ヤーナム経験者の悠仁くん   作:4R1ES

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渋谷事変の前に悪夢を思い出すため、ヤーナムに悠仁くん召喚(キャラ作成)しました。
筋力:99を目指して成長中です。


#14 淀み (渋谷事変1)

 

 

 

 

2018年10月31日 青山霊園

 

 帳の降ろされた渋谷から幾分か離れたその場所で、待機命令を出された悠仁と一級呪術師の冥冥(めいめい)、その弟の憂憂(ういうい)が顔を合わせた。

 冥冥は交流会の時にカラスを通して見ていたため、悠仁のことを一方的に知っている。だが話をするのは今回が初めてだ。

 問題児と言われている悠仁だが、その実力と、扱う呪具の希少性の高さから、術師たちの間で話題に上がることも多い。

 自分の名前で一級呪術師に推薦したのも、五条の“お気持ち”だけが理由ではなかった。

 

 悠仁が渋谷周辺に来ている術師を気にしているようなので、彼の同期三人がそれぞれ七海、禪院、日下部の班に居ることを伝えてやる。

 それと、メカ丸の見舞いで東京校に来ていた歌姫と生徒も、渋谷周辺で待機中だと言えば、悠仁の目が泳いだ。

 その様子を見て、姿勢を崩してくつろいでいた冥冥が笑う。

 

「虎杖君、また何かやらかしたんだろう? 五条君たちの学生時代を思い出すよ」

 

「五条先生……たち?」

 

 首をかしげた悠仁が五条の学生時代に興味を示したが、本人が話していないなら言うべきではない。

 

「気になるなら、本人や夜蛾学長に聞いてごらん」

 

 その言葉に素直に頷く悠仁と、隣で不満げに唇を尖らせる憂憂に視線をやりながらあの頃を思い返せば、胃を押さえている夜蛾の姿が浮かんだ。

 そして、その光景が、最近になってまた見られるようになったと思い至る。

 優秀な術師とは、同時に問題児でもあるらしい。

 それから雑談を交え、互いの立ち回りなどを確認していれば、明治神宮前駅に渋谷と同様の帳が降りたと連絡が入った。

 

 

 

 

 

 明治神宮前駅の全体を覆う“一般人を閉じこめる帳”。その内側に、副都心線――渋谷に繋がるホームを中心とした“術師を入れない帳”が降りている。

 冥冥が駅構内にカラスを飛ばしたところ、二つの帳の間、地下4階で改造人間が一般人を襲っているのが確認された。

 見かけた人数が予想より少ないことから、逃げ場を失った一般人のほとんどは、術師の入れない地下5階に追いやられているのだろう。

 そして、冥冥のカラスが狩られたのが地下1階と地下2階の間であり、ここに“帳”を降ろしている呪霊か呪詛師がいると推測された。

 

「虎杖君はここから入って、地下2階の呪霊か呪詛師を始末。もしツギハギ顔の呪霊なら、君がやりたいだろう?」

 

 2番出口の地下へと続く階段の前に立ち、冥冥が悠仁に声をかける。

 改造人間から一般人を救出する冥冥と憂憂の二人は、地上を通り、地下4階へ直通の7番出口へ向かうらしい。

 

「戦力を分けるのはどうかと思ったが、グズグズしていては地下4階の一般人が全滅する。地下2階の状況も分からないしね。……期待してるよ。虎杖君」

 

 悠仁が首を縦にふれば、髪に隠れた冥冥の口元が弧を描いた。

 

 

 

 

 

 悠仁が地下へ足を踏み入れれば、すぐに鮮血のにおいが漂ってきた。

 目的の地下2階、血の香りが濃くなるほうへ進めば、バッタに似た特徴をもつ呪霊が、人間を抱えているのが見える。

 呪霊に掴まれた人の手がビクリと震える。どうやら、生きたまま頭を齧られているらしい。

 

 最初の狩人が獣を狩ったのは、“弔い”のためである。

 それは、獣となった人々が「せめて安らかに眠り、二度と辛い悪夢に目覚めぬように」と願った、葬送の儀式。

 だが、人を手にかける瞬間に、相手を案ずる者などいるだろうか。

 狩人たちは、それぞれの目的のために戦い、人も獣も、数え切れぬほど狩ってきた。

 だから悠仁も、殺すことを非難はしないし、できない。だが……。

 バッタに齧られている人間の手が、まだ反応を示す様子が目に映る。

 ……不要な痛みや恐怖を与えるというなら、話は別だ。

 

 悠仁の手に、ノコギリ刃で縁取られた円盤機構を有した異形のメイス――回転ノコギリが握られる。

 ノコギリ刃を床に触れさせたまま引きずって歩けば、その床を削る音にバッタの呪霊が振り返った。

 バッタ。すなわち「虫」――人の淀みの根源。狩りの夜に轟く汚物。

 人間の負の感情から生まれる呪霊に、これほど見合った姿もないだろう。

 呪霊が話しかけてくるのを無視して回転ノコギリを担ぎ、その仕掛けを作動させる。

 ノコギリ刃の円盤が、高音を響かせて回転を始めた。

 慌てて腰を上げた呪霊が動くより先に、悠仁の横薙ぎに振るった刃が呪霊を捉える。

 回転を続けるその刃が、壁に押し付けられた肉を削り、血と共に撒き散らした。

 

 血振りをすれば、武器を滴っていたそれが、倒れた呪霊と床に降りかかる。

 

――いまや夜は汚物に満ち、塗れ、溢れかえっている。素晴らしいじゃあないか。存分に狩り、殺したまえよ。

 

