世界に愛された元徳者と世界を憎みし原罪者 ー世界を憎みし少年とその少年より生まれし九つの罪の王と罪徒となった少女達・世界に愛された少女達と聖徒に選ばれし少女達ー   作:lOOSPH

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Rampage peccatorum Umgang mit vergangenen Sünden

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

姫奈たちがハルツィナ樹海において

フェアベルゲンへと向かって行ったのと

 

同じくらいの時

 

王国において、勇者パーティーの訓練が再び再開されていった

 

オルクス大迷宮には、至るところに魔法陣があるため

上がって行ったり潜っていったり、そんな時、いちいち戻っていく

そんな手間を無くしてくれる画期的な、仕掛けが存在しているのであった

 

これによって、六十五階層にへと向かうのに

いちいち降りていくという手間の方もまた減らせていく

 

歴代において、最強と言わしめた冒険者が

ベヒモスと言う強大な敵の前に引き返した

 

六十五階層

 

ある意味、彼等にとって因縁のあるこの場所で

彼等はついにその大元であるベヒモスを撃破することに成功した

 

そうして、そんな勇者パーティーの噂を聞いて

勇者パーティーが属する国、ハイリヒ王国において

その同盟国である、ヘルシャー帝国からの使者が訪れ

 

勇者の実力に猜疑心を抱いたことで

その勇者である、天之河 光輝と模擬戦をすることに

 

しかし、結果は光輝の惨敗

 

それを見ていたほかのクラスメートは

まだまだ、この世界には上には上がいるのだと

嫌でも痛感させられることになってしまったのであった

 

それから、しばらくして

再び、オルクス大迷宮にもぐっていく一行は

 

その後さらに記録を更新し

七十階層まで記録を伸ばしていった

 

そこで、一行は転移魔法陣を見つけ

一旦はここで切り上げていき、一度

オルクス大迷宮の入口付近にある町

 

宿場町ホルアドにおいて、いったん休息をとることにした

 

「これで、七十階層突破か…

 

 ここからはいよいよ未知の領域だな…」

 

「そうだな‥‥」

 

大広間にあるテーブルにおいて

それぞれのグループに分かれて座っている

 

勇者である、天之河 光輝

彼が率いる勇者パーティー

 

 

檜山 大介を中心に集まった小悪党組

 

 

そして彼等、彼等は永山 重吾率いるパーティー

 

 

この三つが現在の迷宮攻略組である

 

彼等は、ここに戻ってきてすぐに

ここに集められていた、勿論、この後

直ぐに迷宮攻略に行くのではない、むしろ

ここで一度一区切りさせるために、戻ってきたのだ

 

「でも、奥には入れば入るほど

 魔物たちも強くなってるし

 

 ここからは、いよいよ気を引き締めないと」

 

「そうだね…」

 

永山グループがそんな話をしていくと

他のグループの方からの話し声が聞こえていく

 

「いやー、それにしても

 ここまで来るなんてなー

 

 最初はどうかと思ってたが

 こいつは案外楽に攻略が出来そうだぜ」

 

「だな、この調子だったら

 魔人族との闘いも一気に片づけられるよな」

 

「おいおい 信治ぃ~?

 

 それはいくら何でも、油断しすぎじゃねえ~?」

 

「だな、ぎゃーっはっはっはっはっ!!!」

 

小悪党グループは、そんな風に騒いでいる

 

彼等も迷宮攻略を勧めて行くうちに

めきめきと実力をつけており、最初は

びくびくとふるえているばっかりだったが

 

次第に調子に乗っていくようになり

待機組や別の任務に就いているクラスメートを

脇目もふらずに馬鹿にしたりと、なおさらのこと

他のグループから、問題しされており、永山グループ

彼等にとっても他人ごとではなく、次第にはクラスメートの女子や

王宮で世話を担当しているメイドにまで関係を迫る始末であった

 

一応は、騎士団などの一部のまっとうな人物のおかげで

さすがに取り返しのつかない状況にはなってはいないものの

 

評価の方は、まさに最低ランクに位置するだろう

 

さらに、もう一方

 

「なんか実感がねえよな、俺ら…‥

 

 あれから、もうここまで来たなんてよ」

 

「そうだね」

 

勇者パーティーのメンバーである

 

坂上 龍太郎

 

 

谷口 鈴

 

 

二人は、そんな会話をしていた

 

「思えば、俺らがこうして生きているのは…‥

 

 南雲が、あの時俺らを逃がすために戦ってくれたからだよな…‥」

 

「うん‥」

 

龍太郎が不意にある少年の名前を出す

それを聞いて、鈴も普段の明るい口調からは

似ても似つかない声色で、そう返していった

 

「‥‥ねえ、龍太郎君‥

 

 鈴ね、この訓練が終わったら

 南雲君にお墓を作ってあげたいんだ‥」

 

「おい、そんな事しちまったら…‥」

 

鈴がそういうと、龍太郎は待ったをかける

 

彼が処刑された後、その遺体は炎に焼かれ

完全に消失してしまい、遺体どころか遺骨も残らなかった

 

墓を建てることも許されず、更には各国にも

彼と言う名前が日宇露待っていく事もなかった

 

彼が死んだ時は、クラスメートたちがこの世界に来て

日が浅かったこともあり、それによって完全に彼と言う存在は

 

存在しないものとして扱われた

 

「‥‥でも、このままじゃ申し訳ないよ‥

 

 南雲君、鈴たちのために頑張ったのに

 そんな南雲君に、私達何にもしてあげられなくって‥

 

 鈴‥‥悔しいの‥」

 

「谷口…‥」

 

涙を浮かべていく鈴に、龍太郎はどうしようかと思い悩む

 

「‥‥わかった、それじゃあ

 俺はもしも南雲の墓が出来たら…‥

 

 俺はあいつに、頭を下げる…‥」

 

「坂上君?」

 

龍太郎は、思いつく限りの言葉を継げる

 

「‥‥俺さ、あいつの事本当にすげえって見直したんだ…‥

 

 最初は光輝の言ったことだから、何にも考えずに

 あいつのことを嫌ってた、でも、あいつはそんな俺を…‥

 

 俺達のために、俺でもビビっちまったあのベヒモスに

 たった一人で挑んでいったんだ、あの時の南雲を見て素直に思ったよ…‥

 

 すげえ、って…‥

 

 だから、南雲が目を覚ましたら俺は、そのお礼とこれまでの事を誤る…‥

 

 そう思ってた‥‥それなのにあんな風になっちまって…‥」

 

グッ、っと拳を強く握っていく

 

「‥‥許してくれるかな‥」

 

「‥‥許してくれるはずねえ、俺だってそうだ…‥

 

 でも、だからって今の俺達に出来るのはそれくらいしかねえよ…‥

 

 何を言ったところで、俺らがあいつを陥れちまったことに代わりねえからな…‥」

 

そういって、二人は一つの目標を決めていった

 

そんな二人に近づいていく二人の影が

 

「お待たせ!」

 

「おお、えりりん!

