ひだまり   作:ふわらびゅ侍

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第1話

大切なものを入れる場所をこっそりと、机の中に作った。

アイドルの話をすると両親や妹はちょっと引きつった顔をするから、みんなには内緒のわたしだけの場所。みんなとのハロウィンパーティの写真、誕生日に透ちゃんがくれたよくわからないキャラクターの消しゴム、雛菜ちゃんがくれたコスメ、円香ちゃんがくれた熊・・・は入らなかったから衣装箪笥の中に入れている。そして、はじめてのわたしへのファンレター。

そのファンレターはわたしへの感想が熱心に書いてあった。その子の名前は浅川 菜流とかいてあった。ちょっと丸文字のその手紙にはわたしのソロシングルをすぐに買ったこと、ノクチルのみんながだいすきなこと。歌もとても上手で可愛くて笑顔が素敵だといったことが書いてあった。自分には辛いことがあって、何度もあなたの笑顔に救われたと書いてあったときには嬉しくて涙がこぼれ落ちた。どんなに辛くても、わたしはアイドルをやっていこうってそう思った。居場所がないことは悲しいことだって誰よりもわかっている。だから、わたしがわたしだけでもそんな人達にとってのひだまりになりたいと思った。

きれいに丁寧な文字で書かれたその手紙は私にとって―アイドルという合わない靴を履き続けるために必要なものだった。ただ、気になるのは円香ちゃんの感想がほぼ触れられていなかったこと。

 

今日は円香ちゃんの家に勉強を教えに貰いに行くことになっていた。どうしても、わからない場所があったからだ。雛菜ちゃんは面倒だからと言って断られちゃったし、透ちゃんはお仕事で来れないらしい。

「こ、こんにちは~!」

円香ちゃんが気だるそうな表情で出迎えてくる。

「飲み物持っていくから、先部屋に行ってて。」

円香ちゃんの部屋に行くいつもどおり、整頓された部屋で難しそうな本もおいてある。勉強用の小さい机が中心にぽつんと置いてある。

「わあ・・・!」

たくさんの飴が小さなかごに入れてある。窓から漏れ出す光を受けてまるで宝石箱みたいだった。

「これ、指輪の飴だあ。きれいだなあ。」

手にはめて、光に透かすとまるで大きな宝石みたいだった。

「小糸、昔からそういうの好きだよね。」

麦茶を持った円香ちゃんがコップを2つ持っていつの間にか立っていた。

「だ、だってキレイだよ!」

「...。そう。私はこっちのほうが気に入ってるけれど小糸も食べる?」

円香ちゃんが持ってる飴は紫色の色をしていた。確か、すごく酸っぱい新発売の飴じゃなかっただろうか。

「だ、だめだよ!円香ちゃん騙そうとしたって!」

「そう、美味しいのに。」

円香ちゃんが無造作に飴を口に入れた。円香ちゃんの表情は全く変わることはなかった。すっぱそうでもなく、特に美味しそうでもなかった。

「ご、ごめんね、円香ちゃん!わたし、酷いことを言っちゃった...。いつもからかわれてるからてっきり...。飴、もらっていいかな?」

無言で同じ種類の飴が私の手の中へ落とされる。

「わぁ...ありがとう...えへへ...~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」

口の中に酸っぱみというよりも痛みに近い何かが!!酸っぱい!!!!!!!!!!!!!!!

なんとか食べきると、円香ちゃんが少し笑顔をみせてわたしを見ていた。いつもそうだ、みんなわたしをからかってばっかり…。

(決めた...今日は円香ちゃんをびっくりさせるんだ!)

そうはいっても、はじめに円香ちゃんの家に来た目的は勉強だから、一度は参考書を広げる。どこがわからないのと円香ちゃんに聞かれ、応じるとすぐに答えに必要な公式が返ってくる。この公式を使うのか…。いつも、円香ちゃんは―。勉強も運動もできる。歌も踊りも何もかも私よりもすぐに覚えてくる。でもいつも嬉しそうじゃない。酸っぱい飴玉を食べるときも辛い練習のときもいつも同じ顔。まるでお面みたいだ。

アイドルのときもヒグチマドカというサインを見たときシンガーソングライターみたーいって雛菜ちゃんが言っていたけれど、暫くしてわたしが思ったのはヒグチマドカという別の人格がそこにいて、円香ちゃんがその人格を操っているという印象だった。

今の円香ちゃんは誰なのだろう―。

そう思ってわたしは円香ちゃんの顔をちらりと見る。いつもの低い落ち着いたきれいな声が耳に入る。わかるはずの説明が散らばってよくわからなくなっていく。

窓から漏れる木漏れ日が円香ちゃんを照らしていた。

長いまつげがキラキラと光り輝いている。天使の輪っかができていた。

そして何より。

見たことのない穏やかな表情。安堵とも安らぎとも言えないいつもと違う表情がひだまりの優しい光が作り出している気がしたから―。

「小糸?きいていた?」

「ぴゃ?!ご、ごめん...。」

「疲れたんだったら、休む?」

「う、うん…。」

「じゃあ、私はコンビニに行ってお菓子と飲み物買ってくるから、留守番してて。」

「じゃ、じゃあお金はわたしが後でおごるよ!勉強見てもらってるから!」

そうと薄くつぶやき、円香ちゃんが部屋を出る。円香ちゃんはしばらく帰ってこない。今ならきっと円香ちゃんを驚かさせることができる!!