 目の前の光景に、連盟の長の言葉を思い出し、「虫」を探すように血溜まりの中に目を走らせた。

 その中に呪符らしきものが巻かれた杭を見つけ、悠仁は足をかける。

 地下に溜まる血のにおいに、不快な呪霊共……これでは悪夢と同じだ。

 ならば、相手が呪霊でも呪詛師でも関係ない。

 

「『虫』は踏み潰す……」

 

 

 

 

 

 呪力の込められた杭を潰すと同時に帳が上がったため、悠仁は冥冥に見せるために杭を回収する。

 血塗れのまま渡せば憂憂に何か言われそうだと思いながら、地下4階に繋がる階段を下りた。

 

 改札の前で合流した三人は、改造人間がいなくなったのを確認し、地下5階へ向かう。

 先頭を走る、怪我を負った様子もない悠仁に、冥冥が声をかけた。

 

「凄いね虎杖君。私たちが地下4階に着く前に祓ってしまうとは思わなかったよ」

 

 一人で行かせても問題ないと思ってはいたが、期待以上の働きだ。

 術式は持っていないが、充分1級レベルに達している。

 術式の相性など関係なく技量で押し切るため、強い術式を持っている者ほど、彼を相手にすれば苦戦するかもしれない。

 近接戦を得意とする1級呪術師が相手でも、彼が苦戦する相手は多くないだろう。

 そんなことを考えながら地下5階のホームに降り立てば、ドアの開いた電車が止まっている。先頭車両の前には、一人が佇んでいた。

 

 冥冥がツギハギ顔の呪霊だと認識するより先に、隣にいた悠仁が回転ノコギリを作動して走り出した。

 振りかぶったノコギリ刃の円盤が、閉まったドアの窓を砕く。

 歪んだドアと割れた窓のすき間から、押し込められた改造人間が溢れそうになったとき、渋谷方面へと車両が動き出した。

 

「虎杖君!」

 

 制止のために声を上げた冥冥に、悠仁が振り向く。だが、謝るような身振りを見せた悠仁は、勢いよく最後尾車両の連結部に飛び移った。

 

 

 

 

 

獄門疆(ごくもんきょう) 開門」

 

 そう唱えた袈裟の男が、五条に歩み寄る。

 久しいね。と掛けられた声に、振り返った五条の表情が強ばった時には、分散した獄門疆が拘束するように纏わりついた。

 封印の確定した五条に相対し、袈裟の男――夏油の皮を被った術師が話を続ける。

 自分(夏油)の肉体が五条の声に反応し、自分の首を掴むという初めてのことに関心していれば、無量空処から目覚めたらしい誰かの足音が聞こえた。

 

 

 車両に掴まったまま渋谷駅に着いた悠仁は、ホームに溢れる仮装した人々と、彼らに襲い掛かる改造人間たちの間から、五条の姿を確認した。

 まだ自分に気づいていないらしい火山頭とツギハギ、血を操る呪詛師――月の香りの者が五条を標的にしているのを見て、姿勢を下げたままノコギリ刃を外したメイスを改造人間に向ける。

 幾人かの改造人間を屠ったところで意識が遠のき……目覚めた時には改造人間の姿が消えていた。

 

 立ったまま気絶している人々の向こうで、ツギハギたちも動きを止めている。

 五条の呪力が感じられないのでホームを見渡せば、少し先に、死体を操る術師の後ろ姿が見えた。

 特級呪霊2体と、呪胎九相図の受肉体。“縛り”で殺せない術師。……ここにいたら死ぬ。

 悠仁が階段を上るために袈裟を着ている術師のほうへ走り寄れば、異様な気配のする呪物に拘束された五条の姿が見えた。

 階段の前で足を止めた悠仁と、五条の視線が合う。

 

「五条先生。必ず、こいつら狩り(殺し)に戻ってくるから……待ってて」

 

「……期待してるよ」

 

 生徒の頼もしい言葉と力強い声に、表情を緩めた五条が答えていると、新しい気配が近づいてきた。

 

 

 目覚めた真人が悠仁に仕掛ければ、白い霧のような跡を残し、悠仁の姿が消える。

 虚を衝かれた真人が瞬きを繰り返し、次に悠仁の姿を視界に捉えた時には、すでに階段を駆け上がっていた。

 古い狩人の遺骨――遺志から「加速」の業を引き出す、古い狩人の遺骨。

 懐かしい品の登場に、袈裟の男が笑い声をあげた。

 

「あんな()()()、まだ使ってる奴がいるとはね」

 

 その言葉に五条が目を見開いたが、もはや気にすることでもない。

 

 悪夢に囚われた者は誰しも、背負った業からは逃れられない。

 

「赤子の赤子、ずっと先の赤子まで……」

 

 永遠に血に呪われ続ける……憐れな狩人だ。

 

 

 

 

 

 




■補足■
「虫」
連盟の狩人が、狩りの成就に見出す百足の類。
汚物の中に隠れ轟く、人の淀みの根源。

「連盟の長、ヴァルトール」
全ての「虫」を見つけ、踏み潰し、人の淀みを根絶するまで狩りと殺しを続けること。
それが同士、血濡れの連盟の狩人たちの使命である。
――穢れた獣、気色悪いナメクジ、頭のイカれた医療者共、みんなうんざりじゃあないか。だからこそ殺しつくす。連盟の狩人が、お前に協力するだろう。

「メカ丸の術式(保険)」
発動条件に“術者の死亡後”を含むほうが好きなので、今作では発動しません。
(発動条件は“五条悟封印後”としか明記されていない。はず。)

※順平は日下部班にいます。
(日下部、パンダ、順平)
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