世界に愛された元徳者と世界を憎みし原罪者 ー世界を憎みし少年とその少年より生まれし九つの罪の王と罪徒となった少女達・世界に愛された少女達と聖徒に選ばれし少女達ー   作:lOOSPH

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3-1 Inopinatum reunion Tria venena
nominati petitionem Ein unerwartetes Wiedersehen in einer Stadt am See


畑山 愛子 二十五歳

 

とある高校において教鞭をとっている現役の教師

 

現在は、その時授業の準備をしていた

そのクラスの生徒たちとともに、いきなり

ファンタジーやSFの中でしか起こりえない

 

異世界転移、という現象のせいで

トータスと呼ばれている異世界に飛ばされ

今では、その召喚された教会の依頼で農地開拓を行っている

 

今では自身の護衛にとついてきた数人の神殿騎士や

自身の手伝いと、出来る限りの護衛をしたいと言って

ついてきた一部の生徒、自称、愛ちゃん護衛隊とともに

 

各地を回って、様々な農地を回っていた

 

そんなある日の事、愛子は次の町に向かっている馬車の中で

何処か浮かない表情を浮かべ、思いつめた様子を見せていた

 

そんな彼女に、話しかけていくのは

 

「どうした、愛子?

 

 もしかして疲れているのか?

 

 辛そうだったら、遠慮なく言ってくれ

 すぐにでも、休憩させようじゃないか」

 

明らかに農業開拓に向かうには不向きな防具を着込んだ男性が

愛子を気遣うような事を言いながら、どこか彼女にアピールをしている

 

そんなふうな様子で、話しかけてくる

 

「大丈夫ですよ、というよりも

 ついさっき休憩したじゃありませんか

 

 いくら私が戦えないからって、そこまで貧弱ではありませんよ」

 

「隊長は愛子さんのお身体が心配なんです

 

 それに、我々から見ても愛子さんはどこか

 思いつめている様子が見られます、この役目についた最初の頃は

 愛子さんは、たった一日の馬車でぐったりしていましたからね」

 

そういって、もう一人の騎士が隊長と呼ばれた

男性のフォロー、もとい愛子への見え見えのアプローチをしている

 

「その節は本当にご迷惑をおかけしました…

 

 何しろ、その時は色々ありましたから」

 

愛子は不意にそう呟いていくと

 

「そうだな、まさかエヒト様に選ばれた

 勇者一行の中に、よもや自分が弱いことを鼻にかけて

 我々を、もとい愛子たちを裏切ろうともくろむ身の程知らずがいたのだから‥‥

 

 だが、案ずることはない、この私、誇り高き神殿騎士にして

 愛子の護衛隊長を務めるこのデビット・ザーラーが最期まで

 愛子の事を裏切らず、一人の男として愛子を守り抜くと誓おう」

 

デビットと名乗るその男性は、胸を張って言い切っていく

 

それを聞いた愛子は、それを聞いて

表情には出さないが、どこか悔しいという感情を抱いていく

 

そこに

 

「デビットさん、愛ちゃん先生を労わってくださるのは

 大変にいい事ですが、先生がお疲れだというのならばむしろ

 

 ここは静かに見守っていてあげてもらってはどうでしょうか?」

 

わざとらしい咳ばらいをして、騎士たちの話題を逸らしたのは

 

園部 優花

 

 

愛子についていったクラスメイト、愛ちゃん護衛隊の一人

 

彼女にそう言われて、騎士たちはわざとらしく

 

「おお、それは確かにそうだ

 

 すまなかった、余りにも愛子が疲れているように見えたからね

 

 分かった、それならば今日はここまでにしよう

 だからそんなに睨まないでやってくれ、そんなに怒ると

 

 せっかくの可愛らしい顔が台無しだよ?」

 

そういって、慌てて優花におべんちゃらを言う

 

普通の女性なら、それで堕ちるだろうが

優花は実家が接客業であるためか、そう言った

相手の顔色を見て、相手がな縫いを思っているのかが理解出来る

 

ゆえに、騎士たちが言っているのが

ただの御機嫌取りであることも理解していた

 

ゆえに、簡単に惑わされるようなことはない

 

「園部さん、ありがとうございます」

 

「気にしないでください

 

 私が好きでやっている事なんですから

 

 それに、今、愛ちゃん先生の身に何かあったら

 それこそ、何が起こるか分かったものじゃありませんし」

 

愛子は、自分のために率先して行動してくれた優花に

感謝はしているが、同時にどこか申し訳ない気持ちもあった

 

自分は先生、むしろ自分が

生徒のために率先して行動をしないといけない

 

愛子は自分でも気が付かないうちに

そんな責任感と良心でいっぱいいっぱいになっていた

 

そのきっかけは、自分達がこのトータスに召喚されてから

暫くして引き起こされた悲劇、自分とともに召喚された生徒の一人が

 

教会にいわれのない罪を背負わされ、大衆のもとで

彼を庇った女子生徒とともに炎に包まれながら、その命を散らしてしまったのだ

 

その生徒は、自分達が召喚される前から

ずっと、気にかけていた生徒であった

 

彼は、一人の女子生徒を助けようとして

逆に自分が女子生徒を襲った犯人に仕立て上げられてしまい

 

それ以来、実質彼は学校からの公認のいじめをうけ

挙句には両親からも実質、絶縁状態となってしまっていた

 

そんな彼の助けになるべく、出来る限りの事をした

だが、愛子がどんなに必死に行動しても、結果は空回り

 

挙句には、彼はこの世界に召喚されてからも冷遇され

ついには凄惨な最期を迎えていくことになってしまった

 

愛子は、結局、その彼を助けることができなかったことが

今でも彼女の心に深い傷を負わせていて、彼女の中ではどこか

 

教師としての自信をなくしかけていた

 

それでも、何とかやっているのは

自分の事を支えてくれているクラスメイトの存在もあった

 

その甲斐もあって、少しずつ前向きになってきていたが

やはり、その心の奥底では、一人の生徒の死が尾を引いていた

 

「(情けないですね…

 

  一人の生徒をむざむざ死なせて

  生徒に気まで使わせてしまうなんて…

 

  挙句には‥‥)」

 

しかも、ただでさえ心境穏かではない愛子に

さらにショックな出来事が起こってしまっていた

 

実は、自分とともに農地開拓を手伝ってくれているクラスメイト達

 

最初は優花と彼女の友人である

 

菅原 妙子

 

 

宮崎 奈々

 

 

彼女達三人だけだったのだが

そこにさらに、四人の男子生徒は加わった

 

相川 昇

 

 

仁村 明人

 

 

玉井 淳史

 

 

清水 幸利

 

 

この四人もまた、愛ちゃん親衛隊に加わった

農地開拓は意外にも力がいる仕事、それなのに

愛子に同行してくれている神殿騎士たちの方は

 

愛子を守るのが私たちの仕事だ、と言って

農地開拓の仕事を全く手伝おうとしないので

 

愛ちゃん護衛隊と神殿騎士たちの関係は溝が広がっていた

 

そのため、高校生でも男手があるのはありがたく

四人だけの時に比べるといくらかスムーズに仕事が進んでいった

 

そんな時であった

 

親衛隊の男子の一人が行方不明となった

 

それがさらに、愛子の心労を大きくさせてしまう

 

それからも、その仕事の合間で生徒の行方を

探しているのだが、手がかりが見つからず、今に至ってしまった

 

「(どこに行ってしまったんですか…

 

  南雲君と東雲さんが亡くなって

  南野さん達も王国を出て行ってしまって…

 

  そのうえで貴方にも、何かあったら、私は…)」

 

色々な出来事が、愛子の心を大いにかき乱していく

 

優花はそんな愛子の様子に

どこかやりきれない心境を抱えていた

 

彼女もまた、これまでに起こった出来事のせいで

心境は穏やかではない、教会や王国への不信、クラスメイトの分裂

 

そのきっかけとなったのが、クラスメイトの一人

 

南雲 ハジメ

 

 

その彼に付き添っていた、同級生の少女

 

東雲 渚沙

 

 

二人の公開処刑であった

 

優花は、オルクス大迷宮での出来事で

自身は危ないところを救われた、何よりも

彼女もハジメの無実を信じている数少ない生徒の一人

 

彼女は、失意の中でも

どうにかして出来る事はないかと模索し

 

ハジメの事、自分たちの事を最後まで

気にかけてくれた愛子を支えようと決めた

 

ハジメへの仄かな想いと、失った悲しみを内に秘めて

 

「(南雲…

 

  私はあの時、間違いなく

  アンタに命を救われた、だから

  アタシ頑張るよ、アンタが救ってくれた

 

  この命を、最後まで無駄にしないためにもね)」

 

馬車の椅子に自身の背を預けていく優花

 

彼女達一行は、これから先において

多くの出来事を体験していく、それは果たして

 

愛子たちにとって、いい結末になるか否か

 

それはまさに、神のみぞ知る

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

ある街において

 

その町の門のもとに多くの馬車と

人が集まっている、ここではどうやら

とある商隊が、この町から別の町に行くので

それまでの間の護衛として、冒険者をいくつか雇っていた

 

そこに集まっている者は、身なりや態度からして

商人と冒険者たちと簡単に見分けられるくらいに明らかである

 

そんな商隊のもとに六人の少女達が訪れていく

 

「ここが集合場所ね…」

 

そういって、先頭を歩いている少女が辺りを見回していく

 

すぐさま、隊の代表のもとに向おうとする少女達だが、その前に

 

「おい、餓鬼共!

