世界に愛された元徳者と世界を憎みし原罪者 ー世界を憎みし少年とその少年より生まれし九つの罪の王と罪徒となった少女達・世界に愛された少女達と聖徒に選ばれし少女達ー   作:OOSPH

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Mediolanum Praeses Ritter der Kälte

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

王都において突如発生した異常な温度下降に

さらには結界に守られて、侵入することのない魔物の大量発生

 

その場に居合わせた香織たちがその謎の氷の魔物たちに戦いを挑んでいく

 

「はああああ!!!」

 

まずは雫、姫奈、風香が先行していき

それぞれが氷の魔物たちに攻撃を仕掛けていく

 

雫がまずは一体に一撃を叩き込むと

何とも呆気ないぐらいにバラバラに砕けてしまった

 

「‥‥今のうちに早く逃げてください!」

 

「あ、ありがとうございm…うう…」

 

助けられた人々は、お礼を言おうとするが

体を震わせる、さらにはその場に蹲るように固まってしまう

 

「っ!?

 

 なにこれ…さっきより寒さが増してるじゃない!?

 

 うう‥‥こっちの方も寒くなってきた」

 

「本当にどうなってんのこの寒さ…

 

 うごけなくなる前に何とかしないと」

 

寒さによって体力が奪われているのに気が付き、姫奈と風香は

このままでは自分達が動けなくなってしまうと畏怖していく

 

すると、後から香織が魔法を掛けていく

 

「これで少しは大丈夫だよ」

 

香織はそう言って寒さに震えた二人や

助け出された人々の方に回復の魔法を掛けていく

 

「‥‥ありがと、でも香織は住人たちの方の治療をお願い!

 

 私は出来る限りは自分の力だけでやってみるから!」

 

「私も、みんなのことお願いね香織ちゃん!」

 

そう言って姫奈は香織に住人たちの治療するように呼び掛ける

 

香織も分かったと返事をしていき

住人たちに出来るだけ魔法を掛けていく

 

「やああああ!!!」

 

姫奈は武器である剣に自身の適正魔法である

炎の魔力を流し込んでいき、それを使って氷の魔物たちを切り伏せていく

 

氷の魔物たちはそれでも姫奈に襲いかかっていき

左腕からひものようなものを飛ばし、それで魔物たちを縛り付けていく

 

魔物たちはその糸を千切らんともがくがその前に

 

姫奈がその紐に自身のもう一つの適正である電撃流し

それで魔物たちをあびせていく事で、魔物たちの息の根を止めていく

 

「さっすが姫奈!

 

 私も負けて居られないよ!!」

 

そう言って風香の方も姫奈に比べると細身の剣を

すばやくふるって行き、更に風属性の魔法を体にまとって

 

それで、冷気を吹きとばし、少しでも寒さを軽減している

 

そのおかげで寒さのせいでぎこちなかった動きも

風香のバスケ部で鍛えた動きと柔軟さが蘇り、魔物たちを次々と切り伏せていく

 

「はあ!」

 

雫も幼少期から始めていた

剣道によって鍛えられた身体能力で

剣こそ雫の技にはあっていないが、そこは

彼女の技術センスもあってそこで補っている

 

こうして、魔物たちを次々と撃破していく三人だったが

それでも魔物の方が数が多く、それによって圧され気味になっていく

 

「さすがにこれはまずいかもね…」

 

「ええ、私と風香は魔法のおかげで寒さを抑えられるけれど…」

 

姫奈と風香は息を切らしながらも、それでも戦う余力は残っている

 

だが

 

「はあ‥‥はあ…はあ‥‥…」

 

雫の方はひどく息を切らしている

だが、身体能力面では二人にも劣らぬ雫が

ここまでどうして苦しそうにしているのか

 

その理由は明白であった

 

「ひょっとして雫ちゃん!?

 

 風邪ひいちゃったの!?」

 

香織の言う通り、雫はあまりの寒さ故に風邪を引いてしまっていたのだ

 

「‥‥大丈夫、足手まといには…ならない、から‥‥…」

 

「そんな状態で戦う方がむしろ足手まといよ!

 

 香織、雫をお願い!!」

 

「雫ちゃん!」

 

姫奈は雫に大人しくするように言い、香織に彼女を預ける

姫奈と風香は再び、魔物の群れの方に立っていき再びいどんでいく

 

「雫ちゃん!」

 

「香織‥‥ごめんなさい…心配かけちゃって‥‥…」

 

辛そうに涙を流していく香織に雫は弱弱しく言う

 

「‥‥ううん、私の方こそごめん…

 

 雫ちゃんにはいっつも助けてもらってばかりいたのに

 私はいっつも雫ちゃんの事を振り回してばっかりいて…

 

 雫ちゃんの気持ちを考えもしないで、いっつも我儘ばっかりで…

 

 それなのに私‥‥雫ちゃんには何にもしてあげられてないよ…」

 

「香織…」

 

香織は雫を治療しながらも涙ながらに謝罪していく

 

「‥‥でも、もう私には雫ちゃんしかいないの…

 

 ハジメ君が目の前で殺されて

 また私の大切な人がいなくなって…

 

 こんな時に雫ちゃんまで何かあったら…

 

 私‥‥私…うああああ‥‥…」

 

「香織…」

 

雫は香織の頬に優しく手を添えてやる

 

「大丈夫よ香織‥‥わたしは絶対に香織の傍からいなくならない…

 

 どんな時でも、どんなところでも‥‥私は香織の傍にいるから…

 

 それにね‥‥香織は何にもしてあげられてないって言ったけど…

 

 そんなことは無いわよ…」

 

「ふえ…?」

 

雫は笑みを浮かべて香織に言って行く

 

「私が光輝の事でいじめられていた時…

 

 精神的にも打ちのめされた私のことを

 救ってくれたのは、ほかでもなく貴方よ香織

 

 香織がいたから、私はこうして前を向けるようになったの…

 

 そんなあなたが南雲君のことでいっつも嬉しそうにお話してて

 あなたのそんな幸せな声を聴いて、私も本当に嬉しい気持ちになっていたもの…

 

 だから、そんな悲しい顔をしないで‥‥私はそばにいるから…一緒に居てあげるから‥‥…」

 

「雫ちゃん…」

 

雫の言葉に心が温かくなっていく感じになっていく香織

 

その間

 

「数は減ってきている、元が多すぎてどうしても押しきれない…」

 

「一気に倒しきることが出来れば…」

 

二人で奮闘していた姫奈と風香だが、そこに

 

「姫奈さん、風香さん!

 

 お二人共、下がってください!!」

 

纏が武器である棒状のアーティファクトを振るって

ふたりの間を駆け抜けていくと、棒を慣れた手つきで振り回していき

 

「はああああ!!!」

 

其れを振り降ろすと、目の前にいた

魔物たちを見事に全滅させて見せる

 

「纏!」

 

「ありがとう纏ちゃん!

 

 すっごい威力だね」

 

「‥‥ごめんなさい…ちょっと無理してます‥‥…」

 

そう言う纏の表情は疲れている様子だった

 

「そう言えば、さっきまでいなかったけれどどうしてたの?」

 

「はい、魔物に襲われている人たちの救出に

 行っていたのですが、その途中で厄介な人達に遭遇してしまいまして…」

 

「厄介な人たちって?」

 

そう言って纏が気まずそうに視線を横に向けていくと、そこに現れたのは

 

「みんな、無事か!?」

 

何とさっきまで香織と言い争いをしていた、男子生徒

 

天之河 光輝

 

 

その傍には彼のパーティーメンバーである

 

坂上 龍太郎

 

 

中村 恵里

 

 

谷村 鈴

 

 

更には他のパーティーメンバーである

 

永山 重吾

 

 

野村 健太郎

 

 

辻 綾子

 

 

吉野 真央

 

 

この八名が駆けつけてきた

 

「天之河君…」

 

「香織!

