世界に愛された元徳者と世界を憎みし原罪者 ー世界を憎みし少年とその少年より生まれし九つの罪の王と罪徒となった少女達・世界に愛された少女達と聖徒に選ばれし少女達ー   作:OOSPH

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1-2Nascitur autem peccator Erwachen des Heiligen
Et virtute, ut inquinavit Die Kraft, die Welt zu erschaffen


          

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメと渚沙が裏切り者として処刑されてから、五日はたった

 

クラスメートのほとんどが目の前でハジメと渚沙が

目の前で死んだことによって最初のうちは動揺こそ見ていたが

 

翌日から、まるで何事もないように彼らは元の生活に戻っていた

 

まるで、南雲 ハジメと言う人間なんて最初っからいなかったと言わんばかりに

 

そんな様子を異様な様子で見ていたのは

 

八重樫 雫

 

 

南野 姫奈

 

 

西宮 風香

 

 

園部 優花

 

 

宮崎 奈々

 

 

菅原 妙子

 

 

相川 昇

 

 

仁村 明人

 

 

玉井 淳史

 

 

畑山 愛子

 

 

北浦 纏

 

 

そして意外なことにその中には

 

坂上 龍太郎

 

 

彼の姿もあったのだった

 

トータスの人々の方では

 

リリアーナ・S・B・ハイリヒ

 

 

へリーナ

 

 

メルド・ロギンス

 

 

メルドに至っては立場のこともあって

どちらかにつくことは出来ないという意味で中立となっている

 

その中立に立っているのは他にも

 

中村 恵里

 

 

谷村 鈴

 

 

永山 重吾

 

 

野村 健太郎

 

 

辻 綾子

 

 

吉野 真央

 

 

以上の面々である、だがそれをお首に出す者は

悲しいが誰もいなかった、彼彼女らの心に有ったのは

ハジメへの敵愾心ではなく、下手に口を挟めば自分も

ハジメを庇った渚沙のように処刑されるのではないのかと言う恐怖

 

その恐怖によって、彼等も含め、ハジメに敵愾心を抱いている者達もまた

教会に対して下手に逆らってはいけないと言う恐怖と言う名の楔が撃ち込まれていた

 

そんな恐怖を抱いている中でもしも教会がクラスメートに戦えと言えば

それこそ戦いたくない者達でも無理矢理に戦いに行かされるのは目に見えている

 

そうはさせまいと立ち上がったのが愛子であった

 

愛子はハジメが殺されたのを知って誰よりも悲しみ

守るべき生徒を付帯も失ったことによる哀しみを押し殺し

 

教会に必死に直談判をしていく

 

その甲斐もあって戦いに出たくない生徒が戦場に

無理やり連れだされて行くという最悪の事態は防げた

 

だが、その代わり二人の生徒に関しての問題は

これで終わりだと冷たく切り捨てられてしまうのだった

 

こうして、ハジメと渚沙は使徒の中に混じった

悪魔の化身として国中に認知させられてしまうのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「‥‥…」

 

教会より戻ってきたのは一人の小柄な女性

 

畑山 愛子

 

 

背が低い事とやや幼い印象もあって生徒達から

愛ちゃん先生の愛称で呼ばれて親しまれている

 

だが、そんな彼女は今はそんな

雰囲気に意識を向けられるような状態ではない

 

「‥‥何が先生ですか…何が味方であり続けるですか…

 

 南雲君と東雲さんが訳の分からない罪を背負わされて

 みんなが見ている前で処刑されて、挙句にはそんな二人のために

 何にもしてあげることも出来なかった‥‥私は結局…あの頃と何も変わってない…

 

 ごめんなさい南雲君‥‥ごめんなさい東雲さん…」

 

そう言ってその場に立ち止まって涙を堪えようとするも

その涙を止めることが出来ずに嗚咽を漏らしながらその場に

立ち止まり、拳をぎゅっと握りしめながらなく崩れて行く

 

そんな、彼女の前に一人の女子生徒が近づいてきた

 

「…愛ちゃん先生…」

 

「‥‥園部…さん‥‥…」

 

園部 優花

 

 

七大天使の一人でクラスメートの中でハジメの味方であり続けた彼女

そんな彼女の様子は穏やかなものではないと愛子は表面上ながらも感じていた

 

「…教会の方は、なんて…?」

 

「‥‥教会は私の提案を承諾してくれました…

 

 その代わり、南雲君と東雲さんのことでこれ以上

 干渉しないようにと注意勧告を受けました、おそらく

 

 南雲くんと東雲さんをそれぞれ神の使徒にまぎれた悪魔の使い

 そしてその彼に加勢した裏切り者として片を付けたいのでしょう…

 

 生徒達の方はどうですか?」

 

「…はっきり言って雰囲気は良いとは言えません…

 

 あれ以来誰も、南雲や渚沙の話題を口にしようとする人はいません…

 

 なかには、まだ裏切り者がいるんじゃないかって疑心暗鬼に陥って

 攻撃的になっている人やほかのクラスメイトと接触するのを嫌って

 自室に引きこもりになっている奴もいます、もうこの世界に来る前の雰囲気は…

 

 無いに等しいでしょう…」

 

「‥‥そうですか…」

 

優花と愛子はどこか複雑そうな表情を浮べていた

 

「…先生…私、オルクス大迷宮でトラップにかかったときに

 南雲に助けられたんです、もしあの時南雲に助けられなかったら…

 

 私はもしかしたら、ここにはいないかもしれません…

 

 アイツには何だかんだいっつも助けられてばっかりで

 それなのに私、結局あの時何にもできなくって、あの時…

 

 先生と約束したのに…先生に心配を掛けないようにって決めたのに…」

 

「‥‥園部さん…」

 

