芦毛の怪物と白狼の化物   作:Mituba

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第十話 何が為に走るのか

午前四時

 

 

「……」

 

「ふっ…ふっ…ふっ…」グッグッ

 

 

昨日の約束通り午前3時半から起こされたノルンエースは眠い目を擦りながらオグリキャップの後について行き、いつもの河川敷についた

 

そこでいつもの様に川を眺めながら待っていたオーバーコート姿の彼がいた

準備運動を終えオグリキャップはいつもの足首強化のトレーニングに移る

 

今回はベルノライトの知恵を借り、一般的トレーニング用の極軟鋼で作られた重い蹄鉄をレース用蹄鉄から替えて両足ジャンプの訓練にした

 

だが今回は階段を両足ジャンプというのでは無かった

彼の手に持ったそこそこ太く長い木の枝、それを水平の地面を滑らせる様にオグリキャップの足に向かって振るう

 

それをオグリキャップが枝に当たらずそしてなおかつ踏まずにジャンプして避けるというもの

 

一見地味に見えるこのトレーニング

彼は最初の慣らしとして一定のリズムで往復するように木の枝を左右に振るがオグリキャップが段々慣れ始めた瞬間、リズムを崩して急に振るう速さを変える

 

最初のリズムに慣れてしまったオグリキャップは突然のスピードアップとダウンの変化についてこれず、靴に木の枝が触れた

 

 

「むぅ……これは難しいな。ただ足を鍛えるだけでは終わらなそうだ」

 

 

オグリキャップの答えに彼は頷いてからもう一度両足ジャンプのトレーニングを再開する

 

 

(こんなトレーニング毎朝やってんの?……そりゃあたしが勝てるわけない、か)

 

 

階段に腰を下ろしてトレーニングの様子を眺める事にしたノルンエース

しばらく眺めてからスマホを取り出してウマッターやウマスタなどのSNSを見てみるが朝とはいえまだ5時にもなっていない時間帯だ、夜勤や徹夜等してる人以外はまだ寝てる時間帯故に特に新しい情報や話題等は何もありはしなかった

 

 

「……はぁ、まぁこんな時間に早起きしてる奴とかいるわけないか」

 

 

電源を切ってため息を吐きながらどうしようかと考えていると目の前には何故か彼が立っていた

 

一瞬度肝を抜かれたノルンエースだが、口を開く前に彼は右手に握られた小さいペットボトルをノルンエースに差し出す

 

 

「え……あ、ありがとう」

 

 

ペットボトルを受け取ると暖かい熱が彼女の両の手を温める

どうやらホットのお茶を買ってきてくれたようだ

 

ノルンエースは彼の後の方を覗くがどこにもオグリキャップの姿がなかった

 

 

「あ、あれ?オグリは?」

 

 

ノルンエースの問に彼は少し離れた方向に指を差すとその方向には走って行くオグリキャップの姿が若干ながら見えた

 

 

「あんなキツそうなのやった後に走りに行くとか……とことん勝てる気しないじゃん」

 

 

その後はノルンエースからは質問攻めを受けた

 

どこから来たのか

なにをしにカサマツに来たのか

オグリキャップとはどういった関係なのか

 

とはいえ、オグリキャップから既に彼は寡黙で一切喋ろうとはしない事を知っているノルンエースは肯定の頷きか否定の首振りかで答えられる様に工夫した質問だった

 

それ故に話は行き詰まったりせずに意外とスムーズに進んだ

 

何故か最後にスマホとやらの情報小型端末にて写真を一緒に撮らせて欲しいと頼まれ、彼はいつも通り気にはせずノルンエースの指示に従いながら写真を撮った

 

 

「ありがと、あんたは知らないかもだけどカサマツじゃあ一部で有名なのよ。あとでウマッターにあげとこ♪」

 

 

満足した様にスマホ画面に写る写真を見て満足気な彼女をよそにこちらに帰ってくるオグリキャップを発見する彼だった

 

余談だが今日の昼にはノルンエースのウマッターの投稿には言っていた通り彼が映った写真が投稿されていた

しかし何故か投稿された写真は彼一人のみが映った写真しかなくノルンエースと一緒に映った写真は一枚も投稿されてはいなかった

 

同じ情報小型端末を持たない彼には一生知らない余談である

 

 

 

 

 

 

 

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数時間後

 

 

金華山

 

 

山に人の手が入った舗装の道を走るオグリキャップとベルノライト

 

走る2人から少し離れた所を原付バイクに乗って二人を追いかけるキタハラ

そしてバイクに並ぶ様に何時ものオーバーコートで背中にバッグを背負った彼が走りながら追いかけていた

 

 

「これからは連戦だ!走る距離も長くなる、ベルノもデビューが近いから2人共体力をつけるぞ!」

 

(坂……きつい……!)

