ある時
ある瞬間に
彼は長い夢から覚めるようにして瞳を開けた
空が見える。雲が見える。木々が見える。自分が横たわっている事に気づく
失った筈の両腕を動かし、脚を動かし、貫かれた傷跡が塞がっているのを不思議そうに触れる
両腕で支えながら上半身を浮かし自分を見る
脱ぎ捨てた筈の襟を立てた黄色の熱帯用オーバーコート、頭には規格帽
まるで何もなかったように自分の全てが戻っている。ただ1つは除いて
腰にある筈だった愛銃とホルダーが消えてしまっている
彼は立ち上がり周りを見る。視界に入るのは自然豊かな森、嗅覚を刺激するのは土や木々などの独特の匂いに混じり、幾つかの人間と“人間のような”匂いが入り混じる
彼は歩きだし森の中を歩き進んで行った。人間がいるであろう場所まで
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歩く事数分
彼は今、河川敷の道を歩いている
周りにはチラホラと人間が歩いている
前方に男性が二人が何かを話しているのが聞こえた
1人は帽子を被り、もう1人は黒髪のオールバック
聴こえて来る声に歩きながら耳を澄ます
「仕方ないですよ。設備も人員も“ウマ娘”も中央とはそもそもレベルが違うんですから。それに地方には地方の良さが……」
「スターがいないんだよ……」
「はい?」
「自分と重ね合わせて心の底から応援したくなるような……そんなウマ娘(スター)が……」
聞こえて来た彼らの会話で幾つかわかったことがある
設備、人員という言葉から彼らはなにかしらの施設に所属している事
それがどういったものかはまだ分からない
さらに疑問を抱くのが“ウマ娘”というワード
彼は過去様々なものを見て、聞いて来たがそのワードには一切聞き覚えがなかった
分からないが彼にはちゃんと考え、決断できる程の思考力はある
『ウマ娘』まずこのワードを分解し、考え始めた
ウマは間違い無く馬を表している
なら娘は何をさすだろう?
娘はむすめ又はじょうと読めるが彼らはむすめと発言した
ならば間違い無く女性を表している言葉だろう
馬の娘、一般的に導かれる答えとしたら性別が雌の馬という答えが導き出せるが、ならばなぜ彼らは雌馬、ではなくウマ娘と呼ぶのか
国、文化、歴史によって同じ物でも呼び方に差異がある事は珍しい事じゃない
ゾワッ
思考を続けていると背後から風を感じた
彼が後へ振り返った瞬間、一筋の白い影が自分の横を通り過ぎた
その刹那の瞬間
白い影から見えた蒼い瞳が帽子の影の奥底に光る紅い双眸をしっかりと捉えていた