 

しかし、彼女がその三つの対象よりも憎んだのは、自分自身

 

力があるのに結局大切なものを守れなかった、弱い自分

 

首輪の力に耐え切れずに息を切らしながらもシアは渇望する

 

力が‥ほしい‥‥

 

無駄だと分かっていても、分かっていなくても

シアはそれを望まずにはいられなかった、彼女は力を求めるように

 

空に向かって手を伸ばしていくのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

ライセン大峡谷

 

そこに十二の影が歩いていた

 

「…ついに出られたね…

 

 まあ、この力を持った今の僕なら

 このぐらいは楽なものだよ、そうだよね?」

 

そう言って自分のもとについてきている面々の方を見ていくが

その内の二人の人物の間から、どこか微妙な空気が流れているのが分かる

 

「‥」

 

虚栄の大王

 

リュカ

 

 

「‥フフ‥‥」

 

運命と破壊の罪徒

 

旧名;アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタール

 

新名;リュナ・プレーヌ

 

 

この二人である

 

「‥‥はあ、あんた達ね…

 

 リュカ、一撃貰われたからって

 いつまでも拗ねてるんじゃないわよ…

 

 リュナも、いくら自分の力が上手く

 扱えるようになったからって、あんまり調子に乗らないの…」

 

憤情の皇帝

 

旧名;東雲 渚沙

 

改名;ナギサ

 

 

彼女は呆れたように二人にそう声をかけていく

 

「フン、別に拗ねてなんかいねえよ

 

 寧ろこれでクソガキのお守りをしなくていいと

 思ったら済々するぜ、一撃貰われた程度でどうこう言うかよ」

 

「せやせや‥

 

 僕から言わしたらこんなかわええ女の子が

 いっしょに来てくれるんやったら、大歓迎や

 

 これからよろしくのう、リュナちゃん」

 

そう言ってどこか子供のような雰囲気を持っている少年の姿のリュカが

リュナの肩をなれなれしく組んでいく、リュナは其れをうっとおしそうに払って行く

 

「触らないで‥‥

 

 私に触っていいのは

 ハジメだけ、いくら貴方達が

 ハジメから生まれた存在であろうとも、ね‥‥」

 

「フン、随分と大きな口を叩くじゃないか‥

 

 まあ精々私たちの足を引っ張らないようにするんだね‥」

 

そう言ってユエの後ろの方から

不気味な雰囲気を漂わせた槍を持った青年姿のリュカが気だるそうに言う

 

それを聞いて、リュナも不快そうに見ていく

 

「あーららら…

 

 随分と嫌われちゃったみたいだね、あたし達…」

 

「へ、おいらは何でもいいぜ

 

 思いっきり、戦えるんだったらな!」

 

「…」

 

それを見ていた他の者たちもそれぞれの反応を示していく

 

「ところで、私たちいつまで歩かされてるのー?

 

 さきから映てるの岩とかそんなのばかりだよー」

 

飽き飽きした様子で駄々をこね始めるのは

 

色欲と肉欲の皇帝

 

マヌエラ

 

 

彼女は不意に聞いていく

 

「しょうがないですよ

 

 見たところこの峡谷は

 なかなかの広さの様に見受けられますから…

 

 あっちこっちから、魔物の気配を感じますが

 こっちに襲い掛かる気配すらも感じませんしね…」

 

どうしてでしょうかと、首を傾げていく少女は

 

暴食と大食の皇帝

 

マリア

 

 

「…そう言えば個々にも魔物がいるんだったね…」

 

「そうだね、噂によるとこの大峡谷にも

 オルクス大迷宮と同様に、反逆者の残した迷宮が

 存在しているとされている、ただそのオルクス大迷宮や

 グリューエン火山、ハルツィナ樹海のそれと違って確信はないけどね…

 

 まあ、同じく噂程度だったシュネー雪原の方は確信が出たからね…」

 

そう言って説明気味に教えていくのは

ハジメを原罪者として覚醒させた張本人

 

先生‥‥‥‥‥‥‥‥‥

 

 

名前はまだ、分からない

 

「‥‥と言う事は、ここのどこかに

 オルクス大迷宮と同様、迷宮があると言う事ね…

 

 それでどうするのハジメ、貴方ならもう場所はわかっているでしょ?」

 

そう言ってハジメに聞いてくるナギサ

 

「…もちろんだよ、でも行かないよ

 

 別に興味もないし、行ったところで

 無駄な時間を取ることに鳴るだけだしね…

 

 それよりも、この先で気になる物を見つけたんだ」

 

「気になる物ですか‥…

 

 貴方が言うのなら確かでしょうが‥…

 

 それよりか、少し休みませんか‥…

 

 いい加減こっちも体力が限界になってきていまして‥…」

 

そう言って音を上げるのは

 

憂鬱と嫌気の大王

 

ノルベルト

 

 

彼はそろそろ休憩を提案していく

 

「何だよだらしねえな

 

 この大峡谷に来てから

 まだ、そんなに歩いてなんて居ねえぞ」

 

「‥…君はむしろ、良くこの状況でそんな人事なこと言えるよね‥…

 

 僕から言わせればちっとも余裕なんて感じもしないのだけれど‥…」

 

そう言ってノルベルトの背中には

怠そうにその背中でだらけている女性がいた

 

「カレンさん!

 

 いい加減に自分の足で動いて下さい!!