優花は辛そうに表情を伏せ気味にしながら、涙を浮かべていく

愛子はそんな優花を見て、彼女をそっと優しく抱きしめてやる

 

「‥‥園部さん、園部さんはしっかりと

 やるべきことはやってくれました、ですから謝らないで下さい

 

 寧ろ謝るのは私の方です、私がもっとしっかり教師として

 大人として、南雲君の傍にいてあげないといけなかったのに…

 

 やるべきことを果たせなかったのは‥‥むしろ私の方です…」

 

「そんな…愛ちゃん先生は…」

 

「いいえ、あの時無理にでもこうしておくべきだったんです…

 

 そうすれば、生徒達が危険な目に合う事も、南雲君と東雲さんが

 理不尽な理由で命を奪われることもなかったんですから、本当に…

 

 本当に‥‥わたしは…」

 

思い悩む愛子に、優花は掛ける言葉が出てこなかった

ここで何か言えば愛子、ひいては自分自身を追い詰めかねなかったから

 

「‥‥それと教会は私に、あることを提示してきました…

 

 これから、国中を回って本格的な農業改革に行くことになります…

 

 数日後には神殿騎士のご同伴とともに

 近隣の町を巡っていく事になるでしょう…

 

 本当に‥‥本当に私がやるべきことは…これでいいのでしょうか‥‥…

 

 もうどうしたらいいのか‥‥わからなくなってきて…」

 

「愛ちゃん先生…」

 

すると、優花はなにかを決意したように表情を変える

 

「だったら…だったら私も一緒に行きます!」

 

「‥‥え?」

 

優花の言葉に、愛子は目を丸くして彼女の方を見ていく

 

「私たちはあいつに助けられたからこそ

 こうして生きて居られることが出来る…

 

 だからこそ、あいつに救われたこの命を無駄にしないために

 私は自分が後悔しない道を選びたいんです、愛ちゃん先生はいつだって

 私達のことは当然、あいつのことも唯一気にかけてくれていました…

 

 先生がしっかり教会に意見してくれなければ

 きっと私たちは教会に振り回されて、それこそ取り返しのつかない

 状態に陥っていたのかもしれません、だから私が先生の傍について

 

 こんどは私が先生の事を支えてあげたいんです!」

 

「園部さん…」

 

優花の決意を秘めた目つきを見て、愛子は小さく首を振る

 

「‥‥いけませんね、これじゃあ…

 

 生徒に気を遣わせてしまうなんて…

 

 こういう時こそ、先生である私がしっかりしないといけないのに…」

 

そう言って自分の両方の頬をぱんぱんと強めに叩く

 

「‥‥園部さん、ありがとうございます…

 

 すこし、前を向かないとって気持ちになりました…

 

 でも、園部さん、くれぐれも一人で無茶は

 なさらないようにしてください、貴方だって私の大切な生徒なんですから」

 

「…フフフ、はい!」

 

優花は少し噴き出しながらもすぐに返事を返していく

 

「それでは‥‥よろしくお願いしますね、園部さん」

 

「こちらこそ、お互いに頑張りましょう、愛ちゃん先生」

 

こうして二人は決意を新たに笑顔で答えていくのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

こっちの方では一人の女子生徒が自室に引きこもっている

 

白崎 香織

 

 

四大女神に数えられ、男子生徒から絶大な人気を誇る彼女

そんな彼女が自室に引きこもっているのは思いを寄せていた男子生徒

 

南雲 ハジメ

 

 

彼と通じていく事で仲よくなった女子生徒

 

東雲 渚沙

 

 

この二人が香織の見ていた目の前で殺された

正確には教会の手によって殺されてしまったのだ

 

あの後、騎士団の手によって気を失った香織は

その二日後辺りに目を覚ましたものの、ハジメと渚沙が死んだこと

そんなことがあったのにクラスメイトはいつも通りにしていたこと

 

教会は結局、ハジメと渚沙の認識を改めなかった事

 

幾つものショックを感じて、とうとう部屋に引きこもってしまった

 

雫や姫奈、風香、更にハジメのために奮闘してくれた龍太郎に

心配はないかと様子を見てきてくれた恵里や鈴などがお見舞いに来てくれた

 

光輝や檜山達などの男子生徒も見舞いに訪れようとしたが雫らに断固として拒否された

 

彼等は教会の提示したハジメは裏切り者であると言う言葉を肯定したのだ

そんな彼らを合わせればただでさえ香織は参っている状態なのに、それは

余計に彼女を傷付け、苦しめていく結果になっていく事になるであろう事は明かであった

 

「‥‥南雲君…ごめんね‥‥…

 

 あの時、決意したのに…

 

 もう二度と南雲君のことを傷つけないように

 南雲君のことを守ってあげるって決めたのに…

 

 ごめんなさい‥‥ごめんなさい…ごめんなさい‥‥…」

 

ハジメを傷つけないようにと傍にいるのだと決めていたのに

結局、彼が傷ついていくのを止められなかったことに対しての

懺悔のように、贖罪のように何度も何度も謝罪の言葉をつぶやいていく香織

 

そんな香織の自室の扉が開いていき、その中に一人の女子生徒が入っていく

 

「白崎さん‥‥お加減の方はどうですか…?」

 

「‥‥纏ちゃん…」

 

北浦 纏

 

 

七大天使の一人で、渚沙とともに

ハジメとグループを組んでいた女子生徒だ

 

「‥‥ねえ、纏ちゃん…

 

 私って‥‥誰かを傷付けることしかできないのかな…?」

 

「え…?」

 

香織はやや自暴自棄になって言葉を続けていく

 

「‥‥私はただ、中学校の時に南雲君のことを知って

 

 高校に入って南雲君のことを見つけて、仲よくなろうと

 積極的に接していって、でもそのせいで南雲君はあんなレッテルを張られて…

 