 

 ここはてめえらみてえな餓鬼が来るところじゃねえ

 痛い目見たくねえなら、さっさと家に帰りゃがれ!!」

 

大柄でガラの悪い男性が、少女達の前に立ちふさがっていく

 

「私達は、ここの任務を受けに来た冒険者です!

 

 ここへの紹介状もありますよ!」

 

少女がそう告げて行くが、男は聞く耳持たず

 

「てめえらみてえな小娘共が冒険者なんざ

 やってけるわけねえだろ、それになんだその後ろの女

 

 亜人の中でも特に役に立たねえ、兎人族じゃねえか!」

 

そういって、少女達の中の一人

兎の耳を生やした一人の少女を指さして言う

 

「っ!」

 

「ちょっと!

 

 彼女は、ラナさんは私たちの仲間なんです

 

 そんな言い方しないで!!」

 

「ああ!?

 

 仲間だぁ?

 

 奴隷になるか死ぬしか価値のねえ亜人族の中でも

 非力で、臆病な兎人族を仲間だ、どうやらよっぽど

 

 俺たち冒険者を舐めているようだな!」

 

そういって、男性冒険者が手を挙げようとした、その時

 

「いい加減にしなさい!

 

 これから任務なんです、その前で

 問題行動を起こすのならば、この任務から

 降りてもらいます、当然報酬も出しません!!

 

 それが嫌なら、場をわきまえてください!!!」

 

一人の男性が、男性冒険者に注意をしていく

男性冒険者はそういわれて、不満そうにしながら

渋々と、仲間のいる方に戻っていくのだった

 

「申し訳ありません

 

 我々の目が行ったらぬばっかりに‥‥」

 

「いえ、大丈夫です…

 

 それよりも、依頼の受注をしたいので

 こちらの商隊の代表の方に会わせてもらえませんか?」

 

そういって、依頼の確認の方を勧めていく

 

「それには及びません、私はモットー・ユンケル‥‥

 

 この商隊の代表をしております」

 

すると、偶然にも仲介に入った彼が依頼人

 

モットー・ユンケル

 

 

いかにも、長時間働いて

エネルギーに飢えているような名前の人物である

 

「私は姫奈、このチームの一応リーダーをしているわ…

 

 それで、他の子は…」

 

「香織です、このチームの回復役を務めています

 

 けがの治療などは任せてください」

 

「風香よ、今日から宜しくお願いします」

 

「纏です、この中では一番セは低いですが

 

 一応は戦闘職なので、いざって時は任せてください」

 

「ラナです

 

 私は見ての通り、兎人族ですが

 姫奈さん達のパーティーの一員です」

 

少女達は紹介をしていく、その中で一人

 

「‥‥…」

 

どこか、様子のおかしい少女が一人

 

「‥‥雫ちゃん、雫ちゃん!」

 

「きゃ!?

 

 な、何?」

 

香織が話しかけると、驚いたのか

少し間の抜けた悲鳴を上げてしまった

 

「えーっと‥‥今、自己紹介をしてて…

 

 次は雫ちゃんの番なんだけれど…」

 

「‥‥え、あ、そうだったの…

 

 ごめんなさい、私は八重樫 雫です

 剣士の天職を持っていまして、その…」

 

慌てていたのか、かなり丁寧に自己紹介をしていく雫

 

「ああ、かまいませんよ

 

 本日はこのような依頼を受けて下さり

 ありがとうございます、それでは依頼の方の確認を

 

 依頼の内容は、ここからフリューレンまでの護衛をお願いします

 

 道中の警護、および魔物が発生した場合の討伐の方をお願いしております」

 

「‥‥それで構いません、私達としても

 フリューレンに用事があるので、願ったり叶ったりで…

 

 それで、出発の方は…」

 

「皆さんが来て、依頼を受けた冒険者がそろったので

 皆様さえよろしければ、すぐにでもまいりますよ」

 

モットーがそういって、丁寧に話をしていく

 

「‥‥大丈夫です、それでは行きましょう!」

 

「わかりました、それでは皆様には

 こちらの馬車の方に乗っていただきます

 

 冒険者用の馬車は前と後ろの方に走ってもらいます

 

 何かあった時の対処は、よろしくお願いいたしますね」

 

そうして、モットーに案内されて

冒険者用の馬車に乗っていく姫奈達

 

そこには、いかにも歴戦の猛者ともいえるものから

若々しくもどこか勇ましさを感じさせる人物たちがいる

 

そして、大半が男性である

 

姫奈や風香の方は、特に抵抗はないが

香織と纏は、どこか不安を隠しきれない様子である

 

すると

 

「やっぱり不安か?

 

 こんなに男ばっかりだと」

 

一人の男性が話しかけていく

 

「あ、いえ‥‥その…」

 

香織は、急に話しかけられて

思わず、返事が曖昧になってしまう

 

だが

 

「まあ、そうだろうな

 

 あの商人も、そこらへんは配慮して

 そういう邪な奴とは無縁な奴を選んでんだよ

 

 本当は女性と男性で分けるべきなんだろうけれどさ

 冒険者は男性の方が多いから、そこは割り切ってくれや」

 

「もちろんです

 

 それに、もしも手を出してくるなら

 その時は返り討ちにするだけですから」

 

姫奈は忠告するように言い放つ

 

それに対して

 

「はっはっはっはっ!!!!

 

 その位の気の強さがあるなら大丈夫さ!

 

 それに、ここからは持ちつもたれつだ

 お互いに頑張って行こうぜ、お嬢ちゃん達」

 

冒険者たちは、むしろそんな姫奈の態度に感服した様子である

 

「それでは、出発します!

 

 揺れなどに注意してくださいね」

 

先ほどのモットーの声が聞こえ

冒険者たちはすぐに真剣な表情になる

 

そうして、馬車は動き出していく

 

「うう!?」

 

すると、馬車が揺れると同時に

雫は低いうなり声をあげていった

 

「雫ちゃん、どうしたの?」

 

「‥‥何でもないわ…

 

 ごめんね、心配かけて…」

 

香織は雫の様子が気になるが

雫は少し、無理をするように笑みを浮かべていた

 

痛みが走っていく脇腹を、必死に抑えながら

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

最初の内は、何事もなく

現在は野営に入っており

 

馬車の移動によって、疲れた体を休ませていた

 

「‥‥それで、あとどのくらいかかりますか?」

 

「そうですね、この調子ならあと四日ほどですかね

 

 もちろん、何事も無ければですけれども‥‥」

 

姫奈はモットーに、現在の状況を確認していく

 

「皆さん、よろしければ

 食料の方の追加はいかがですか?

