彼の術式の部分は、雰囲気で読んでください。
死滅回游へのルール追加を報告した式神のようなもの――
悠仁に憑いていると言うコガネに
しかし、
宿儺が関係しているのか、疑問が浮かんでくるが、今、優先して考えるべき事はそれではない。
想定外の事態ではあるが、
羂索の発言から、彼が用意した
100点以上を所持していて、ルール追加を行う気がない者を捜し、死滅回游を抜ける穴となるルールを追加させる。
それに、これができれば……人を殺さずに死滅回游を進めることができる。
現時点で100点以上を所持しているのは、
追加したいルールは二つ。
2018年11月12日 11時50分
東京第1
死滅回游に参加してからの行動の確認が終わると、間を置いてから伏黒が口を開いた。
「警戒すべきは、受肉した過去の術師だ」
そう言葉にした伏黒を、悠仁が横目に見る。
「理由は?」
「1000年前の連中もいる。100年や200年でも、命の価値が今とまるで違う。しかも術師だ」
彼らにとって、戦って死ぬのは当たり前。となれば、戦って死ぬために
「津美紀と同じ、巻き込まれた現代の術師なら、むしろ積極的に情報交換できると思う」
「……俺は逆だと思うけど」
過去の術師たちにとって、現代の、特に巻き込まれた術師たちを狩るのは容易い。
羂索が契約を持ちかける程には手練れなのだ。“得点”を稼げないために術式が剥奪される――死ぬ事態になるとは思えない。立ち回りを考えられる分、気持ちに余裕がある。
それに、過去の術師たちは、何か目的があって死滅回游に参加しているはずだ。
戦うこと自体が目的ならば話は別だが、死滅回游から抜けられなければ、彼らも目的を達成できない。
こちらに利用価値があると判断すれば、その価値がなくなるまでの間は協力するだろう。
だが、現代の術師たちは違う。
羂索と接触した際に寝たきりになり、高専に存在を確認されていた者を除いて、状況もほとんど分かっていない。
誰かを殺したことも、誰かが殺される場面に居合わせたことも、ほとんどの者にないだろう。
それでも、死と隣り合わせの状況にあるのは分かっている。
期限までに“得点”が必要なことも知っている。そんな中で。
「敵意のない人間が近づいてきたら……“今しかない”って、思うだろ?」
二人の間に沈黙が落ちる。
「……そうだな」
伏黒が呟くように小さな声で返したタイミングで、目の前にコガネが飛び出てきた。
気を取り直した伏黒が、死滅回游への参加を宣言する。
何か考えている様子の伏黒の横顔を見てから、悠仁も
体勢を変えて街を見渡せば、あちこちで建物が崩れているのが分かる。
点々と血痕の見える地上からの高さは、200メートル程だろうか。呪力で身体強化のできる術師が、この高さで落下死したなら……。
落下地点のビルの屋上で、誘導灯が光る。
地上からの高さがビル群の屋上付近に差し掛かると、猛スピードで人影が突っ込んできた。
影と重なる瞬間、悠仁が左腕を振り抜く。
その手に握られているのは、指を差し込む穴が開いただけの、拳より二回りほど大きな四角い鉄塊――ガラシャの拳。
ある種英雄的で、凄まじいとまで言われた女狩人の武器は、不安定な姿勢での使用にも関わらず襲撃者の攻撃を跳ね除け、相手の姿を見る間もなく弾き飛ばした。
屋上に着地した悠仁は拳に血が付いていないのを確認して、またコガネの反応がないため、ビルの天窓から建物内に落ちていった相手が無事だと判断する。
それなら日車の情報を聞こうと、開いた穴から襲撃者を追いかけようとした悠仁は、背後から迫るプロペラの音に振り返って石ころを投げた。
二人目の襲撃者もガラシャの拳で沈めた悠仁は、目の前の気絶した男に一応、話しかける。
それなりに硬い相手だったため傷は大きくないが、頭部の負傷のせいか出血が多い。脳震盪も起こしているだろうから、しばらく目覚めないだろう。
落下地点で
日車のことが聞きたかったと声に出してため息をついた悠仁は、足音を消さずに近づいてくる三人目の
悠仁の名前を呼び、日車のことを知っていると言って近づいてきた若い男が、小さく手を振る。
「久しぶり。覚えてるか?」