 

 本当にお待たせだったよー

 

 それで、光輝君の方はどう?」

 

「ああ、済まなかった…

 

 みんなに迷惑をかけてしまって…」

 

「いいっての…‥

 

 それで、怪我の調子はどうだ?」

 

戻ってきたのは、勇者パーティーの降霊術師

 

中村 恵理

 

 

勇者パーティーのリーダーであり、勇者

 

天之河 光輝

 

 

二人が、鈴と龍太郎のもとにやってきた

 

「ああ、辻さんが回復魔法をかけてくれたから

 大事には至らなかったよ、おかげですぐにでも訓練に行けそうだ」

 

「ダメだよ、光輝君

 

 一応は安静にって言ってたでしょ?

 

 メルド団長の計らいで、二~三日は

 ここで休息をとることになったんだし

 

 今は体を休めることに専念しよう」

 

ぐっと拳を創ってあげる光輝を、恵理が注意していく

 

「何言ってるんだ、本当にもう大丈夫だ…

 

 本当だったらすぐにでも、迷宮に潜りたいが

 さすがに他のみんなの気持ちを蔑ろには出来ないからな…

 

 だから、俺は出来る限り、自主練をして見るよ」

 

「光輝君!

 

 努力を惜しまないのは良いけれども

 あんまり無茶をしても、身体を壊すだけだよ

 

 休むことだって立派な訓練なんだし

 それに、たまには息抜きでどこかに行くのも悪くないよ?

 

 よかったら、僕たち四人でホルアドの町を回ってみない?

 

 ここには色んなのがあるんだしさ‥」

 

なおも食い下がらない光輝を必死に言い聞かせていく恵理

 

しかし

 

「大丈夫だといっているだろう!」

 

「っ!」

 

思わず強い言葉で言ってしまう光輝

恵理は驚いた様子で、思わず身じろいてしまう

 

「俺は強くならないといけないんだ…

 

 俺は勇者…‥みんなやこの世界の人達を守るために…

 

 その為にも、もっと…‥もっと力が…」

 

光輝は呪詛のように、呟いていく

 

恵理は、そんな中でも光輝のことを心配そうに見つめていく

 

「ちょっと、光輝君!

 

 いくら何でもそんな言い方‥」

 

「やめて、鈴‥」

 

光輝に怒ろうとする鈴を恵理が制止しる

 

「えりりん‥‥でも‥!」

 

「‥‥‥」

 

恵理が黙って、首を横に振ると鈴も複雑そうに収めていった

 

「光輝…‥」

 

龍太郎は親友の様子に、心配そうな様子を見せていく

 

龍太郎も光輝に何か言うべきなのかは、理解しているが

何をどう言えばいいのかと言う、その言葉が思いつかない

 

香織や雫が、自分の元を離れて行ってしまい

激しいショックを受けてしまった光輝は、何かに

憑りつかれていくように、ひたすらに強さを求めていった

 

光輝も、最初の事件の時以来強くなった

龍太郎も恵理もその実感があったからこそそう感じた

 

だが、そんな光輝の頑張りをあざ笑うような出来事が起こった

 

それが、帝国からの来訪者との模擬戦

 

光輝は、かの戦いで完膚なきまで叩きのめされた

その出来事は光輝の心にわずかながら暗い影を落とした

 

その後の訓練においても、光輝は光輝なりに

目覚しい活躍ぶりを見せていたのだが、それでも足りぬと

危なっかしい行動をとっていくようになっていった

 

そんな光輝の変貌に気が付いている

親友の龍太郎、同じパーティーの鈴と恵理

 

永山グループの面々だ

 

「荒れてるな、天之河の奴…」

 

「やっぱり、帝国の使者との模擬戦のことだろう…‥

 

 正直に言うと、俺も驚いたしな

 天之河だってそれなりに強くなってたのに…‥

 

 その天之河が成すすべなくやられちまったんだもんな…‥」

 

「うん、世界は広いんだねって思った…

 

 王国にもメルド団長のように強い人は

 それなりにいるって思っていたけれども…」

 

「でも、だからってそれで中村さんに当たるのはどうなのかしら?

 

 中村さんはああだけど、私だったら鈴のように絶対に抗議してたわ」

 

そんな天之河に対して、難色を示す永山グループの女性陣

 

光輝の気持ちは理解できるが

その不満を自分の事を気にかけている恵理にぶつけるなんて

 

そんな光輝の気持ちを汲んで、強く言えない恵理にも

むしろここは強く言うべきだとも、彼女たちは言っていた

 

そんな中で浩介は、自分の右手の甲をまじまじと見つめている

 

「(いったい何だったんだ、あの紋章は?