 

 重いは、動きにくいはで、いい加減精神すり減らしてるんですよ!!!」

 

「…うーん、あともう四十九日間だけ…」

 

「どのくらい寝るつもりなんですか!」

 

その一見すると少女のように見える女性は

 

怠惰と堕落の皇帝

 

カレン

 

 

彼女であった

 

「‥カレン、わたしと出会った時から

 ずっとあんな調子だけれど、強いの?」

 

「…フフフ…

 

 リュナさん、あまりうそう言うのは

 不覚詮索しない方がいいですよ、確かに貴方は

 罪徒の力を受けたとはいえ、決して不死身という訳ではないんですし…」

 

そう言ってリュナのことを引き留めていく女性は

 

強欲と貪欲の皇帝

 

サディ

 

 

柄を自分の首元に充てる様に

武器である大鎌を持っている彼女はリュナの方を

物欲しそうに見つめながら、忠告の方をしていく

 

「サディ‥‥

 

 さっきも言ったけれどp

 私はこの全てをハジメに捧げると決めている‥‥

 

 幾ら貴方達がハジメによって

 生み出された存在でも、それは変わらないと‥‥」

 

「フフフ…

 

 それは残念ですね…

 

 私自身はリュナちゃんに興味があるのに…」

 

あっちこっちでやや騒ぎ始めていく一同だが

そんな一同に向けて、とてつもない威圧感が放たれて行く

 

「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」

 

そのオーラを放った張本人は

 

「‥‥」

 

傲慢と高慢の皇帝

 

 

彼女であった、彼女は一同に静まれといわんばかりに

オーラを放って、一同を一気に黙らせてしまうのであった

 

「‥な、なにこれ‥‥」

 

「…フフフ、みんなあんまりは目をはずしすぎないようにね

 

 でないと彼女が不機嫌になってしまうからね…」

 

ハジメはそう言って一同に呼びかけていくと

さてと、と言って彼は不意にある場所の方に目を向けていく

 

「ふうん、どうにも厄介事の種というのは尽きないようだね…

 

 でも、もしかしたらもう少し仲間を増やせるかもしれないよ…」

 

「どいう事ー?」

 

ハジメは不意に何かを見つけたようで

峡谷のある場所の方に意識を向けると

 

そこには、何やら団体の者達が

魔物の群れに襲われているようであり

 

ハジメはそこに行ってみようと早速向かって行った

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

ライセン大峡谷の方で魔物の群れが

とある岩陰に長い首を必死に伸ばして奥にいる

獲物を捕らえんと必死な様子で、岩場の影の奥にいるものを

 

引っ張り出さんとしていた

 

その奥にいたのは、フェアベルゲンを追い出され

帝国軍からどうにかこの大陸に逃れていった兎人族であった

 

「‥ラナお姉ちゃん‥‥

 

 怖いよ、僕たちどうなっちゃうの‥‥」

 

「大丈夫よ、少なくともこの場で大人しくしていれば

 ハイぺリアも諦めて帰っていくはずよ、それまで持ちこたえられれば‥‥」

 

そう言ってハイぺリアが諦めて去っていくのを待つ兎人族

 

だがハイぺリア、兎人族を狙い続ける魔物は

諦める様子もなく、自分達のいるところまで首をねじ込まんとしていた

 

「(‥ひょっとしたら‥‥

 

  あの時、シアちゃんや他の仲間のことを

  見捨ててしまった事の報いなのかもしれない‥‥)」

 

ラナはそう言って帝国兵に追われた際に

やむなく見捨ててしまった仲間たちのことを思い浮かべる

 

自分達では勝てないと分かっていたとはいえ

それでも、見捨ててしまった事には変わらない

 

もしかしたらこれは、その報いなのかもと感じていた

 

やがて、ラナは自分が守るようにしてかばっていた子を

近くにいた同じ一族の者に預けていくと、一人前に進んでいく

 

「‥私がおとりになります‥‥

 

 どこまでもつのかわからないけれども

 それでもできるだけ奴らを引き連れていきます

 

 その間にみんなはここから離れてください‥‥」

 

「そんな、いくら何でも!

 

 奴らが諦めるまで待っていれば‥‥」

 

そう言って引き止めようとするハウリアの男性

 

しかし

 

「‥諦めるっていつなの‥‥?

 

 奴らはいつここから離れるの

 それまで私たちはいつまでここに書くれていないといけないの‥‥?」

 

ラナはふるふると体を震わせながら言う

 

「それまでに全滅してしまったら元も子もないじゃない!

 

 私はあの時思い知ったのよ、私たちがこの峡谷に逃げられたのは

 あの時、仲間がつかまった御かげなんだって、もうこれ以上全員で

 生き残っていくのはもう無理なんだって、だからここは誰かが犠牲に

 ならないといけないの、私だって本当はそんなの嫌だ、でもそうも言えないの‥‥

 

 だって私たちは‥弱いんだもの‥‥」

 

ラナは涙を流しながら言い放つ

その言葉に他の兎人族は何も言えなくなる

 

「ごめんねみんな‥私の分まで頑張って‥‥生きて‥‥‥」

 

「ラナお姉ちゃん!」

 

ラナはそう言って、ハイぺリアのもとに飛び出していく

すると、その群れは一斉にラナに襲いかかろうとしたそこに

 

「っ!」

 

ラナは思わず目を閉じるが、何の違和感も感じられない

 

不意に目を上げていくと、ハイぺリアの表情は

驚愕と恐怖、その二つの入り混じった表情を浮べていた

 

ラナはどうしたのかと、不意に耳をぴょこぴょこ動かしていき

自分から見てハイぺリアの群れの奥の方から何かがゆっくりと近付いてくる

 

ラナはその近付いてくる何かに気づくとその気配を感じて

不意にその場から動けなくなっていってしまう、何故ならそこにいるのは

 

他の魔物とはもちろん、このハイぺリアなんて

比べることもおこがましいほどの絶対的強者であった

 

ハイぺリアたちもおそらく心境はラナと同じなのだろう

だからこそ、ここに居たら殺されると分かっていても動けない

 

それほどの恐怖を覚えているのだから

 

やがて、ハイぺリアの足もとの悠然と通り過ぎていく

それは、自分の体から何かをのばしていき、それを周りにいる

ハイぺリアに向けてゆっくりと包み込んでいくように呑み込んでいき

 

ハイぺリアの群れはやがて、もがくことも

許されないように跡形もなく食らわれてしまうのであった

 

「あ‥ああああ‥‥」

 

