では本編どうぞ。
最愛の親友――マエリベリー・ハーンことメリーが消息を絶っていると分かってから数日が過ぎた。
宇佐見蓮子はパソコンやオカルト雑誌、大学構内に流れている噂話。なんでもいい、彼女へと繋がるものであれば何でも調べ上げた。もちろん、大学の講義にはちゃんと出席はしている。蓮子は、皆が板書している中、ただ一人だけ違う事をしていた。厳密に言えば蓮子以外にも授業に関係の無いことをしている者や寝ている者もいるのだが、蓮子は一際目立っていた。
「T県の心霊スポット……ダメだ、ただの心霊写真が撮れる程度じゃダメだ……。もっと超常的なものは……。E県の怪談? 怪談なんて用は無いのよ……」
雑誌の見出し記事を読み漁っては首を横に振る。現在行われて居る講義は人気の講師によるものなので、いつもほとんど満席状態になる。しかし、蓮子の周りには空席だらけだった。
「A県のオカルト……これってこの間テレビでやってたやつじゃないの? 宇宙人なんてどうでも良いわよ」
雑誌を乱暴に閉じ、蓮子はため息をつく。
「神隠しでも鬼隠しでも何でもいいわよ……。私が欲しいのは人が消えるオカルト」
人が突如として消息を絶つことを『神隠し』と呼ぶ。地方によっては『鬼隠し』や『天狗攫い』とも呼ばれるらしいが、重要なのは名前ではない。その事件の内容だ。
「警察犬の鼻を振り切るなんて本来はあり得ない……。そのあり得ない事件が発生し、調査が打ち切りになるほどの『神隠し』……」
人間は歩くだけでもにおいが残るという。警察犬はそのにおいの足跡を頼りに当人を探し当てる。しかし『神隠し』に遭ったと思われる場所に辿り着くと立ち止まってしまうらしい。何度やってもその場所に辿り着くと立ち止まってしまう。辺りは見晴らしの良いところで隠れるような場所も無いというのに、だ。
「人が消えるなんて大昔からあることなんだけどね……」
メリーが聞いたら「ふふ、現と幻の狭間に閉じ込められちゃったのね」と言いそうだ。
ここまで調べたというのに、何の収穫も無い。正直なところ、手詰まりだ。
ネットのあらゆるオカルト掲示板は見て回ったし、雑誌だって漏れも無く目を通した。あと本格的に調べなければいけないのは噂話の類なのだが、ぶっちゃけた話、やりたくない。
面倒だとかそう言うのではなくて、数が膨大なのだ。所詮は噂話だと思うなかれ、噂話とは日々変化する。さながら伝言ゲームで誰かが間違った情報を盛り込むように。
嘘が真実を覆い隠し、それが世の理のように蔓延る。
「……メリー……どうして私を置いて行ったの?」
いつも一緒。二人三脚でやってきた『秘封倶楽部』の活動。彼女は蓮子を裏切り、たった一人で何処かへと姿をくらませた。
蓮子は問いただしたい。なぜ自分を置いて行ったのか、なぜ自分を裏切ったのか。
あれだけ言葉を交わしあい、お互いの気持ちを確認し合ったのに。愛しあったのに。
復讐しようとは思わない。蓮子はただ真実を知りたいだけだ。
「……今考えても意味は無いか……」
再会できたら分かる。それまでは深く考えることはよそう。
いつの間にか講義が終わっており、講堂は騒々しくなっていた。
「宇佐見蓮子」
ハッとして顔を上げるとそこには講師の岡崎夢美が立っていた。
若干一八歳にして大学の教授へと上り詰めた天才。ショートカットの紅い髪に同系色の瞳が蓮子を見下ろしていた。可愛いや美少女という言葉からは遠く、どちらかと言うとクールビューティーや綺麗な大人の女性といった印象が強い。やはり、社会に出ると同年代でも違って見えるのかもしれない。
「私の授業で堂々と関係無いことをするのは君が初めて……ではないけど、あまり感心しないわね」
「すいません」
蓮子は頭を下げる。しかし、夢美は立ち去らなかった。
「ここのところ最近、君は一人みたいだけど……片割れはどうしたのかしら?」
片割れとはメリーのことに違いないだろう。なんで夢美が知っているのだ、と思ったが、よくよく考えれば『秘封倶楽部』はまともじゃない霊能調査隊として有名なのだ。夢美からすれば蓮子やメリーはごっこ遊びをする幼稚園児のようなものなのかもしれない。