 

  どうしてあの時に、一瞬だけ

  右手に浮かび上がったんだ?)」

 

浩介は考え込んでいる

 

六十五階層において、ベヒモスとは別の謎の魔物

 

そのあとにも苦戦らしい苦戦はしなかったが

七十階層に突入する際に、またしても謎の魔物に襲われたのだ

 

その際に苦戦を強いられたのだが、なぜかその時に

浩介の身体が急に軽く感じ、それによって謎の魔物を

撃破することに成功した、浩介はその際にベヒモスの時に

恵理の右腕から浮かんでいたマークと色は違うが、同じマークが浮かんだ

 

だが、戦いを終えると、そのままマークは消えてしまった

 

浩介はあれ以来、自分の右腕に浮かんだマークが

いったい何なのかと考えながら、自分の右手の甲を見つめる様になった

 

そんな事を考えていると、一同のもとに現れたのは

 

自分達の教育係であり、ハイリヒ王国騎士団 団長

 

メルド・ロギンス

 

 

その横には副団長のホセと団員のアランがいた

 

「ようし、お前達

 

 ここまで怪我も死人もなく

 よく頑張ってくれた、最初に比べると

 お前達は本当に強くなった、嬉しく思うぞ

 

 だが、お前達への訓練はむしろここからが本番だ

 ここから先は俺達、騎士団が同行することなく

 

 お前達のみで、迷宮攻略に挑んでもらう

 

 とはいっても、いきなり強力な魔物がいるところで

 お前達だけで行かせるのはリスクも大きい、よって

 

 七十階層にへとつながる魔法陣がある三十階層までで

 まず、お前達の自主性を養っていってもらってから‥‥」

 

「メルドだんちょぉ~

 

 それっていくら何でも

 俺らの事をなめ過ぎじゃないっすか~?」

 

メルドの方針に異を唱えるのは

小悪党組のリーダー格である檜山であった

 

「俺らだって、六十階層ぐらいにいる魔物だって

 余裕で倒していけるくらいに強くなってるんすよ?

 

 そんな俺らに、また弱い雑魚魔物の相手なんかさせたって

 訓練どころか、戦いにだってならないっすよ、だからむしろ

 

 七十階層から、俺達に任せてくれてもいいんじゃないんすか?」

 

檜山は完全に図に乗っているのが分かる

 

彼の取り巻きである三人の男子生徒も

そんな檜山に同調するような様子を見せている

 

「確かにお前達が強くなったことは俺も認める‥‥

 

 だが、これからお前達がもぐっていくのは

 未だにマッピングもされていない未知の領域だ

 

 何が起こるのかわからない以上が、万全の体制を整えて‥‥」

 

「そんなもん、よゆーよゆー

 

 むしろ、その位の方が

 俺達にとってもいい訓練になるって思うんすよ

 

 むしろ、この位なら、オルクス大迷宮の最下層である

 百階層まで、ぶっ通しで行っても問題なんてないっすよ」

 

メルドの言う事を、中野が遮るように言う

 

「やめろ、中野!

 

 メルド団長は俺達の事を考えて

 この提案をしてくれているんだ

 

 確かに俺たちは、最初のころに比べて強くなった…

 

 でも、だからと言ってこの快進撃がいつまでも

 続いていくとは限らないだろう、そもそもここまで

 来られたのだって、メルド団長たち騎士団のサポートがあったおかげだ

 

 次からは、もうそんなサポートなんて受けられなくなる

 

 死ぬかもしれないじゃない、下手をしたら死ぬんだ!

 

 ここで死んだらそれこそ

 ここまで訓練をしてきたことが全て水泡に帰してしまう…

 

 ここは、俺達がしっかり自分達の力のみで戦う術を得てから挑んでいくべきだ」

 

永山グループのリーダーの、永山 重吾

 

龍太郎に負けず劣らずの大柄で体格のいい彼が

檜山と中野の、軽率な発言の方をたしなめていく

 

さすがに自分よりも体格のいい永山相手に

分が悪いと感じたのか、及び腰になっていく檜山

 

だが

 

「確かに、永山のの言う事も分かる

 でも俺は、檜山達のいう事に賛成だ」

 

檜山を擁護するような発言をするのは

勇者パーティーのリーダーにして、勇者である

 

天之河 光輝

 

 

何と、彼であった

 

「天之河…」

 

「俺達は、この世界の人達のためにも

 もっともっと強くなっていく必要がある

 

 こうしている間にも、魔人族の驚異は迫ってきているかもしれない…

 

 それだったら、俺たちは確実に強くなれる選択を選ぶべきだろ?」

 

「そ、それはそうだが…」

 

重吾は光輝がそう勢いよく発言していくのを

なんとかして止めようと、言葉をつづけんとする

 

しかし

 

「そうだぜ、天之河の言う通りだぜ!」

 

「そうだそうだ、今の俺達なら楽勝だっての!」

 

「おう、これで決定だ!」

 

小悪党組がそれを増長していく

 

「お前ら…」

 

永山もほかのグループの面々は、眉をしかめていく

 

すると

 

「静まれ!」

 

メルド団長の怒号が大きく響き渡る

 

「メルド団長…」

 

「…わかった、そこまで言うのなら

 次の七十階層前半の攻略はお前達だけでやってみろ‥‥

 

 ただし、期限を設ける‥‥

 

 起源は二、三時間だ、その時が来たら

 俺達は即座にお前達のもとに駆けつけていく

 

 その時に俺達が問題はないと判断したら

 それ以降の攻略は、お前たちの判断に任せていく

 

 何かあったらすぐに、俺達のもとに戻れ

 俺たちは七十階層にある魔法陣の前で待機している

 

 くれぐれも死ぬなよ」

 

メルド団長も、苦渋の決断で天之河と小悪党組の意見も尊重していく

しかし、永山の言う事ももっともなので、条件の方も付けたしていった

 

七十階層前半を時間内に出来る限り攻略する

その際に、彼等の様子をみて問題はないと判断したら

それ以降の迷宮の攻略を、優者パーティーのみで向かっていく事を許可する

 

それが、メルドなりの精一杯の決断であった

 

「ありがとうございます、メルドさん」

 

光輝はメルドに礼を言う

しかし、メルドはどこか複雑そうであった

 

「‥‥メルド団長、なんだか複雑そうだね‥」

 

「‥‥まあ、段階的にはもう少し

 経験を積んだ方がいいって考えてのことだと思う‥

 

 僕もはっきり言って、今のままでどこまでいけるのか

 分からない部分もある、まあ、強くならないといけないって

 

 その意見自体には同意見だけれどね‥」

 

「そうだな…‥

 

 俺もはっきり言って、不安がないって言えばうそになっけれど…‥

 

 それでも、強くなるためには前に進んでいくしかできねえ

 

 ぶっちゃけ、俺はそのぐらいしかできねえからさ」

 

他の勇者パーティーのメンバーも割り切っていく

光輝や檜山達のような考えを持っているわけではないが

これからを生きていくために、強くなっていく必要があるのも事実

 

あくまでそれぞれの持っている目標のために…

 

三人はそう割り切っていく

 