 

 良かった無事だったんだな…‥って雫!?

 

 どうしたんだ、怪我でもしたのか!!」

 

光輝は先ほど香織と口論をしていたことなんて

もう忘れているかのように二人に話し掛けていく

 

すると、光輝は図々しく体調を崩したシズクの方に行こうとすると

 

「やめて天之河君!

 

 雫ちゃんは風邪を引いているんだよ!!

 

 今は安静にさせてあげないと…」

 

「何だって!?

 

 それは大変じゃないか

 急いで城に戻って手当をしないと…」

 

光輝はそう言って雫を城に連れていくように勧めていく

 

確かに普通に考えれば王城に連れて行って

そこで安静にさせておく方がベストではあるだろう

 

だが

 

「悪いけれど天之河君…

 

 雫ちゃんも私達も御城には戻らない!

 

 言ったでしょ、私達はもうこの国を出るんだって!!」

 

「そんなことを言っている場合じゃないだろう!

 

 早く雫を治さないと取り返しのつかないことになるぞ!!」

 

香織の言葉を聞こうともせずに雫を連れて行こうとする光輝

だが、そんな光輝の肩にポンっと手を置いて彼を止めるのは

 

「よせ、光輝

 

 悪いが俺たちがやるべきことは

 香織たちを連れ戻す事じゃなく

 この王都にいる人びとの救出だ

 

 雫の体調のことはもちろん心配だが

 何も王城に連れていくほどのものでもない」

 

「メルドさん…!?」

 

メルドはそう言って香織と雫たちの方に向いていく

 

「香織、雫の病気の方は治せるか?」

 

「はい、私自身治療の方に当たっているので

 魔力の方にも余裕はあります、ですので問題は無いです」

 

メルドは香織の問いに、ただ、そうか、と呟いた

 

「メルドさん!

 

 雫が心配じゃないんですか!?」

 

「もちろん、心配だとも!

 

 だが、ここには治癒師の香織もいる

 雫のことは香織に任せておけばいいだろう‥‥」

 

「だからって…

 

 あんなにも弱っている雫を見て放って置くなんて…」

 

「俺たちにはもっと放っておいてはいけない者達がいる!

 

 どこから魔物が発生しているのかわからない以上

 また魔物の大群が現れて、住人たちを襲い来るかもしれない!!

 

 そうなる前に俺たちは住人たちの避難の方を勧めておかなければならん!!!」

 

メルドがやや厳しめに光輝に言い聞かせていく

 

「ですが…」

 

「香織たちのことは香織たち自身で決めた事

 それに関しては俺も了承した、だからもう俺から

 香織やお前たちにいう事は何もない、俺たちは引き続き町の様子を見る‥‥

 

 光輝たちもついてこい、俺の制止も聞かずに勝手に飛びだしてきたのだ

 だったら最後まで付き合ってもらうぞ、言っておくが意見は求めんからな」

 

メルドにそう言われて、まだ納得がいかない様子を見せている光輝だが

そんな彼に話しかけていくのは彼以外のパーティーのメンバーであった

 

「なあ、光輝…‥

 

 俺はメルドさんの意見に賛成だ

 

 俺だって正直言って別れるのは思うところあるけどよ

 

 あいつらがそう決めたっていうんなら

 それを止めるのはなんか違うんじゃねえか?」

 

「龍太郎…?」

 

「‥‥光輝君、僕も坂上君とおんなじだよ‥

 

 南雲君が処刑されてしまってから、もう

 ぼくたちの関係は大きく変わっちゃってる‥

 

 光輝君には納得できない事かもしれないけれども

 はっきり言って僕だって香織や雫たちとおんなじ気もちさ‥」

 

恵里はうつむき気味な様子で光輝に話していく

 

「恵里まで何言ってるんだ…」

 

「‥‥正直に言うとね、僕は南雲君が処刑されたことには納得いってないんだ‥

 

 だって、僕もみんなも彼が命をかけて僕達のことを守ってくれたのに

 教会の奴らはそんな彼を本来だったら彼に着せるべきでない罪を着せて処刑した‥

 

 その時はっきりしたんだ‥‥僕たちなんて所詮、戦争の道具でしかないんだって‥

 

 でも愛ちゃん先生が決死の説得をしてくれたおかげでそんな僕たちにもようやく

 選択の余地を与えられる機会を得られた、そうして香織たちはこの国を出る選択をした‥

 

 それだけのことさ‥」

 

恵里はしんけんな表情で光輝に話していく

 

「エリリン‥」

 

その様子を彼女の親友である女子生徒

 

谷村 鈴

 

 

彼女が見ていく

 

「‥‥うん?

 

 ねえ、みんな‥‥なんかやけに暗くない?」

 

纏が不意に周りを見て呟いていく、すると

 

「っ!?

 

 気を付けて、何か来る…

 

 さっきまで戦ってきた奴よりも…

 

 ううん、この感じは…」

 

姫奈がそこまで言いきろうとすると

一同の前に一人の人物がおり立っていった

 

そこにいたのは

 

「何?

 

 あたいの創ったマモノが次々と

 倒されて行くのが感じたから何事かと思ったら…

 

 へえ‥‥何、そこの無駄にギラギラしている鎧付けたやつ…

 

 まるで、物語とかに出てくる、勇者君みたいじゃないか」

 

一人の少女であった

 

少女は何やら学生服と軍服を合わせたような服に身に纏い

更にその上に氷のように白銀の外套を羽織っており、彼女の頭部には

 

狐を思わせる耳がまるで角のように生えていた

 

「あの耳…狐人族か!?」

 

「かつてはね…でも今の私は魔力と言う恩恵を受けられず

 お前たち人間どもに虐げられてきた亜人ですらもない!

 

 アタシはお前たち人間どもへの復讐のために有る御方より力を賜ったもの…!!

 

 それが今のあたしさ」

 

そう言って笑みを浮かべながら言う

 

「…‥これは君の仕業なのか!?

 

 だったらもうこんなことはやめるんだ!」

 

「ふん、言われて止めるくらいだったらこんな事するわけないじゃん

 

 それに今のあたしには、お前たち人間どもの悲鳴こそが最高の癒しなのさ!」

 

そう言ってその女性がダンと勢いよく地面を踏みつけると

そこを中心に氷が張っていき、それは瞬く間に周りの地面や建物を凍らせていく

 

「一瞬でこれほどまでの範囲を凍らせた‥‥!?

 

 と言う事はこの国をこの冷気に包み込んだのは貴様か!」

 

「そうだよ、ついでにこの国の人間どもをマモノに襲わせたのもあたしさ…

 

 アタシがその気になったらこんな程度の国を

 一瞬で氷の世界にかえちゃうなんてたやすいことだよ」

 

そう言って高らかに言い放っていく少女

 

「だったら力づくでも止めさせてもらうぜ!」

 

「まて、龍太郎!」

 

そう言って拳を構えていく龍太郎、さらにそこから攻撃を放っていく

 

だがそれを少女は何の抵抗もなしに受けて見せる

するとなんと、彼女は傷一つつかないどころか微動だにもしていない」

 

「んな!?」

 

「こんな程度?

 

 もっと攻撃してきなさいよ?」

 

そう言って挑発をしていく少女に、更に攻撃を仕掛けていくが

何度は鳴ってもその場から動かす事すらもままならない様子を見せた

 

「ぐう‥‥俺の攻撃が効いていない!?」

 

「貴方の攻撃なんて、私の身体を傷付けることなんてできないわよ

 

 これで終わりだって言うなら、次はアタシの番だね」

 

そう言って彼女は外套の袖から右手を突き出すと

その手に冷気を纏わせていく、すると腕は氷に包まれて行き

 

やがて一本の太く大きな剣のような形状となった

 

「何だあれは‥‥!