「少し、私用で出掛けているらしくて」
似たようなものだろう、と蓮子はそう言った。しかし夢美は「ふむ」と言ってアゴを小さく撫でた。
「私の見立てが確かなら、君たちは世に言う恋仲ではなかったかな?」
「恋仲って……」
随分と古風な言い回しをする人だ。第三者から見ても蓮子とメリーは相当仲睦まじく見えていたようだ。
「ま、まぁ……世間一般的に言うのであればそういう関係も無きにしも非ずというか、無くは無いというか……」
「なにを照れているの。愛の様式美など常識に囚われた愚かな思考に過ぎないわよ。好きなのであれば堂々としなさい。自分の気持ちに嘘をつくもんじゃないわ」
本当に同年代なのだろうか、と思ってしまった。語り口もさることながら、思考までもが大人びている気がする。
「君は少し肩に力が入り過ぎているのよ。少しは気分転換をしてみたらどう?」
「気分転換……しようにも」
独りでいるとメリーの事を考えてしまう。どうせならこうして話している方が幾分かはマシになるのだ。
「……どれ、少しは私も手を貸してあげましょう」
夢美はそう言うと小さく笑みを作っていた。
「あの、それはどう言う意味でしょう?」
「宇佐見、少し付き合いなさい」
夢美は有無を言わせぬ口調で出口へと向かって行った。蓮子は慌てて雑誌をかき集めるとバッグへと乱暴に放り込み、夢美の後を追った。
「で、連れてきたってワケ?」
ブスっとした顔で頬杖をつき、ストローを口にくわえながらこちらを睨みつけているのは北白河ちゆりといって、夢美の友達らしい。
水兵が着るようなセーラー服を纏い、金色の髪をツインテールにまとめ上げている。ちゆりはイスに片足を乗せて非常に行儀が悪い体勢だった。
夢美と同年代らしい。比較対象が夢美だからかもしれないが、どうもまだ高校生にしか見えない。
「ちゆり、ちゃんと座りなさい」
「別に夢美に迷惑かけてないぜ?」
「お里が知れるわよ」
「私にはそんなん関係無いね」
「もう一度言うわよ、ちゆり。……ちゃんと座りなさい」
夢美が凄味を利かせて言う。幻覚だろうか、夢美から溢れんばかりの静かなる怒気が揺らいで見えた。
「チッ、仕方ねぇな」
その怒気に気付いているのか居ないのか、はたまた知った上での態度なのか、ちゆりはぞんざいに言うとイスにちゃんと座った。
「ごめんなさいね、宇佐見。これは見ての通り子供っぽくて」
「……夢美?」
夢美の物言いが気に食わなかったのか、ちゆりは夢美に食ってかかった。
「私のどこがガキだって言うんだよ?」
「鏡を見ることを勧めるわよ」
夢美は特に取り合おうともせず、優雅に紅茶を飲んでいた。
「申し訳ないわね、付き合ってもらっておきながら騒々しくて」
「は、はぁ……」
蓮子は曖昧に頷く。ちゆりは相手にされていないと分かったのか、イライラした様子でそっぽを向いていた。
「ちゆりのことは気にしないで、ただ拗ねているだけだから」
「す、拗ねてなんかないぜ!? 夢美のバーカバーカ!」
そっぽを向いていたちゆりは頬を染めながら夢美に暴言を浴びせていた。しかし、夢美は気にした様子も無く紅茶を啜る。
「あの、拗ねている……とは?」
「なに、詮の無いことよ。私はこの後、講義も無くてヒマなのよね。だからちゆりは私をデートに誘うつもりでここに来たんだろうけど、君を見てヤキモチを妬いているだけよ」
「バ――」
ちゆりは顔を真っ赤にしていた。どうやらその通りだったらしい。
「え、だとしたら私……お邪魔、なんじゃ……?」
「べ、別にデートしたかったワケじゃないんだぜ!? 私もヒマだから、ちょいとご飯を奢らせてついでに夢美の買い物を手伝ってやろうと思っただけだ!」
バンバンッ、と机を叩きながら抗議するちゆりの姿は、なんだろう、とても愛しく見えたりする。
「そ、それより、こいつは誰なんだよ?」
ちゆりは露骨に話題を蓮子へとズラしてきた。
「ああ。私の講義を無視して私事をしていた生徒の一人よ」
「……ほう」
ちゆりの目が細くなった。
確かに蓮子は授業に関係の無い私事をしていた。しかし、どう見ても大学の部外者であるちゆりに、なぜこうも睨まれなければならないのだろうか。褒められたことではないと蓮子自身も分かっている。でも、ちゆりに怒られるのはどうも筋が違っている気がする。
