ヤーナム経験者の悠仁くん   作:4R1ES

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交流会前編。コメディパートは書きやすいです。
補足にて、このクロスオーバーにおける悠仁と月の魔物の関係を載せています。
12巻の時点での考察妄想+現在15巻までの知識のため、今後、原作と乖離しそう。


#10 誤算(交流会1)

 

 

 

「雲の下に浮かぶ月と、灰の降る街、ね……」

 

 悠仁の話を聞き終えた五条が、ソファに身を沈める。

 「悪夢」と称されたヤーナムでの出来事と、月の魔物の存在。

 聞いた街の様子から推測すれば、時代はヴィクトリア朝。日本だと明治時代あたりか。

 元来、狩人は遺志を継ぐものらしいけど、相手の存在――月の魔物そのものを継いだというのは、悠仁が器であることも関係しているかもしれない。

 

 しかし、両面宿儺が受肉をした後の悠仁に取り憑くとは、月の魔物も相当に厄介な相手だ。

 七海の話では、特級呪霊から庇護するように現れたらしいから……愛ほど歪んだ呪いはないね。

 

 

「よし! ヤーナムのことは僕が調べておくから。あとは任せなさい!」

 

 手を打って立ち上がった五条が、明るい声で宣言した。そして目隠しの位置を直しながら、壁際の振り子時計に目をやる。

 

「待ち合わせの時間にはちょっと早いけど、移動しようか。新しい友達も増えたことだし、交流会も勢いに乗って勝つよ!」

 

「友達……?」

 

 不思議そうに首をかしげた悠仁の姿に、五条も首を傾ける。

 

「足手まといになるのが分かってて順平を連れて行ったんだもの。報酬も出ないのに尽くせる相手なんて、家族か恋人か、友達ぐらいなもんでしょ?」

 

 僕は生徒も大事にするよ、と付け加える五条の声を聞きながら、悠仁は高専での任務や特訓を思い返す。

 

「友達か……。そうかも!」

 

 利害に囚われない関係――友達という響きは懐かしく、少し照れくさいように感じられた。

 

 

 

 五条に続いて移動しようとしていた悠仁が、当初の目的を思い出して立ち止まった。

 

「あのー。順平の家のことで、先生たちに謝りたいんだけど……」

 

 ためらいがちに話し始めた悠仁に、新聞に目を落としていた七海も顔を上げる。

 悠仁が何かを取り出せば、先日、吉野順平の家で確認した残穢と同じ、色濃い呪詛が漂ってきた。

 

「……俺がやりました」

 

 暫しの沈黙。振り子時計が時を刻む音だけが、大きく響き渡った。

 先に動き出したのは七海で、新聞をたたむと立ち上がり、悠仁の前で仁王立ちになる。

 

「……虎杖君」

 

「ハイ」

 

 うつむいて目を合わせない悠仁に、サングラスをずらして眉間を揉んだ七海がため息をつく。それからソファ横のフローリングを指さした。

 

「そこに正座を」

 

「え? また?」

 

 顔を上げた悠仁の目に映るのは、腕を組んで立つ七海。説教モードである。

 

「何か不満でも?」

 

「アリマセン」

 

 すぐには終わらないと判断した五条は、大人しく座る悠仁に片手を振って待ち合わせ場所に向かう。

 笑いをこらえながら、報告書をどうするかについては七海に任せようと思った。

 

 

 

 日差しが陰り、影の落ちた長い廊下を悠仁が駆ける。

 七海の説教が思ったより長かったため、ミーティング場所へ直接向かうことになってしまった。

 走りながら、悠仁はここ数日で気になっていたことを口に出す。

 

「宿儺さ、儀式素材……食ってない?」

 

 右手の甲を見るが、宿儺の反応がない。いつもなら悪態をつくのに。

 目覚めてから先日まで儀式素材には触れておらず、何をいくつ持っていたかは覚えていない。

 今となっては無用の長物のため構わないが、知らないうちに数が減っていると不安になる。

 

「……今度交換するけど、どれがいい?」

 

「生きているヒモ」

 

「やっぱ食ってんじゃん」

 

 高いやつ選んだなと思いつつ、遠目からでも見えたパンダに手を振り、悠仁は走るスピードを上げた。

 

 

 

 京都校の生徒との顔合わせを終え、緊張した面持ちの順平が悠仁の隣に座る。

 転入が決まってすぐに、五条によって交流会のメンバーに組み込まれた順平を観察しつつ、作戦の確認のために真希が口を開いた。

 