 

 有料にはなりますが、それなりの蓄えは用意しております」

 

「そうね…

 

 まあ、まだ食料の方は余裕があるし

 いざって言う時は、よろしくお願いするわ

 

 ただ、食料はいいけれど‥‥その代わり…」

 

モットーにあるものを頼み込む姫奈

それを聞いたモットーは、了承し頼まれた者を用意した

 

それから

 

「はあ‥‥はあ…

 

 ぐう…」

 

身体を必死に抑え込んでいる雫

ここでは、冒険者たちは全員、見張りのために出払っており

 

馬車には誰もいない、雫はそれを使って

痛みが走っていく自身の身体を必死に抑えていた

 

そこに

 

「はい、これ…」

 

「‥‥え?」

 

一本の薬の入った瓶が雫の眼前に差しだされる

 

そこにいたのは

 

「‥‥まったく、アンタは相変わらずね…

 

 何だってそうやって、自分の問題を

 自分だけで抱え込もうとするのよ、あなたは…」

 

姫奈であった

 

「‥‥気が付いてたの?」

 

「違和感自体は、前々から感じてたわよ

 

 それに貴方、馬車が揺れるたびに

 表情をしかめたり、荒げた声を出してたじゃない

 

 貴方、前の戦いのときの傷、治ってないんでしょ?」

 

姫奈がそう指摘していくと、雫は観念するように

自身の服をめくりあげていく、脇腹の部分を中心に

まるで植物が根を張っていくようにして、傷が広がっている

 

「何よこれ…

 

 アンタ、こんな傷を今まで放っておいてたの!?」

 

「ごめん…

 

 依頼の準備の合間に

 傷薬を使ってたんだけど…

 

 全然収まる様子が無くって…」

 

姫奈も、余りにも大きな傷に目を見開いていた

その反応を見た雫は、申し訳なさそうにしていく

 

「まったくもう…

 

 とにかく、すぐに香織に頼んで

 治癒魔法をかけてもらうわよ」

 

「待って!」

 

香織を呼びに行こうとする姫奈の腕を引いて止める雫

 

その際にも、刺激が走ったのか表情をゆがめていく

 

「ちょっと、待ってじゃないわよ

 

 この商隊が町に付くまで、最低でも四日はかかるのよ?

 

 それに、いつ魔物が襲ってくるのかもわからないのに

 そうなったら、みんなの事を危険にさらすことになるのよ!」

 

「‥‥わかってる、でもみんなには

 とくに香織に負担を掛けさせたくないの…

 

 あの子はただでさえ、南雲君の事で傷ついて

 ここに来るまでにもいろんなことがあったせいで

 いっぱいいっぱいなの、だからお願い、香織達には黙ってて…」

 

雫は、痛みに苦しみながらも必死に頼み込む

 

すると

 

「‥‥雫、アンタは香織の事を分かってないわよ」

 

「え…?」

 

姫奈は、そういって

馬車の影から野営のところの様子を見る

 

そこには

 

「はい、どうぞ

 

 簡単に手を加えただけですけれど

 これで少しは食べやすくなると思いますよ?」

 

「おお、ありがとなお嬢ちゃん

 

 俺達は野営の時は、いっつも

 堅い干し肉とかを喰ってるから

 

 大したものじゃなくても

 くいやすくなるのは嬉しいぜ…‥」

 

冒険者チームに、腕をふるっている香織

それを手伝っている、ラナの姿もあった

 

「はい、どうぞ‥‥

 

 これから、まだまだ道のりは

 長いですから、食べて精力をつけて下さいね」

 

「おう、ありがとうよ嬢ちゃん」

 

ラナが亜人だと知っても

それでも気兼ねなく話してくれる冒険者たち

 

ちなみに、その向こう側には

前の方の馬車に乗っている冒険者たちが

集まっているが、どこか羨まし気だったり

快くなさそうに悔し気な表情を浮かべるものが大半

 

その様子を、馬車の影から見つめる雫

 

「香織…」

 

「‥‥あの子は確かに、この世界に来る前も

 この世界に来てからも、いろんなことがあった

 

 でも、それでもあの子はあの子なりに前に進もうとしてる

 

 その強さは紛れもなく本物よ、だから雫

 香織の強さをもっと信じてあげなさいよ、だって

 貴方は誰よりも、あの子の傍にいた親友なんでしょ?」

 

姫奈は、雫にそういっていく

 

雫は香織が、積極的に出来る限りの事をしている

想い人であるハジメの事や、この世界での出来事

 

ライセン大迷宮やハルツィナ大迷宮でのこともある

 

その出来事が、いつの間にか雫を臆病にしていたかもしれない

 

雫は、姫奈からもらった薬の瓶を握りしめていく

 

「‥‥ありがとう、姫奈…

 

 私、いつの間にか腰が引けていたのかもしれないわ…

 

 私の方から香織に話すわ、さすがにそこまでは及び腰ではないつもりよ」

 

「ええ…

 

 それじゃあ、行ってきなさい…」

 

雫は決意を固めていき、姫奈もそれを了承していった

 

それから

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

翌日

 

「‥‥それで、あの後香織に

 説教をされて、二人共寝不足だと…」

 

「「あはは‥」」

 

風香は、目元に隈を作って

かなり疲れている様子を見せている

姫奈と雫の様子に苦笑いを浮かべていた

 

「当たり前だよ、雫ちゃん!

 

 私に気を使って、そんなになるまで

 傷を放っておくなんて、言語道断だよ!!

 

 姫奈ちゃんも姫奈ちゃんだよ

 そのことを知ってて黙ってるなんて…」

 

「いや、黙ってたんじゃなくって…

 

 むしろ、私も昨日知った方で…」

 

「言い訳は聞きません、とにかく

 二人共、何か怪我をしたら過ぎに言う事!

 

 今度こんなことをしたら、怒るからね!!」

 

「「はい‥」」

 

香織の迫力に圧されて、縮こまっていく姫奈と雫

そんな様子を苦笑いで見つめている、風香と纏、ラナの三人

 

他の冒険者たちは、そんな様子にどこか毒気が抜かれている様子

 

そんな時であった

 

「「っ!?」」

 

姫奈、風香の二人が表情を変えて

馬車から外の方に乗り出していった

 

「どうしたの、二人共!」

 

「何か来る!」

 

姫奈がそういうと、そこにいた冒険者たちも気を引き締め

それぞれ傍に控えていた武器や装備を身につけて行った

 

「場所は?」

 

「‥‥…」

 

風香は意識を集中させて

辺りの気配を探っていった、その時

 

「っ!

 

 後ろ!!」

 

風香は、そういって

指を差していく、そこには

 

黒い何かが、こちらの方に向かってきているのが見えた

 

「あれは、森の魔物…

 

 もしかして、ハルツィナ樹海が消えた影響で

 生息域を追い出されて、あぶり出されたはぐれ魔物?」

 

「‥‥いいえ、違うわ…

 

 あんな魔物、見たことない…」

 

そんな会話をしつつも

馬車を降りて、武器を取っていく五人

 

「ああ、ちょっと待て!

 

 いくら何でも、あの数を相手にするのは」

 

「大丈夫です!

 

 みなさん、あれでも強いですから

 

 冒険者の皆さんは、あぶれた魔物から

 馬車を守ってください、群れの方は姫奈さん達に」

 

不安に駆られていく冒険者たちに

どうにか呼び掛けていくラナ、だが

彼女達の実力を知らない冒険者たちは、その言葉に半信半疑である

 

だが、すぐにでも思い知ることになっていく彼女達の実力のほどを…」

 

「行くわよ、みんな!」

 

「「「「うん!」」」」

 

姫奈の声とともに、それぞれの武器を手に

魔物の群れに毅然と立ち向かって行く少女達、

 

「はああああ!!!」

 

姫奈は、備え付けの剣を使って

襲い来る魔物たちを切り伏せていく

 

「やああああ!!!」

 

風香は剣を両手に持って

風の魔法を織り交ぜ、群れを倒していく

 

「はああああ!!!」

 

雫は、武器である剣を振るい

向かってくる、群れを切り伏せていく

 

だが

 

「ぐうっ!?」

 

突然、脇腹に激痛が走っていき

思わずその場に蹲ってしまった

 

そんな、雫にここぞとばかりに

襲い掛かっていく、魔物の群れ

 

そこに

 

香織が、光属性によって生成した

鎖を使って、魔物の群れを一掃していき

その場に蹲ってしまった、雫の方を見る

 

「雫ちゃん、大丈夫!?」

 

「ごめん、香織…」

 

香織は、もしかしたらと思い

雫の服をめくりあげていくと

 

そこには、昨日と何も変わらない

大きく広がった傷が、雫の身体にあった

 

「どう言う事!?

 

 昨日、治したはずなのに…」

 

「っ!

 

 香織!!」

 

目を見開く香織、そこに

魔物が香織に襲い掛からんとする

 

そこを

 

「おりゃああああ!!!」

 

纏が武器である槍をふるって

香織と雫に襲いかかってきた魔物を殴り飛ばした

 

「大丈夫ですか!」

 

「うん、ごめん

 雫ちゃんの傷がぶり返しちゃったみたいなの

 

 私と雫ちゃんは、いったん下がるから、後の方はお願いできる?」

 

「もちろんです!