 

 あんな能力、見たことがないぞ‥‥」

 

すると、少女はすばやく踏み込んでいき

一同に向かってその剣をいきおいよくふるって行く

 

騎士団の一人がそれを受けようとするが

少女の振るった剣はその防御と鎧事その剣を切り裂いて見せた

 

「エイト!?」

 

体を両断されて、そのまま動かなくなった騎士団員を見て

光輝たちクラスメートは言葉を失ってしまう、だが少女はそんな

彼らの様子など知らないと言わんばかりに自分の剣についた血を払う

 

「フフフフフ…

 

 素晴らしいわ、これが私の新しい力…

 

 ううん、私の新しき姿…

 

 全ての人間を殺しつくすことのできる最高の力よ!」

 

そう言ってさらに騎士団たちに向かって行く少女に

騎士団たちは次々と切り伏せられていく、メルドは其れを見て

 

後ろの方にいるクラスメートたちに呼びかけていく

 

「お前たち!

 

 直ぐに撤退しろ!!

 

 こいつらは俺たちが止める!!!」

 

「何言ってるんですか!?

 

 メルドさんを置いて逃げるなんて…」

 

「馬鹿者!

 

 ベヒモスとの闘いのことを、もう忘れたのか!!」

 

メルドにそう怒鳴られて、光輝は口を紡ぐ

 

「いいか、ここには動けない雫がいる!

 

 ここは雫を連れて離れるんだ!!

 

 俺たちが何とか時間を稼ぐ、その間に行け!!!」

 

「光輝君!

 

 ここはメルドさんの言う通りにするよ!!

 

 私達が思いっきりメルドさん達が戦えるようにするの!!!

 

 だから、急いでここから離れるよ!!!!」

 

恵里が光輝に言い聞かせる様に言って行く

 

「…‥わかった…

 

 みんな、強力してくれ!」

 

そう言ってクラスメートたちは動けない

雫を連れて急いでその場を離れていくのだった

 

「あーっはっはっはっはっはっ!!!

 

 ここから離れるってそれって本気で言ってるの?

 

 さっきのあたしの言葉聞いてなかったの?

 

 アタシが本気になれば

 この国氷漬けにするくらいたやすいんだって…

 

 つまり、何処に行ってもあんた達に逃げる場所なんてないんだよ!」

 

そう言って全身からとてつもない冷気を噴き出していき

それをもろに浴びてしまったメルドはほぼ全身に凍傷が出来てしまう

 

「ぐううう‥‥

 

 それでも、たとえそうであっても

 俺はこの国の王国騎士団長として‥‥

 

 この国に危害を加える者を放ってなどおけるものか!」

 

それでもメルドは寒さと凍傷によって

感覚がマヒしていきながらも、それでも持てる力をすべて使って向かって行く

 

「ホント…‥人間って言うのは本当に弱くて愚かな生き物だよね…」

 

そう言って呆れたような口調で右腕に装着された剣をふるっていった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「雫ちゃん!」

 

どうにか建物の中に入って

暖を取ろうとするが、辺りが冷たい空気に覆われているせいで

火をつけることも出来ず、だったらと香織が近くにあった布を羽織って

 

それで雫にぴったりと寄り添って行く

 

「思い切ったことするのね、貴方…」

 

「ごめん‥‥でもこれぐらいしか思いつかなくって…」

 

姫奈に突っ込まれるが、香織も自覚はあったようで苦笑いを浮かべていく

 

「それにしても、今の奴って一体何なんなの?

 

 見たところ、亜人って言う人のようにも思えたけれど…」

 

「でも確か亜人は魔力を持っていないから、魔法は使えないって聞いたよ?

 

 それにさっきの子、自分達はもう亜人じゃないみたいなことも言ってた…」

 

「とにかく、こんな状態が続いてたら雫ちゃんはもちろん…

 

 私達の方もあぶなくなる…‥このまま隠れていても状況は変わらない…」

 

どうにか対策を練ろうと考える姫奈たちだが

 

「だったら早くメルドさん達のもとに!

 

 早く助けに行かないと…」

 

「バカ、行ったところで勝てるわけないでしょ!

 

 アイツは間違いなく、あの時に戦ったベヒモス以上に強敵よ…

 

 ベヒモスでも倒しきれなかった私達が勝てるはずないじゃない!!」

 

考えなしに向かおうとする光輝に姫奈が激しく抗議する

 

「‥‥俺の渾身の一撃も効かなかった…‥

 

 ここで待っていても状況は変わらねし

 だからって戦いに行っても勝てるわけもねえ…‥

 

 こういう時はどうしたらいいんだよ…‥」

 

「‥‥相手はもとより人間を殺すことを目的としてる‥

 

 きっと私達が降参を提示しても

 あいつは容赦なんてしてこないと思う‥

 

 はっきり言ってこっちにはカードが無いに等しいんだ‥」

 

龍太郎も恵里も、精神を張り詰めていき余裕がなくなっていく

 

すると

 

「えーりりん!」

 

「うわっ!?」

 

鈴がいきなり恵里を後ろから抱きしめていく

 

「なーに、思いつめた表情しているのエリリンもさがみんもさ」

 

「鈴‥

 

 こういう時くらいはふざけないでまじめに‥」

 

「ふざけるよ!「

 

「‥‥え?」

 

恵里は不意に鈴の方を見る

 

「鈴はね、どんな時でも自分らしさを失わない!

 

 周りにどんなことを言われても、蔑まれたって

 だってこれが鈴らしさなんだもん、鈴はさ、はっきり言って

 こんな暗い空気なんて耐えられないもん、だったら無理にでも

 笑った方がいいに決まってんじゃん、笑えば気分が晴れるしね‥」

 

鈴はいたずらっこな笑みを浮かべて、一同に言って行く

 

すると

 

「‥‥フフフフ、鈴がいつも通りでちょっと安心したよ

 

 ほんとにこんな状況なのになあに馬鹿な事やってるんだか‥

 

 でも‥‥鈴の言う事にはちょっと賛成かな‥

 

 こういう状況だからこそ、どうにかしないとね」

 

「へ、どんな時でも自分らしさを失わない‥‥か…‥

 

 まったく、何かを深く考えるなんて俺らしくもなかったな…‥

 

 今は何も考えずに生き残る事のみを考えようぜ、光輝…‥

 

 メルドさん達のことは心配だが、きっと大丈夫だ

 なんてったってここにいる俺たちよりも強いんだからな…‥」

 

「龍太郎…‥恵里…鈴…‥…」

 

二人の表情に笑顔が宿っていき、光輝も呆気にとられ始めた、そこに

 

「っ!?

 

 みんな、建物から出て!」

 

姫奈がそう言うと、一同は急いで建物から出ていく

すると、建物に氷が走っていき、やがて建物は氷に包み込まれて行く

 

一同はそうなる前に、無事に建物から脱出するのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

一同が建物から出てくると、そこに現れたのは

 

「み~つけた~…

 

 かくれんぼはもう終わりだね?」

 

先程の元狐人族の少女が右手に剣を装着して佇んでいた

そして、左腕の方には一人の男性が首を絞められていた

 

その男性は

 

「っ!?

 

 メルドさん!?」

 

凍傷と敵の攻撃を受けた傷で

ボロボロになってしまっているメルドの姿であった

 

それを見た光輝は聖剣を手にしていき

天翔閃を放とうとしたが、突然魔力を感じられなくなっていく

 

「っ!?

 

 なんだこれ…」

 

「私達‥‥魔力が使えなくなってる!?