 この世界に来ても、ハジメ君はみんなのためにあんなにがんばったのに…

 

 私は、ハジメ君の事‥‥好きになっちゃいけなかったのかな…?」

 

香織は涙を浮かべながら、そんなマイナスなことを言うようになる

 

「‥‥誰かを好きになること、それはとっても素敵な事ですよ…

 

 誰が誰を好きに思う事を決める権利は、誰にだってないんです…

 

 私は香織さんが南雲さんを好きになった気もち、ほんの短い間に

 彼と一緒に過ごしていって分かった気がします、彼はあの場にいた

 誰よりも強くて頼もしい、本物の勇者だったって感じましたから…」

 

纏はそこまで言うと、香織の方を向いて笑みを浮かべていく

 

「それに、香織さんが南雲さんのことを

 好きになったことは何も不幸ばっかりではなかったと思います…

 

 だって、彼の周りのほとんどが

 彼に対して敵意を向けていた中で

 あなたは数少ない味方だったんですから…

 

 貴方の存在に本当は彼も救われていたはずですよ…

 

 ですから‥‥貴方の彼への思いを

 貴方自身が否定しないでください…

 

 それこそ‥‥彼が浮かばれなくなってしまいます…」

 

「纏ちゃん…」

 

纏の言葉を聞いて、香織は涙を浮かべていく

 

自分で自分の思いを否定するのは、本当に悲しくてつらいことだから

 

「‥‥纏ちゃん…

 

私ね、もう決めていることがあるんだ…

 

 纏ちゃんも協力して貰えないかな?」

 

「‥‥決めている事…?

 

 それは一体、何を…?」

 

纏がそれを聞くと香織は自分自身が決めたことを話していく

 

「‥‥本当にそれでいいんですね…

 

 最初に言っておきますけれど、それを選んだら

 本当の意味で後戻りはできません、それはわかっていますね?」

 

「‥‥もちろんだよ…

 

 少なくとも、私にとってはそれが十分なことだって思うから…」

 

香織の決意を秘めた瞳に纏はふっと笑みを浮かべていく

 

「‥‥わかりました、私もどこまでできるかわかりませんが

 強力をしましょう、はっきり言って私ももうあんな人たちの傍には

 

 居たいとは思いませんから‥‥でも、その代わり

 何人かに声をかけていきましょう、全員が全員、あんな人たちではないでしょうし…」

 

「そうだね…

 

 雫ちゃんは当然

 姫奈ちゃん、風香ちゃんに優花ちゃんもそうだし…

 

 それにこういうのは多い方がいいだろうしね…」

 

こうして、香織と纏は一つの決意とともに動き出していった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

更に所が変わって

 

「リリアーナ様‥‥

 

 へリーナでございます‥‥

 

 入室して、よろしいでしょうか?」

 

一人の少女がリリアーナ王女の元を訪れていく

部屋の前でそう言って声をかけていくと、中から

 

「…‥許可します‥‥」

 

「失礼いたします」

 

声が聞こえたので、へリーナは扉を開けて入室していく

彼女のほかにも何人かの人物も入ってくる、それはへリーナとは違い

 

騎士の鎧に身に纏った女性であった

 

奥のベッドの方で寝込んでいる女性に歩みよっていく

 

「…‥クゼリー‥‥

 

 あなたも来てくれたのね‥‥」

 

「‥‥申し訳ありません…

 

 へリーナがリリアーナ様のもとに行きたいと

 おっしゃっていたので、失礼を承知でご同伴させてもらいました…」

 

そう言って、奥にいる女性に向かって行って跪いて声をかけていく

 

「…‥いいえ、私の方こそ心配を掛けてしまったようでごめんなさい‥‥

 

 そのままで楽にしていてください、今は公の場ではないのですから‥‥」

 

リリアーナがそう言うと

クゼリーと呼ばれた女性騎士は顔を上げて立ちあがっていく

 

「それでクゼリー‥‥

 

 その後の動きの方は‥‥?」

 

「‥‥残念ですが、リリアーナ様の予想どおりであると

 お伝えするほかありません、国王陛下や教会たちは騎士団の者達に

 

 南雲 ハジメに勘する一切の詮索を禁止いたしました…

 

 メルド団長の方も最後まで申請をしましたが、聞き入れてもらえず…

 

 引き続き、神の使徒たちの訓練の方に取り掛かるようにともうしつけられました…」

 

「…‥あんなことがあったのに、まだ無理に戦いにいかせようとしているのですか!?

 

 彼を一方的に悪だと決めつけて、訳の分からな言いがかりをつけて

 揚句には大衆の目の前に置いて処刑を行うなど、彼のご学友たちが見ている目の前で!

 

 目の前で彼が死ぬさまを見せられたというのに、どうして‥‥」

 

リリアーナの表情は悲しみに暮れている様子で怒りの声を上げていく

 

「‥‥リリアーナ様…

 

 その件についてですが、おそらく…

 

 リリアーナ様にとっては気分の良くない話になるので

 出来る事でしたら、お話するのは躊躇われるのですが、実は…」

 

しかし、クゼリーの伝えた言葉を聞いてリリアーナはさらに怒りの声を上げていく

 

「…‥なんてすって‥‥!?

 

 彼が死に行く姿を見て、何とも思わぬばかりか

 彼の事を悪く言うとは、メルド団長より聞いた話では

 

 オルクス大迷宮で全員が窮地に陥ったのを

 ハジメさんが助けてくださったと聞きました!

 

 それなのに‥‥それなのに…その恩をあだで返すとは…なんて‥‥

 

 なんてふざけた人たちなのですか!?