「誰だ」
悠仁は悪夢に囚われていた影響で、中学以前の記憶が曖昧だ。故に、本当に知り合いなのか判断がつかない。
「……悪い。一方的に俺が知っているだけだ。オマエは有名人だから」
険しい顔をする悠仁に、中学時代に会ったことがあると説明した男――
あやしさはぬぐえない。だが、あてもなく捜し回るよりは効率的かと、悠仁は甘井についていくことに決めた。
劇場前で立ち止まった甘井が、入口を指さして悠仁を振り返る。
「日車はこの劇場を拠点にしている。移動してなければだけど……」
「マジで助かった! ありがとう!」
嘘だったら一発殴らせてもらおうと密かに考えながら、前に出た悠仁が扉に手をかける。
なぜか引き留めようとした甘井の声に後ろ手を振って、劇場の階段を駆け下りた。
舞台上に置かれた水を張ったバスタブに、スーツ姿の男が浸かっている。
ガラシャの拳を握ったままの悠仁が客席を進んで舞台に近づけば、脱力しきっていた男が少し身を起こした。
悠仁を視認してから、服を着て風呂に入ったことがあるかと問う男に、悠仁がないなと返す。
「思っていたより、気持ちがいい」
答えは気にせず話を続ける男が、近ごろの心境の変化を語る。
悠仁も男の反応は気にせず、とりあえず話しかけることにした。
「アンタ日車だよな」
「いかにも」
「話がしたい」
続けて交渉に入ろうとした悠仁を、日車が遮る。
弁護士である自分と話すには相談料がかかると、冗談まで言いだした日車の相手をするのに、悠仁はうんざりし始めた。
全てに返事をしていては埒が明かないので、話したいことだけ言い切ることにする。
「端的に。俺達は死滅回游を終わらせたい。……いや、殺し合いの強制を無効にしたい。そのためのルール追加に、日車の100点を使わせてくれ」
「俺も端的に言おう……。断る」
「それも冗談か?」
「いや? 俺はただ、死滅回游に可能性を感じている」
時に法は無力だ。だが死滅回游の
「告訴も公訴も必要ない」
真偽を争うこともなく、
「
すぐ終わってしまっては困ると言う日車が、バスタブから身を乗り出して悠仁に視線を合わせた。
「特に
術式の剥奪。ペナルティとして“死”を科すことができるのか確かめたいと口にした男が、悠仁の反応を待つ。
日車の顔を見た悠仁が、静かな声で返した。
「世の中の全ての人間に、法律を
物心もつかない幼子以外、ペナルティを受けない者はいない。
「人は皆……醜い獣なんだから」
少年の、予想していなかった少年らしくない発言に、日車は目を見開く。
「君は――」
「さっきの話の続き。言い方を変える」
今度は悠仁が、日車の話を遮る。
「100点を使わせろ。日車」
拳を構えた悠仁に、言いかけていた言葉を飲み込んだ日車が立ち上がる。
その後ろには、両目を閉じ、瞼を縫い留められた顔。天秤を模した身体をもつ式神が現れた。
「……気に入らない奴をブチ殺したことはあるか?」
スーツから水を滴らせながら、儀礼用の小型の木槌――ガベルを手にして舞台を踏みしめた日車が語る。
「思っていたより、気持ちがいいぞ」
言葉とは裏腹に、日車が表情に嫌悪感を滲ませるのを悠仁は確認する。まだ、殺すことで動く感情があるなら……。
「人間らしくて安心したよ」
領域展開――
日車は先手を取り、自分のペースに引き入れながら、目の前の少年に言い表せない違和感をもつ。
自分の話にうんざりしたりと、年相応な態度を見せていたかと思えば、ひどく冷めた顔をする。
それに、先程の発言は少年が至って良い考えではない。“こういう事”に慣れていたとしても、納得ができない。
出現した手すりにガベルを打ちつけ終えた日車の前髪が、風で揺れた。
領域を展開すると同時に仕掛けてきていた少年の鉄塊の拳が鼻先で止まったことに、内心、冷や汗をかきながら、領域内では互いに暴力行為が禁止されていることを説明する。
少年が定位置に戻されたことを確認して、背後にいる式神――ジャッジマンに一審を始めるように促した。
虎杖悠仁は2018年10月19日
ダムを含む一般人の立入禁止区域に侵入した疑いがある
感情のないジャッジマンの声が、罪状を読み上げた。