 

 どういう事…?」

 

突然、魔法が使えなくなったことに驚き慌てた様子を見せていく一同

 

そんな一同をおかしいものを見る様子で大きな笑い声をあげていく少女

 

「あーっはっはっはっはっは!!!

 

 何その顔、魔法が使えなくなって程度大したことないでしょ?

 

 あーそっか、あんたたち人間族は

 魔法に頼りっぱなんだもんね、私達

 亜人は魔力がなくって魔法が使えない事なんて当たり前だから

 わからなかったよ、でもこうして傍からみて見ると、想像以上に

 滑稽な光景なものね、あんたたちの気持ちも分かる気がするわ!」

 

少女は剣を装着していない左手を抱えて笑って行く

 

「今この国は私の広げた空間、ラルヴァフィールドっていう

 空間を張っているのよ、この空間ではいかなる力も私の力に塗りつぶされる…

 

 つまり、あんた達の自慢の可愛らしい魔法はもう使うことは出来ないってことよ」

 

「ラルヴァフィールドですって…!?

 

 そんな‥‥タダでさえ力の差は歴然なのに

 魔法まで封じ込められてしまうなんて、どうしたら…」

 

姫奈はとにかく武器である剣を構えていく

せめてもの抵抗だ、だがこれでも目の前の相手を倒しきるのは無理だろう

 

「本当にすごい力よ…‥世界を瞬く間に制してしまうなんてね…

 

 この力さえあれば私は何でもできるし、何にでもなれる…

 

 この国にいる人間全員を皆殺しにだってできるんだからあああああ!!!」

 

そう言って少女が叫ぶように言うと彼女の背中から

三対の巨大な天使のような翼が展開され、一本のまるで

霜が走っている様な形状の尾が展開する様に振るわれていく

 

「どうする‥‥このままだと…」

 

この場に居る誰もが目の前にいる敵の様子を見て悟っている

 

ただでさえ力の差が歴然だと言うのに

その上に魔力が封じ込められて、向こうも本気になっている

 

とてもではないがまともにやり合えるとは思えない

 

だが、それでも立ち上がっていく一人の人物がいた

 

「メルドさんを…‥メルドさんを…放せぇ!」

 

光輝であった

 

彼は武器である聖剣を手に目の前の強敵に立ち向かおうとしていく

 

「あーっはっはっはっはっはっ!!!

 

 逃げられないって悟って、自棄になった?

 

 それとも、勇者様は諦めが悪いのが売りなのかな?

 

 いいよだったら相手になってあげる

 あんたが私の相手になれるんだったらね!」

 

そう言って右手の剣をふるって冷気を纏った斬撃を放っていく

光輝は其れを聖剣を使って受け止めようと試みていくのだが

 

「ぐあああああ!!!」

 

大きく吹っ飛ばされ建物に叩きつけられてしまう

 

「光輝君!」

 

「ぐう‥‥俺たちの方も魔法が使えれば…」

 

クラスメートの中でも強い光輝が

ふっとばされてさらに追い詰められていく一同

 

「何よ?

 

 これが人間族を救う勇者とでも言うつもり?

 

 だとするなら人間族…‥ここで終わりね…」

 

そう言って冷めた様子の表情で見つめる少女

 

だが、そんな彼女の前にもう一人

立ち向かわんとしていくものがいた

 

「‥‥香織…悪いけれど、そいつらの事見ていてもらえる?

 

 私が何とかして引き付けて見せるから!」

 

「姫奈ちゃん…」

 

姫奈がそう言って剣を手に対峙していく

 

「ふうん…‥次は貴方が相手になってくれるんだ?

 

 でも、貴方からは少なくともさっきの勇者君に比べれば

 感情をむき出しにしている感じがしないけれど、其れとも?

 

 動揺を必死に隠しているのかな?」

 

「‥‥御託はいいわ…

 

 私はただ、私がやるべきことをやるだけよ!」

 

そう言って剣を逆手に持って姿勢を低く構えていく

 

「…‥なるほど、さっきの勇者君よりは骨がありそうだ…

 

 だったら、精々頑張って私に傷の一つでもつけてみるんだね!」

 

そう言ってメルドを無造作に放り投げていき

右腕に装着された剣で空を切り、構えていく

 

「‥‥どんな時でも自分らしさを見失わないか…

 

 それを聞くと一番に思い浮かぶのはあいつね…」

 

そうつぶやいて一呼吸置くと、姫奈は敵に挑んでいく

 

その際に脳裏に浮べたのは例の彼の事であった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

元の世界にいた時、彼は例の事件のせいで

ありもしない容疑を掛けられて、学校でも家でも

理不尽な扱いを受けてしまっていた、その様子に心を痛めていた姫奈

 

何故なら、例の事件に関して彼女もある意味では関わっているのだ

 

學校では毎日のように檜山達にいいようにこき使われ

何かがあるとすぐに彼のせいにされ、本当は彼自身相当参っているはずだ

 

其れでも彼は、決して自分を見失うことなく、彼なりに前を向いている

 

姫奈はそんな彼をすごいと思うと同時に心配をおぼえる様になる

 

だが、姫奈自身でもこの状況をどうにかする術もなかった

 

それが心苦しかった

 

あの時助けてもらったのに

 

自分のせいで苦しむことになってしまったのに

 

そんな折に訪れたのは、異世界召喚

 

訳も分からずいきなり戦争に参加させられて

揚句にはクラスメートの軽率な行動のせいで死地に追いやられ

 

だが、それを救ってくれたのも彼だった

 

姫奈はまた、いいや今度はクラスメート全員のことを

救ってくれたんだと感激もした、これでようやく彼も報われる

 

そう思っていたのに

 

この世界でも彼は全ての罪を着せられ、人々が見ている前で殺された

 

その様子を、笑いを浮かべながら

見つめているクラスメートを見て恐怖を覚えた

 

姫奈はもう、何を信じればいいのかわからなかった

 

しかし、そんな中でも抗うものはいた

 

彼の事を最後まで信じてくれた先生

 

彼を誰よりも思い、誰よりも彼を愛した少女

 

彼が死んで何もできなかった自分よりもずっと強く映った彼女達

 

その彼女たちのように強くなりたいと、彼女は

そんな少女の傍で支えてやりたいと願い、彼女の誘いに乗ったのだ

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「がはあ!」

 

姫奈は壁に叩きつけられて吐血する

その吐血した血も空中において瞬く間に凍り付き

 

地面に落ちて砕け散る

 

そんな姫奈の身体は、戦いで受けた傷と凍傷でもうボロボロである

 

「姫奈ちゃん!

 

 お願いだから早くにげて!!」

 

香織の悲痛な言葉が響いていく

 

「‥‥ぐう…」

 

姫奈はもう限界が近いのか、その場に跪いてしまう

 

「覚悟だけは認めてあげる

 

 でも、もうこれ以上は無理な様ね…

 

 だったらせめてもの情けとして

 苦しまない程度に一瞬に殺してあげる」

 

そう言って氷で生成した剣をゆっくりと振り上げていく

 

「‥‥ごめんね、南雲くん…

 

 結局私、貴方に何にもしてあげられなかった…

 

 でも‥‥だからこそもう二度と…

 

 守れなかったと二度と後悔なんてしたくない!

 

 あの時あなたが見せてくれた勇気に答えるためにも!!

 

 こんなところで倒れてなんて、いられないのよ!!!」

 

姫奈はそう言って剣を再び構えて言いきって見せた

 

「そんなボロボロの状態で一体何ができると言うの!

 

 悪いけれどさっさと終わらせてもらうわ!!」

 

そう言って素早く向かって行く少女

 

「終わったりなんてしない…

 

 終らせたりするもんか!