 

リリアーナの怒号があたりに響き渡っていく、そんな彼女の怒り声に

へリーナもクゼリーもおっしゃる通りですと言わんばかりに何も言わない

 

リリアーナも必死で自分の中に湧き上がる怒りを抑えるように息を切らす

 

「…‥ごめんなさい…二人の前で見っともない姿をさらしてしまって‥‥」

 

「‥‥いいえ、リリアーナ様のお怒りはごもっともです‥‥

 

 むしろ、私自身も湧き上がる怒りを抑えきれないもので‥‥」

 

「ですが‥‥

 

 全員がそうであったという訳ではありません‥‥

 

 白崎殿と八重樫殿、南野殿、西宮殿、薗部殿やその友人たち

 愛子殿に至っては彼の汚名をはらそうとふんとうしてくださりました‥‥

 

 結果はあまり芳しくありませんでしたが‥‥」

 

クゼリーの言葉を聞いて、リリアーナは安どの様子を見せていく

 

「香織や雫たちが‥‥

 

 それを聞いて、少し安心しました‥‥

 

 雫と香織が向こう側でないだけでも、私としては救いです‥‥

 

 しかし…‥わたしはもう、この国と手を切るのがいいのかもしれませんね‥‥」

 

「リリアーナ様‥‥

 

 もしその時が来れば

 ご一緒させていただきますよ‥‥

 

 私はあくまで、リリアーナ様にお仕えする身ですから‥‥」

 

「‥‥私も同じです…

 

 私もはっきり言って、今の王や教会の言いなりになって

 動きたいとは、思いませんから、私も南雲 ハジメの人柄は知っています…

 

 周りからどんなにさげすまれても、その者達を傷付けるよりも

 自分を磨いてしっかりと結果を残そうとする、芯の強い御人でしたから…」

 

リリアーナは信頼のおける二人が

自分と同じ意志であることに嬉しさを感じていた

 

「…‥ええ、私にとっても彼と過ごしていく時間は

 本当にかけがえのないものでした、あのように感じられたのは

 

 後にも先にも…‥本当に…彼と過ごした…あの時間だけだったのに‥‥」

 

リリアーナの表情が段々と暗いものになっていく

それを見てへリーナもクゼリーも表情を悲し気にしていく

 

「‥‥彼のいない時間を過ごしていかなければならないと言うのならば‥‥

 

 もういっそ、こんな世界なんて滅んでしまえばいいのに‥‥」

 

リリアーナは不意にそんなことをつぶやいた

彼女のそんな発言を、へリーナもクゼリーも否定も肯定もしなかったという

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「‥‥何なんだよこれ…‥一体何なんだよ‥‥…‥」

 

有る場所で一人佇んでいる一人の男子生徒

 

坂上 龍太郎

 

 

彼は五日前に起こったハジメと渚沙の処刑を見て

いったい自分は何を信じればいいのだと思い悩んでいた

 

彼は五日前のオルクス大迷宮の時の出来事を今でも思い浮かべていた

 

龍太郎にとって南雲 ハジメと言う男子は

ハッキリ言っていい印象はなかった、例の事件もあって

彼の事を男の風上にも置けない最低最悪の屑野郎とだと

 

幼少のころから一緒だった光輝の言う事を信じていた彼は

かの事件を起こしたのはハジメであると信じて疑っていなかった

 

この世界に来てからも彼は訓練に参加することなく

図書室に転がっているという噂を聞いて、自分たちが

真剣に県連を受けているというのに一人だけさぼっているのかと

 

だが、オルクス大迷宮において彼は驚くほどの成長を遂げていった

 

極めつけは、トラップにかかってその先で

ベヒモスやトラウムソルジャーに襲われて死ぬような思いの中で

 

彼は自分達を守るために渚沙や纏とともに奮闘していった

 

そんな彼を見て、龍太郎は正直にすごいと思

ったと同時にハジメへの認識が変わっていった

 

だが、そんな折で起こったのが例のハジメと渚沙への処刑

 

龍太郎は死んでいくハジメと渚沙を見て

激しく動揺をおぼえていった、自分達のために

必死に立ち向かった彼が自分達を裏切っていたなどと

 

光輝はかたくなに彼のことを悪だと決めつけていた

だが、龍太郎はそれを聞いてふと思ってしまっていたのだ

 

裏切っていたのは自分達の方ではないのかと

 

そんなことに悶々としていく中で龍太郎は食堂に来ていた

そこには光輝や、恵里や鈴と言ったパーティーメンバーや

見慣れたクラスメートの姿があった、だが龍太郎にはそれが異様に見えた

 

「おはよう龍太郎、もうすぐオルクス大迷宮の攻略だな」

 

「‥‥お、おう…‥」

 

そう言って挨拶をかわしていくのは龍太郎の幼馴染にして親友

 

天之河 光輝

 

 

彼はいつものように話しかけていた、そう

いつものように、あの日からこれが何処か

異様に映ってしまっている、本当にこれが現実なのかと

 

「あれから畑山先生が進言をしてくれたおかげで

 訓練に参加するのは希望者となった、まあ俺も

 周りの意志を無視してまで、意見を強要するつもりはない…

 

 七日前の事もあるしな…」

 

「‥‥七日前…‥それって‥‥…‥」

 

龍太郎が恐る恐る聞いていくと

光輝はさも当然のように答えていく

 

「決まっているだろう、南雲の裏切りに巻き込まれて

 処刑されてしまった東雲さんの事さ、本当につらかったよ…

 

 出来る事だったら俺は東雲さんのことは助けてあげたかったのに…

 

 まったく南雲の奴は本当に許せないな、自分の努力不足を棚に上げて

 魔人族と手を組んで不当に力を手に入れ、挙句に俺たちの命を狙って行くなんて…

 

 あいつは卑劣でろくでもない奴だったけれどそれでも

 俺はいつかあいつが自分の罪をしっかり認めて、まっとうに

 なってくれると信じていたのに…‥本当にあいつには裏切られたよ…

 