疑似的な裁判が始まり、悠仁は「黙秘」「自白」「否認」のいずれかを行うことで、無罪を証明するように迫られる。
“証拠”の入った封筒を持つ日車を前に、悠仁はその日の記憶をたどる。
あれは五条からの極秘任務で、呪霊・呪詛師との内通者メカ丸――
侵入した疑いがある、という事だが、高専の任務ではあらゆる場所への立ち入りが許可されている。
ジャッジマンが有罪を下した際に何が起こるのか不明だが、これなら問題ない。
「確かにダムには入ったけど、任務のためであって侵入ではない。だから無罪で!」
悠仁が「否認」したため、日車が“証拠”を開示する。
入っていたのは、立入禁止区域内への立入許可の申請者・団体のリストだ。
資料に目を通し終わった日車が、見せつけるように頭上に掲げた。
「本件当日、立入許可を出した申請者・団体はいない」
いないのかよ。
一瞬、無になった悠仁だが、考えてみれば五条の“極秘任務”だ。
周りに知られないように調査を進めていたなら、そもそも許可なんて取らないか……。
「……それは何罪?」
「建造物侵入罪だ」
日車が答えるが、この領域内で判決を下すのは彼ではない。
二人のやり取りを静観していたジャッジマンが、日車のガベルを鳴らす音をきいて口を開いた。
「『
その宣言と共に、領域が閉じられる。
何が“没収”されたのか、悠仁は考えるより先に舞台上の日車に向けて駆けだした。
そして拳を構えて、呪力が練れないことに気づく。
多くの術師には死活問題となる事象だが、悠仁にとっては“悪夢”と同じ条件になっただけ。……問題ない。
ジャッジマンに
それを左手に持つ鉄塊で難なく弾いた少年の姿を見て、日車はより一層、気を引き締めた。
持ち手がバット程度の大きさになるまで巨大化させ、呪力を纏ったそれを少年に振りかざした。
術師は術式が使用できなくなると勘が鈍るのか、基礎的な呪力操作もグダグダになることが多い。
だが、目の前の少年は自分と互角。いや、それ以上に渡り合っている。
その少年が、術式ではなく“呪力”を没収されていると気づいた日車は、彼の肉体の強度の高さ、そして呪力で身体強化した自分を大きくよろめかせるほどの拳の威力の高さに恐ろしさを覚えた。
自分との戦いで少年に不利な点があるとすれば、彼が“得点を稼ぐため”ではなく、“100点を使わせるため”に戦っていることぐらいだろう。
呪力なしの少年の攻撃に、自分を戦闘不能にするまでのものはないようだが、どちらかと言えば、呪力切れを起こす自分の方が不利だ。……その前に全力で潰す。
日車が呪力の出力を上げようとしたところで、距離をとった悠仁が口を開いた。
「やり直し! もう一回だ」
悠仁が宣言すれば、再び
日車の後ろに浮かぶジャッジマンが、二審の罪状を読み上げた。
虎杖悠仁は2018年10月31日
渋谷にて大量殺人を犯した疑いがある
自分の耳を疑った日車の手に、“証拠”が握られる。
そこに記されているのは、彼の中に巣食う悪魔――両面宿儺について。
虎杖悠仁は猛毒である特級呪物、両面宿儺の指を摂取しても耐えられるだけの肉体の強度と、自我を保つ制御力を持っていた。
だが、渋谷では
つまり……大量殺人を犯したのは“両面宿儺”である。
渋谷での宿儺の件について、“虎杖悠仁”を咎めるものはいなかった。
呪術界は悠仁を“大量殺人を犯した呪詛師”として裁いていない。
あくまで“宿儺を制御できなかった「器」”として死刑を言い渡している。
悠仁が改造人間たちを――人を殺したことを咎める者もいなかった。
呪術師は“殺す”ことが日常だ。
対象は呪霊だけではない。呪詛師といった人間が相手でも、“殺すしかない”時があると理解している。
おおよそ、人の道理から外れた考え方だが、呪術師にはそれが当たり前で……。
それが今、狩人でも呪術師でも、宿儺の器としてでもない。“虎杖悠仁として”人を殺したことを咎められている。
「……あぁ。俺が殺した。これは嘘でも否定でもない」
悠仁の「自白」を聞いて、ジャッジマンが縫い留められていた瞼を開く。
「『
一審の時とは違い、大きく口を開けて声を張り上げたジャッジマンが宣言した。