一方の永山グループの方は

 

「くそ、天之河の奴…

 

 俺達がここまでこれたのは

 騎士団のサポートがあったからだっての理解しているのか…」

 

重吾はどかりと椅子に座っていく

 

「もう決まったことに何か言ってもしようがねえよ

 

 とにかく、しばらくは体を休めて

 その訓練に備えて準備の方もしておかないと…‥」

 

不満を言っていくが、もう何を言っても無駄なことも悟り

 

これからの事を考えて行こうと提案していく

 

「綾子‥

 

 あんたは体の方は大丈夫?」

 

「大丈夫だよ、私だって今よりも

 しっかりと頑張っていかないといけないってわかってる…

 

 香織がいなくなって、今ここにいる回復役は

 私だけなんだもん、むしろ頑張ってみんなを支えて行かなくっちゃ…」

 

真央は同じグループであり、攻略組唯一の回復担当である綾子を気遣う

 

同じ回復役である、香織が王国から出て行ってしまったので

現在では、攻略組唯一の回復役として、かなりの負担を掛けられている

 

しかし、その甲斐もあってか今の彼女は

今知る限りの香織に匹敵する技能で、一同を支えていた

 

しかし、それ故に負担の方も大きく

七十階層にたどり着く道中それがたたって

 

倒れ込んでしまうという事態を起こしてしまう

 

そのこともあってか、彼女は

同じグループのメンバーから

 

特に彼女と同じ女性メンバーの真央や

綾子に思いを寄せている健太郎からはとても心配されている

 

「‥‥辻…

 

 確かに、お前の回復のおかげで

 俺達が助けられていることは事実だ…

 

 だが、お前は俺達の中で、いいや

 ここにいるメンバーの中で唯一の回復役だ…

 

 ある程度の事はポーションで事足りるし

 よほど大事でなければ、最低でも動けるようになるくらいでいい…

 

 要するに、一人で何もかも背負うな

 お前には俺達がいる、いざって時は頼れ…

 

 その位の世話なら、お安い御用だ」

 

重吾が言う、他のメンバーもそれに同意する

 

「わかってる…

 

 私だって、馬鹿じゃないよ…

 

 その時は、お願いねみんな」

 

綾子は、そんなメンバーの気遣いに対して

心から嬉しさを感じていき、笑顔で返していった

 

ところで…

 

「‥‥あの~、皆さん‥‥

 

 俺の事忘れてないですよね~?」

 

「「「「あっ‥‥」」」」

 

その陰の薄さゆえに、すっかり

茅の外になっていた浩介が話しかけていき

 

他のメンバーは、すっかり忘れていたと声を漏らし

その場にうずくまるようにしてショックを受けた浩介を

 

他のパーティーメンバーもようやく気が付いて

さらに、ショックで落ち込んでいく様子を見せていく浩介であった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「ふう‥‥」

 

騎士団が使っている部屋で

メルド団長がラフな服装になって

 

どかりと座り込み、一息ついていった

 

「団長、少しお話のほどいいでしょうか?

 

 本当に先ほど団長がお決めになったあの方針で

 

 問題の方はないのでしょうか?」

 

そういって、副長のホセが訪ねる

 

「…ホセ、その問いかけが

 俺に何を言おうとしているのかを

 

 しっかりと物語っているぞ?」

 

「す、すいません…‥」

 

メルドに指摘されて、あわてて謝罪するホセ

 

だが、メルドはホセを責めたりはしなかった

 

むしろ

 

「…まあ、かくいう俺自身も

 この判断はまだ早すぎると思っているしな‥‥

 

 問題がないって言えば、嘘になる‥‥

 

 だが、何分上の方がうるさいからな‥‥」

 

「‥陛下から、ですか?」

 

ホセの問いに、メルドは首を横に振っていく

 

「…教会からだ‥‥

 

 何しろ、自分達が目にかけていた勇者である

 光輝が、帝国の使者に完膚なきまで叩きのめされたからな‥‥

 

 おまけに、自分達が手塩にかけて育てた騎士団も

 歯牙にもかけられなかった、おそらくこのまま舐められるのはまずいと

 

 焦っているんだろう‥‥」

 

「まあ、迷宮六十五階層を攻略して

 そこから、さらに七十階層以降に突入すると

 

 なっていますからね…‥」

 

メルドは頭を抱え、その様子にホセも同意する

 

例の帝国からの使者の来訪以来

教会が勇者の育成を急ぐようにと急かしてきた

 

メルドはそれに異論を唱えたものの

国王であるエリヒドもそれに同意したので

 

王国騎士団と言う立場上

それに従わざるを得なかった

 

強くなったことはメルドもほかの騎士たちも認めている

 

だが、ここまで来ることが出来たのは、あくまで

騎士団と言うサポート役がいたからであり、今のままでは

自分達に依存しなくては戦えなくなってしまうことになる

 

それを避けるために、ここからは

騎士団の同伴なしで迷宮攻略に向わせようと考えた

 

そのためにも、今攻略した階層のおよそ

中盤の階層から今度は自分達の同伴なく下って

 

そこで問題がなければ、彼等に自主的に

迷宮攻略に勤しんでもらおうと考えていたのだが

 

「…あいつらも、強く放っている‥‥

 

 だが、迷宮の奥に向かうことが

 あくまで目的であるという訳じゃない‥‥

 

 あくまで、オルクス大迷宮へは

 訓練のために向かわせているわけだからな‥‥」

 

「そうですね‥‥

 

 冒険者だって、あくまで

 腕試しと小遣い稼ぎでここを

 利用しているだけな訳ですからね」

 

メルドと光輝たちの考えは異なっている

 

メルドが彼らをオルクス大迷宮において

戦わせているのは、あくまで訓練の一環である

 

迷宮攻略が目的ではない

 

だが、メルドがさらに気にしているのは

彼等との考えの違いの方ではじゃない、それは

 

「一番の気がかりは、オルクス大迷宮において

 目撃例が多発している、見たことのない新種の魔物のことだ‥‥

 

 ギルドにて聞いたのだが、どうやら

 冒険者内においても、見たことのない

 魔物に襲われて、犠牲になった報告が上がっているらしい‥‥」

 

「‥我々が改めて、ベヒモスと対峙したときに現れた‥‥

 