目のまえに現れたそれはラナの前にまで来ると

自分の体からあふれる様にのばしていたそれをゆっくりと

自分の体の中に取り込んでいくようにして、戻していった

 

「おや…

 

 こんなところに人間…

 

 いいえ、亜人族がいるとはね…」

 

そう言って話しかけていったその絶対的強者は

ラナの方を見て、無邪気な笑顔を浮かべて話しかけた

 

ラナは目の前のその少女に、優し気に話しかけられても

恐怖の感覚はぬぐいきることが出来ず、その者の顔を見るのも

まるでこれから死地に向かうように意を決したものに感じた

 

ラナは不意にその者の姿を見て驚愕する、何故ならそこにいるのは

 

赤髪で橙色の瞳に黄色い目をし

その手には円刃のようなものをひもでつないだ

杖のような槍のような武器を右手に持って肩に置いている

自分よりもやや年下の少女が笑みを浮かべ、そこにいたのだから

 

「兎人族…でしたね…

 

 どうやら奥の方にまだ生き残りが

 いらっしゃるようですから、宜しければ顔合わせをお願いできますか?」

 

そう言って優しくも無邪気で丁寧な口調でラナにそうお願いをしていく

ラナは出来る事ならばこんな恐ろしい相手に一族の者達に会わせたくはない

 

だが、だからと言ってこれほどの相手にどうこうできるはずもない

 

別に命が惜しいわけではない、だが生存本能が告げている

 

この少女に逆らっては、いけないのだと

ラナはやがて、自分でも気が付かないうちに

 

この恐るべき存在を、招き入れてしまったのだった

 

だが、この恐怖を感じていたのは当然ラナだけではない

 

彼女が守らんとした他の兎人族の者たちも

その物が生み出すオーラに充てられて、その場に動けなくなっていた

 

「…お初にお目にかかります

 兎人族の皆さん…私の名前は…

 

 暴食と大食の皇帝

 

 マリア

 

 

 皆様どうぞ、お見知りおきを…」

 

しかし、そんな兎人族の様子など、知らないと

言った感じに満面の笑みを浮かべて自己紹介する少女

 

いいや、化け物

 

ハウリア族の者たちは全員が本能で感じていた

この化け物に逆らえばさっきのハイぺリアのように

自分達もまた餌食になり得るかもしれない、そう感じていた

 

「‥ま、マリア殿‥‥

 

 先程は助けていただいてありがとうごz‥‥」

 

「…なに行き成り話しかけて言ってるんですか…

 

 まったく礼儀のなっていない人達ですね…

 

 どうせ話すのなら、私が聞いたことだけにしてください…」

 

マリアはそう言って自分にお礼を言おうとした兎人族の者を黙らせ

余計なことはしないでさっさと自分の用事を済ませようといった様子で

話しの方を勧めていく、兎人族の者たちは黙っていてもどうにもならないと踏み

 

包み隠さずに話していく事にした、フェアベルゲンを通報されたこと

その道中で帝国の兵士たちに襲われたこと、追うに追われてここにまで来て

 

その際にハイぺリアの群れに襲われて今に至ることまでを話していく

 

「‥それで、もうだめかと思われた際に

 貴方に助けられたんです、ですから本当に

 

 どの様に感謝をすればいいのやら‥‥」

 

兎人族の代表者がマリアに話しかけていく

 

「そうだったのですか…

 

 本当に皆さんも大変だったのですね…

 

 私がもしたまたまここを通りがからなかったら

 本当にどうなっていたことか…私個人としても

 

 結果的に皆さんを助けられて本当に良かったですよ…」

 

対するマリアのほうも、嬉しそうな表情を浮べて

安心した様子を見せていき、不思議とその笑顔を見て

 

兎人族の者たちも、最初に感じていた恐怖心も

すっかり忘れて、マリアに気軽に話しかけていった

 

「‥マリア殿‥‥

 

 差し出がましいことをお願いするようで

 申し訳ないのですが、マリア殿にぜひとも力を貸してもらいたいのです‥‥」

 

「ほう…それは…?」

 

代表者の兎人族の男性が恐る恐る話しかけていく

 

「帝国兵に捕らえられた一族の者を

 助ける手助けをさせていただきたいのです‥‥

 

 私たちは亜人族の中でも特に力が弱く

 帝国兵の者は魔力も扱えるので、とても相手にならず‥‥

 

 私たちも出来る事ならば私達の手で助けたい‥‥

 

 ですが、無謀に挑んでもそれこそ多くの犠牲が出ます‥‥

 

 お願いします、我々を助けていただけませんか!

 

 お礼は出来る限りでいたします、ですのでどうか‥‥

 

 お力をお貸しいたしいただけませんか‥‥」

 

そう言って地面に頭をこすりつける勢いで頼み込んでいく代表

 

マリアは其れを見て口元を手で覆って考え込むような仕草を見せる

 

その中で微妙に口角をあげて

 

「…いいでしょう、そう言う事でしたら

 不詳、暴食と大食の皇帝たるこのマリア…

 

 是非とも、協力させていただきましょう…

 

 そう言えば皆さん、お礼は出来る限りするといいましたね…」

 

「は、はい‥‥」

 

息をのみながら次の言葉を待ち続けていく兎人族

 

すると、マリアは真剣な顔つきからまたも無邪気な笑みを浮かべる

 

「…まあとは言ってもすぐには思いつきませんね…

 

 取りあえずは、皆さんのさらわれた仲間たちを助けてから…

 

 まずは、そちらの方に行きましょう、それでいいですか?」

 

「「「「「「「はい!」」」」」」」

 

それを聞いて、ハウリア族は歓喜の声で返事をしていく

 

その中には、ラナの姿もあった

 

「(‥よかった‥‥

 

  私たちはまだ、救いの手がある…

 

  最初は恐ろしい雰囲気だったけれど

  こうして、私たちのことを助けてくれて‥‥)」

 

ラナもまた、他の者達と同様に歓喜の声をあげていた

自分達にはまだ、救われる道があったのだと心の底から喜んだ

 