 

 彼があの時に見せてくれた勇気を見習って

 私は絶対に最後の最後まであきらめたりしないんだから!!」

 

姫奈がそう言って決意を口にしたその時

 

姫奈の身体を光が包み込んでいく

 

「のわあああああ!!?」

 

その光に弾かれるように吹っ飛ばされていく少女

 

姫奈はそのまま光に身をゆだねると

その首元に一つの紋章が浮かび上がっていく

 

「これって…!?」

 

「なんだろう…

 

 すっごく‥‥あったかい…」

 

その光を帯びた風香と纏、回りにいた者達も

この二人と同じことをつぶやいた、やがて光が晴れるとそこには

 

「え…!?」

 

そこには白を基調とした服装になった姫奈がおり

姫奈自身もまた自身の姿が変わっていることにおどろいていた

 

「姫奈ちゃんの姿が‥‥変わった…!?」

 

「一体何が起こったの‥!?」

 

姫奈の変化に其の場にいる者のうち

意識が朦朧としている雫やメルド、先程の攻撃を受けて

気を失っている光輝以外の全員が驚いた様子を見せていく

 

「‥‥よくわからないけど…

 

 なんだろう、不思議と力が見なぎって来てる…

 

 魔力を使うときとは別の力をかんじる!」

 

彼女は先ほどまでボロボロだった自分自身の力が

嘘のようにみなぎってきている事に驚いた様子を見せ

 

不思議とこれならいけると思い、敵の方を向く

 

「…‥へえ、驚いたね!

 

 異世界からやってきたとはいえただの人間が

 そんな力を秘めているとはちょっと驚きだね

 

 でも忘れたのかな?

 

 このラルヴァフィールドでは

 どんな力も抑え込まれてしまうんdだってね!」

 

そう言って武器である大剣を振るい

冷気を帯びた斬撃をふるって行った

 

姫奈はそれを見て、武器である剣をふるい

 

「姫奈ちゃん!」

 

風香が姫奈に呼びかけるが、姫奈はそれを意にかえすこともせず

剣に炎を纏わせて力強く振るい、何と斬撃を相殺して見せるのだった

 

「何!?」

 

まさか破られるとは思わなかったのか驚いた様子を見せる少女

 

「はああああ!!!」

 

姫奈はその隙に剣をふるって

その相手に斬りかかっていく

 

「馬鹿め!

 

 どんな力かは知らないけれども

 貴方程度の力で私を傷付けることは…」

 

「はああああ!!!」

 

姫奈は武器である剣に炎を纏わせていき

それで冗談から勢いよく斬りかかっていった

 

すると

 

「っ!?

 

 があああああ!!!?」

 

何と、龍太郎やメルドの攻撃にもびくともしなかった敵の身体に

さすがに両断は出来なかったが相手が油断をしていたこともあって

 

見事に左肩から脇腹にかけて、勢いよく斬りつけて見せた

 

「すごい…!?

 

 力が使えるだけでなくって

 相手に傷をつけることもできた…

 

 これだったら行ける!」

 

姫奈はそくざに距離を取って剣を構えていく

 

「すげえ…‥

 

 なんだかわかんねえけれど

 アイツの身体に傷をつけられたなんて…‥」

 

「きゃーひめちん、かっこいいー!

 

 結婚してー!!」

 

龍太郎は目の前の光景に思わず言葉を失い

鈴はテンションがおかしくなって、姫奈にプロポーズしている

 

そんな鈴をまた始まったと言わんばかりに様子で黙って見つめる恵里

 

「ぐう…

 

 何なのよその力…

 

 何なのよその力ぁ!」

 

あまりのことに敵は叫ぶように問いかけていく

 

「さあね、はっきり言ってわからないわ…

 

 ただ一つ言えることは、これで私は貴方と戦えると言う事よ!」

 

そう言って武器である剣の切っ先を向けていく

 

「そんな…‥わたしは…私は…‥…」

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

ーきょうの売物は女一人と餓鬼二匹かー

 

ー女の方は上玉だ、貴族共に紹介すりゃ高く売れるぞ?ー

 

ーガキの方はまあ物足りねえが、まあ素材は悪くねえだろー

 

ーこいつも売るのか?ー

 

ーそりゃそうだ、大人だろうが子供だろうが亜人は亜人

 

 神に見捨てられた獣なんだ、まあ見た目が人間である分

 慰み者としてもちょうどいいだろうさ、そらこっちにこいよー

 

‥‥‥‥‥

 

ーほら、こっちに来て相手をしろ!ー

 

ー亜人風情が抵抗しているんじゃない!

 

 エヒト様に見捨てられた下等な生物が!!ー

 

ーガキの方はちょうどいいころあいだろう

 

 そろそろ売りに出しちまおうぜ?ー

 

ーだなー

 

…‥‥‥

 

ーそう言えばこいつの母親はどうした?ー

 

ーああ、殺したぜ

 

 いい加減年食ってなえて来たしな

 

 まあ別にいいんじゃねえか?

 

 死んじまったらまた新しく買えばいいし

 この餓鬼だってそろそろいい慰み者になるだろうよ

 

 しっかし、こいつの母親は傑作だったぜ

 俺がもう飽きたからお前の娘で楽しませてもれあうっつったら

 

 必死にもがきやがんの、私はどうなってもかまいませんから娘だけはーって

 

 どんだけ俺らとやりたいんだっての、ったく獣はやっぱり欲情しやすいんだな

 

 ま、あんまりにもしつこく引っ付いてくるからうざくて殺したけどなー

 

―ひっでねえなお前ー

 

ー別にいいだろ、死んじまってもまた買えばいいだけだ!

 

 なんてったって亜人なんて孕ませて産み落とさせりゃ

 吐いて捨てるほどに増やすことが出来るんだからよー

 

ーーーーーーーーーあーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!!!!!!!ーーーーーーーーー

 

…‥‥‥

 

ーお姉ちゃん…ごめんね…

 

 もう私…耐えられないよ…

 

 本当に…ごめんなさいー

 

…‥‥‥

 

ーちぇ、下の餓鬼がおっ死んじまいやがったか

 

 まあ別にいいや、亜人が死んだって別に処刑されるって

 訳でもないんだしな、しっかしひでえ奴だよな、お前の妹も

 

 お前の妹が死んじまったせいで、姉のお前がひどい目に合うんだからよ

 

 ま、怨むんだったらてめえを置いて死んだ妹

 エヒト様に見捨てられたてめえ自信を怨むんだなー

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「…‥母さん…ラティ…‥…

 

 二人共私の前からいなくなった

 母さんは殺され、妹は自ら命を断った…

 

 お前達人間族の…‥お前たち人間どものせいで…

 

 私は…‥わたしはあああああ!!!

 

そう叫ぶようにして言い放つと、その辺りに冷気を纏った威圧があたりに放たれ

それを受けて一同は思わず顔を腕をクロスさせて覆って行く、するとその少女は

 

「凍れ、クローセル!」

 

武器である大剣の切っ先を天に掲げると

彼女の身体をまるで繭のように氷が覆い尽くしていき

 

彼女の全身を氷が覆い尽くしていくと、やがて氷に罅が入っていき

やがてそれは内側から砕けていき、その中から現れたのは先ほどの姿とは

打って変わって異形と言う言葉が似あう姿に変わっていたそれはまるで

 

狼あるいは狐、その両方の特徴が合わさった様子の姿で

背中には三対拡げられていた翼が十枚にまで増えており

 

尾の方もさらに両側にそれぞれ二本ずつと合計三本となり

 

頭部から一本の氷のように透き通った一本の角が生えていた

 

「何‥‥あのすがた…!?」

 

あまりのその光景に言葉が出てこない姫奈

 

ほかもクラスメイト達の方も同様だ

 

「人間ども…‥お前たちには何も渡さない…

 

 平和も…‥自由も…希望もなにもかもだ…‥…

 

 何故ならお前たちは…‥私の全てを奪った!