 

 姫奈さん達からは私が伝えておきます!」

 

「ごめん…」

 

痛みに悶える雫を連れて

後ろの方に下がっていく香織

 

「ふう…

 

 まあ、この調子なら

 問題はないでしょう…」

 

纏は、そういって

数が減っている魔物達を見る

 

その時であった

 

「っ!

 

 みんな、下!!」

 

姫奈が呼びかけると同時に

地面から何やら巨大な何かが現れた

 

「な、なんですか!?」

 

その巨大な姿に圧倒される一行

 

後に控えている冒険者たちも

そのあまりの大きさに腰が引けていく

 

「な、何だよあれ…‥」

 

「あんなでっかい魔物…‥

 

 見たことねえぞ!」

 

余りに圧倒的すぎる大きさに

冒険者たちは、圧倒されていく

 

だが

 

「さすがに出し惜しみはしていられないわね…

 

 それだったら!」

 

姫奈は、そういって剣を地面に差すと

 

「聖痕‥‥開放!」

 

姫奈が、そういって右手を掲げると

その右手に、何やら紋様が浮かび上がっていき

 

その光を、足元に向かって放つと

姫奈の身体を、光が包み込んでいき

 

彼女の服装は変わる、露出は控えめだが

それでも、どこか動きやすい服装である

 

姫奈は、更に右手を上にかかげていくと

その手に降りそそいでいく光を掴むように拳を作ると

 

その手に、一振りの剣が携えられる

 

「行くわよ!」

 

姫奈は、その剣を手に

目の前に現れた巨大な魔物に向かって行く

 

魔物は、そんな姫奈を一飲みにせんと言わんばかりに

彼女に向かって、その巨体に見合う大口を開いて向かって行く

 

姫奈はそれを交わしていくと、そのまま魔物の背中に乗り込んでいき

 

「はああああ!!!」

 

姫奈は、剣に磁場を纏い

それによる強力な一撃で切り裂いく

 

だが

 

魔物の方は、それを意にかえすことなく

再び、姫奈に向かって襲い掛かっていく

 

「この威力じゃダメみたいね…

 

 それだったら!」

 

姫奈は、そういって

目を閉じていく、すると

彼女の身体に何かが纏われて行く

 

「オッケー…

 

 外側が効かないなら、ここはあえて!」

 

姫奈がそう呟くと、そのまま

姫奈は魔物に一飲みにされてしまう

 

「姫奈!」

 

「姫奈さん!!」

 

風香と纏、香織と雫も思わず叫びを上げていく

 

誰もが姫奈がやられたと思った、その時

 

魔物の背中から、何かが突き破る様に飛び出して行き

 

そのまま、地面の方にへと降り立っていった

 

魔物は、そのまま倒れ

物凄い地響きを立てて、倒れた

 

「ふう…」

 

姫奈は、聖剣を消すと

一息ついて、そっと目を開ける

 

「姫奈さん!

 

 良かった、無事だったんですね!!」

 

「まったくもう、心配させないでよ

 本当に気が気じゃなかったんだから!」

 

纏と風香が駈け寄っていく

 

「ごめんごめん…

 

 それにしても…」

 

姫奈が不意に振り向くと

魔物の亡骸は、そのまま粒子が舞うように

消滅して行き、その粒子もやがて消え去っていく

 

「‥‥…」

 

その様子を見て、自分達が知っている魔物とは

全く違う何かを、感じ取っていく姫奈であった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

それから、暫くして

 

先ほどの襲撃以外に

目立った襲撃もなく

 

一行は目的地である

 

中立商業都市フューレン

 

 

王国や帝国などの、様々な流通において

その中心地になっている町、中立とついているので

場所は王国にありながらも、どこの国にも付いてはいない

 

どこの国のしがらみもない、この町は

まさに様々なものが行きかいする宝庫なのである

 

「ここがフューレンか…

 

 随分と活気にあふれているわね

 流石は商業都市と言われるだけの事はある」

 

現在、姫奈たちは六つある門のうち

東側の入場門において、検査の順番待ちをしている

 

その合間で、商隊の代表を務める

モットー・ユンケルが姫奈達のもとに近づいてきた

 

「いやはや、おみそれいたしました

 

 正直に申し上げると、皆様の事を少し疑っていました

 

 皆様の実力を見誤り、失礼いたしました」

 

「別にいいわ、私は祖そもそも

 自分の力を誇示したいわけじゃないし

 

 それに、状況が状況だったし

 出し惜しみしなかっただけだしね…」

 

一同に頭を下げるモットー

 

「‥‥というよりも、それだったら

 わざわざ検査待ちの今の状況で、ここまで来て

 

 話すほどの事でもないでしょ、本題の方は?」

 

「‥‥これは続けて失礼を、それでは率直に申し上げます

 

 もちろん、皆様が良ければでいいのですが

 内のお店の専属の冒険者として、やとわれる気はありませんか?」

 

モットーは本題を口にしていく

 

「‥‥専属の冒険者?」

 

「はい、私たちのような商人は

 商売上、野党や魔物の類があるので

 

 今回のように、その護衛として

 こうして冒険者の方を雇っているのですが

 

 そのためにはギルドに依頼の申請をする必要があり

 その度にギルドに仲介料をお支払いする必要がありまして

 

 何より、冒険者の中にはあまり素行がよろしくない方が多く

 そういった場合は、そちらの方にも目を向けないとならないのです

 

 ですから、一部の商人は専属の冒険者をいれています

 最も信頼のできる相手は、出来る限り手元に置きたいので

 

 もちろん無理にとは言いません、ただ皆様さえよろしければ‥‥」

 

自分の商会の専属の冒険者になってほしいというモットー

 

「‥‥申し訳ありませんが、私達は旅の途中なので

 モットーさんの申し出を受けることはできません」

 

「そうですか‥‥」

 

姫奈の返事を聞いて、がっかりした様子を見せるモットー

 

「その代わりですが、こちらの御願いを聞いていただけないでしょうか?」

 

「なんでしょう?」

 

姫奈は、さらなる提案をしていく

 

「私達はある事情で教会から追われる身になっています

 

 そうなったときに、信頼のおける人を味方につけておきたいのです

 

 なので、何かがあった時に

 私たちの後ろ盾になってほしいのです」

 

姫奈は言う

 

「‥‥教会から追われる身‥‥

 

 なるほど、そう言えば王国に迎えられた

 神の使徒の何人かが、王国を抜け出したという話を聞きましたが‥‥

 

 もしかして‥‥」

 

「‥‥おそらく、貴方が思っている通りだと思います…」

 

姫奈は、一か八かの賭けに出る

下手にごまかしては逆に不審がられるかもしれない

 

だからと言って、この世界での教会の影響力は絶大

 

事情をしって、モットーが頭を縦に振る可能性は限りなく低い

 

下手に何も言わずに、モットーの出方を見る姫奈

 

暫くの間が空き、モットーの下した答えは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいでしょう、その話をお受けします」

 

何と、了承してくれた

 

「‥‥本当ですか?」

 

「皆様には、危ない所を

 助けていただきました

 

 専属にすることが叶わないのは残念ですが

 これもまた、一つの縁であると思えばよいものです

 

 これからは、持ちつ持たれつという事で

 お互いに、いい関係を築いていきましょう」

 

「ありがとうございます」

 

こうして、姫奈はユンケル商会という

一つの後ろ盾を手に入れたのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「そっか…

 

 モットーさんとそんな話を」

 

「ええ…

 

 少なくとも、これで

 いざって時の物資の方の心配はなくなったわ…

 

 まあ、あくまで持ちつ持たれつだけどね」

 

姫奈達は、しばらくして

あるお店で昼食を取っていた

 

「雫ちゃん…

 

 傷の方は、大丈夫?」

 

「ええ、今のところは何とも…

 

 でも、もしもまた傷が

 ぶりかえして来ると思ったら

 気が気じゃないわ、道中でも何度も

 香織にお世話になりっぱなしだったし…」

 

「そうですね…

 

 そういえば、香織さん

 ハルツィナ大迷宮で神代魔法を手に入れましたよね?