「予定通りパンダ班と恵班に分かれる。順平はパンダ班だ。で、悠仁は東堂と親友なんだろ? 相手してやれ」

 

 さっきは悠仁がいないから騒いでいたと、付け足される情報に悠仁は顔をしかめる。

「親友じゃないんだけど……」

 

「まあ、東堂とやれるのは悠仁ぐらいだし、どのみちお前になってたよ」

 

 パンダはそんな悠仁をとりなしつつ、隣に座る順平に目を向けた。

 

「順平は式神使いだったよな? 近接補うのに、真希の屠坐魔(とざま)借りときな」

 

 順平はパンダの口元を凝視しながらそれを受け取る。

 会った時から値踏みされているようで落ち着かなかった順平だが、扱えそうな武器を考えてくれていたのだと思うと嬉しくなった。

 

 受け取った大振りのナイフの柄を握って確かめながら、順平は手ぶらの悠仁に振り向く。

 

「虎杖君は武器使わないの?」

 

「使うよ。ほとんど使用禁止にされたんだけど、これは許可でた!」

 

 そうして取り出されたのは、先端に鉄球の付いた金属製の棍棒――トニトルスである。

 

「蛮族かよ」

 

 ださ、と釘崎に言われて少し傷ついたが、こいつの真価を発揮すれば、その考えも変わるだろう。

 釘崎の言葉を撤回させるという別の目的を胸に掲げ、悠仁は移動する先輩たちに続いた。

 

 

 

 鬱蒼とした森の中を、伏黒の玉犬を先頭にした東京校の生徒が進む。

 玉犬が吠え示した側を向けば、赤い蜘蛛に似た呪霊が木から垂れ下がった。

 すぐに反応した真希が大刀を構えるが、それを上回る速さで誰かが隣を駆け抜ける。

 次の瞬間には、武器の消耗を度外視した強力な一撃――雷光を纏ったトニトルスが呪霊を粉砕した。

 

「殺意マシマシだな」

 

 呆れたように呟くパンダに、玉犬の頭を撫でる伏黒が答える。

 

虎杖(こいつ)、蜘蛛への反応速度が異常なんすよ」

 

「嫌な思い出でもあんだろ」

 

 それに気を悪くした様子もない真希が返せば、遠くから破壊音が聞こえた。

 

 数秒で目の前に飛び出してきたのは、上半身の筋肉を晒した大柄な男。

 

「よぉーし! いるな虎杖(マイフレンド)! かかってこっ」

 

 叫びながら木をなぎ倒して現れた東堂の顔に、鉄球がめり込む。

 

「散れ!」

 

 悠仁が先手を取ったのを合図に、真希の掛け声で東京校の生徒が散り散りになった。

 

 

 

 攻防の末、互いに数発ずつくらった悠仁と東堂が距離を取る。

 血の混じった痰を吐き捨てた東堂が、構えを正した。

 

「いい動きだ虎杖(マイフレンド)。こうやってお前と喧嘩するのも、中学卒業以来だな」

 

「いや、俺とお前は同中(おなちゅう)じゃねえだろ。……鎮静剤いるか?」

 

 唐突に恐ろしいことを言いだした東堂に、悠仁は困惑する。

 悪夢の影響で中学時代の記憶が曖昧なため、強く否定できないのも悠仁の不安をあおった。

 鎮静剤が必要なのは自分かもしれない。

 

 

 

――宿儺の器、虎杖悠仁は殺せ。

 

 少し先を走る真依の背中を追いかけながら、学長の言葉を思い出した三輪は再び沈んだ気持ちになった。

 学長や加茂が危険視している、まだ会ったことのない少年を心配しているうちに、ターゲットの彼が視界に入る。

 気分はのらない。だが、自分の弟たちの方が大切……。覚悟を決めなければ。

 真依の発砲音を聞きながら、迎撃のために居合の構えをとる。

 だが弾を躱しながら走る悠仁の左手がぶれたのを捉えたときには、反射で刀を振りぬいていた。

 足元に転がったものを確認すれば、半分に割れた野球ボール程の白い物体。

 

「石?!」

 

 再び前方に視線を戻す。同じものを当てられたのか、真依は茂みに落とされ、加茂も体勢を崩して幹に手をついていた。

 最後に悠仁を見れば、どこから持ってきたのか、映画でしか見たことのない長大な筒――ガトリング銃が握られている。

 よくできた模型だと現実逃避しかけた三輪だが、メカ丸に肩を叩かれ、それが火を噴くのを確認する前に背中を向けて走り出した。

 