 あの三つ首の魔物ですね‥‥

 

 それにしても、あれは一体‥‥」

 

未知の魔物

 

例の転移事件の後で、改めて攻略し

ベヒモスと再び対峙をするときに遭遇した謎の魔物

 

あれ以来は、例の魔物との接触は頻繁に起こっている

 

一番に追い詰められたのは、七十階層に到達する直前に

烏の様な黒い羽に覆われた魔物、バハルの群に襲われた時だ

 

そこに突然現れたのは、四枚の翼をもった双頭の烏の魔物

 

その魔物の影に覆われただけで、バハルたちがまるで

砂で出来た彫像のようにボロボロと崩れ落ちていったのだ

 

どうにかして、上手く光輝たちをまとめていく事で

伏せていく事は出来たものの、かなり厄介な魔物であった

 

「…俺にもわからん‥‥

 

 もしかしたら、俺達が知らない間に

 オルクス大迷宮で、異変が起こっているのかもしれんな‥‥」

 

メルドは、静かに呟いていく

これから歩いて行く道に一抹の不安を抱きながら…

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「‥‥うう…」

 

香織は、ゆっくりと目を開けて

そのままゆっくりと体を起こしながら

 

辺りを見まわしていく

 

「ここは一体…

 

 確か私は、あの時に

 地面の中に落ちてしまって…」

 

香織は、そう言ってゆっくりと体を起こしていく

そこは、真っ暗でどこに何があるのかがわからない

 

「‥‥つまりここは、地面の下…?

 

 でも、それにしたって何にもない…

 

 いったいどうなって…

 

 とにかく、今はみんなのところに戻らないと…」

 

香織はそういって、雫達と合流せんと辺りを探っていこうとした

 

その時

 

「うん…?」

 

香織は、目の前に人影を見つけた

香織は一応警戒をしながら近づいていく

 

暫くして、その人物の正体が見えてきた

 

それは

 

「‥‥雫ちゃん?」

 

その後ろ姿は、動きやすい服装に身を包んだ雫の後ろ姿であった

 

「雫ちゃん!

 

 良かった、無事だったんだね」

 

それを見て、安どしたように話しかけていく

 

しかし

 

「‥‥よかった?

 

 無事…?

 

 よくそんなことが言えるわね、香織…」

 

その声は、香織が知っている、それとは違う

低く、それには悪意や怒りの様なものが織り交ざった

 

そんなものが乗っているような声であった

 

さらに、振り向いたその表情は…

 

「っ!?

 

 だ、誰…!?」

 

香織は思わず聞き返してしまう

何故なら、目の前にいる雫は、自分の知っている

優し気な雰囲気を全く感じさせないほど、歪み切っていたからだ

 

「誰って、随分な言い草ね、香織?

 

 私よ、あんたの親友の雫よ?」

 

そう告げていく雫の表情には、悪意が浮かび上がっている

 

そう表現するのが正しいと思えるようなものであった

 

「雫ちゃん…

 

 どうしちゃったの…?

 

 姫奈ちゃん達は一体何処に…」

 

「どこにって…

 

 あんた、自分の足元を見て見なさいよ?」

 

雫が、悪意を浮かべた表情で笑みを浮かべ

香織に、自分の足元を見るように勧めて行く

 

そこには、何と…

 

「っ!?」

 

姫奈と風香が、自分の足元で

血を流しながら倒れこんでいた

 

香織は、それを見て思わず地面に倒れこむように尻もちをつく

 

だが、香織は不意に自分の下に何かを下敷きにしたような

そんな感触を覚え、不意に自分の倒れこんだ地面を見ていく

 

そこに映ったのは

 

樹の幹に押しつぶされたように

ぐちゃぐちゃになって動かなくなっている

 

ラナが、目から血を流しながら

香織の方をうつろな表情で見つめていた

 

「いやああああ!!!」

 

香織は想わず、自分の足元から離れていく

 

「い、一体何が…

 

 なにがあったっていうの…!?」

 

香織は、びくびくに体をふるわせながら不意に呟く

 

問いかけたのは無意識で、誰にそんなことを

たずねてたのかすらも、錯乱していて意識などしていない

 

だが

 

「何があったって…?

 

 そんなの決まってるじゃない…」

 

そんな、香織に問いかけていく声が

そんな声とともに、香織に顔をよせていく

 

それは、先ほどの表情をひとかけらも崩していない雫であった

 

「‥‥みんな、死んだのよ…

 

 姫奈も、風香も、纏いもラナさんも…

 

 みんな死んだのよ、あんたの下らないわがままのせいでね!」

 

「ひぃ!?」

 

いきなり顔を寄せられて、香織は想わず声を上げて悲鳴を上げた

 

「本当にあんたって、誰かを不幸にするのが得意よね?

 

 そもそも、この度だってあんたが

 大事な人を見殺しにしたクラスのみんなと

 一緒にいたくないからって、それで王国から出て行こうって

 

 そんなわがままから始まったんじゃない…

 

 そのせいで、みーんな死んだ…

 

 ラナも…

 

 纏も…

 

 風香も…

 

 姫奈も…

 

 ミレディさんも…

 

 渚沙だって、そもそも

 あんたが南雲君との仲を取り持ってほしいって

 そんな、自分勝手なわがままを持ち掛けてしまったせいで…

 

 結果、渚沙は、炎の中に消えたんだし…

 

 何よりも、あんたの愛しの南雲君だって、そうよ?」

 

「っ!」

 

雫は下卑た笑みを浮かべて、更に言い放っていく

 

「そもそも、南雲君だって

 あんたが中学生の時に出会って

 

 高校で、少しでも接点をもって

 仲良くなりたいって付きまとったり芝しなかったら

 

 彼は、あんな風にならなかったし

 この世界で訳の分からない罪で処刑されたりもしなかった…

 

 彼が死んだのも、クラスメートが歪んだのも

 ミレディさんや、姫奈たちが死んだのも、みんな…

 

 あんたの身勝手に振り回されたせいで、死んだのよ…」

 

「違う!

 

 違う!!

 

 違う違う違う違う!!!」

 

香織は必死に首を振って否定する

 

しかし

 

「‥‥だったら、聞いてみなさいよ?