 死んで当然とまでは言うつもりはないが、受けた報い自体は相応の者だったよ…」

 

光輝の表情はうかない者であった、だがそれはハジメが死んだことに対してではなく

渚沙が死んだことへの哀しみ、逆にハジメの方は遠まわしに裏切り者だと蔑んでいる

 

周りにいたクラスメートはそれに同意する様に光輝に頷いていく

 

龍太郎はそれに内心激しく動揺していた

どうすればいいのかと立ち尽くしていると

 

「‥‥今は何も言わずに合わせておいた方がいいよ‥」

 

そんな龍太郎に小声で話しかけていくのは

 

中村 恵里

 

 

彼女はそう言って龍太郎に下手に突っつかないように進言する

 

「‥‥中村…‥」

 

「‥‥僕も多分、坂上君とおんなじ意見だよ‥

 

 はっきり言って今のクラスの雰囲気は異常だ‥

 

 まあ無理も無いよ、南雲君が裏切り者だって言われて以来

 クラスメートもお互いがお互いのことを信用できなくなってきているからね‥

 

 気が気じゃなんだよ、僕だってこの中で信じられるのは鈴くらいだからね‥」

 

「えりりん‥」

 

恵里の言葉を聞いて安どの声で彼女の名前を呼ぶのは

 

谷口 鈴

 

 

彼女もはっきり言ってこの空気に圧され気味になっており

故に親友であると信じている恵里に信じていると言われて安心したのだ

 

「それに坂上君‥‥僕は君の事も信用できるって判断してる‥

 

 この空気を異常だと感じられているっていうだけで十分すぎるくらいにね‥」

 

「中村…‥」

 

龍太郎の表情は少し、安心したようにも思えた

しかし恵里はすぐに彼に話はここまでだと言わんばかりに座るように進めていく

 

すると、そこに一人の男性が入っていく

 

「みんな、集まっているな!

 

 それでは改めてオルクス大迷宮に向かう日程を

 ここで報告しておく、お前たちは戦いに志願すると受け取っていいんだな?」

 

メルド・ロギンス

 

 

ハイリヒ王国 王国騎士団長である彼がそう声をかけていく

すると、光輝が挙手をしながら立ち上がっていき、質問する

 

「待って下さい、メルドさん!

 

 香織と雫たちがまだ来ていません!!」

 

光輝はそう言って聞いていく

 

「…香織と雫は訓練の参加を辞退した‥‥

 

 よって二人はここにはいない、それだけの事だ」

 

 

メルド団長はそう言ってその場にいる者達に伝えていくと

思い出す様にそっと目を閉じる、それは昨日の夜にまでさかのぼる

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「…そうか‥‥それがお前たちの答えか…‥‥」

 

「‥‥はい、正直に言ってもう

 

 ここに居続けても、苦痛でしかありませんから…」

 

メルド団長の職務室

 

彼に用があってと言ってきたのは五人の少女

 

先程、率先して答えたのが

 

白崎 香織

 

 

八重樫 雫

 

 

南野 姫奈

 

 

西宮 風香

 

 

北浦 纏

 

 

彼女たちであった

 

「…この事を、光輝たちには‥‥?」

 

「話してなんていませんよ‥‥話したら絶対に止められますから…」

 

メルドの次の問いに答えたのは雫だった

 

「メルドさんも納得はしないでしょう、でも私達できめた事です…

 

 はっきり言ってここにいても教会や王国にいいように使われるのがオチです…」

 

「だから私たちは、この国を出ていこうと思ってます…

 

 あてはありませんが、少なくとも

 この国やほかのクラスメートの傍にいたいとは思いませんから…」

 

「…だが、外の方にも魔物が生息している地域だってある‥‥

 

 確かにお前たちのステータスは優秀ではあるが、だからと言って

 全てにおいて負けることがないと言うわけじゃないんだ、最悪死ぬかもしれない‥‥

 

 それをわかったうえで、この国を出ようと言うのか‥‥?」

 

「‥‥はい、異様な力を持っているからって平気で人の命を奪うこの国や教会

 

 それに対してなんとも思わないクラスのみんなの傍にいることの方が嫌ですから…」

 

メルドはそう言ってそうかとため息交じりにつぶやくと

 

「…だったら、冒険者になってみるのはどうだ?」

 

「「「「「「「冒険者?」」」」」」」

 

「うむ、面に魔物の討伐や護衛、救出などを請け負っている者たちだ

 

 危険な職業だが、その分稼ぎはいい

 国から出るのならある程度のかせぎどころは必要だろ?」

 

メルドはそう言って五人に冒険者になってみるように進めていく

 

「止めたり‥‥しないんですね…」

 

「…本来ならそうするべきなんだろうが、俺もはっきり言って

 坊主たちの処刑に思うところがあってな、それにある意味では

 俺が坊主の、ひいては二人が処刑されるきっかけになってしまったようなものだからな‥‥

 

 俺があの時、教会の意図も考えずに軽はずみな報告をしなかったら‥‥」

 

「そんな、メルド団長は南雲の処分を変えたい一心でやったんですよね!?」

 

「それでも、俺の力が及ばなかったせいで坊主は‥‥

 

 あの時坊主に俺たちは紛れもなく救われたっていうのに‥‥

 

 本当にすまなかった!」

 

そう言ってメルドは五人に頭を下げていく

 

「…だから俺は、お前たちを止めるつもりはないし止める権利もないと思っている‥‥

 

 ただせめて、謝らせてほしい、これが俺なりに出来る精一杯のけじめだ‥‥」:

 

「‥‥メルド団長、頭を上げてください

 

 私たちはメルド団長がハジメ君の事も気にかけて

 くれていたことは知っています、ですからどうか顔を上げてください…

 

 私たちはメルドさんのことは怨んでなんていません‥‥」

 

香織はそう言ってメルドに優しく話しかけていく

メルドはそれを聞いて、顔を上げて最後の言葉をかけていく

 

「…じゃあ、最後にお前たちにここで最初で最後に言っておく‥‥

 

 死ぬな、何があっても絶対に生きろ!」

 

メルドのその言葉をしっかりと受け止める五人

 

「「「「「はい!」」」」」

 

五人はそう言って、力強く返事をするのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

香織と雫がいないことを知って騒ぎ始めていく訓練志願組

 

「静かにしろ!