マリアは最初のころに感じた、恐ろしい雰囲気のせいで

本当に大丈夫なのかと、少し心配な様子を見せていたのだが

 

話してみると、意外にも気さくな人たちで

おまけに自分達の話しも真剣に耳を傾けてくれて

 

あんなにも強くて、おまけに自分達のことを

助けてくれようとしてくれている、本当に自分は幸福だ

 

「(‥待ってて、シアちゃん‥‥

 

  それから、さらわれてしまったみんな‥‥

 

  絶対に助けるから‥そして、あの時の事‥‥)」

 

ラナはこの大峡谷に逃げ込んだ時に

敵の凶弾に打たれて動かなくなったカム

 

族長に寄り添って行くシアのことを見捨ててしまった

 

仕方がなかっとはいえ、それでも何も感じなかったわけではない

 

むしろ、申しわけな罪悪感でいっぱいであった

 

どんなに悔やんでも、悔やみきれず

もしも会うことがかなうなら、謝りたいとも思っていた

 

今となってはそれは叶わない者であると諦めていた

 

だが、そんな自分達の元には強く優しい

強力な味方が、付いていってくれることになった

 

彼女は心の底より、喜んだ

 

「フフフ…

 

 どうやら決まったようですね…

 

 それでしたら、少し休んでから

 少し歩いていきましょうか、私の方は

 まだ大丈夫ですが、皆さんの方もいろいろあって

 お疲れになっている事でしょう、今日のところは休んで

 

 お互いに万全の準備を整えていきましょう…」

 

「「「「「「「はい!」」」」」」」

 

マリアの自分達への気づかいに

またも嬉しさが、込みあがっていき

 

再び、喜びの声で返事をしていく

 

すると、何処からかお腹の鳴る音が響いていく

 

「‥ご、ごめんなさい‥‥

 

 安心したら、急にお腹が空いてしまって‥‥」

 

そう言って白状したのは、ラナであった

 

それを見ていた他のハウリア族は思わず

笑い声をあげてしまう、その様子から心に

余裕が出てきた様子で、ラナは羞恥で赤面しつつ

どこか安心した様子を見せ、思わず自分もつられて笑って行く

 

「‥しかし、どうしましょう‥‥

 

 食料はここでは手に入りませんからね‥‥

 

 此処にいるのはほとんどが魔物ですから

 残念ながら、食料にはなりませんしね、どうしましょう‥‥」

 

そう言えばと、ハウリア族の面々たちは

自分達の危機的状況を思い出した、最初のころは

 

野草や動物などを食べていたものの

帝国兵に追われて、ここまで逃げ込んでからは

 

ある分の少ない食料をどうにかやりくりしていたのだが

それもだんだんと限界を迎えてきており、どうにか食料を

見つけ出そうと、勇気を出して出てきたものの魔物の群れのせいで

 

思う様に動けなかった、魔物はいずれも強力な上に

その肉は亜人族でも例外なく猛毒である、最初の時は

色々あって気を張っていたために空腹を感じなかったのだが

 

マリアの人柄に触れて、安心した様子を見せていき

改めて、空腹感が襲ってきたと言う事なのであった

 

それを聞いたマリアはまたも少しだけ口角をあげる

 

「…なるほど…

 

 そう言う事でしたら

 また私、皆さんのお力に

 なれるかもしれませんよ…」

 

そう言って、マリアは一同の前に大きな肉の塊を取り出した

 

「…今ある分はこれだけですが

 

 皆さんに行き渡らせていく事は

 出来ると思います、宜しければ…

 

 皆さんでどうぞ分けて食べてください…」

 

マリアはそう言って笑顔で一同に食料をふるまって行った

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

そのころ

 

「‥ねえ、どうしてわざわざこんなところに向かっているの?」

 

リュナはそう言ってともに向かっている二人の人物に声をかける

 

「‥‥この付近三どうやら、馬車があって

 そこに気になる物があるって言っててね…

 

 要はそれを馬車から、奪って来いって事

 

 一方の方は、マリアの方に一任してるけど…

 

 あの子って口調は丁寧なくせに、意外に歯止め効かないからね…」

 

ナギサはため息を付きながら目的のものが現れるのを待っている

 

「‥ナギサ殿、リュナ嬢‥

 

 馬車が見えてきました‥

 

 なるほど、アレは帝国のものですな‥」

 

そう言うと仮面をつけたリュカが

こちらに向かってくる馬車の影を見つけた

 

「‥‥なるほどね…

 

 それじゃあ、いってくるわ

 二人は他に馬車があったらそっちの方をお願い…」

 

そう言って、馬車の方に一直線に向かって行くナギサ

 

「さてと、あと少しでこの峡谷をでる

 そうすりゃ、本国はすぐそこだ、全速力で走らせるぞ」

 

帝国兵の隊長ともとれる男性が、そんなことをつぶやいていると

 

帝国兵の一人が、急に妙なことを言いはなつ

 

「た、隊長!

 

 もうそろそろ休憩いたしませんか?」

 

「はあ、何を言っている

 さっき休憩が終わって走り出したばかりだろう!」

 

「い、いえ‥‥

 

 疲れたとかそういうのではなく‥‥

 

 その‥‥のどが渇いて‥‥」

 

兵隊の一人が水分補給を求めていく

 

「休憩を取らずとも用意していた水があっただろ?」

 

「‥それが、先程全部飲みつくしてしまって‥」

 

「はあ、何を考えている!?

 

 本国までまだ数日はかかるんだぞ!」

 

「だから言ったでしょう!

 

 喉がカラカラなんです‥‥

 

 幾ら水を飲んでも、収まらないんです‥‥」

 

「そんな我儘が通るか!

 

 一体どうするというのだこのs‥‥」

 

すると、隊長は不意に自分の唇が異様に張るような感覚を覚え

試しに触ってみると、唇が渇いて切れて、そこから血が出てきた

 

「‥‥なんだ、なぜか妙に体が熱く感じる様な‥‥」

 

隊長の方もようやく、自分のみに起こった異変に気が付いた

 

すると

 

「っ!?