 

 

オグリキャップのトレーニングのみならずベルノライトのトレーニングも彼は見ていたがオグリキャップとの差はかなり歴然だった

 

走ることに対して速さは確かに重要だが走り続ける持続力が無ければいくら早くてもすぐにバテてしまう

だから出来る限り長く走り続ける様にまずベルノライトにはスタミナ強化のトレーニングを出来る限り教えておいた

 

オグリキャップ程のメニューではないが日常的にも少し走る運動を取り入れ、その距離をちょっと増やし慣れ初めが来たらまた少し距離を増やすようにさせている

 

そのおかげもありベルノライト自身もいつもよりかは走り続けられる様になったと言うが、それでもまだレースを経験してないベルノライトには不安要素はたくさんあった

それらはトレーナーであるキタハラがどうにか助言する仕事だ

 

 

「もう……無理……」バタッ

 

「べルノー!?」

 

 

さすがに限界が来たベルノライトはその場に倒れた

 

倒れた彼女をキタハラとオグリキャップによって近くにあった休憩所のベンチに座らせる

彼は背負ったバッグを下ろし、中から汗ふきタオルとうちわを取り出すとベルノライトにタオルを手渡し、うちわを扇いで風を送る

 

 

「大丈夫か?」

 

「すみまひぇん……」

 

「何か飲み物買ってくる」

 

「ごめんねオグリちゃん……ありがとう」

 

 

謝るベルノライトに親指を立てるオグリキャップは階段を登って自販機がないか探しに行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後

 

 

「おかしいな。どこまで行ったんだオグリは?」

 

 

ベルノライトの為にと飲み物を買いに行ったオグリキャップだが戻って来るのが遅い

 

 

「ちょっとオグリ探してくる。ベルノをちょっと頼むわ」

 

 

ベンチで横になっているベルノライトを頼まれてキタハラはオグリを探しに行ってしまった

 

 

「うーん、オグリちゃんどうしたんだろう?」

 

 

オグリキャップを心配するベルノライトに対してうちわを扇ぐのを止めず、彼は二人が戻るのを待った

 

 

 

 

 

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その頃

バテたベルノライトのために飲み物の自動販売機を探していたオグリキャップ

 

 

(自動販売機どこだ?…こっちかな?)

 

 

さまよってからしばらくして展望エリアに出たオグリキャップはそこで見知ったウマ娘と出会った

 

 

「オグリキャップ……こうして2人で話すのは初めてだな」

 

 

そこに居たのは同じカサマツトレセン学園のクラスメイトにして初めてのレース時に対峙したフジマサマーチだった

 

 

「・・・」ジリ…

 

「そう警戒するな。別に取って喰おうなんてワケじゃない」

 

 

フジマサマーチの言葉に偽りは無いことを悟ったオグリキャップは警戒を少し緩めた

 

 

「……一つ聞いておきたい事がある。貴様の目標はなんだ?」

 

「目標……?」

 

「あぁ、私の目標は"東海ダービー"だ」

 

 

東海ダービー

 

オグリキャップのトレーナーであるキタハラが目標にするSP1(スーパープレステージ)の重賞レース

 

東海地区での最高格のそのレースにキタハラはオグリキャップが東海ダービーの優勝に可能性を見出していた

 

 

「カサマツのみならず東海全体の同世代、その頂点を決める最高峰のレース……私はその頂の景色がみたい」

 

 

もとより東海ダービーを目指し、そして勝つ事を目標としてきたフジマサマーチだからこそオグリキャップに彼女は問いただした

 

 

「オグリキャップ、貴様は何の為に走っている?何を目指してレースに出る?」

 

「何の……為……」

 

 

オグリキャップは今までのことを思い返してみたが自分が何の為に走っているのか

 

その理由、目標、夢となる全てを考えてみた

 

しかし""答えは出なかった""

 

もとより彼女が走る事に意味や理由、目的などといった道標など最初から存在などしていなかった

 

 

(そういえば……私がキタハラのチームに入ったのは、レースに出るためだった……ただ走れるから入った…………考えた事もなかった…目標、か)

 

「…どうりで気に食わんワケだ。貴様は確かに速い、おそらく学園でも屈指のウマ娘だろう……だがそのままでは速いだけだ。頂上を決めなければ山は登る事は出来ない」

 

 

意を決してフジマサマーチはオグリキャップにほえた

 

 

「ジュニアクラウンに出ろオグリキャップ!貴様を倒して私は頂上へ行く」

 

 

それだけを告げてフジマサマーチはその場を去り、オグリキャップは一人残された

 

 

「目標…頂上…」

 

(正直…まだなにもよく分かってはいない…………だけど一つだけ分かる事がある)

 

 

目をつぶるオグリキャップ

 

暗闇の中で映し出されたのは一人の人物

 

褐色肌に銀色の短髪と紅い双眸

かつて一度だけみた彼の走りは間違いなく私よりも一番速かった

 

 

「……彼を超えれるようになったら、頂上の景色を眺める事ができるのかマーチ?」

 

 

展望エリアから見える景色は

 

いつもよりも爛々と輝いて見えた気がした

 

 

「・・・」

 

「すみませんジョーさん……」

 

 

少し離れた物陰でキタハラとフジマサマーチのトレーナーである柴崎が一部始終を見ていた

 

 

「いいよ別に。お前が必要な事だと思ったんだろ?」

 

「……ありがとうございます」

 

「まぁどうやらこっちにとっても収穫があったようだしな」

 

 

そう言って柴崎の下を離れ、オグリキャップに声を掛けにいくキタハラ

 

そんな二人を見届けた後、柴崎もその場を後にした

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

オマケ

 

 

「二人とも遅いですよ!何してたんですか!!?」

 

「いやぁすまねぇオグリ見つけるのに時間掛かった」

 

「ごめん…」シュン

 

 

展望エリアを後にし、ベルノライトと彼の下に戻った2人はベルノライトにこっぴどく怒られていた

 

結局、戻るのが遅かった為に彼がひとっ走りして飲み物を買ってきたのでベルノライトはすぐに調子を取り戻し数分待ってから探しに行こうと思ったタイミングで二人が戻ってきた

 

数分ベルノライトからの説教を終えてから金華山を降り、トレセン学園に戻る事になった

 

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