 

 ここに来る前に言ったはずだぞ!!

 

 訓練に参加するものはここに集まり

 残るものはしっかりとここにいるようにと‥‥

 

 2人は訓練に志願しなかった…それだけの事だ!!!」

 

「嘘だ!

 

 香織も雫も、戦いから逃げ出すような奴じゃない!」

 

そう言ってわーわー騒ぎ始めていくクラスメート達

 

すると

 

「いい加減にしろよ!

 

 さっきから聞いてりゃ勝手な事ばっかり!!

 

 あいつらが戦おうと逃げようと別にいいじゃねえか!!!」

 

龍太郎がクラスメイトに怒鳴るように呼び掛けていく

 

「そもそも、香織や雫以外にも戦いに参加したくない奴だって

 大勢いるじゃねえか、そいつらのことは無視であの二人がいないと文句言いやがって…‥

 

 俺たちは闘うためにここに来てんだ、それ以外の動機でここにいるんだったら出てけよ!

 

 はっきり言って邪魔だ!!」

 

龍太郎の激高にさわいでいた一同は一瞬に静まり返っていく

これには幼馴染である光輝もまた舌を巻いて黙りこんでいた

 

「…龍太郎の言う通りだ‥‥

 

 俺たちが求めているのはあくまで魔人族と戦えるもの…‥

 

 俺たちだけじゃない、教会も王国もそれを求めている…‥

 

 だから、それ以外の動機でここにいるのならここから出ていってくれ…‥」

 

そう言われて、その場にいたもののほとんどが出ていき

残ったのは光輝と龍太郎、恵里、鈴の勇者パーティーに

 

永山 重吾、

 

野村 健太郎

 

辻 綾子

 

吉野 真央

 

以上四人の永山パーティー‥‥‥‥‥

 

「ちょっと待てい!

 

 俺の事も忘れるなよ!!

 

「どうした、浩介?」

 

突然叫びだした男子生徒

 

遠藤 浩介

 

 

暗殺者の天職を持つ彼の特徴は影が薄い事

 

彼はこの技能(?)を使って

相手に気づかれずに行動することが出来るのだ

 

もっともこの技能のせいで訓練の時には

遅刻の常習犯のように扱われて仕舞っているが

 

「…では、ここに残っている者たちで改めて明日から訓練を再開する

 

 以前よりも厳しいものになっていく事は、覚悟しておけよ」

 

メルドがそう言って、その場に残った八人に改めて呼びかけt‥‥‥‥‥

 

「九人!

 

 だから俺も入れろって!!」

 

「だからどうしたんだ浩介?」

 

‥‥‥‥‥九人に呼びかけていくのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

王国にあるとある奴隷市場

 

そこには首に奴隷の首輪を取りつけられた者たちが

檻の中に閉じ込められ、大漁に並べられていた、そして

 

その中に怒りの表情を浮べている二人の少女がいる

 

その少女達の背中には鳥を思わせる翼が生えているのが見える

 

「‥‥くそ、なんだってあたい達がこんな目に‥‥

 

 父ちゃんも母ちゃんも殺されて、敵を討とうにも

 こんなところに閉じ込められて、ちっくしょう、なんでなんだよ‥‥

 

 なんであたい達はこんなにも無力なんだ、なんであたい達には力がないんだ‥‥

 

 力が欲しい‥‥ここにいる人間どもを全員殺せるほどの‥‥力が‥‥」

 

「ちーちゃん…」

 

そんな呪詛のような言葉をつぶやいていく少女

その少女を心配そうに見つめているもう一人の少女

 

すると、そんな二人のもとに何やら足音が静かに響いていく

 

二人はそれを聞いて、音のする方を見る

その音の発信源は自分達を閉じ込めている檻の前で止まる

 

「‥‥だ、誰だ‥‥?」

 

少女が恐る恐る声をかけると

その音を発していた人物は二人の方を見ていく

 

「…力が欲しい…

 

 君はさっきそう言っていたね…」

 

「‥‥な、何だよ!

 

 だからってそんなのお前には関係ねえだろ!!」

 

そう言って少女はその人物の言葉に強気に答えていく

 

「…君はこの世界が憎いか?」

 

「‥‥え?」

 

するとその人物は更に話しかけていく

少女は不意にその声を聴いてあっけにとられる

 

まるで、自分の心の中を見透かされたように

 

「…僕もこの世界が憎い…

 

 こんな世界なんて滅んでしまえばいいと思っている…

 

 君が望むのなら、君にこの世界を

 ここにいるすべての人間を殺すことのできる力を上げようか?」

 

「‥‥そ、そんな言葉を信じると思うか!

 

 適当なことを言ってあたしたちを蹂躙しようとしているんだろ!!

 

 お前たち人間の言う事なんて信じないぞ!!!」

 

少女がそう言って、怒りの声をあげると

その人物は檻の鉄格子を思いっきり蹴りあげる

 

すると、そこからものすごい衝撃が走っていき

それによって二人の少女は後ろの鉄格子にまで飛ばされ

 

更には周囲にあった、あたりの物がその衝撃風によって

いきおいよく吹っ飛ばされ、割れたりふっとんだりと大惨事となる

 

「ひいいいい!?」

 

少女の方も園あまりの光景におびえた声を発し

さらにその彼女の首を思いっきり掴まれて引き寄せられていった

 

「あ‥‥ああああ‥‥」

 

「僕が何だって?