 

 それを使えば、雫さんの怪我は治せないんですか?」

 

纏が不意に、一つ提案をしていく

 

姫奈達はハルツィナ大迷宮において

リューティリス・ハルツィナが持つ神代魔法

 

昇華魔法を、手に入れた

 

資格として認められたのは、姫奈と香織、風香の三人

ラナは魔力が無いので、神代魔法を得られなかったものの

 

代わりに、風香より遅れて聖徒の力に目覚めた

 

更に三人が得た昇華魔法は、ライセン大迷宮において

重力魔法が星力魔法に変質したのと同じく、さらなる魔法

 

超化魔法に変質した

 

ハルツィナ大迷宮での戦いでわかったことは

昇華魔法が対象の能力を一段階昇華、つまり進化すると言うもの

 

だが、超化魔法は一段階のみならず

相手の力を受ける事でその身に宿る力が

さらにそれに合わせて肉体が進化していくもの

 

かの戦いで無事に戻ってこられたのは

この超化魔法による力によるものもある

 

しかし

 

「‥‥うん、もちろん試してみた…

 

 それで傷は治ったと思ったんだけれど

 すぐに傷が現れてきてしまって、多分だけど…

 

 傷を作っている大元が、雫ちゃんの脇腹の部分にあって

 それを取り除かないといけないみたいなの、魔法でもダメだった…

 

 つまり…」

 

「物理的に摘出するしかない…

 

 そういう事ね、だとすると厄介ね…」

 

香織の説明を聞いて、姫奈は考え込む

 

「え?

 

 どういうことですか?」

 

ラナは理解が及ばない、正確には

理解はしているものの、納得しきれない

 

そういう事である

 

「そのままの意味ですよ、ラナさん…

 

 雫さんの傷を治すには

 その傷を生み出している大元を

 物理的に取り出していく、つまりは…

 

 手術するしかない、という事です」

 

纏が分かりやすく説明していく

 

「しゅじゅつ‥‥?

 

 何なんですか、それって?」

 

「‥‥その言葉の時点で、無理だね…

 

 ここでは治癒魔法による、怪我や病気の治療が

 主眼になってる代わりに医療そのもののレベルは

 私たちのいた世界よりも、はるかに劣ってる、そうなると…

 

 その治療法が出来る医者が見つけられる可能性は、無いに等しいと思う…」

 

風香は暗い様子で、そう述べていく

 

「ごめんなさい…

 

 あの時、私が敵の襲撃を受けたばっかりに…」

 

「そんな、雫ちゃんは悪くないよ!」

 

申し訳なさそうにする雫を、慌てて宥めて行く雫

 

「とにかく、まずは休める宿を探しましょう…

 

 先ずは、それからね…」

 

姫奈は、そういって

まずは雫の身体を労わっていくために

休めるところを探そうと提案していく

 

他の面々も、それに賛成する

 

「‥‥とは言ったものの、どうするの?

 

 私達、ここに来たばっかりだし

 どこに何があるのかなんて知らないよ?」

 

「そうね…

 

 取りあえず、まずは

 冒険者ギルドか案内所か

 

 そう言ったところから、探しましょう

 

 町の人達に話しを聴ければいいんだけれども…」

 

風香の問いに、姫奈はまず

そういったことを教えてくれそうなところに行こうとする

 

取りあえず、町の人達に声を掛けようと思ったその時

 

「お、おいそこの女ども‥」

 

不意に声が聞こえたので、そっちの方に視線を移す

そこには肥満体で脂ぎっていて、顔もかなり醜悪なもの

 

例えるならばいい服を着ている

二足歩行の豚、そう表される見た目の人物であった

 

「お、お前達、この町の事を知りたいのか?

 

 そ、それだったら、私と一緒に来い

 

 貴族である、この私が直々に

 案内してやると言っているのだ

 

 光栄に思うがいい」

 

気持ち悪い顔を更に気持ち悪く歪めて笑い

豚のように息を荒げながら、一行に迫っていく

 

「断る」

 

姫奈はきっぱりと言い放つ

 

「な、んだと‥?」

 

「断るって言ったんだよ

 

 あいにくとそこまで困ってないし

 それに、アンタみたいに下心丸出しな奴が

 どうしようかなんて、こっちは嫌というほど知ってんのよ

 

 そういう訳だから、じゃあ…」

 

姫奈は振り返って、先を急ごうとする

 

「ま、まてっ!」

 

それでもかまわずに、迫ってくる豚男

 

「はあ…

 

 あのね、こっちは困ってないから放っておいてくれない?」

 

「ふ、ふざけるな

 

 わ、私はミン男爵の息子、プーム・ミンだぞ

 そ、その私がお前達を案内しようと言っているのだぞ!?」

 

「男爵ねえ…

 

 ぶっちゃけ私達、そういうのとは

 全然縁のない所の出身だから、はっきり言って

 そんなのひけらかされても、意味が分からないんだけど」

 

姫奈に続き、風香もいい加減にうんざりしてきたのか

豚男、ミーンに対して突き放すような言い方をしていく

 

「うぎぎ~‥

 

 どこまでも、私をコケにしおって‥」

 

「それに私達は急いでいるんです

 

 他を当たってください…」

 

纏はそういって、先に進もうとすると

そんな彼女の前に立つ者が現れていく

 

「そういかねえな

 

 坊ちゃんのお眼鏡にかなったんだ

 大人しく言う事を聞いてもらうぜ?」

 

その物は、ブーンとは対照的に

がっちりとした体つきで腕が立ちそうな雰囲気を出している

 

「誰ですか、貴方…

 

 いくら何でも、名乗らないで

 前に出るなんて失礼じゃないですか…」

 

「あいにくと俺は坊ちゃんと違って

 貴族じゃないんでね、礼節の覚えなんてねえ

 

 俺にとっては、金さえもらえれば

 相手が貴族だろうが商人だろうが文句はねえよ」

 

大男はそう言い切っていく

 

「お、おいあれって…」

 

「ああ、黒ランク冒険者

 

 暴風のレガニドだよ!」

 

「金さえ払えば、どんな奴の依頼も受けるってあの金好きの…」

 

周りの人間の会話から、この大男

レガニドという男はそれなりに名がしれているようだ

 

「やれやれ…

 

 来て早々、面倒な相手が来たわね…」

 

姫奈は不意に、自分たちの状況を見る

 

自分達には負傷して動けない雫がいる

彼女の事も気に懸けないといけない状況

 

状況的に不利なのは、明らかにこちらである

 

「レガニド、そ、その女たちは殺すな!

 

 あ、あくまで生け捕りにしろ!!」

 

「了解、その代わり報酬は弾んでくださいよ」

 

「あ、ああ、いくらでもはらってやる」

 

ミーンとレガニドがそんな会話をしていく

 

「そういう訳だ、大人しく言う事を聞いてもらうぜ

 

 生け捕りである以上は、お嬢ちゃん達の事を

 傷つけてるのは、避けたいところなんでね」

 

そういって、前に出ていくレガニド

 

「姫奈…

 

 雫の事、見てあげて」

 

それに対して、風香が前に出ていく

 

「風香!?」

 

「私ね、ずっと姫奈の後ろからついてきてた…

 

 でも、ライセン大迷宮やハルツィナ大迷宮でのことで私、思ったの…

 

 それじゃあ、だめなんだって、そんなんじゃ何にも変われないんだって…」

 

風香はそういって、姫奈の方に向いていく

 

「だから、しっかり見てて…

 

 私はずっと、貴方の背中を

 追いかけてばかりじゃないんだって…

 

 だから、ここは私が行く!」

 

そういって、レガニドの前に立ちふさがる風香

 

「‥‥わかったわ、その代わり

 貴方らしく行きなさい、私からはそれだけよ」

 

「うん」

 

そういって、風香は一人で立ちふさがっていく

 

「おいおい、お嬢ちゃん

 

 勇ましいのはいい事だが

 俺はこれでも実力で黒まで上がったんだ

 

 お嬢ちゃん一人でどうにかできるほど、俺は甘くないぜ?」

 

「御心配なく…

 

 私もそれなりに、修羅場を乗り越えてきたからね」

 

風香は笑顔をうかべて、レガニドに言い放つ

 

「‥‥いい度胸だ、坊ちゃん!

 

 多少の傷は勘弁してもらいやすよ!!」

 

レガニドはそういって、身構えていく

女相手に武器を抜く必要はないと侮っているようだ

 

風香は、あくまで相手の出方を待って

その場を動こうとしない、元の世界では

運動部のエースも務めているので、そこは冷静だ

 

「(あくまで、行き成り突っ込んでは来ねえか‥‥

 

  それだったら!)」

 

レガニドは、来ないのならばこちらか行くと

風香に向かって一気に距離を詰めていく、そこに

 

風香は、レガニドの特攻をかわして

その際に、彼に向かって蹴りを繰りだしていく

 

その一撃は見事に、レガニドの背中に炸裂する

 

「ぐおっ!?」

 

女性と思って受けた、その一撃は

油断して受け身を取っていなかったとはいえ

 

それなりに、屈強な身体付きのレガニドの身体に衝撃を走らせた

 

「‥‥っ!