「怒らないのちゆり。この娘にも色々と理由があるのよ」
「……夢美に免じて引いてやるよ」
苦笑を浮かべながら夢美が言うと、ちゆりはあっさりと引き下がった。
「さて、話してもらおうかしら」
「なにをですか?」
「惚けるのも良いけれど、言わせてもらうわ」
夢美はそう言って紅茶をソーサーの上に置き、それをテーブルの邪魔にならない所においた。
「貴女、あんな真剣な表情をして何を探してたの?」
どうやら、気付かれていたらしい。確かに独り言のようにぶつぶつ呟いていた実感はあったが、それはほとんと口の中で言っていたはずだ。聞こえて無かったにせよ、雰囲気だけで何かあったということは分かるらしい。
「……教授は心理学を専攻してたんですか?」
「私は見ての通り物理学の教授よ。心理学なんて門外漢よ」
オカルトは好きだけど、と夢美は付け足した。
「何があったか知らねーけど、言うだけでもマシになる時があると思うぞ」
ちゆりは頬杖をつきながらも聞く姿勢をとってくれていた。なんだかんだ言っていい人なのかもしれない。
蓮子は一回だけ深呼吸をして語りだした。
「――と言った感じです」
「「……」」
夢美は眉根にシワを寄せ難しそうな顔をしており、ちゆりはただ唖然としていた。
「メリーがなんで私を裏切ったのか分かりません。大学生にもなって厨二病を患った変態ですけど……それでも、私にとっては掛け替えの無い、大切な……大好きな、親友なんです」
全てを話すと確かに、少しだけ心が落ち着いた。独りで抱えることがこんなにも苦しいとは知らなかった。
「無理だと分かっているんですけど、私は止まるつもりはありません。何を犠牲にしても、私はメリーを取り戻したいんです」
二人は蓮子の言葉が嘘偽りの無いものであると分かった。講義中にもかかわらず、蓮子はオカルト雑誌を読みふけっていたのだ。
「とても正気とは思えねぇな」
ちゆりはそう言ってイスに座りなおした。
「何処かへ消えた人間に、なんでそこまで執着するんだ? そら大切だってことは話を聞いてて感じたけどよ……」
蓮子は静かにちゆりのことを睨みつけた。
「おいおい、そんな睨みなさんなって、過ぎたことを言ったことは悪いと思ってるよ」
「貴女は少し人を慮ることを覚えなさい。私は素敵だと思うけど?」
夢美はそう言って蓮子に視線を向けた。
「そこまでの覚悟があって、それだけマエリベリーのことを想う……。消えた存在を追いかけるって、意外と精神的にきついものなのよ?」
「……」
蓮子は黙って夢美の言葉の続きを待った。夢美はこちらに興味を示した蓮子を見て小さく笑みを作った。
「何かに躍起になることは、誰でも最初はできるのよ。でも、問題はその後……。鋼と言っても良いくらいの精神力、何物にも揺るがない強い決意……。そして、その人や物事に対する強大な想い……。その三つが無い限り、継続なんて出来ないわ」
紅茶を啜り、夢美は続ける。
「すぐに折れる絹ごし豆腐メンタルで、生半可な覚悟で……。雑念に惑わされ、目的を見失い、挫折する程度の想い……。人は楽な方へと傾向し、努力する人間を否定する生き物よ。だから、人はすぐにこう言うの」
夢美は蓮子の目を見て言った。
「『十分やったじゃん』……『もう頑張ったよ』……『これ以上は無理に決まってる』……『なんでそんなに一生懸命なの?』……。……貴様らに何が分かるというの?」
ぞくり、と夢美の言葉に寒気を感じた。
「アンタ達から見れば矮小なことかもしれないけど、その人本人からすれば心の支えたるモノなのよ? それを、どういう心境でその境地に至ったのか分からないゴミどもに、否定されて良しとする人間がいると思う?」
そんな人間は滅ぶべきよ、と夢美は憎々しげに語る。
彼女は齢一八歳にして教授に昇りつめた才媛だ。学者の中ではそんな彼女を良しと思わない人も居るのだろう。彼女がどんな研究をしているか分からないが、蓮子は思う。
きっとその人たちに否定されたのだろう。夢美がどうしても叶えたいと思う、その願いを。