 

 あんたが生き残ったせいで、死んでいった

 

 姫奈たちにね」

 

「え…?」

 

雫は後ろの方に、指を差していく

香織はゆっくりと後ろの方を向いていき

 

目に映ったそれに、驚愕する

 

何故なら、そこに映ったのは

 

「‥‥どうして?

 

 どうして、あんたは生き残ってるの?

 

 私達はあんたのせいで、死んだのに

 なんであんたはそこにいるのよ、なんで…

 

 なんであんたは、平然と生きているのよ」

 

もはやかつての凛々しい顔つきが嘘のように

傷だらけで、おまけに血を流して髪もボロボロの姫奈

 

「‥‥そうだよ…

 

 私達はあんたに振り回されて

 ここに来ただけなのに、どうして…

 

 どうして、あんただけが生きのこってるのよ…

 

 ふざけるな‥‥ふざけるなああああ!!!」

 

風香も、同じように見る影もなく

香織に掴みかからんと、手を伸ばしていく

 

「‥‥ひどいですよ、香織さん…

 

 私達の事を散々振り回した挙句に

 自分が危なくなったら、こんな仕打ち…

 

 私達が何で‥‥なんでこんなところで…

 

 こんなの、おかしい‥‥おかしいですよ…」

 

纏も、その声色には憎しみの様なものが込められている

 

「ち、違う…

 

 わ、私は‥‥そんな…」

 

香織は、余りの光景に思わず後ずさっていく

 

だが、そんな香織に抱き着くように止めて行く者が

 

それは…

 

「‥‥きゃはははは!!!!

 

 逃げようってもしかして思ってた~?

 

 残念でした~、カオリンは二度と

 私達が死んでしまったという事実からは

 

 永遠に逃げ出すことなんて、できないんでーす」

 

狂ったような笑い声を上げて行くミレディ

もはや、その外装はボロボロであり、かろうじて

顔の右目の部分だけがかろうじて面影を残している

 

そんな彼女が、香織を逃がすまいと

彼女の後ろの方から、がっちりと抱き着いていく

 

「ミレディさん…!?」

 

香織は目を見開く、どうしてここに

ミレディがいるのか、しかしそんなことを

錯乱状態の香織が、答えに行きつけるはずもない

 

だが、抑えこんでいるミレディは

そんな状態の香織をあざ笑うかのように言い放つ

 

「‥‥ねえ、カオリン‥‥

 

 カオリンはもう誰も傷付けたくない

 今度こそ、大切な人を守るって言ってたよね?

 

 でもさ、そもそも、カオリンの大切な人を傷つけているのは

 他でもない、カオリンの方なんじゃないかな、ほら見てみてよ?」

 

「え…」

 

香織はミレディは指を差した方に無意識に目を向けていく

 

そこにいたのは

 

「な、渚沙ちゃん…」

 

香織の目の前には、銀色の長い髪を持っている

自分が知っている、東雲 渚沙が自分の前にいた

 

渚沙は、ゆっくりと香織の方に向けて

俯かせていた顔を、ゆっくりと上げていく

 

「‥‥あなたのせいよ、香織…

 

 あなたが彼と関わったせいで

 彼も、私も殺された、それなのにどうして…

 

 どうして、貴方はそうやって生きているの?

 

 香織?」

 

「あ‥‥ああああ…」

 

渚沙の身体が、炎に包みこまれていく

その身体を包み込む炎が真っ黒になっていき

 

やがて、その炎が真っ黒に染まった

龍の様な形に変化していき、香織に向かって

大口を開けるように迫っていき、香織は思わず顔をそむけた

 

香織は、咆哮が収まったのを見て

恐る恐る、目をゆっくりとあけていく

 

そこにいたのは

 

「香織!

 

 大丈夫か!?

 

 助けに来たぞ!!」

 

「え…!?」

 

そこに映ったのは、光輝が

何かを踏みつけて、香織に笑顔を向けていた

 

光輝が踏みつけているのは、何と

ボロボロになった、ハジメであった

 

「光輝君!?

 

 一体、何をやって…」

 

「なにって決まっているじゃないか

 

 俺は勇者として、香織やみんなを

 傷つけている悪を成敗しているんだ…」

 

そういって、踏みつけている足の力をつよめていく光輝

 

「やめて!

 

 南雲君が死んじゃうよ…!!」

 

「ああ、そうだよ‥‥

 

 死ぬんだよ‥‥

 

 塵のくせに、白崎と仲良くなんかしやがって

 てめえなんざ、俺達の足元で惨めにはいつくばってりゃいいのによ」

 

香織に言い放ったのは、下衆な笑みを浮かべた少年

 

檜山 大介

 

 

その周りには、取り巻きの三人もいる

 

光輝や大介たちだけではない

その周りには、クラスメート面々もいた

 

その中には

 

「南雲なんて、生きている価値なんてない」

 

「これは、運命なんだよ」

 

「そうさ、運命には逆らえないんだ」

 

優花や恵理、竜太郎など

ハジメの事を擁護したもの達もいる

 

「嘘でしょ‥‥みんな…

 

 どうして‥‥どうしてなの…」

 

香織は半ば放心状態となり

不意に、疑問の方を訊ねていく

 

「全部あなたのせいよ‥‥香織…」

 

香織に、そう呟いていくのは

最初に自分に話しかけてきた少女

 

雫であった

 

「あんたの大好きな南雲君は

 あんたの身勝手さのせいで…

 

 嵌められ、虐げられ、見捨てられ…

 

 ついには、死んだ…

 

 そもそも、アンタが

 南雲君にかかわったりしなかったら

 

 南雲君も渚沙も死ぬことはなかったし

 私達だって傷つくことはなかったのよ…

 

 これでわかったでしょ、あんたは結局

 誰かを傷つける事しか、できない存在…

 

 女神は女神でも‥‥疫病神、なのよ」

 

「やめて…」

 

「何がもう、誰も傷付けないよ

 何が、大切な人を今度こそ守るよ?