 

 なるほどな、甘かったのは

 俺だったらしいな、それだったら!!」

 

レガニドは、女性だと思って甘く見た自身の判断を反省し

それならば手加減はしないと言わんばかりに、武器を取っていく

 

「俺にも意地があるんだ‥‥

 

 金がかかってだの黒のランクだのもそうだが

 何よりもやられっぱなしって言うのは性に合わねえ

 

 ぬけよ、ここからは俺も本気でいかせてもらう」

 

そういって、風香に武器を取るように言うレガニド

 

「‥‥わかった、どっちにしても

 結果は変わらないと思うけれどもね」

 

そういって、腰の両側に差している二本の剣をぬく

 

「行くぞ!」

 

レガニドは、そのまま風香に向かって斬りかかっていく

 

「‥‥なるほど、伊達に黒のランクになってはいないんだね…

 

 確かに貴方は、少なくとも今まであった冒険者の中だと

 強い方だって思う、でも私たちはここまで貴方なんかよりも

 強い相手と、刃を交えているんです、いまさらそんなので…

 

 やられたりなんて、しないよ!」

 

風香は、そういって

武器である剣をクロスさせていく

 

「っ!」

 

「風よ、闇を撃ち抜け…

 

 風斬弾!」

 

そういって、剣を振るい

そこから風の刃を弾丸の様に打ち出す

 

「ぐああああ!!!!」

 

それをまともに受けたレガニドは、そのまま

ふっ飛ばされ、その先にあった壁に思いっきり叩き付けられた

 

「がはっ‥‥

 

 これは‥‥わりに合わな過ぎだ‥‥」

 

レガニドはそう呟いて、気を失った

 

「ふう…

 

 どう、姫奈?

 

 決まった?」

 

「何よ、今の詠唱…

 

 まあ、よくやったわ」

 

姫奈は、称賛を求める風香に

呆れながらも、素直に称賛した

 

「ば、馬鹿な‥

 

 あ、あのレガニドが‥

 

 黒ランクの冒険者が‥」

 

残されたブーンは、その状況に錯乱していた

 

そこに

 

「それで、残ったのはあんただけだけね…」

 

「ひ、ひいい~!?

 

 く、来るなぁ!」

 

姫奈が、そういって

ブーンの方に向かって行く

 

「き、貴様、私を誰だと思って‥」

 

「最初に言ったでしょ…

 

 私達は、そういうのとは

 無縁の場所で過ごして来たって

 

 結局自分の家の家督しか振りかざせないなんて

 惨めを通り越して、呆れかえっちゃうわ、まったく…」

 

そういって、剣をゆっくりと抜いてそれを掲げていく

 

「わ、私はミン男爵家のブーン・ミンだぞ

 

 わ、私に刃を向けたら‥」

 

「向けたら‥‥どうなるって言うのよ!」

 

そう言って、ブーンに向かって剣を振り下ろすが

それで彼の事を斬りつけるようなことはしなかった

 

刃をぎりぎりで止めたのだ

 

ブーンは恐怖のあまりに、股間から汚い液体を流し

そのまま、地面に倒れ、そのまま気を失うのであった

 

「やれやれ…

 

 ついてそうそう、面倒ごとに巻き込まれたわね…」

 

そういって、剣を収めていく姫奈

 

そこに…

 

「そこの冒険者の方々!

 

 少しお待ちください!!」

 

そういって、野次馬をかき分けてやってきたのは

眼鏡をかけた、いかにもどこかの偉い人を思わせる服装の男性であった

 

「私は、このフューレンの冒険者ギルドにて

 秘書長を詰めております、ドット・クロウと申します

 

 失礼ですが、この騒ぎについての事情を聞かせてもらいます」

 

いかにも苦労人な感じの名前の、その男性が姫奈たちのもとに

 

「待ってください、聴取の方はかまいませんが

 うちのパーティメンバーの一人が、体調を崩しているんです

 

 あんまり時間の方はかけられないのですが…」

 

姫奈は言う

 

「…了解しました、それでは

 代表の方から詳しいお話を…

 

 そちらで倒れている方の方は

 意識が戻り次第、聴取をしますので

 まずは、うちのギルドの方にまで来ていただけますか?

 

 もちろん、体調不良を訴えている方のために

 こちらの方で宿の方を紹介させていただきますので」

 

「ありがとうございます」

 

ドットは、こちらの事情を悟り

色々と融通を聞かせてくれる様子を見せる

 

こうして、一行は町での乱闘騒ぎの事情聴取のために

冒険者ギルドのフューレン支部にまで行くこととなったのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

代表者である姫奈と、当事者である風香の二名は

案内により、客室とまでは行かないがそれなりの部屋に案内される

 

二人がしばらく、静かに待ち続けていると

扉が開き、そこから二人の男性が入ってきた

 

一人は先ほどのドット、もう一人は

金髪をオールバックに纏めた目つきが鋭い

見た目の感じは、三十代後半ぐらいの男性である

 

「初めまして、私はイルワ・チャング

 この冒険者ギルドフューレン支部の支部長を務めている

 

 君たちが町で起こした騒ぎの方だが、町の方で事情を聴いて

 君たちが、ミン男爵家の嫡男に絡まれてしまった被害者であると

 我々の方は理解している、だから別に君たちの事を咎めるようなことはしないさ

 

 それにしても、風香君…だったかな?」

 

「は、はい!」

 

風香は緊張しているのか、裏返った声で返事をしてしまう

 

「そんなに緊張することはないよ

 

 さっきも言った通り、君たちは被害者であると

 こちらの方でも、理解しているのだからね‥‥

 

 しかし、話しを聴いたときは驚いたよ

 まさかあの、レガニドを一人で倒してしまうとはね

 

 こちらとしても、君たちのような人物を

 このまま見過ごしていくと言う事も出来ない

 

 よかったら、事情の方を話せる範囲で話してもらいたいのだけれども‥‥」

 

「えーっと…」

 

風香は何から離したらいいのかと、必死に頭を悩ませていく

 

「ちょっと待って…

 

 実は、ここに来る前に立ち寄った町の

 冒険者ギルドの支部長さんから、紹介状を預かってるの…

 

 詳しいことは、ここに書いてあるはずだから」

 

そういって、姫奈は前の町の冒険者ギルドの支部長からの手紙を差し出す

 

「拝見しよう…」

 

手紙を受け取って、それをじっくりと見つめていくイルワ

 

「…何と、まさか彼からの紹介状か!」

 

「知っているんですか?」

 

風香はイルワに訪ねていく

 

「ああ、私はかつて王都にて

 ある人から教えを受けていてね…

 

 彼はその時、共に教えを学んだ友人なんだよ

 

 彼はどこか、頼りない雰囲気だったが

 人を見る目は確かでね、先生からも称賛されていたよ」

 

「そうだったのね…」

 

姫奈は、その話に不思議と聞き入っていく

 

「‥‥それにしても、驚いたね…

 

 ライセン大峡谷の異変、ハルツィナ樹海の消滅

 さらには、罪徒という未知なる脅威、いやはや

 我々の預かり知らないところで、そんなことが…」

 

「‥‥ええ、私達自身も奴らが何者なのか

 わからないことの方が多いです、一つ言えることは

 

 奴らはまさに、この世界そのものに仇名す敵であると言う事です…」

 

姫奈は、真剣な面持ちで話していく

 

「…支部長、どうしましょう…」

 

「…仕方がない、正直に言うと押しつけがましいが…

 

 もしも彼女達の言う、存在がこのトータスにいるのなら

 致し方が無いだろう、それにあのレガニドを倒すほどの実力…

 

 問題はないはずだ…」

 

ドットとイルワが小声で何かを話すと

 

「どうかしたんですか?

 

 なんだか、深刻そうな話が聞こえて来たんですけれど…」

 

風香がおそるおそる訪ねていく

 

「ん?