 

 なんだ!」

 

「うん?

 

 どうしt‥‥」

 

馬車の御者を務めていた、兵士が声をあげたので

隊長は何事かと思いたずねると、突然馬車全体に大きな衝撃が走り

 

後続していた馬車たちは慌てて、止めていく

 

「ぐう‥‥

 

 いったいなんだ‥‥」

 

馬車より放り出された隊長以下数人は

自分達の馬車のあった方に目を向けていくと

 

砂埃が晴れていったそこに、一つの影が見える

 

そこにいたのは

 

「‥‥どうやら当たりの様ね…

 

 帝国の紋章が見えたから、ここと帝国を

 繋いでいく道をさ飽き回りしてきてみれば…

 

 さあて‥‥それじゃあさっさと目的のものを回収して

 ハジメ君のところに連れて行かないと、まあこの分だったら…」

 

そう言って、左手から爪の様に延びている紐をピンと張らせていく

 

「貴様、何者だ!

 

 俺達を誰だと思っている!!」

 

「‥‥知らないわよ、あんたたちの事なんて…

 

 そもそもこれから死ぬってわかっているやつらから

 聞く事なんて何もないから、とっととあんた達の積み荷を

 全部明け渡して、おとなしくその命を散らしなさい…

 

 私はこれでも、時間をかけるのが嫌いなのよ…」

 

帝国兵の者達のことなど眼中にないといわんばかりに言いきるナギサ

それを聞いた帝国兵の者たちは腹の虫がおさまらなくなったのか、剣を抜いていく

 

「貴様、帝国には向かうとどうなるのかその身をもって‥‥」

 

「うるさい!」

 

隊長がそう言って振りかぶろうとしていくが

その前に彼の首が体から離れると同時にその切り口から

炎が噴き出していき、頸は瞬く間に燃え尽きていき、体の方も

火だるまになってどさりとその場に倒れこみ、ごおごおと燃え盛っていた

 

「ひい!?

 

 た、隊長!」

 

「ひ、ひるむな!

 

 魔法で系激するぞ!!

 

 詠唱を始めろ!!!」

 

「は、はい!」

 

そう言って魔法担当が詠唱を開始しようとするが

不意に彼らは異変をおぼえ、その様子のおかしさに

どうした、と訪ねると、魔法担当はわなわなと身体を振るわせて言う

 

「…魔力が…発生しません……」

 

その言葉とともに、帝国兵の表情は絶望に染まっていった

 

と同時にその場に居た者たちの視界は突然地面に落ちていく

そこには左手から爪の様に延びている紐状の何かがまるで、自分達の

命を刈り取っていくように張られており、それを笑みを浮かべている

 

少女の姿をした、怪物の姿があったのであった

 

こうして、帝国兵はものの数分で全滅したのであった

 

「‥‥さてと…」

 

そう言ってこきこきと身体を鳴らしてほぐしていると

ナギサの後ろから二人の人物がおり立って歩み寄っていく

 

「‥‥そっちの方はどうだった?」

 

「‥他のルートの方もみて見たけれど

 それらしい影はなかったわ、もう本国に

 もどっているって可能性も否めないけれど‥」

 

「‥ん、こっちも異常なし‥‥

 

 そっちの方は、当たりのようだけれど‥‥」

 

リュカとリュナはそう言ってごおごおと炎に照らされた

その場所の方に目を向けていくリュナ、その燃えている炎は

先程、ナギサがすっ飛ばした帝国兵の亡骸であることは言うまでもない

 

「‥‥そうみたいね…

 

 さてと、ハジメ君が欲しがっている人物は

 果たしてこの中にいるのか、調べてみましょう…」

 

「‥調べるって、あてはあるの?」

 

女性のリュカがナギサに尋ねていく

 

「‥‥ええ、確か白銀の髪をした女の子だって言ってたわね…」

 

「へえ、白銀ね…

 

 っていうか、そんなのあてになるのか?」

 

「‥とにかく探してみればわかる‥‥

 

 最悪、ハジメをここに呼んで確認させる‥‥」

 

そう言って馬車の中を確認していくと

最後尾の方にある馬車の中に兎人族が数人いた

 

「‥‥ひどい、ボロボロじゃない…」

 

「‥おそらく、道中で暴行を受けたのでしょう‥‥

 

 壊れるまで犯しつくされて、このようなことに‥‥

 

 なんともむごいことですね‥‥」

 

そう言ってしばらく歩いていくと檻

奥の方に檻に閉じ込められた、一羽の少女がいた

 

「‥白銀の髪の兎人族‥‥

 

 こいつだな、主が言ってた

 兎人族っていうのは、此奴の方は無事のようだな‥‥」

 

「‥よかった‥‥これでハジメが悲しまないで済む‥‥」

 

そう言って檻の中に閉じ込められた目的の少女を檻ごと外に出していく

 

「‥貴方達は‥‥一体‥‥‥?」

 

この出来事が、罪徒達と

 

忌み子の兎人族

 

シア・ハウリア

 

 

運命の出会いであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

そのころ

 

ハウリア族の元に、切り分けられても

十分すぎるくらいに、大きな肉がこんがり

焼かれた状態で準備されていた、其れを見て

ラナは本当にはしたなく涎を垂らしてしまいそうになる

 

「‥あ、あの‥‥

 

 本当に食べていいのですか?