 

 それがお前たちの罪だ、その罪こそがこの私の糧だあああああ!!!」

 

そう言って両手を覆っているのは槍状に生成された巨大な腕で

それを使って姫奈に向かって攻撃を仕掛けていく、姫奈はそれを

剣を使って受けようと構えていく、だがそこに槍に攻撃が振るわれると同時に

 

「‥‥え!?」

 

剣はいともたやすく破壊されてしまうのであった

 

「があああああ!!!」

 

さらにそこに追い打ちをかける様に巨腕を振るって

姫奈に必要に突き出していく、まるでさっきの屈辱を晴らさんとするかのように

 

「ふん、所詮人間の力なんてこんなもの…

 

 罪徒の力を賜ったこの私に適うと思っているのか!」

 

そう言って乱暴に腕を振るって行く少女

 

姫奈は武器を破壊されてしまい

ただただ逃げ回っていくしかできなくなる

 

魔法も放って応戦はしていくが効いている様子はない

 

「貴方さえ、貴方さえいなければ!

 

 私は母さんと妹の仇を討って

 私からすべてを奪った人間どもを皆殺しに出来たんだ!!

 

 それをそんな訳の分からない力に

 目覚めただけの貴様に邪魔をされてたまるもんかあああああ!!!」

 

そう言って勢いよく両腕を突き出していく

 

姫奈はどうにかその攻撃をいなしていくが

姫奈自身はどうしたらいいのかと頭を悩ませていた

 

「(どうしたらいいの‥‥どうしたら…)」

 

姫奈がそんなことを考えているとそこに

 

ー勇気を出してー

 

「‥‥え!?」

 

姫奈の頭に何かが聞こえる

何処から聞こえたのかと辺りを見回していく

 

其れでもまた、声は響いていく

 

ーあなたのその力は貴方が勇気を求めてる

 その思いに答えたからこそ、目覚めた力です

 

 あなたは誰よりも、勇気と言うものを求めている

 

 あなたがその勇気を忘れない限り、その力は答えてくれますー

 

「勇気を‥‥求めている…?」

 

姫奈は不意にあることも思い浮かべていく

 

「‥‥そうよ、私はあの時の彼の勇気を見て

 私は決めたのよ、彼のようになりたい、彼の勇気を…

 

 私も手にしたいんだって!」

 

姫奈がそう言うと、逃げ回っていた動きを止めて

地震に迫りくる攻撃の方を見ていく、その先には

 

「死ねえええええ!!!

 

 人間があああああ!!!」

 

その叫び声とともに、少女は

槍状の腕で姫奈を串刺しにせんと突き出していく

 

姫奈はそれをどうにか交わしていき

ほぼゼロ距離で手をかざしていき、そして

 

「ぶぎゃあああああ!!!」

 

彼女の放った炎の攻撃を顔面に受けて大きくひるんでいく

ダメージ自体は見られないもののいきなり攻撃されたことにより

 

驚いて後ろの方にさがっていく

 

「くっそおおおおお!!!

 

 どいつもこいつもあたしをバカにしやがってえええええ!!!」

 

そう言って三本生えた内の二本

両側それぞれの尾を地面に張和せるように迫らせていく

 

それはまるで、地面に氷が張っていくような感じだ

 

姫奈はそれでも気を落ち着かせるようにそっと目を閉じていく

 

「私はもう二度と‥‥あの時そうして

 いればと後悔なんてしない、したくない

 

 だからこそ、貴方がどんなに強いと…!

 

 私は絶対に逃げたりなんてしないわ!!」

 

そう言って姫奈が改めてその決意を口にしていくと

彼女の胸元に浮かび上がった紋章が光輝き、そこから

光が浮かびあがり、姫奈は一体何なのかと動揺を見せるが

 

ーそれを手に取って、其れは貴方の勇気に世界が答えたあかし

 

 その証を手にして、この国を救って!ー

 

「‥‥また例の声…

 

 でも、それで戦えるなら!

 

 私はもう、迷わない!!」

 

そう言ってその光を手にすると

その光は形をつくっていき、それは何と

 

一本の剣にへと姿を変えるのであった

 

「あれって武器!?」

 

「どこからあんな武器を‥」

 

それを見て驚いた様子を見せていくクラスメート

 

「それがぁ、何だっていうのよおおおおお!!!」

 

そう言って槍状に変形させた両腕を姫奈に向けて突き出していく

 

「この一撃に‥‥すべてをかけるわ!」

 

そう言うと、彼女の持つその剣に炎がまとわれて行き

唐竹割のような構えを取って、向かってくる少女に向かって行く

 

「はああああ!!!」

 

「があああああ!!!」

 

姫奈の攻撃は、見事に少女の身体を

頭部から股にかけて、両断に切り裂いていった

 

「ええ!?」

 

 

あまりの威力に姫奈自身も驚きを覚えていく

 

「いぎゃあああああ!!!

 

 そんな…‥この…あたしがあああああ!!!」

 

そう言って少女は後ろに倒れると

爆発し絶命、地面に何らかのマークを残したのだった

 

「はあ‥‥はあ…はあ‥‥…」

 

姫奈は姿勢を元に戻すと、持っていた武器は元の光に戻り

そのまま彼女の首元に浮かんだマークの中へと溶け込むように消えていった

 

「か‥‥かったの…?」

 

「みたいだ…‥ね…」

 

先程までの激しい光景が嘘のように静まり返っているのを見て

この戦い、ひいては王都の危機、ハイリヒ王国の危機は終わったのだと自覚する

 

こうして、犠牲は出たものの辛くも勝利を手にした一同であった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

それから七日が立ち、寒さに覆われて

魔物や強大な力を持った亜人によって蹂躙された

ハイリヒ王国の王都は、復興の方を勧めていた

 

香織たちの方も雫の体調が回復したので

改めて国を出ていく事を決め、その見送りにメルド

光輝以外の勇者パーティーのメンバーと永山パーティーの面々に

見送られて行くことになった、まず第一に言葉を発したのはメルドだった

 

「…すまなかった‥‥お前たちを助けるつもりが

 まさか助けられる形になってしまうとはな、だが‥‥

 

 騎士団とこの国を代表して例を言わせてほしい‥‥

 

 ありがとう‥‥」

 

「‥‥いえ、お礼なんて良いですよ

 

 わたしだって無我夢中でやっていたんですから」

 

メルドに礼を言われて、やや照れ臭そうにする姫菜

 

「‥‥ところで、姫奈ちゃんのさっきの力…

 

 一体なんだったんだろう、突然光に包み込まれて

 服装が変わっちゃったらと思ったら、武器まで生み出しちゃって…

 

 どうしてあんな力が出せたの?」

 

「わからないわ…

 

 なんだか急に声が聞こえたと思ったら

 あんなことが起こって、無我夢中だったし…」

 

姫奈は少しでも何かわからないかと

不意にステータスプレートを取り出す

 

すると、姫奈はうん、とプレートを

驚いたように眼を見開いて見つめている

 

姫奈の様子がおかしいので一同も恐る恐るプレートを覗き込むと

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

南野 姫奈 17歳 女 レベル;9

 

天職;聖徒(せいと)(セインター) 

 

職業;稀人

 

称号;勇気の聖徒

 

筋力;320(188000)

 

体力;160(94000)

 

耐性;400(235000)

 

敏捷:400(235000)

 

魔力;3280

 

エーテル;13120

 

魔耐:3280(1927000)

 

技能:剣術【+斬撃速度上昇】・縮地【+重縮地】・先読・気配感知・隠業【+幻撃】・炎・雷属性適性【+炎・雷属性効果上昇】・炎・雷属性耐性【+炎・雷効果上昇】・言語理解・聖痕解放【+聖器召喚】・エーテル操作【+エーテルフィールド】

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

「なにこれ‥‥エーテル?