 

 僕が人間だって?

 

 あの下等で存在事態が無意味な人間だって?

 

 脆弱で無知な下等生物だって?

 

 違う、僕はこの世界のいや

 すべての世界に置いて何よりも

 最強にして最高の生物なんだ、分かった?」

 

その首の締める力はすさまじく

金属性の奴隷の首輪越しにでも

かなり首が締めあげられており

 

少女は声をあげるのも

きついほどの苦しみを味わっている

 

「‥‥ゆ、許して‥‥ください‥‥

 

 謝ります‥‥謝りますから許して‥‥‥‥」

 

必死に命乞いをしていく少女

その人物は手を放してやると少女はようやく

苦しみから解放されて、急いで息を吸っていく

 

隣で其れを見ていたもうひとりの少女も

怯えた様子でその人物の方を見ていた、すると

 

「…まあいいさ、別に僕は君達にぢどうしようってわけじゃない…

 

 むしろ僕は君たち二人に提案をしようと思っているんだ…

 

 もしも君達が僕の提案を受けてくれるのなら

 君達をここから出す、ううん、出られるだけの力を授けてあげる…」

 

「‥‥提案‥‥とは‥‥?」

 

何とか声を出せるようになった少女だが

すでに抵抗する気力もない様子で、恐る恐る聞いていくと

 

その人物は口口角をにやりと上げて言った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この世界を壊したいと思わない…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

そのころ

 

城から出ていく準備を整えた

香織たち五人は人気のないところに集まっていた

 

「‥‥それじゃあ、いよいよ出発だね…

 

 みんな、聞くまでもないけれどもう後悔はしないよね」

 

「ええ、私達の意志で決めた事なんだもの…

 

 今更後戻りをしていくつもりなんてないわ」

 

「それにしても、優花は一緒に行けないのが心残りね…」

 

「しょうがないよ、優花ちゃんは

 愛ちゃん先生の護衛に行くんだって言ってたんだもの…

 

 ある意味ではそれも正解だって私はおもうよ?」

 

「そうだね…

 

 それじゃあさっそく行こう!」

 

こうして、五人はいざ

城の外に出ようと歩き出そうとしたその時

 

「香織!?

 

 雫!?」

 

後ろから聞き覚えがある声がして

うんざりした様子でその方向を見ていく一同

 

そこにいたのは光輝と迷宮志願組のクラスメートであった

 

「何をやっているんだ二人共!

 

 そんな大荷物を抱えてどうしたんだ!?」

 

光輝は五人のもとに走り寄っていく

 

「‥‥はあ、見てわからない天之河君

 

 私たちはこの城、ううん

 この国を出ていこうって決めたんだよ」

 

「何だって!?

 

 なにを言っているんだ香織!

 

 香織はこの国の人達を見捨てようって言うのか!?」

 

「当然でしょ、だってこの国の人たちは

 ハジメ君を、私の大切な人を殺したんだよ!?

 

 周りと違う力を持っているからとか

 自分達に非協力的だからだとか、そんな理由で

 意味の分からない罪を押し付けて処刑したんだよ…

 

 なんでそんな最低な人たちのために戦わないといけないの!?」

 

「香織、香織は優しいから南雲の事を信じたいのはわかる

 

 だが、現実は受け入れないとだめだ、南雲が処刑されたのは

 当然の処置なんだ、君がどうこう言ってもそれが覆るわけじゃない!」

 

香織と光輝が激しく口論をしていくと

 

「香織、落ち付きなさい!

 

 今はここで言い争っている場合じゃないでしょ?」

 

そう言って雫が光輝と香織の仲裁に入っていく

 

「雫、ありがとう、君だったら分かってくれると信じていたよ

 

 香織を説得してここに留まってこの世界の人達のために…」

 

「‥‥悪いけれど、天之河君…

 

 私も香織とおんなじ意見よ…

 

 はっきり言って私はこんな国にいたいとは思わない…

 

 あんたやほかのクラスメートのところにも、もちろんね」

 

雫の発現に光輝は呆気にとられたように黙り込む

 

「何を言っているんだ…‥意味が分からない…

 

 香織も…‥雫も…何を言い出しているんだ…‥…」

 

「分かんないんだったら教えてあげる!

 

 二人共もうあんたに愛想をつかしているのよ!!

 

 当然、私も風香も、纏もね」

 

姫奈がハッキリと自分達の意志を伝えていく

 

「そんな…‥そんなの嘘だ…

 

 だって香織も雫も俺の傍にいたじゃないか…

 

 だって二人共俺の幼馴染で…‥だから。俺と一緒に居るのが当然で…」

 

「天之河君にとって幼なじみっていう肩書は

 私達の事を縛り付けるための鎖なんでしょ!?

 

 だいたい、幼なじみだからって何なの?

 

 そんなのただ小さいころから一緒に過ごしてたってだけでしょ!?

 

 私は天之河君のものでもないし、当然誰のものでもない!

 

 私が誰の傍にいたいのかをきめるのは

 私自身が決めることにきまってるじゃない!!

 

 そんなので私のことを縛り付けようとしないで!!!」

 

香織は怒った様子で光輝に言葉を投げかけていく

 

「‥‥私ね、本当に悲しかったんだよ…

 

 あの事件が起こった原因が私が南雲君と仲よくなりたい一心で

 積極的に話しかけていったことが原因何だって、そのせいで南雲君は…

 

 ありもしない罪を着せられて、回りから冷たく突き放されて…

 

 もう、目も当てられないほどに追い詰められてるのにそれでも

 いつも通りにふるまおうとしてるのを見て、本当に苦しかった…

 

 この世界に来てからも、この世界の人達からもぞんざいに扱われて…

 

 やっと自分の力に目覚めて、みんなのことを守れるくらいに

 強くなれたと思ったら、その恩をあだで返されて処刑なんてされて…

 

 なんで彼ばっかりが責められないといけないの?