 

 

 静かな森に似合わない、重い破裂音が響き、伏黒が顔を上げる。

 

「虎杖ですね。これ大丈夫ですか?」

 

 心配ないと真希は言うが、伏黒が心配しているのは虎杖ではない。

 

「虎杖は殴られる前に叩き潰すタイプですよ」

 

 文字通り。任務での出来事を遠い目で思い返しながら、伏黒は真希を促す。

 

「さすがに殺しはしねぇだろ。殺しそうではあるが」

 

 伏黒に心配しすぎだと言いつつも、真希は一度だけ同行した悠仁との任務を思い出した。

 四級(ザコ)相手でも手を一切抜かない堅実なやつだと、最初こそ好印象を受けた真希だったが、任務終了時には問題児と言われる理由を理解した。

 

「……死人が出る前に戻るぞ」

 

 来る時よりもスピードを上げて走る真希を追いかけながら、伏黒は京都校の無事を願った。

 

 

 

 若い呪術師たちが競い合う様子を、ゆったりとソファに腰かけた冥冥が眺める。

 今年の東京校は半数が一年生だが、実力は十分。

 モニターに映した映像を眺めれば、芻霊呪法を使う少女が、箒に乗った少女を石ころで撃墜していた。

 

「伏黒君も石ころで撃墜していたけど、東京校では流行ってるのかい? 石ころ投げ」

 

 冥冥が問いかければ、五条が愉快そうに話を始める。

 

「『コスパ最強の武器を教えてやる』とか言って、悠仁が投げだしたのが始まりかな」

 

 それを聞いて、先ほど手際よく三方向に石ころを投げた悠仁の姿を思い出し、冥冥の頬がゆるんだ。

 

「それでか」

 

「ん? ところで……さっきからよく悠仁周りの映像切れるね」

 

 五条が冥冥に振り向いて笑いかける。

 続いて楽巌寺の方に目線をやったが、彼はモニターから目を離さず、無視を決め込むつもりらしい。

 不穏な空気が漂い始めた部屋に、冥冥のよく通る声が響く。

 

「あの子、カラスに石ころを投げて近付かせないんだよ」

 

 その言葉に、モニタールームにいた大人たちの時間が止まった。

 カラスに嫌な思い出でもあるのかと言われて、五条は悠仁の動物嫌いが極端であることを思い出す。

 

「説明するの忘れてた」

 

 大人たちの取引も策略も無駄にする行動に笑いながら、五条は生徒たちの活躍をモニター越しに目に焼き付けた。

 

 

 

 




■補足■
「悠仁と月の魔物と呪胎九相図」
■明治時代(1868~1912年):明治初期、加茂憲倫が呪胎九相図の研究をしていた。
■ヴィクトリア朝(1837~1901年):Bloodborneの時代イメージ。
■加茂家:赤血操術を使用。呪胎九相図たちの術式も“血”に関係する。
■ヤーナム:血の医療の街。「我ら血によって人となり、人を超え、また人を失う。知らぬ者よ――かねて血を恐れたまえ」
■呪胎九相図を産んだ女性の説明:呪霊の子を孕む特異体質。呪霊と人間の混血、異形の子。身に覚えのない懐妊。
=ここでは呪霊ではなく上位者、月の魔物の子供を身ごもったと解釈する。ただし、堕胎しているため呪胎九相図は“赤子”ではない。
■脹相の「存在しない記憶」:呪胎九相図と悠仁は兄弟らしい。
=十番目の子供。堕胎→受肉ではない。=上位者の求めていた赤子である。
※上記より、悠仁は呪胎九相図たちの末の弟であり、月の魔物の遺志を継いだ赤子とする。

■月の魔物:呪胎九相図は呪術師に盗られたけど、可愛い赤子の悠仁がいる。
悠仁が呪いの王の指を拾った? ヤーナムに連れてきて保護しなくては!(ループが始まる)
悪夢の中で悠仁を大事に可愛がって育てていたら、宿儺が受肉して怒りが収まらない。
意地で自分の遺志を継がせ、現在、両面宿儺と同居中。(不本意)
赤子への愛と上位者の誇りにかけて、両面宿儺は必ず追い出す。

■両面宿儺:愉快なのでよし。血酒や嗜好品が容易に手に入るのもよし。

こんな妄想がはじけて、小説を書き始めました。
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