 

 魔力とは違うのかな?」

 

「天職が変わってるし

 技能も見たことのないものばっかり出てる…

 

 聖徒って書いてるけれど…」

 

「魔力以外のこの横の数値ってなんだ?

 

 見たところすっげえ数値だけれど…‥」

 

覗き込んだ面々の感想は様々

天職の聖徒、エーテルと言う力が主体である

 

「メルドさん、このエーテルっていうのは何なのですか?」

 

「俺にもわからない、この世界では魔力以外の力はないはずだが‥‥」

 

纏の問いに対してメルドもまた

このステータスプレートには頭を悩ませていく

 

「多分だけれど、このエーテルがあったからこそ

 私はさっきの亜人の狐人族の女の子と戦えたんだと思います…

 

 エーテルっていうのはどんなものなのかはわかりませんが…

 

 でも、私はこの力でできる限りのことはやってみます…」

 

「…そうか‥‥まあ俺もよくわからない以上

 

 俺が教えられることも無いだろうしな、気を付けてくれ」

 

姫奈の言葉にメルドも特に何も言うことは無く、そう返した

 

「‥‥それにしても、メルドさん

 さっき闘った狐耳の女の子だけれど‥

 

 一体あの力って何だったの?」

 

「すっごい力だったよね‥

 

 あたりをものすっごく寒くさせて

 見たことのない魔物を使役して、さらには

 姿まで変わっちゃって‥‥あれって何なんだろう‥」

 

「…確かにそれも謎と言えば謎だな‥‥

 

 亜人族は魔力を持っていない故に

 魔法も身体強化も一切使えないはず‥‥

 

 それに亜人があのような

 力を使ったなどと言う記録はない‥‥

 

 一瞬で国を亡ぼせる力なぞ、なおさらだ‥‥」

 

「‥‥そういえば、あの女の子…

 

 誰から力を賜ったと言っていました…

 

 つまり、あの女の子はその誰かに力を与えられたと…」

 

纏が先程の少女が言った言葉を聞いて、一同はそっちに注目していく

 

「…もしそうだとすると、その何者かは

 またもこのようなことをひきおこすかもしれん‥‥

 

 亜人は力を持っておらず、人間族からはぞんざいに扱われている

 あれほどの力を手に入れられるならば、のどから手が出るだろうからな‥‥」

 

「さっきみたいなやつが、また現れるかもしれないってことか‥

 

 もしもそうなったら、僕たちは魔法が使えない

 能力も奴らの方が圧倒的に上、戦力も心もとない

 あれに抵抗できるのは現時点では姫奈ただ一人だしね‥」

 

メルドの推測に、ため息交じりに問題点を口にしていく恵里

 

「‥‥だったら、だったらその時は私が戦います…

 

 はっきり言ってどこまでやれるかわかりませんが

 それでも、私しか戦えないって言うなら私、頑張るから!」

 

姫奈がそう言うと突然、横の方から小突かれるi

 

「姫奈、私、じゃないでしょ?」

 

「そうだよ、私達だよ」

 

「うん、私達だって姫奈のような力は持っていないけれども…

 

 だからって姫奈だけを戦わせるつもりもないよ!」

 

「ですから、一緒に頑張りましょう!」

 

雫、香織、風香、纏の四人は唯一さっきの力に対抗できる

姫奈に向かってそう言いきって見せた、確かに四人は姫奈のように

聖徒ではないし、エーテルと言う対抗する力を持っているわけでも無い

 

それでも四人は姫奈ひとりを戦わせないと

彼女に笑みを浮かべて決意を口にしていくのであった

 

「みんな…」

 

そんな彼女たちの言葉に姫奈の心に温かい何かを感じる

笑顔で姫奈のことを力強く見つめていくその眼差しに頼もしさを感じた

 

「ありがとう…」

 

こうして、姫奈は新たな力とともに

心強い仲間たちの存在を再確認していったのだった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「…さっそく一人、罪徒を生み出してみたんだね?

 

 それで調子の方はどうかな?」

 

とある空間、そこでは玉座に座って

縛り付けられたように微動だにしないフードの人物がいた

 

その少年の後ろから女性が話しかけられていく

 

「…うん、それなんだけれどもね…

 

 倒されちゃったんだよ、僕が殺したいほど

 憎んでいる奴らの一人が、何やら妙な力に目覚めてね…」

 

「うん…?

 

 妙な力…確かにそれは妙だね…

 

 このトータスに罪徒の力に抵抗できる

 存在なんていないはずだけれども、それは…

 

 ちょっと気になるかもね…」

 

顎もとに手を当てて考える様なそぶりを見せながらも

どこか笑みを浮かべている様な様子で話しを聞いていく

 

「…でも別に問題ないよ…

 

 あの子はあくまでこの僕の力が

 どれほどのものであるのかを見るための

 

 言うんだったらただの実験材料だ…

 

 あのままあの王国を滅ぼしてくれたら

 それでもよかったけれど、やられても大したことはないよ…

 

 なんていったってこの世界には、理不尽に虐げられて

 力を求めているやつらなんて、吐いて捨てるほどいるんだからね…」

 

「…本当に、恐ろしいものだね…

 

 今まで無力だったものが力を持つと

 まさかここまで変わってしまうなんてね…

 

 ううん、それでいいんだよ、君はそれでいい…

 

 そんな君だからこそ、私もここにいる王達も

 君のために使えるんだって決めているんだからね…

 

 フフフ…」

 

そう言って二人が見下ろす先には九つの影、その中には

 

「‥‥…」

 

東雲 渚沙

 

 

彼女もまた含まれていたのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

 

そのころ

 

王都に割り当てられたとある一室にて

一人の少年が目をさまし、辺りを見回していく

 

そこにいたのは

 

「起きたみたいだね、おはよう光輝君」

 

中村 恵里

 

 

七大天使に数えられ、香織や雫ほどではないが

男子たちにそれなりに人気がある女子生徒である

 

その彼女が話しかけているのは

 

「…‥恵里…?

 

 どうして俺は…」

 

天之河 光輝

 

 

この世界に召喚された勇者である

 

彼はどうして自分がここにいるのかを

必死に散策していると、不意に記憶が脳裏を横切る

 

「そうだ!?

 

 王国が危ない…っ!」

 

そう言って慌ててベッドから抜け出そうとするが

その際に起こった体の痛みのせいで思わず表情を歪めてしまう

 

「落ち付いて光輝君

 

 まだ体の怪我が治り切っていないんだ

 そんな状態で動いたら、傷口が開いちゃうよ‥」

 

「…‥す、すまない…

 

 それで、俺が気を失った後…

 

 一体何があった?」

 

光輝が恐る恐る恵里に尋ねていく

 

「‥‥あの後、僕も姫奈たちも

 相手の強大な力に圧され気味になっていってね‥

 

 もうだめかと思ったら、姫奈が見たことのない力を

 目覚めさせたんだ、そのおかげで敵は倒して王都は今

 復興作業の真っ最中だよ、何しろ昨日の出来事だからね‥」

 

「昨日…‥っ!?

 

 そうだ、香織、雫!

 

 二人はどうしたんだ!?」

 

光輝は恵里にとびかかる勢いで訪ねると彼女は答える

 

「二人だったら姫奈と風香、北浦さんと一緒に

 王都を出たよ、今頃はもうこの国を出たんじゃないかな?」

 

「…‥そんな…どうして…‥‥‥

 

 どうして、引き留めてくれなかったんだ!?」

 

光輝は恵里を責める様に問いただしていく

 

「僕にそんな資格はないからだよ!