 

 こんなにも立派でおいしそうなお肉を‥‥」

 

「…構いませんよ…

 

 寧ろ、空腹である皆さんを

 幾ら早く皆さんの一族の方々と

 

 合わせて差し上げたいですが…

 

 その前に行き倒れてしまえば

 それこそ、元も子もないですからね…

 

 むしろ、皆さんにご用意できるのが

 このぐらいしかないことが、本当に申し訳ないですよ…」

 

マリアはそう言って遠慮しないでと

いわんばかりに一同に食料を勧めていく

 

マリアは、其れともお肉はお嫌いですかと

やや申し訳なさそうに聞いていく、それを見たラナは

 

「‥そんな‥‥むしろ、私たちのために

 そこまでしてくださるなど、本当になんと申し上げればいいか‥‥

 

 マリア殿のお気遣いには、本当に私たちは救われっぱなしです

 

 必ずこの御恩は、一生かかってもお返しいたしますので‥‥」

 

「はい、其れではその時が来ればよろしくお願いいたします…」

 

マリアの気遣いに心を温かくしていくハウリア族の面々

 

しかし、ハウリア族はあまりにも悪意と言うものを知らな過ぎた

 

そして、目の前にいる存在の大いなる悪意にも簡単に言いくるめられてしまう

 

そして、内なる悪意を隠し続けたマリアはついに、最後の一手を繰り出す

 

「…さてと、まずはこの峡谷を抜けるためにも

 しっかりと体力をつけないといけませんからね…

 

 私の持っていた食料、量は足りるのかわかりませんが

 がっつり行ける食材なのでそれなりに精力もつくと思いますよ…

 

 それでまずは、この峡谷をどうにか抜けていきましょうね」

 

「ありがとうございます‥‥

 

 それでは早速、いただかせてもらいます」

 

そう言ってハウリア族はマリアが

差し出してくれた食料を口に運んでいく

 

殆どの者が空腹と、目の前のお肉の

美味しそうな匂いに惹かれていて、思わず

かぶりついていった、ややはしたないがそれを

気にしている様子は見られない、それほど切羽詰まっていたのだろう

 

「うん、おいしい!」

 

「なにこれ、今まで食べたことのない味だ」

 

「本当にこれは精が付くよ」

 

一斉に味を評価していく一同

 

ラナもさっそく、食事をとろうして

不意にマリアの方を見ると、眼を見開く

 

マリアの一同が食べている姿を見ているその顔が

恐ろしいほどに歪み切っている笑顔を浮かべて居ることに

 

それを見たラナはやや引きつった様子の表情を浮かべていき

慌てて一同の方を見ていくと、目の前でとんでもないことが起こる

 

「うぐ‥‥」

 

「ぐう‥‥」

 

「うあ‥‥」

 

突然、一族の者達が苦しそうなうめき声をあげていく

 

「だ、大丈夫‥‥?

 

 ど、どうかしたの‥‥?」

 

ラナはそう言って、近くにいた一族の子供に声をかけるが

その子供の体にとんでもない変化が訪れていき、ラナは驚愕する

 

うがああ!!!!

 

その子供は何と突然、大きな咆哮をあげて

怪物のような姿になっていく、さらには何と

 

ごああ!!!!

 

がああ!!!!

 

うああ!!!!

 

「「「「「「「「うがああ!!!!」」」」」」」」

 

次々と他の兎人族の姿が、恐ろしい魔物のような姿になっていく

もはや、兎人族であった頃の容姿は微塵も感じられず、全員が怪物の姿となった

 

「みんな‥何で‥‥」

 

一族の変わり果てた姿を見て、言葉を失って行くラナ

 

そんな彼女のもとに、一つの影が歩み寄っていく

 

「おや…あなただけ普通のままなのですね…」

 

それは、マリアであった

 

だが、今、ラナの目の前にいるマリアは先ほどまで

気さくに自分達に話しかけてくれたマリアではなかった

 

そこにいたのは同じように笑顔を浮かべている姿でありながら

 

恐ろしい雰囲気を醸しだしている、恐ろしい怪物であった

 

「ま、マリアさん‥‥

 

 これは一体何を‥‥」

 

「何をって言ったじゃないですか…

 

 しっかり食べて力をつけて、改めて

 助けに行きましょうって、ほら見てください…

 

 み~んな、強そうなお姿になれましたよ

 

 これでもう皆さん、自分の弱さに悲観することもありませんね」

 

マリアはどこか興味なさげに怪物に変貌した兎人族の者たちを目をやる

 

「‥まさか‥‥

 

 私たちを騙したの‥‥!?」

 

「だましたなんて人聞きが悪いですね…

 

 私はしっかりと、皆さんに

 力を貸してあげたではないですか

 

 さあて、ここからいよいよ皆さんのお披露目ですよ…」

 

そう言うと、怪物になった一族の者達は全員が

隠れ家から出ていき、そのままどこかに行き始めてしまう

 

「まってみんな、待って!」

 

ラナは外に出ていく一族であった怪物たちを引き留めんとしていくが

どの怪物もラナのことなど無関心といった具合で、無視して外に出ていってしまう

 

「そんな‥どうして‥‥」

 

結局、怪物になった一族の皆を止まることが出来ずに

悲観に暮れていくラナにマリアはゆっくりと迫っていく

 

「ラナさん、貴方は本当に可哀そうですね…

 

 他の皆さんの様に、力を得る好機を逃してしまい

 揚句には一族の皆さんに見捨てられるとはね、まあ…

 

 しょうがないですよね…結局あなたは誰も救えないのですから…」

 

「ああ‥ああああ‥‥」

 

自分のことを嘲るように無邪気な笑いを浮かべていく

その様子に、ただただ怖がることしかできないラナは声も上げられない

 

しかし、マリアはそんな彼女の様子を意にかえしていないように見せる

 

「さようなら…

 

 可哀そうな兎のお姉さん」

 

そう言ってマリアは武器から稲妻を発生させていき

それを、ラナの方に向けて大きく吹っ飛ばしていった

 

「きゃああ!!!!」

 

ラナはそれを受けて、大きく

ふっとばされて行ってしまうのであった

 

それを、笑みを浮かべて見詰めていくマリア

 

「フフフ…

 

 本当にかわいそうですね…

 

 仲間外れにされてしまうなんてね…」

 

くすくすと笑みを浮かべて言うマリア

 

そこにぱんぱんと手を叩きながら一人の女性が現れる

 