 

 あんたの行動そのものが、誰かを傷つけているのよ!」

 

「やめて…」

 

「あんたは何にも守れやしない…

 

 そもそも、あんたが周りを振り回しているんだもの…

 

 南雲君も‥‥光輝たちも…私達のこともね!」

 

「いやああああ!!!」

 

香織はとうとう、その場に蹲ってしまう

 

「‥‥私は、疫病神なんだ…

 

 雫ちゃん達も守れず、光輝君を止められず

 挙句にはハジメ君のことも助けられなかった…

 

 私には結局、誰かを傷つけるしか出来ないんだ…

 

 私に何かを守るなんて‥‥そんなの…無理だったんだ」

 

頭を抱えていく香織

 

だが、周りの声はそんな香織に

容赦なく、言葉を浴びせていった

 

「みんな傷ついた‥‥全部、香織のせい…」

 

「それなのに何で‥‥あんたはきれいなままなの…?」

 

「過去の自分から変わりたい?

 

 結局香織さんは変われてないじゃないですか…」

 

「何にも変わらない‥‥人を傷つけるしか出来ない、疫病神…

 

 それが、貴方なのよ、香織」

 

「はあ、はあ、はあ、はあ…」

 

必死に耳を塞いでいく香織

だが、それでも香織への言葉は収まらない

 

「いやああああ!!!」

 

やがて、香織は自分の心に亀裂が入っていく

そんな音が聞こえたと同時に、目の前が真っ暗になった

 

ーそっか‥‥結局、私は…

 

 誰かを傷つける事しか出来ないんだ…

 

 雫ちゃん達のことも‥‥渚沙ちゃんのことも…

 

 ハジメ君のことだって‥‥あの時に決めたのに…ー

 

香織は、真っ黒で意識が遠くなっていく中

走馬灯のように思い浮かんだのは、トータスに

召喚されてから、ハジメと過ごしていった日々であった

 

元の世界では、例の出来事もあって

ハジメの事を助けようと思っても出来なかった

 

お弁当を作ってあげたり、しても

光輝が横やりを入れてきたり、すぐさま

ハジメが教室から出て行ってしまったりして

 

香織のやってきたことは、全部からぶっていってしまう

 

そんな時にトータスに召喚され

自分を含めたクラスメイトが能力に恵まれる中

 

彼は、ステータスに能力が表示されず

更には、ハジメの周りでは魔力にいる作業が

出来なくなってしまうという謎の現象のせいで

 

ハジメはクラスメートからだけではなく

自分達から召喚された、国の関係者からも疎まれるようになった

 

香織は、そんなハジメの事を支えてあげたい

自分はどんな時でも彼の味方なのだと、知ってほしい

 

そんなあるときに、転機が訪れた

 

檜山の暴行によってハジメが大けがをし

その介抱と治療を行った際に、ついにハジメと

話しをすることが出来、中を深めていく事が出来たのだ

 

残念ながら、少しの間だけだったが

それでも香織にとっては、かけがえのない思い出であった

 

あの出来事が起こるまでは…

 

オルクス大迷宮においての、実戦訓練において

檜山の軽率な行動のせいで、クラスメート全員が

六十五階層にまで転移させられてしまい、そこで

トラウムソルジャ―の大群や、ベヒモスとの戦闘に入り

 

自分も含めたクラスメートたちはパニックに陥り

このままでは、大変な事態になってしまう事は目に見えた

 

そんな時に活躍したのが、ハジメであった

 

彼は、そんな中でも必死に状況を打開せんと

奔走していき、そのおかげもクラスメートも騎士団も

誰一人、欠けることなく無事に生還したのであった

 

しかし、その果てに待っていたのは

何とも残酷で悪意ある、仕打ちであった

 

その後、ハジメは自身を庇った渚沙とともに

神の使徒の中に紛れ込んだ裏切り者として、処刑され

 

そのまま、炎の中に消えていってしまった

 

香織は必死に、彼の事を助けようとした

しかし、彼女は誰かの手によって気絶させられ

 

目を覚ますと、そこに彼の姿はなかった…

 

「‥‥そうだね…今にして思えば

 結局、私は自分に都合のいい選択をしてきたのかもしれない…

 

 王国から出ていくといったのも‥誰も何も傷つけたくないってのも…

 

 結局、裏を返したら、自分の事をどこかで

 正当化して、自分は他とは違うんだって思っていたのかも…

 

 でも‥‥本当は分かってる…

 

 私も、ハジメ君や渚沙ちゃんを死なせた人達と

 何にも変わらないんだって、その事実から目を背けてたんだ…

 

 私も、何にも変わらない‥‥

 

 ハジメ君を殺したのは‥‥私も同じなんだって…」

 

香織は、真っ暗に染まっていく景色の中で

涙を浮かべながら、そっと目を閉じていった

 

「ごめんね‥‥雫ちゃん…

 

 ごめんね‥‥みんな…

 

 ごめんね…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハジメ君…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香織の心が、完全に真っ黒に染まらんとした

 

その時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー白崎さん…ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥‥え?」

 

自分の頭に優しく手を添えられていく

そんな感触を感じて、香織は不意に顔を上げた

 

そこにいたのは

 

「ハジメ君…?」

 

自身の想い人である、ハジメがそこにいた

しかし、そこに映っていたのはさっきまで浮かべていた

 

悪意を秘めたようなものではない

 

優しく、笑顔で、香織が大好きだった表情だ

 

「…白崎さん…確かに白崎さんが

 やってきたことは、全てが正しかったとは言えない…

 

 でもね、少なくとも僕にはわかっていたよ…

 

 白崎さんが、僕の事を気にかけてくれていた事

 どんな時でも味方でいようとしてくれていた事…

 

 でも、僕はそんな白崎さんの優しさを素直に受け止められなかった…」

 

「ハジメ君…」

 

優しく語り掛けてくれる、ハジメに

今までの出来事があったためか、感極まって

自分でも抑えられぬほどに、涙がこぼれている

 

「…白崎さん、僕は本当にダメな男だよ…

 

 白崎さんの事を、一方的に突き放して

 それでもなおも、僕を気にかけてくれる…

 

 そんな白崎さんの気持ちから、目を背けていたんだ…」

 

ハジメは申し訳なさそうにしていく

 

「‥‥ハジメ君…」

 

「…だからね、白崎さん…

 

 白崎さんにはもう、僕の事で

 これ以上引きずってほしくないんだ…

 

 僕のせいで、白崎さんが追い詰められるのは悲しい…

 

 忘れてほしい、とは言わないよ…

 