 

 ああ、すまない…

 

 実は君たちの実力を見込んで

 やってもらいたい依頼があるんだ」

 

そういって、一枚の紙を見せていくイルワ

 

「行方不明者の捜索依頼?」

 

「ああ、実はとある冒険者パーティーが

 北の山脈地帯に行ってから戻ってきていない

 

 その冒険者のパーティーを見つけだしてほしいと言うものだ

 無事だったらそれでよし、最悪遺品や何か持ち物、とにかく

 何か痕跡となるものをこちらまで持ってきてほしい、それがこの依頼だ」

 

イルワが依頼の内容を話していく

 

「うーん、受けるのはいいけれども

 どうして、わざわざ一介の冒険者の捜索を?

 

 それを私達に、依頼を指名するなんて何か事情のような物が?」

 

姫奈が疑問を口にしていく

 

「…その通り…

 

 実はその冒険者パーティに、私の友人の息子がいるんだ…

 

 ウィル・クデタ、クデタ伯爵家の三男

 

 彼は子供のころから冒険者にあこがれていてね

 三男だから家督を継ぐことができないこともあって

 両親の意見を振り切って、それで冒険者になったんだ

 

 そこで両親は友人である私のもとに、彼を預けたんだ

 

 私もそれを了承して、まずは簡単な依頼をやらせて

 ゆっくりと冒険者としての実績を積ませていこうと思ったんだが

 

 早く強い冒険者になりたいと言って、彼はやがて

 ランクと実力に見合わない依頼を求めるようになっていった…

 

 私は反対したんだ、そういうのはもっと経験を積んでからの方がいいと

 

 しかし、彼は断固として聞かなかったんだ…

 

 そこで私は、ある冒険者パーティに無理を言って

 彼を同行させ、冒険者の厳しさを教えようと思ったんだ

 

 それがまさか、こんなことになってしまうなんて…」

 

思いつめるように話していくイルワ

 

「‥‥なるほどね、要するに

 誰かにウィルって言う人の事を

 探してもらおうと思っていたけれど

 並みの冒険者では二次被害になる可能性がある

 

 でも、それだったら私達じゃなくても

 あのレガニドって人のような高ランク冒険者に頼めば…」

 

「…情けない話だが、今いる高ランクの冒険者たちは

 正規の手段であがったものではなくてね、それ故にほとんどは

 実力とランクが見合っていないものが大半なんだ、どうしようかと

 悩んでいた所にたまたま、君たちに出会ったという訳なのさ

 

 それに、君たちの話しや彼からの手紙の事も考えると

 なおさら、ウィルの事が心配になってしまってきてね、それで

 君たちにこの話をもってきたという訳なんだ、クレタ伯爵も心配していてね

 

 それで伯爵からの使命依頼という形で、この依頼を用意させてもらったという訳だ」

 

イルワは、改めて言う

 

「そこで改めてお願いしたい、ウィルを

 あの子を連れて帰ってきてほしい、もちろん

 それが無理ならば彼の持ち物をもってきてほしい…

 

 もちろん、報酬も用意させてもらおう

 

 自慢ではないが、これでもそれなりに

 全てのギルドにおいて大きな影響があると自負している

 

 できる限りの要求は呑む、その位の事はさせてもらうよ」

 

それを聞いて、姫奈は考え込んでいく

 

「‥‥どうするの、姫奈?」

 

「‥‥そうね、それだったら

 私たちの要求するものは二つ…

 

 一つは、私達が依頼を提示する時に

 貴方達にステータスプレートを見せることになるけど

 

 その内容を、出来るかぎりほかに漏らさない事

 

 二つは、私たちの後ろ盾になってもらう事、それだけよ」

 

姫奈はそういって条件を口にする

 

「…少し、いいかな?

 

 私達を後ろ盾にして

 一体何をしようとして…」

 

「‥‥私たちは訳ありでね

 教会や王国に追われている身なの…

 

 もしも、教会や王国の手がここまで

 回ってきたら、便宜の方を図ってもらいたいの…

 

 用はそれだけよ」

 

「王国はおろか、教会からも!?

 

 君達は一体…」

 

ドットが思わず訪ねていくが

 

「‥‥ステータスプレートの一件ですが

 あれは要するに私たちの詮索をするなという事…

 

 それが呑めないのならば、この依頼はお断りです」

 

姫奈は間髪入れずに話を進めていく

 

「…わかった、これ以上は何も聞かない

 

 約束しよう…」

 

イルワは何かを察したように言う

 

「‥‥ありがとうございます…

 

 それで、ドットさん

 他のみんなはどちらに?」

 

「はい、迎えを用意させております

 

 私が案内しましょう」

 

そういって姫奈と風香は、ドットに連れられ

彼が用意した宿泊施設の関係者が待っている

その場所にまで、案内されて行くのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

姫奈と風香が退室して

暫くすると、下手の戸が叩かれる

 

「失礼します、ドットです」

 

「うん、入ってくれ」

 

イルワに言われて、入室するドット

 

「…無事に案内の物のもとに連れて行きました…」

 

「ご苦労…」

 

イルワは、そう答えて短く息を吐く

 

「…いいんですか、支部長

 彼女達の要求を呑んでしまって?」

 

「かまわないさ、ここは中立都市

 教会も王国も関係はないさ、それに…

 

 彼女達の言う事が本当だったら

 それこそ、ウィルの命に関わるかもしれない…

 

 なりふり構わってなんていられないさ…」

 

「しかし、どういうことなのでしょう?

 

 彼女達のステータスプレートを見せてもらいましたが…

 

 あれは一体…」

 

ドットはかけている眼鏡を直しながら言う

 

「聖徒という天職に、エーテルという未知の力…

 

 彼女達は一体何者なのでしょう」

 

「何者でもかまわないさ

 

 無事にウィルを助けだしてくれるのなら

 私は悪魔にだって頭を下げる、その位の覚悟は持っているさ」

 

イルワは不意に、眼を見開く

 

「そういえば、彼女達は教会や王国に追われている…

 

 そういってたね…」

 

「そういえば…

 

 一体どうして、そんなことに?」

 

「ドット、君も耳にしたことがあるだろう

 数カ月前に、教会が召喚した神の使徒を

 王国が受け入れられたという話しを…」

 

「はい、もちろんです…

 

 ギルドの方でも、騒がれていましたから…」

 

ドットは不意に思い出したことを口にする

 

「…そういえば、その召喚された中に

 神の使徒でありながら、人類に仇名そうとした

 裏切り者がいて、その裏切り者とその裏切り者を

 助けようと手引きした使徒の一人を公開処刑したとか…」

 

「…ああ、それが本当なのかどうか

 それについては定かではない、しかし…

 

 その日から様々な異変が、世界に起こり始めている…

 

 一時期、大寒波に見舞われた王国

 

 真っ黒な炎に包まれたライセン大峡谷…

 

 一夜にして消滅したハルツィナ樹海…

 

 何よりも気になっているのが…」

 

「…罪徒、ですか…

 

 彼女達も詳しいことは知らないと言っていました…

 

 ですが、もしもその罪徒が現れたのが

 その処刑された神の使徒と関係があるとは…」

 

ドットはそんなことはないと首を横に振っていく

 

しかし

 

「…ないとは言い切れない…

 

 何しろ、この三つの異変が

 起こり始めたのは、四カ月の間だからね」

 

「四か月…

 

 確か、その神の使徒が処刑されたのも…

 

 四か月前!?」

 

目を見開いていくドット

 

「明確なことについては、私にもわからない…

 

 しかし、彼の手紙にはライセン峡谷の異変の時も

 その後、自分が指名したハルツィナ樹海の調査の方も…

 

 彼女達は戻って来たらしい…

 

 もしかしたら彼女達は、私たちの

 いいや、この世界の驚異に立ち向かおうとしている…

 

 そんな気もするよ…」

 

イルワは、どこか確信めいたように言う

 

「彼女達に、それだけの力が?」

 

「…それは答えかねない

 

 ただ、あの子達はきっと

 私たちの想像を絶するような出来事に

 直面していく、そんな気がしてならないよ…」

 

イルワは、あくまで可能性の段階と論じていく

 

「彼女達の事も気になるが、ただ少なくとも

 あの子達は自分達に牙を向けるつもりはないだろう

 だがら、現状あの子達の事については心配はいらない

 

 それよりも、気になる事は…」

 

「ヘルシャー帝国…ですね…」

 

「そうだ…

 

 ここ数か月の間、帝国からの来訪が

 何の音沙汰もなく、途絶えてしまっている…

 

 しかも、その付近では未確認の魔物の姿も確認されている…

 

 もしかしたら、彼女達の言う

 罪徒という存在が糸を引いているかもしれない…

 

 いざという時は…」

 

イルワはそこまで言って、黙り込んでいく

そんな彼に対してドットはただこう語り掛けていく

 

「支部長…

 

 くれぐれも、引き際を

 見誤らないで下さいよ」

 

「…わかっているさ…」

 

そういって、支部長室の窓をのぞき込むイルワであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

ドットが姫奈達のために手配をした宿

 

姫奈と風香が戻ってくると

そこには、ベッドに横になっている雫に

そんな彼女に付き添ってやっている香織の姿が

 

「あ、姫奈さんと風香さん…

 

 戻って来たんですね」

 

「ええ、もともと私たちが被害者だって

 理解はしてくれていたから、それについては

 お咎めなしにしてくれたよ、ただその代わりに…」

 

纏が声をかけて、風香が答えていく

最後の部分を濁すと、姫奈は机に一枚の紙を広げる

 

それは…

 

「行方冒険者パーティの捜索?」

 

「ええ…

 

 ギルドの支部長から、今回の件において

 不問にする代わりに、この依頼をうけて欲しいって言われてね…

 

 この冒険者パーティには、支部長の友人の貴族の息子さんが

 同行しているみたいでね、出来れば連れ戻してほしい、そういう依頼よ」

 

「出来れば…?