「フフフ、随分と大それたことをやったね…

 

 まさか、亜人に貴方の力を与えて

 怪物に変えてしまうなんて、何とも恐ろしい事…」

 

「…力が欲しいというから

 与えただけにすぎませんよ…

 

 それに、どっちにしても

 あの子達はこの先生き残ることも敵わなかったでしょうし…」

 

マリアのもとに現れた女性

 

先生

 

 

彼女にそう言われて、当たり前のことだと

いわんばかりに淡々と答えていったマリア

 

「‥しかし、結局それでも一人貴方の

 術中にはまらなかったものがいましたが…」

 

「…それについてはしっかり処分しておきました…

 

 さあて、それではマスターのもとに戻りましょう…

 

 恐らく、あちらの方も問題なく終わらせているもので

 あるでしょうしね、ついでにマスターのお目当ての子も…

 

 しっかり見ておかないとね…」

 

そう言ってその場から飛び去っていくマリア

 

先生の方はしばらく、ラナのいた方を見詰めたものの

やがて、興味をなくしたのかその場から去っていくのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

そのころ

 

牢屋ごと、外に運び出されたシアは

自分の目の前にいる、複数人の人物の方を見る

 

五人の女性と二人の男性、更にその奥から

一人の人物が現れ、ゆっくりと自分の方に歩みよっていく

 

「‥‥白銀の兎人族…

 

 この子がそうね、ハジメ君…」

 

ナギサが確認をするように声をかけていく

 

「…状況を教えてくれるかな?」

 

「ん‥‥

 

 帝国兵の奴らは、ナギサが全部殺した

 それと、彼女以外にも兎人族がいたみたいだけれど‥‥

 

 どうやら‥慰み者にされたみたいで‥‥生きては

 いるけど死んでいる‥ほとんどの兎人族がそうだった‥‥」

 

「…そっか…

 

 それで無事だったのは、この子だけだったと‥‥」

 

リュナが答えていき、ハジメは興味なさげに答えていく

ハジメはゆっくりと、シアの前に立って彼女の方を見つめていく

 

「っ‥‥」

 

シアは突然現れた、ハジメたち一行を警戒した様子で見つめる

 

「…初めましてだね、兎人族のお嬢さん…

 

 こうして会うことが出来て、嬉しいよ…」

 

「あ‥‥」

 

シアは目の前に現れた男性、ハジメの表情を見て思った

 

彼に不思議と引き込まれるような感覚

 

すると、彼はシアの顔をじっと見て、笑みを浮かべて言う

 

「…ふうん、いいねぇ

 すっごく綺麗な瞳をしている…

 

 この世界の全てを憎んでいる

 この世界の全てをつぶしてやりたい…

 

 そんな、瞳だ…」

 

「‥っ」

 

その言葉を聞いて、驚いた表情をうかべていくシア

まるで、彼に自分の心の内を見透かされたような感じがした

 

「…君と僕たちは同じ領域にいる…

 

 ねえ、君は一体だれのことを憎んでいるのかな?」

 

「‥聞いてどうするんですか‥‥

 

 私の恨みを代わりに晴らしてやるとでも

 いうつもりですか、良いんですよそんな同情は‥‥」

 

シアはやや自暴自棄になりながら、そう返していく

 

「おや…?

 

 それだったら、君は君自身の力で

 君の復讐を果たしたいと言う事でいいのかな?」

 

「当たり前じゃないですか!

 

 私たちのいた国の奴らは私のことを

 化け物と罵り、一族もろとも国に追い出した!!

 

 此処でくたばった奴らは私たちを奴隷として

 慰み者として扱って、犯しつくして、精神的に殺した!!!

 

 ほかの仲間は捕らえられていく私たちのことを見捨てて逃げた!!!!」

 

先程までの物静かな雰囲気から打って変わって激しく言い放っていくシア

 

「許せない!

 

 どいつもこいつも許せない!!

 

 だれ一人とて、許したりなんてしない!!!

 

 全員、全員にこの手で地獄を見せてやりたい!!!!」

 

シアはハジメの方を睨みつけながら叫ぶように言うシア

 

「へえ…

 

 地獄を見せるって何?

 

 そいつらを、殺してやりたいの?」

 

「そんなわけないでしょ!

 

 ただ殺してやるだなんて生ぬるい!!

 

 あいつらにも味合わせてやりたい‥‥

 

 私の受けた痛み‥苦しみ‥‥絶望‥‥‥

 

 それをたっぷり味合わせてやったうえで

 そいつらを地獄の底に叩き落してやりますよ!!!」

 

そう言って吠える様に言いきるシア

 

その瞳には、かつての優しいシアの面影はなかった

 

あるのはただすべてを破壊し

すべてを蹂躙する事しか興味がない

 

復讐者であった

 

「…フ、フフフ…

 

 フフフ…

 

 ハハハ…

 

 あーっはっはっはっ!!!」

 

そんな、シアの言葉を聞いて大きく笑顔を浮かべていくハジメ

 

「いいねいいねぇ、最高だよお嬢ちゃん!

 

 そのすべてを受け付けない、狂気と執念…

 

 それこそが、僕が求めているものだ…」

 

「え‥‥?」

 

ハジメはそんなシアの言葉を聞いて

狂気に満ちた歓喜の笑顔を浮かべていき

 

「…でも君には、それを実行できる力が無い…

 

 内心では無理だと理解していたが、それでも

 あきらめきることが出来ずにただただ憎悪を

 その身に宿し続けた、憎しみっていうのは時が立てば

 

 和らいでいってしまうもの、でもどうやら君は違うみたいだね…」

 

ハジメはシアの方に檻越しに顔を近づけていく

 

「君は運がとてもいい、君はどうやら運に恵まれているようだ…」

 

ハジメは格子に隔てられているはずなのに不思議と自分の目の前に

彼の笑顔を浮かべた顔が目前に迫ってきているようにもおもえている

 

「ねえ、兎人族のお嬢さん…

 

 僕達と一緒に来ないかい?