日車の手に握るガベルが強く光り、その光が刀身を形成するように真っ直ぐ伸びる。
レイピアのような形状のそれは、「処刑人の剣」。
相手に
ためらうことなく「自白」した悠仁に、その瞳に曇りがないことに、剣を構えた日車のほうが戸惑いを見せる。
先ほど少年は、“人は皆、醜い獣”だと言った。……同じだ。
自分は弁護士として、人の心に寄り添ってきた。それは、人の弱さを理解するということだ。
被害者の弱さ。加害者の弱さ。毎日、毎日。毎日毎日……。ずっと食傷だった。
――醜い
他人に歩み寄る度に、そう思うようになってしまった。
「君も分かっているんだろう……虎杖! 人は皆! 弱く醜い!」
ずっと冷静だったはずの日車が、声を荒げる。
「オマエがどんなに、高潔な魂を望もうとも! その先には何もない! 目の前の闇はただの闇だ!」
正義の女神は法の下の平等のために目を塞ぎ、人々は保身のためならあらゆることに目を瞑る。
「灯りを灯した所で! また眩しい虚無が広がっている!」
だから、そんな中で縋りついてきた手を振り払わない様に、自分だけは
悠仁に会ってから初めて大声を出した、日車の感情が揺れる。
一息に距離を詰めてきた悠仁に剣を振るうが、迷いのある剣が当てられるはずもない。
すり抜けるようにかわして日車の後ろへ回った悠仁が、右手に握ったものを日車の額を狙って投げた。
どこに隠していたのか、野球ボールのように見えたそれ――石ころを避けるために、日車の体勢が崩れる。その隙を逃さず、悠仁の拳が振るわれた。
このまま鉄塊の拳を受ければ、その一撃、もしくは追撃によって戦闘不能にされるだろう。
だが「処刑人の剣」は、斬りつけるだけで相手を死に至らすことができる。
相打ち覚悟で剣を振り抜いた日車と、悠仁の目が合った。
――人は皆 弱く醜い
両面宿儺による、渋谷での大量殺人。
それを自分の罪として認めた少年の瞳と、記憶にある人々の瞳を照らし合わせる。
人が醜いなんてことは、ずっと昔から気が付いていたはずだった。
だが、あの時は……。少なくともあの時――有罪ありきの、証拠もない無茶な判決を見せられるまでは……。
――他の生物にはないその穢れこそ、尊ぶべきだと思っていたんだ!
真っ直ぐに見据えてくる悠仁から視線を逸らすことができず、日車が
握られていた「処刑人の剣」が消えるのを見て、悠仁も当たる寸前だったガラシャの拳を消し、素の拳で日車の腹部を殴りつけた。
「刑法39条1項だ」
客席をなぎ倒して転がった日車が、声をかけてきた悠仁に告げる。
弁識能力と制御能力。いずれかが欠けていると心神喪失となる。
「渋谷での君は、宿儺に身体を乗っとられていた。つまり、制御能力がなかった」
「なんで宿儺のこと……」
どうやって知り得たのかを聞こうとした悠仁が口を開く前に、日車が続ける。
「無罪だ。君に罪はない」
そう言った日車が知っているのは、あくまで宿儺が関わった殺しについてのことだけだろう。
「……違うよ。これは全て俺が望んで、自分が招いた結果だ」
「俺達は弱く、また幼い。でも……それが人間だって、思っていたいでしょ?」
「……そうかもな」
身体を起こした日車が、側にあった椅子を引き寄せた。
「虎杖。オマエのような弱さを持つ人間が、まだまだいるのかもしれん」
先に座った日車が、首を傾げる悠仁の隣にある椅子を指さし、座るように促がす。
「100点をやる」
そう言った自分の正面に椅子を置こうとしている悠仁に、日車が話しかけた。
「虎杖。自分の意志で人を殺めたことはあるか?」
手を止めた悠仁の顔が、ゆっくりと日車のほうを向く。
「……あるよ」
「……そうか。最悪の気分だったろう」
それが、「思っていたより気持ちがいい」と、嫌悪感を滲ませながら語っていた日車の本心。
「人間らしくて安心したよ」
「
<
■補足
「裁判のくだり」
立入禁止区域への立ち入り許可がおりるのか、申請者リストがあるのかは不明。雰囲気で読んでください。
原作の一審(パチのこと)は、中学時代の記憶が曖昧なので本当に覚えていないです。ここの悠仁くんは「知らない」と答えるので、無罪。