 

 ううん、きっとそれはあの場に居た全員が

 言えることだって思う、だってそうでしょ‥

 

 僕達は香織を傷付けてしまったんだ‥

 

 そんな僕たちが彼女を、彼女を本当に大切に

 思っている雫を引き留める資格なんて、あるわけないじゃないか!」

 

「傷つけた…‥一体何の…?」

 

光輝は恵里の今までにない様子に思わず落ち着き

恐る恐る恵里の言葉の意味を訪ねていく光輝に恵里は答える

 

「‥‥そんなの‥

 

 南雲君と東雲さんの事に決まっているでしょ‥」

 

恵里は怒りと呆れを合わせたような口調で答える

 

「南雲と…‥東雲さんの事…?

 

 何を言っているんだ、二人が裁かれたのは

 むしろ当然のことだろう、二人は俺たちの事を…」

 

「裏切っていたから‥‥とでも言いたい?

 

 じゃあ、どうして光輝君は

 二人のことを裏切り者だって思ったの?」

 

「そ、それは…‥イシュタルさん達が

 南雲が俺たちをうらぎった証拠を見つけたからだって‥」

 

「イシュタルさんが、ねえ‥

 

 あんな取ってつけたような証言

 さすがに僕でもおかしいっておもうよ?

 

 現に僕だけじゃないよ、永山君グループや

 鈴だってうすうすながら感づいてたし、龍太郎君も

 少なくとも違和感の方は覚えていた様子を見せてた‥

 

 多分、クラスメートの方も殆どが気が付いてた‥

 

 でも、それをおくびになんて出せなかった

 もしも庇ったら、自分もどうなるかわからなかった‥

 

 僕だって、出来る事だったら違うって言いたかった‥

 

 でもできなかった‥‥僕にはそんな勇気がなかった‥

 

 あの時、ふたりを助けるために、必死に抗った

 香織たちの様にできなかった、僕たちは間違いなく‥

 

 南雲に助けられたのに‥」

 

恵里はどこか悔しそうに表情を暗くしていく

 

「…‥南雲の事と、香織たちが俺たちの元を離れていった理由…

 

 それが関係あるのか?」

 

光輝は不意にそのように聞いていくと

恵里は更に呆れたようにため息を付くと説明していく

 

「やっぱり気が付いてなかったんだね‥

 

 香織はね、南雲君のことがずっと好きだったんだよ」

 

「…‥は?

 

 何を言っているんだ?

 

 意味が分からない

 なんで急にそんな話になるんだ!?」

 

恵里の答えを聞いて、光輝は

あからさまに動揺する様子を見せていく

 

「いやいやいやいや‥

 

 だって香織、積極的に南雲君と

 接点を持とうとしていたじゃん‥」

 

「何言ってるんだ、あれは香織が優しいから

 南雲が一人でいるのを可哀そうに思ってしていたことだろ?

 

 やる気が無くて協調性もないオタクな南雲をどうして香織が…」

 

光輝は本気で分からない様子であった

 

「‥‥確かに南雲君はオタクなのは本当だけど‥

 

 少なくともやる気が無くて

 協調性がないっていうのはちょっと違うよ‥

 

 南雲君は協調性がないって言ってるけれど

 そもそもの話し、回りのみんなが南雲君の事を

 突き放してたんじゃない、協調性も何もあったものじゃないよ‥

 

 やる気がないって、そもそも回りが勝手に

 南雲君の評価を下げてたんでしょ、やる気があっても

 そもそも回りがそうだって認めないと、それこそ何やっても無駄じゃん」

 

「…‥だからって、ありえない…

 

 そもそもの話し、あいつは

 あんな事件を引き起こしたんだぞ?

 

 それで香織は南雲と距離を取って…」

 

「それは、あの事件を起こすきっかけになったのが

 自分のせいだって攻めていたからだよ、知ってる光輝君?

 

 香織ね‥‥あの事件の後、学校をやめようとしていたんだよ?」

 

恵里の言葉に光輝が、えっ、と驚いた様子を見せていく

 

「‥‥自分の軽率な行動のせいで、南雲君は

 いわれのない罪を着せられてしまったって‥

 

 自分を責め続けて、もう南雲君と

 関わらないようにって、だから学校に

 話しをしようとしていたんだ、でも何とか

 雫や姫奈が、どうにかして香織を説得して

 思いとどまらせることが出来たって言ってた‥

 

 ぼく自身はそれに関わってないから

 詳しいことは知らないけれどね、でも‥

 

 香織はもう以前のように積極的にハジメ君に

 関わることが出来なかった、回りからやっかみを

 受けている南雲君を助けたい、でも自分が言ったら

 それこそ余計に南雲君を傷付けることに繋がってしまう‥

 

 でもね、このトータスに飛ばされて

 南雲君とひさしぶりにお話をすることが出来て‥

 

 香織はいっつも嬉しそうにしてたよ‥

 

 でも、南雲君と東雲さんが処刑されたのを見て‥

 

 本気でショックを受けてしまったんだよ…」

 

「…‥俺だって別に南雲が処刑されるのは本意じゃなかった…

 

 だからあいつが自分の罪を認めてしっかり謝罪をしてくれていたら

 俺はイシュタルさんを説得して、あいつのことを助けてやるつもりで…」

 

光輝はそれでも、自分の意志を否定するようなことはしない

 

「‥‥だーかーらー!

 

 そもそもの話し、南雲君も東雲さんも

 僕達のことを最初っから裏切ってなんていないって!!

 

 さっきからそう言ってるでしょ!!!」

 

「で、でもイシュタルさんが…」

 

「‥‥だからあれはイシュタルさんが

 でっち上げたものだって、さっきも言ったでしょ

 

 本当に光輝君は人の言う事聞かないんだから‥」

 

恵里はしょうがないなと一息つくと

落ち着いた様子で光輝に言って行く

 

「光輝君、光輝君はいつだって

 まっすぐで正義感が強いところは

 

 僕が好きな光輝君の良いところだっておもってるよ‥」

 

「恵里…?」

 

「‥‥でもね、もういい加減に

 光輝君はその正しさを疑うべきだって思う」

 

「…‥正しさを疑う?」

 

「うん、確かに強い思い芯の強さは

 なにかを成し遂げるのに必要なことだよ‥

 

 でも、だからってそれを常に疑わずして

 妄信し続けて居たらどこかで綻びが出てしまう‥

 

 だからこそ、その時にその場所で起こっている

 あらゆる事象を受けとめて、自分の正しさは果たして

 このまま貫き続けていいのか、または間違っていることを

 間違っていると受け止めた上でそれでも自分のそれを貫くべきか‥

 

 生きていくうえできっとそれは

 いつか起こりうることなんだって僕は思う‥

 

 本当にこのまま教会の意志に従って戦うことを選ぶか

 あるいは自分達の事をただの道具としか思っていない

 教会とこの国の人間の束縛から逃れて、自分で道をきめるか‥

 

 香織たちは後者の方を選んだ‥‥本当にすごいよ‥

 

 だってみんな自分の意志を貫いていったんだから‥」

 

恵里はそこまで言うと光輝の方に向きなおっていく

 

「光輝君、いつかは光輝君の正しさが

 通用しなくなる時が来る‥‥だからね‥

 

 時には自分の正しさを否定することも

 正しい選択になるんだってこと、忘れないで」

 

恵里はしんけんな表情で光輝に告げていく

 

「恵里…」

 

光輝はただ、彼女の名前をつぶやき

彼女のその表情を見つめ続けていた

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 


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