「人にはそれぞれ譲れないものがあるわ。どうしても成就させたい、実現させたい……。周りに何を言われようと一心不乱に突き進もうとする君は、とても美しい」
夢美はそう言って微笑んだ。
「羨ましいわね、そこまでして想ってもらえてるマエリベリーが。彼女のことを真に想う君だからこそ、私は君の願いをとても神聖なものだと思うわ」
言外に褒められ、蓮子は照れてしまった。自分はそんな大層な人間ではない。
ただ、彼女と再会したいだけだ。
「夢美が褒めるなんて珍しいな」
ちゆりはそんな夢美が意外だったのか、目を丸くしていた。
「貴女は私をなんだと思ってるの?」
「人を人とも思わない鬼教授」
ごっ、と夢美はちゆりの頭に拳骨を落とした。
「ってぇぇぇえええええ……っ」
「言葉を慎みなさい、ちゆり」
「おいおい、私の頭を叩くんじゃねぇよ、優秀な脳細胞が死滅したらどう責任取ってくれるんだよ」
「多寡が大学院を出たくらいで調子に乗るんじゃないわよ」
「え……」
蓮子は驚いてちゆりを見遣った。
「あん? なんだよ。なに驚いてんだよ」
「院……出てたんです、か?」
「ん、まぁな」
ちゆりは大したこともなさげに言う。
「つっても『こっち』じゃ普通のことなんだぜ? 大学を一一歳、院は一三歳で出るなんて」
「ちゆり」
夢美の語気が若干強まる。言外に「下手なことを言うな」というニュアンスを感じた蓮子だったが、それを問いかけるのは憚られた。
「はいはい、分かってますよ」
「それはともかく、私個人はその『幻想郷』とやらに興味があるわね」
夢美はそう言って身を乗り出してきた。
「マエリベリーからは何か聞いてないの? その『幻想郷』のことについて」
オカルトが好きと言っていただけあって、食い付き度が半端ない。だが生憎、蓮子はその詳細を聞く前にメリーは行方をくらませたのだ。
「すみません……全く分からないんです……」
「……そう」
夢美は少し残念そうにイスに座りなおした。
「でももしかしたら……そう言う可能性があるかもしれないのよね……」
だとしたら価値はあるかも、と夢美は言った。
「教授?」
「ああ、気にしないで。私個人のことだから」
夢美は小さく手を振った。
「でもよ、うさみみ」
「宇佐見です」
「どっちも似たようなものだろ」
名字をそう捉えるとは、この人も中々に個性的な考えを持っているようだった。
ちゆりに話しかけられ意識はそっちへと向いた。
「何の手がかりも無いんじゃどうすることもできねぇぞ。なんかアテがあんのか?」
痛いところを突かれ、蓮子は細々と答える。
「ネットの掲示板はすべて回ったつもりですし……、雑誌も色々と読んでみたんですけど……。やっぱり『神隠し』に関することは多すぎて」
ふーん、とちゆりは分かったんだか分かってないんだか曖昧な返事をしていた。そしてちゆりは夢美の方へ向き直る。
「なぁ夢美、『神隠し』ってどのぐらいの頻度で起こるんだ?」
「あたかも自然現象のように言わないでちょうだい。『神隠し』はそんなカテゴリーに分類されるようなものじゃないんだから」
超常現象よ、と夢美は説明した。
「詳しいことは現代科学においても解明されていないわ。突如として人が消えるなんてそんな非科学的なことが頻繁に起きてたら嫌でしょう?」
夢美は講義をするように口を動かす。
「夢の現実……幻と現……幻実の狭間に堕ちた、と表現した方がいいかしら」
メリーも同じようなことを嘯いていた気がしたので、やはり帰結点は同じだということが分かった。
「なんにせよ『神隠し』には遭いやすい気質というモノがあるのは確かなようね。明確なものは無いけれど、精神的に不安定な時期に遭いやすいとも考えられているわ」
「精神的に不安定……」
心当たりがあり過ぎた。
メリーは大学生にもかかわらず厨二病を患っている。親か社会に対する反抗か何か分からないが、常日頃から常人を逸した事ばかりするのだ。それを精神的な不安定と言わず何と言えば良いのだろうか。
「貴女たちは確か……『秘封倶楽部』……だったかしら、そんなサークル活動をしていると聞き及んでいるけれど」
「ひふうくらぶぅ? 大学生にもなってなにガキっぽいことしてんだか」