どこか隠れるところはないだろうか。いなくなって心配した円香ちゃんにシーツおばけで脅かしてびっくりさせるつもりだった。

「えーと...。ここなんてどうかな...。」

頭をぶつけると何かが頭に落ちてきた。

「CD?」

わたしのシングルだ。買ってないって言ったのに...。少し上を見るとそこにはアルバムがあった。アルバムの中には私のモデル撮影の切り抜きが全部挟まっていた。

「え、えへへ...。きっと、透ちゃんと雛菜ちゃんのもどこかに隠してあるんだろうな。なんだ、円香ちゃんも楽しんでくれているみたいで良かった…。よーし、予定変更!」

表情が読めない円香ちゃんの知らない一面をしれてホッとしていた。それにもしかしたら、ここを探したら透ちゃんや雛菜ちゃんのも見つかるかもしれない!それを全部見つけて、からかっちゃおう!

「よっと...。」

手に何かが触れた。見覚えのある便箋。たどたどしい子供っぽい文字。見慣れた文字。ウサギさんが芸能人気取りで書いてある。浅川 菜流様へ 福丸小糸より。

 

「小糸ただいま。どうしたの?もしかしてさっきの事怒ってる?」

「...これ。」

手紙を出した。涙で何もわからない。円香ちゃんのことが、違う。中学生になって別れてからずっとわからなかったのかもしれない。もしかして、出会ったときから?

「わ、わたし。」

「小糸。」

「何も言わなくていいから!!わたしのこと、からかってたんだよね。いつもと同じ。酸っぱい飴玉と全然変わらないこと。だけれど―わたし、この悪戯に騙されちゃった!わたしなんか何もかもダメダメで、何もできないのにファンなんてできるわけないよね...いつも声も小さいし、雛菜ちゃんみたいにダンスやモデルの仕事もできないし、透ちゃんみたいに美人じゃないし、円香ちゃんよりできることもなにもないし…。いっぱい円香ちゃんのところにファンレターやファンの人達がいるのを見ていいなあすごいなあって思ってたんだ...。

でも...やっぱりダメダメで...いつも失敗ばかりで....。」

「小糸…違う。」

「何も違わないよ!バカみたいだよね!わたしの居場所をこの人のために作りたい。だってこの人のおかげでわたしは救われたから!でも、そんな人はいなくて。私を好きになってくれる人なんていなくて…。」

何を言っているかわからない。ただ、わかってることは―裏切られたことだけ。

「違う!!!」

「ぴゃあああああ!」

大きな声、音、嫌だ。怖い。透ちゃん、雛菜ちゃん、プロデューサさん誰か助けて。

「ごめん。話を聞いて。」

いつもの低い、落ち着いた声。円香ちゃんの声。

「私は福丸小糸のファン。多分、小学校の頃から。熊のぬいぐるみを上げたときの笑顔が忘れられなかった。小糸は悲しいときには泣いて、私達が悪く言われたときは私達の代わりに怒ってくれて、楽しいときは笑顔でいてくれて…。ずっとキラキラしている小糸が眩しかった。だからたくさんの表情をずっと見たいと思っていた。―中学の時はそうはならなかったけどね。

 

だから浅倉のせいでアイドルをやらされることになったときは、迷惑だったけれど、でも四人でまた一緒にいられることが私にとっては救いだった。そうじゃなきゃ、アイドルなんて無駄なことやらない。

アイドルになった小糸は日増しにキラキラ輝き始めて、いろいろな人と触れ合うようになった。じきに私以外の誰かが小糸を好きになる。ファンレターを送る少し前、小糸はオーディションに落ちて自分のことがだめだって言って落ち込んでいたのも見ていられなかった。

…誰かが小糸にとってのいちばん大事なファン一号になるのが、我慢できなかった。一番初めに私が見つけたアイドルの。

だから、言うつもりもないものを浅川 菜流の仮面をかぶってそのこに託した。

今は浅川 菜流以外に小糸が好きな人達がたくさんいるでしょ。だから、その人たちの居場所でいてあげて。小糸は嫌だったかもしれないけれど、小糸の色んな表情を見たかったからついからかっていたけれど、それも今日でやめる。」

「わ、わたしは…浅川 菜流ちゃんにたくさん救われたんだよ。辛いことも苦しいことも一緒に分け合って、たくさん一緒にやりとりをして...。わたしね、ファンの人達の中で実は浅川 菜流ちゃんが一番好きだったんだよ!とっても大事な人!でも今は違うかな。」

「そう。」

「わたしの大好きな憧れのアイドルが一番大好きなファンでわたし、嬉しいな。からかってるときにするその人の笑顔もわたし、だいすきだから!」

「え?」

「もっと、たくさんその人のことが知りたい。日常の辛いことや嬉しかったことを分け合いたい。その人の一番の日だまりにわたしはなりたい。だから、【円香】ちゃんのことをたくさん聞きたい。円香ちゃんの表情もたくさん見たい!」

「…嫌。」

「…待ってるから~!」

 

数週間後。わたしはファンレターをプロデューサーさんからもらい、その中身を確認していた。

「あ...。」

「えへへ...。浅川 菜流ちゃんからの手紙...。送ってくれたんだ...。返信不要って書いてある。...そうだ!」

 

数日後、話があると円香ちゃんにいわれ、二人っきりになった。赤色の便箋を円香ちゃんは私に見せる。

「小糸。」

見たことのない心底楽しそうな笑みを私に彼女は見せた。

「これ、大福 香ちゃんに渡しておいて。」

「わ、わたしそんな人しらないよ!」

「でも、これ小糸の住所でしょ?」

「ぴゃっ!」

「また、大福ちゃんからファンレター来るように頼んでおいて。」

「う....うん...絶対すぐ送るからね!」

円香ちゃんのことはわからない。未だにわからないことだらけ、わかってることなんて殆どないんじゃないかと思う。だけれど。きっと、いつか、円香ちゃんのひだまりに、一番大きなひだまりになりたい。それが私の二つのとっても大事な大きな居場所を作ってくれた人への恩返しになるだろうから。

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