 

 彼は何にも悪い事なんてしてないのに!」

 

「それは南雲が魔人族とつながっていたってイシュタルさんが…」

 

「イシュタルさんが何?

 

 あの人が言ったことが言うなら全部本物になるってこと?

 

 じゃあもしイシュタルさんが私や雫ちゃんが

 裏切ってたって言ってたら、天之河君は信じるの!?」

 

「そ、そんなことない!

 

 俺は香織や雫がそんなことを

 するような奴じゃないことを一番理解s…」

 

「じゃあ、なんで南雲君のことは見殺しにしたの!?

 

 そもそも天之河君、私達の事知ってるって言ってるけど…

 

 結局、それって天之河君がこう

 であってほしいって考えている理想の中での私達だよね!?

 

 そういうのはね、知っているって言わないんだよ!!!」

 

香織はそう言って光輝を突き飛ばした

 

「‥‥とにかく、私達はここを出ていくよ…

 

 メルドさんにも、もう話はついてるから…

 

 天之河君に何を言われても、私達は出ていくから…」

 

「香織、待ってくれ!

 

 考え直してくれ!!」

 

光輝はなおも香織を引き留めようとしたが

そんな彼の前に姫奈と風香が立ちふさがる

 

「いい加減にしなさいよ!

 

 アンタは何処まで香織のことを傷付ければ気が済むの!?」

 

「むしろ今まで香織ちゃんと雫ちゃんが我慢して

 あんたと変わらずに接していたことに感謝してほしいものね」

 

「傷つけるだって!?

 

 俺はただ、香織のためにと思って…」

 

「違う!

 

 あなたはただ香織ちゃんをじぶんの傍に置きたいだけ!!

 

 そんなのただの自己満足だよ!!!

 

姫奈と風香、纏にも拒絶されて光輝も

そのやり取りを見ていたほかのクラスメートも唖然としている

 

「‥‥そういう事だから、私達がここを出るわ

 

 さようなら天之河君、勇者としてのお勤め頑張ってね」

 

雫がそう言って呆然と立ち尽くしている光輝にそう告げて

 

こうして、香織、雫、姫奈、風香、纏の五人は

国を出るための一歩として王城の外にまで出ていくのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「‥‥まったく、とんだハプニングに遭遇したものね…

 

 でも、天之河の奴にしっかりと言いたいこと言って

 

 ちょっと胸が空いたな…」

 

姫奈はそう言ってフードのように

布で顔を隠して国の外にまで歩いていく

 

「お腹空いたのなら何か買ってく?」

 

「違うわよ、すっきりしたってこと!

 

 まったくあんたって本当にそうやって天然かますんだから」

 

「まあ、香織ちゃんらしいよね…

 

 さあて、まずはメルドさんに勧められた通り

 冒険者になっていこうと思うのだけれど、どうする?」

 

「この国では冒険者登録は難しそうね…

 

 顔を隠しても、登録にはステータスプレートが必要だし

 私たちの名前は広くこの国の人達には知られているからね…」

 

「だとすると、まずは王都から出て

 ホルアド以外の場所の冒険者ギルドに向かいましょう…

 

 王都と外の町の方ではそれなりに

 情報規制がされているとのことですし…」

 

こうして、五人はまずは王都を出て冒険者登録をするために

どこかの町に寄ろうと計画を立てていく、そんな矢先の事だった

 

「‥‥ねえみんな…

 

 なんだか、寒くない?」

 

香織が不意にそんなことを聞いてきた

一同はそんなわけないと言おうとするが

 

他の面々も不意に冷たい空気の感触を覚えていく

 

「‥‥ほんとだ…

 

 ねえ、トータスの気候って確か

 北に行くほど暖かくなっていくのよね?」

 

「ええ、私達のいた世界とは逆にね…

 

 でも確か今の季節は、まだ温かい方のはずよ?」

 

「どういう事?」

 

そんな疑問を持っていると

不意に町の方から悲鳴が上がっていく

 

五人は何事なのかと思い駆けつけていく

 

そこには何と、全身が氷でできたような怪物が

王都にいる人々を次々と襲いかかっている光景であった

 

「何あれ!?

 

 魔物!?」

 

「どういう事なの!?

 

 確か、王都には結界が張られていて

 外部から侵入をしていくのは不可能だって…」

 

「考えている暇はないわ!

 

 とにかく何とかするわよ!!」

 

そう言って五人は人々を襲っている魔物の群れに挑んでいく

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

やがてその知らせは、王城の方にも入ってきた

 

「団長!」

 

訓練の準備を進めていたメルドの元に

騎士団の者が飛び込むようにやってきた

 

「どうした、そんなに慌てて!?」

 

「王都内部において、魔物が大量発生!

 

 住人たちを次々に襲っています!!」

 

報告をあげると、メルドは椅子を蹴飛ばす勢いで立ちあがる

 

「何だと!?

 

 被害の状況は!?」

 

「魔物の数は、いつにもまして増え続けています!

 

 被害の方は甚大で負傷者の方も多数です!!」

 

「急いで向かうぞ!

 

 近くにいるものはすぐに現場に向かう様に通達を出して行け!!」

 

メルドがそう呼びかけると騎士団の者達はてきぱきと動き始めていく

 

「どういう事だ?

 

 この王都には結界を張るアーティファクトがあって

 魔物が侵入をしてくることは無いはずなのに、いや今はそれはいい‥‥

 

 今は一刻も早く、魔物たちを討伐せねば!」

 

そう言ってメルドの方も急いで出撃をしていくのだった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 


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