ちゆりが冷ややかな視線を向けて来る。確かにそう見られても仕方ないので、蓮子は反論しなかった。
「活動内容についてまではとやかく言うつもりはないけれど……。もしかしたらマエリベリーは、その活動中にあることに気付いたんじゃないの?」
「あること……ですか?」
蓮子はこれまで行ってきた『秘封倶楽部』の活動を思い出してみる。しかしこれと言ってメリーに変化があったとは思えない。いつもか、それ以上に変なだけだった。
「これは私の憶測なのだけれど……。マエリベリーは貴女を置いて行ったのではなくて、置いて行かざるを得なかったんじゃないかしら?」
「それ、どういうことですか?」
蓮子が若干前のめりになる。夢美は僅かな間だけまぶたを閉じると、蓮子の目を見ながら言った。
「マエリベリーの異能が『そこ』で必要になった。そう考えられない?」
蓮子はその言葉に耳を疑った。
「……メリーの異能が、必要?」
「君の弁を信じるのであればマエリベリーの異能は『境界を見る』能力……。だけど、君が見てきた数々の彼女の『人外な業』を加味して考えると、全く別の力にも見えるわね」
つまり、と夢美は告げた。
「彼女の異能は強くなっている。もはや『境界を操る』能力と言っても良いかも」
まさかの言葉に、蓮子は言葉を失った。確かに、人によっては異能が増大したりする場合もある。その反対に減退することだってあるのだ。しかし、メリーはそのさらに上を行っており、異能を『進化』させたのだ。
「た、確かに……メリーの異能は強くなっている感じはありました。でも、そんなレベルまでなっているとは」
「言ったはずよ、これは私の憶測……可能性の話でしかないわ。話半分程度に聞いておきなさい」
しかしなぜだろう。夢美がそう言うとそうとしか思えないのだ。
「コレも憶測だけれど、マエリベリーはその進化した異能を使用してその『幻想郷』とやらに向かったんじゃないかしら? そして、そこでその異能が必要になった。その異能が無くては存在が保てなくなってしまったほどに、マエリベリーはその『幻想郷』に大きな影響を及ぼしてしまった。ゆえに――」
「もうやめてください!」
蓮子は大声を上げてその先を言わせなかった。
「やめてください、そんな……そんな、意味の無い話! 教授の言い分だと、メリーはもう私のところには帰って来れないって言っている様なものじゃないですか!」
「……そうね、意味の無い仮定の話をしても仕方ないわね。それにごめんなさい」
夢美は小さく頭を下げた。
「幾つもの可能性をシュミレートして、現実に最も近いであろう推論を立てて検証する……。科学者の性分なのよ。許してくれる?」
「……はい」
蓮子も別に夢美を糾弾するつもりはない。ただ、夢美にその先を言って欲しくないだけだった。夢美が言ってしまうと、本当になってしまいそうな気がしたのだ。
「なんにせよ」
剣呑な雰囲気が漂っていたが、それを無視するかのようにちゆりが口を開いた。
「ここで駄弁ってても仕方ねぇ。少しでもそいつに繋がりそうな情報を得てこないことには前進できねぇぞ」
ちゆりの言うコトは正しい。こうして意味の無い推論をしているだけでは何も始まらない。やはり、足で稼ぐしかないのだろうか。
「……宇佐見、この話は聞いたことがあるかしら?」
調べ方について再検討をしていた蓮子に、夢美が問いかけてきた。
「噂話ですか? でしたら、大概のものは調べたと思うんですけど」
「確かに噂話だけど、これはちょっと異質なものかもしれないわね。これはかつて、私が聞いた不思議な話」
蓮子は怪訝な表情を浮かべた。蓮子だって手を拱いていただけではなく、足を使って調べ回った。大学構内で聞ける噂話など多寡が知れているが、もしかしたら蓮子が聞き漏らしたものかもしれない。
「どんな話ですか?」
「《零次元エクスプレス》」
夢美の口からはとても信じられないような言葉が飛び出した。
「乗客をどこへでも……いつの日にでも導いてくれる、次元を越えて走る列車の話よ」
少女は最愛の親友への道標を見つけた
中篇はこれでおしまいです。次回は最終話『後篇』になります。
ではまた。