 

 来てくれるというのなら

 君に君が果たしたい復讐のための力をあげるよ…

 

 君が大っ嫌いなこの世界なんて簡単に振り切れる力だ…

 

 そうすれば君が最も憎んでいる弱い自分ともおさらばできる…

 

 悪魔で選ぶのは君だ…君はどうしたい…?」

 

シアに選択と言う名の提案をしていくハジメ

 

「‥教えてください‥‥

 

 どうしてあなたは、私にここまで?

 

 私のような大した魔力も

 力もない私を助けてくれるのですか‥‥?」

 

シアはそう聞いていくと、ハジメは答えた

 

「…君と僕は、似たものどうしだからかな?」

 

「‥似たもの同士‥‥?」

 

シアは更に聞いていく

 

「…僕も君と同じさ、他の奴ら

 同郷、大人、ひいては家族でさえも

 まるで他とは違うような扱いをしてきて

 

 他と違う力を持っているという理由だけで

 今度は化け物の様に扱って、挙句には訳の分からない

 罪を押し付けて、否が応で処刑、まったく腹立たしいよ…

 

 そもそもの話し、力をしめす様に言ってきたのはあいつらの方だ!

 

 戦争に役に立たないならとっとと死ぬ

 逆に強くても自分達にはない力という理由で、裏切りの罪を着せて処刑!!

 

 てめえらのくだらねえ事情に俺を振り回すんじゃねえよ!!!」

 

「あ‥‥」

 

ハジメはまるで自分の胸の内を吐き出す様に言い放つ

シアは不思議とそんな彼の言葉に共感して、聞いていく

 

「だがもうそんなものはどうでもいい、どっちだっていい!

 

 なんていったってこっちにはもう、てめえらの下らねえ事情に

 振り回されることのない、いいやそれ以上の力があるんだからな!!

 

 思い知らせてやる、俺を虐げてきた連中にも、この世界にも

 ただ殺すだけなんてつまらねえ、俺があいつらに受けてきた

 そのすべてを思い知らせて、その上で地獄の底に叩き起こしてやる!!!

 

 おれはそう決めたんだ、絶対にやり遂げるって決めたんだからな!!!!」

 

シアはそれを見て、聞いて、感じていた

 

彼も、自分と同じなんだと

 

彼もかつては自分と同じように未知の力を持っている

たったそれだけのことで、虐げられ、傷つけられてきた

 

いいや、彼の言葉を聞いて、自分はまだ恵まれた方なのかもしれない

 

自分は両親から、父にも母にも愛されていた

二人共死ぬ間際まで自分のことを気にかけてくれていた

 

しかし、彼は違う、彼は最初っから両親に愛されていない

正確には愛されていたが何かが理由で愛されなくなった

 

確かに彼の言う通り、自分と彼は似ている

いいやある意味では自分よりも悲惨だったのかもしれない

 

彼には心の底より味方だと呼べる相手が

居ないようなものなのだと察した、そんな彼は自分を必要としてくれている

 

自分を求めてくれている、自分に力を貸そうとしてくれている

 

シアは不思議とそれが心地よく感じられた

恋と呼ぶには歪んでいるのかもしれないと自分でも思う

 

それでも、シアは彼を求めずにはいられなかった

 

故にシアは、答えをきめた

 

「‥私は今、本当に幸せな気持ちです‥‥

 

 こうして、貴方に求められている事

 あなたに必要とされているのが本当に幸せです‥‥」

 

シアは狂気的に恍惚とした表情を浮べて呟いていく

 

「‥お願いです‥‥

 

 わたしを貴方の手で、女にしてください‥‥

 

 私の血を、肉を、わたしの全てを貴方様に捧げます!」

 

シアはそう言って彼を求める様に手を伸ばしていく

それを見たハジメはしばらく表情を変えなかったが

 

その際に

 

「ぐぶっ!?」

 

シアの顔に巨大な爪を携えた巨大な手が掴みかかられている

 

「…まったく、はしたない兎だ

 見ず知らずの相手に随分と図太いことをする…

 

 でも、そんな君の事も嫌いじゃないよ、だから望み通り…

 

 君のことを僕の力で一気に染め上げていってあげるね…」

 

「ぐああ!!!!」

 

余りの事にシアは驚きもがくが

その際に、彼の力が自分に流れ込んでいくのを感じる

 

肉体が、心が、彼の力によって染め上げられていくのを感じていた

 

シアはそれを全て感じることによって、本心より思っていた

 

ーああ、自分は何て幸せなんだろうか‥‥ー

 

こうして、兎人族の忌み子と呼ばれた少女は

彼の手によって、強大な力を持つ罪徒として生まれ変わったのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「はあ‥‥はあ…‥はあ‥‥‥…」

 

とある場所、そこでは

一人の少女が息を切らしていた

 

地面にまで、届きそうな金髪で美麗な見た目で

思わず見とれてしまいそうなそんな人物がいた

 

不意に髪の中から出てきたそれは

人間かにしてはとがっていて長いもの

 

所謂、エルフ耳というものであった

 

しかし、今の彼女の様子はどう見たところで

ただ事ではないことは明白である、良く見てみると

 

彼女の服からは血がしみだしている、その場所は脇腹のあたり

辛うじて、直撃はまぬがれているためか命に別状はないようだが

 

出血の量の事も考えると、彼女の命はそう長くはないだろう

 

それでも、彼女は出血を必死で抑えながら

必死で薄れていく意識をたもっていた、そんな中で

彼女はどうして自分がこのような目にあっているのかをおもい返していた

 

と同時に、その表情を哀しみで曇らせていた

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

多くのモチーフに使われる七つの大罪、皆さんが一番強いと思うのは?

  • 原罪(スルー推奨)
  • 傲慢
  • 虚飾
  • 嫉妬
  • 憤怒
  • 怠惰
  • 憂鬱
  • 暴食
  • 色欲

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