 

 それってどういう?」

 

香織は不意に、姫奈の言葉に首をかしげていく

 

「この冒険者パーティが向かったのは

 北の山脈地帯、そこでの調査依頼だったらしい

 

 ただ、その北の山脈を通り過ぎていった場所は

 ギルドも把握しきれていない、未開の地らしくてね

 

 確認されてるだけでも、強力な魔物が出没しているらしい…

 

 もしかしたら、この先で私たちの探している可能性もあるかもしれない…」

 

姫奈がざっくり言うと

 

「罪徒の事?」

 

「ええ、罪徒はトータスに生息する魔物とは

 まったく別の魔物を使役しているのは、知ってるわよね

 

 もしかしたら、そこにはそういった類の魔物が潜んでいるかもしれない…

 

 その調査もかねて、この依頼を受けてみようと思うのだけれども…

 

 どうかしら?」

 

姫奈は、そういって全員の意見を求める

 

「ちょっと待って、まさかとは思うけれど

 雫ちゃんの事も、つれていくってわけじゃ…」

 

「もちろん、依頼自体には連れて行かないわ

 

 傷を治す目処が立たないんじゃ

 つれていってもどうしようもないし…

 

 ただ、本当ならここに置いていくべきなんでしょうけれど

 場所が場所である以上は、つれていくだけ連れていくべきだと思う」

 

「連れていくって…

 

 つまり、このフューレンを離れるって言う事ですか?」

 

ラナは目を見開いていく

 

「ええ、北の山脈地帯は遠いからね

 今後はそこの最寄りの町を拠点にして行こうと思ってる」

 

「拠点の町って?」

 

香織は首をかしげると、姫奈は答えた

 

「湖畔の町、ウル…

 

 

 この依頼を受ける以上は

 この町に滞在することになるわ」

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

湖畔の町 ウル

 

 

ウルティア湖を望んでおり

この町では、湖が水を取る事ができるためか

 

稲作が盛んである、それ故にこの町では

米やそれにちなんだ名産が広く出回っている

 

「‥‥到着、ここがウルティア湖ね」

 

姫奈はそういって、広い湖を一望していく

 

そこに…

 

「雫ちゃん、大丈夫?」

 

「ええ、香織のおかげでね…

 

 香織の方こそ、大丈夫なの?

 

 ここまでの移動の間に、治癒の力を

 結構使っていたみたいだけれども…」

 

雫の身体の様子を訪ねていく香織

雫の方も、自分のために何度も治癒を使っていたので

身体の方は大丈夫なのかと、香織の事を心配していく

 

「そんな…

 

 私が雫ちゃんの為にって

 私がやりたいと思ってやってるんだよ

 

 それに、ここに来るまでの間ずっと

 かけ続けていたわけじゃないから、身体の方は大丈夫だよ」

 

「そっか…

 

 ありがと、香織…」

 

香織の様子をみて、雫の方も安心を覚えていく

 

「ねえねえ、二人も見てみてよ

 湖がすっごくきれいだよ?」

 

「え?

 

 わあ…」

 

風香がそんな二人に声をかけて

湖を見てみると、その綺麗な水に

陽の光が反射して、素敵な輝きを放っていた

 

香織も雫も、そんな景色に感銘を受けている

 

「綺麗ですね…

 

 人間族と魔人族の争いが無かったら

 このトータスも、こんなにも素敵なところがあるのに…」

 

「そうですね‥‥

 

 私も、樹海を出てから

 こう言ったところを見るのは初めてです」

 

五人は、そんな湖に目を移しながら

街の方を歩いていると、そこに呼び掛けてくるものが

 

「おーい、みんなー!

 

 そろそろ、拠点にする宿を探して

 そこでお昼ご飯にしましょー」

 

姫奈であった

 

「それにしても、すっごく素敵なところだね

 

 あんなにきれいな湖を一望できるんだし」

 

「ええ、しかもあの湖のおかげで

 この町では稲作が盛んみたいよ…

 

 つまり、ここではお米が食べられるってことよ!」

 

「「「「お米!?」」」」

 

お米、それを聞いて目を輝かせていく一行

 

ただ一人

 

「お米って何ですか?」

 

初めて樹海の外に出たラナのみが

お米という言葉に首をかしげて行く

 

「お米はね、私たちの故郷のソウルフードよ…

 

 主食として、よく食べていたんだよ」

 

「へえ‥‥

 

 つまり、このウルでは

 みなさんの故郷と同じ食べ物が食べられると?」

 

「まあ、同じかは分からないけれどもね…」

 

ラナは、一同の故郷の主食と聞き、お米に興味を持ち始めていく

 

「私、たべてみたいです

 

 みなさんの故郷の食べ物」

 

「まあ、待って…

 

 先ずは宿の方に行って

 荷物の方をまとめておきましょう

 

 そうしたら、いい時間だし

 早速、お昼を食べましょう」

 

そういって、宿に入って

受付に向かい、チェックインを済ませていく

 

「‥‥オッケー…

 

 それじゃあ、部屋に行きましょうか

 雫、お昼に行くけれども食べられそう?

 

 良かったら、部屋に直接持ってきてもらうとか…」

 

「そうね…

 

 それだったら、早速

 部屋で休ませてもらうわ

 

 ごめんね香織、ここまで苦労を掛けちゃって」

 

「いいってば、雫ちゃん

 さっきも行ったけれど

 

 私が好きでやってるんだから」

 

「それでしたら、私が雫さんを部屋に…

 

 みなさんは先に食堂に行っててください」

 

「お願いね

 

 それじゃあ、私達は

 席を取りに行きましょっか」

 

「はい!

 

 私はお米のお料理が食べたいです

 みなさんは何がおすすめはありますか?

 

 私は、それがたべてみたいです」

 

姫奈に言われて、部屋に休むことにした雫

そんな雫の事を部屋にまで連れていく纏

 

風香に言われて、先に食堂に行き

ラナはお米料理を待ちかねんとはやる気持ちを隠せないでいる

 

「まあまあ、まずは行ってからにしましょう

 

 その時にラナさんがこれだって思う者にすればいいわ」

 

「そうですね‥‥

 

 楽しみですね、皆さんの故郷の食べ物‥‥」

 

「さっきも言ったけれど、同じかどうかは…」

 

そういって、四人は食堂に向かって歩を進めていこうとした

 

その時

 

「あ、あの!?

 

 ちょっと待ってください!」

 

一同が通り過ぎた部屋の扉が

ぶち破るくらいの勢いで開けられる

 

そこに現れたのは、見た目はどこか

姫奈達と同じくらいの年代の女性がそこにいた

 

その女性の方に目を向けていく姫奈達

 

彼女達は、その女性を見て目を見開いていく

 

そこにいたのは

 

「畑山先生!?」

「先生!?」

「愛ちゃん先生!?」

 

自分たちとともに、この世界に召喚された

見た目は姫奈たちと同い年の彼女達が通っていた

とある高校の社会科の担当の教師である女性、そう

 

畑山 愛子

 

 

彼女の姿があったのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

多くのモチーフに使われる七つの大罪、皆さんが一番強いと思うのは?

  • 原罪(スルー推奨)
  • 傲慢
  • 虚飾
  • 嫉妬
  • 憤怒
  • 怠惰
  • 憂鬱
  • 暴食
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