 ただ、どんな時でも前を向いてほしいんだ…

 

 だって、どんな時でも前を見てひたすらに進んでいく…

 

 それが、白崎さんの強い所なんだから…」

 

そういって、ハジメは自身の後ろに目を向ける

 

そこに映っていたのは、真っ暗な暗闇の中とは

似つかわしくないほどに、まぶしく優しく輝いている

 

光であった

 

「行って、白崎さん…

 

 今の白崎さんには、僕よりも

 守ってあげないといけない人たちがいるはずだよ…

 

 今度はその強さを、その人たちのために使ってあげて…」

 

ハジメはそういって、行くように勧めて行く

その光の中には、自分と一緒についてきてくれた

 

今の仲間、大切な人達がそこにいた

 

「‥‥ハジメ君…」

 

ハジメよりも優先する者はない、そんな

嘗ての自分の思いと言う枷を振り切らんとし

 

溢れる涙をぬぐって、急いでかけていく

 

「‥‥そうだよね…今のままじゃ

 ハジメ君が、私の枷になっちゃう…

 

 でも、そんなのはハジメ君だって望んでない…

 

 ありがとう、ハジメ君…

 

 私の中で、私の光となってくれて…

 

 でも、私はもうハジメ君のことで

 後ろ向きになっていくのは、やめる…

 

 これからは、こんな私のわがままに

 付き合ってくれた、皆のために戦うよ!」

 

そういって、ハジメの隣を通って

そのまま、光の中にへとかけていった

 

やがて、香織の目の前は優しい光に包みこまれていった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「う‥‥うううう…」

 

香織は、目を覚ます

 

香織は、辺りを見回すと

そこに映ったのは、何やら緑にあふれた森林

 

そんな風に思わせていく、空間であった

 

「‥‥今のは…夢?

 

 それにしても、ここって…」

 

香織は、腕を動かそうとすると

不意に腕に何かが巻き付いているのが見える

 

「な、なにこれ!?

 

 私、なんで木の枝に縛られて…

 

 ってきゃああああ!!!」

 

香織は、自分の身体が

木の枝に縛られている状態だと理解し

 

急いで拘束から逃れようとするが

その前に何と、そのまま拘束から逃れて

そのまま、地面に落とされて折ってしまった

 

「いったたたた…

 

 お尻、打った…」

 

思いっきり、お尻をぶつけて

地面に叩きつけられてしまう香織

 

そんな香織に、手を差し伸べていくのは

 

「あ、ありがと‥‥え?」

 

自分を起こしてくれた、人物を見て目を見開く

 

「大丈夫、香織?

 

 随分とうなされていたみたいだったけれど…」

 

それは、姫奈であった

 

さっき見た、悪意をこめた表情を浮かべていない

自分が知っている力強い笑顔を浮かべている姫奈、その人であった

 

「姫奈ちゃん…

 

 う‥‥うあ…

 

 うああああ!!!」

 

「ちょ!?

 

 い、いきなりどうしたのよ!?」

 

いきなり抱き着いてきた香織

それに対して完全に油断していた姫奈は

香織がいきなり突っ込んできたのを止めきれずに

 

後ろの方に向かって倒れて、尻もちをついてしまう

 

「本物だ‥‥本物の姫奈ぢゃんだ…

 

 よがっだ、よがっだよおおおお!!!

 

 ゔわああああ!!!」

 

「ち、ちょっと落ち着きなさいよ!

 

 いったい何なのよもう…」

 

姫奈に抱き着いたまま、ひたすらに泣きじゃくる香織

 

姫奈自身は、そんな香織にあからさまに動揺し

とにかく彼女を落ち着かせようとしていくのであった

 

それから、しばらくして…

 

「‥‥ご、ごめんね姫奈ちゃん…

 

 目の前に、本物の姫奈ちゃんが

 いるんだって思ったら嬉しくなってつい…」

 

「よ、よくわかんないんだけれど…

 

 何があったの…?」

 

あらかた、泣きじゃくって

気を落ち着かせた香織は、姫奈に

これまでの出来事を姫奈に話していく

 

「‥‥そうだったのね…」

 

「うん、すっごく怖かった…

 

 姫奈ちゃんやほかのみんなが傷だらけで

 雫ちゃんはひたすらに私の事を責めていくしで…

 

 私、もう心が壊れてしまいそうだったの…

 

 でもね、最後にはハジメ君が助けてくれたんだ…

 

 過去を引きずらずに、前に進めってね…」

 

香織は、笑みを浮かべながら言う

姫奈は、そんな彼女を見て笑みを浮かべていく

 

「‥‥あ、そういえば!?

 

 雫ちゃん達は!?」

 

香織は不意に、思い出したようにほかの面々の事を訊ねる

 

すると…

 

「香織…」

 

「え?」

 

姫奈は、不意にある方向に指を差し

香織はその方向に目を向けていった

 

そこにいたのは

 

木の枝で出来た籠に包みこまれているように

ぶら下げられている、雫たちの姿があった

 

「雫ちゃん!

 

 大変、急いで助けてあげないと…」

 

香織はそういった、そこに

 

「ダメだよ、お姉ちゃん…」

 

それを制止する声が聞こえた

 

「‥‥え?」

 

香織は不意に、声のした方に目を向ける

 

そこにいたのは、年端も行かない子供達

だが、一見すると人間のようだが、よく見ると

 

動物の耳や角など、どこか人間とは異なる雰囲気の見た目である

 

「あの子達は…?」

 

「‥‥フェアベルゲンの数少ない生き残りよ…

 

 偶然にもここに落ちたおかげで、難を逃れたみたい…」

 

香織の問いかけに、姫和は問いかけていく

 

「そういえば‥‥ここって…?」

 

「‥‥ここは、大樹ウーア・アルトの真下…

 

 真のハルツィナ大迷宮よ…」

 

姫奈は言う、ここはハルツィナ大迷宮だと

 

香織は目を見開き、六人の亜人の子ども達の方に目を向けて行くのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

多くのモチーフに使われる七つの大罪、皆さんが一番強いと思うのは?

  • 原罪(スルー推奨)
  • 傲慢
  • 虚飾
  • 嫉妬
  • 憤怒
  • 怠惰
  • 憂鬱
  • 暴食
  • 色欲
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